口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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詰め込もうとして入り切りませんでした。例によって長いです。

よろしくお願いします。


最終試験が始まりますよ?

 三次試験が行われた島―ワンタイ島―その西端に位置する島一番の宿には、昼間の試験を終え一息付いたビスケをはじめとする試験官達が集まっていた。

 

「いやー、ここのスイーツはいつ食べても美味しいだわさ。」

 

 貸切となっている宿の一階で夜のデザートを味わっているのは、本試験の女性陣である。

 

「杏仁豆腐だったかしら?美味しいわよね。」

 

「はい、私も好きな味です。」

 

 小鉢に盛り付けられたフルーツを口に運びながら、楽しそうに話している三人の横で刺身を食べているのはザックと金髪八重歯の男だった。

 

「この赤身も美味しいッスよ!リリーちゃんも、どおッスか?」

 

 すげなく断られても気にしない、強いメンタルをしている男の名はチップス、明日の試験を担当するプロハンターだ。

 

「おいおい?食べるのもいいがしっかり情報は交換するんだぞ?」

 

 皆が食べ物に夢中になり、本来の目的である受験者達についての話し合いが始まらない事を注意するのはザックである。

 

 彼は器用に二本の棒を使って白身を食べながら、合間にビーンズに渡された書類を書き進めていた。

 

「なによ、あなただってサシミ食べてるじゃない。」

 

 己の行動に口を出されて不機嫌になったブルーメが持っていたスプーンを向け、それを諌めるのはリリーだ。

 そして、なかなか始まらない話し合いに最初の一声を上げたのは杏仁豆腐を食べ終わったビスケだった。

 

 木目調の椅子を鳴らしながら立ち上がる姿は、年長者のそれである。

 

「まあまあ、あたしから始めるだわさ。これ以上夜更かしするのはお肌に悪いわさ。」

 

「それもそうね。」

 

 ひとつのテーブルを囲む各々は了承の返事をする。

 そしてやっと話し合いが始まることにため息を付きつつ、ザックは今日の試験に残った十人の事を話すように促した。

 

「そう!今日の試験だわさ。ザックとブルーメはあの麻袋の事知ってたんでしょ!?黙ってるなんて意地悪いだわさ。」

 

 テーブルを叩きつけ身を乗り出したビスケは一次試験と二次試験を受け持っていた二人に詰め寄った。

 

「別に黙ってなんかないわ、ちょっと疲れて寝てたらあなたの試験が始まってただけよ?」

 

 杏仁豆腐の最後の一口を食べたブルーメは悪びれること無く肩を竦める。

 テーブルを挟みながらギリギリまで詰め寄ってくるビスケに押された天板はギッと脆い音を立てた。

 

「まあ、私達が驚き疲れた分くらいはビスケさんにも驚いて欲しいとは思っていましたよ。」

 

 そして、あっさりと黙っていた事を認めたリリーはさっさとデザートのお代わりを貰いに行ってしまう。

 

「お、俺はしっかり伝えたぞ?クルーガーも頷いていただろ?」

 

 ギンっと鋭く睨まれたザックは慌てて弁明をするが、ビスケは納得していないようだった。

 勢い良く座り直したビスケは眉を吊り上げながら如何にジールに振り回されたのかを話そうとする。

 

「いい男としか聞いてなかったわさ!確かに袋の下はイケメンの気配がしたけど、それどころじゃなかっただわさ!」

 

「へぇ、アレの下って整ってるのね。…それで?何が不満なのよ?」

 

 気になるわ、と面白がるようにスプーンを揺らすブルーメに、肩を震わせてビスケが叫ぼうとしたところでリリーが戻ってきた。

 

「ジール=モロウさん、島を丸ごと買い取ってきたそうですよ?」

 

「へっ?」

「ほぅ?」

「マジ?」

 

 そして、あっさり暴露したリリーは周囲を気にせず宇治金時を食べ始め、その正面では自分の大変さが分かったかと満足そうに頷くビスケがいた。三次試験の内容を思い出し、状況を理解した各々は思い出したように息を吐く。

 

「うーむ、大胆な男だな?」

 

 報告書を書きながら、困ったように眉を下げたザックだったが、その瞳は期待に輝いている。

 

「ザックさん、嬉しそうッスね。」

 

 まだジールに会ったことがないチップスは頬杖を付きながら隣に座るザックを覗き込んだ。

 

「まぁな?」

 

「あなたも会えば分かるわよ。目立つし、見つけるのも楽よ?」

 

 自身の試験でも好成績を残した男の事をブルーメは悪くは思っていなかった。珍しく棘のない笑顔を見せたブルーメにビスケは驚きながら声をかける。

 

「なに、あんたが気に入るってことは頭もいいってこと?」

 

「頭も確かに良かったけど、……どちらかというとあれは本の虫ね。」

 

 試験中の行動を思い返し、納得する言葉を選ぶとブルーメは満足そうに頷いた。

 

「ブルーメのお仲間ですよ。」

 

「あら良かったじゃない。終わったらオススメの本でも話しに行けばいいだわさ。」

 

 三杯目の宇治金時を持ってきたリリーは楽しそうに笑いながらブルーメを揶揄う。それにノッてきたビスケにも邪推され、キレかかったブルーメを止めたのは案の定ザックであった。

 

「それで、他に気になる事はあったか?もし無ければ次の受験者の――。」

 

 咳払いの後に、話題を変えようと切り出したザックに被せる声がひとつ。

 

「あっ、忘れる所だったわさ。」

 

 思い出したというように手のひらを叩き、改めて椅子に座るとビスケは今朝の気になった事を話す。

 皿の中も粗方カラになった所で皆もビスケに注目していた。

 そして、一息置いてからビスケが切り出した。

 

「ジールって念能力者だと思う?」

 

 

「そうなんですか?」

 

「俺は見てないけどな?オーラも一般人のそれと変わらなかったぞ?」

 

 皆の言葉を聞き、確信を持てていないビスケは更に疑念を深める。

 

「始めの頃に、一瞬だけオーラの波が無くなって綺麗な流になった気がしたんだわさ。けどそれ以降は一般人のそれに戻ったから分からないのよ。」

 

 そう言って悩ましげに腕を組むビスケの話を聞くと、三人は揃ってチップスの方を見た。

 

「え?俺ッスか?」

 

 それに気づいたビスケも含めた四対の瞳に見つめられ、急に話題の中心となったチップスは驚きながら自身を指さした。

 

 次に会うのはお前だからと、確認作業を任されたチップスは慌てていたが、それを気にする人物はここに居ない。

 

 次の受験者について話し合おうと向き直ったビスケ達は試験の報告に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※

 

 

「はーい!四次試験始めるッスよ!集まって欲しいッス。」

 

 照りつける太陽に絶好の試験日和を確信する10日の朝。

 ワンタイ島の上部と下部の間。ちょうどくびれの位置にジール達は集められていた。

 

「あれっ?こんだけッスか?」

 

 とは言っても来ているのはたったの四人。ジールとベレーくんに、昨日二位で通過していた女性と刀を持った男性だけだった。

 

「はい!他の人は寝坊だと思います!」

 

 元気よく手を上げながら答えたのはベレーくんであった。昨日とは別の色のベレー帽を被っているベレーくんは、来た道の方を指しながら来ていない人達の説明をしている。

 そしてそれを聞いたチップスはまじかよと笑いながらジール達が泊まっていた宿まで走っていった。

 

 どうやら呼びに行くらしい、意外にも面倒見は良いようだ。

 山の入口にある岩へ腰掛けていたジールは、それを見送りながらこちらへ掛けてきたベレーくんに手を上げて応える。

 

「おはようございます!モロウさんは今日もお元気そうですね!」

 

(うん、ベレーくんも元気一杯だね。)

 

 木陰で休みながら話に相槌を打っていく。

 そして、ジールがこのままベレーくんのトークショーで試験官の帰りを待つことになるかと思った所で、今までとは別の人影が写った。

 

「私も入れて欲しいわ。」

 

 やって来たのは褐色の肌にストレートの黒髪、青いアイシャドウが似合う長身の美女である。

 

(……これは、発育の良いお姉さんが来たな。)

 

 ハンター試験のキャラの濃さにも慣れてきたジールは、顔を見たあとその下に視線を落とした。

 メロンのように綺麗な形を保っているそこは巻き付けられた布のみがある。形のいいヘソを通った所に低い位置で履かれているジーパンが更にスタイルの良さを強調していた。

 

『ああ。』

 

「ラーヴィラさんですよね?二位通過おめでとうございます!」

 

 いつものようにフリップで返事を返した後は、ベレーくんとラーヴィラの話に頷くだけである。

 

「ふふっ、ありがとう。キミも頑張っていたわね。」

 

「ありがとうございます!僕、ラーヴィラさんが持ってこられていたガラス細工のお話を聞きたいのですが、よろしいですか?」

 

 友好な態度を見せながらも情報収集に余念は無いようだ。グイグイいくその姿勢にジールは尊敬の念を見せながら、ラーヴィラの方を向く。

 

「簡単な話よ?島一番の工房のおじ様にお願いして譲ってもらったの♡」

 

 ――ジールは語尾のハートを聞いて反射で立ち上がりかけたが、既のところで留まった。女性が可愛く話しているだけではないかと言い聞かせ、気を紛らわせるようにベレーくんの様子を観察する。

 

(ハッハー、過剰反応にも程があるぞ。)

 

 いつ頃から作られていたものなのか、他の作品はどうだったかなど質問をしていくベレーくんとそれに答えるラーヴィラを見ていると試験官が残りの六人を連れて戻ってきた。

 

「いやー、おまたせしたッスね。改めて始めるッスよ!」

 

 金髪を掻きながら、軽い足取りで山の入口にやって来たチップスは息ひとつ乱れていない。後からやって来た受験者達が息絶え絶えなことを加味するとこの試験官は身体を使う事に相当慣れていることが分かる。

 

(戦闘向きっぽい人だ!これは身体を動かす感じの試験になるのでは!?)

 

 試験官から適当な距離を取りながらもジールの視線はチップスから外れない。

 

「俺はチップスッス!四次試験の担当試験官で、チームチーズのリーダーをやってるんスよ。」

 

(………………チーズ味のポテチさん。)

 

 少ない受験者達を前に大きな口を開け自己紹介を済ませたポテチさんことチップスは、さっさとルール説明に入る。

 どうやら寝坊助を迎えに行ったことで予定が押しているようだ。

 

 

「今回の試験の場所はこの山!やってもらうことは鬼ごっこッス!」

 

 

 チップスがバッと手を広げ背後に見える山を強調すると、そのまま試験内容を発表する。鬼ごっこという身体を使いそうな説明にジールの期待は募っていく。

 

「みなさんは鬼役ッス。山の中にいるチーズのメンバーを捕まえたら合格できるッスよ。もちろん受験者同士で協力するもヨシ、妨害するもヨシ!」

 

 かけ足で話される説明にジールの期待が叶った事を悟る。

 

「やべ、時間がねぇ!ブルーメさんみたいにシンプルでつまんねぇとか言うのはなしッスよ?最後まで説明するんでちゃんとメモするッス。」

 

 一瞬、昨日の夜のことを思い出したのか嫌そうな表情をしていたが、それも一瞬のことで細かいルールを書き留めるように指示を出していた。

 

 

 原作の試験に近い内容と、焦れに焦らされた身体を動かせる試験にテンションが上がっていたジールは頑張って落ち着こうとしている。

 

 小さく深呼吸をして、遠くを眺めて一言。

 

 

 

(…………風が…騒がしいな。)

 

 横から吹き付ける潮風に目を細めながら靡く髪が無い後頭部を抑える。

 落ち着くために自然を感じようとした結果であった。

 

 特に何も無い潮風に次のセリフが思いつかない麻袋は、周囲から見えないのをいい事に素知らぬ顔で呼ばれた山の入口まで歩いていった。

 

 

(たっのしい、たのしい、四次試験!)

 

 軽いストレッチをしながらルールのおさらいをしておこうか。

 

1.山の中には9人のチームチーズがいるよ!

 

2.腰に付けてる布を奪って、それで両手を縛れば捕獲完了さ!

 

3.三次試験の金額が高かった人からの出発だよ!次の人は5分待っててね!

 

4. 三時間に一回中間発表をするよ!その時に捕獲出来ていた人は合格さ!やったねライバルが減っていくよ!

 

5.気づいてると思うけど、ターゲットは受験者より少ないから頑張ってね!

 

 

 

 以上、人の話を聞いてないフリして聞くのが上手いジールまとめでした。

 

 

「それじゃあ準備はいいッスか?」

 

 ストップウォッチに指をかけたチップスがジールに問いかける。最後に屈伸をし終わったジールは鞄を横に置いて、サムズアップをして見せた。

 

「おっけーッス!……それじゃあ、四次試験開始ッスよ!!」

 

 チップスが下げていた腕を振り上げると同時に、ジールが姿を消した。文字通りの全力疾走である。

 

「はぇーー、流石モロウさんですね!」

 

「んじゃ、次の人〜!並んで欲しいッス。」

 

 想像以上の身体能力に感心したり、不安になったりする受験者達の中で、腕を振りながらチップスがラーヴィラを呼ぶ。

 

「はぁ〜い♡」

 

 モデルのようにスタイルの良い足を見せつけながら、山の入口に歩いて行ったラーヴィラはチップスにウィンクを投げて残りの時間を待つ。

 

 隠されることの無いその身体に鼻の下を伸ばしている受験者達が大半の中、自信ありげに微笑む彼女は、スタートの合図と共にゆったり歩いて行った。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※

 

side ラーヴィラ

 

 

(ヒールが落ち葉に埋もれ歩きにくいったらありゃしないわ。)

 

 なるべく歩きやすい道を選びながら山道を登っていくのは、三次試験を悠々とクリアしたラーヴィラであった。

 

 彼女は、一次試験を途中で拾った男に担がせることで合格し、二次試験は時々カンニングしながらもほぼ自力で通過していた。

 彼女の人となりを一言で表現するならば“生きるのが上手い人”であろうか。

 

 己の事を理解し、それを最大限に活かしてここまでやって来たのだ。

 四次試験の集合場所が山の前だった時点で、自分に不利な内容だということは察しがついた。それと同時に今までの流れから他を利用出来れば、合格が夢じゃない事も分かっていた。

 

(居ないじゃない。やっぱりあの時に仕留めておくべきだったわ。)

 

 首裏に張り付く髪をかき揚げながら、木々の間を注意深く観察するのは、ターゲットを探すためでは無い。

 試験開始前に、協力を取り付けようと思っていた男を見つけるためだった。

 

 ラーヴィラは、今までの試験を好成績で通過している見目の可笑しい男を取り込もうと考えていたのだ。試験官が居なくなった所で声をかけた時は傍にいた子供に邪魔をされ、結局交渉も出来ずにこうして山の中を歩き回る羽目になっていた。

 

 

(……そろそろ四人目が入って来る頃かしら。)

 

 ラーヴィラが周りを気にしながら大きな木を迂回するように曲がった所で、正面の茂みが大きく揺れた。

 

「……っ。」

 

 山の動物か、それともターゲットか。腰に仕込んだ得物に手をかけたところで、それは茂みから顔を出してきた。

 

「あっ!ラーヴィラさん、先程ぶりです!」

 

 その正体は特徴的なベレー帽にずれた眼鏡。先程男の近くにいた子供であった。

 

「……キミだったのね。」

 

 得物から手を離し、小枝に挟まれ動けなくなっているところを引き上げたあと、ラーヴィラはズレた眼鏡を直しているティリーに声をかけた。

 

「ねぇ、キミは彼のこと見かけたかしら。」

 

 ベレー帽に引っかかっていた葉を引き抜いたティリーは、特に疑う様子も見せずにラーヴィラに返事をする。

 

「彼…モロウさんのことですか?まだお会いしてませんよ!」

 

「……そう。」

 

 もしかしたらと思ったが、ティリーも会っていないようだ。ならば彼が単独で行動しているのは確定だろうとラーヴィラは考えた。

 

 見つける事が困難な現状に頭を悩ませ、この子供と手を組むかとラーヴィラがプランを練り直していたその時。

 

「あっ!ターゲットですよ!!」

 

 数十m先、木々の間を音を立てながら走っているのは明らかに受験者では無い男。あれがチームチーズのメンバーかと、想定より早い遭遇に思考を巡らせる中でその男の違和感に気づく。

 

(なんで……)

 

「あんなに音を立てて、どうしたんでしょう?」

 

 試験官らしくない、粗末な移動の仕方にラーヴィラとティリーは疑問を零す。

 

「まるで、何かに追われているような――」

 

 ターゲットの進行方向に合わせて近づいていくと、その表情が切羽詰まったものである事が分かった。そして、ラーヴィラがこのまま捕まえてしまおうかと、構えた時のことだ。

 

 目の前を何かがとんでもない勢いで通過し、ターゲットに接近した。そこからは瞬きの間にターゲットが倒され、後ろ手に手首を縛られている姿が晒されていた。

 

 ラーヴィラは、狙ったターゲットが一瞬の間に捕らえられた事に驚愕しながらも、その横に立っている男を見て自身の判断が間違っていなかったことを再確認する。

 

「モロウさーん!凄い早かったですねー!」

 

 大声を上げながら駆け寄っていくティリーの後を、ラーヴィラは付けていく。あわよくばこのまま彼に協力をお願いしたい。

 

 近づいてきたティリーに頷き返しながら、気絶したターゲットを担ぎ上げるジールを見る。

 

(彼は既にターゲットを捕まえているし、中間発表で彼が抜けるまで協力して貰えないかしら。)

 

 これでもかと言うほどに、褒め称えているティリーを見つめている(多分)彼に近づくとあちらも気づいたようだ。

 

「頼もしいわ。……ねぇ、あなたに捕まえるのを手伝って貰いたいのだけれど、いいわよね?」

 

 あと一歩という所まで距離を詰めたラーヴィラは、その顔を見つめながら首を傾げる。近づいてくるところから静観していたジールは、その言葉を聞いて首を横に振った。

 

「……あら、どうしてかしら?」

 

 断られた事に、若干の苛立ちを感じながらもその理由を聞き出そうとする。

 

 それに対して付いてくるように手を動かしたジールは先に進んでしまった。

 

「あの!僕も付いて行っていいですか!」

 

 恐る恐るその後を歩き出したラーヴィラの横からティリーが声をかける。足音をほとんど立てることなく歩いていたジールは、振り返り頷くとまた早歩きで歩き始めた。

 

(……拠点?それとも断る理由があるのかしら?)

 

 

 何があるのか不思議がる二人を連れて、迷いなく歩いていくジールは、数分後ちょっとした崖の下で立ち止まる。

 

 それから三人が茂みをかき分け崖の麓まで進んでいくと、そこには目を疑う光景が並んでいた。

 

「えっ?」

 

 低木に隠されていたのは、八人のターゲットだ。多少の違いはあれど揃いの格好をしている男達は、仲良く気絶して並べられていた。ジールが、右端に今担いできた男を下ろせば丁度九人。開始前に言われたターゲットの人数と同じになった。

 

「なるほど!モロウさんが全員捕まえちゃったから協力は出来ないということですね!」

 

 納得したと頷いている隣の子供はなんとも思っていないのだろうか。いや、その才能を前に怒りや嫉妬が湧いてくる区間などとうに過ぎた。むしろ、どうすればこの広い島から20分ほどで全員を捕まえられるのか純粋な興味くらいしか残っていない。

 

「……とりあえず、試験官さんに言いに行きましょ。」

 

 しばらく黙り込んでいたラーヴィラは、これ以上は時間の無駄だと言いながら山を降りて行く。

 

 

 

 数分後、ラーヴィラに連れられてきたチップスが本当に捕まっていたチーズのメンバーを見て騒ぎ出し、それに釣られて集まってきた受験者達も合わさってどんどん騒ぎが大きくなっていく。

 

「ちょっと、これじゃあ試験終わっちゃうッスよ!?」

 

 ガヤガヤと騒ぎ立てる面々の中、話題の中心となりそうなジール本人は、輪の外で所在無さげに佇んでいるだけだった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

side ジール

 

(皆さんは、やっちまったと思う瞬間はありますか?返ってきたテストが一桁の時?今日提出のレポートが真っ白だった時?持って帰ってきた仕事の期限が昨日だった時?それとも久しぶりにログインしたら推しイベが終わってた時でしょうか?ちなみに、俺は毎日ログインすることを決意しました。)

 

 

 四次試験が(強制的に)終了し、島の町まで戻ってきたジールは昨夜泊まった宿に一度戻され、再び呼び出されていた。

 

(校長室の花瓶を割ったヤンキーはこんな気分だったのだろうか……。)

 

 うだうだと考えているジールは、ある部屋の扉の前で到着してからノックすることも出来ずに突っ立っている。

 持ち上げた手をスッと下ろすこと四回目、いいかんげんに痺れを切らせたらしい中から声がかかった。

 

「ほれ、何をしとる。入ってこんかい。」

 

(ひぇーーーーーーー!)

 

 ジールがゆっくり開けた扉の先には、正面の椅子に座っているネテロ会長とその後ろに立っているビスケがいた。

 

「まあ、そこに座ってくれるかの。」

 

 部屋に入ったきり動かないジールを見かねて、目の前の椅子を勧めてくるネテロであったが、本人はリアルに見る推しの姿に感動しっぱなしで直ぐに動く余裕は無かった。

 外見上はなんとなしに、内心では息も絶え絶えに着席したジールを見たネテロは仕切り直しに自己紹介を始める。

 

「ワシはハンター試験審査委員会代表責任者のネテロじゃ。」

 

(存じ上げておりますぅぅぅぅぅ。)

 

 持ってきていたフリップを取り出し、殊更丁寧に書き上げるとジールはそれをネテロに見えるように置いた。

 

『43番、ジール=モロウだ。』

 

「うむ、どうじゃ?初めてのハンター試験は?」

 

『とても楽しかった。』

 

 

 まあ、内心はともかくとしてギリギリ会話は出来ている。

 

「それは良かったわい。して、今回来てもらったのはいくつか聞きたいことがあるからなんじゃが。」

 

 紙と筆を持ったネテロは、観察するようにジールの麻袋を見る。視線を受け止めたジールはひとつ頷いて返すと、何が来ても良いように姿勢を正した。

 

「じゃあ、まずひとつめに。さっきの試験でおぬし以外は皆不合格となったが、何か思うところはあるかの。」

 

『特にない。』

 

(ベレーくんが不合格になった事は少し申し訳なさを感じているが、ハンター試験を全力でやった事に後悔は無い。即効で終わって急遽呼び出しされたとしても無い!)

 

「そうじゃなあ、プロハンターになったら何かハントしたいものでもあるかのォ。」

 

 幾分かその眼光の鋭さが緩んできた気もするが、未だその視線がジールから外されることは無く、じっと麻袋を通してジールの事を見ようとしてくる。

 

(ぶっちゃけちゃえばハンター世界全般なので“世界”でもいいんだけど、もっと具体的なものだろ……強いて言うなら…。)

 

 

『 弟 』

 

 

「ほほぅ、なんじゃ弟に逃げられでもしたか。」

 

『鬼ごっこ中だ』

 

 予想とは少々違った答えだったのだろう、愉快げに笑うとネテロは何やら紙に書き込んでいった。

 

「んー、実はそんなに聞きたいこともなかったのじゃが。……ビスケは何かあるようじゃな。」

 

 たった二つの問いかけで、ネテロは満足したように頷くと後ろでそわそわしていたビスケに声をかけた。

 

「ここで聞いてもいいだわさ?」

 

「何かは知らんが問題ないわい。」

 

 ニヤリと目を細めて企む様子は、何も知らない者の表情ではない。それでも、気になりすぎて聞かない訳にも行かないビスケは思い切ってジールの方を向いた。

 

「あんた、念能力者なの?」

 

 

 そして、思いもよらない所を当てられたジールは盛大に落ち込んでいた。緊張したり、落ち込んだりと袋の下が忙しそうな男である。

 

(えっ、ウッソ。イルイルに見破られてから一般人のオーラの流れは完璧にマスターしたと思ったんだけどな。やっぱりプロ相手にはヒヨコかな。)

 

『下手だったか?』

 

「オーラの偽装のことかの、それなら理想的なものと言って良いじゃろ。」

 

「そうね、感情に合わせてわざとオーラを揺らすなんて初めて見ただわさ。」

 

 指摘された通り、ジールのオーラは先程から驚いた風を装い揺らされていた。ちなみにジール風に言うならモノトーンから昇格した、流行ファッションくらいの見た目だ。

 

「そこまで神経質にオーラを管理してる奴はそうそう見ないわい。練もみてみたいのォ。」

 

 先程とは違った視線の鋭さに、ビスケはこれが狙いだったかと諦めるように頭を振る。

 

 一方で、推しからのリクエストに打ち震えているジールはそろそろ限界だった。

 

(やばい、推しが見たいって言ってる。しかし未熟な俺の練なんぞを見せるわけには行かない!お目汚しというやつだよ!まじサーセン、俺まだ発も出来てないヒヨコなので!勘弁して下さい!)

 

『またの機会に』

 

 今までよりも、若干文字が震えている気がしなくもない。ネテロは少々不満げな表情をしていたが、無理強いをするつもりは無いようだ。ビスケも念能力者かどうかが知りたかっただけらしく、特に気にした様子も無かった。

 

「それじゃあ最終試験を発表しようかの。」

 

 

(ここに来てですか!?!?)

 

 紙を見つめながら、最後の確認でもしたのだろう、髭を撫でながら面白そうに宣言するネテロの前には、勝手に推しに振り回され、勝手に疲れきっているジールが身構えていた。

 

「最終試験はの、先の試験結果に納得しておぬしがプロハンターになっても良いという者を二人連れてくることじゃ。」

 

(なるほど最後に人望ですか、……詰んでね?)

 

「制限時間は一時間。人望でも、金でも、力業でも納得させたら連れてきていいからの、頑張るんじゃぞ。」

 

 それを聞いたジールは、一瞬のうちに部屋を出ていっていた。そんなに急いでどうしたのか、制限時間が短いからでは無い、人望以外の方法が分かったからでもない。……推しに頑張れと言われたからだ。

 

 ジールは過去最速で受験者達がいる宿に戻って行った。

 

 

 

 

 

 




次回でハンター試験と少年期編が終わりになります。

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