前半はジールが色々考えている話です。
よろしくお願いします。
思考した。
ここはアイジエン大陸の北端、シベットの湖である。周りを針葉樹林に囲まれ、年中吹雪に見舞われているこの場所に近づく人はいない――という訳でもなく、寒さに強い民族が集まって集落を作っている場所だ。
そして、ここでの仕事を終えたジールは一息着くために店にやってきていた。
(マジ失敗した……。氷の上は寒すぎる。)
昼ごはんの為にと、氷上のレストランに入ったジールは、本日二回目のくしゃみを響かせながらカチコチに凍った肉をしゃぶっている。
久しぶりに吹雪が止んだ湖の上は、一部が綺麗に除雪され太陽の光を反射していた。
用意された火で肉を炙り、果たしてこれはレストランのご飯なのかと疑問に思いながらもジールは先程終わった仕事のデータを協専に送る。
(人使いが荒いハンター協会からのお仕事がやっと終わったと思ったらこれだよ。面倒くさがらずに暖かいとこまで行けば良かった。)
ひー君を探すことを優先しているので、特定のものをハントせずに資金作りや媚び売りも兼ねて協会からの仕事をこなしているのだが、回ってくる仕事はまあまあに過酷だった。
今回の仕事も豪雪地帯に生息する巨大毛玉がどうとかで駆除の依頼が来たのだ。一週間程粘って、ターゲットの毛玉を探し出して倒したわけだが、その後の毛の始末が大変だった。民族衣装に使いたいと言ってきたシベットの皆さんを手伝って散乱している毛の1本1本を集めることになったのだ。
雪で埋もれてしまう前に慌ててかき集め、集落まで持っていった所で吹雪が止んだ時は思わず舌打ちをしてしまうくらいには疲れていた。
それからお礼にとレストランのお食事券を貰ってきたジールは、移動するのも面倒だからとレストランへ向かい、足元からくる冷気に震えながら報告書を書く羽目になっている。
震える手でペンを握っているジールだが本来の目的は悲しいくらいに進展が無かった。
※※※※※※※※※※※
(ハンター試験が終わってからかれこれ一年と数ヶ月。もはやひー君のストーカーと言われても仕方がないくらいには探し回ってる俺です。
……いや、ストーキングすら出来てなかったな。)
書類を書き終わり机に突っ伏しながら泣き真似をしていた彼だが、ジールは今までのことをまとめるために鞄から手帳を取り出していた。
そこには今まで行った地名と、その横に書かれているバツマークがびっしり並んでいる。
ジールのひー君の探し方は大きく分けて三通り。
一つ目は、電脳ページや掲示板を使って目撃情報や、書かれている事件にひー君が居ないかを探すこと。
これは、ある程度の情報は集まるがガセネタだったり、人違いだったりと決定打に欠ける。一応ニアミスでギリギリまでいけたこともあるが、大部分はそうでは無い。
ひー君の名前が有名でないからか情報の集まりが悪いのもあった。一般人だから目立たないのか、ヤバすぎて表層には書き込めないのか、是非前者であって欲しいところだが残念ながら望み薄である。
二つ目はひー君の行きそうなところを当たってみることだが、これが中々に精神を削る。その理由は至極単純なものだ。
(ひー君が行きそうなところなんておもちゃ屋か駄菓子屋くらいだと思ってました!)
最後に会ったのは弟が9歳の時である。感覚として世界規模で移動しているとはとても思えなかったし、思いたく無かった。まあしかし、目撃情報が世界中から来ているのだ察するしかあるまい。
(……そうなると、ひー君が行きそうな所はバトルが出来る所ということになる。)
ジールはひー君が組手が好きだったことと、正直避けたいが変態になっていることを考慮して場所を選ぶしか無くなっていた。
弟の変態化を防ぎたいと思いながら、探すのはバトルジャンキーが行きそうな場所であるという矛盾。本当にそういう場所でニアミスした時のことを思い出し、寒さとは違った震えがした。
(コロッセオに天空闘技場、流星街にマフィアが取り締まる街もろもろ、リストに載せた自分が憎い。そしてニアミスしたのがもっと憎い……えっ、ひー君そんなに戦いたかったの?)
せめて…、せめて健全に楽しんで下さいとココ最近は枕を濡らしているジールであった。
そして三つ目、これはもう特別な方法でも何でもない。
ライセンスにものを云わせて、各国を虱潰しにしていくローラー作戦だ。
このアイジエン大陸にも僅かな目撃情報と、ローラー作戦の為、半年前にやってきたのだ。まぁ空振りだったが。
(ひー君が元気にやっているのか一目見たいだけだと言うのにどうしてこんなに会えないのだろうか。)
食後の飲み物として持ってきて貰ったコーヒーを眺めながら、ジールは過去に捕まえきれなかったことを思い出す。
その心の内は、ひー君にギリギリ会えなかった悔しさと――その時の状況のえげつなさに占領されていた。
それは一年前、ヒソカ名義で取られた飛行船のチケットを見つけた時のことだ。普段ひー君があまり飛行船に乗らないため、ジールは絶好のチャンスだと急いでヨルビアン大陸を横断していた。
チケットから推測して、ひー君が到着したであろう日から2日後にジールは空港に到着した。
そこからは掲示板で情報を集めながらも近くの街を昼夜問わず駆け回ってひー君らしき人が居ないかを探し回った、事が起きたのはその三度目の夜のことだ。
あまりこっちにはいて欲しくないなと、裏の人が集まるビル群の間を走っている所で一階のフロント部分がめちゃくちゃに壊れているビルを見つけたのだ。近代的なデザインのビルは、壁のガラスがほとんどが割れて、中には大量の血痕が飛び散っていた。
あまりの惨状に思わず足を止めたジールは、中から出てきた男に声をかけられ、それまでの経緯を知ることになる。
なんでもそのビルを拠点のひとつにしているマフィアが通りすがりの少年とトラブルになって殺られたらしい。
男はその死体達を回収しに来たらしく、直接見たわけでは無いが周りの物的被害も馬鹿にならないと話していた。
その時ジールの頭を過ぎったのはひー君だった。恐る恐る少年の髪色を尋ねれば、赤髪だったらしいと返される。オーマイガーと心の中で叫んだジールを見た男は何か勘違いをしたらしく、少年が悪いわけでは無いと言葉を付け足した。
確証は無いものの、ひー君の進化の片鱗に慄いていたジールはそこで正気に戻ることになる。厄介な言いがかりをされて露を払っただけだから事は大きくしてくれるなと、ジールを何処かの組員だと思ったらしい男はそれだけ言って立ち去っていった。
結局、ひー君らしき人物とは会えずバチバチの戦闘力を見せつけられたジールは、どうか正当防衛ということにしておいて下さいと神に祈るだけだった。
積極的に戦ってないならセーフだと、この時期からヒソカの変態判定のラインは緩くなっていく。
(戦うのは楽しいからね!仕方ないよ!ただ人様にドン引きされる言動と、子供のケツを狙うのだけは辞めて欲しいかな!!)
……意外と判定ラインは緩まっていなかった。ドン引きされないヒソカなんて唯の強いお兄さんだ。などと思い直しているジールは全力でひー君の変態化を避けたいと日々奔走している。
(まぁ結果はお察しなのだが……。)
ひー君が捕まえられていない旅がジールにとって無価値かといえば、そうでは無い。ジールがさっくんだとか、みーやんなどと勝手に呼んでいる新しい友達も出来た。ヤバい知り合いも出来た。
そこで色々とアドバイスを貰い、先の毛玉の仕事が終われば一度故郷に戻ることにしているのだ。
様々な場所で目撃されているが、何処か拠点にしている場所があるかもしれないからと、初期の情報を洗い直すつもりである。
(とりあえず、ひー君が居たミンボに戻ってもう一回ルートを割り出す所からだ。)
グツグツと凍らない様に沸騰し続けているコーヒーを勢いよく飲み干すと、ジールは気合いを入れるように口元を拭う。正直、熱すぎて舌が死ぬかと思った。
誤魔化せる物は無いかとテーブルの上を見れば、セットで付いてきた角砂糖が残っている。試しに食べてみれば外気で冷えきった砂糖はとても美味しくジールの心を解してくれた。
だらけきったように背もたれへより掛かれば、頭上には晴天が広がっている。そうして今後の方針が決まって一息付くが、ジールの悩みはまだまだ尽きない。
休まず妄想する忙しい脳みそは、ちゃんと本来の仕事もしている。そして仕事をした結果、そろそろ発を決めないといけないと結論を出したのだ。
念に目覚めて早5年。こんなにダラダラと伸ばしたのは他でもないオタクの性が原因であった。
(だってー、かっこいいのがいいし!強くしたいだろー?)
と言い訳をしてきたわけだが、プロハンターになった者は、本来裏試験を受けるのが通例なのだ、我儘を言って先延ばしするのも潮時だろう。
原作に倣ってプロハンターになった記念に発を決めるのも乙な筈だ、多少月日が過ぎていても誤差の範囲と言い張るつもりのジールは二つ目の角砂糖と口に放った。
そして、ジールは五年間溜め込んだ“オレの考えたサイキョウの発”に近づく為のアイデアを喋りだした。勿論心の中で。
(まず思いついたのが、水とか火の自然物を操作する案だった。某漫画で自然系がめちゃ強扱いされていたからなそれの影響だな。しかし、形が微妙に捉えにくいそれをどうやって操作するのかが分からない。オーラを浸透させる方法も考えたが、それをするならオーラでそのまま殴った方が早い気がしてきたので多分俺には向いていない!そして、次が銃弾を操ったり、影を操作する案だが、これも懸念事項があるのだ。俺の場合特定のものを選ぶとそれが手元に無い時の詰み具合がエグくなる。きっと凄い人は銃弾切らしたりしないだろうけど、俺は絶対やらかすぞ、賭けてもいいね。というかここまで来ると操作系の発を何も作れない気がしてくる。ちなみに強い動物とか植物とか魔獣の案も出てきたが、愛着湧いてる子が傷ついた瞬間にオーラが解ける自信しかないので最速で却下になった……やっぱり俺の水見式の結果間違ってたのでは?…あと次に――)
案の定、早口で捲し立て一人寂しく学級会をしていたが、こうして却下の連続で五年間決まらなかったのだ。
途中、妥協して作ろうとした時もあったが、これだと思える発にしたいと踏みとどまってここまで来ている。
満足するまで喋り尽くしたジールは、パタンと机に突っ伏した。第587回学級会討論会は終わったようだ。今回も発について決まらなかったらしく、纏うオーラに変化は無い。
ボーッと遠くを眺めながら、どんな発が良いかを考えているジールは何かを探すように視線だけを頻繁に動かしていた。
(やっぱりめっちゃギミックを凝ったのか、シンプルで強い能力が良いな。出来れば制限解除とかブーストみたいなのも付けてみたい。)
一生に一度の世間に笑われない厨二病チャンスを無駄にするつもりは無い。森林を眺めていた視線はだんだんと下ろされていき、今は太陽を反射している氷を眺めていた。
(……ルアー埋まってるやん。)
なんとなしに見ていた先で、ジールは綺麗に磨かれた氷中に釣りで使うルアーが浮いているのを見つけた。
こんな寒い所でも氷が溶ける時があるのかと少しズレたことを考えながら、ジールは湖と一緒に凍りついてるルアーをじっと見つめる。
(……うん、意外といいかもしれないな。)
一瞬だったのか、それとも長考していたのか。それを閃いた瞬間には何とも言えない時間の流れを感じとった。これが直感か!なんて喜びながらお会計に席を立つジールはウキウキだ。
それもそのはず、長い間悩んでいたものに答えが出たのだ。後は形にするだけである。
(今ならひー君にも会える気がしてきたぞ!)
勢いよく店を出たジールは、そのままミンボ共和国行きの便を手配する。
(待ってろひー君!…………出来れば大人しくしてて欲しいな。)
※※※※※※※※※※※※※※
「これ、ひとつ頂戴♦」
繁華街と呼ばれる賑やかな街の外れ、ぽつぽつと人が歩く通りにある駄菓子屋に立ち寄ったのは赤髪の少年だった。
「あいよ、30ジェニーね。」
「ありがとう♥」
少年が久しぶりに見かけたお菓子を買ったのは気まぐれだ。小さな包みを剥がして口に入れたそれは、小さい頃に食べたものと変わらない味で、必然的に一緒に食べた兄を思い出すものだった。
ヒソカは最後に思い出したのはいつだったかと記憶を漁り、見つけたそれに満足気に頷く。
(兄さんの予言が当たった時だっけ♥)
少し前の戦っていた時に、ヒソカは自分がいつもと違う口調になっていることに気づいたのだ。本人は特に意識していなかったが、やりごたえのある相手と出会うとどうにも気分が高揚するらしく、喋りやすいそれに変わっているようだった。
ヒソカはとてもしっくり来るそれを気に入り意識したところで、兄の手紙に書かれている追伸を思い出した。語尾がどうとかという話はこれのことかと納得し、己がそれを気に入ることを知っていた兄にどうしてかと聞きたくなった。――勿論、それが出来ないことは知っている。
別にヒソカは会えなくなったことを気にしていなかった。
初めの頃は、兄と戦闘をするつもりだったからこそ、兄の代わりを探して色々な所を歩き回ったものだ。その中でたくさん戦えたのは楽しかったが、物足りなさを感じる時もあった。組手をした時の上に立っている兄の雰囲気や、どれだけやっても敵わないと感じるような戦いが少ないのだ。そうして暫くしてからヒソカはより強い相手を探すようになった。
勝ったり負けたりを繰り返すうちに負けることは少なくなって、強い相手との戦い自体が楽しくなり自分がそれを好いていることに気づいた。
兄が強かったから、強い相手と戦うことが好きになったのか、元々強い相手と戦うことが好きだったから兄と戦いたかったのかはヒソカにも分からないが、あの越えられない兄の雰囲気が一番好きだというのはわかっていた。
今ならあの時の兄よりいい動きが出来る、偶に思い出す組手の試合で比べてみても兄の拳より今の自分の拳の方が早いだろうと分かるが、勝てるイメージは湧かない。一度も勝てた事が無いからか、はたまた別の影響かは知らないがそれで良かった。
自分のやりたい事も見つけ、過去を悲しむことも無くなったと思っているヒソカは味の無くなったガムを包みで巻き軒先にあるゴミ箱に捨てた。
店先に座っていた店主に見送られながら、ヒソカは目的もなく歩いていく。数日前にやってきたこの街は人も多く退屈しないだろうと滞在を決めたが、散歩では既に見る場所も無くなっていた。
街一番の飲食店も、港でとれる大きな魚も、綺麗な壺が並ぶ怪しい店も、どれもこれも見飽きていたのだ。
(この街も、もう充分楽しんだし♦メインディッシュを見に行こうかな♠︎)
今歩いている道から横に逸れると、繁華街に近い道路へ出る。ちょうど青になった信号の下を歩き、大きな建物の前を通り過ぎていく。高級感ある赤い柱が並ぶ派手な建物をみれば、この家の持ち主が大層な金持ちだということは容易に分かるだろう。
そこから出てきたスキンヘッドの男と幾つか言葉を交わし、中に招き入れられたヒソカがホクホク顔で出てきたのは丁度一時間が経った頃だった。服の何ヶ所かは切れ、汚れている部分もあったがそれ以外に変わった所は無い。
ヒソカは街に貼られていたチラシを見て金と暇を持て余している金持ちを訪ねに行ったのだ。その金持ちが囲っている戦士と眼前試合を行いそれに勝つ簡単な余興に参加してきた。強い相手と戦えてヒソカは嬉しい、楽しい見世物を見れた家主も嬉しい。いい時間を過ごせたと満足するヒソカの笑顔はとても良いのである。
そして、気に入ったらしい家主に金の入った袋を渡され、機嫌良く通りを歩いていたヒソカは人気が無くなった所で新しい客に出会った。
(今日はなんていい日なんだろう♥)
ギラギラと目に眩しいバッジを見せつけながら、持っている金を渡せと言ってくる男達は否定の言葉を吐けばきっとすぐにでも殴りかかって来ることだろう。
そうなれば、ヒソカが何をしても正当防衛だ。ワクワクしながらいつもと同じように言葉を返せば、激昂した相手が拳を振り上げる。
それを確認したが最後、地面に転がるのは腹を抱え血反吐を吐く男達だ。中々に多い数を相手にしたヒソカもよく動けたことで満足し、そのまま男達を放って歩き出した。
兄が死んでから、気になった所にふらっと立ち寄り強そうな相手を探して勝負をする。ほんのちょっと覚えていた正当防衛の約束は、気まぐれに守られたり破られたり、ヒソカは兄のことを偶に思い出すだけで十分だと思っていた。
日常にまで浸透してきた彼の口調が兄の追伸を思い出した後のモノだとしても、唯一の遺品である手紙をずっと捨てずにいたとしても、ヒソカは手元に無いひとつを探すよりもたくさんの玩具で遊ぶ方が楽しいと思っている。
ヒソカのその考えは本心からのものであろうが、人生において気持ちが変わることなどよくあることだ。特に気まぐれで我慢をしないヒソカはきっかけさえあれば簡単に気分を変えることだろう。
そう、例えば死んだと思っていた兄がひー君の目の前に現れるとか。
次回は、ヒソカ視点で事件が起きます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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