口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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引き続きヒソカ回です。

グラムガスランドの話を知らなくても読めるように、全体のおおまかな流れも書いているので既知の方はテンポがゆっくりに感じるかもしれません。

よろしくお願いします。


披露した。【後】

 ロンマーナで見ていた大道芸や手品も面白いものがたくさんあったが、ここのショーはさらに派手なものが多く眺めているだけでも楽しい場所だった。

 

 ヒソカが途中で見つけたバンジーガムをいくつか買い込み、特等席でショーの覗き見をしていた時のことだ。

 ヒソカの横を駆けていった人がなにやら気になることを言っていた。

 

(モリトニオ一座のショーか♣)

 

 

 この前助けられた男がそんな名前だったと、興味を惹かれたヒソカはショーを行う講堂の近くにあるホテルに忍び込み、そのパフォーマンスを上から眺める。

 

 ジャグリングに綱渡り、炎を吹く女性も、どれも他の一座とはレベルが違った。先程の人達が駆けて見に行くのも分かる素晴らしさだ。

 

 そしてショーのクライマックス、観客達の歓声が一斉に湧き上がった所で、見覚えのある男が出てきた。

 ゆったりと歩いてきたかと思えば、ふと水の中で浮くように、空中を泳いだモリトニオはそのまま天井へと足を付ける。

 

 ヒソカから見てもタネも仕掛けもわからない初めて見るパフォーマンスは、観客からの賞賛を浴びながら閉幕した。

 他の芸ならヒソカもできるだろうが、それとは次元の違う“空水泳”の存在はヒソカの興味を酷く駆り立てた。

 

 

 

「やあ♣」

 

 アバキと呼ばれていた少女は、モリトニオ一座の裏方で何やら雑用をしているようだった。

 

 声をかければ、用があると分かったのだろう。洗濯が終わるまで待っていると、そのままテントの中へ案内された。

 

 一度モリトニオに会った後は、団員と話したいからと上で待っているように言われたが、もうヒソカは待ち飽きており、そのまま独断で階段を降りていった。

 中ではなにやら揉めているようで、モリトニオと別の男性の声が聞こえてくる。

 

(そういえばロイヤルグラムの候補なんだっけ♦)

 

 大事な時期に知らない野郎が入ってくるのは不安に思うことかもしれないが、正直ヒソカにとってはどうでもいいことである。自分は邪魔をするつもりは無いし、やりたいならやればいいのだ。

 

「やあ、さっきは凄かったね♠︎」

 

 こちらに気づいたらしい男性は、ヒソカの言葉に鼻を鳴らしそっぽを向いた。

 

「おや♣お邪魔だったかな……♦」

 

 思われていてもどうすることは無い、形ばかりの問いかけに答えたのはモリトニオだ。しかし彼もヒソカの言葉に返事は返さない。変わりにトランプを差し出して来た彼は、ヒソカが手品を出来るかどうかが知りたいようだった。

 

「すごい、誰に習ったんだ?」

 

「兄と、魔女のお姉さんかな♥」

 

 手馴れた手品を見せればどうやらお眼鏡に叶ったらしい。モリトニオと弾む会話を交わしていると、随分時間が過ぎてしまっていた。

 

「座長!稽古の時間忘れてない……?」

 

 駆け込んで来たアバキが、モリトニオを引っ張っていく。稽古の単語に思わずついて行きたくなったヒソカだったが、焦ることは無いだろうとその場で声をかけることは無かった。

 

(他の技術も知りたいし♠︎)

 

 一番は、モリトニオとアバキの周りを流れている薄い膜のことだが、他のパフォーマンスを見てみたいのも本当である。

 

 ヒソカは先程渡されたトランプでひとり遊びながら時間を潰していると、その床に面白いものを見つけた。

 

 コロコロと転がってくる大きいネジに、何処からやってきたのか辺りを見渡すがそれらしきものは無い。それならばと、ヒソカは高い位置にある台を見上げた。確信は無いが、もしそうだったのなら楽しいことが起こるだろうと、ヒソカの口角は上向きにつり上がっていた。

 

 

 

 

 その翌日、一座の拠点となっているテントを覗いてみるとその中心に人が集まっていた。

 

(これは……当たったのかな♦)

 

 どうやら足場が崩れてしまったらしく、一人の団員が足を抱えて蹲っている。

 倒れた団員は、ジャグリングを担当していたらしくモリトニオが公演内容を変えるように指示を出していた。

 ロイヤルグラム前の大切な公演でトラブルが起きたことに動揺している団員達の間を通ってヒソカが中心に踊り出れば、皆の視線が集まってくる。

 

「僕が出ようか♠︎」

 

 そう言えば、もう一人のジャグリングをやっていた男が突っかかってきたが、目の前で同じ様にクラブを回せばそれ以上は言わなくなっていた。

 

(一回やってみたかったんだよね♣)

 

 大きな舞台でショーをするのはどんな感じなのか、技を見せて観客を驚かせるのはきっと楽しいだろうと、ヒソカはウキウキで準備に取り掛かった。

 

 舞台の袖でピエロのメイクを施せば、中々様になっている。衣装と相まって、ショーをするのに違和感の無い格好となっていた。

 

(うん♥いいんじゃない♦)

 

 左目には星型を、右目には雫の型を書き込み髪をオールバックで撫でつけたヒソカは、一切の緊張もなく舞台に立った。

 

 

 

 モリトニオ一座の知名度か、客席が満員となっているステージの上でペアとして技を披露するのはヒソカとヤスダと呼ばれる男だ。

 

 この時、ヒソカはクラブを完璧に操っておりヤスダの投げるそれをミス一つ無く返していた。その動きはヒソカのセンスが高い故のものであり、それを直に感じたヤスダの劣等感を刺激するものであった。

 

 多少、ヤスダが練習と違う動きをしたとしてもヒソカが失敗する要因にはなり得ない。動きを真似て完璧に返したヒソカは、ヤスダの横に落ちたクラブを目で追った。

 

 

 

 

 

 それからと言うもの、ヒソカの前で練習をする団員が極端に減っていた。

 

 ヒソカはそれについて特に思うところは無かったが、ひとつラッキーなことがあった。

 

「念?」

 

 ヒソカの様子を見に来たらしいモリトニオと話していく中で、モリトニオの空水泳の仕掛けを教えて貰えることになったのだ。

 

 初めは才能とは別物だと言って教えるつもりは無かったようだが、オーラ(というそうだ)が見えていることを伝えると乗り気になったらしい。

 

 アバキが目の前で練を披露した時など、こんなに面白いものがあったのかと襲うのを我慢する方が大変だった。これから楽しくなるというのに二人がいなくなるのは困る。

 

(……それにしても、オーラというのは力が篭っていてとてもいい♥)

 

 ロイヤルグラムに出るかわりに、一週間に一度修行をつけてもらえることになったヒソカは教えて貰った念の基礎を頭の中で繰り返しながら、ウキウキで一座のテントを後にした。

 

(纏をマスターするのに一年、さらに彼女のようになるには三年かかるらしいけど…)

 

 

 隣りを一緒に歩くアバキは、先程も綺麗なオーラを見せてくれた。その様子を思い出しあれこれと彼女に念能力について質問をするが、どうやら知らないことも多いらしい。

 

「じゃあ、一座の人が皆使えるわけじゃ無いんだね♦」

 

「うん、素質があったのは私だけだって。……座長はね、元々ハンターを目指してたんだよ。」

 

 沈む太陽を眺めながら話していると、なんとも懐かしい言葉が聞こえてきた。

 

「へぇー、ボクも知ってるよ♣ハンターになりたかった人♥」

 

「そうなの?……なんかヒソカが自分のことを話すのって珍しいね。」

 

「ふふっ、そうかな♥」

 

 小さい頃に、新聞の切り抜きを熱心に集めていた兄は生きていたら今頃ハンターになっていたかもしれないとヒソカは懐かしむように目を細める。

 

 その後も、座長の夢を継いでプロハンターになるのだと息巻いているアバキを宥めたりしながらも、ヒソカは頭の中をチラつく兄の影に意識を取られていた。

 

 

 

 一週間後、約束の稽古の日がやってきたヒソカはそこでアバキ以上の練を見せた。

 

「これであってる?一年かからなかったけど♥」

 

 ヒソカの圧倒的な才能にアバキは言葉を失い、モリトニオは興奮で手が震えていた。

 その成長の早さに感動したモリトニオは、次のステップとして二人に六系統の存在を教える。

 

「その能力ってどうやって調べるの?何か方法があるんだろう♦」

 

 座って大人しく話を聞いていたヒソカは、モリトニオの説明が終わるとせっつくように次に進みたがる。

 

 その姿は、特大のおもちゃを見つけたような無邪気から来るものに見えるが、この場にジールが居れば、慌てて代わりのものを探しただろう。

 副音声をつけるなら「えっ、行っちゃう?気になっちゃうのかな!?考え直さない?」とパニックになりながら幼少の頃に使っていたガラガラでも取り出して来そうだが、今ここには居ないのだ。

 

「水見式を使います。」

 

 イマジナリージールの頑張りは届かない、モリトニオの取り出したグラスには水と葉っぱが入っており、彼が実演して見せると水の味が変わっていた。

 

「味が変わるのは“変化系”の反応。君らも試してごらん。」

 

 そう言って差し出されたグラスに手を翳したのはアバキだった。すると水の色が青色に変わり、それを見たモリトニオが放出系だと教える。

 

 続いてヒソカが手を翳すと、グラスには特に変化が現れなかった。隣りから覗き込んだアバキがその結果に困惑していると、ヒソカはそのままグラスをアバキの口元に持っていった。

 

「酸っぱい!なにこれ……」

 

「…ヒソカも私と同じ“変化系”だな。」

 

 使い終わったグラスを返せば、モリトニオは今後の予定を発表した。

 

「暫くは基礎訓練、この変化が顕著になるように念を磨きましょう。」

 

 コトリと、テーブルの上にグラスを置いたモリトニオが振り返った頃にはヒソカの姿は無かった。

 

「はーい。」

 

 一人元気に返事を返したアバキは少し気まずそうにしながら片付けを手伝った。

 

 

 

 月夜が綺麗な夜、ヒソカは一人高い所を歩く。外からの客が多いグラムガスランドには多くのホテルが並んでおり、空を見るのに困ることはなかった。

 

 ヒソカは夜風に当たりながらさっき分かった発の能力について考えを巡らせる。それは自分の能力についてでは無い。彼の兄、ジールについてだ。

 

 ヒソカは自分の系統が分かった時、次に考えたのは兄が何の系統になるかだった。

 念能力を知ってから、今まで見てきた強さなど当てにならないことを悟ったヒソカは、兄の絶対的なイメージに別の色が加わっていた。

 

(兄さんは、何になるのかな♠︎やっぱり純粋に強くなるなら強化系か、特質系でも似合いそう♥)

 

 頭のいい兄ならどんな系統になっても使いこなせるのだろうと、胡座で座っているヒソカは左右に揺れながら兄のことを思い出す。

 

(ああ、一回でいいから兄さんのオーラ浴びたかったなぁ♦)

 

 叶いもしない願いだと、オーラを流しながら月を見上げるヒソカは、脳内で念能力を習得した兄を思い描き興奮していた。

 

 とその時、ヒソカが座っていた建物が大きく揺れる。

 下を覗くとそこにはアバキと見知らぬ男が戦っているようだった。ヒソカはそのまま上から飛び降りトランプを取り出すと男の顔を切り裂いた。ヒソカが左目から頬にかけて怪我を負った男を見下ろすと、アバキが驚いたようにこちらを見てきた。

 

「散歩かい?楽しそうだね…♥」

 

 そのまま逃げ出した男を見送ったヒソカは、頬を切り裂いたトランプをじっと見つめる。

 

「どうしたのヒソカ……」

 

「“嘘くさい感触”だったなと♣」

 

 先程の男はここらで騒がれているジョン・ドゥという男だろう。

 “百面ジョン・ドゥ”と呼ばれている連続殺人鬼は、毎回被害者を圧死させ、何よりカメラに映る顔が毎度変わることからそう呼ばれている。

 

 ヒソカもこの街に来てから初めの頃に彼について描かれた貼り紙を見ていた。当然のように載っていたものと顔は違ったが、近くに転がる死体の様子を見るに間違い無いだろう。

 

 一座に戻りその事を伝えれば、モリトニオが皆に注意するように呼びかけていた。

 

 

 

 

 それから数日後、夜の道など気をつけてみたが特になにかが起こることもなく、ヒソカはロイヤルグラムの発表日を迎えていた。

 

 街一番のホテルで披露されるそれは見事に成功を収め、ショーの終幕後に贈られた拍手はモリトニオ一座にとって最高の賛辞となった。

 

 今までの努力が認められたと、モリトニオ一座の団員はその夜に皆で打ち上げをした。アルコールが入り、騒ぎ立てる面々の中にいないのはヒソカと、座長のモリトニオである。

 

 お祝いムードになっているテントから離れたところで二人は揃って腰を下ろしていた。

 

 初めは他愛のないショーの成功を祝う言葉であったり、今後の一座にヒソカを誘ったりする言葉であったが、遠慮なく話し合おうとモリトニオが言ったところで、ヒソカはある人物の名前を出した。

 

「左目、調子はどうだい?ジョン・ドゥ♣」

 

「……ジョン・ドゥがどうしたんだね。」

 

「“頬”が剥がれているよ♦」

 

 その言葉に慌てて左頬を触るモリトニオは、横で笑いを堪えているヒソカを見て嵌められたことを悟った。

 

「こんなのに引っかかるとは、ヤキが回ったか。」

 

 一瞬の動揺も、直ぐに無くなり遠くを見つめるモリトニオは静かに話し出した。

 

「…昔から人の驚く顔が好きでね、よく家族に手品を見せていた。その驚く顔が見たくて、見たくて…つい妹を殺しちゃってね。だからハンターか、旅芸人になろうと思った。別の方法で人を驚かせようとしたんだ。」

 

 普通に生きていこうとしても、高ぶったショーの後は昂って誰かを壊さないとおさまらないんだ。と何かを抑え込むように声を絞るモリトニオは、隣りに座るヒソカの方を見る。

 

「あなたがなんであろうが興味は無いけど……あっそうだ、兄って変化系になりやすいのかな?」

 

 話半分でも聞いていたらしい参考までに聞かせてよとトランプでモリトニオを指したヒソカは、期待するように見つめてきた。

 

「…兄弟構成は聞いたことが無いな、でも家系で似ることはあるそうですよ。」

 

 自身の告白をそんな風に返されるとは思ってもいなかったようだ、驚きながらも返された言葉にヒソカは満足そうに頷いた。

 

「そっか、じゃあ聞きたいことも聞けたし♣……最後にボクを驚かせて見せてよ♥」

 

「いろんな方法を使っても構わないんだね?」

 

 その言葉と共にトランプで切りつけて来たヒソカを避けたモリトニオは、被っていた帽子を投げつけヒソカの視線を遮ると、彼の蹴りや拳を止めそのまま鳩尾へ重い一撃を入れた。

 

 衝撃で距離をとったヒソカを見たモリトニオは、手元から柄のついたハンケチを取り出す。

 

「……タネも仕掛けもないハンカチ、を被りまして成りたい顔を思い浮かべると…、」

 

 1(アン) ・ 2(トウ) ・ 3(ドウリイ)

 

――継ぎ接ぎされた真実(スカーフェイス)――

 

 モリトニオの顔を覆ったハンケチは、グチグチと動き全く別の顔を作り出していた。

 

「へえ凄いね♥」

 

 初めて見る他人の発に興味津々なヒソカは、モリトニオの奇術に賛辞の言葉を送る。

 

「ではお次、タネも仕掛けもございます。」

 

 そう言って、モリトニオが何かを動かすような動作をした後にヒソカは横からとてつもない力で殴られた。

 次の攻撃を何とか紙一重で避けるも、目に見えないそれを避けきるのは難しく遂には両側から挟まれるように押し潰されたのだ。

 

 メシメシと音を立てながら宙に浮いていくヒソカは、体に強い力が加わる中でオーラを目に集めて凝をした。

 これにはモリトニオも驚くしかない。

 

 まだ教えていない技術を戦闘のなかで探り出し身につける。圧倒的なセンスを持つヒソカに震えていると、ヒソカは何をしたのか自力で拘束から抜け出していた。

 

 ガチャンッ!!

 

「見えない磁石の柱、それが奇術のタネさ♠︎」

 

 建物のヘリに立ちながら、モリトニオを見下ろすヒソカは自身の考えを披露した。

 

「モリトニオが力を使うと、周りの金属の破片が動いていた♣それに、もう一つの能力を見せておいたのは念能力は可視化されるものだとボクに思い込ませるため♦」

 

「……本当に末恐ろしいネ」

 

 一座に招いた時にも見せた、観察眼と天性の感覚を惜しみなく使いこなすヒソカはたったの数分でモリトニオの発を見抜いてみせたのだ。

 

 そして、バレたトリックを種明かしするのが流儀としているモリトニオは、目に見える形で磁石の柱を作り出した。

 

「私の能力は、オーラを磁力を持った鉄柱に変える!!」

 

――鉄塗りの双極性(ブラッドマグネット)――

 

 

 幾つもの鉄柱がヒソカに向かって飛ばされる中でヒソカは自身の発を使ってその場から飛び退いていた。

 

「なんだ簡単だね♠︎“水泳”♥」

 

 モリトニオの背後をとったヒソカは宙に浮きながら、己が初めて見た発を真似てみせる。これにはモリトニオも動揺を隠せない、他人の発を真似るなど不可能だと自身に言い聞かせる事で攻撃を続けるがどれもヒソカには当たらなかった。

 

「タネ明かしは以上かな……♦それじゃボクの奇術で終わりにしようか♥」

 

 それはヒソカが指を鳴らした瞬間、辺りに突き刺さっていた鉄柱がモリトニオに向かって降り注いだ。

 

 まさか本当に発を真似たのかと細い息のモリトニオがヒソカを見上げると、それに応えた彼は自身の能力のタネ明かしをする。

 

「ボクの能力は“ガムとゴム”二つの性質を併せもつ♦」

 

 

 お気に入りを見せるように、変化したオーラを手で伸ばしながらヒソカはとっておきの名前をモリトニオに教えた。

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)っていうんだ♥」

 

 

(子供のお菓子か…お前らしい)

 

 鉄柱に埋もれ、ゆっくりと目を閉じたモリトニオに歩み寄るとヒソカは気まぐれのようにハンケチを彼の顔に落とす。

 

 ズッ、ズズ……。

 

 ヒソカがオーラを加えれば、それはたちまち見た目を変えて彼の顔に張り付いた。

 

「…うん、その方が似合ってるよ♥」

 

 まだ、月が高く輝いている中でヒソカは荷物を持って街を出た。ユーリンに進められた享楽の都は

ヒソカに確かな娯楽を与えた。

 

 念能力という新しい道具を見つけ、自分の人生が楽しいものだと信じて疑わないヒソカは、念を使って次はどんな楽しいことをしようかと悩んでいた。

 

(そういえば、兄さんボクとお揃いらしいよ♦)

 

 ヒソカは、情報を都合のいいように曲解した。

 そして、最近よく兄のことを思い出すなぁと感じたところで久しぶりに手紙を読もうかと思い付いたのだ。

 

 郊外と呼べるような廃屋が並ぶそこで、腰をかけたヒソカは鞄からしなしなになった手紙を取り出す。何回も読み過ぎて口が緩んだ封筒からは簡単に中身が出てきた。

 

 そして良く見える月明かりの下で便箋を広げると、懐かしい字が出てきた。

 

 

『 元気にしているだろうか。

 そちらで友人は出来たか?ひー君は優秀だからな、問題はないと思うが無理をしてはいけない。それに最近は我慢出来るようにもなってきていたな。偉いぞ。しかし、我慢しすぎるのは体に良くないとも聞くからな、ひー君が無理そうだと思ったら我慢はしなくてもいい。

 それと、世界には面白いものがたくさんあると思う、それらで暇を潰すのもいいだろう。好きなものを見ていてくれ。

 あとは、風邪を引かないように食事はしっかり食べろ、夜が冷える時は布団でしっかり寝るんだぞ。それに、知らない人にもついていかないように。もしもの時は殴ってでも逃げろ。

 

 もし、寂しい思いをさせていたらすまない。

 いつか挽回する。

 

P.S.ひー君は喋る時、語尾にトランプのマークを付けるようになったか?

 

 偶に思い出すと、手紙が読みたくなる。ヒソカは文章の内容が嬉しいのか、これを読むといつも手紙を持っている手が暖かくなる様に感じた。

 

 ウキウキと瓦礫の上で左右に揺れながらヒソカは続きを読もうとする。そのまま裏返せば控え目な文字で言葉が……。

 

 

 ニコニコと目を細めながら笑っていたヒソカは手紙の裏にあるものを見つけて思わずその目を見開いた。

 

 便箋の裏には僅かにオーラの気配がするのだ。衝撃から戻ってきたヒソカは慌てて凝をして紙面を見つめる。するとそこにはオーラで書かれた文章が浮かび上がってきた。

 

『これを読んでいるという事は念が使えるようになったんだな。流石ひー君だ。しかし、念を覚えるような状況にいるということは施設にはいない可能性が高いと思っている。迅速に迎えに行くのでそこで待っているように。』

 

 

「ハッ……。」

 

 バクバクと心臓の音が煩い。このタイミングで出てくる文章など、思わず信じてしまいたくなる。

 

 これは手紙を出した時にもしもの事を考えてギミックを仕込んでおいたのだろう。だから書かれたのは兄が死ぬ前のはずだが、その文が消えていないことに希望を持ちたいと思ってしまっている。

 

 余裕があればずっと前に念を習得していた兄を尊敬したり、手紙が暖かかったのはオーラのせいだったのかと色々考えたいこともあったが無理だった。

 

 

(……もしかして兄さんに会える?)

 

 ガンガンに眼を見開いているヒソカの口元は薄く空いており、その隙間から荒い息が漏れ出ていた。

 極度の興奮状態にあるヒソカはそれでもなお冷静にあろうと思考の糸を手繰り寄せる。

 

(でも、本当に生きてるか分からない♣……だから三日だけ待ってみて、それで…決めよう♦)

 

 

 ――でないと、いつまでも此処に居続けてしまう。

 

 興奮でカタカタと小さく揺れる足を抑えながら、ヒソカは瓦礫の上にじっと座っている。

 

 日が昇り、朝が来る。そして一日目が終わる。

 

 二日目の太陽が顔を出す。ヒソカの興奮はまだ収まらない。

 

 そして三日目、流石に空腹で倒れてしまいそうだからと、鞄から朝食を取り出そうとした時変化は訪れた。

 

 ザッと僅かに聞こえた足音と少し遠くに感じる気配は、人がやってこない廃屋には珍しいものだ。それこそ此処に目的があるような人物でないとまず訪れない。

 

 朝食などそっちのけで立ち上がったヒソカは、気配のする方に勢い良く振り向いた。

 

 その行動に驚いたのか、肩を揺らした人物は遠目からでは黒髪に黒い服だということしか分からない。

 

 落ち着き無く震える足で、一歩ずつ歩いて行けば段々とその顔が見えてくる。相手も、その場に立ち尽くしながら掛けていたサングラスを外しこちらを凝視してきた。

 

(……あの姿は♥)

 

 残りの距離はおよそ50m程である、一気に距離を詰めると相手も控え目に手を広げ受け入れの体勢を示してくれた。

 

 その勢いのまま抱きつけば、少しよろめきながらもヒソカを抱き留めその手をおずおずと背中に回してくる。

 

 相も変わらず、優しく背中を叩いて宥めてくれる存在がまだ壊れていなかったことにヒソカは狂喜した。

 

「やっと会えたね、兄さん♥」

 

 抱き締められた腕の中、夢にまで見たオーラを感じながらご機嫌に言葉を掛けると、ヒソカの背を優しく撫でていた手が止まった。

 

 まるでブリキのように固まった兄を不思議に思い覗き込むと、その無表情な瞳がヒソカのことをじっと見つめていた。

 

「どうしたんだい?兄さん♦」

 

 ヒソカが視線を合わせ問いかけると、兄はそれはもういい笑顔で、…まるで何かを悟ったかのような笑みで笑いかけてきた。

 

 

「…………会えて、嬉しいぞ。」

 

 

 

 




次回は、あっさり終われないジール視点で、再開までのお話です。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
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