口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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ジール視点で、再会までのお話です。
途中ジールの長い心の声がありますが、読み飛ばしても支障はありません。

よろしくお願いします。


再会した。

 スワルダニシティーで一番の建造物と言えばハンター協会の本部ビルが上げられる。プロハンターというよりは、それを支える事務方が多く勤めている場所だが中には定期的に本部を訪ねるハンターもちらほら存在していた。

 

 朝日が一日の始まりを告げ、人々が活気づく時間帯にそのビルから出てきた男は麻袋の上から感じられる光の強さに目を顰めながら欠伸を噛み殺した。

 

(暫く本部には近づかねぇ、絶対。)

 

 ジールは、溜まっている報告書を提出しに本部へ来ていたのだ。

 

 ここ3ヶ月で受けた依頼の件数は二桁にのぼっていたが、社会人時代に染み込んだ精神は書類仕事から逃がしてはくれない。ジールはコツコツ書き溜めていた報告書を今まで通りに本部へ持っていき、お決まりのように職員に連行されていた。

 

 そこで、ジールは現場を知っている人の判断が必要な書類や斡旋されたハンターの問題処理に付き合うのだ。

 

 なぜそんな事になっているのか、初めは報告書を普通に提出しに行っているだけだった。ジールはミーハー心で本部に通っていたのだ。

 ジールは報告書を持って行った時にやけに喜ばれるなとは思っていたがそれだけだった。しかしある時、手続きを終わらせたジールの前でトラブルが起きたのだ。

 

 内容は、依頼された害獣の数が事前に調べたものより多く、討伐に困っているというありきたりなものだった。報告を受けた職員は急いで救援に行けるハンターをリストから探し始める。斡旋所のオフィスが慌ただしさに包まれるのを見てジールは職員に一声かけた。

 

 結果、スムーズに依頼は解決しジールは元の担当だったハンターや職員達に感謝をされる。

 本人も自分が出来ることで人を助けられたことを喜んだし、臨時収入にホクホクしていた。

 

 次に事件が起きたのは依頼者からの報告(という名のクレーム)とハンターから貰った報告書の内容が噛み合わなかった時の事だ。

 目の前で行われるやりとりに、チラリと書類を盗み見ればジールも聞いたことがある植物についての話だった。

 

 数年前に見つかった根っこが一部の薬の効果を底上げするという植物の事だ。クレームは、依頼したものとは別の植物が届けられた。という話らしいが、依頼を受けたハンターはしっかり群生地から採取をしたと言っている。

 

 報告書に書かれた群生地の場所もジールが以前行った場所と同じ場所であった。ただ採取する位置が良くなかったのだ。原生地が砂漠であるこの植物は水辺だと根の水分量が他より多くなってしまう。使う薬によっては十分な薬効が出なくなってしまう事があった。

 

 それをフリップに書き職員に見せれば、専門家を呼んで対処する時間が省けたと喜ばれたし、ジールも役に立てる事に不満はなかった。

 

 その後も、任務の難易度と報酬が釣り合って居ないと連絡してきたハンターから事情を聞いて、それを斡旋所に提言することもあった。

 

 以前から問題になっていたハンターからの報告書が雑すぎることに対して、報告書の形式を仕事の種類毎に分けて面倒臭がりでも最低限書けるように改良したりもした。

 

 この辺りから、ジールが事務仕事もできるハンターとして斡旋所の人達に認識され始める。

 勿論、本部に勤めている方々も仕事が出来る有能な人が多い。しかし、どうしても現場に行かない弊害はあるし、職員では出来ないこともあった。

 そこで目を付けられたのが、以前から丁寧な報告書を持ってくる麻袋の男だった。一言で言うならば“便利”それに尽きるだろう。

 

 彼に任せた方が何倍もスムーズにいくと判断されたもので、報告書を持ってくる時期と合うものがあればそのまま仕事としてジールに依頼されることが増えた。

 ジールの方も、最初は慣れている書類仕事で破格の給金が出ることを知って乗り気であったが、仕事の量は決して少ないものでは無い。予算案の確認まで依頼された時は流石にびっくりした。貸し出しの備品などハンター側の意見が聞きたかったようだが、その時のジールは会社勤めに戻った気分だった。

 

 という経緯で捕まったのだろうとジールは推測している。本人も仕事の多さに毎回内心でキレ散らかしているが、暫くすれば報酬の良さに釣られてひょろっと本部に行ってしまうのだ。

 

 今も、三日徹夜して書類を片付けたジールはこれ以上やらないと宣言して本部から逃げてきていた。

 ちなみに、職員の人達はジールに無理矢理仕事を押し付ける事はないのでそこまで急いで出てこなくても追加の仕事は来ない。

 

(あー、早くパリストン協会に来ないかなぁ。)

 

 ヨボヨボの足取りで空港に向かうジールは、さながらゾンビのようだった。

 

(臨時でこれだよ?あんな面倒臭いところを掌握できるパリストンニキ、ヤバいっす。)

 

 若干の徹夜テンションに入りながら、ミンボ共和国行きのチケットを購入したジールは、そのまま空港の屋上までやってきていた。

 

 点々と設置されているベンチに一人腰かけ、具だくさんのサンドイッチを袋の隙間からモグモグしている。

 離陸する飛行船をボーッと眺めながら、噛みきれずについてくる具を食べていれば、手元には具がないパンだけが残っていた。

 

(まあ、とりあえず暫く仕事は入れてないし、ひー君の足取りを追うのには丁度いいタイミングだ。)

 

 何時までも疲れた気分ではいられないと気合いを入れ直す。

 そして、ジールが残ったパンをどうしようかと、手で持て余していた時のことだ。遠くから白い鳩が飛んできたかと思うと、そのままジールの座っているベンチの手すりに座ってきた。

 

『お久しぶりです!ジールさん!』

 

 クルッ、コキッと鳥らしい首の動きを見せながら挨拶してきたのはベレーくんの伝書鳩である。

 

「……ああ。」

 

『お元気そうで何よりです!』

 

 喜びを表現するように両羽を広げた鳩がどうやって喋っているのかは謎であるが、その体を包むオーラから念能力であることだけは分かる。

 

 ジールの数少ないお友達であるベレーくんはジールがハンター試験に合格したその翌年に、見事プロハンターになっていた。

 そして、薬草に詳しいという知り合いに念能力を教えられ、こうして鳩でよく会いに来てくれているのだ。ジールのひー君を探す旅でも、ひー君の目撃情報だったり、戦闘狂御用達の施設だったりと有能な情報屋としてジールを助けてくれていた。

 

「……やる。」

 

 友達との再会に浮かれているのか、ジールは手元に残ったパンをちぎり鳩に差し出していた。

 

『ありがとうございます!』

 

 そして、ジールが食べかけだったと気づいた時には半分以上のパンが無かった。人様のペットに食べかけを差し出すと無礼すぎでは?とジールは内心で慌てているようだ。

 ツンツンと掌に触れる嘴にむず痒さを感じながらも、ジールは話を振って誤魔化すことにした。

 

「……なにかあったか。」

 

 麻袋のせいで聞き取りづらい言葉でも、ベレーくんの鳩はしっかり答えてくれる。首を左右にクルックッ、と回しながらその嘴をパカリと開いた。

 

『そうなんです!実は弟さんの行方を知ってると僕の知り合いが言ってまして……』

 

(えっ、マジですか?)

 

『とりあえず、詳しい話をしたいのでミンボ共和国のロンマーノという街まで来てくれませんか?』

 

 クルッと首を傾げ、その黒い瞳で見上げられたジールは、事態の好転に喜びながらしっかりと頷いた。

 

「わかった、ありがとう。」

 

 それと同時に設置されているスピーカーから、飛行船乗り込み開始の放送が流れる。ジールは自身のチケットを確認しながら立ち上がると、鳩を指の腹で一撫でしてから歩き出した。

 

『では、また後で!』

 

「……ああ。」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 ジールがやってきたのは石造りの塀が街を囲むヨーロピアンな場所であった。周辺には小麦畑が広がっており街を彩る旗や道端の大道芸がジールのオタク心をくすぐってくる。

 

(やばい、中世ヨーロッパ風っていうの?RPGに出てきそう。)

 

 街の入口に並んでいる露店をしみじみと観察し、カモられてパンを何個か購入したジールは、大通りをキョロキョロしながらベレーくんに言われた待ち合わせ場所に向かっていた。

 

(ここでかっこいい鎧とかあったら絶対買っちゃうね。魔法使いとか騎士がいたらサイン貰いたいくらいだわ。)

 

 目を引く大道芸に感動しながら、横道へ入ったジールは集合住宅のような木造アパートの合間を縫うように歩いていく。

 

(こう、雰囲気のある路地はラブコメが始まったりしそうだ。)

 

 僅かに入り込む光に当たってキラキラと踊る埃すら舞台を盛り上げるためのセットに見えてくる。そんな浮き足立っていたジールの歩みを止めたのは、ひとつの若い声だった。

 

「やあ!やっと会えたね運命の君!」

 

 ハツラツとしたそれは薄暗い路地では浮いているようにも思えたが、何処ぞのリア充が再会を喜んではしゃいでいるのだろうと、ジールは気にせず歩みを再開した。

 

「おっと、これは気づいてもらえていないの、か、な!」

 

 そんなジールの行く手を阻むように回り込んで来た人陰に、ジールはやっと声の主が自分に用があるのだと理解した。

 

 ローブにフードを被った人物を見て、すわ不審者かとブーメランを飛ばしながらもジールは今度こそ足を止める。

 

「君に会えるのを待っていたよ!ジール!」

 

 気づいてもらえたことを喜びながらフードをとったのは、金髪に赤いリップの似合う美女だった。その表情はまさに歓喜、笑みを見せながらゆっくりと近寄ってくる彼女はユーリン=ダッチその人だ。

 

「ああ!実際に見るとまさに別格だね。さあ私の家に行こうか。」

 

 急な美女の登場に混乱し、名前を呼ばれてさらに混乱し、極めつけに美女の家へ誘われたジールはまともな返事が出来る状態ではなかった。

 

「…………女性の家には行けない。」

 

 不審な部分もたくさんあるが、ジールがしっかり返せるのはそれくらいだった。初対面の相手にほいほい質問できるほどジールのコミュ力は高くない。

 

 手の平を見せキッパリと断られたユーリンは、びっくりしたように瞬きをし、それから面白そうに笑った。

 

「なるほど、君はフェミニストのようだ!そんなところも素敵だが着いてきて貰えないのは困るなぁ。」

 

 笑っていたかと思えば、ユーリンは芝居がかった動作で腕を組み考え込むような仕草を見せた。

 腕を組んだことで身体のラインが強調され、何処にとは言わないがジールの視線は釘付けだ。それでも開口一番に奥手なセリフを吐いた男は3秒と見つめる事は出来なかった。

 

 一瞬で目を逸らしたジールは伺うようにユーリンを見る、それと同時にユーリンが閃いたと手を叩けば彼女の周りには白い煙がボフンッと音を立てて出現した。

 

「これなら、着いてきてくれるだろう。」

 

 先程よりも明らかに低い声色にびっくりしているジールを置いて、白く充満していた煙が風に吹かれていく。

 そこに現れたのは、先程の美女を男にすればこうなるだろうと思えるようなイケメンが立っていった。

 

(なるほどぉ、不思議なラブコメが始まるかと思ったが違ったようだ。…………美女の時に着いていけば良かった、イケメン滅びろ。)

 

 特にイケメンを恨んでいる訳では無いが、もはや様式美といった形でジールは目の前の男を爆破させようとした。そして、美女の段階で頷かなかった自分を呪った。

 

「…………変われるのか。」

 

 しかし、口から出るのは在り来りな言葉だ。断りを入れたままのポーズで見届けていたジールは、ゆっくりその手を下ろそうとしたところで、そのまま目の前の男に手を掴まれた。

 

「もちろんだとも、安心してくれ。なんだったら確かめるかい?」

 

 掴まれた手が下の方に誘導されていく、確かめるの言葉の意味を理解したジールは慌ててその手を振り払った。

 

「なんだ男の方でも気を遣うのかい?これは堕とすのに時間がかかりそうだ。」

 

 内心で触りたくもないものをタッチするところだったと焦っていたジールは不穏な言葉も流すことにした。そして改めて手を掴まれたジールは、引かれるままにユーリンの後をついて行く。

 

 何故振り払わないのか、直後に名乗られた名前と、ベレーくんから教えてもらった知り合いの名が同じだったからだ。

 

(……この人とベレーくんが知り合いだとは、世の中分からないな。)

 

 怒涛の展開に追いついた時、ジールは遠くを見つめながら人間関係の深さに打ちのめされていた。

 

 

 

 

「さあ、私の家だティリーも中で待っているよ。」

 

 立ち並ぶボロいアパートの一棟、その外階段を上ったところにあったのはひとつの扉だった。ドアノブに手をかけたユーリンが戸を引けばそのまま中が見えてくる。

 

 あちこちに積まれた本や書類、壁にかかっている薬草や不思議な生き物の瓶詰めと極めつけに置かれた大釜を見て、ジールは息を飲んだ。

 

(ここ、魔女の家だ。)

 

 色紙を用意してサイン貰わなきゃ、とジールは先程まで不審者扱いしていたユーリンに対してくるっくるに手のひらを返していた。

 

「ちょっと、まだ散らかってるけどティリーが片付けてくれたし多分通れると思うよ。」

 

 立ち止まったままのジールを見て勘違いしたユーリンは物と物の隙間を指さしながら通れる所を教えてくれる。その言葉にも頷きながら、ジールはくるりと自身より背が高くなっているユーリンを見上げた。

 

「………………魔法使いか?」

 

 麻袋で見えないが、心做しか目が輝いているように見えた。さっきまで嫌々で着いてきていたとは思えない変わりようを見てユーリンは大層喜んだ。

 

「そうさ!私は偉大なる天才魔術士、ユーリン=ダッチだ。気軽に呼んでくれて構わないぞ。」

 

 ふふん、と自慢げに語られた肩書きにジールのテンションはマックスである。もう色紙じゃなくてもいいと、白いシャツを取り出そうとしたところでそのサイン会は止められた。

 

「もう、ご主人はジールさんを早く中に入れてあげてください。」

 

 中から声をかけてきたのは、木箱に薬草を詰めて運んでいるベレーくんだ。慣れたようにモノの間を通ってくるベレーくんを見つけたジールは、鞄の中を漁るのを止めて嬉しそうにベレーくんの元へ寄った。

 

「……久しぶりだ。」

 

「はい!こうして顔を合わせるのは試験の時以来ですね、僕も会えて嬉しいです。」

 

 木箱を端に置きパタパタと駆け寄ってきたかと思えば、そのまんまるの目を細めて笑いかけてくれる。ここ暫くヤバい人達としか会っていなかったジールにとって、ベレーくんは完全に癒しとなっていた。

 

「そこに座っていて下さい。今お茶を出しますから!」

 

 一部分だけやけに片付いているテーブルに案内され、お菓子の盛り合わせだと出されたトレーには、しょっぱいものから、甘いものまでバランス良く盛り付けられていた。

 

「ティリー、私もお願いするよ。」

 

「わかりましたー!」

 

 ベレーくんにすっかり気を取られ半ば存在を忘れられていたユーリンも後ろからやってくると、力業で適当なスペースを作り出し席に着いた。

 

「……邪魔をする。」

 

 茶を入れる腕も確かなベレーくんは、ミルクを添えてジールの前に香りのいい紅茶を出す。それに礼を言って口の中を潤すと、ジールは家主へ今更ながに挨拶をした。

 

「……ここに弟が来ていたと聞いた。」

 

 そして、ジールが単刀直入に用件を言うが、客人用に出された菓子をつまみながら楽しそうにジールを見ているユーリンは、聞かれた言葉にはまともに返そうとしない。

 

「やはり運命の君は違うな!あの時感じたものは間違いでは無かった。」

 

 感慨深げに頷くユーリンに、ジールは困ったように眉を下げベレーくんの方を向いた。

 

「ご主人はこの通り会話が飛ぶことがよくあるんです。本人的には繋げているつもりらしいんですが……、ご主人、待っていたんでしょう?しっかりお話しないと帰られてしまいますよ!」

 

 菓子の乗ったトレーをユーリンから引き剥がしつつ、ベレーくんが注意をすれば自分の世界から帰ってきたらしい。低い音で咳払いをしたユーリンは、珍しくも説明するつもりのようだった。

 

「少年のことだろう?会ったさ、短い間だったが…二ヶ月くらい居たかな。面白い子だったぞ!」

 

 その頃を思い出しているのか、目を細めたユーリンは愉快といった様子を隠すことも無く話を続ける。

 

「トランプの扱いも達者であったし、センスも良かったが、私が気になったのは持っていた手紙さ。あれ、君のだろう?」

 

 手紙と言われ心当たりのあるジールは思わず目の前の人物を注視する。ベレーくんが言っていた念を教えれくれた薬草好きは彼?彼女?の事だったかと理解したところで、ジールは新たに疑問が出てきた。

 そして、言葉を数回選び直してからやっとの思いで口を開く。

 

「……何故、伝えなかった。」

 

 メッセージに気づいたのなら、何故内容をひー君に伝えなかったのか、その段階では弟が念に目覚めていなかったのか。純粋な疑問として訪ねたジールは、ユーリンの回答を待った。

 

「伝える?あぁ、私は実物を見た訳では無いからな。その言い方だとメッセージでも書いてあったのか……うーん、やっぱり見せてもらえば良かったよ。少年は宝物だと言って中身を見せてくれなかったからな!」

 

 

 そのユーリンの言い方だと、まるで封の上からオーラに気づいたように聞こえる。確かにジールは隠が苦手だが、紙を挟んで滲み出るほど下手ではない。

 驚いたように固まるジールを気にすることなくユーリンは言葉を続けた。

 

「なんで気づいたのか不思議かい?……私はね、目がとても良いんだよ。何でも見える、世界の隅も心の内も何もかも!と自称しているのさ、勿論オーラもよく見える。ジール、私は君のオーラが好きなんだ。」

 

 ひー君の話をしていたはずだが、いつの間にか告白タイムが始まっていた。この後はどうなるのかとベレーくんを見てみれば、いつもよりは保ったかと真顔で頷いている。

 

「よく見える弊害かな、特に人から出てるオーラはこの目に痛すぎるのさ!だが、少年に会った時は驚いたよ。彼のオーラも大層いいものであったが、持ち物に美しいオーラがあるのを見つけてね、しかもそれを施した者は遠く離れているという、なにがなんでも会いたいと思って一計謀らせてもらった!」

 

 

 つまり、オーラもよく見える目にはジールのオーラがとてもいい物に見えたと。褒められたジールは嬉しく思ったが最後の言葉は聞き逃せない。

 

「少年にも言ってしまったからな“会えたらよろしく言っておこう”とね。いやー、会えて良かったよ!」

 

 どうやらジールは呼ばれるべくしてここに来たようだが、何故こんなにも期間が空いたのだろうか。ベレーくんとも知り合いならば、試験後に呼ぶことも出来ただろう。

 

 

「ん?何で今なのかと思っているようだね。簡単な事さ、少年は気まぐれだからね私がオススメしたとしても行ってくれるのは何時になるのか分からないぞ!」

 

「最近、ご主人の知り合いがヒソカさんを案内したと知らせてくれまして居場所がわかったんです。」

 

 

 話が浮きはじめたからか、ベレーくんが補足を入れてくれる。ジールはひー君の居場所が分かるという言葉を聞いて腰を上げた。

 

「落ち着きたまえ!もちろん運命の君には協力したいが……ギブアンドテイクといこうじゃないか。」

 

 私は長生きだが、未だ欲が枯れたことはないぞと胸を張っているユーリンに対してジールは緊張気味だった。今までの会話から相手が飛んだ思考をしていることはわかった、要求されるのは金か、希品か固唾を飲んでユーリンを見る。

 

 

「ぜひ、君の素のオーラを見せてくれたまえ!」

 

 

 身構えていたジールは思わずこけそうになった。正直、それで教えて貰えるのならいくらでも見せるだろう。ジールが本当にそれでいいのかと念を押してもユーリンは早く見たいと急かすだけだった。

 

 ベレーくんからも、それでお願いしたいと言われてしまえばジールは偽装していたオーラの流れを戻すしかない。

 

 瞬きをするように一瞬で切り替わったオーラは、浜辺の波のような荒々しさから、研磨された湖面のように穏やかなものに変わった。

 

 目の前で見せられた待望のそれに、ユーリンは先程までの騒がしさはどこに置いてきたのかと言わんばかりに黙っていた。

 隣で見ていたベレーくんも、想像を超えたそれに開いた口が塞がらないようだ。

 

 それを見て、ジールは少し気まずさを感じていた。初めてオーラを見たイルイルには気持ち悪いと切り捨てられたし、この前出会ったさっくんには事細かにジールのオーラがどうなっているのかを解説された。

 それを聞いたジールは、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きだと結論付けたのだ。つまり自身のオーラの評価は微妙だと思っている。

 

「……もういいか。」

 

 部屋の空気に耐えられなくなったジールは、オーラを一般人のそれに戻す。ついでに気まずそうにオーラを揺らしておいた。

 

「……良い、素晴らしい!これ程とは!」

 

 偽装後に戻ったことでやっと正気になったらしい、ユーリンは興奮気味にジールへと近づいた。

 白馬の王子様のような綺麗な顔面をしているが、その表情は頂けない、鼻息を荒くして寄ってきたその目は蛇のように黒目が絞られ縦長になっている。

 

(…………この人の影響でひー君が変態になってたらどうしよう。)

 

 中々に失礼なことを考えているが、ユーリンはそう簡単に興奮しないためヒソカの前でこういったリアクションはして無い。

 それにジールの弟は元々素質があるタイプだ、影響を受けていなくてものびのびと育っていくだろう。

 

「感動したよ!君のそれが見られるのなら何でもしよう、さぁ望みはなんだい?」

 

「……あの、ひー君のばしょ」

 

「凄かったです、流石ジールさんですね!僕ももっと修行しますね!」

 

 喜んで貰えるのは嬉しいが、ジールはひー君の場所が分かればそれでいいのだ。早く教えて貰えないかと声を振り絞るがいつもより声の大きいベレーくんに遮られてしまう。

 これは無理だと悟ったジールは二人が落ち着くまでちびちびと紅茶を飲みながら待つことにした。

 

「いやー、こんなにはしゃいだのは何年ぶりだ?これであと百年は生きていけるね。」

 

「すみませんジールさん、はしゃいでしまって。」

 

 やっと話が聞けるようになったのは空が茜色に染まる時間帯であった。申し訳なさそうに謝るベレーくんと、全く気にしないユーリンの対比によく友人になったものだとジールは感心すらしていた。

 

「……気に入ったのなら良かった。」

 

 当たり障りのないように、ベレーくんにも気にするなと伝える。その間に、ユーリンは紙とペンを引っ張り出しゴリゴリと何やら書き込んでいた。渡されたそれには汚い字で、住所らしきものが書かれている。

 見た目によらず大雑把な字を書くものだと意外に思ったところで部屋の様子を思い出したジールは納得した。

 

「……これが。」

 

「そう!私の部下がね、仕事のついでに案内をしてくれたから確実にその近くにいるはずだよ。まぁ少年がそこに行ったのは一週間くらい前だけど。」

 

 ペン先で紙を指しながら、何ともないように言われた言葉にジールはギョッとした。過去数回のニアミスをしてきた経験から、一週間前の目撃情報がかなり際どいものだと認識している。

 

(やばいやばい、早く行かなきゃ!またすれ違っちゃうよ。)

 

 急に立ち上がったジールに他の二人は何事かと麻袋を見上げる。視線を受けたジールは足元の鞄を拾い上げながら、早口で捲し立てた。

 

「情報提供感謝する。色々と不穏な言葉も聞こえたが、弟を見つけるのに忙しい。本日はこれで失礼するぞ。後日、お礼の品と共に真偽の程を追求させてもらう。」

 

 なりふり構わなければ、多少は口も回るようだ。数分後に自身の発言に反省会を開き、うじうじと落ち込むことさえ除けばまともに喋れると言ってもいいだろう。

 

 ビシッと90度に頭を下げたジールは、そのまま足早に去っていく。ベレーくんの見送りの言葉には手を振ることで返事をし、ユーリンの再開を喜ぶ声には迷った挙句返答をせずに扉を出た。

 

 路地裏を駆けていくジールはいつものように天使であったベレーくんを思い出しニコニコである。ユーリンのこともひー君をしばらく世話してくれていたのだから悪い人では無いだろうと思っているが、多少の苦手意識……というよりは、あのイベントが美女の状態で起きなかったことに血涙を流していた。

 まあ、美女に迫られればまともに動けないジールにとっては男の方がよかったのだろう。

 

 しばらくして携帯に送られてきたメールには、一番早い飛行船の出発時刻が書かれていた。ベレーくんの有能さに心を打たれながらバスに乗り込んだジールは思い出す。

 

(あっ、サイン貰うの忘れてた。)

 

 言動が怪しかろうと、魔術士のサインは別らしいジールは車内で落ち込んだままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 

 ジールは、グラムガスランドに到着したところで高いところから街全体を見下ろしていた。賑やかで物が多いこの街は人を探すのに向いていない。

 

 到着した時にはひー君が好きそうだなと軽い感想を抱いていたジールも、中に入ってからは想像以上に多い遮蔽物に探し方を切り替えることを余儀なくされていた。

 

 見下ろすといっても実際に肉眼で探している訳ではない、先日作った発の性質上、自身のオーラの場所に敏感なジールはそれを利用して手紙の場所を探しているのだ。

 

(渡してて良かったくも〇式、……お願いだから持っててくれよ!)

 

 引き止めるのに役立てばと思っていたが、まさかこんな風に役に立つとは思っていなかったジールは、それでも見つかる気配のない様に焦りを感じていた。

 

 何度か場所を変えて探って見るも、なんちゃってレーダーに反応は無くジールは捜索場所を街の外へと変えていく。

 

 走りながら周囲を探り、そろそろ体力の限界になりそうだといったところで離れた場所に自身のオーラの反応があった。

 

(……廃屋の方か。)

 

 息を切らしながら、崩れた建物に近づいていく。

 ジールは麻袋を被っていて気づかれなかったなどという悲劇を回避するためにサングラスに変えていたが、それすらも邪魔に思えてくる。

 

 走った後だからか、ドクドクとうるさい心臓をなだめようと立ち止まったところで建物の中から人が出てきた。

 先程の街でよく見かけた舞台衣装を着ている人物の髪色は赤いように見える。それを確かめるためにサングラスを外したところで、ジールの目には笑顔のヒソカが映り込んできた。

 

 小さい頃に抱きついて来たように、嬉しそうにしているヒソカを見てジールも思わず手を広げて待ち構える。

 ジールは勢いよく飛び込まれたことで僅かに息を詰まらせたが、グリグリと肩口に顔を埋めるヒソカを見て懐かしさや嬉しさが湧き上がってきた。

 

 宥めるように背を叩けば、それに気づいたヒソカは顔を上げる。大きく成長したのだろうとその顔を覗き込んだところでジールはちょっと固まった。

 

(まあ、あの街を満喫しただけかも知れないし。)

 

「やっと会えたね、兄さん♥」

 

 背を叩く手も止まった。

 

(聞き間違いかも知れないし。)

 

「どうしたんだい?兄さん♦」

 

(……なるほどこれは現実らしい。ペイントされている弟の顔も、怪しげに揺れているオーラも、バッチリ聞こえる語尾のマークも。全部目の前にありますよってか?……オーケーわかった。)

 

「………………会えて、嬉しいぞ。」

 

(とりあえず、話し合いといこうじゃないか。)

 

 自分がどんな表情をしているかなんて、全くもってわからないがきっとスーパーに並ぶ魚のような目をしているんだろう。

 

 

 

 ひー君が居座っていたと案内された廃屋には、少ない荷物と食べかけのご飯が置かれていた。

 

「……途中だったか。」

 

「そうだよ♠」

 

 返される言葉のひとつひとつに渋い顔をしそうになるが、ジールの表情筋は仕事をしないらしい。傍から見れば、普段と変わった様子も見せずにひー君と話しているように見える。

 

 ジールはどこに座ってもらおうかと悩んでいるひー君を眺めながらボソリと声を掛ける。

 

「……座ろう。」

 

 適当な所に腰をかけ、隣を指させばひー君は素直に横に座る。その表情も久しぶりに会えたことを喜んでいるのか、終始ニコニコしたままであった。

 

「何があったのか聞きたい。」

 

 そう言って切り出せば、ひー君はきょとんとした後に何故そんなことを聞くのかと不思議そうに見てきた。

 しかしジールにとっては重要事項である。頭の痛い話だが、離れている間に弟がどうなってしまったのか経緯を聞いて判断しようとしたのだ。

 

「別にいいけど……、えーと兄さんが死んだと思った後に旅を続けたかな♦」

 

 いきなり申し訳なさMAXの話題がきた。ジールは息絶えだえになりながらも気になることを聞く。

 

「……その前は、」

 

「前?あぁ、兄さんから手紙が来たね♥嬉しかったよ♠凄いよねあの裏に――」

 

 話が怪しい方へそれかけたところで、ジールは言葉を遮った。ジールが聞きたいのは、どういう生活をしていたかなのだ。

 

「うーん色々遊んでもらって……、あっ知ってた?組手のこと戦闘って言うらしいよ♦」

 

 新しいことを披露してくれたひー君はとても楽しそうだった。

 可愛く見えたひー君の頭を撫でつつ、ジールは顎に手をやって考え込む。

 他にも幾つか質問してみたが、ひー君はどれも覚えている範囲で全て答えてくれる。

 

(こちらの質問に答えてくれるってことは、素直なままか?でも、興味無いことを忘れているっぽいしある程度は変わってるのか?……なら、)

 

「……戦うのは楽しいか。」

 

 過去の話を聞いても、あまり内容が出てこないと悟ったジールは思い切ってぶっ込んだ。

 小さい頃も組手は好きだったが今もそれを純粋に楽しんでいるのかが重要だ、とジールはこっそり緊張しながらひー君の言葉を待つ。

 

「たまらないよね♥」

 

(アウトーーーー!!!!)

 

 多少はっちゃけてるだけならまだ希望はあったが、台詞とともに揺れたオーラの動きはガチだった。

 なんなら、質問が何かの琴線に触れたのかひー君がさっきとは異なる視線をジールに投げてきた。

 

 

 それに気づいたジールは内心悲鳴を上げながらも、ひー君の額を軽く叩くことでその膨張するオーラを止める。

 

「……まあ、元気そうで何よりだ。」

 

 苦し紛れの一言だった。

 何事もなかったかのように、ひー君の無事を喜ぶその言葉はジールの嘘偽りない本心ではあったが他に考えていることが無いとは言わない。

 

 ひー君と再会してからと言うもの、ジールの心の声は途絶えることなく喋り続けている。

 

(お疲れ様でした!ありがとうございました!……待って?いや待たれてももう同じなんだけども、言ってて泣けてきた。決定ですかね、楽しそうですね、どうやら見た目だけじゃなく中身もすくすくと育っていらっしゃるようで!ほんと、元気なのは安心したけど、元気すぎるのも不味いというか、アソコがお元気とかふざけてる場合じゃなくてね!もうほんと悲しい思いをさせたのはすまんかった。あれ、悲しんでくれたんだよね?そういえば言われてないな自意識過剰か?首吊る?まぁ待て落ち着こう、落ち着いてるんだって、つまりひー君は戦いの楽しさに目覚めて、楽しい日々を送っていたようだ。楽しかったのはいいけども、一般人はどうなの?約束はたまに守ってたとかいう不安な言葉は何なんですか。ひー君嘘つくの上手すぎて分からないよ!こちとら対人スキルねーからな!……まあ、僅かなオタク心が念を習得しちゃったひー君に喜んでるのも事実ですしお寿司、ほんと現金なやつですね!弟の成長も、生バンジーガム(多分)も嬉しいから仕方ないね!でも複雑!!会えて嬉しいって全面に出してくるひー君が可愛く見えて複雑!さっきあんなに変態チックだったのに、絶対お兄ちゃんフィルターかかってるよ!これ外せないかな!?――)

 

 ひー君と話しながら、こうして叫び続けるのはある意味器用だと言えよう。過去一番の混乱を見せているジールだが、叫んでる内容は至ってシンプルだ。

 

(変態になった弟は普通に嫌だけど、ちょっと可愛いところがあるのが憎い!)

 

 再会してからも、口には出さないがひー君と呼び続けている時点で可愛がっているのは明白だ。ヒソカに本当に可愛い部分があるのかはさておき、ひとまずジールは用事を済ませることにした。

 

「……誕生日の回数。」

 

 ジールに叩かれたところを、撫でていたひー君はその言葉を聞いて目をキラキラと輝かせる。

 

「5回かな♠」

 

 実際の実力は試さないと分からないだろう、と考察の一貫だなんだと理由を付けているが、純粋な興味が大きいのは事実だ。

 それに期待するようにこちらを見てくるひー君を見て、ジールも久しぶりに笑った。

 

 

 

 

「埋め合わせはすると言っただろう。……外に出ろ。」

 

 親指で廃屋の外を示すと同時に、オーラを切り替えれば今までとは違った笑みを浮かべてひー君も着いてくる。

 

 

 

「最高だよ♣兄さん♥」

 

 

 

 

 




次回は戦闘からです。ジールの発も登場します。

いつも読んで下さりありがとうございます。
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