口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回は戦闘パートから始まります。

よろしくお願いします。


疲労した。

 

 賑やかな街から離れた場所には、開拓者が泊まっていた宿が多く残っている。しかし時間と共に使われなくなったそれらは、今では廃墟と化しめったに人が近づかない区域となっていた。

 

 コンクリートの壁が壊れ、道路に瓦礫が多く転がっている場所は車が通るにも向いていない。廃れたその場所を好んで使うものなど余程の物好きか、後暗い事のある者くらいであった。

 

 そして、そんな物好きが廃屋に居座り始めてから七日目の朝。道路の整地もそろそろ終わりがみえてきている。

 

 ここ数日はジールとヒソカが戦闘を行っていたせいで周りの瓦礫が砕かれ、周囲の建造物の破壊が進み道が大幅に広げられていたのだ。

 

 その道の近くには道路工事をした件の二人が廃屋に泊まっていた。

 まだ止められていなかった水道を使い、顔を洗ってきたジールとヒソカはそれぞれの朝食を食べ終え、そのまま慣れたように廃屋から出てくる。

 

「…………今日は今年の分だ。」

 

「わかってるよ♣︎これでラストなのは寂しいけど、一番楽しみにしてたんだ♥」

 

 誕生日一回につき、一日戦闘ができる方式のプレゼントはたまの休日を挟みながら一週間かけて行われてきた。

 

 やる日にちを決めるのはジール、当日の終了を宣言するのはヒソカとなっている。ルールは以前と同じ何でもありの組手に一つだけ条件を加えたものだ。

 

 “念能力の使用は練までとする。”

 

 これを言い出したのはジールだった。

 発を許可した場合組手なんて生易しいものでは無くなると、以前さっくんという知り合いと戦った時に身をもって経験したジールは何とか条件をごり押したのだ。

 しかし、ヒソカが我慢しきれるわけも無いので鬱憤の調整と実力の調査も兼ねて最終日のみの解禁となった。

 

 そして自ら本気の戦闘を許可したジールの心境が落ち着いているはずもなく、朝は歯磨き粉で顔を洗っていた。

 

(あばばばば、ぶっちゃけめっちゃテンション上がってるけど、ひー君にお兄ちゃんの発つまらないとか言われたら泣くからな。)

 

 よーし、お兄ちゃん取り扱い説明書を発行しよう。などとふざけながらジールは昨日も来ていた更地に立つ。

 そして10mほど離れたところにはヒソカがオーラを練りながら構えていた。

 

「…………いいぞ。」

 

 しかしどんなにふざけていてもジールは自分が負ける可能性を考えることは無い。

 そのまま冷静に相手を見ながら開始の合図を出した。ここからは、お互いが好きなタイミングで攻撃を仕掛けるのだ。

 

 数秒の間の後、ヒソカは地面を強く蹴り一直線にジールへ迫ってくる。昨日までは、そのままジールにいなされ遠くまで蹴り飛ばされていたが今日は違った。

 容赦なく叩き込まれたジールの靴をオーラで覆い衝撃を吸収しようとしたのだ。しかしオーラの移動がまだ甘いヒソカは踏ん張りが足りず後方へ飛んでいってしまう。

 

 まだまだかと、ジールがヒソカを見た時その口元は楽しそうに歪んでいた。

 蹴りを入れた自身の靴を見れば未だオーラが剥がれていないことに気づく。そうしてジールが視線をそらした瞬間、ヒソカはゴムのようにオーラを引っ張りジールの体勢を崩そうと仕掛けてきた。

 

 足元から勢いよく引っ張られる感覚に、ジールは逆らうこと無く重心をズラす。

 想定より軽い感触にヒソカが驚いている間に空中で体勢を整えたジールは、ガムの着いていない方の膝を顔面に叩き込むようにヒソカへ迫った。

 

 ゴムの勢いが加わり、風を切るように眼前へ現れる攻撃をヒソカはオーラを増やした左手で何とか受け止めた。破裂するような鈍い音を鳴らして止まった足にジールは残念そうにしながらヒソカを振り払い距離をとる。

 

 ヒソカの流は、ジールとの組手が始まってから凄まじい勢いで上達していた。二日目にわざわざジールがオーラの攻防力について教えたのもあるが、元々輝くセンスと最高の手本があったのだ、ヒソカが流をものにするのに時間はかからなかった。

 

「……………それが発か。」

 

 一息つくようにこぼされた言葉に、ヒソカはニコニコで答える。

 

「そう伸縮自在の愛(バンジーガム)っていうんだ♦」

 

 わざわざオーラを分かりやすく変化させて見せてくるのはただの親切心か、それとも――

 

(それとも、もう一つを隠したいからかな?まあとりあえずは生バンジーガムありがとうございまーす!!)

 

 表情は至って真剣だ。お兄ちゃんとして負けるわけにはいかないし、負けるつもりもなかった。

 

「兄さんのも気になるな♠」

 

 台詞とともに接近してきたヒソカは、そのまま鳩尾を狙って拳を振るう。それを弾いたジールは戯れのように繰り出される足や手を防ぎながらも挑発するように言葉を返した。

 

「…………引き出せたら見せてやる。」

 

 足払いを掛けながら下方から拳を振り上げたジールはアドレナリンが大量に出ているのか、いつもより口数も多い。

 

 ジールのパンチを避けるために後ろへ飛んだヒソカは体勢を整えトランプを取り出してパチンとウィンクを飛ばしてみせた。

 

「まかせて♣︎」

 

 相手の攻撃の中に切断が加わったジールは、一層気を使いながらヒソカの隙をついていく。

 トランプを持った腕が大ぶりで振られ、空いた胴体を狙えば手元から離れたカードがジールに向かって飛んでくる。避けられないことを察したジールは二の腕を犠牲にしながらも、そのままヒソカの服を掴みぶん投げた。

 

 外見上は淡々と突き刺さったトランプを引き抜いたジールがオーラで止血を済ませれば、崩れた瓦礫の中からヒソカが出てきた。

 

(いやー強くなっちゃって、これでもお兄ちゃんの威厳を守るのに必死なのよ…………いやまじで。)

 

「やっぱり、兄さんとヤるのは楽しいなぁ♥」

 

 その言葉にヒソカの方を見たジールはヒソカのオーラが嫌な方へ変わったことに気づいてしまった。

 しかし、ヒソカを相手にしてわかりやすい隙を見せるわけにはいかない。

 珍しく自分から仕掛けたジールは蹴りのフェイントを入れながら顔を近づけた、ひっかけに気づいたヒソカも攻撃以外が来たことに驚いたのだろう。ジールは固まったヒソカの頭を軽く叩いた。

 

「……引っ込めろ。」

 

 それだけ言うと、後ろへ距離を取るように飛んだジールが満足そうに頷いた。

 

 呆気にとられていたヒソカは、ひとつ深く頷いた兄をみて不思議そうにしながらも攻撃を再開する。

 

 それぞれの四肢がぶつかり合う音が響く、実力が拮抗している二人の組手はなかなか決着がつかなかった。

 

 ヒソカはその実戦経験の豊富さと戦闘センスによって技術を磨いてきたが、何より兄に勝るのは攻撃の組み立ての上手さである。フェイクを混ぜるのは勿論のこと対人戦に特化した肉体は攻撃のバリエーションを増やしていた。

 一方で、ジールは先に念能力に目覚めたアドバンテージがある。いくつかの項目は追いつかれてきているがオーラ操作に関してはこちらに一日の長がある。また、対人戦の経験はヒソカに負けるがハンターの仕事で体を扱うのには慣れているため、安定した戦いが出来ている。

 

 互いにボロボロになりながらも、勝負において遠慮をするタイプでは無い二人は昼食のことも忘れ組手に励んでいた。

 

 そして、攻防を繰り返しているうちに戦う場所は室内に移っていった。攻撃を避けたヒソカが大きめの窓から中に落ち、それをすかさず追ったジールが渾身の一撃を避けられたことで自身が誘い込まれたことに気づく。

 

「…………来い。」

 

「じゃあ♣︎遠慮なく♥」

 

 周囲を警戒しながらヒソカを睨んでいたジールは、四方の壁の半分が念によって作られたものだと気づいた。

 

(ドッキリテクスチャーか?)

 

 しかし、仕掛けに気づいたところでトラップは発動しており手遅れだった。

 壁を透過するように抜けてきたコンクリートの瓦礫が八方から飛んできている。どうやって飛ばしたのか、タネを知っているジールには想像できる範囲のものだが、知っていたとして避けられるかは別物だ。

 

 回避が間に合わないと判断したジールは、瞬時にオーラ量を増加させた。今までは戦闘に必要な分を最低限で効率よく回していたが、ここにきて別の姿を見せたのだ。

 それに気づいたヒソカは期待するように目を見開き一片たりとも見逃すまいとジールを凝視する。

 

 一瞬のうちに体を覆うオーラを分厚くさせたジールに向って複数の瓦礫が迫った。あわやその体が潰されるかと思ったところで、その瓦礫達は全て空中に停止したのだ。

 

 受け止め切れるはずもないそれらは、ジールにダメージを与えることなくその場に留まっていた。

 焦ることなくそれを確認したジールは、実体化させたオーラで瓦礫を全て打ち砕いた。バラバラになったそれは音を立てて地面へ落ちていく。

 

 トラップが完全に決まるとは思っていなかったが、こうも簡単に対処されるとも思っていなかった。

 しかし、ヒソカが一度仕掛けただけで満足するはずもない。

 

 落ち着き払ったジールを見据えながら、我慢しきれないといった風に2発目を発動させようとして――

 

 ―――不発に終わった。

 

 ジールとヒソカ、そしてトランプに仕掛けたそれはいくらやっても動かない。

 

「待って、ボクも動けないんだけど♠」

 

 トラップを切り捨て、肉弾戦に戻ろうとしたところでヒソカは自分が一歩も動けないどころか、指一本動かせないことに気がついた。

 

 その言葉を聞いたジールはイタズラを成功させたような愉快げな笑みを浮かべる、その表情はヒソカと兄弟と言われて納得出来てしまうくらいにはそっくりでだった。

 

好事家の写真(スケッチストッパー)は気に入ったか?」

 

 伸ばしたオーラでヒソカの肩を叩けば、勝負の決着を察したらしい。ヒソカは大層残念そうに、と言っても表情はあまり変わっていない状態で負けを宣言した。

 

 ジールが発を解けば、脱力するようにヒソカはしゃがみこむ。いわゆるヤンキー座りになったヒソカは腕の間に顔を埋めて拗ねているようだった。

 

「兄さんから一本も取れてないんだけど♠」

 

 くぐもったそれを聞いたジールは申し訳無さそうな表情をする……こともなく、内心でガッツポーズをかましていた。

 

(っいょしゃゃゃゃぁああ!!!勝てた!)

 

 ギリギリ年上としての体面を保っているジールは、座り込んだままのヒソカに近づき機嫌を直してもらおうとその腕を引っ張り上げた。

 

「…………。」

 

 気の利く言葉など思いつかないジールが黙り込んだままヒソカの顔を覗き込む。しかし、されるがままに立ち上がったヒソカは兄に体重を掛けながら視線を合わせるとニッコリ笑った。

 

「捕まえた♥」

 

「……、……終わったはずだが。」

 

 ジールが手元を見れば、二の腕を掴んでいる手の部分がオーラでガッツリ覆われている。

 

「組手は負けたけど、兄さんの発を聞くまでは離せないな♦」

 

 切り替えが早いのかすっかりご機嫌な様子のヒソカを見て、その意図を察したジールは面倒臭いことになったとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 ジール達は、寝泊まりしている廃屋に戻ってきていた。

 

 道中、相手の発は聞いては行けないものだと説得を試みたジールだったが、ヒソカは納得する素振りを見せなかったのだ。

 

『…………次の組手がつまらなくなるぞ。』

 

『なるの?兄さんが相手なのに?』

 

『……。』

 

 最終的にはヒソカに言い負かされる形で話し合いは終了した。ジールは自分がバレてもそこまで困らない能力だったこともあり諦めるのも早かった。

 結局、他の人には気安く尋ねないよう約束させ、ヒソカが自力で気づいたところまでを答え合わせする事になったのだ。

 

(つってもなぁ、答え合わせする程ネタも無いんだけど。)

 

 ジールは自身の周りを流れているオーラを見ながら、複雑な心境になっていた。

 

「ボクが見たのは飛んできた物を止めるところだね♥」

 

 言葉とともに投げられたトランプは、ジールのオーラに触れたところで止まる。殺傷力のあるものを投げられてギョッとしたジールだが、その意図を察して能力を発動させたのだ。

 

「あと、ボクも兄さんのそれで体の自由を奪われたよ♦」

 

(言い方……まぁ、間違っては無いけどさ。)

 

 お望み通りにヒソカの動きを止めてみせれば、待ってましたと言わんばかりの笑顔でヒソカがその腕に力を加えた。

 

「……無駄だ。」

 

「……やっぱり動きを止める能力なのかな?」

 

 そういってヒソカは自身の肩に付いているジールのオーラに視線を向ける。それを確認したジールは頷き言葉を付け足した。

 

「オーラに触れたものの位置座標を固定する。」

 

 そう、ジールの能力は至ってシンプルなものだった。あれこれと操作する対象をどうするのか悩んでいるうちにジールは閃いたのだ。

 

(ぶっちゃけ操作系の何が厄介かって、敵に操作されて自滅するより、体が動かなくなった時点で詰みなところだよな。)

 

 念能力者同士の戦いで体の自由が奪われることが致命傷になりかねないと考えたジールは、無理に操作するのを辞めて静止させることに注力した。

 元々複雑な構造をしている人間を自由に動かせる程のスペックをもっている操作系で、静止という条件だけに絞った能力は、絶大な効力を発揮した。

 

(手足がぐにゃぐにゃしている人間の操作が難しいことはPCゲームで知ってるんだ、それが出来る操作系先輩なら止めるなんて御茶の子さいさいだろ。)

 

 更に、静止させるのに使ったオーラの塊が時間経過と共に消滅していくように制約を付け、間違っても動かれないように保険をかける徹底ぶりだ。

 

「……止めるだけ?」

 

 能力が当たっていた事に喜びながらも、ヒソカは兄の発が想像を超えるような突飛なものでなかったことを意外に思った。

 

「……試せば分かる。」

 

 正直自分でも地味だと思っているが、兄としてもう少しかっこいいところは見せたかったジールは自身を蹴るように手で指示を出す。

 そしてそれを受けて立ち上がったヒソカは、躊躇うことなく側頭部に足を振った。ビュンと音を立てて蹴りかかってきた足だが、ジールのオーラに触れたところできっちり止まってしまう。

 

「基本、俺に攻撃は通らない。」

 

 言葉の通り、攻撃が当たった感触は全くない。

 

 そこでヒソカは自身の能力を思い出しぽつりと呟いた。

 

「ボクの発、相性最悪じゃないか♣︎」

 

 そう、ジールも発を作った時は意識していなかったが、後からヒソカの発が想定通りのものであれば自身の能力がかなり優位であることに気づいたのだ。

 基本ガムとゴムの性質で物を動かすヒソカにとってそれを止められるのは致命的である。それに、ジールに何かを仕掛けようとバンジーガムを付ければ、オーラに触れた判定となりヒソカ自身が動けなくなってしまう。

 

 その可能性まで気づいたのかは定かでは無いが、流石に意地悪過ぎたかと気まずそうにジールがヒソカを見上げれば、その表情は言葉とは裏腹にワクワクとしたものだった。

 

「いいね♦流石兄さんだ♥」

 

 これは次の組手の予定が早まったなとジールが悟ったところで、座り直したヒソカが訪ねてくる。

 

「それで、他に何を隠してるの♠」

 

 そぶりを見せたつもりは無いが、どうやら隠していることはバレているようだ。

 

(うーん、どれだろう?個人的な趣味で作っちゃった切り札のことか?それとも……更に地味だと言われかねない制約のことだろうか?)

 

「……当てたら答える。」

 

 内心冷や汗をかきながら誤魔化したジールは、これ以上喋らないという意志を込めてコーヒーに口を付ける。

 ヒソカもそこまでこだわっているわけではないようであっさりと引き下がり、ジールのオーラを突き始めた。どうやら自分の体が勝手に止まるのが面白いらしく、触って、静止して解除されるループを楽しんでいた。

 

 能力がオート稼働でないジールは、一々ヒソカの動きに付き合いながら追求されなかったことに内心ホッと息を吐く。

 

(いやぁ、問い詰められなくて助かった…。けどまぁ直ぐにバレそうな気もするけどね。だって能力を使ってる間は俺も移動出来ないなんて間抜け過ぎない?)

 

 取り決めた制約の二つ目には、発動中に一歩でも動くと能力が解除されるというものがあった。

 かなり重めの制約をつけようとして思い付いてしまったのだ。10tトラックでぶつかられても止められるように効果にバフをかけようとしたのもあるが、切り札で用意したものがトラブルによって法外なものになってしまったため釣り合いを取ろうとしたのがきっかけだった。

 

 結果、自分と相手が一歩も動かない間抜けな戦闘となったのだ。

 

(まあ、俺は歩け無いだけでオーラも腕も動かせるからあんまり困らないけど。)

 

 オーラ操作を頑張ってきたのがここで報われたと、閃いたときにははしゃぎまわったものだ。ジールは空になったマグカップを横に置いたところでそろそろ鬱陶しくなってきたヒソカの手を払い落とした。

 

「……やめろ。」

 

 手持ち無沙汰らしいヒソカは頬を膨らませて、代わりのものをよこせと目線で訴えてくる。

 

 室内にいるはずなのにばっちり見える空を見上げながら、ジールは鞄の中から適当に知恵の輪をヒソカへ渡した。

 

 ヒソカと再会し、埋め合わせも終わらせたジールはどうやら次の予定を考えているようだった。

 チラリとつまらなそうに知恵の輪をやっているヒソカを見ながら年末に控えたビックイベントの為に効率よく稼ぐ方法を検討していた。

 

(キャピキャピなひー君のままだったら、変態化しないように情操教育でもしようかと思ったけど……出来上がっちゃってるし。)

 

 ジールは基本的、事前に防ぐことを想定して小さい頃からヒソカに物事を教えていたが、どこかの針使いのように意志を歪めてまで関与するつもりは無かった。

 

(まあ、俺が会うイルイルは頑張ってお兄ちゃんやろうとしてるヤンデレ入りの張り切りボーイって感じだけど。)

 

 つまり、変わってしまったヒソカからわざわざ好きな物を取り上げたり矯正するつもりは無いのだ。

 もちろん、人様の迷惑になる事は注意するがそれ以外は放置するスタイルだった。と言うのもジールの根本的な性質が影響している。

 

(俺も本を取り上げられたら全力で駄々を捏ねる自信しかないし、なんならグレるからな。)

 

 ということで、ジールとしてはクレームさえ入らなければ自由にやってもらおうという方針に落ち着いた。

 

「……よし、買い物に行こう。」

 

 そして色々考えた末、稼ぎに行くためにもヒソカの身の回りを整えようと決心したジールは買い出しに行くことにした。

 太陽の位置からまだ時間が残っていると確認したジールはヒソカに声をかけ、荷物をまとめ始める。

 

 誘われたと判断したヒソカは、更に絡まった知恵の輪を持ち主に投げ返しさっさと自分の鞄を取りに行く。

 

「何を買いに行くの?」

 

「……ひー君の携帯。」

 

「丈夫なやつがいいな♦」

 

 近くのバス停に向かう中で、交わされた会話にジールは首を傾げながらヒソカを見る。

 その顔は声のトーンに似合わず真剣なものだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

 ジールの趣味と実益を兼ねた選択により、携帯を購入する場所はヨークシンシティーにあるケータイショップとなった。

 

 何本かの電車を乗り継ぎ南下してきた大陸の中心には、ガラスを多用した現代的な建築が多く並んでおり人々もスーツを着た人や、洋装といった服の人が多く歩いている。

 

 普段、麻袋で生活しているジールにとって素顔で外に出るのはヒソカに出会ってからの出来事だった。

 今まで直射日光を遮られて生きてきた身には、直に当たる光が強く不機嫌そうな表情になってしまうのは仕方のないことだと言えよう。

 列車から降りたジールは最近買ったサングラスをかけながら、フラフラと歩いていこうとするヒソカを引き止めた。

 

「……先に用件を済ませる。」

 

 ヒソカが釣られていたのは、マフィアの用心棒を募集している貼り紙だった。こんなところに貼られているチラシを胡散臭く思いつつも、ジールは慣れたようにヒソカを捕獲する。

 

 移動中、何度も居なくなるヒソカを捕まえていくうちに、念能力を使った方が早い事に気づいたジールもお気に入りの能力をこんな使い方をする日が来るとはと若干嘆いていたが、その気持ちも薄れてきていた。

 

 素直に付いてきたヒソカを見下ろしたジールは何度か言葉を選び直し声をかける。

 

「……本当に行きたいなら、後で送ろう。」

 

「兄さんが引き止めてくれたんだからそっちに行くよ♦」

 

 これも移動中に繰り返されたやり取りであった。毎回、最終的には着いてくるヒソカを見てジールは遊ばれているのではないかと疑っているが、笑っているヒソカの表情からは読み取れない。

 

 そうこうしているうちにケータイショップへ到着した二人は、店内で適当に商品を物色していた。

 ちなみに、ジールはケータイショップに来る度にカブトムシ型の携帯が発売されていないかをチェックしているが、未だ出会えたことは無い。

 

 どれも大差ないように感じるらしいヒソカは、ジールを呼びつけ選ぶのを丸投げすると、ヒソカに合いそうな携帯を探すジールの後を付け始めた。

 

(とりあえず、GPSと電波がなるべく届くやつ……あと、スマートなデザインの方が似合うかな。)

 

 真剣に選ぶジールと後ろで冷やかしていたヒソカは、会計を済ませ店を出る。

 

「……壊すなよ。」

 

「ありがとう、大切にするよ♥」

 

 お金もジール持ちだったため、実質プレゼントだろうと喜んだヒソカはその笑顔のままジールの次の言葉を待った。

 

「次はどうするの?」

 

「………………解散。」

 

「えっ♠ここでさよならなの?」

 

 サングラスの奥を覗き込んでも、嘘を付いているようには見えなかった。

 

「また兄さんに会えなくなるじゃないか♦」

 

「そのために携帯を買った。」

 

 焦って言葉を重ねても、ジールに意志を変えるようは見えない。どうしたらいいのかと悩んだ末に出てきた言葉はいつもよりか細いものだった。

 

「着いていっちゃだめなの?」

 

 それを聞いたジールは、僅かに驚いたように目を見開く。

 

「………………それは構わないが、楽しいのか?」

 

 どうやらジールは自身の予定に付き合わせるのを悪いと思っていたようだった。移動中のことを省みて、何かあれば助けに行くつもりでヒソカの好きにさせてやろうとしたらしい。

 

「兄さんがいれば大抵のことは楽しいよ♥」

 

「なら良い。」

 

 内心、弟が懐いてくれていることを嬉しく思いながら、ジールは宿をとるために歩き出した。

 一緒にいて良いと言われたヒソカもその横をご機嫌で着いていく。

 

「この後は何するの?」

 

 ジールが携帯を選ぶ以外にヨークシンを選んだ理由があると察しているヒソカはこれで終わらないだろうと、期待しながらその横顔を見る。

 

 八月の中旬、夏真っ盛りの季節でもその顔には汗ひとつ流れていない。ジールは途中で貰った一枚のチラシをヒソカに見せた。

 

「……オークションで荒稼ぎ。」

 

「へぇ♦どれくらい?」

 

「58億ジェニー。」

 

 手のひらでお金のジェスチャーをしたジールは楽しそうに笑った。

 

 




次回は、ジールのはっちゃけ回です。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
感想、評価等励みになります。

【念能力】
能力名:好事家の写真(スケッチストッパー)

能力:自身のオーラに触れているモノを全て止める。
※1まだ、オーラをつけたものを個別に静止させることは出来ない。
※2静止させる為に、その物体にかかる全ての力はキャンセルされる。

制約その1:静止させるのに使ったオーラは時間経過で消費されていく。
制約その2:能力の発動中、発動者が一歩でも動くと硬直は解除される。
制約その3:自身の肉体に使用することは出来ない。

その他:能力者の個人的な趣味により第二段階が存在する。

ちなみに、能力名のスケッチは絵を描く方ではなく、怪しいなどの意味で使われています。

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