口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回はジールが頑張ってコミュニケーションを取ります(当社比)。
しばらくオークション編(?)が続きます。

よろしくお願いします。


拝聴した。

(やべぇ……金が吸い取られる。)

 

 木漏れ日が落ちるベンチで、天を仰ぐように仰け反っているジールは己の財布の紐が緩いことを身をもって感じていた。

 その足元には、様々な形の箱が積まれておりこの数日でいかにお金が飛んでいったのかを物語っている。

 

(調子に乗りました。マジ土下座。)

 

 そもそも、ジールがヨークシンに留まっているのはある物を買う為のお金を効率よく稼ごうとしたからだ。

 元々、協会からの仕事をこなし天空闘技場でちょっと小金持ちになり、掲示板等のサイト運営をしているジールはそれなりの額を持っていた。

 

 ちなみに、おたずねサイトやよっちゃん等々のサイトはジールがヒソカを探すのに立ち上げたものだ。手当り次第に作ったため、大半はおじゃんになっているが残ったものは大陸中に広まる程の知名度を誇っている。

 

 むしろ、そこまで広まったサイトでも中々見つからなかったのはジールの運が無かったとしか言いようがない。

 

 こうして安定した収入のあるジールは、そこまで切羽詰まった状況でもなく期限より早めの資金調達をしようという気持ちだったのだ。

 

 しかし結果はご覧の通り、観光客やたまに覗きにくるプロに向けて開かれていた市場に顔を出し、そこで木造蔵を見つけた辺りで予定が狂っていった。

 

 原作でも取り上げられていた骨董品が並んでいたら見に行くのが礼儀だ、というのがジールの言い分らしい。

 

(ちなみに、今の流行はヒラキでしたー。まあ業者市の方で怪しまれて流れてきたっぽいけど。)

 

 木造蔵が開かれ、隣に宝石が並んでいる所を見つけたジールは多分偽物なのだろうと辺りをつけつつも記念に購入した。それに加え、僅かに流行りだしているヨコヌキの像も「これがあの!」と言ったテンションで落札したのだ。

 本人的には満足しているが、どこらからどう見ても無駄遣いである。

 

(仕方ないじゃん、買えるのって流行ってる間だけなんだよ?)

 

 期間限定に弱いジールは自分で首を締めている。

 

 残りの予算は38億9000万ジェニー。といってもこれ以上貯金を切り崩すと本当にゲームが買えなくなってしまうジールは、ポケットに入った5680ジェニーで生活しなければならない。

 

 遊び倒すのもこれまでだな、と初日に申し込んでいた書類の控えに目を通しながらジールは購入品を鞄に詰め込んでいた。

 

 

 

 

「兄さん、言われたもの買ってきたよ♦」

 

 明日からの予定を再確認したところで、広場のちょうど真反対側にヒソカが現れた。その手には、今朝ジールがお願いした物が握られている。

 

 ゆっくりと手に入れたそれを見せるように歩いてきたヒソカは、そのままベンチの空いているスペースに座る。

 

「はい、どーぞ♠」

 

「ありがとう。」

 

 ジールが受け取ったのは“カタログ”と書かれた一冊の冊子だ。

 ずっしりとくる手の平の重みに、ジールは内心ニヤケながらその表紙をゆっくりと撫でる。

 サザンピースオークションに参加する為に必要なものだが、ジールにとってはこれもただのコレクションにしかならない。

 

「本当によかったのかい?兄さんあんなに行きたがってたのに♦」

 

 というのも、ジールにはラケルススのおっさんと交わした約束があった。その為、万が一の事を考えて今まで協会の仕事の時もお金持ちの護衛などは受けないでいたのだ。

 

「……今回はいい。」

 

 老舗のオークションハウスなど、どこにラケルスス家の知り合いが居るか分からない場所にジール自らが行く訳にも行かなかった。

 

(あとちょっとで揃うからな!それまでの我慢だ……マジ覚えてろよおっさん。)

 

 そうしておっさんの小指に呪いをかけながら、簡単に諦められないジールはヒソカにお小遣いを渡してカタログを購入したのだ。

 

 ジールがカタログをひとしきり愛でた後に鞄へ仕舞えば、ヒソカはベンチから立ち上がった。

 その手には小さなカードが取り出されている。

 

「……拾い物か。」

 

 チラリと地図が書かれたそれを見たジールはこの後のことを思い息を吐く。

 

「そっ、親切な人がくれたんだ♥」

 

 考えうるに地下の闘技場といった所か、と見せられたカードの場所を確認して頭に叩き込んでおく(覚えられるかは別だが)。

 そして珍しく報連相をしてきたヒソカはまた暫く遊びに出るらしい。

 

「何かあれば連絡しろ。」

 

 多分無いだろうと思いながら、ジールは携帯の電源を入れた。

 明日からはジールも忙しくなる。とりあえず昼食でも食べに行こうと二人は揃って広場から立ち去った。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

『へい!らっしゃい。』

 

 ドリームオークションが近くなり、日に日に人が増えていくヨークシンの一角でジールは店を開いていた。

 隣の店主が景気よく客を呼ぶ声を聞きながら、日差し避けの下に座り込み店番をしているのだ。

 

 ぶっちゃけて言えばこちらもジールの趣味である。本命は見事出品できたサザンピースの商品であるためこちらは気楽にやれば良かった……筈だった。

 

 ジールがハンターの仕事で見つけた骨董品やら、珍獣の一部やらを出品し、全部で三品の最低落札価格は16億。ジールが市場でアホ見たいに浪費しなければ十分足りたのだ。

 

 どれくらい競り上がるかが分からない今、ジールは趣味で申し込んでいた市場で稼がなければならなかった。しかし入手難易度が高い品は全てサザンピースの方に出してしまったため、GやH(一般的にはそれでも珍品)の物を軒先に並べている。 

 

 さて、ここでジールの性格を考えてみるが、どう繕っても商売に向いているものとは言えない。

 

 歳の割に身長はあるし、身体を鍛えておりガタイも良いため子供だと侮られることは無いが、逆に言えば少々威圧感がある。

 

 持っている服の関係上、全身が黒くサングラスを掛けている寡黙な男(客観的視点)には中々近づこうとは思わないだろう。

 

 ゴザの上にはナツメトカゲの舌に、毛玉の抜け毛、ホゲットカラスの袋やヒトニイチゴの果実酒など生き物の一部から、カーメン遺跡から出てきた小刀と同じ型の装飾品や、貴金属などの骨董品まで多岐に渡る商品が並んでいる。しかしそれを買っていったのは未だ数人だけであった。

 

(店番って、何すればいいんだろ……。)

 

 本人は呑気に読書をしながら客を待っているが、愛想笑いの一つでも見せなければ客が来るなど夢のまた夢だ。

 

 伝手がある訳でも無いジールは、割り振られた出店の場所も中心から離れたところである為、客は一層やってこなかった。

 

 市を楽しむ観光客が通り、オークションで使う品が厳重に運ばれていく様子など暑さも気にならない盛り上がりぶりを見せる街並みは、ジールの店との対比の色をより濃くしていく。

 

 しかしそんなことを気にしない男は、麻袋が無いとご飯も食べやすいなどと考えながら、サンドイッチで昼食を済ませていた。そして最後の一口を食べ終わった所で自身の携帯が鳴ったことに気づいたようだった。

 

 一瞬、ヒソカに何かあったのかとも思ったが直ぐに切れたそれがメールだと分かると落ち着いてポケットの中から携帯を取り出す。

 

(ひー君メール使わないしな。)

 

 差出人の部分を見ればそこにはイルイルと表示されていた。そう言えば最近会ってなかったとおもいながらジールがメールを開けば簡潔な文章が出てくる。

 

『今度、会議開きたいんだけど。どこにいるの?』

 

(あちらからお誘いとは珍しい。……確か生後4ヶ月くらいだったか?それならよく喋るようになったくらいだな。)

 

 前回のお兄ちゃん会議の時はやばかったな、と遠い目をしながらジールはヨークシンとだけ打ってメールを返信した。

 

 ラケルスス家で会った後も、こうして会っていたジールとイルミは互いに長男という事で弟の話などをする通称“お兄ちゃん会議”を開いているのだ。

 

 そうこうしているとまた一人、軒先に並ぶ商品に興味を持ち店の前までやってきていた。

 宝石の着いたネックレスを熱心に見ていた男だったが、店主に質問をしようと顔を上げたところでそのまま愛想笑いをしながら立ち去ってしまう。

 

 ジールがどのタイミングで“いらっしゃいませ”と声をかけたら良いのか悩んでいるうちの出来事だった。

 

 それを繰り返すこと数回、そろそろ早めの店仕舞いをしようかとジールが腰を上げた時の事だ。

 「あっ。」という声とともに夕日の中に影が刺した。

 

 店の前に立ち止まったらしいその人物は、どうやらジールの店に用があるらしい、そのまま数歩近づいてくる影を見てジールは今度こそ言おうと声を出した。

 

「……いらっしゃいませ。」

 

「ははっ、久しぶりの挨拶がそれかい?それとも何か買えって意味かな?」

 

 達成感に浸っていたジールは、どこか聞き覚えのある声に固まりそっと視線を持ち上げた。

 

 するとそこにいたのは、夕日で逆光になっているシャルナークが立っていたのだ。

 

(何故ここに?)

「……なぜ?」

 

「えっ、もしかして気づかないまま声掛けて来たの?」

 

 冗談だろう。と笑いながら、商品を眺めているシャルナークはジールの質問に答えてくれるようだった。

 

「さっきまでオークションを見てて……あっ、これいいよね。」

 

 穴の少ない商品列から薬の小瓶を取ろうとしたシャルナークの腕を遮りながらジールは思わぬ出会いに混乱していた。

 

(確かにお久しぶりだけど、シャンシャンと声を掛けられるほど親しくなった覚えは無いんだが?いや、嬉しいけど俺のオタク心が高血圧で死んじゃうから予告してくれない?)

 

「えー、手に取って見るくらいいいじゃないか。」

 

「……自分の職業言ってみろ。」

 

 特に気分を害した様子を見せないシャルナークに安心しながらも、お金は稼がなければいけないジールは鋼の意思で窃盗は見逃さなかった。

 

「分かったよ、お金は出すから割引きしてくれない?」

 

 正直、オタクの感覚で貢いでしまいたい気分だったがそういう訳にもいかない。ジールはシャルナークの腕を離すと、自白剤の入ったさっきの小瓶と果実酒を並べて値札を指さす。

 

「未成年にお酒勧めて良いの?」

 

 サービスするから規定の金額を払えという意思は伝わったらしい。財布の中から札束を出しながら笑うシャルナークはそう言いながらもちゃっかり果実酒を鞄の中に仕舞っていた。

 

「……ノンアルコールだ。」

 

 こいつがそんな事気にするのかと失礼なことを考えながら言い訳をしたジールは手早く札束の枚数を確認する為に手を動かしている。

 

「ははっ、いいねそれ。」

 

 ピンッと最後まで数え終えたジールが、袋の中に札束を突っ込んだ。それを見ながら先の発言に抱腹していたシャルナークは店先に戻ってきたジールを見て涙を拭った。

 

「そうそう、昨日から警備員の人数が増えてたからキミも気をつけなよ。」

 

「…………?」

 

 それじゃあ!と手を上げて立ち去ったシャルナークの残した言葉にジールは首を傾げる。

 

(物騒だからってこと?……それとも捕まるなよって意味か!?俺は捕まるようなことしてないからな!!)

 

「…………どっちだ。」

 

 気になるが、当の本人は既に人混みに紛れて見えない。ほんの一瞬やってきただけで、ジールの心をかき混ぜていった男は周りに馴染むのも上手いらしい。

 仕方ないと気持ちを切り替え、片付けを再開したジールは商品を適当に詰め込み宿に戻っていった。

 

 

 

 帰る途中、落札した商品が無くなっていると騒いでるおっさんを見かけたジールが心の中で手を合わせたのは気まずさからなのか、真相は本人のみぞ知る。

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 そして数日後、ジールは街の中を歩きながら自身の出店に向かっていた。

 

 道中、辺りを見渡して確かに警備員が増えた気もすると頷きながら買い食いをしていたジールは一層の気合いを入れて開店準備をしている。

 

 数日の付き合いで、初めはビビっていた周りの店主も悪い奴では無さそうだと認識してきた頃だが、ジールの商品が売れたかというと話は別だ。

 

(今日は5人くらい来てくれたらいいんだけど。)

 

 ジールの店に立ち寄っていくのは、肝の座っている商人が大半だった。しかしそういった人物が毎度訪れてくれるわけもなく、閑古鳥が鳴きそうな店であることに変わりはない。

 流石にどうにかしないとヤバいと焦りが芽生えてきたジールは色々と対策を考えているようだ。

 

(やっぱり愛想とか大事なのかな?……笑顔?)

 

 商品を並べ終えたジールは定位置に座り、人通りを眺めながら頬を揉んでいた。

 ひとつ言えるのは頬を引っ張ったとしても笑顔になる訳ではないという事だが、この男に笑顔とはどういうものか教えてくれる者はいなかった。

 

 そしてマッサージに満足すると、対人能力が低スペックのロボットばりであるジールは相も変わらず無表情で本を読むことにしたようだった。

 

 

 

 

「……すみません。」

 

 昼も過ぎ、今日も駄目かとジールが読み終わった本を横に積んだ時のことだ。

 周りの喧騒に掻き消されそうなか細い声で話しかけてきたのはひょろりとした男だった。

 

「……いらっしゃいませ。」

 

「あの、これを買いたいんですけど。」

 

 驚きすぎて、勢いよく頭を上げたジールにも引かず商品を見せてきた黒髪の男性は、手に持ったナツメトカゲの舌をずいっとこちらに出してくる。

 

「1500万ジェニーです。」

 

 全力でキョドりながらお金を受け取ったジールは、足早に去っていく男を見送った。

 そして男の影も見えなくなった所で、ジールは密かに小躍りをし笑顔が大事なんだと再び頬を揉み始める。

 

 明らかに笑顔の効果では無かったが、やはりそれを指摘してくれる人物はここに「何やってんの?」いたようだ。

 

 頬を上に持ち上げながら店先を見れば、そこには携帯を片手にこちらを見下ろすイルミが立っていた。

 

「…………早かったな。」

 

 流石にブサイクな顔になっている自覚はあったらしい。手を離したジールは何事も無かったかのようにイルミへ話しかけた。

 

「まあね、それよりヨークシンなんて広い範囲で返事するの辞めてくれない?」

 

 手に持った携帯を振りながら、気にせず店主側に入ってきたイルミは空箱に座った。

 

「…………店番中なんだが。」

 

 まだ髪が伸びていないイルミだが、不気味な目をしている事に変わりはない。おっかなそうなサングラスの男に加え、更に話しかけにくくなった店に客が来るのかは言わなくても分かるだろう。

 

「いちゃダメなの?せっかく来たのに。」

 

 ジールの言葉に少しぶすくれたような反応を見せたイルミは暫く黙り込んだかと思えば、くるりと勢いよくジールの方に向いた。

 

「じゃあ、これ全部売れたら終わりになるよね。」

 

 何事かと固まったジールは、まだそれなりに残っている商品を指さしながらサラリと言われた言葉に目を見開く。

 

「いくら?」

 

 何も言わないジールを見て了承と受け取ったのか、イルミは携帯を取り出し何処かのサイトに繋げているようだった。

 

「……待て。」

 

(ちょっと待って?いくらってどういう事?えっ、イルイルこれ全部買うつもりなの?待って?)

 

 イルミの眼力に固まっている場合じゃないと、我に戻ったジールは慌てて携帯を仕舞うように言う。

 確かにお金を稼がなければいけないが、知り合いから毟りとるつもりは無いし、市場に店を出すというジールの目的にも合っていない。なにより――

 

「……夜になれば店は閉める。」

 

 イルミがわざわざ買う必要は無いと、ジールは精一杯引き留めようとする。その必死さが伝わったのか、イルミは持っていた携帯を仕舞いながら肩を竦めた。

 

「別に買ってもいいんだけど。」

 

 ボソリと呟かれたそれ以降、イルミはこの場所で終わるのを待つつもりらしく、膝で顎を支えながら目の前の通りを眺めているだけだった。

 

 

 

 特に会話をすることも無く、並んで座っていた二人だが三時間を過ぎたあたりでイルミが口を開いた。どうやらもの申したいことがあるらしい。

 

「……ねぇ、誰も来ないんだけど。」

 

 ジールの心の柔らかい所に刺さる。

 頭の中で、胸を撃たれて倒れる自分をイメージしながらジールは言い訳をしていた。

 

(いや、イルイルが来るまでは2時間に一回は人が来てたよ!……買う買わないは別にして、立ち寄ってくれた人はいたから!!)

 

「……そうだな。」

 

 いつも以上に言葉につまりながらも、何とか返事をするとジールは隣にいるイルミを横目で確認した。

 案の定、携帯を構えたイルミがこちらをじっと見ている。ジェスチャーでそれを仕舞うように言えば渋々諦めてくれたが、不満は溜まっているらしい。

 

「早く喋りたいんだけど。」

 

 ジールが時間を確認すれば、いつもより1時間半は早い時刻だったが言われた通りこれ以上居ても売れないだろうと判断したジールは閉店の準備を始めた。

 

 その横で、作業の様子をじっと見ているイルミに手伝う気配は無い。20分程で荷物をまとめ終わったジールはイルミに声をかけ、宿まで戻ることにした。

 

 そしてその帰りの道中、ヒソカは戻ってきているかと考えた所でジールはイルミに伝えてなかったことを思い出した。

 

「……弟が見つかった。」

 

 日が傾こうと、騒がしさが無くなることのない道端で話すにしては小さい声だったがイルミの耳には届いたようだ。

 

「へぇー、ひー君だっけ?よかったじゃん。」

 

 言葉だけを見れば少し素っ気ない風に感じるが、お兄ちゃん会議の議員として弟が無事であることは祝福すべきだとイルミは思っている。

 

「で?どうだったのさ。」

 

 ホテルが建ち並ぶ区画を通り抜けながらイルミがジールのことを見上げれば、そこには複雑そうな表情をしたジールがいた。

 

「……可愛くはあった。」

 

「それ本当?」

 

 絞り出したような声と、ミスマッチな感想にイルミは言葉の通りには受け取らなかった。

 

 心做しか、歩調が早くなっているジールに付いて行きながら問い詰めれば、誤魔化せるとは思っていなかったらしい彼がぽつぽつと単語を零し始める。

 

「……大きくなって、色んなこと学んでて、ちょっと大人の階段登ってる……強くもなってた。」

 

 ジールが必死にオブラートに包もうとした結果、かなりぼやけた言い方になってしまった。慣れないことはしない方がいい。

 

「自分の知らないところで成長してて複雑ってこと?」

 

「まぁ、そう言えなくも無い。」

 

 かなり現実のヒソカとかけ離れた所に着地した気もするが、宿に到着し話が途切れてしまったためジールの話術でそれを訂正することは不可能である。

 

 

 そして、周りに人がいなくなった所で始まるのはイルミリサイタル(ジール命名)だ。

 ジールが荷物を置きに行った所で、待ちきれなかったらしいイルミがベッドルームに顔を出してきた。

 

「そこでいい?」

 

 いつもと変わらない黒目であるはずが、少しキラキラして見えるのは幻覚だろうか。などと考えながらベッドにジールが腰掛ければ、勧められた備え付けの椅子にイルミが座り、何やらアルバムを取り出した。

 

「前回は生後一ヶ月の所までだったよね。今日は、初めて目があった時と可愛いゲップの瞬間で……」

 

 明らかに増えている写真を見せられながら、ジールは聞き役に徹している。

 

(これ、俺がミルキやキルア君の幼少期エピソードを苦に思ってないから良いけど、一晩中喋り続けるのは止めた方が良いのだろうか。)

 

 前回から更に悪化した弟自慢の話を聞いて、また手加減する様にアドバイスしなきゃと謎の使命感に燃えているジールは次々と見せられる可愛らしい写真に頷きを返す。

 

「――でこれが、初めてキルを抱っこした時に撮ってもらったやつで、この時の……あっ、そうだキルが喋り始めたから録音してきたんだよね。後で聞かせるから。」

 

 新しい布教グッズに遠い目をしたジールだが、ちょっとのことでイルミの喋りが止まることはないと知っているため話を遮ることは無かった。

 

 時計の針が頂点を過ぎようと気にせず話し続けるイルミをみて、流石操作系……マイペースだな、とジールは自分の系統を忘れたかのような感想を零した。




次回は、ジールが走ります。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
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