口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回は、ヒソカの戦闘からです。

よろしくお願いします。


連行した。

 屋上へやってきたヒソカは目的の人物を直ぐに見つけることが出来た。

 緑の髪色をした人物は双眼鏡を覗いた姿のまま固まっている。こちらに気づいていないわけでは無いだろうに動かないのは何故かと覗き込もうとしたところで、ヒソカ は兄の能力を思い出した。

 

 そうだった、と頷きながら冷かしてやろうかと改めて顔を覗き込んだヒソカは一瞬で距離をとるために後ろへ飛ぶことになる。

 

 兄のオーラが消えた瞬間に、目の前の人物が風を切るように拳を振りヒソカの顔面を狙ってきたのだ。

 わざとなのか、いやらしいタイミングで解除された能力にヒソカは唇を湿らせながら視線は外すことなく前へ向けられていた。

 双眼鏡を仕舞いながら空ぶった拳を慣らしている相手は街中に馴染みそうな格好をしている。

 

 しかし、目の下の濃いクマと両頬の縫い傷は服装と反するように目立っていた。キヒッと零された声に、相手の様子を観察すれば間髪入れずに接近されていることに気づくだろう。

 

 ヒソカが反射で取り出したトランプを使い何かを受け止めれば、ジュッと物が焼ける音がした。

 それに意識をとられてトランプを見ている間に、相手は再び距離を取るように元の位置へ戻っている。

 

(あっ、ツバメ。……僅かにオーラを感じるし目印かな♣︎)

 

 先程接触したのは金属で作られた印章らしい。

 手のひらで弄びながらこちらへ見せつけてくるのは挑発なのか、赤い取手を逆手で掴み再び接近してきた相手に新しいトランプで対抗しながら空いた脇腹に一発入れようとヒソカは拳を振った。

 

 ジュッ。

 

 音を立てたのはトランプでは無い、一瞬の熱さに腕を引いたヒソカは確認するように手の甲を見る。

 そこには、一つ目のツバメを鏡写しにした印がついていた。直径は2cm程の小さい焼印だが、ヒリヒリとした痒みを感じる。

 

 感心したようにその印を眺めていたヒソカだが、距離を取った相手が独特な声を上げたところで、その意識は相手に向けられる。

 

「キヒッ、キヒャヒャヒャヒャ。」

「変な笑い方だね♦」

 

 街中でやれば通報一択の笑い声も、ヒソカを動揺させる物にはならない。至極平静な反応を返しながら相手の手元を観察すれば、さっきまでなかった青い印章を持っていることに気づく。

 

 変なテンションではあるが、戦闘に関しての経験は多いらしい。相手に有利な流れになっていることはヒソカも気がついていた。

 

handclap!(出会う!)

 

 相手が叫んだ瞬間、地面に捨てたはずのトランプがヒソカの手に刺さっていた。

 

 ポタポタと落ちていく血を眺めながら相手の能力について思考を巡らせているヒソカは兄の当たりという言葉を思い出しながら口角を釣り上げた。

 

(これは……具現化系か、操作系かな♣︎)

 

 オーラでガードしていなければ今頃手首から先は無くなっていただろう。未だにめり込み続けているトランプを抜き取ったヒソカは付着した血を払い落とし指の間に挟み込む。

 

「熱い贈り物をどうもありがとう♦」

「喜んでくれて嬉しいぞ。」

 

 キヒッと不気味な声を漏らしながら会話に応じた相手は両の手に持った印章を回しながら柵の方へと歩いていく。

 ヒソカは変化させたオーラを隠しながら、次はどんなことが起こるのかと観察していた。

 そして隙も見せずに柵まで辿り着いた相手はそのまま赤い印章を柵に押した。先程よりも低い音が鳴り、柵の一部からは煙が上がっている。

 

「黒い奴の仲間かは知らないが、生憎と遊んでいる暇は無いんだ。」

 

 handclap!(出会う!)と呟いた相手は、その場から逃げるためか、柵を飛び越え建物の縁へ降り立った。

 一方のヒソカは手の甲が先程と同じように光ったのを目視すると同時に、その腕ごと柵の方へ引っ張られていった。

 鈍い音を立てて手の甲が柵の印に激突し、赤と青の印が重なると腕はピクリとも動かなくなってしまう。

 

(なるほど二つの印でワンセット♥引き付け合う基準は新しく押されるごとに更新されるのかな♠)

 

 ヒソカが柵に固定されたのを確認した相手は、言葉を残しその場から飛び降りようとした。

 

wave hands(仲良し)

 

 キーワードになっているのだろう、痒い程度の火傷とは違い溶けてしまいそうな熱を持った印がヒソカの身体を蝕んだ。

 地上からはなにやら爆発音のような物も聞こえてきたが、ヒソカの意識はガムを付けた相手に向かっている。

 

 飛び降りようとした身体はヒソカのバンジーガムに引っ張られ、建物の壁にぶつかりながら引き上げられたのだ。

 

 一本釣りのように持ち上げた相手を屋上の床へ乱雑に落としたヒソカは、印のついた手の甲を皮ごと切り離す。

 それなりのダメージを受けている相手を見ながらヒソカは分かりやすく足音を立てた。その手はオーラで包まれているが、肉の間から白いものが見え隠れしている。

 

「…キ、ヒッ。」

 

 近づいてくるヒソカに対して、なんとか起き上がった相手は強く打ち付けた片腕を庇いながら対峙する。

 

「ねぇ♦キミの発はそれで全部かい?」

 

 先程よりも格段に減ったオーラの量に目を細めながら、ヒソカは相手の間合いまで躊躇うことなく入っていった。

 焦燥に身を焼かれた相手が、本能のままに攻撃をしようとヒソカには軽く防がれてしまう。

 

 折れた骨を気にしなくなるまで殴り合い、やっとの思いで印を付けた相手は勢いのまま地面に印章を押し付けた。

 ヒソカの肩に着いた印はその皮膚の上に黒々としたツバメを乗せている。

 消費オーラを気にする余裕も無く、handclap!(出会う)と叫ぶ相手だが、その地面に引き寄せられたのはただのハンケチだった。

 

「はっ、」

 

 何かがズレた。そう察した相手が顔を上げるのと、ヒソカの蹴りが顔面に入るのは同時であった。

 印章を押すためにしゃがみこんでいた相手は勢いのまま吹っ飛び、柵にぶつかって停止する。

 

「なら、もういいかな♣︎」

 

 ドッキリテクスチャーで偽装した部分へ拳を誘導し、見事に印を克服したヒソカはトランプを混ぜながらゆっくりと近づいていく。

 まあまあ楽しめたが、代わり映えのしない戦闘は退屈なだけである。念能力もタネが分かってしまえば、攻略するのは簡単だ。

 

 そして、そのままトランプを投げようとしたヒソカは数刻前のジールの言葉を思い出した。

 地下闘技場と違いこの場で首を切れば、確実に兄がジト目で睨んでくるだろう。

 放つ直前に思いとどまったヒソカの指先はトランプの軌道を僅かに逸らした。切れ味抜群なトランプは首の横を掠めながら、無事に背後の柵へと突き刺さる。

 

 最後の殺気に当てられたのか、気絶した相手を担いだヒソカは溶けかけた柵に足をかけた。

 そして勢い良く飛べば、着地するのは屋敷の雑木林だ。木と荷物()をクッションに降り立ったヒソカは、裏庭で待っている兄の元へ駆けていく。

 

 戦闘を譲って貰った礼を伝える為に、あわよくば言いつけを守ったご褒美を頂戴出来ないか強請るために。

 ジールの所へ一直線に向かっていくヒソカにとっては視界に入る崩壊した屋敷など背景に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 屋上に赤い頭が登ったのを確認して能力を解除したジールは、簀巻きにした人物の事を観察する。

 脱げたフードの下からはひとつに結ばれた紫色の髪が出てきた。大きめなパーカーのせいで性別は分からないが、身長から見て大人だろう。

 

(……暇だな。)

 

 ヒソカを見送り自身が見張っておく人物も気絶している。何か忘れている気もするが、やることが無くなったジールは先程投げたナイフの回収に向かった。

 

 草をかき分けながら地道にナイフを探すジールは裏方作業をしている気分である。

 

 何本投げたのかを思い出しながら、刃こぼれの有無を確認し鞄に仕舞っていく。

 侵入者が起きた後をどうするか考えているジールは、やはり何かを忘れている気がした。

 

 そしてきっかり九本のナイフを回収し、簀巻きの所へ戻ろうとした所でジールの携帯からアラームがなった。 

 一瞬何のアラームかを考えたジールは予告状のことを思い出し、全力で簀巻きに駆け寄る。

 

 バンッ!!!!

 

 屋敷の方から鈍い音がしたかと思えば、爆風に乗って崩れた壁が裏庭全体に飛んで来きている。

 気絶し、オーラの維持もままならない人物の襟首を掴んだジールは間一髪で雑木林に逃げ込んだ。

 

 木をへし折って飛んでくる大きな瓦礫を砕きつつ屋敷の方を見れば、完全に倒壊しているのが分かる。

 

(やっちまった。そりゃ帰り際なんだから仕掛け終わってるよね。)

 

 意外にもツバメのことで熱くなっているのかもしれないと、自身のことを分析しながらジールは敷地に入ってくる警察官を眺めていた。

 犯人を捕らえたことで気が緩んでいたのか、防げたかもしれない事件を見逃したことに罪悪感が湧いてくる。

 

 片手で引き摺ってきた簀巻きの人物を担ぎ直したジールは、警察の人達と合流しようと雑木林からひょっこり顔を出す。

 ここの家主をターゲットにしていたイルミにも連絡を入れなければと、ジールが携帯を取り出したところで先程まで立っていた部分に何かが落ちた音がした。

 

 片手に携帯、もう一方に簀巻きを抱えたジールは、何事かと後ろを振り返る。

 そこには、緑の髪色をした人物を下敷きにしたヒソカが立っていた。

 痛そうだなとジールが緑色の人物に同情していると、こちらに気がついたヒソカが笑顔で走ってくるのが見えた。

 

「兄さん、捕まえて来たよ♥」

 

 捕らえた人物を放置し、堂々とのたまったヒソカは既に侵入者への興味を無くしていた。

 そうか、と頷き頭を軽く叩きながら宥めたジールは肉が抉れているヒソカの手に気づく。

 

「……どうした。」

 

 何を言われたのか分からなかったらしいヒソカが首を傾げるのを見て、手の甲を指さしたジールは改めて問い直した。

 なんて事ないように切り離した話をジールにしたヒソカは、持ってくるねと言い残し緑色の人物の元へ戻ってしまう。

 

 切り離された状況を想像したジールは僅かに眉を寄せた後、落ち着いたら手当てをしようと心に決めた。

 そして、取り出したままだった携帯を開き一番上にある番号へ電話をかける。

 

「……大丈夫か?」

『何が?』

「先程の屋敷が爆発してな、任務の方に支障は無いのかと……」

『ああ、それならホテルに泊まってたから問題無いよ。』

 

(つまり仏さんになられたと。)

 

 イルミの任務が無事に終わったことを喜びながらも、屋敷から避難した先で殺られてしまう家主に手を合わせる。

 その後に、食べた昼食の話や放置している店の様子を見に行って欲しいと話していると、回収しにいったヒソカが戻ってきた。

 

「……ああ、商品の片付けを頼みたい。」

『3万ジェニーならいいよ。』

「誰と話しているんだい?」

 

 背後から覗き込むように近づいてきたヒソカは、ジールの腕から簀巻きの人物を引きずり落とした。

 

(名前言えば良いのか?えっ、友達って言って大丈夫なの?違うって言われたら傷つくぞ。しっくり来るのはお兄ちゃん同盟の同士かな、……ひー君に引かれそうだな。)

 

 空いた肩に顎を乗せてこちらを見てくるヒソカに視線を合わせながらジールは口を噤んでいる。

 

『誰かいるの?別に隠さなくてもいいよ。』

「ホラ♦紹介してよ♠」

 

 電話越しにも聞こえているらしい、ますます答え憎くなったジールは必死に無難な言葉を探した。

 

「……仲のいいイルイルだ。」

「へぇ♠」

『へぇー。』

 

 両サイドからの微妙なリアクションに、ジールの心はバクバクだ。いつものように笑っているヒソカも、顔が見えないイルミも何を考えているか分からないジールからすれば何か言って欲しくてたまらなかった。

 

「兄さんって知り合い居たんだ♣︎」

 

 まさかのボッチ疑惑に驚いたジールは、携帯を落としそうになる。弟に寂しい奴だと思われていたなんて知りたくなかった。

 

『そっ、仲良くお話ししてるの。』

 

 とりあえずイルミから否定の言葉が入らなかったことに安心したジールは、裏手までやってきた警察官を見て電話を切った。

 

「よろしく。」

『りょーかい。』

 

 携帯を鞄に仕舞ったジールは、足元に転がされていた侵入者を拾い上げながら後ろを振り返る。

 

「そっちを持って来てくれるか?」

 

 

 

 合流したドタブカとヘレスメに犯人確保を伝えると、二人や周りの警官はヒーローを見るように尊敬の眼差しを向けてきた。

 罪悪感をバシバシ刺激されながら身柄の扱いについて話すジールの背中は冷や汗でびっしょりしている。

 

 予告状を受けて屋敷の人間を避難させて、人的被害はゼロだったからだろう。

 屋敷が爆発されたことを大して気にしていない警官達に、開き直ってしまおうかと悩むジールは終始笑顔だったヒソカを見て諦めた。

 

 そして、無事身柄の引き取りに成功したジールは形から入ろうと手錠を譲り受け二人の侵入者に装着する。

 

「……終わったらそちらへ護送しよう。」

「はい、ご協力ありがとうございます!」

 

 敬礼のポーズで見送られたジールは、一旦泊まっている宿へ戻る事にした。

 

 

 

 

 

 人の流れが途切れることを知らない街の上を通って、宿の裏口から部屋に入る。

 道中、不運にも起きてしまった緑髪の人物はもう一度ヒソカに眠らされて部屋の床に転がされていた。

 

「この後はどうするの?」

 

 久しぶりに戻ってきた宿でダラケているヒソカは、ベッドの上からジールに声をかけた。

 その手元にはジールから渡された消毒液や包帯が握られている。

 

「……どちらかを起こす。」

 

 壁にもたれさせ、座った状態の人物へ近づいたジールは軽く肩を揺する。ひとつに束ねた髪が合わせて揺れるのを見ながらそれを何度か繰り返せば、紫髪の人物は唸り声を上げた。

 

「…………起きたか、これからお前達にはいくつかの質問に答えてもらう。」

「は、い?」

 

 目を瞬かせながらこちらを向いた人物は、未だに状況が飲み込めていないようだった。

 

「……名前は?」

 

 目の前の声の主に気づいたのかジールが質問すると同時に動きを止め、その人物は逃げだそうと腰を浮かせた。

 しかし、それを見過ごすジールでは無い。相手の肩を壁に押し付け、乗せた膝で足の動きを止めたジールはもう一度ゆっくり問いかけた。

 

「……テレス。」

「屋敷を爆破させたのはお前達だな?」

「っ、……ああ。」

 

 黙り込もうとするテレスの首に手を当てたジールは脅すように指先へ力を込める。

 

「……ツバメの会は知っているな?」

「知ってる。」

「何故屋敷を狙った?」

「そういう活動だから。」

 

 未だ反抗的な様子を見せるが、質問には答えを返している。ジールは相手のオーラを注意深く見ながら、その後も幾つかの質問を重ねた。

 日常的な犯罪の証言は取れたが、組織的なことには詳しく無いらしいテレスの首元からジールは手を離す。

 

 きっちりボイスレコーダーに保存し、そのチップを取り替えると、もう一人の人物へと向き直った。

 

「……詳しく聞かせてもらおう。」

 

 そろそろ起きただろうと、緑髪の人物に近づいたジールは手っ取り早く済ませようとナイフを目の前にチラつかせた。

 

(何か、どこかのチンピラみたいだな。)

 

 座り込み、ナイフの背で頬を叩くのはガラが悪すぎると反省したジールは、相手を壁にもたれさせ目の前でその刃を見せるだけに留めた。

 

「……名前。」

「ラスだ。」

「お前達の拠点は?」

「最近は、駅近のホテルに泊まってるぞ。」

「本拠地だ。」

「キヒッ、言うと思ってるのかい?」

 

 状況を理解した上で煽ってくるラスに、ジールはナイフで床を突きながらその顔を凝視する。

 

(リアルでそんな笑い方する奴初めて見たわ。)

 

 黙ったジールの事をどう思ったのか、相手は頬の縫い跡を歪ませながら笑ってくる。

 それに対して、長引かせるつもりは無いとナイフを顎に這わせながらジールはオーラの量を増やした。

 

「……言え。」

「い、言いたくないんだぞ。」

 

 ここで見逃すのも面倒だと、なんとか口を割らせたいジールは苦手な交渉を頑張るつもりのようだ。

 

「なぜ?」

「……。」

「大切な仲間でも居るのか?紫の方は個人プレーだと言っていたぞ。」

 

 手当てを終えたヒソカは、後ろから観戦しているようだ。緊張しているように揺れるオーラを見ながらジールはゆっくり問いかける。

 

「……友人?恋人?それともボスが大事か?」

 

 最後の単語に大きく揺れたオーラを見たジールは、自身の目的を振り返り上手く折り合いを付けれないかと考える。

 

 そう、ジールの目的はラケルススのおっさんをタコ殴りにする事だ。

 それに加えて、ツバメの会からおっさんが事件に関わっている証拠を見つけ、関係者全員をブタ箱にぶち込むことを決めている。

 

 細々としたおっさんの悪事の証拠なら、ジールは既に入手しているが肝心の飛行船の事件についてはツバメの会のガードが固く分からなかった。

 全力で復讐した後に突っ込む為のキツい刑務所もリストアップが済んでいる。その為に冤罪でも何でもふっかけてやるつもりだ。

 

 その復讐の考えに至った経緯は長くなるためここでは省くが、つまりジールはツバメの会全体を潰すつもりは無いのだ。

 

(まあ、全員が飛行船の件に関わってるなら別だけど、慈善活動してるだけの人に手を出すつもりは無いのさ。)

 

 ジール的には、ラスの大事な人に被害が行かないことを条件に場所を吐いてくれないかと交渉しようとしていた。

 まあ、傍から見れば大切な人を人質に取ろうと探っている輩にしか見えないが。

 

「そのボスが、爆発の指示を出したのか?」

「……出てない。」

「では、お前達の行動は知ってるか?」

「分からない、俺達が勝手にやってるだけだぞ。でも彼奴は頭いいし、知ってると思う。」

 

(うーん、グレー!)

 

 完全に知らないなら手網を握っておくように言って見逃すのもアリかと思ったが、これは相手に会わないとなんとも言えないなと、ジールは頭を悩ませる。

 

「何故ボスを慕っているんだ?」

 

 さっきの饒舌っぷりとは一転して、ラスはニヤリと笑って喋らなくなってしまう。どうやらあの変な笑い方は威嚇に含まれているらしい。

 

「……警察に言うわけでもない、聞かせろ。」

 

 直ぐに手を出すわけでは無いと言えば、それだけが懸念事項だったのか、拠点を言うよりはマシだと思ったのかラスは口を開いた。

 

「良い奴なんだよ。」

「もっと。」

「……俺とボスは同じ孤児院で育ったんだ。彼奴はなんでも出来るからどんどん出世して、色んな事をしてるんだぞ。俺の事もツバメの事業に呼んでくれた。小さい頃から尊敬してるんだ。」

「……その事業の中で犯罪をすれば迷惑になるだろ。」

「それはそれ、これはこれ。だって俺金持ち嫌いだし。」

 

 ジールは思わずため息をつきそうになるが、ラスのアホさ加減に気を抜くのはまだ早いと、一番大切な質問をした。

 

「……お前は、五年前の飛行船の事件に関わっているか?」

 

 隣のテレスは、ツバメの会に入りたてで事件のことすら知らなかった。

 目の前の人物はどうなのか、じっと見つめてくるジールに居心地の悪さを感じたのかラスはキヒッと笑ってその気持ちを誤魔化した。

 

「関わってるっていうのがどこまでかは知らないけど、会場を使いたいって奴なら会ったぞ。あとは知らない。」

 

 本当にボスに関わること以外ならなんでも答えてくれるラスに、ジールは興奮を隠しながら詰め寄った。

 

「……そいつは誰だった。」

「覚えてないよ、パドキアの資産家とか言ってたはずさ。」

 

 こっちも色々やってたから、好きにしろって言って終わりだぞ。と言ったラスはジールの反応を緊張しながら待っていた。

 

 そのジールは、聞き覚えのあるプロフィールに復讐項目を増やしながらも、やっと出てきた尻尾にスタンディングオベーションしている。

 ちなみにヒソカは話半分にトランプで遊び始めていた。

 

(あとは、ボスがどういうやつかにもよるけど直接関わってないならブタ箱に送るだけでいい。)

 

「……さて、本拠地の場所だが。」

「言わないって言ったじゃないか。」

「……警察に突き出すのは犯罪者だけだ。」

 

 その言葉に、テレスは肩を弾ませ落ち込んだように俯いた。しかし、反対にラスは希望を見出したようにジールを見た。

 なかなかに慕われているなと、まだ見ぬボスを想像しながらジールは言葉を促す。

 

「本部はイーガートンのビルにあるけど、聞きたいのはそこじゃないんだろう?」

 

 本部は慈善事業を行う団体として会社の名義で借りられているものだ、そこのトップの名前は世に大々的に出ているが、ラスの言っているボスはその人では無いだろう。

 経歴も真っ白であったし、孤児院出身でもなかったはすだ。

 

「君のボスは頭が良いんだろ、心配するな。」

「…そうだよな。俺達がいつも集まってるのはその街にある港の倉庫さ。対外的には空き倉庫になってるはずだぞ。」 

 

 ジールの拙い話術にすら言いくるめられてしまうラスに色々な意味で心配になってくるが、ジールとしては有難い限りである。

 

 

 暇をしているヒソカに、イーガートン行きの飛行船を取るように指示を出しながら、ジールは目標に近づく安心感に浮き足立っていた。

 

 直ぐに気を引き締め直したが、花束でも持っていたら誰彼構わず配り歩きそうなくらいには盛り上がっている。

 

(薄毛の心配してられるのも今のうちだぜ、おっさん?)




次回はツバメの会の拠点です。残りの秘密もあと少しで区切りが着きます。

ここまで読んでいただきたいありがとうございました。
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