口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回は戦闘パートがあります。

よろしくお願いします。


捕捉した。

 突然だが、嫌いな人物への対応は人それぞれ違ってくるだろう。

 今、警察署で引渡しの書類を書いているジールにも嫌いな人の対処法というのがある。

 

 それは、近寄らない、考えないという嫌いな奴とは関わらないスタイルだ。

 過去、コミュニケーションを取るのが下手なジールはそうして嫌いな人を避けてきた。嫌うほどの人物はそう多くは無かったが、基本は嫌いになった瞬間にそっとフェードアウトさせてきたのだ。

 

 

 何故この話が出てくるのか、それはジールがこの世界で唯一嫌っている人物について関係している。

 

 きっかけとなった事件について、ジールは両親が天国で幸せに暮らせるよう祈ることで心の整理をつけてきた。

 そして、いままでのようにおっさんの事を忘れて楽しく生きていこうとしたが、これが中々上手くいかなかったのだ。

 

 ラケルススに居た時は近くにおっさんがいたからかと思ったが、解放されてからも忘れる事が出来なかったジールはかなり悩んでいた。

 

 そのままおっさんの事を思い出しては悩み、忘れようとしても上手くいかなかったジールは自己分析の末ひとつの結論に至る。

 

(よし、募った恨みを晴らせば忘れるだろう。)

 

 かなり不器用な話だが、ジールが今まで嫌ってきた人に対する感情など簡単に忘れられるものばかりだったのだ。それと同じ方法で色々な感情を向けているおっさんの事を忘れようとしても無理な話だろう。

 ということでジールはその恨み辛みを晴らすために、復讐することを決めた。

 

 

 さて、ここまで来れば後は簡単だ。

 おっさんがどうなればジールの感情は収まるのか、復讐の方法を考えるだけである。

 ジールはハンターライセンスを手に入れたということもあり、最初はおっさんを殺してしまおうかと考えた。

 

 しかし、ジールは別におっさんに死んで欲しいと思っている訳では無い。正直、死んでいても生きていてもどっちでも良いと思っていた。

 そこでどうせ鬱憤を晴らすのなら辛いやつを用意しようと生きて寿命分の反省をして貰う方針に決定したのだ。

 

 あとの計画は今のジールを見て貰えれば分かる通り、着実におっさんを社会的に殺してブタ箱に突っ込む準備をしている。

 

 一生分の償いと考えておきながら自身で数発殴った後は刑務所に入れるあたり、いかにおっさんの事を嫌って関わりを絶とうとしているかが分かるだろう。

 

 その第一歩として、ツバメの会の情報を得たジールはかなりご機嫌で書類に目を通していた。

 

 ヘレスメにテレスとラスの身柄を渡し、必要な書類にサインをしたジールは、外で待っていたヒソカと合流する。

 

 こちらに気づいたヒソカは、凭れていた壁から背を離してこちらへ駆け寄ってきた。そして、その懐から取り出したチケットをジールへ手渡してくる。

 宿に居た時は暇そうにしていたが、ジールとの船旅は楽しみのようだ。

 

 予約の取れた飛行船のチケットを見ながら、ジールは初めておっさんと出会った時の事を思い出す。

 

 胡散臭い話し方、神経を逆撫でる発言の数々。おかげで病室が嫌いになったジールはあの時空気を読んで飲み込んだ言葉がある。

 

(バリアとエンガチョどっちがいいかな。)

 

 対人スキルが低いからか、微妙なワードチョイスである。しかし、数年単位で書き溜めた殴り方リストにはえげつない数の方法が並んでいた。

 

「ねえ、飛行船の中で何かしようよ♥」

 

「……ああ。」

 

 

 日付も変わりそうな夜分に、二人並んで歩く姿は微笑ましいものであった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 オフィス街を抜け、海風が吹き付ける倉庫地帯。そこでは海の黒さがその日の終了を示すようにひっそりと空に同化している。

 

 日中の喧騒とは打って変わって静まり返った港の隅。その堤防に座り込んでいる二人は、海の静けさに合わせて小声で何かを話していた。

 

「……中は30人くらいだろう。」

 

 先程まで高台から例の倉庫を観察していたジールは、周囲の確認をして戻ってきたヒソカと情報の擦り合わせをしていた。

 

 単眼鏡を鞄に仕舞い、トランプで遊んでいるヒソカを見る。コソコソと話すのが楽しいのか顔を寄せてきたヒソカは、そのまま自身の見てきたことをジールに報告した。

 

「周りには誰もいなかったよ♠」

 

 派手にやっても大丈夫さ♥と言ってくるヒソカに建物の賠償金が請求されたらどうしようかと考えながら、ジールは真剣な眼差しを向けた。

 

 唐突な変化にその場の空気が重くなる。

 離れた所で小声で話すなどわざわざ茶番を挟むくらいには余裕であろうジールが緊張感を漂わせているのだ。ヒソカもトランプを触る手を止めて真顔になっていた。

 

 ここ一番の張り詰めた空気の中、賠償金よりも重要だと認識しているジールはゆっくりと口を開く。

 

「……何人とやりたい?」

 

 サァーッと、二人の間を風が通る。

 兄の質問の意図を正しく理解したヒソカは眉をキリリとさせて答える。

 

「譲ってくれるのかい?」

 

 いつもならヒソカの好きにやれば良い、と目の前で変態化しない限り手を出さないジールだったが、今回ばかりは違う。

 

 最高にハイってやつの一歩手前まで来ているジールは、ここらで発散しておく必要があった。

 それをなんとなく理解しているヒソカは、こうして兄から提案されるとも思っていなかったようだ。

 

「……人数にもよる。」

「じゃあ、兄さんとボクで0-30♦」

「……。」

「冗談さ♥10-20でどう?」

「なら、念能力者は全員貰うぞ。」

 

 傍から見ればどうでも良さそうなことを、二人は真面目に話し合っている。

 

「えぇ、それは狡くない?……わかったよ仲良く半分にしようじゃないか♣︎その代わり念能力者が奇数だったらボクが多く貰うからね♥」

 

 15人ずつ、念能力者の扱いについても納得したジールは満足そうに頷き、堤防の上に立ち上がった。

 しかし、なんともくだらないことに真剣になっているようだ。ジールがこのやり取りが不毛であると気づくのは、数分後になるだろう。

 

 獲物の取り分を決めた二人は堤防から飛び降り、悠々と目的の倉庫へ近づいていく。

 裏から回ったり、罠を仕掛けたりなどはしない。オーラの感じからしても大半は非念能力者だ。

 

 そして全力でカチコミをしたいジールと、戦闘を楽しみたいヒソカからすれば正面から行儀よくお邪魔するのは決定事項であった。

 

 近づくと、重い扉の隙間から漏れる光が目立ってくる。ジールがそのドアに手をかけ横に開けようとしたところで、ガチャッと鈍い音がしたが気のせいだろう。

 

 そのまま引けば金属が割れる音と共に扉は勢いよく開いた。

 

「邪魔するぞ。」

 

 スライド式の鉄扉が大きく鳴りながら開ききる頃には中の視線が全てその入口に集まっていた。鍵を無理やりこじ開けた人物に注目しているようだ。

 

 中にはいくつかのコンテナとそれに腰掛けている構成員や、持ち込んだらしいテーブルで飲んでいる者たちがいた。

 

 意気込んだジールは深呼吸をしながら構成員達の様子を観察している。

 そして、ジールがどうやって半分にするかを決めようと隣りにいるヒソカを見た時、そこには誰もいなかった。

 

(あぁ!ひー君に出し抜かれた!!)

 

「うわぁぁぁ!」

 

 横に向けていた視線を倉庫の中へ向ければ、右手側で血しぶきを上げて倒れる人が見える。

 ヒソカは既に次の相手へ狙いを定めたのかその血溜まりの元にはいない。

 

 大人数にはしゃいでいるのか、手加減しなくても良いのが嬉しいのか、サクサクと切り倒している姿を眺めていたジールは慌てて走り出した。

 

 あのままいけばヒソカに全員取られてしまうと思ったのだろう。事実、半分だと話していたヒソカにそのつもりは無く、兄が遅かったら横取りしてしまおうかと考えていた。

 

 そして、未だに何が起こっているか理解しきれていない構成員達は、武器を構え始めたり、中腰で立ち上がったままだったりと連携が取れずにいる。

 

 ジールは走っている勢いを使って一人目に近づくと、ラリアットのように喉元を引っ掛けて叩きつけた。表情を変えること無く背中を踏みつければ、足元からは骨の折れた音が聞こえてきた。

 

「……まとめてかかって来い。」

 

 ようやく準備が整ったらしい周りを見ながらジールが挑発すれば、簡単に乗せられた者が武器を構えながらやってくる。

 

「ナメたまねしゃがって!後悔させてやる。」

 

 突き出されたナイフは掠ること無くジールの横を抜け、空いた胴体には重い拳が入った。

 血や胃の中の物を吐きながら倒れる男を避け、次々に襲いかかってくる敵を見据えたジールはその長い脚で蹴り上げる。

 

 右の人の側頭部を蹴り飛ばした後、足を入れ替えた流れで背後の人物の顎へと踵を当てた。

 

「ハギャ。」

「ブェッフェ。」

 

 一応、ジールがちぎれないよう加減したため、頭と身体がさようならする事は無かったが、数日は起き上がれ無いだろう。

 

 

 

 その次に、落ちていた工具を振りかざしてきた男の腕を掴み捻りあげれば痛みで相手の手元が緩む。

 転がる金属音を聞きながら、肘と膝で胴体を挟むように衝撃を加えれば呆気なく崩れ落ちていった。

 

(武器は何があっても離しちゃ駄目だぞ。…ん?)

 

 次の敵の顔面を砕きながら、落ちた工具をなんとなしに見たジールは見覚えのあるシルエットに思わず力加減を誤った。

 

「ぎゃぁあああ!!」

 

 手についた鼻血を払い落とし、ジールがその工具へと近づけば予想通りのものが転がっている。

 

(……で、伝説のエクスカリバールじゃないか!)

 

 殴りかかってきた三人を適当に殴り飛ばしたジールは、丁寧な手つきでそれを拾い上げる。茶番だ。

 

 70cmより少し長いくらいのバールは、適度な重さもある普通の工具であった。そして握りしめたジールがそれを軽く振れば、空気を裂く音が鳴る。

 

 中々にしっくりくる使い心地に満足したジールは、暫定的に相棒へと認定した。何の変哲もないバールをその場のノリで相棒へ認定したのだ。

 

 そのバールへジールが二番目に得意としている念の応用技、周を使えばそれはもう立派な凶器となる。

 実際に刃物を向けてきた相手の腕をバールで弾いた瞬間、相手の肩から先が弾け飛んだ。

 

 発の特性上、物をオーラで包むことに慣れているジールは何も考えずに使ったが、岩がプリンのように掘れるのだ、柔い人の腕など一瞬で消えるだろう。

 

 肩口から飛び散る血を避けながらオーラ量を調整したジールは試しに、と正面の筋肉ダルマを殴った。そのまま骨が折れる鈍い音のあとに腹を抑えながら倒れた男を見て、ジールは流石伝説の武器だと喜んでいる。

 

「……まだやるか?」

 

 筋肉ダルマの後ろ、先程から銃で撃ってきていた敵を振り返りながら問いかけるジールに、相手は腰を抜かして後退る。

 

「バ、バケモノ。」

 

 顔中の穴という穴から液体を流しながら呟かれた言葉は正しくジールに届いた。

 怯えさせていると気づいたジールは立ち止まり、その場で考え込むように顎へ手をやった。

 

 念能力者が数人紛れている組織だから念能力についても知っているかと思ったが違ったようだと、ジールはひとつ頷く。

 

 動きが素早いジールに照準を合わせることは並のガンナーでは不可能である。その為、目の前の男はジールが立ち止まる瞬間を狙って撃ったわけだが、撃たれたはずのジールにダメージを受けている様子はまったく無かった。

 

 当然ジールの発ならば一瞬で銃弾を止め、何事も無かったように動く事など朝飯前である。

 それに加えて、念能力者なら銃弾くらい視認できると思っているジールは自身の発以外にいくらでも対策はあると考えていた。その為、念能力者を知ってるはずの相手からの言葉が理解出来なかったのだ。

 

 さて、今にも失禁しそうな程に怯えている男を見て気絶させてしまおうかと再び足を踏み出したジールは視界の端から伸びてくる腕を見つける。

 

 トランプを持ったその腕が、敵の喉元を切り裂こうとしたところでピタリと止まったのだ。

 

「……戦意は無い、止めておけ。」

「そうするよ♦」

 

 赤いトランプを引いたヒソカは、気絶している男を見下ろした。

 

「……あとは?」

 

 こちらに来たからにはほとんど終わったのだろうと、ジールがヒソカの方を向く。

 倉庫の右側には赤い水溜まりが広がっており、その被害の大きさが伺えた。

 

「あとは念能力者だけだよ♠五人かな♦」

 

 指さされた方にはたった数分で起きた惨状についていけてない人達が棒立ちで立っていた。

 

 ジールは、自身が倒した人数と念能力者の分け方を思い出しヒソカの方を睨んだ。

 気持ち程度目付きが鋭くなったジールに見られたヒソカは誤魔化すように腕を振る。

 

「一人くらい良いじゃないか♥」

 

 自身の復讐だと知っているかも怪しいと、ため息をつきそうになったジールだが本命はまだ先だと気持ちを切り替える。

 

 そして、兄からお許しが出たと察知したヒソカは意気揚々と念能力者を物色し始めた。

 

 困惑している相手サイドとこちらとでは、天と地程の空気の差があるようだ。

 

 

 鉄の匂いが鼻につくからと、早めに終わらせたいジールは未だに悩んでいるヒソカに左二人は俺だと残し行ってしまった。

 相手を注意深く観察しながら、長髪の男へ近づいたジールは殴ろうとした寸前でその手を引く。

 

 無抵抗で殴られようとしていた相手はそれを見て、いやらしく笑っていた。

 

「勘が良いようで。」

「……そうか。」

 

 ゆっくり伸ばされた手を警戒して後ろへ下がれば、男は緩急を付けて接近してきた。

 

 先程の反応から接触は不味いと判断したジールは伸ばされる手を避けながらバールで相手を殴った。

 反射で受け止められたバールは、その先でこめかみを引っ掻きながらも静止している。

 

 そして、ジールがバールを引き抜こうとしたところでその先端から嫌な音がした。

 正確には、男が握っている部分からパキッとでもいうような小さな音が出ている。

 周がされていて、素手では到底破壊出来ない筈だがなんでも有り得るのが念能力だ。ジールは力業でバールを引き抜き、直ぐに変化を確認した。

 

(相棒ぉぉぉぉおおお!!!)

 

 長髪の男が握っていた部分の表面には細かいヒビが入っているのが分かる。

 破損はそこまで酷く無いが、これを繰り返せばいつか壊れてしまうだろう。ザラザラとした表面を撫でたジールは相棒を傷つけた男を睨んだ。

 

 その視線を受けた相手は、気にも止めずにジールへ再び接近してくる。執拗に伸ばされる腕とバールの劣化を思い出したジールは、手の平をさらに注視し触れないように気をつけた。

 

 そして、相手の右足を左腕でガードしたその時、ジールの腕がチリリと痛んだ。

 想定していなかった感触に、横目で自身の腕を確認したジールだが、長袖に包まれたそこに目で見える変化はなかった。

 

「どうぞ?確認して下さいな。」

 

 ジールのような反応にも慣れているのか、笑顔で動きを止めた長髪の男は手で促すようにジェスチャーした。

 

 それをチラッと確認したジールはバールを脇で抱えながら左腕の袖を捲る。出てきたのはいつもと変わらない腕、しかしよく見てみるとその表面が乾燥しているのが分かった。

 

(乾燥?水分でも持っていかれたか……、服の上からじゃなかったらもっと萎れてたな。)

 

 あえて手元に注意を集めるように振舞っていたが、脚の攻撃を受け止めていたことを考えると発動条件は違うようだと袖を戻しながらジールは考える。

 

「どうでしょう、美しくなっていました?」

 

 前髪を揺らしながらこちらへ語りかけてくる相手への返事が見つからないジールはそれをスルーした。

 

 そして近づくのは得策ではないと結論を出したジールはオーラの量を徐々に増やしながら練り上げていく。バールへ纏わせるオーラの量を調整し確認するように数回素振りをすれば、その勢いと風圧で床のコンクリが抉れた。

 

 飛んだ小石が当たったのか、ガチガチの強化系と戦っていたヒソカはこちらへ気を取られて危うく敵の攻撃を避け忘れるところだった。

 

 しかしそんなことも気にせず、ジールの手元を爛々とした瞳で見つめるヒソカはどうやら伝説の武器を気に入ったようだ。

 それとは対照的に、抉れた床を見ながら笑顔を引き攣らせている相手は、慌てて仲間へヘルプを出していた。

 

「え、えぇ、ほら貴方の能力でどうにかして下さい。」

「バカ言ってんじゃねえよ、俺の念獣をこんな奴に使えるか!!」

 

 こんな奴呼ばわりされているジールが、纏わせたオーラを研ぎ澄ませながらもう一人の方を向く。

 敵対の意思を確認しようとしたが、手元で未完成の念獣を抱えているのを見て問いかけるまでも無いと判断した。

 

(……これだけで動揺するなら、念獣は向いてないんじゃないか?)

 

 とりあえず、ジールは工具がコンクリートを深く抉るインパクトの強さを客観的に見た方が良い。

 あのヒソカが手放しで喜ぶレベルということだ。

 

 そして、満足いくまで待っていてくれた(動けなかった)相手に感謝しながらジールはバールを構える。

 まるで槍を投げるようなフォームで振りかぶったジールは姿勢よくバールを投げた。

 

 ぶん投げた。

 

 時速160km程で直線的に飛んだバールは工具の域を超えている。もはや小型ロケットと言われた方が納得するレベルのパワーを持ったバールはその先端に男の服を肩の肉ごと引っ掛け後方の壁へ突き刺さった。

 

 地震のような揺れの後、震えている長髪の男は自身の背後からピキピキと不吉な音が鳴っていることに気づく。

 ミンチにならなかった事へ感謝しながらも、身動きの取れないこの状況を呪った。

 

 ジールのバールが突き刺さった壁は鉄筋コンクリートで出来ていた、外側には鉄板を使用した外装も取り付けられている。しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりにヒビが入っていき、ついにはバールを中心とした巨大な円状に穴が空いた。

 

「……流石伝説の武器だ。(ボソッ」

 

 瓦礫に埋まったバールとついでの相手も回収するために風通しの良くなった壁へ近づいたジールはそれぞれを引き上げる。

 

 オーラが無ければ致命傷であろうが、相手は念能力者だ。一応、その辺のことも考えてことに臨んだジールは多少の内臓破壊には目を瞑る。

 

 結果として戦意を失った長髪と念獣使いを縛り上げたジールは、どさくさに紛れて二人目を伸していたヒソカに一声かけてから家探しならぬ倉庫探しを始めた。

 

 気絶している輩を一ヶ所に集めながら隅々まで探せばジールはそれらしいダンボールを見つけることになる。

 血で赤くなっていた指先を拭きながら箱を開ければそこには乱雑に詰め込まれた書類の束が出てきた。

 

 まともな管理など無いことを見越して作られたのか、それぞれの用紙が重要度に色分けされていて初めて見るジールにも分かりやすくなっている。

 

(構成員の予定表に領収書、……あった襲撃対象のリストだ。)

 

 そこにはツバメの会に登録している会員の名簿がランクごとに色分けされていた。

 一般会員から、熱心な高位会員までが載っており、襲撃対象には最近高位ランクから一般へ落ちた会員が並べられている。

 

 襲撃の基準に関心しながら、ジールは色々邪推をしていた。

 

(貢献度が落ちた会員を見せしめに狙っていたのか、狙いたい相手のランクを落としたのか……それだけで随分変わってくるぞ。)

 

 馴れた手さばきでプリントを捲っていくジールは会員リストにラケルススの名前がないか、瞳を左右に動かしながら確認したが結局見つけられなかった。

 

 そうなると、後は飛行船の件で何か契約書でも書いてない限り物的証拠を揃えるのが難しくなる。

 何がなんでも手に入れたいジールは、とりあえず脅しに使えそうな書類を数枚選んだ。最悪証言だけでも録音してから帰るつもりらしい。

 

 ついでに見つけた倉庫の賃貸契約書も拝借して、この崩壊しかけている倉庫をどうにかしようとしていた。

 

 

「……そろそろ出るぞ。」

「もういいの?」

「あぁ。」

 

 最初に伝えておいた通りに生存者を縛り上げていたヒソカは、戻ってきたジールの元へ駆け寄る。

 チラリと手元の書類を覗き込んだヒソカは、笑みを浮かべながらジールに次の予定を尋ねた。

 

 ヒソカの頬へ飛んだ血を拭いながらジールがホテルへ戻る事を伝えれば、目を細めて返事を返してくる。

 

「これ、このままでいいのかい♦」

「……ここに来る前に警察で書類を書いただろ。」

「ああ♥書きに行ってたね♠」

「……他州の犯罪者引渡し要請書だ。」

 

  兄の手際の良さに惚れ惚れすると、笑みを深めたヒソカはジールがいると楽で良いなどと考えていた。

 そんな事は知らないジールは、空港で貰ったパンフレットを取り出しながら深夜にやっている飲食店を探している。

 

「……何が食べたい?」

「うーん♦なんでもいいよ♥」

 

(じゃあ、肉にするか。)

 

 今だ伸び続けている身長を応援する為に、馬鹿の一つ覚えのように肉を選択したジールは少し遠めの店を選ぶ。

 

 歩いている間にヒソカの血の匂いをなるべく落とすための苦肉の策であった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※

 

 カラッと乾いた空気から熱が伝わってくる。

 

(まさか、この世界でコンクリートジャングルに来るとは……。)

 

 ビルのガラスに反射する太陽に、いつもより濃いサングラスを掛けたジールは睨むようにビルの正面を見ていた。

 

 指定されたのは暑さが最高潮になる午後の二時、緊張からなのか暑さからなのかも分からない程に喉がヒリついてるジールはなけなしの唾を飲み込んだ。

 

 ツバメのモチーフが飾られた敵陣の本拠地、とは言っても大半は無関係かつ無害な一般職員だろう。

 応接室の一室で待っていると返されたメールは、返信の早さから見ても相手がこちらを軽んじているわけでは無さそうだった。

 

『この街なら、色々楽しめそうだし遊んでくるよ♣︎あぁ、兄さんの前居た屋敷に行く時はちゃんと呼んでね♠』

 

 朝食後に気分よく出かけて行ったヒソカは、見事なウィンクを決めていた。呼ぶように言った時は珍しく目を見開いてガチの表情をしていたヒソカに首を縦に振るしか無かったジールだ。

 ジールはちょっとだけ兄の威厳を心配した。

 

(さて、気を取り直して行きますか。)

 

 三分前になった時計を確認したジールは、冷房の効いたビル内へと入って行く。受け付けで要件を言えばスムーズに専用のエレベーターまで案内された。

 

 空調の完璧さに天国を見たジールは、美人なエレベーターガールを惜しみながら指定の階で降りる。

 

 豪勢な扉の前でノックをしようと腕を上げたジールだが、その手は役割を果たすこと無く下ろされた。

 

「ようこそおいで下さいました。」

 

 扉の向う側から出てきたのは、角刈りの頭に澄ました表情の男だった。

 この人が裏ボスかと顔を上げたジールだが、何となく違うと直感が働く。三十代後半くらいのしっかりとした大人だが、リーダーという風には見えない。

 

「やあ、来てくれてありがとう。」

 

 一歩、部屋の中に入ったジールは、窓際に立っている若い男へ視線を奪われる。

 茶色い天パに緑色の瞳と、貼り付けられた笑みの下に隠されている何か。百人中百人がボスだと分かるオーラを持った男だった。

 

(思ったより若いなあ……、二十歳になったくらい?)

 

「モロウさん……それともラケルススの方で呼んだ方がいいかな?あぁ安心して、現当主の記録ならしっかり取ってあるからいつでも渡せるよ。」

 

 そう言って差し出された手を反射的に握り返したジールは、思わず強く握ってしまいそうになった。

 部屋の奥からこちらへ来る時も、話している今も敵意や悪意は全く感じられなかったが、ジールは心の中で苦い顔をしていた。

 

(今日の目的も、旧姓も何も言ってないんだけどなぁ……。胃薬、買っておけばよかった。)

 

 どう転ぶか分からない話し合いを想って既に胃が痛くなってきたジールであった。

 




次回は話し合いパートです。

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