口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回はビルの一室でのお話です。

よろしくお願いします。


発狂した。

 地面が遥か下に見える高層ビルの一室で、ジールは外の暑さとは無縁な部屋に通されていた。

 出された飲み物を受け取りつつも、口をつける余裕の無い彼は目の前のテーブルへカップを置きっぱなしにしている。

 

「あはは、そんなに緊張しなくていいよ。とりあえず自己紹介からしようか?」

 

 対面のソファーに腰掛けているのは、好青年と言って差し支えないようなフランクな男だ。ピシッと着こなされているスーツも相まって、誰からでも好かれそうな人柄に見える。

 固くなっているジールに気づき、喋りかけたりと気遣いも出来るようだった。

 

「俺はロンディネ、ロティーとでも気軽に呼んで。んで、こっちの堅いのはタカギ。」

 

(ロティー、ロティー……多分覚えた、いけるはず。……た?タカ?)

 

 ふてぶてしい表情で頷いているジールだが、心の内では名前を覚えるのに必死である。ちなみにロティーの方を覚えるのに意識を持っていかれているので、もう本名は覚えてない。

 最悪“名前を呼ばずに何とかする戦法”で乗り切るつもりだ。

 

 扉を開けて出迎えてくれた方は無事たっちゃんとインプットされたらしい。ロティーに紹介され綺麗なお辞儀を見せている彼はきっと相手に渾名を付けられたとは思っていないだろう。

 

「……ジール= ()()()だ。」

 

 そちらは?というように見られたジールは、相手の目を見ながら短く名乗った。

 ロティーの後ろで立ったままのタカギは反応を見せないが、聞いてはいるのだろう。意識がこちらにしっかり向いている。

 

「ならジールって呼んでもいいかな?」

「……あぁ、ロティー。」

 

 ジールの返しに嬉しそうに笑ったロティーは、早速持ってきてもらおうかとタカギに指示を出した。

 自分から話題を振るなど高等な技は使えないジールは、ただ黙ってそれを見守っている。

 

 ついでに、警戒心バリバリでやってきた先での好待遇に戸惑い、若干疑り深くなっているジールは持ってきた資料を目の前で燃やされるのではないかとネガティブな事を考えていた。

 

 退室の言葉と一礼のもと、去っていったタカギを見送り、視線をこちらに戻したロティーはそんなジールの様子に気づいているのかクスクスと笑っている。

 

「彼はちょっと熱心な人だからこの先は聞かない方がいいと思うんだ。気にさせてごめんね?」

 

 熱心とはどういうことかと気になったジールだが、その後の言葉に意識を取られて訪ねるのを忘れてしまう。

 

 部下にあたるであろう人物に聞かせられないこととは一体何だろうと、身構えるジールはサングラスの隙間から伺うようにロティーを見た。

 

 

「気になることがあるだろう?聞くよ。」

 

 ここまでの流れからしてもロティーが相手の心情を読み取るのが上手いということは明らかだ。自己紹介の時のやり取りも、表情の固いジールからしっかり読み取れるあたりジールにとって楽な相手だと言える。

 

 しかし敢えてジールの口から聞きたいらしい。促すように首を傾げる様子はこの状況を楽しんでいるようだった。

 

(俺のことについては調べたんだろう、ベレーくんにめちゃくちゃ助けられてるから分かるぞ。まあ、その優秀な情報源は知りたいところだが――)

 

「君「ロティー」……ロティーの弟分はどうするつもりだ?」

 

 雰囲気を無視してラケルススのことは触れずに質問してみたが、どうやらそれでも想定内らしい。呼び方にこだわった以外は特にめぼしいリアクションは無かった。

 

「ラスの事かな?安心していいよ、ちゃんと反省したら合法的に連れ出すから。君も出来る方法でね。」

 

 曖昧な質問も問題ないらしい。ジールの顔を立てたのか本当にお灸を据えたかったのかは分からないが、襲撃事件を全肯定しているわけではないようだった。

 

(プロハンターか……妥当だが、面倒な事になったな。)

 

 今後ロティーの悪事に気づいたとしても牢屋にぶち込むのが難しいことに気づいたジールは、内心で眉を寄せている。

 

「気に入っているのか。」

「うん。小さい頃から慕ってくれてるからね、そりゃ可愛いやつさ。アホなところはあるけど信用してるし、だからツバメの事も任せた。」

 

 相手から振られたツバメの話題にジールは思わず反応しそうになる。

 別にリアクションを見せたところで死ぬわけでもないが、偏った知識によってジールは交渉事をポーカーフェイスでやるものだと思っている。

 

「俺が初めて作ったのがツバメの会だからね、やっぱり思い入れもあるよ。」

「……なのに襲撃は見ないフリしたのか。」

 

 今までの会話ではただの良い奴である。

 しかし、それだけではないと感じているジールはその勘に従って踏み込んだ。

 

「世の中綺麗事だけじゃ済まないんだよ。分かるだろう?」

 

 先程まで弟分を褒めていた男は表情を変えることなく言い切った。

 

「まぁ、そうだな。」

「別に全部が全部そうだとは言わない。俺の持ってる他の会社は綺麗な水が流れているしね。ただね、利用出来る物を捨てる必要は無いんだよ。」

 

(損得勘定だけ……ってわけでもない。人情もあるだろうし。)

 

 大盤振る舞いのように話してくれる相手の言葉は、しっかりとロティーの性格を表している。

 しかし、それで相手のことが分かるかと言えばそうでは無い。

 

(善悪二択で分けれる人間なんてそうそう居ねえからなぁ、私怨持ちの俺からすれば悪い奴に仕立てた方が気持ち的に楽だけど……一個人は良い奴よりだよな。)

 

 そう思うと、おっさんはある意味貴重な人材だろう。いくら漁っても黒い部分しか出てこなかった。

 

 チラリと扉の方へ視線を向けたジールは、一呼吸してからロティーを見る。

 最終確認になるだろう、とほとんど決まった気持ちを固める為に向き直るジールを笑顔で迎えるロティーは全てが分かっているようだった。

 

「水抜きでもしたくなったか。」

「流石に底が見えなくなるまで濁られると困るよね。」

 

 予想通りの返しに、ロティーの狙いを完全に把握したジールは隠すこと無く息を吐いた。

 それを見たロティーも一層に笑みを深めてジールを見ている。どうやら感想が欲しいらしい。

 

「……ロティーは俺のことが好きなのか?」

「はは、急に直球でくるね。じゃあジールはツバメの会のこと、嫌いかな?」

「活動は賞賛に値するが、王子の像はしっかり選ぶことを強く進める。総評はまあまあ嫌い。」

「へえ!その本知ってるんだ。俺はジールのこと好きだよ。唾付けときたいくらい。」

「……汚い。」

 

 

 はははっ、と軽く笑って流したロティーに気にした様子は無かった。

 ひとまず一段落ついたジールはソーサーを取り、初めて飲み物に口をつける。

 

 長くは無い会話だったが、ジールにはある程度の

内容が見えていた。

 

 まずツバメの会だがこの会の活動内容は小さい頃に予想していた物と相違無いだろう。

 金持ちからの援助で貧しい人達を助けるものだ。ロティーが初めて作ったものでかなり大切にしているようだが、その割に裏の使い方は容赦無い。

 

 ツバメの会に登録する資産家は、本当に支援したいという良い人の他に世間へのアピールの為にやってくる者も一定数いたようだ。

 捨てると言っている辺り、ロティーもその者達を嫌っているらしいが利用出来るものはとことん使う主義だった。

 

 想像だが、ラス達はそういった打算的な資産家を恨んでいるところからの依頼で暗殺でも請け負っていたのではないか。もしくは、恨まれている人を招待して情報や資産を抜き取ってから殺すこともあったかもしれない。

 卵か鶏かどちらが先かも空想の域を出ないが、金持ちが集まる環境を最大限活用していたのだろう。

 

 しかし、最近になってその活動がロティーの予想を超えてきた。

 取り潰しや縮小化を検討しているところで近づいてきたジールにこれ幸いと諸々を押し付けたようだ。

 ロティーがそう言ったわけでは無いが、ここまで頭の回る人物が大切な情報の乗った書類を倉庫に放置しているのは、どう考えても怪しい。

 ジールは多分利用されたんじゃないかと勝手に思っている。

 

 そして、ロティー本人の事だ。

 会話の最中にも節々に出ていたが、身内を可愛く思えるタイプらしい。ライセンスを使って刑務所から早めに出そうと言っているところからも分かるだろう。

 まあ、金持ちが嫌いと言っていたラスに金持ちが集まる場所を任せたのは中々に鬼畜な話だ。もしかしたら裏のことを見越して入れたのかもしれない。

 

 しかし、ジールが警察に引き渡した他の人物の話題が出てこない辺り、線引きはしっかりするタイプだと睨んでいる。

 そして自身と僅かな周りの為に清濁併せ呑む気概もある。なんなら多少の利益のためなら黒いことも平気でやるだろう。

 

 ここまでの推察でジールとしてはロティー個人の事がそこまで嫌いではなかった。

 ジールも身内贔屓をするタイプであるし、人様に迷惑かけない範囲で違法なことも偶にしている。

 

 一般人よりは悪事への抵抗は低いが、引き際を知っているタイプなのでそこまでうるさく言うつもりは無い。

 ジールは遠い他人が亡くなっても精々が手を合わせて拝むくらいである。

 

 ということで、ジールの両親を殺害しようとした意思も無く、現状被害が無いロティーの事は嫌ってはいなかった。

 まあ、事件のきっかけの一部ということでツバメの会は好きではないが。

 

 

 そして解せない事がひとつ。

 

「……どこがロティーの琴線に触れたのだ。」

 

 ロティーは会話の中で同意を求めてきたり、ジールがギリギリ許容できるように話を進めている。

 わざわざそんな事までして話す必要があるのか。

 ジールとは対照的に話すのが上手いロティーなら全部濁して終わらせられるだろう。

 

 そこまでしてジールに近づこうとする意図が分からなかった。

 まあ、それを聞こうとして自意識過剰な発言になったのはジールが話すのが下手なのが原因だ。

 

「そりゃ勿論、将来有望そうな人には近づきたいでしょ。」

「……。」

「あはは、褒められなれてないの?じゃあもっと言っておこうかな――」

 

 完全にからかわれている。ジールの方を向きながら見せる表情は楽しんでいる者のそれだった。

 

「……早く入れてやれ。」

 

 このまま流されるわけにはいかないと、なんとか話を逸らそうとしたジールは入り口の方を見ながらそう言った。

 

 先程、最終確認の質問をする前に扉の前に現れた気配は十中八九使いを終わらせたタカギのものだろう。

 気づいてたんだ、意外と余裕あるんだね。とジールに語りかけながら扉の方を向いたロティーは、入室の許可を出した。

 

「失礼します、指定の書類をお持ちしました。確認の程よろしくお願いします。」

 

 手本の様な姿勢で歩いてきたタカギはそのまま封筒をロティーに手渡すと一礼してソファーの後ろへ戻っていった。

 

「うん、全部あるね。ありがとうタカギ。」

 

 紐を解いて中身を確認したロティーは後ろを振り返り礼を言う。その様子を見ていたジールは、今までの話し合いでロティーの事を信用し始めたものの2%くらいは燃やされるのではないかと心配が残っていた。

 

 ハラハラしながら見守るジールに気づきながらも特にフォローを入れたりしないロティーは確認の終わった書類を封筒ごと渡してくる。

 

 若干遊ばれている気もするジールはロティーと心の距離を取りながらもその能力の高さは信用していた。

 シンプルに“ラケルスス家資料”と書かれた封筒の中にはそれなりの量の書類が入っている。

 

「無利子で貸しにしてあげる……っていつもなら言うんだけど、今回はお詫びも兼ねてるからね心配せずに受け取ってよ。」

 

 ジールが詳細に纏められた資料に感動しながらこれでおっさんの頬をペチペチしてやろうかと企んでいるところにロティーは陽気な声をかける。

 

 まだまだ手の内を見せない相手を警戒しつつも、無事に揃った証拠にジールは呆気なさすら感じていた。

 

(爆弾の発注書に、ツバメの会の飛行船を借り受ける契約書、ご丁寧に俺の家に送る招待状の発注履歴まで残ってる。……十分過ぎて怖いぞ。)

 

 目の前の相手に湧いた興味もあるが、当初の目的は達成された。

 

 これ以上用はないとジールが鞄に資料を仕舞って立ち上がろうとした所でロティーから制止の声がかかる。

 横目で相手を確認すれば深くソファーに座ったままで会話の姿勢を崩すこと無くこちらを見ていた。

 なんなら後のタカギも座れと言うようにこちらを睨んでくる。

 

(そのまま帰すわけないってか?それともあれか、おばちゃんみたいに井戸端会議でもする?)

 

 浮かせた腰を戻したジールは、ロティーの目的を探るように視線を合わせる。そして、視線があったロティーはにっこり笑いかけてきた。

 

「もう少しお話していかない?俺、ジールに教えたい事もあるんだよね。」

 

(まさかの、井戸端会議の方ですかー。)

 

 逃がさないと言わんばかりに飲み物のおかわりを注いでくるタカギに一応礼を伝えながら、ジールはロティーの話に付き合うことを決めた。

 しかし交渉も終わったジールは自分から声をかけることは無い、お好きにどうぞと視線を向ければ分かっていたかのようにロティーは話だした。

 

「ははっ、興味を持ってくれて嬉しいよ。じゃあまずは残ったツバメの裏についてなんだけど。」

「……ロティーがやるんじゃないのか。」

「やるやる、そこまで頼れないしね。各地に散ってるのもそろそろ捕まると思うんだけど、ちょっとその後の事を伝えておこうと思ったんだ。」

 

 君にも関係ある事だから教えておこうと思って、と言ってくるロティーは珍しく言葉を選んでいるようだった。

 

 そして数度指先を擦り合わせ、纏まったのか意を決した表情に切り替わる。

 

「本命に入る前にツバメの会の仕組みについて説明していいかな?複雑なんだけどこれを言わないと伝わらないと思うからさ。」

 

 そう切り出した後に語られたのはツバメの会の人員についてだった。

 

 なんでも裏の活動をしている人の半分は念能力者だということ。そしてその中でも強さに明確な違いがあるようだ。

 

 それを聞いてジールが思い出したのは倉庫襲撃時に出会った念能力者達の事だった。

 

 実は普段ツバメの会に所属している念能力者のほとんどが発も作りたての素人らしい。

 習得した力を使って暴れたい者たちがどこからか集まって来た結果、どんどん規模が大きくなってあの様な状態になっていた。

 

 しかし、それとは別に外部からの契約で裏の活動に参加している者もいる。むしろロティーとしてはそちらが本命であり、今各地のアジトを解体しに行っているのもその念能力者達らしい。

 

(じゃあ倉庫にその人達がいなかったのはラッキーだったか、こいつがそう指示を出したということか。)

 

 わざわざ紙に棒人間を書きながら説明してくれたロティーの手元から顔を上げて相手の顔を見たジールは気になった事を聞いてみた。

 

「……随分とそいつらの事を信用しているんだな。」

 

 ロティーが簡単に他人を懐に入れる人物で無いことは既に分かっている。何人いるか分からないが、世界中に派遣できる程の人数をロティーが信用しているのは疑問だ。

 それに本命といっても結局は外部の人間なのだ、思わず指摘したジールにロティーはペンを持つ手を止めた。

 

「いい質問だね!そう、正にそこだよ。俺は彼らの事を信用している。疑問に答えるなら、同じ施設で育ったからと返そうか。」

 

 無駄に回転しているジールの頭はそこで嫌な考えが浮かんだ。その人達の事が好きなのか楽しそうに話すロティーをガン見するジールは今のナシと言わんばかりに頭を振る。

 

「俺のいた所ね、生まれつき念能力が開花していた子とか片鱗のある孤児を育てる施設なんだよ。」

 

(…………んなえげつねぇ施設を運営してる奴の面を拝んで見たいわ。)

 

 振り飛ばした思考は見事ロティーに打ち返された。

 同じ孤児院出身でね、他の派遣業なんかをやってる子に声をかけて契約してるんだ。と話を進めるロティーを余所にジールはカロリー高めなカミングアウトに胃もたれを起こしていた。

 

「まあ、皆気まぐれだから短期契約だけどね。」

 

 怖いのはこれが本命の前の説明だと言うことだ。

 小さい頃から念能力を磨いている念能力集団の存在を曝露する以上に伝えたい事などあるのか。

 

「それで、本命なんだけど……」

 

(もう何でも来いよ、……やっぱ軽いジャブでお願いします。)

 

「彼ら君に会いに行くと思うんだよね。」

「ナンデ?」

「で、それが俺の指示じゃないって事だけ知っておいて欲しくて。」

「ナンデ?」

 

 ジールは今壊れたレディオだった。それを無視して話を進めたロティーは笑っている。

 

「それは秘密さ、自分で気づいた方がいいよ?」

 

 個人主義だし一気に来ることは無いと思うから安心してと言われたジールだが毛ほども安心出来なかった。

 寧ろこの状況で安心できる人物などいるのだろうか……ひー君かな。

 

 弟なら喜んでそうだなと最早やけくそになった思考で明後日を向いているジールの事を笑いながら見ているロティーは、まだ言いたい事があるようだ。

 

 胃の辺りを摩りたくなったジールはその言葉に動きを止めた。

 

「そうそう、ジールの弟も会ったことあるんじゃないっけ?」

 

 まさかな人物の登場にテーブルに手を強く叩きつけたジールは前のめりになって詰め寄る。

 

「……いつ?危害は?」

「うん、ジールのそういうとこいいよね。ちょっと前にグラムガスランドの近くまで案内したらしいよ?外部からの依頼とかで。基本的に皆友好的だから安心していい。」

 

 元の位置に座り直したジールは帰って訪ねたら答えてくれるだろうかと、ヒソカの微妙な記憶力に賭けてみることにした。

 

「あと君も既に会ったことあるって聞いたな、ちょっと例外的で俺は会ったことない子らしいけど。」

 

 もうそろそろ驚かなくなってきた。ハンターになってから交流関係が広がったジールは特定するのも諦めかけている。

 

(スタンド使いはひかれ合うをリアルでやることになるとは思って無かったわ、しかも意図的。)

 

 もう少しロマンティックな出会いがいいなどと思考を飛ばしているジールはため息を飲み物で押し込んでロティーの方を見る。

 

「……もうないか?」

 

 サングラスで表情は隠れているが、その声には切実さが滲み出ていた。

 

「うん、誤解しないでね!って事だけ言えれば良かったし。」

「何人くらいいるんだ?」

「ん?」

「……理由は言えなくても、人数くらいはいいだろう。」

「うーん、施設自体にもそれなりに居たけどジールに会いに来るのは片手より少し多いくらいかな。」

 

 意外とすんなり教えてくれた情報に、ジールは脳内にメモをした。

 そして、これ以上疲れる前に退室しようと強い意志を持って立ち上がる。

 

「……世話になった、情報も感謝する。」

「またね!あっ、タカギ下まで送ってあげて。」

 

 シンプルな挨拶に軽く返したロティーは見送りを呼ぶ。

 やはり気の使える男なのだろう、それをもう少し会話中で感じたかったなどと思いながらジールは先を歩くタカギについて行くと一礼してから部屋を出た。

 

 

 

 

 

 来た時にも乗ったエレベーターを待ちながらラケルススの事やヒソカに問い詰める事を考えていると、タカギが話しかけてくる。

 

 僅かなモーター音のみが響く廊下で視線を合わようとしない会話は独り言のようだった。

 

「……私は長くロティー様に使って頂いている。」

 

 敬称や表現に一部引っかかるものがあったがジールは無言で流した。

 

「そして、あの方が遥か先までを考えて動かれていることを少しは理解しているつもりだ。」

「……そうだな。」

 

 確かに全てを見れたわけではないが酷く頭が切れることは同意できる。

 

「そのような崇高な方に近づけるよう日々努力は怠らない。」

 

 だんだんと白熱してきた台詞にジールは面倒事の予感がしてきた。既にお腹いっぱいである。

 

「きさ…貴方は!ロティー様に直ぐに認められ楽しげに会話をなさっていた。正直羨ましくて仕方がない。」

「……そうだろうか。」

 

 身内の選別は厳しそうな印象を受けたがタカギからすれば違うらしいと、面倒な絡まれ方でもされるのか警戒しながらジールは返事をする。

 

「あぁ、ロティー様が愛称で呼ばせるのは親しい方のみだ覚えておけ。だが、羨ましく思うのは私の力不足だそこは気にされるな。」

 

 つまり最初からロティーはグイグイアピールしてきたということか。

 信者臭のする目の前の男が教えてくれなければジールは一生気づかないような高等テクニックだ。

 

「私がき、貴殿に伝えたいのはひとつ。ロティー様に認められたからにはその全身全霊を持って応えろ!と言いたいところだが先日ロティー様に注意されてしまったからな。精々あの方の足を引っ張るような事はするなよ。」

 

 流石先読みが得意なロティーだ、部下の釘刺しもしっかり行われている。

 ジールは最初にタカギを部屋から出した理由が少し分かった気がした。

 

(なるほど、仕事のできるお兄さんかと思ったら、仕事の出来るロティー信者ということですね。)

 

 軽やかな音がなり、到着したエレベーターに乗り込んだジールはその後に続いたロティーの素晴らしい所トップ10をBGMに今日の会話を振り返っている。

 

(なんかたっちゃんに面倒な事、聞かれたかな。)

 

 鳥のような記憶力に思い出す事を諦めたジールは、減っていく数字を見ながら虚無の時間を過ごした。

 

「良いか、ロティー様の話され方は一見親しみを感じさせるものだがそれに甘えては行けない。あの方は相手の対応を見て徐々に変化させていくのだ。それに――」

 

 美人なお姉さん居なくなってるなぁ、と最早半分しか聞いていないジールは到着したエレベーターから降りていく。

 喋り続けながらも、案内役として仕事は全うしているタカギはガラスの扉を抑えながらジールに先を譲った。

 

 そして、ビルの1階に辿り着いたジールはなお喋り続けているタカギへ、どのタイミングで話しかけるか様子を伺っていた。それと同時にこんなに絡まれる原因は何かと思い出そうとして喉元で突っかかる事を繰り返している。

 

「よいか、私はロティー様を尊敬している。そしてロティー様に好きだと言われていた貴様は気に入らない。」

 

 ついに貴様と言ったか、とどうでもいいことに反応しながらジールはタカギが扉の前に来たあとの会話を思い出した。

 

『……ロティーは俺のことが好きなのか?』

『はは、急に直球でくるね。じゃあジールはツバメの会のこと、嫌いかな?』

『活動は賞賛に値するが、王子の像はしっかり選ぶことを強く進める。総評はまあまあ嫌い。』

『へえ!その本知ってるんだ。俺はジールのこと好きだよ。唾付けときたいくらい。』

『……汚い。』

 

(なるほどあれかぁ……)

 

 喉元で突っかかっていたものが取れたジールは、丁度よく途切れた台詞の間に滑り込む。

 

「ではお互い精進しよう。ここまでありがとう。」

「ちょっとまて、まだ話し足りない事が――」

 

 当たり障りのない返しをしたジールは容赦なく踵を返しタカギの元から去っていく。

 いつもより心做しか速くなっている歩調は、適当なところでジールの姿を曲がり角に消した。

 

 微妙に伸ばされたタカギの腕は宙をかきもの寂しげに降ろされた。

 

 しかしジールは振り返ることはしない、信者もといオタクの扱いはそこらの人物よりも分かっているつもりだ。

 

(オタクはな、喋り出したら長いんだ。適当なところでさっさと帰るのが吉。)

 

 心の中で説得力増し増しな発言をしながらジールはヒソカの待つ(多分)ホテルへと帰って行った。




次回はついにラケルスス家です。ある人から電話も来ます。

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