口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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引き続き流星街のお話です。

よろしくお願いします。


選ばれたのはアップルパイ

 弟の捜索も振るわず、息抜きをしようと計画したジールはゴミを集めに行く軽トラに同乗していた。

 一度は流星街でゴミ拾いをしたかったのが理由である。ジールは寄り合い所を訪ね、効率よくゴミ山に行く算段だった。

 

 ここに来て数日間滞在していればゴミ山を漁る人は何人も目撃している。その中でもメジャーなのは数人でグループを組んで資源を探す方法だ。

 

 そのグループは固定の場合が多いが、小遣い稼ぎの子供や副業にしている者達で組んでいる臨時のグループも多くある。

 ジールはそういった人達に便乗出来ないかと街中を彷徨い歩き、見事同行を勝ち取ったのだ。

 

『…………。』

『お前さん、こっちをじっと見てどうしたんだ。』

『……頼みが。』

『なんだい?面倒事はやめてくれよ。これから忙しいのさ。』

『……同行したい。』

『同行?あぁ、君も小遣い稼ぎかな。一緒に行くぶんには問題ないよ。』

『そうだな。スペースも余ってるし乗ってけよ。10枚でいいぜ。』

 

 お金のジェスチャーをしながら快く乗せてくれた人達だが、このグループは行き帰りが一緒なだけで各々でゴミ山を探すことになっている。

 軽トラの荷台で揺られていたジールも、目的地に到着してからは一人でゴミを漁っていた。

 

 ジールが探しているのは本だ。

 バランスよく積み上がっているゴミ山を崩さないように、慎重に作業を進めている。

 ゴミ拾いの目的に何故本が出てくるのか、それは数時間前に判明したある情報が絡んでいた。

 

(本屋が無いこの世の中、マジギルティー。)

 

 袖を捲りあげ、ゴミを退かすジールの目はマジだった。

 気分転換に徹夜で本を読んだジールはその続刊が欲しくなり、ヒソカ捜索と並行して本屋も探し始めたのだ。

 

 続刊を求めて最初に訪れた場所には偶然無いのだと思った。

 二つ目の場所は住んでいる人も少なかったので、そういうものかと納得した。

 三つ目の大きい街にそれらしいものがなかった時は嫌な予感もしたが、探し方が悪かったのだろうと思い直した。

 四つ目は隅々まで探した。

 

 そんな事を繰り返し、十個目の街で思い切って聞いてみればそんなものは無いと返された。

 

 ヒソカ捜索の為に情報屋を捕まえて聞いたので間違いないだろう。

 正直、ジールは嘘だと思いたかった。

 

 しかし本屋がないのはどうしようも無い。情報的に流星街には居ないであろう弟の捜索も区切りがつき、あとは切り上げるだけになったジールは最後の思い出としてゴミ山からお宝(本)を見つけることにしたのだ。

 

(たまに見つかるって聞いたし、流星街に落ちてる本とか凄く気になる。)

 

 オーラで手先を保護しながらどんどん山を崩していくジールは、一心不乱に作業をしていた。

 

 それというのも、本屋がなかったショックだけではない。実は、変死体の近くで感じた視線が地区を移動した後も着いていていたのだ。

 

 四六時中ずっと見られているわけではなかったが、街中や夜遅くなどところ構わず見てくる視線の主にジールはストレスを貯めていた。

 

(流石のストーカーもここまでついてきてないみたいだし、本を見つけたらズラかろう。)

 

 一つ目の山を解体し終わり、背後に別の山を作り上げたジールは袖で汗を拭いながら次のターゲットを探す。

 精神的にやられていたジールは、淡々とした作業にハマっていた。

 

 そして足元のプラスチックを割りながら、適当なゴミ山を漁るジールは三個目を崩し終えた時にあるものを見つけた。

 他の人よりもハイペースで作業していたジールがやっと見つけたのだから、やはり流星街でそれは貴重なのだろう。

 

 ジールはその手に持った冷蔵庫を横のゴミ山に放り投げ、サングラス越しに凝視した。

 

(赤いカバーの本!状態も良さそうだし読めるのでは!?)

 

 瞳を爛々と輝かせ、伸ばした手は目的の本を掴む。

 

(ん?)

 

 ここでジールは初めて他者の存在を認識した。

 ジールが掴んでいる赤い本の反対から手を伸ばしている者がいるのだ。

 

 ジールが少し強めに手を引いてもビクともしない本は、どうやらガッツリ握られているようだった。

 せっかく見つけた本を渡すつもりなど無いジールは不届き者の顔を拝んでやろうと視線を上げたところで静止する。

 

 不意打ちで奇声を上げなかっただけましだろう。

 

 本を離すまいと掴んでいたクロロは視線があったジールと数秒間見つめ合うと、おもむろに左の方を向き声をこぼした。

 

「なんだあれ。」

 

 貴重な本を取り合っている間に気を取られるものとはなんなのか、気になったジールが同じ方に視線をやったがそこには変わりのないゴミ山しか無かった。

 

 変化の無い風景を問おうとしたところで、ジールは手元の重みが一瞬で消えたことに気づく。

 慌てて見れば、そこにあった素敵な赤色が無くなっていた。

 

「やられた。」

 

 辺りを見ればはるか先にうっすらと影が見える。このまま追いかけようかとも思ったが、乗せてくれた同行者に何も言わなければ心配をかけるだろう。しかし、声をかけた後には見失うのが関の山だ。

 ジールは逃げられた先の方角を睨みつけ、近くの区画を思い出していた。

 

(迂闊だった〜、あとで反省会するか。……ところで本を取ろうとして手が触れ合ったわけだが、キャッとか言って赤面した方がいいのだろうか?あれだろ、図書館のお約束。ここ、図書館じゃないし目的の本はかっさらわれたけど。パンでも咥えて曲がり角で頭突きしてやろうか。)

 

 至近距離でクロロを見てしまったデレと、本を持っていかれた殺意で忙しいジールであった。

 

 残りの時間も本を探したがあれ以降見つけることは叶わず、手ぶらで軽トラまで戻ったジールは同行者に慰められていた。

 それぞれは家電や貴金属などを回収し、それなりの収穫があるようだ。

 行きよりも分かりやすく落ち込んでいるジールに声をかけてくれた同行者の優しさが心に染みまくったジールは、街に着いたあと屋台で昼食を奢ることにした。

 相変わらず言葉での表現は苦手なようだ。

 

 ガッツリした肉に喜んでくれた同行者は笑顔で礼を述べて解散していく。

 残ったジールは自分も肉を注文し、食べながらその街を出た。向かうのはクロロが向かった方角だ。

 

 慣れてきた街並みを観察しながらすれ違う人々に意識を向ける。

 数m先の気配もしっかり感じ取れることを確認したジールは先程の失態を振り返った。

 

(まさかあんなに近づかれるまで気づかないとは、不覚だった。作業に集中しすぎたのもいけなかったが、原因はストーカーの視線だろうな。)

 

 ここ数日の間に何処かから投げられる視線を鬱陶しく思っていたジールは、一度相手を特定しようと計画した。

 しかし、相手はこちらを見てくるだけで近づこうとはしなかったし、絶妙に居場所を隠されているせいでこちらから接触することも出来なかった。

 

 そうして見られていると感じるのも嫌になったジールは無意識に周囲を探るのをやめたのだろう。

 

(致命的だな、周りの気配をシャットダウンしてました、って何かあったら困るだろう。実際何か起きちゃったし。)

 

 串に刺さった肉も食べ終わり、走り出したジールは高速で目的の街へと向かっている。

 当初は接触するつもりもなかったし、遠目で見れたので満足していたジールだったが、本をパクられたとなれば話は別だ。

 ジールは相手が誰であろうと取り戻すつもりだった。

 

(まぁそれよりも、あんな古典的な方法で騙されたのがヤバすぎる。)

 

 一瞬で過ぎていく景色に軽く注意を向けていたジールだが心中ではバッチリ落ち込んでいた。

 

 気配に気づかなかったというだけなら、相手が上手だったと言い訳できたかもしれないがあれは無い。

 自分のチョロさに悶えたジールはその感情をぶつけるように力を込め、走るスピードを上げた。

 

 足元のゴミを踏みつけながら進むジールは、普段よりも早く街に着いただろう。

 

 

 

 

 あの時クロロが走っていった方角にある街に到着すると、ジールはその足を止め街中を観察するように見渡した。

 

 何故あのタイミングでクロロが接触してきたのか分からないうちは、相手のテリトリーに入るのも躊躇われる。

 なんならクロロに認知されている可能性を小一時間議論してから捜索に乗り出したいが、あいにくと時間に余裕は無い。

 クロロが移動する前に見つけたいジールはひとまず街中を歩きながら探すことにした。

 

 大きな通りもある区画は中央とほとんど変わらない発展具合だ。

 服装も外と同じようであったし、目に焼き付けたクロロの格好もこれくらいのものだった。

 

 ジールは住宅地の路地や、隠れやすそうな場所などを中心に探している。

 倒れた瓦礫が重なり入口となっている家やジメジメとした箱の中まで隅々を確認した。

 

 それでも見つからなかったジールは通りまで戻り作戦を練り直そうかと適当な壁に寄りかかる。

 

 ジールはあの赤い本には何が書かれていたのだろうかと、攫われたものを想い。クロロが居そうなところを考えた。

 今は人通りが多い時間帯らしく、食べ物を買いに来ている人が何人もいた。その中に紛れているのか、はたまた何処かに身を潜めているのか。

 拠点まで戻られていたら場所の割り出しからになってしまうだろうと出来れば避けたい状況までを想定し、ジールはひとまず休憩をとることにした。

 

(聞き込み出来ればいいんだけど黒髪の子供なんてそこらじゅうにいるし、名前を出すわけにもいかないからなぁ。)

 

 ゴミ山を解体し、そのままクロロの捜索までやっていたジールは小腹が空いていた。肉だけでは足りなかったらしい。

 

 通りの先にはどうやら飲食店があるようで、屋台の前にテーブルが並んでいるのが見える。

 ちょうど日当たりも良く、考え事をするのに最適だろうと足を向けたジールはその一席にクロロを見つけた。

 

 ジールが散々探していた相手は二人組の席に一人で腰掛け、コーヒーをお供に優雅に読書をしている。

 様子を見る限りずっとそこにいたようだ。

 ジールは今までの苦労はなんだったのかと打ちひしがれ、どうやって接触しようかを悩む。

 

 声をかけたら逃げられるだろうか、そもそもこの距離なら気づかれていそうだ。

 ジールは特に気配を消さないまま飲食店に近づいたため、これから気配を消すのも不自然だろうと普通に近づくことにした。

 

「……。」

「……。」

 

 クロロが読んでいる本が先程の物と同じであることを確認したジールはそのまま奪いたくなる衝動を抑えて、クロロの目の前に座ってみた。

 

(落ち着け、奪ったら相手と同じだからな。こう上手く対話をして……出来るのか?)

 

 ジールが座っても反応を示さないクロロは果たしてこちらに気づいているのか、否か。

 読書中に周りを忘れることが多々あるジールとしてはワンチャンありそうだと考えていた。

 

 日当たりの良い席で、確かに読書スポットに向いているなと適当な感想を浮かべながらジールは暫くクロロを観察する。

 

 そして、クロロが本に目を向けながら手探りでコーヒーのカップを取ろうと手を伸ばした。

 若干の悪戯心が疼いたジールは、スッとカップをずらしクロロの手元から遠ざける。

 

「……なんだ。」

 

 反応を見るにジールの存在には気づいていたようだ。本から視線を外さないまま投げられた言葉は、やっとアクションを起こしたジールに向けられたものだった。

 

「……分からないか?」

「……。」

 

(返事が無いただの屍のようだ……じゃなくて、これはあれか?無視されてる感じ?泣くよ?)

 

 何度か呼びかけてみたが、たまに気のない返事が帰ってくるだけだった。

 ジールはそんな様子のクロロを見て、読み終わるまで話し合いは無理だろうと結論付ける。

 

 読書を邪魔されたくない気持ちは正直分かるので、読み終わるまで待ってやろうと店にお茶とデザートの注文をしに行ったジールは、自前の本を出して読み始めた。

 

 ジールが鞄から本を取り出した時に一瞬クロロが動いたようにも見えたが、結局二人は無言で向かい合ったまま読書を続けた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 お互いに黙々と読書をすること数時間後、先に読み終わったジールが焼き菓子を食べながら追加のお茶を飲んでいると本を閉じたクロロが視線をこちらに投げてきた。

 

「何か用か?」

 

 本気で分からないのかと思ったが、その表情は明らかにからかっている。

 

(白々しいなぁ、おい。)

 

 読書タイムを挟み、穏やかになっていたジールの気持ちは一気に振り出しまで戻った。

 引き攣る口角をそのままにクロロの手元を指さしたジールは漸く用件を述べた。

 

「……その本を返して欲しいんだが。」

「返す?オレが手に入れたものだぞ?」

「……渡してもらおうか。」

「ふむ、ならば交換条件といこう。」

 

 クロロのペースに乗せられているのは分かるが、現在の所有権を言い争うつもりは無い。ジールはその本が手元に来れば満足なのだ。

 交換条件の単語に身構えそうになったジールだったが、目の前のクロロがどこか楽しそうなのを見てとりあえず聞くことにした。

 

「オレも読書は好きなんだ。お前の持っているベリクスの著書と交換なら渡そう。」

「……。」

 

(ちょっと待とうか、なんで俺がその本持ってること知ってんの?)

 

「……なぜ?」

「何に対してだ?ベリクスは前に読んだことがあって、他のも読んでみたかったから。所在を知ってるのは……お前が二日前に読んでいるのを見たからだ。」

 

 ことも何気に暴露されたのは明らかなストーカー宣言だったが、ジールはクロロが自分をストーカーしている事実を受け入れたく無かった。

 ということで、ひとまず聞かなかったことにしたようだ。

 

「……それを渡せばいいんだな?」

「ああ、ひとまずそれでいい。」

 

 テーブルの上に置かれた赤い本はクロロの手を離れジールの方に向けられている。クロロが指定してきた本は外で簡単に買えるものだ。自身のコレクションだということを除けば渡すことに躊躇いは無い。

 

 ジールは本のひとつを手放すことを若干ショックに思いながらも、流星街で発掘した本はやっぱり欲しいと交換を決めた。

 鞄の中から最近読んだ本を取り出し、クロロの方に見せれば先程よりも楽しそうな雰囲気が強くなる。

 

(嬉しそうにしてくれるのはこっちも嬉しいんだけど。うーん、俺のメンタルを削った原因がクロロ=ルシルフルだとは、違うものだと思ってたよ。)

 

 クロロがしっかり本を受け取るのを見て、ジールも赤い本を手に取る。

 衝撃の事実にぶん殴られはしたが、手元に初めての本が戻ってくるのは嬉しい。

 

 ジールとクロロは二人して本の表紙を眺め、満足そうに頷いた。

 

 そして再び読書を始めるかと思われたクロロだったが、本を開くことなくジールの方に向き直っている。その事に驚いたジールだったが、こちらも本は鞄に仕舞いクロロの方を向いていた。

 

 話しかけるのが苦手なジールは不思議に思いながらもクロロを待つしかない。

 何やら考え込んでいる様子のクロロを横目に中々会話が始まらないなと気を逸らしたジールは、店で追加のアップルパイを注文してきた。ワンホールで。

 

 時間帯的には早めの夕食だろうか、お茶とアップルパイを持って戻ってきたジールはマイペースにもそれを食べ始める。

 

 最初はひっそり緊張していたジールだったが、初めの仕打ちとストーカー発言を思い出し色々と吹っ切れた。

 

「お前はどれくらいの本を持っているんだ?」

 

 クロロは視線をアップルパイに固定しながら唐突に話し出した。

 

「……それなりには。気になるのか。」

「あぁ、気になるな。」

「こちらの質問に答えるなら教えよう。」

「いいぞ?」

 

 アップルパイから外れない視線を気にしつつ、息を整えたジールは控えめに尋ねた。

 

「何故、俺の後をつけてきた。」

「……お前が本を読んでいるのを見つけて盗ろうとしたんだがタイミングが見つからなかった。そのまま後をつけたら色々出てきたから観察させてもらったぞ。」

「……。」

「それで、質問の答えは?」

「二〜三千冊くらい。」

 

 それを聞いたクロロは驚いた表情を隠さず見せる。色々してやられてきたジールはそれを見て少しスッキリしていた。

 

「興味深いな。……おっと、そちらに転がってしまったな。取ってくれ。」

 

 冊数を聞いて何やら思案をしていたクロロだったがそれも一瞬のことだ。

 空のコーヒーのカップに手が当たってしまったようで、落ちたカップを取るようにジールへ声をかけてきた。

 

 赤い本の事で疑り深くなっているジールはセリフの棒読み加減に引っかかりながらも、頭を下げテーブルの下に転がっているカップを拾い上げる。

 

 そのまま左手はテーブルの下に隠しながら右手でカップを見せれば口をいっぱいにしたクロロと目が合う。

 

(こいつ、最後の一切れ食いやがった!)

 

 空になったアップルパイの皿の上にはクロロの方を向いて置かれているフォークだけが残っている。

 アップルパイをじっと見つめていた意味を理解したジールだったが、やられてばかりでは無かった。

 

 雑な手口だった為向こうも気づいているようだがもう遅い。左手に持った本をチラつかせながらジールは笑顔で声をかけた。そう、クロロに渡したベリクスの本だ。

 

「……随分食い意地が張ってるな?」

「返してもらおうか。」

「俺の手元にあるのに?」

 

 テーブルの下で足を踏みにきたクロロを抑えつつ、余裕を見せつければ軽い舌打ちを返された。

 

「……用件は?」

 

 先程とは逆の立場になる。

 ぶっちゃけ、ジールは取る瞬間にバレて邪魔をされると思っていた。なので、クロロが食べ物を優先したおかげ盗れたようなものなのだ。

 

 少しやり返せればそれで満足だったジールは、大きな要望を通すつもりは無い。

 笑いながら本をクロロの方に向け、ささやかな条件をだした。

 

「……名前。」

「クロロ=ルシルフルだ。」

 

(よっしゃあ!これでうっかり呼んじゃう心配も無くなった。)

 

 心の中でこっそりガッツポーズをしたジールは、さっさとクロロに本を返した。

 最初の時よりも心做しか丁寧に受け取るクロロを見ながらジールは頬杖をつく。

 

「……クロロ酢酸、知ってるか?」

「それはお前が博識であることを伝えるためのものか?些か不十分だな。」

「……渾名“さっくん”なんてどう?」

「……それはオレの原型がないのでは。」

「だから初めに言っただろう。」

「………………なるほど。」

 

 脈絡をぶっ飛ばした会話に付き合ってくれる辺りただの意地悪野郎ではないようだ、と頷きながらジールはお茶に口を付ける。

 上手い前置きも思いつかず、むしろ珍しく由来を説明しようとして失敗したジールはクロロの読解能力の高さに感謝をしつつ席を立った。

 

「もう行くのか。」

「……ああ、じゃあなさっくん。」

 

 ジールに後を付けさせないためか、先に席を立つ気配の無かったクロロに軽く手を振ったジールは意気揚々と歩き出す。

 色々してやられたが、目的の本は手元に戻ってきたのだ。今夜にでも早速読んでしまおうかと通りを歩くジールは帰り道で肉を買っていた。

 

 その様子を見ていたクロロは十分に離れたことを確認して席を立つ。その手には来た時とは違う色の本が握られている。

 

「……本当に呼ぶとは。」

 

 反対方向に歩き出したクロロは、思わずといった様子で呟いた。

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 月明かりが差し込むスポットを見つけたジールは、やっとの思いで手に入れた本を開いている。

 しかしその手はページを捲ることなくある一部を抑えていた。

 

(ストーカーがクロロなら、これはなんだ?)

 

 アテが外れたな、と細い声が漏れる。

 擦るように触れた首の後ろには二つに増えたイボの感触があった。

 

 

 




次回のジールは事件に巻き込まれます。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
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