よろしくお願いします。
人の集まる区画から離れた小屋には、仕事も無く外に出る気分でなかった者たちが残っていた。
いつもの定位置で昼寝をしていたり、気分転換に刀の手入れをしている者など各々の過ごし方で時間を潰し、偶に会話をする。
変わりのない日常に変化があったのも少し前の話だ。直ぐに慣れていった面々は、既に自分のペースを取り戻していた。
朝早くに出ていった団長はいつ戻ってくるのか、他の面々はどうしているんだと暇つぶしの会話をしていると階下からやってくる気配に気づく。
侵入者ならば気が向いた者が出迎えに行くが、物音を立てずに上ってくる人物にその必要はないだろう。
「今戻った。……意外と残ってるな、人手が欲しいんだがシャルかパクノダはいるか?」
部屋の入口から現れたクロロは中を見渡し、見えない顔の所在を尋ねた。
窓辺に寝転んでいたウボォーギンがその声に上体を起こし隣室の方を指さした所で、タイミングよく出てきたシャルナークが顔を見せる。
「どうしたのクロロ、仕事?」
「いや、頼まれはしたが個人的に気になっているものだ。時間があるならついてきて欲しい、いけそうか?」
シャルナークの言葉に部屋で過ごしていた団員たちの視線がクロロへ集まったが、程なくしてその注目は外された。
「おっけー、ちょっと待ってて。」
やりたいことも特に無かったシャルナークはクロロの話を快諾し、広げていた道具を片付け始めた。
どうやら拾ってきた家電の修理をしていたようだ。
物を自分の場所へしまってきたシャルナークの手際は良く、直ぐにクロロの元へやってくる。
「何を調べに行くの?」
「最近発見された変死体の調査だ。話を聞く限り念能力者が絡んでいるだろう。」
「強そうな奴だったらオレも呼んでくれー!」
シャルナークがクロロに話を聞こうとすると、外からガヤが飛んでくる。声の方をみれば再び昼寝の体制に入っていたウボォーギンだった。
二人はウボォーギンに軽く返事を返しながら部屋を出る。
ひとまず街まで行って様子を見ようと相談しながら、クロロとシャルナークは変死体の犯人探しに乗り出した。
※※※※※※※※※
アジトにしている建物から一番近くの区画を目指している二人は、今までに見つかっている数件の死体についての情報を擦り合わせていた。
「へぇー、外傷は打撲と骨折だけなんだ。刃傷はないの?」
「全員、どこかに強く打ち付けたり高い所から落ちたような怪我をしている。」
「それで死んでるって言うには軽い怪我もあって微妙だね。やっぱり死因は別なのかな。」
クロロが持ってきた写真を覗き込みながら自身の考えを述べるシャルナークは、写真のある一点を見つめていた。
やはり気になるものだろうと内心で同意を示したクロロはその点を指さし、自ら話題を振る。
「おそらく、頭部を中心に上半身に広がっているこのイボが関係しているだろう。何かしらの影響を人体に与えているとみて間違いない。」
歩みを止めることは無かったが、シャルナークは死体の様子に気分を悪くしているようだった。
流星街ではまともな死体を見かける方が少ないが、それとは系統の違う気持ち悪さだ。
シャルナークは眉間にしわを寄せ嫌そうな顔をしている。それを見たクロロもさっさと次の話をしようと別の紙を手渡した。
「それで次の犯行場所だが、この近辺である可能性が高い。」
「うん、死体の位置が段々移動してる。日数的に考えても犯人は移動しているっぽいや。」
「そういうこと……」
地図のバツ印をなぞるように描かれた線は、近くの区画で止まっていた。
己の見解と一致した返事にクロロが応えようとしたところで、その言葉は不自然に途切れる。
それに気づいたシャルナークもその次の瞬間にはクロロと同じ方向を向いていた。
誰かがこちらを見た気配がしたのだ。
二人の視線の先には瓦礫に腰をかけ昼食を食べている一人の青年がいた。
こちらを見ていた様子もなく、シャルナークは見られていたとしても偶然だったかと直ぐに興味を失ったが、どうやらクロロは違ったようだ。
かなり離れた所にいるにもかかわらずその人物を熱心に観察している。もっと正確にいうならば、青年の持っている本に熱い視線を投げていた。
流星街では本を持っている人物をあまり見かけない。中央の学び舎や、長老辺りの知識人が管理している物はあるが、彼の持っているものは個人的なものだろう。
このまま向かって話を聞いてもいいが、今は別の用事が待っている。
さっさと歩き出していたシャルナークの後を追いかけ、街へと入ったクロロは路地裏や空き家などを中心に見て回った。
自身のコレクションに加えられそうな能力かどうかを見極める為にも、一度は死体を直に見ておきたい。
「クロロー、こっちの方は無かったよ。」
手分けをしているシャルナークは一通り見終わったのだろう。手を上げながら合流してくる姿は少し残念がっているようでめぼしい情報は無かったらしい。
クロロ自身も犯人の影やその死体を見つけることが出来ず、日を改めてようかと考えていた。
捜索場所にそのまま合流したため、路地裏という薄暗い所で立ち話をしていると、少し先で微量のオーラを感知する。
厳密には大きなものが落ちる音に反応し、その周辺を探った時に気づいたのだ。
「ねぇ、これって……。」
「一度見に行く、周囲の人間も観察するから気配は消しておけ。」
「分かった。」
行った先で、二人は屋台の間に倒れている成人男性の死体を見つけることになる。
その周りには物音に気づいた住民が集まってきているが、その数はまばらであった。
怪しい行動をとる者が居ないかを確認しつつ、建物の屋上に身を潜めているクロロ達は死体を見ながら小声で話している。
「さっきの物音って、あの死体が落ちた時の音かな。向かいの建物の窓も開いてるし。」
「ああ、足の骨折もその時のものだろう。」
開いている窓から部屋の様子を伺うクロロだったが、内部が荒れている以外に分かることはない。
窓辺の椅子が倒され、ぶつかった時に割れたのか食器類が床に散乱している。
その部屋に他の人の気配もしないことから、クロロは死体の男性が自分で落ちた可能性が高いと考えていた。
そうして死体の様子や、周囲を観察していると騒ぎを聞きつけて集まる野次馬が増えてくる。
その中から死体の回収を呼びに行った者も現れた。
それを見てそろそろ引き上げようかと、目的を果たせて満足したクロロがその身を起こした時のことだ。
クロロは通りの方に集まる野次馬の中に見知った顔を見つけた。
「彼、さっき区画の端にいたやつだろう?気になる事でもあった?」
野次馬の群れから抜けて去っていく男を見ながらシャルナークはクロロの言葉を待った。
今回、シャルナーク自身はあくまでサポート役としているつもりのようだ。
クロロはジールを近くで見たことにより、その身のこなしが一般人のそれでは無いことに気づいた。
また、先程のジールの所持品を思い出しある仮説を立てる。
「シャル、今回の犯人像はどう考える。」
「うーんそうだなぁ、念能力者なら最近目覚めたばかりの人間か、外部から流れてきた奴の可能性が高いかな。見た感じ自己主張も強そうだし、前から能力を持っていて潜んでたとは考えにくいですね。」
顎に手をあてて考える仕草をみせたシャルナークにクロロも全面的に同意した。
その上でジールの方を指差すクロロは今後の行動をシャルナークに伝える。
「あれは外から来た者だろう。暫く様子を見る。シャルは中央に行って今回の死体の話を纏めてくれ、それと――」
ジールが流星街では珍しい本を持っていたのを考えれば、その入手経路は簡単に予想がつく。他にも服や靴の形など理由を上げればいくらでも出てくるが、クロロは純粋にジールに興味を持っていた。
本人も自覚していないほどの些細なものであるが後を付けて様子を見ようと思うくらいにはクロロの意識の中に存在している。
そうしてシャルナークに指示を出したクロロは見失わないようにしながらジールの観察を始めた。
ジール風に言えばストーカーの誕生である。
一方でいくつかの作業を押し付けられた形になったシャルナークはその量に頬を膨らませつつ、アジトにいた誰かに手伝わせようかと考えていた。
後を付けるといってもクロロはずっとジールの事を見ているわけではなかった。
お腹が空けば適当に飲食店に入ることもあり、シャルナークと話を進める為にアジトへ戻ることも頻繁にある。
その都度、観察対象の様子を見てタイミングをはかりながらその場を離れていたが、クロロは途中から簡単に観察を切り上げるようになった。
(特に隠れる事も無いし、同じ区画にいるうちはそんなに気を張らなくてもいいだろう。……本を取り出した時なんかは数時間動かないからな。)
ジールが空き家に入り本を取り出したのを確認し、夕食を食べに来たクロロはここ数日で見えてきたジールの行動パターンを分析していた。
見る限りでは単独行動、他者との接触は頻繁に確認出来たがどれも一時的なもので情報収集をしているのではないかとあたりをつける。
あまり近くに寄ると気づかれてしまうため会話の内容はよく分からないが、男に話しかけられていた人物に聞いてみれば人探しをしているようだった。
(未だに念能力者かも確認出来てないが、変死体の犯人である可能性は低いだろう。)
通りがかりに店先のパンを盗ったクロロは、ジールのいる空き家に向かっていた。
途中で絶に切り替え、なるべく気配を消してから近づく。
観察対象の男は身のこなしから推察したとおり、かなりの手練であった。どれだけ気配を消していても一定の距離まで近づけは必ず警戒態勢に入るのだ。
同様に、意識して男を見る時はどんなに離れていても絶をしていなければ気づかれてしまう。
その事もあってジールのオーラが如何に一般人のそれでも、クロロは念能力者でないかと疑っていた。
月明かりの差し込む空き家の窓辺に凭れている男は、クロロがその場を離れた時と変わらない様子でいる。
手元にある本は昨夜の続きなのだろう、絵がたくさん描かれている書籍の通し番号がいくつか進んでいた。
一見、無防備に感じる後頭部を確認したクロロは数件離れた建物の屋上からジールを眺める。
変死体の件に関してはほぼ白。これ以上後をつける理由も無いが、念能力者ならばその発がどのようなものか興味があるし、日毎に変わる書籍のラインナップについても聞いてみたい。
どのタイミングで接触を図ろうかと悩むクロロは、見ているだけの暇な時間に飽きていた。
そんな時は絶を一瞬だけ解いてオーラを僅かに滲ませるのだ。すると、男は身動ぎをし辺りを探りはじめる。
流石に何十mも離れた場所で見つかるつもりは無いが、優秀が故に振り回されている男を見るのは楽しかった。
わざわざこのような遊びをする自分を意外に思う。案外早く見つかって話をしてみたいのかもしれないと考えながらクロロは再びオーラを絶った。
当然、ジールがこの話を聞いた日には安眠妨害で訴訟も辞さないだろう。
※※※※※※※※※
(思っていたより面白い奴かもしれない。)
つい先程、ゴミ山で出会った時の事を思い出しているクロロは上機嫌だった。
外見やその隙の無さから冷静なタイプかと思っていたが、あの様な簡単な手に引っかかるとは意外と人間味のある奴なのかもしれない、とクロロはここ数日の認識に修正を入れる。
近くの街に入ったクロロは待つのに良さそうな店を適当に見繕い、飲み物を注文していた。
その手には相手の男から盗ってきた赤い本が握られている。
そして、コーヒーを片手に日当たりの良い席を選んだクロロは椅子に深く腰掛けながら、男が来るであろう方向を見た。
あの時、手を覆っている完璧なオーラ操作も見ることができ、男が念能力者だと分かったのも嬉しい。
早く話をしてみたいクロロはコーヒーに口をつけ喉を潤すと、ジールが来るのを待った。
(……遅いな。)
十分程が経過した。てっきり直ぐに追いかけてくるものだと思っていたクロロは、姿を見せない男に肩透かしを食らっていた。
男を観察する限り、あれは自分と同じように書物に価値を見出すタイプだろう。
熱心に本を探している姿も見ていたため、奪われたら直ぐに追いかけてくるものだと考えていたクロロは見事に予想が外れた。
この時のジールは未だにゴミ山を漁っているし、その後に同行者へ肉を奢ったりと寄り道をしているため暫くは来ない。
勿論そんなことは知らないため、クロロはすこし不貞腐れた表情をしながら盗んだ本を開いた。
どうやら時間を潰すことにしたらしい。見つけた本人よりも先に読んで当てつけにするつもりのようだ。
思っていたよりも赤い本が面白かったため、そのまま読書にのめり込んだクロロだったが、興味の惹かれない内容であれば直ぐにでもアジトへ戻っていたことだろう。
それから更に数十分後、やっと男が姿を見せたが待たされた腹いせとちょうど本の内容が良いところだった為クロロは無視する事にする。
一度、コーヒーを取る邪魔が入ったが気にせずに本を読み続けていれば相手も諦めたように席へ座った。
ちゃっかり飲み物とデザートまで注文して席に座る男はこちらを警戒していないようだ。
(普通、盗んだ相手の目の前に座るものか?……隙は無いものの、随分マイペース男だな。)
当初の目的を横に置き、自分のことを棚に上げるクロロはブーメランが刺さったまま読書に耽っていた。
それから暫くした後に本を読み終えたクロロは、ジールとの会話を楽しんだ。
相手はまさに冷静そのもの。こちらが煽ったとしてもペースを乱すことなく返事をしてくる。
どうやら言葉数は少ないようだが、それも相手の調子が崩れていない証拠だろう。
ひとまず赤い本と欲しかった本をトレードしたクロロは満足気にしていた。
多少待たされたこともチャラになるくらいには気になっていた本だったのだ。
相手がアップルパイを追加で注文してきたのには気をとられたが、話の流れから相手が大量の書籍を所持していることが聞き出せた。
(となると、発は収納系の能力か?……その中身ごと欲しいな。)
落ち着いたトーンで交わされる会話も楽なものだが、アップルパイが食べられたと分かった時の表情は傑作だった。
本人は表に出したつもりは無かったようだが、見開かれた目と引きつった口元を見ると、その仮面を剥がせたようで愉悦が込み上げてくる。
(しかし、オレが一本取られるとは。勧誘してみようか。)
盗んだ本ごと逃げていたらその足を切って引き止めるつもりだったが、どうやら相手は交渉を望んでいるようだ。
「……用件は?」
「……名前。」
端的に告げられた言葉を咀嚼する。それを聞いて何になるのか、警戒で動きそうになる手を押さえて相手を見返した。
「クロロ=ルシルフルだ。」
その瞬間、相手が浮かべたのは歓喜。能力のトリガーだったかと対策を立てようとしたところで、クロロはその感情に裏がないことに気づいた。
つまり相手の男はただ名前を聞いて喜んでいるのだ。
平静を保つその表情の下で何を考えているのか本当に分からない、と混乱しているクロロにさらなる追い討ちがかかる。
「……クロロ酢酸、知ってるか?」
「それはお前が博識であることを伝えるためのものか?些か不十分だな。」
唐突に振られた会話に返事をするが、その意図は一切分からない。
「……渾名“さっくん”なんてどう?」
「……それはオレの原型がないのでは。」
「だから初めに言っただろう。」
「………………なるほど。」
淡々と話していた男が突然名前を付けてきたのは何故なのか、数日間の観察で思い描いた男の印象はこの数時間で大きく塗り替えられた。
想像をいい意味で裏切って来た相手に、クロロは自身が抱いた興味を自覚する。
「もう行くのか。」
「……ああ、じゃあなさっくん。」
立ち上がった相手に言葉をかければ、先程の押しの強さが嘘のようにあっさりと分かれの挨拶を返された。
姿が見えなくなったのを確認して立ち上がったクロロは、男が去っていった向きとは反対の方向へ歩き出す。
僅かな会合に、ただの冷静な男ではないようだと認識を改めたクロロはその日一番の驚きを口にする。
「……本当に呼ぶとは。」
久しぶりにアジトでゆっくりしようかと、暗くなった夜道を辿り内部の様子を探りながら階段を登っていく。
クロロが一番広い部屋に顔を出したところで、ちょうど出ようとしていたシャルナークと出会った。
「あれ、戻ってきたんだ。」
「例の男と接触できたからな。」
シャルナークの手には数枚のプリントが握られていた。
クロロが男と話したことを掻い摘んで話せば、シャルナークはその発の有用性に気づき頷いている。
「条件にもよるけど、その能力なら物資の運搬に役立つね。」
「ああ、中の本もまとめて盗みたいくらいだ。」
「それで、男の名前はなんだった?」
能力のメモをとっていたシャルナークがなんとなしにクロロへ尋ねる。
能力の予想がつくほどに接近したのだから名前くらいは知っているだろうと、情報を纏める為に聞いたようだった。
しかし、クロロは何かに気づいたような表情のまま固まっている。予想外のリアクションに、聞いたシャルナークも部屋にいた団員達もクロロに注目していた。
「……まさか、」
「ああ、聞いてない。」
クロロ自身もまさかこんなミスをするとは思っていなかったようで、その表情はどこか落ち込んでいた。
珍しい様子のクロロに話の詳細が気になってきたシャルナークだったが、手元の資料について先に話してしまおうと一番上にあったものをクロロへ手渡している。
「それで、身元を調べてたら気になることが出てきたんだ――」
「ほう、ならついでにあいつも巻き込もうか。」
どうやらイボの発生から死亡までには二、三日の期間が開いているらしい。
そして死体の死亡場所はそれぞれバラけているが、イボの発生場所はアジトの近く……つまりクロロ達が最初に死体を見つけた場所だった。
ここ数日で新しく死んだ者も例の区画を訪れていたことが判明している。
つまりクロロやシャルナークもイボが発生する可能性があるということだ。そして、その区画で見かけた人物がもう一人。
名前を聞きに行くついでに巻き込んでしまおうと決めたクロロは、アジトにいる数人に声をかけ犯人確保に乗り出した。
※※※※※※※※※※※
朝日が差し込む爽やかな目覚めに、珍しく夜更かしをしなかったジールが寝袋から顔を出した。
数時間後には予期せぬ再会と興奮で血管がちぎれているだろうが、現時点ではピンピンしている。
(あぁー、昨日は気づかなかったけど俺はさっくんこと、クロロをストーカー呼ばわりしていた訳でして。旅団の皆さんにバレて闇討ちされないか不安なんですけど。えっ、やっぱり早く流星街から逃げるべき?)
むしろ朝から思考がフルスロットルだった。
クロロに冷静で何を考えているか分からない男と言われていたが、こんな思考は悟られない方がいいだろう。
そもそもジールはストーカーのことを口に出していないため、旅団員に闇討ちされる心配はないのだがそれを教えてくれる友人がジールにはいなかった。
寝袋を畳みながら要らぬ心配に思考を割いていたジールはそれを片付け終わった辺りでやっと落ち着き始める。
適当なレーションを齧りながら流星街を出る準備を進めるジールは、唯一の気がかりであるイボについて悩んでいた。
(能力者から離れても消えなかったらどうしよう。首の皮ごと削ぎ落とそうかな。)
既にイボが発生してから十日が経とうとしている。
初めは混乱したものの、ジールはイボが寄生先の生命力――オーラを養分にして育っていることが分かり、その部分のオーラを絶ち成長を遅らせることが出来ていた。
それでも少しずつ成長していることに変わりはないため、犯人を捕まえて止めようとしていたのだ。
てっきり視線を送ってくるストーカーがイボの能力者だと思っていたばかりに、ジールは犯人の目星を完全に無くしている。
振り出しに戻ったジールが一晩で考えた方法は、能力の影響範囲から逃げること。
もし条件が違いイボが消えなかった場合は物理的に取り除こうという脳筋的な考えだ。
一通りの荷物を纏め終え、鞄を肩にかけたジールは遠くから近づいてくるオーラの集団に気づいた。
(流星街でこんなに強そうな人達がたくさんいるだろうか、いや居るまい。)
幸いにも扉付きの空き家に泊まっていたジールは、乱立するフラグの音を聞きながら扉の向こう側を想像する。
そしてオーラの集団は通り過ぎることなく扉の前に留まった。
心を落ち着ける為に数えた人数は四人。
ジールが興奮で倒れるまで十秒を切っていた。
ジールの知らないところで起きていた話になりました。
次回からはジール視点に戻ります。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
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