口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回は混乱中のジールから始まります。

よろしくお願いします。


事件が起きるのは路地裏

(はわわわ……。)

 

 人には処理能力というものがある。本来ならば見聞きした情報を処理し理解するのだが、稀にその容量を超えることもあるのだ。

 

 そう、俗に言うキャパオーバー。

 ジールに前世での社会経験がなければ、取り繕うことも出来ずに間抜けな顔面を晒すことになっただろう。ギリギリのところで体面を保てたのは流石である。

 まあ、そのキャパオーバーも前世の記憶からきているので実質のプラマイはゼロだ。

 

(なぁんで旅団の方がこんなところにいるんですか?俺、握手会のチケット当たってなかったはずですけど??まあ、そんな倍率エグそうな握手会、開催されてないけど。それにしても顔が良いな、昨日で許容摂取量限界なんですが。しかも若い。俺の目がやられるぞ、圧倒的金髪率だしな。どうするさっくん、君以外はみんな金髪だぞ。俺と一緒に黒髪同盟組む?…やっぱ畏れ多いので遠慮しますわ。ごめん、一人で頑張って!さっくんの顔面ならいけるよ!!うん。)

 

 ここまでの思考がコンマ数秒。扉をノックされ、開けたジールがクロロとシャルナーク、フィンクス、パクノダと四人を認識してからの出来事である。

 

 扉に一番近いところで立っていたクロロは、開けた体勢でこちらを見てくるジールに何と声を掛けようか悩んでいた。

 

 区画から外れたところにポツンと建っている空き家の扉に集まる面々は傍から見れば珍妙そのものだ。

 無言の中で過ぎていく時間に微妙な空気が流れ始めた頃。やっと一人目の人物が話し始めた。

 

「とりあえず用件を話してみれば?」

 

 クロロの次にジールの情報を持っていたシャルナークが進まない会話を前進させてくる。

 ジールは自分に用事がある様子に驚きながらも、固く口を噤んでいた。今喋ったら余計な思考も漏れ出るだろう。

 

「そうだな。お前に話があってきたんだが、何処かで話せないだろうか。」

「……なら中で。」

 

(……これから流星街を出る予定はキャンセルだよな。この質問にNOと返せるオタクに会ってみたいぞ。絶滅危惧種だろ。)

 

 半開きになっていた扉を大きく開き、中へ招くように身体をズラしたジールは四人を視線で促した。

 クロロの言葉にジールの出方を伺っていたメンバーはその様子に驚いた表情を見せる。

 簡単に話を聞く姿勢となったことに驚いたのか、自身のテリトリーであろう室内に招き入れたことが衝撃だったのかは分からないが予想外だったことは確かだ。

 

 そんなジールは入ろうとしないクロロ達に対して不思議に思うことはあれど、首を傾げることすらせずにじっと姿勢を保っていた。

 そして暫くしてから痺れを切らしたジールが中に入るようにジェスチャーをして全員を押し込んだ。

 

「……出ていくつもりだったから、罠も無いぞ。」

 

 少々強引だったかと思ったが、あの体勢で待つのもおかしな話なのでフォローを入れたジールは四人をリビングに通した。

 

 適当に持ってきた廃材の机を囲んでいる四人を心のシャッターで記録しながら、ジールは用事について考える。

 昨日会話をしたクロロが訪ねてくるのはまだ分かるが、会ったこともない旅団員も一緒にいるのが解せない。

 

(はっ、やっぱりストーカー呼ばわりに怒った皆様がリンチしにきたのでは!?)

 

 案内したはいいものの、室内に椅子は一脚しかない。元々ジールが一人で使っていたので当然ではあるが、誰も座ろうとしない中で一人椅子を使うのは気が引ける。

 脳内で大きな独り言を喋っているジールは、誰の間に入ろうかと悩んでいた。

 入る場所を間違えた瞬間横から冷たい視線が飛んでくるのではないかと杞憂しているのだ。

 

 結局、旅団の中に割り込めなかったジールは窓際に凭れかかり、それっぽく流すことにした。

 

「……それで?」

「まあ、自己紹介でもするか。」

 

 ジールが緊張しながら話しかけたが、クロロはあっさりとしたものだった。

 

「こっちがシャルナーク。フィンクス、それとパクノダだ。」

(あー、シャンシャンとパク姉さん。フィー……、ファラオで。)

 

 原作に登場するキャラの名前は覚えているが、ジールなりの親愛の証だった。

 名前を紹介すると同時に分かりやすくリアクションを見せてくれたので間違えることも無いだろう。

 

 そして名乗られたら名乗り返すのが礼儀だろうと、壁から背を離したジールはサングラスを外しながら名乗った。

 

「……ジールだ。」

「よし、では本題に入ろうか。」

 

 何故か達成感に溢れた表情のクロロがジールを机に呼びながら、書類を出した。

 免罪符を手に入れたジールはクロロとフィンクスの間に入り机の上に視線を落とす。その顔には既にサングラスが戻っていた。

 どうやら素顔が落ち着かなかったらしい。

 

「これはシャルが集めてきた情報だ。二人には改めて目を通しておいて欲しい。……ジールには、こっちだ。」

「おう。」

「わかったわ。」

 

 ナチュラルに話に盛り込まれたジールは、状況がまったく分かっていなかった。

 しかし、真剣に話し合っている空気を壊してまで質問できるほどの勇気は持っていない。

 

 読めばなんとかなるだろうと、ジールは手渡された書類に目を通す。地図と一緒に個人情報が載っているそれは何かの事件を纏めているようだ。

 そしてだんだんと読み進めていくうちにジールの瞳は大きく見開かれていった。

 

(おっ、ま。まじかよ。俺のこともバレてるのか?)

 

 死体の数や、数日で死亡しているという記録にも驚いたが正直それどころでは無い。

 纏めてられている事件はジールがここに来た時に見つけた変死体の話だろう。

 

 そして、ジールが絶賛発症しているイボの話だった。

 

人面疣(じんめんイボ)……ナゾのイボより頭の良さそうなネーミングじゃん。)

 

 近くの区画が発生場所であることや、死体には個人差があるものの打撲痕が多く残っていることが記されていた。

 クロロとシャルナークが話し合っている横で、読み進める三人がそれぞれ読み終わり書類を置いたところでクロロが話し始める。

 

「今回はこの事件の犯人を確保しにいく。それにあたってジールには協力してもらうぞ。」

「……協力?」

「なんだ団長、こいつに言ってなかったのか?」

(つまり、俺がマヌケな状況になっていることはバレてない?)

「ああ。ジール、お前もこの区画には立ち寄ったことがあるだろう。事件に関わっている可能性もある。ここはひとつ協力して犯人を捕まえないか?」

 

 目の前で交わされた会話に、ジールは自分が既に協力する前提で団員達が連れてこられていることを察した。

 ここで犯人を捕まえられるのはジールにとっても渡りに船なので歓迎したいところだが、素直に喜べないでいる。

 それというのも、ほぼ初対面の自分にクロロが協力を要請してくるのが引っかかるのだ。

 ぶっちゃけなにか裏があるとしか思えなかった。

 

(まあ、ナゾのイボ……じゃなかった人面疣が無くなるならお手伝いしますけど。)

 

「……まあ、構わないが。」

「お前も乗るのかよ、もう少し慎重になった方がいいんじゃねえの。」

「まぁ、私たちが言えることではないわね。」

 

 快諾したジールを気にしてくれるらしいフィンクスはこちらの方を見上げながら眉を寄せていた。

 意外と態度の柔らかいフィンクスに心の中で片眉を上げたジールはそれをおくびにもださず、書類をクロロへ返す。

 

「……作戦は?」

 

 流石に小さいといっても頭を撫でたら手首無くなりそうだな、とジールはフィンクスの旋毛をチラ見していた。

 サングラスで視線がバレないから出来ることである。

 

「とりあえず二手に別れて行動しようと思う。オレとパクノダが東、残りの三人で西側を回ってくれ。」

「おっけー。」

「じゃあオレはこいつと一緒か。」

 

 あっさりと決まったグループ分けに、ゾロゾロと家を出ていく面々にジールは後を追いかける。

 

(クロロの一声だな。というかこれは作戦に入るのか?)

 

「それでジールさんは、気になる場所とかある?」

「ジールでいい。」

 

 家の前で左右に別れたジール達はゴミ山の間を縫うように歩いていた。

 

 ジールの意見も取り入れてくれるらしいシャルナークは、区画の地図を取り出しながらジールの方を振り向く。

 

「なんだよ、順番に回っていけばいいんじゃねえの。」

「それだと時間がかかるだろう、犯人が居そうなところから見るんだよ。どう?」

 

 横一列に並び、何故か真ん中に挟まれているジールは左右からの会話を幸せそうに聞いていた。

 そしてシャルナークに振られた話題にジールがどもるのはお約束である。

 

「……あー、端から回ればいいんじゃないか?」

「まさかジールも脳みそが筋肉で出来てるのかい!?」

「いやぁ、やっぱりシンプルな方がいいよな。」

 

 適当な返ししかしないジールにシャルナークなありえないといった風に顔を歪め、味方が増えたフィンクスは楽しそうに肩を組んできた。

 もちろんジールは避けた。

 

「ははっ、避けられてるじゃないか。」

「はぁ?なんで避けるんだよ。」

「……まあ待て。」

 

 使い物にならなくなってもいいのかと言いたくなるのを我慢して、ジールは見えてきた住宅地を指さした。

 

「捜索が先だろう。」

「お前、真面目だな。」

 

 地図を持ったシャルナークの案内で、三人は犯人探しにのりだした。

 

 

※※※※※※※※※※

 

「まだ犯人の目星もついていない状況で私を連れてくるなんて、何か企んでいるの?」

 

 ジール達と別れた後、クロロ組は死体の家族や知人の周りを探っていた。

 人の出入りを確認しながら、念能力の痕跡を探すクロロは別の場所を見ているパクノダからの質問に答える。

 

「聞き忘れた名前を聞く為と、彼の持っている能力を探るため、だな。」

「そういうこと。それじゃあ、彼と私を離したのは良くなかったんじゃない?」

 

 部屋の中にも念能力者の気配は無く、ハズレだったと外へ出てきたクロロは心配してくるパクノダに笑いかけた。

 

「あいつと話すのは後だ。それに捜査を手伝って欲しいのも本当だぞ。お前のことも頼りにしている。」

 

 次に行くぞと言いながら先に行ってしまったクロロを見て、パクノダも犯人確保に専念しようと意識を切り替えた。

 

 

※※※※※※※※

 

 ところ変わって路地裏を覗き込んでいる三つの頭は、未だに見つからない手がかりに焦がれていた。

 

「ここにはねぇな、おいシャル次の場所を教えろ。」

 

 発育の差で頭一つ分大きいジールは、肩を並べているシャルナークとフィンクスを観察しながら、自分でも犯人の場所を予想していた。

 脳筋的な発言をした二人はシャルナークが割り出した場所に言われるがままついて行く形になっている。

 今も、身を隠しやすい建物の陰を覗きに来たが人っ子一人見つからなかった。

 

「そうだな、つぎは屋台の集まる所まで行きましょうか。」

 

 地図を塗りつぶしながら、ペン先で一点を突くシャルナークにジールは言おうか悩んでいた事を告げる。

 

「……ひとついいだろうか。」

 

 探索を初めて数カ所目に差し掛かりジールにも何か提案があるのかと、フィンクスやシャルナークがこちらを見上げてくきた。

 その視線に、早くも前言撤回したくなってきたジールだがここで何も言わないと役立たずのままで終わってしまいそうだった為なんとか声を絞りだす。

 

「……ナ、人面疣の事なんだが。」

「どうした、何か気づいたのか?」

「その疣は寄生先のオーラを使って成長する。死体なら、動けなくなって室内にある可能性が高い。」

 

 なんとか喋りきったジールは安堵のため息をつきそうになる。

 話をきいたフィンクスも何か使えそうな情報だと思ったのだろう、捜索のやる気が少し上がっていた。

 

「それはどこで知ったんだい?」

「……。」

「確かに、死んだ後はオーラも無くなってて気づけねえよな。」

 

 ジールが疣についてあまり話したくなかった理由、それは自身が発症しているという間抜けを隠すためだった。

 ワンチャン触れずに済むかと思ったが、やはり上手くは行かないようだ。

 

 しかし、疣の話題を出した時点で捜索の為に情報を惜しみなく出すことは決めていた。

 

(やっぱり素知らぬ顔で探すだけなのは良心が痛むし、何より早く人面疣を治してしまいたい。)

 

「……俺にできた疣はオーラを押さえたら止まった。」

「えっ、人面疣出てるの?」

 

 ジールの衝撃発言に驚いたシャルナークとフィンクスは本当のことなのかとジールの顔を凝視する。

 それを受けてジールは上半身を屈めながら首元の襟を捲った。

 

 目線のより低い位置まで持ってこられた後頭部に、二人が身を乗り出してみると確かに皮膚が盛り上がっている部分がある。

 

「顔はまだ無いようだけど、疣であることは間違いないね。」

「うわ、一つや二つじゃねえな。」

 

 一晩が明けて、大きな疣が六つに増えていた首裏は、明らかに疣に侵食されていた。

 

「これ、何日目なの?」

「……十一か、十二日目。」

「おいおい二、三日で死んじまうやつだぞ。」

 

 だんだん体勢が辛くなってきたジールは上半身を起こしながら、詳しい話を始める。

 

「……疣の周りだけオーラを絶てばあまり成長はしない。その代わり、疣のオーラがそこを――」

「もう少し見せて!」

 

 この短時間で遠慮が無くなったのか、元々そういう性格なのか。多分後者だろうと考えるジールはシャルナークに肩を掴まれ、再び頭を下げる体勢になっていた。

 

「……俺のオーラがない代わりに、疣のオーラを纏っているはずだ。」

「おぉ、そういうもんだと思ってたけど、ここだけ別人なのか。」

「ジールの元の状態を知らないから、分からなかったよ。」

 

 シャルナークがジールの後頭部を押さえ、襟の部分をフィンクスがこじ開けている。

 ジールの話を確かめるようにまじまじと観察する二人は、僅かに流れの違うオーラを見つけてはしゃいでいた。

 

「……ここだけオーラを絶つのって難しいんじゃないのか?」

「オーラ操作は得意だ。」

 

 感心する二人にちょっとだけ自慢げに答えたジールだったが、未だその姿勢は格好つかないままだ。

 いつ解放されるのだろうかと考えながらも、振りほどくつもりのないジールは二人の気の済むまで付き合うつもりでいた。

 

「じゃあさ、ちょっとだけオーラを当てて増やすことも出来る?」

「……鬼か?」

 

 付き合うつもりはあるが、自殺したい訳では無い。

 旅団のえげつなさに慄いていたジールだったが、チラリと見えたフィンクスの表情に旅団の中でも一部のことらしいと考えを改めた。

 増殖の様子を見たいというシャルナークに、ジールは少しだけだと念を押して首の後ろに意識を集中させる。

 

(まあ、能力者のオーラが分かりやすくなれば探しやすいだろう。)

 

 蛇口の栓を捻るように、じわじわとオーラを滲ませていくジールの様子を二人はジッと見ている。

 そして、ジールが疣のオーラを変化を機敏に察知し一瞬でオーラを仕舞うと、同時に疣の数が倍に増えた。

 

「おおー!」

「うげ。」

 

 間近で見ていたシャルナークとフィンクスは、オーラ操作の技能の高さに感心しながらも、一瞬で増えた疣に鳥肌を立てていた。

 そして見事一部の増殖に抑えたジールだったが、オーラを仕舞ってからなにやら様子がおかしくなっている。

 

 頭を抑えたり、襟を掴んでいたりとジールの近くにいた二人はその変化に気づき、ジールに声をかけた。

 

「どうした?何かあったか?」

「このまま死んじゃう?平気かな。」

 

 何かあった時に対応出来るようにと、ジールから手を離しながらシャルナークは動かないジールの顔を覗き込んだ。

 

「……どうなった?」

 

 首元の様子を知りたいのだろう、俯いた姿勢のままシャルナークに問いかけるジールは一先ず死んではいないようだった。

 

「数が倍にまで増えてますね。首元だけでなく一部の肩まで侵食しそうです。」

「そうか。」

「あと、でかくなった疣に顔が薄らでてきてるぞ。」 

 

 フィンクスの言葉に小さく頷いたジールはゆっくりと上体を起こした。

 顔を覗き込んでいたシャルナークはそれに合わせて視線を上げていくうちにあることに気づく。

 

「あれ?ジール、目つぶってる?」

 

 サングラスの横から見えた目は確かに閉じられていた。シャルナークの言葉につられてジールの目元を見たフィンクスも確かにと頷いている。

 

「……心配させたな。」

「大丈夫か?」

「あぁ、まあ平気だろう。」

「目に何かあったみたいだけど。」

「……見えなくなったが、犯人を捕まえればいい。」

 

 変なところで大胆なジールだが、本当に支障は無いと思っていた。

 

「それに、打撲痕の意味も分かっただろう。」

 

 相手の情報が集まることに越したことはない、と疣のことをカミングアウトしたジールに後ろめたい事は無くなっていた。

 コマンドはガンガンいこうぜになっている。

 

 疣の数が増えたと同時に視界がブラックアウトし、周囲の状況が一切分からなくなったジールはしばらくの間、残りの五感で様子を見ていた。

 そして、シャルナークやフィンクスの反応から視力の喪失のみだと判断したジールはいつも通りに戻ったということだ。

 

 加えて、視力が無くなる現象が被害者全員に出ているのなら打撲痕の意味も自ずと分かってくる。

 

 ジールは聴覚と周りの気配によって大体のことは把握出来ている。それに移動するにも方法があるので困ることは無いだろう。

 しかし、これが一般人ともなれば話は変わってくる。生命力ともいえるオーラを吸収され身体の機能が不十分なところに失明するのは大変危険だ。

 

 周囲が見えない状況でフラつけば身体をぶつけることもあるだろう。しかもそれがぶつかる直前まで分からないとなれば構えることも出来ないばずだ。

 

 そのことをかいつまみながらシャルナークとフィンクスに説明したジールはクロロを呼ぶようにお願いした。

 

「一度クロロ達と合流した方がいい。シャンシャンはクロロの所に行ってくれるか。」

「……ちょっと待って。」

「申し訳ないがファラオは俺と一緒に……どうした?」

「その呼び名はオレらのことか。」

 

 最近、変な呼び方をしてもツッコミを入れてくる人がいなかったため失念していたが、普通はこうだったなとジールは二人に肯定を返した。

 

「まあいいか、んじゃオレはジールと待ってるから。シャンシャン行ってこいよ。」

「えー、その呼び方納得してないんだけど。……わかったよ、フィンクスちゃんと見ててよ。」

 

 しばらくブツブツ言っていた二人だったが、切り替えは早いらしい。諦めたとも言う。

 シャルナークを見送ったフィンクスは一見普通に立っているように見えるジールの方を向き、本当に見えてないのかと目の前でふざけてみせた。

 

 ジールも変顔をされたら分からないが、手を振られた時くらいは反応できる。

 何ならちょこまか動くフィンクスの方を向き続けるなど朝飯前だった。

 

「ふーん、やっぱり見えてねぇのか。」

「……ああ。」

「歩けんの?」

 

 この辺りだろうかと当たりをつけながら顔を向けたジールは確かにフィンクスの方を見ていた。

 

「……ちょっと待ってろ。」

 

 そのままの状態でも歩けるが、と言いながらジール何かを探るように黙り込んだ。

 口の中に挟まったものを取るときに舌をもごもごさせるような集中の仕方だった。

 

 人がほとんど来ない建物の裏で、じっとジールを待っているフィンクスが何をしたいのかと首を傾げた瞬間だった。

 ジールが円を展開したのだ。

 一瞬で塗り替えられた空間に驚き、周囲を見渡したフィンクスは道一本分先まで延びているオーラに己の目を疑った。

 

「……もう少し小さいか。」

 

 ジールの言葉と共にどんどん縮小していく円は、最終的に5mの距離で止まる。

 その範囲の中に入っているフィンクスは展開の早さにも驚いたが、一番やばいと思っているのは覆っているオーラの緻密さだった。

 

「あんな纏やっといて、これは反則じゃねえの?」

 

(まあ、そっちは偽装だし。小細工しなきゃノータイムで出せるよ!!)

 

 チキンであるジールは声に出せずにいたが、その心はぴょんぴょんしていた。褒められるのは嬉しいようだ。

 それにジールが言うように首元の部分をくり抜くような円を広げる調整が無ければもう少し早く展開出来ていた。

 

「オーラの流れキモいな。」

 

 そして円を見ながらしみじみと言われた言葉はジールに刺さった。心で跳ねていたうさぎも致命傷だ。

 

(やっぱキモいの?なんで、どこが?ていうか上げて落とすのやめて欲しいんだけど、泣いていい?)

 

 円によってより明瞭になった感覚に喜ぶ暇もなく、ジールは嘘泣きしていた。

 

 シャルナーク達を待つ間、フィンクスはジールの円を色々な方向から観察している。

 ジールもそれを自由にさせながら首元に襟がつかないようボタンをいくつか外しながら楽な姿勢を保っていた。

 

 そして、数分もしないうちに三人分のオーラがジール達の元へ接近してくる。

 少し円を広げながら様子を探っていたジールは、円に入った途端動きを止めた三人をしっかり確認していた。

 

「おーい!ジールのやつだから安心して来いよ。」

 

 建物の裏から顔を出したフィンクスは警戒している三人に呼びかけながら、ジールにもクロロ達が到着したことを伝えてきた。

 意外と面倒見がいいらしい。

 

「驚いたわ、オーラの扱いに慣れてるのね。」

「これなら目が見えなくてもなんとかなりそうだね。」

「……ほう。」

 

 三者三葉のリアクションを示しながらジールの元へやってくる。それに合わせて円を縮小したジールはその中に全員が入る大きさで固定した。

 そしてオーラによって分かりやすくなることで、違うところへ意識を飛ばしている男のこともよく分かる。

 

「……さっくん、どうした。」

 

 ジールの円に出たり入ったりを繰り返すクロロの行動が奇妙でならない。

 ちなみに他のメンバーはさっくん呼びに吹き出していた。

 ジールの問いかけに動きを止めたクロロは好奇心を抑えようともせずに話し始める。

 

「お前がオーラ操作を得意としているのには気づいていたが、これほどとは思っていなかった。」

 

 いつもよりワントーン高いのではと思える喋り方にジールはクロロの念能力を思い出していた。

 

(さっくん、発を集めるくらいだし念能力好きそうだよね。好きって言うより趣味?まあ、純粋に強い能力だからってもあるだろうけど、本にして集めるのは絶対オタクが入ってる気がする。)

 

「シャルに聞いたわよ、疣ができてたなら早く言ってくれれば良かったのに。」

「……すまない。」

「それよりも侵食を早めたって聞いた時は驚いたわ、もう少し慎重にやったらどうなの。」

「……すまない。」

「そうだ、普通そんなことをしたら止める暇もないまま死んでるぞ。」

「……さっくんはもういいのか。」

 

 パクノダの説教に小さくなっていたジールはこちらに戻ってきたクロロに逃げた。

 横で知らんぷりしていたフィンクスが次の標的になっている。

 

「呼んだということは策でも思いついたか。」

「……ああ。この事件の犯人は調子者だろう。」

「まあ能力を乱用しているし、死に際を見に来る可能性は高いな。……なるほど、オレ達は適当に離れておこうか。」

 

 その後、ジールが自分からやったとシャルナーク達に罪を擦り付けられたため、パクノダにもう一度怒られる事になったジールは眉を下げてすまないbotになっていた。

 

(そういえば久しぶりに説教されたな。)

 

「ちゃんと聞いてる?」

「……すまない。」

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 日が沈み始めた空の下、人混みの中を歩く一人の青年がいた。

 広い通りであるためにそれなりの人が行き交っている。その中をフラフラとした足取りで進む青年は、すれ違いざまに人とぶつかり尻もちをついた。

 

「おい、ちゃんと前見て歩けよ。」

「……。」

「チッ。」

 

 迷惑そうに青年を避けていく人々は、誰も青年の様子には気づかない。

 青年はゆっくりと立ち上がり、その黒い服から砂を叩き落とすとまたフラフラと歩き始めた。

 

 荒い呼吸と微量にしか見えないオーラから、その青年が弱っていることは明白であろう。

 人と肩をぶつけながら、なんとか道の端まで出てきた青年は壁に手を着こうとして強く手を打った。

 

 片手を抑えながら路地の隙間に身を寄せる様はなんとも痛々しい。

 乱れた黒髪を地面に擦りつけた青年はこちらに近づいてくる足音にも気づかないのだろう。

 

 夕日の差し込む路地の入口に立った影が、その日を遮る。まるで青年の最後の光を閉ざすように、青年へ近づくその影はあと数歩というところで足を止めた。

 

「すごーい大物がかかった気がするねェ。」

 

 両の手をポケットに突っ込み身体を揺らす人物は楽しそうに青年を見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あー、主演男優賞取れそうだわ。)




次回で流星街編はラストになります。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
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