口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回で流星街パートは最後なります。

よろしくお願いします。


先に見えるのはサングラス

 

 袋小路となっている路地に倒れているジールは、頭上から聞こえてくる言葉に耳をすませていた。

 

「すごーい大物がかかった気がするねェ。」

 

 適当に苦しむフリをして犯人をおびき出すことにしたジールが街中に姿を現してから数分後のことである。

 死んだ後に見に来る慎重派だった場合も考えていたがどうやら必要なかったらしい。

 

 耳元の砂の音を聞きながら浅く呼吸をするジールは、声に反応したかのように頭を動かした。

 

「おぉー、まだ動ける?キミは何日目なんだい?」

 

 油断させるために円を切っているジールが相手の表情を見ることは叶わないが、声の調子から犯人の様子はある程度察せられる。

 

(楽しそうだな?俺は服が汚れてあんまりいい気分ではないんだが。ほかの作戦にすればよかった。)

 

 想定よりも頭の軽そうな犯人に、ジールはもう少し楽な作戦にすれば良かったかと思い直していた。

 しかし、これが一番手っ取り早く済むのだから仕方がない。

 

「分からない?んふふ、喋れないよねェ。」

 

 喋らなければある程度の演技が出来るジールに、まんまと騙されている相手はジールの衰弱している様が気に入ったようだ。

 

(……もう少し近づいてくれれば確実に捕まえられるんだけどなぁ。)

 

 能力の侵食具合いを図っているのだろうかと、ペラペラ喋りながらも一向に近づいてくる気配のない相手にジールは痺れを切らしていた。

 そもそも地面に転がる趣味は無い。さっさと終わらせるためにも自分から仕掛けてやろうかとジールが考えている時だった。

 

「んーいいねェ。それじゃあ死に際にまた来るよ。はーやく完成しておくれ。」

 

 それじゃあ、と一方的に喋り続けた犯人はあっさりその身を引こうとした。

 ジールを侵食している疣の数が少ないからか、死ぬのはまだ先だと判断したのだろう。ジールに背を向けた気配のする犯人はそのまま路地から出ていこうとした。

 

 しかしジールからすればここで放置されるなどたまったものではない。

 

(ちょっと待とうか?……これ、もう起き上がってもいいでしょ。)

 

 絶で離れたところから見ていると言っていたクロロ達が出てくる気配は無い。

 まあ元々ジールが失敗したら代わりに犯人を捕まえるように頼んでいるので、この程度では出てこないだろう。

 

 正確な位置を捉えて一発で捕獲するために、ジールは円を展開しながら立ち上がった。

 

「おやおや?」

 

 膨張するジールのオーラに触れた犯人が振り返るが、もう遅い。その瞬間には、背後に迫ったジールが犯人の喉元を狙って手を伸ばしていた。

 

「あーぶないね。」

 

 直線的に伸ばされた腕はどこを狙っているのかがわかりやすい。相手はジールの腕を弾いて攻撃を避けた。

 初撃が失敗したことを悟ったジールは、次の手を出そうとしたところで大きく後ろに飛ぶ。

 

「おかしいねェ。苦しんでたじゃないか。」

 

 そう言って笑う相手は、ジールに避けられた足を引っ込めた。喉元を狙うジールの攻撃を躱すと同時に蹴りを入れてきたのだ。

 

(容赦ないぞこいつ、こちとら円使ってるんだから流に使えるオーラも減ってるんだぞ。)

 

 当たっていたら足の一本や二本折れていたかもしれない。想定よりも動ける相手にジールは円を解くべきか悩んでいた。

 

「動ける?なんで動けるんだい?確かキミには顔が出ているだろう?」

 

 長い髪を揺らしながらこちらへ近寄ってくるシルエットに、ジールは少しずつ円を縮小していった。

 確かに疣の侵食が進んでから、気だるい気分にもなったが三徹よりは楽である。

 

「念能力者に使ったこともあるけどキミみたーいにピンピンしているコはいなかった。」

 

 背後が行き止まりのため、犯人はゆったりとした口調でジールに迫ってくる。

 ジールとしても近づけば近づくほど相手のことを捕捉しやすくなるので、あえて避けることはしなかった。

 

「キミはどーのサンプルかな。置いてきてしまったねェ。」

 

(サンプル?相手の能力に関係するのか?)

 

 ジールの耳には犯人の足音と遠くの喧騒が入ってくる。

 例外的な行動を見せたジールに何かを刺激された犯人はペラペラと喋り続けていた。それこそジールが徐々に円を縮めていることにも気づかないほどに。

 

 相手の歩幅や自身との距離を正確に測りながら、相手の零す言葉を拾っているジールは神経を削り続けていた。

 そうして円が無くとも充分に捕まえられる位置に来るまで相手を待つこと数秒間。

 

 最後の一歩を見たジールがオーラを拘束の為に切り替えた。

 

「んふふ、ここで貰っても問題無いけどねェ。」

 

 オーラ操作に重きを置いてきたジールにとって、至近距離での拘束は自分の手足を使うよりも簡単だった。

 実際、オーラは犯人の体を三重、四重と縛り上げ、四肢を拘束している。

 どんな顔をしているのかは見えないが、先程まで開き続けていた口は閉ざされていた。

 

 そして拘束に成功したジールが犯人をどうやって運ぶか考えていた時のことだ、芋虫の状態になっていた相手が上体を曲げてこちらに顔を近づけてきた。

 

 至近距離に感じる気配にジールは思わず後ずさる。

 

「キミ、最近はなーにをたべたかね?」

 

 身体を拘束されているにも関わらず、気にした様子を見せない相手は日常会話のような問いかけをした。

 その行動にジールは不気味なものを感じ取ったが、ここで双方の目的が違っている事に気づく。

 

(俺は犯人を捕まえることが目標だったが、相手は俺の無様な姿が見たがってたしな。……それでも拘束されたら現状打破を考えて欲しいけど。)

 

 質問に答えるつもりが一切ないジールは、図太い神経をしている犯人の行動について考えていた。

 

(もしくは、現状でも相手の目的が達成される可能性が残っている?)

 

「無視かい?困るなぁ、ほらここの街で食べたものだーよ。」

 

 ジリジリと近づいてくる相手にジールは拘束しているオーラを引くことで相手を地面に転がした。

 若干の呻き声が聞こえるが、それでも犯人が黙ることは無い。

 

 そろそろ気絶させてクロロ達に引き渡してしまおうかと、ジールが相手を蹴りつけようと時のことだ。

 

 無かったはずの感触が口元に現れた。

 

「……!?」

 

 反射的に手でそれを拭い取るが、直ぐにまた口元へと張り付いてくる。

 目が見えない現状に、正体が分からないものほど怖いものはない。

 

(なんだこれ、触れるがまともな質量は無い。オーラか?くっそ、凝が使えないんだからもっと早く決着をつけなきゃいけなかった。)

 

 隠されたオーラを見抜くことが出来ないジールは首の後ろから頬を伝っている物体を鷲掴み引きちぎることしか出来なかった。

 これ以外に仕掛けれていたとしても、触れるまでは何処に潜んでいるのか分からない。

 

(さっきの意味不明な質問も隠でオーラを仕掛けるための時間稼ぎだろう。)

 

 能力者の意識を落とすか、オートだった場合を考えて物体の処理を先に済ませるか。焦るジールのこめかみには汗が伝った。

 

「ん?ん!?んふーふふ、うっふふ、ふふふん!」

 

 物体を処理している間、五月蝿かった犯人の口は開けないようにジールのオーラで塞がれていた。

 それ以降静かになったので、窒息でもしたかと思っていたがどうやら違ったようだ。

 

 急に喚き出した犯人を見て、ジールは口元の拘束を解くか悩んだが、騒がしくなったと同時に引っ付いて来なくなった物体の事も気になる。

 何か仕掛け終わって喜んでいるのかもしれない。

 

 少しでも情報を喋ってくれるのではないかと期待したジールはそっと口元のオーラを外した。

 

「キミはスープのカップのコじゃなーいか!まだ生きてたとは思わなかったよ!」

 

 まだ相手の中では食事の話が続いているらしい。

 期待外れかと、再びジールがオーラで口を塞ごうとした。

 

「その汗の味は間違いなーいよ。あの時も最高だったからねェ。」

 

(何だ?汗の味……?さっきの物体は俺の汗を吸収しに来たのか?いや待てよ、最初の物体がくっ付いたのは口元で、それが吸収しようとしてたものは……。)

 

 確かに相手は情報を落としてくれた。ジールが知りたくなかった事実に気づけてしまうくらいには。

 

「んんー、いい唾液だったよ!それで、いつ死に様を見せてくれるんだーンゴフ。」

 

 情報も集まった。顔に張り付いてきた物体の目的も分かった。これ以上、相手をする意味も無いだろうとジールは犯人の口を塞ぐようにオーラの玉を顔面に撃った。

 

 念能力に頼りきるわけでもなく、多少の体術を納めていた相手にジールは少しだけ感心していたのだ。初撃を躱された犯人にはオーラも使って全力で取り掛かろうと思えた。

 しかし、ジールは失念していた。相手はあの気持ち悪い疣を作る念能力者だということを。

 

 加えて、先程の話から察するに犯人の能力は他人の体液を吸収する事が出来るらしい。

 ジールがスープのカップを捨てたのが十二日前、疣が出来たのもそれくらいだ。そして、犯人がスープのカップからジールの唾液を採取していた口ぶりを考慮すれば、発の内容はある程度察せられる。

 

(……つまり、唾液を使って宿主にあの疣を作る能力?……キッッッッッッショ!無理無理無理無理無理無理。)

 

 気絶した犯人を転がしたまま、ジールは自身の二の腕を摩っていた。

 

 想像以上にやばかった犯人の能力に、数歩離れたところでクロロ達の到着を待つ。

 見ていると言っていたので、ジールが犯人の顔面にオーラを撃ち込んだところも見ただろう。

 

 居心地の悪い空間でジールがしばらく待っていると、路地の入口から何人かが入ってくる気配がした。

 

「派手にやったな。」

「お前も中々やるじゃねぇか。」

 

 声から判断するにクロロとフィンクスだろう。何故か褒められたジールは犯人確保のことを指しているのかと考えたが、それでは派手にと言われる理由が分からない。

 

 声の方を向きながら手を出したジールは預けていたサングラスを受け取りながら、言葉の意味を尋ねた。

 

「……派手とは。」

「まだ見えてなかったのね。オーラも薄くなっているしもう少ししたら分かるわよ。」

 

 パクノダの言う通り、しばらくすると視界を覆っていた黒色がだんだんと薄くなっていく。

 クロロ達はジールに様子を見せたいのか、犯人を連れて行くことなくその場に留まっていた。

 

 そしていつもの視力に戻ったジールは、皆が見ている足元に視線を落とす。

 

 そこにはジールにオーラをぶつけられた犯人が転がっていた。

 しかしその顔面は真っ赤に染まっており、鼻や顎などか砕けている。オーラの衝撃が地面まで伝わり大きくひびが入っていることからもその威力の大きさが分かるだろう。

 

 人相が分からない程に負傷している犯人を見て、ジールは死んでないか不安になった。

 

(一応、呼吸はしてるし大丈夫か?)

 

 ジールが見たのを確認したのだろう、フィンクスが犯人を担ぎあげクロロと何かを話していた。

 

(加減をミスってしまったらしい。……相手の能力がやばかったといいますか、こう思わず。ね?)

 

 誰に聞かれるまでもなく心の中で言い訳を続けていたジールはフィンクスに運ばれていく犯人を見て、そっと目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 人面疣の犯人が捕まり、一連の事件が解決した後ジールはクロロに犯人の能力について話していた。

 

「それで、お前の飲んでいたスープのカップが原因だったと?」

「……食べたものは覚えてないが、ゴミを捨てた記憶はある。」

 

 能力の発動条件に対象の体液(唾液が最有力候補)であることを伝えると、クロロは酷く微妙な顔をしていた。

 能力を知っているジールからすれば盗るかどうかを悩んでいるのだと分かるが、もちろんその事に触れたりはしない。

 ただ、体液として血液なんかが有効だと戦闘も厄介になるだろうと一応のフォローは入れておいた。

 

(まぁ、クロロが人の唾液を採取し始めたら距離をとろう。……ならないよね?)

 

 サングラスの下で若干の怯えを見せながらクロロの隣を歩くジールは、紛らわせるように後ろを歩くシャルナークに声をかける。

 

「……この後は解散か?」

「どうだろう、オレは犯人の意識が戻るまでもうやる事ないし解散でも問題ないよ。」

 

 そう言ってクロロに視線を送るシャルナークに気づかないジールは、最後に何か食べていこうかと道沿いの屋台に目を向ける。

 無論そのゴミは捨てることなく持ち帰るつもりだ。ジールはポイ捨て恐怖症になっていた。

 

 ジールが固そうなパンばかりが並ぶ台を遠目で見ていると、隣からある提案が出される。

 

「この先に品揃えの良い店がある。そこで買って少し話さないか。」

「……話?」

「そうだ。」

 

 明らかに何かあるが、固いパンしかない夕食は嫌だった。ジールは協力要請の目的がこれではないかと考えながらも、がっつき過ぎない程度に返事をした。

 

(柔らかい肉はあるだろうか……。)

 

 

 そうして見事、美味しい夕食にありつけたジールは満足そうに肉を抱えながら廃品の上に座っている。

 タイヤを何個か集めて腰掛けたそれは中々に座り心地も良かった。

 中央のランタンを囲むように座ったクロロやシャルナーク達はそれぞれのご飯を食べている。

 

「お前はよく食べるようだからな。」

(バレてーら。)

 

 同じく缶詰やパンを購入したクロロに図星をつかれ、さすが団長などとジールがふざけている。

 まあ、流石にアップルパイやお菓子を目の前でたくさん食べていればバレるだろう。

 

 そして骨付きの肉に噛みつきながらジールが視線をクロロにやるとその意図を汲み取ったクロロが話し始めた。

 

「前に渡した赤い本があるだろう。」

「ああ。」

「あれをもう一度だけ見せて欲しい。」

「……。」

 

 見せるなんて嫌だなど子供じみたことは言わないが、前科がある相手には流石に警戒をする。

 

「……盗らない。一瞬表紙が見れればいい、なんならお前が持ったままで構わない。」

「……わかった。」

 

 何故そこまでクロロが食い下がるのか分からないが、盗まれる心配が無いのならいいだろうと、ジールはいつものように鞄から本を取り出した。

 そして、その表紙をクロロに見せながらこれでいいのかと確認する。

 

「ああ、充分だ。今も持ち歩いているんだな。」

「……そうだ。」

「なるほど、その鞄の中には何でも入れられるのか?」

 

 片手で肉を持ちながら、器用に本を仕舞ったジールは見たがった理由を気にしながらもクロロからの質問に答えた。

 

「まあ、カレー以外なら大体入れている。」

 

 顔に何故と書かれたクロロがこちらを見ているが、こればかりはあの悲劇を知らなければ理解出来ないだろう。

 ジールが食べ終わった肉の骨を適当な袋に入れ、鞄の中に仕舞うのを見届けたクロロはコートの裏から取り出す仕草をしながら一冊の本を取り出した。

 

「この本のことだが、見ての通り念能力が施されている。」

 

 クロロはジールが新しく出てきた本に興味を惹かれていると思っている。

 それは確かに正しいが、ジールの視線が本から外れない理由はまた別にあった。

 

(こ、こここここれは、まさかの盗賊の極意(スキルハンター)ですか!?モノホン!?やべー、犯人捕まえたご褒美にしてはバランス取れてないですよ。ついに世の中の報酬制度がバグった?……でもなんでこれを?)

 

 見られるとは思っていなかったジールは、唐突な供給に取り繕うことを忘れていた。

 しかし盗賊の極意(スキルハンター)を見たいジールと、それを使いたいクロロ。世の中の需要と供給は奇跡的に一致している。

 

「後で面白い仕掛けを教えてやろう。その表紙に手を付いてくれ。」

(お触りオッケーなの!?えっ、待ってどうしよう手拭かなきゃ。)

 

 好奇心を隠さないジールにいけると思ったのか、直球で伝えてきたクロロの言葉に従ってジールは右手を表紙の上に乗せた。

 その時の心の内としては表紙の感触を詳細に語るレポートと神に感謝する声で五月蝿かったとだけ言っておこう。

 

 クロロ以外のメンバーもその様子をじっと見守っていた。

 そしてジールがいつ手を退けたらいいのか、持ち主の様子を伺うと目を見開いたクロロと視線がかち合う。

 

「……お前の鞄、発じゃないのか。」

 

 ここでジールはやっと一連のやり取りがジールの鞄を手に入れる為のものだと気がついた。

 まだ発を作ってないし触ってもいいよね、などと考えていたジールからすれば予想外の展開である。

 

(まあ、確かに性能は念能力に由来してるけど俺が作ったものじゃないしね?あれ、これって誤解を解いたほうがいいのかな。)

 

「……これはある屋敷にあった念具だ。」

「ほう、その家の者が作ったのか?」

「いや、その屋敷自体が珍品を集めている。気になるなら行ってみればいい、同じものは無いが。」

「それってなんていう屋敷なの?」

「……ラケルスス。」

 

 クロロが気になるなら盗みに行けばいいとジールは思っている。なんなら家財ごと全部持っていかれて潰れればいいとすら思っていた。

 横から声をかけてきたシャルナークの様子を見るに興味は惹けたようだ。

 

「……その鞄は。」

「これ一つだ。」

 

 ジールが腹の中で悪どい表情をしていると、クロロが諦めきれないのか鞄の事を聞いてくる。

 それをバッサリと切り捨てたジールだったがその拍子にある事に気づいた。

 

(よくよく考えれば、俺ってクロロに能力盗られかけたんだよな。盗られるもの持ってないけど。)

 

 よくよく考えなくても気づいた方がいいだろう。

 ミーハー心では狙われた事に少し舞い上がっているが、嵌められた事実は変わらない。

 被害が無かったとは言え、少しくらいの意趣返しはしたかった。

 

「……それで、面白い仕掛けとはなんだ?」

「気になるのか?」

 

 大方、発を奪った時にでも披露するつもりだったのだろう。一切の動揺を見せずに返事をしているクロロだったが、その心中は如何なものか。

 

「気になるが、俺の発はまだ無いからな。」

 

 正面のクロロだけでは無い、興味深そうにこちらを見ていたシャルナークも、静かに様子を伺っていたパクノダも全員が揃いの表情をしていた。

 

 ジールの発言の意図は何なのか、どこまで読まれているのか。

 鞄のことを発だと思われていたから訂正を入れたというならそれでいい。

 ただ、クロロの狙いが相手の発である事やそれをどうするつもりだったのか、クロロの発についてまで言及していた可能性も捨てきれない。

 ジールがわざわざ“面白い仕掛け”について触れた上で言ってきたのだ。

 

 これ以上ジールを問い詰めようとして余計な情報を与える訳にはいかない。

 

「そうか。」

 

 クロロから短く返ってきた言葉に、ジールはこれでしばらくは大丈夫だろうと満足そうにしていた。

 ちなみに発言の意図を聞かれれば、発について気にしていたから訂正を入れたと無難な回答を言っていただろう。

 

「それにしても、よく発が無いなんてバラせるよね。」

「……そのうち出来る。」

「ほう、期待しておこう。」

 

 あと一歩といった所からシャルナークが違和感の無い程度に話題を逸らした。それに乗ってきたジールを見てこれ以上追求するつもりが無いと分かった面々の空気からは警戒が無くなっている。

 例え最深部までバレていたとしてもどうにか出来る余裕があるのかもしれない。

 

(……その言い方はさっくん諦めてないだろ。)

 

 再び身の危険を感じたジールだが、線引きを間違えるつもりは無い。

 ガチで追い詰めた時に全力の報復か、開き直りからの取り込み作業があるのは何となく分かっている。

 

 とりあえず聞かなかった事にしたジールは最後に聞きたかったことをクロロに尋ねた。

 

「……俺のオーラについてなんだが。」

 

 脈絡の無い話題提供にも慣れてきたクロロは、自身が尋ねられていることを正確に理解しジールの言葉に耳を傾ける。

 それを見ているジールの様子は少し緊張しているようだった。

 

「……気持ち悪いと言われる理由は分かるだろうか。」

 

 ジールにとってはかなり重要な事だった。なんなら先程の発のカミングアウトより緊張している。

 

(イルイルやファラオにも言われたんだよ!ひー君と再会したときに念が使えるようになってて、にいさんのオーラがキモイとか言われたら死ねる。マジで身投げしちゃうよ。)

 

 念能力が大好き(偏見)なクロロなら分かるのではないかと期待を込めて目を見れば、心当たりがあるのか考え込む様な仕草をしていた。

 

 嫌な意味で心臓がバクバクしているジールはじっとクロロの言葉を待つ。

 

「お前のオーラは、なんというか整いすぎて気持ち悪い。

…そうだな、未修得者のオーラの流れをばら撒かれたマッチ棒だとしよう。当然、向きはバラバラで棒同士が重なる部分も出てくる。そして、念を習得して鍛錬を積めば、その重なりは減っていき徐々に棒の赤い頭も同じ向きになっていくだろう。一流と呼ばれる者はその殆どが同じ向きに揃っていて、流が無駄なく行われている。

……そこでお前のマッチ棒は全てが同じ向きになっていると言っていいだろう。それだけなら賞賛で終わるが、お前の場合はマッチ棒一本一本を均等に並べ寸分の狂いもなく管理しているようなものだ。

ここまでやるメリットもそうそうないぞ、向きを揃えるだけで十分過ぎるからな。」

 

(つまり、無駄に無駄のない無駄な動きということでオーケー?)

 

 想像よりもしっかりとした返事が返ってきた事に言葉を失ったジールは雑なまとめ方をした。

 そしてジールの中でクロロの念能力オタクが決定する。わざわざ答えてくれた相手にする仕打ちでは無いだろう。

 

「……それは改善出来ないよな?」

「そうだな、相手に慣れてもらえ。」

 

 ジールの質問の裏を察したクロロは、まあ頑張れと言っていたが視線は若干小馬鹿にしていた。

 もしかしたら先程の意趣返しの意趣返しなのかもしれない。

 

 横でなるほどと頷いているシャルナークやパクノダに、クロロの言っていることが本当なのだと裏付けされる。

 

 そして聞きたいことも聞き終えたジールは、タイヤから腰を浮かし鞄を背負い直した。

 

 初めて話した時の飲食店と同じ流れだ。座ったままのクロロはジールを見上げた。

 

「もう行くのか。」

「……ああ、じゃあなさっくん。パク姉さんとシャンシャンも。ファラオによろしく言ってくれ。」

 

 それでもあの時よりもクロロの言いたいことは増えていたらしい。手を伸ばしたクロロは、立ち去ろうとするジールの腕を掴んだ。

 

「……一つ聞きたい。お前に居場所はあるか?」

 

 腕を掴まれた事に驚いたジールは、クロロの質問の意図が分からなかった。

 しかし、答えだけなら直ぐにでも出てくるだろう。

 

「ある。その隣にこれから行く。」

「……そうか。」

 

 あっさりと離された腕は、もう引き止められる事は無かった。

 

 クロロはジールを観察していた数日間のことを思い出す。

 外の人間がわざわざこんなところまでやってくる理由。誰かを探しているという話をその時はそれほど気にしていなかったが、今の答えを聞けばその相手が気になってくるのは必然だろう。

 

「団長、引き止めたかったの?」

「いやまだ時期ではない。」

「ふーんそっか、今度見かけたら声でもかけようかな。」

「いいんじゃないか。」

「そろそろアジトに戻りましょう。フィンクスの方が先に帰ってるかもしれないわ。」

「そうなったら、どこ行ってたんだよって聞かれそう。」

「そうだな。」

 

 

 月が綺麗に浮かぶ夜空の下。

 片付けもそのままに、腰を上げたクロロ達は団員の待つアジトへと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱりひー君が念を覚える前に見つけるのが必須だな。……嫌な予感しかしないけど。)




旅団の人達と本格的に関わるのはまた別の話で出てきます。
次回はジール達がイルミと合流してからの活動です。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
感想、評価、ここすき等励みになっています。

【お知らせ】
今後、良さげなタイミングで番外編を書こうと思っています。

つきましては、ジールやヒソカ(あれば他のキャラ)への質問を、活動報告または作者のメッセージボックスまでよろしくお願いします。

詳しくは活動報告『質問募集について。』をご覧下さい。
お気軽にどうぞ。
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