口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回はラケルススの家からヨークシンに戻ってきたお話です。

よろしくお願いします。


偶然の出会いにはハンズアップ

 大きなオークションも終わり荷をまとめる者や、滞在期間いっぱいに市場を楽しむ人で溢れかえっている。

 休み方を忘れたように動き続ける交通機関は、人々の足となりヨークシンと他の都市を繋げていた。

 

 その玄関口の一つ、リンゴーン空港から出てきたジールは包帯で固めた左手を遊ばせる。治りかけの切り傷や肩を庇うような動きは、ラケルススを出た後にヒソカとやり合った時の名残りだ。

 

(やっぱりサザンピースには間に合わなかったか、……参加したかったな。)

 

 行きよりもボロくなった格好で後頭部をかくジールは街の様子を見て肩を落とす。

 

 飛行船のチケットを取った時点で分かっていたことだが、ラケルススのしがらみが無くなったジールはオークションに参加出来ないかと期待していた。

 移動中の室内で金額を示す手の形をこっそり練習するくらいには一類の望みを掛けていたのだ。

 

 まあ当然の事ながら、予定通りに進んだオークションは飛行船の中で無事最終日を迎えた。

 街の警備に回っていた警察の元へ大量の犯罪者が送られてきたこともあったが、組織のプライドにかけてきっちりと処理させれいる。

 

(とりあえず出品してた物のお金を受け取りに行って、イルイルにも――)

 

 目の前を歩いていく見慣れた制服に心の中で敬礼しながら、これからの予定を確認するジールは背後からやってくる気配に首だけで向き直った。

 

「置いていかないでよ♦」

「……。」

 

 先の組手で左腕を骨折し、曲がらないはずの方向に肩ごと持っていかれたジールだが、その相手の怪我はそれよりも酷かった。

 

「……足は。」

「まだビリっとするけど問題ないさ♥」

 

 ジールの言によっていつもより多いオーラを左脚に集めているヒソカは一見すると普通に歩けている。しかし実際には、膝から下をジールに砕かれており、明らかに腫れている二の腕などジール以上にボロボロだった。

 

 普通は入院するなりして安静にしておいた方がいいのだが、ヒソカ達は元からの自己治癒力と念による回復力によって普通に行動している。

 

「兄さんとの楽しい思い出とはいえ、暫くは遊びに行けなさそうだ♣︎」

(ぜひ、そのまま大人しくして下さい。)

 

 暑い日差しを避けるように軒下に並んだヒソカは少し残念そうに足を見下ろしている。

 

 毎日のように戦闘経験を積んでいるヒソカを相手にするジールは、手加減など出来なくなっていた。

 

 加えてジールの好事家の写真(スケッチストッパー)の性質上、発を組手で使用することは殆どない。

 相手の動きを強制的に止めて出来た隙を狙うことは容易いが、それでは体術など不要になってしまう。戦闘中の勘が鈍りやすいことも考えると組手で使用するメリットは殆ど無いのだ。

 

 それらの理由からジールは質量を持たせたオーラと体術でヒソカを相手取ることになる。

 伸縮自在の愛(バンジーガム)を遠慮なく使ってくるヒソカを相手にこの戦いはギリギリのものであり、結果二人してボロボロになってしまった。

 

(ほんと凝の精度も勘も上がったよ。)

 

 折れたジールの腕を嬉しそうに眺めているヒソカを見て、組手のことを思い出したジールは色々な想いを込めて大きく息を吐いた。

 それに気づいたヒソカが、どうしたのかと視線を向けてくる。しかし兄の威厳を保つ為にもベラベラと弱音を吐くつもりは無かった。

 

 不思議そうにしているヒソカの意識を逸らすように他の話題を出したジールは近くの案内板を指さす。

 ひとまず今後の予定を伝えることにしたようだ。

 

「……この後、サザンピースまで行ってくる。」

 

 出品していた品々のお金を受け取る為だ。

 初日と三日目に無事値が付いたらしいので、その代金を受け取るように連絡が入っていた。

 空港前の大通りから東にある会場まで、直接取りに行くよう最初に伝えていたのだ。

 

(なるべく早めに現金が欲しいし、ゲームが買えるかもかかってるんでね。)

 

 ヒソカの前でハンターライセンスを使わないようにしているジールは、ラケルススの所まで行く飛行船のチケット代をポケットマネーから出していた。

 何故か一番いい部屋を予約するヒソカの分も兄として払っている為その出費は馬鹿にならない。

 

 当初の予定よりもさらにお金が不足しているジールはオークションの売上に賭けるしかなかった。

 

「兄さんは用事があるんだね♠なら、ボクはこっちの方で遊んでいようかな♥」

 

 ジールの指さす地区と反対方向にある歓楽街をなぞったヒソカは既に他のことに気を取られていた。

 西の方でなにがあるのか思い出そうと頭を捻るジールは、ヨークシンに来てからヒソカに渡された闘技場がある方面だと気づく。

 

(さっき遊べないとか言ってたのに、あれは嘘だったの!?)

 

 明白過ぎる目的にジールが慄いていると、待ちきれなくなったヒソカが手を振りながら去っていく。

 

「……終わったら向かう。」

「わかった♦」

 

 出来るだけ早く終わらせようと決めたジールは、パワフル過ぎる弟に頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

「こちらで全額となっております。ご確認を。」

 

 質の高いスーツを身につけ、丁寧な対応を見せる女性は最後のケースを机の上に置いた。

 想像以上に沈む座り心地の良いソファに腰掛けどっしり構えるジールは、数人によって運び込まれたそれに視線を落としひとつ頷く。

 

「……ああ。」

 

 室内でも外されないサングラス越しに48個、全てが揃っていることを数えたジールは了承の意を示した。

 

「ありがとうございます。それではこちらの書類にサインをお願いします。」

 

 ワンケースが一億、それが山のように積み上がっている。

 オークションによる経済効果はいかほどになるのかと感心を抱くジールがペンを取りながら考えているうちに、必要箇所への記名が終わった。

 

 オークション側の保管分とジールが貰う分を分け、蝋が垂らされた書類は無事ジールの手元へ渡される。

 

「ご利用頂きありがとうございました。次回のオークションにてお待ちしております。」

 

 深く一礼した女性が退出したのを確認したジールは、今までの落ち着きを全て脱ぎ捨て手早くケースを鞄に仕舞っていく。

 その鮮やかな手際は熟練の泥棒のようで、一分も経たないうちに机の上は空になった。

 

(いやぁ、想像以上の儲けですな。ニヤけが止まらん。)

 

 最低落札価格が16億だったのに対して、返ってきたのは45億と5000万。

 どうやら斜陽下の花が高く売れたらしい。

 透明な鉱石やら太陽やらと生息地を探すのに大層手こずった花なので、高く売れたのは普通に嬉しかった。まあ、あんな物騒な成分が含まれていた花を買って何をするのかは知らないが。

 

 5億の花が27億まで化けたのだ、細かいことは気にしない。

 

 あとは有名な技師の作った大きな古時計が、2億から6億5000万まで上がった。ジール的には綺麗なカラクリがイチオシなので是非飾って欲しいところだ。鞄の肥やしにするのは勿体ない程だった。

 

 そして、9億で出した宝石の目立つ王冠が12億で落札。発掘された時代的に考えれば、様式的に似たような物が世の中にたくさん出ているので釣られる人は少ないかと思ったが、希少品であることに変わりはなかった。

 それでも他に比べれ値がつりあがらなかったのは、会場にその方面の人が少なかったのではないかと考える。

 

 などと暇を潰しながらサザンピースの建物を出たジールは、室内で切っていた携帯に電源を入れた。

 

 蝉の幻聴が聴こえそうな程に暑い外に疲弊ながら、黒い画面に明かりがついたのを確認する。

 すると、ジリリと短く鳴った携帯が新着の連絡を知らせてきた。

 

 電源を落としていた時に来たのだろうかと、差出人を確認したジールはその名前に直ぐさま折り返しの連絡を入れる。

 

『戻ってくるの、今日だったよね?何処で待てばいい?』

 

 イルミに出店の片付けを頼んだ時のものだろう。飛行船に乗る前に到着する時間を伝えていたので、それを見て連絡を寄越したらしい。

 

『今どこにいる?』

 

 ジールは短く書き込むと、直ぐに送信ボタンを押した。

 十分ほど前のメールだったが、返信を待っていたのか直ぐに返事がかえってくる。

 

『空港横のひろばにい 』

 

 広場ということは、相手は空港を挟んで反対側にいるのだろう。わざわざ来てもらうのも申し訳無いので、そちらに向かう旨を打とうとしたところだ。

 ジールは不自然に切れた文章に、イルミの安否が気になった。

 

 正直そこら辺の輩にやられるような人でもないので心配無いはずだ。

 しかしだからこそ、イルミが文章を打ち損ねる状況に不安になる。ただの誤送信であれ、と願ったジールは足早に歩道をかけていく。

 

 人通りの多い道を肩がぶつからないようにすり抜けていくジールは胸騒ぎがしていた。

 なにかが起きる。大きなことではない、ただ面倒そうなややこしそうな出来事な気がしてならない。

 

(…………そういえば、ひー君もそっち側で遊んでたな。)

 

 怪我をしていつもより動きの鈍い弟は大人しくしているだろうかと、自問自答をしてみたが答えは出したくなかった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 兄と別れたヒソカは久しぶりの景色を楽しんでいた。

 前回よりは見世物も減っていたが、まだまだ楽しそうな催し物が残っている。しかし足の様子からこの前のようなトーナメントは難しいだろう。

 

 時間帯が早いこともあり、良さそうな相手も見当たらない。出直すことも考えたが兄が迎えに来ると言っていたので帰る訳にもいかなかった。

 

(んー、どうしようかな♠)

 

 ヒソカがトランプを混ぜながら行き交う人々を観察していると、歩道の向こう側からこちらに向かってくる人物がわかる。

 低めの背丈と、どこにでも居そうな風貌の男は大きな口を開けてヒソカに声をかけてきた。

 

「お前、ヒソカだろう!どうだ、これからうちのトーナメントに出てみないか??」

 

 なにやらハイテンションで話し続ける男は、ヒソカのことを知っているようで、その強さを褒めながらどこかへ連れていこうとしている。

 適当に聞いてみれば会ったこともあるようだが、記憶に無い。きっと適当に入った闘技場で喋った相手なのだろう。

 

 観客も盛り上がるからと必死に誘ってくる男に興味は無いが、戦える場所には少しだけ惹かれた。

 しかしトーナメントともなれば拘束時間も長くなる。相手のレベルにもよるが豊作だった場合は、足が動かなる可能性もあった。

 

 そうなれば兄が何と言うか、もしかしたら何も言ってこないかもしれないが組手の誘いに乗ってくれなくなったら困る。

 

 大きな声で騒ぐ男がだんだんと鬱陶しく感じてきたヒソカは、何か他に面白いものがないかと意識から男を消した。

 周りの人間もこちらに注目しており、いかに目立っていたのかが分かる。しかしヒソカにとってそれらは気にかける程のことでも無いため、適当に歩き始めた。

 

 そして数歩、行先を考えながら進んだところで先の道から気持ちの良い視線を感じ取った。

 

 ちょうど山札の上に来たジョーカーを引きながらそちらを向けば、既に視線は外されている。

 人々がヒソカを避けるように通って行くため、二つ先の交差点にいる人物などよく見えた。

 

 黒の短髪と白い肌に体幹の良さそうな身体。なにより遠くからでも分かるオーラの密度にヒソカのテンションは爆上がりだ。

 

 そっぽを向かれているため表情などは分からないが、それもこれから訪ねればわかる事だった。

 

(珍しいくらいの大粒だ♥)

 

 人、一人分程のスペースが空いている道を悠々と歩いていくヒソカは舌なめずりをしそうな笑顔だ。その頭の中に先程の男は既にいなかった。

 

 タイミング良く変わる信号を渡り、次の信号まで歩いているところで目標の少年は急に動き出す。

 今まで何かを待っているようにその場に留まっていたにも関わらず、ヒソカから離れるように歩いていくのだ。

 ヒソカはせっかくの相手を逃がさないよう歩調を早めた。

 

 しかし、相手もそれに合わせて進む速さが上がっている。気づかれていることに気づいたヒソカは、さらに楽しそうに走り出した。

 

 逃げられると何故か追いたくなるのだ。

 車道を走る車よりも断然速い二人は、信号をさっぱり無視して走っている。中々に縮まらない距離にますます焚き付けられたヒソカが何か策を練ろうかと考えた時のことだ。

 

 相手の少年の動きが一瞬だけ止まった。

 

(何かあったのかな?まあいいや、捕まえよう♠)

 

 少年の背中に投げたオーラが避けられることなくくっついた。

 ゴムの要領で引こうとするが、相手も簡単には近づいてこない。ゴムを引っ張りながら距離を詰めていくヒソカとその場に縫い付けられた少年はだんだんと近づいていく。

 

 そして、逃げられなかった少年の後ろへ立ったヒソカがその顔を覗き込もうとする。

 まあ眼前に迫った針を避けるために再び距離をとることになり、見ることは叶わなかったが。

 

「熱烈なご挨拶だ♥」

「…………。」

 

 楽しそうな様子を隠そうともしないヒソカに、怪訝な視線を向けた少年の眼は黒く塗りつぶされている。

 あまり感情を外に出さないようだが、それでも嫌がられていることは十分に伝わった。

 

 頭のてっぺんから爪先までじっくり見てくるヒソカの視線が嫌なのだろう。しかし、少年から何かしてくることは無かった。

 ヒソカが暫く何もしてこないことを確認した少年は、携帯を取り出して何かを打ち込んでいる。

 

(さっきのは携帯が鳴ったから動きを止めたのかな♠)

 

 携帯電話が気になったヒソカは、少年の背後から覗き込もうとした。

 

 

 傍から見れば路上で二人の子供がじゃれているような光景だが、双方の心中を考えればそんな穏やかなものでは無い。

 

(さっきから追いかけてくるコレ、すっごい気持ち悪いんだけど。何とかして撒かないとジールが鉢合わせするよね。)

(兄さんと同じ名前?まさか兄さんの知り合いなのかい♦ますます期待しちゃうよ♠)

 

 イルミが携帯を打ち込んでいるところに、興奮によりオーラ量が増したヒソカが近寄っていく。

 反射で距離を取るイルミは猫のようだった。

 

 手元がぶれて途中で送信されたメールに気づかないままイルミはヒソカと対峙する。

 その胸の内にはこの不審者を撒いてから広場へ行くのだという強い決意があった。

 

「ねえ♥キミのオーラをもっと見たいんだ♦」

「何言ってるの、こっちに来ないで欲しいんだけど。」

オーラ(これ)外してもう一回やろうよ♠」

「嫌だけど。」

 

 逃げるだけでこちらに向かってくる気配の無い相手に対して、追いかけるだけでもいいかなとヒソカはバンジーガムを外した。

 しかしその要望を叶える義理などイルミには無い。

 普段見ることの無い人種に、距離を取りたくなったイルミだったが相手が一方的なやり取りを好んでいないことを察していた。

 

 そこまで熱心にヒソカのことを観察した訳では無いが、現状を見れば何となくは分かる。

 さっさと変な人とは距離を取りたいが、逃げれば追いかけてくるだろう。

 全力で逃げれば撒くことも出来なくは無いが、絶対疲れる。

 

 目の前でイルミが逃げることを待っているヒソカを見ていると、コレから逃げる面倒よりもジールをここに呼んだほうがいいのでは無いかとさえ思えてきた。

 最初の決意は何処にいったのか、だんだんとジールを売った方が早いのではないかと思考が傾きかけたところでイルミは遠くに件の人物を見つけた。

 

 こちらに向かって走ってくるジールはイルミが悩んでいる間にどんどん距離を詰めてくる。

 目の前の不審者の意識もジールに向いていることを確認したイルミは、逃げることを辞めた。

 場合によってはジールを売って穏便に離れるところまで考えている。イルミに罪悪感は無い。

 

 そしてあっという間にこちらへやってきたジールは、状況を確かめる様に二人の顔を見て視線を逸らした。

 その反応に不審者と目を合わせたく無いだろうとイルミが同意するように頷いた時のことだ、隣りのヒソカが嬉しそうに口を開いた。

 

「兄さん早かったね♥」

「え?」

「……あー。」

 

 とりあえずイルミはゆっくり話そうと近くの広場をゆびさしたジールについて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりヒソカがジールの弟だってこと?」

「……そうだ。」

「あのひー君がアレ?」

「…………ああ。」

「どういう育て方したの?」

「……目を離した隙に。」

「そういえばそんなこと言ってたっけ。」

 

 広場の隅でコソコソと話し合っているジールとイルミはお互いの認識の差を擦り合わせていた。

 ジールが全て吐かされたともいう。

 

 あの変人を可愛い弟だというジールに変な念能力でもかかっているのでは無いかと疑っていたイルミだが、一応やばいと認識していることは分かったので一安心である。

 

「あの様子を見る限り、ジールが可愛がる要素無いんだけど。」

「……まだ言うことは聞いてくれるぞ、気も利く。」

「“まだ”とか言わないでよ、なに将来はもっと危くなるってこと?」

「……。」

「黙らないでってば。」

「……否定は出来ない。」

 

 今までみたいに誤魔化すことは無理だと悟ったのだろう、珍しく弱々しい声で言われた言葉はジールの本心だった。

 

 そんなこんなで緊急お兄ちゃん会議が開かれたわけだが、その議題のヒソカはというと少し離れたところでベンチに固定されていた。

 

「兄さん達ばっかりずるいなあ♥」

 

 ちなみにヒソカがジールを兄と呼ぶとイルミの眉間には皺が寄る。

 普段、兄の立場にいるからなのかヒソカから兄という単語が出てくるのに違和感しかなかった。

 

(ヒソカ、弟って感じが全然しないんだけど。ジールが隣りに居ればギリギリ?……やっぱり違和感があるなあ。)

 

 顔はまあまあ似ているだけに、なぜこんなに性格が違うのかとイルミは不思議そうに二人を見比べていた。

 

「……来ていいぞ。」

 

 話が途切れたことで、会議は一度終わりだと判断したのだろう。ジールに声をかけられたヒソカはにっこにこで二人のところへやってきた。

 

「……街中で子供を追い回すな。」

「はーい♦」

「街中以外も駄目だからな。」

「はーい♥」

 

 釘を刺されたヒソカは、イルミと出会った時よりも大人しかった。

 

「イルイルも怖がらせたな。」

「別に怖くなかった。」

 

 本当に怖いなどの感情は無かった。実力的に正面からぶつかったら面倒だとは思ったが怯える要素は無い。

 その部分を強調しながら否定したイルミに、ジールはそうかと短く返した。

 

 そして、それを近くで聞いていたヒソカは疑問を声に出した。

 

「あれ?イルイルってことは兄さんの知り合いの?」

「……知らないで追いかけたのか。」

「そうだけど。」

「へー、本当に兄さんに友達いたんだ♥」

 

 この前電話で確認したというのに存在を疑われているとは、弟にどう思われているのか気になるジールであった。

 しかしヒソカの言葉にはひとつ訂正する部分がある。ジールがイルミの方を向けば、むこうも分かっていると言う風に頷いてきた。

 

「……友達というよりは「同士かな。」だな。」

 

 ジールがイルミと出会って以来、二人の関係を友達と呼んだことは無かった。あくまでそれぞれがお兄ちゃん会議の議員という立場になっている。

 

 ジール自身も何を言っているのか正直理解していない部分はあるが、イルミから言い出したそれに乗っていた。

 お兄ちゃん会議という緩い名前の議員になってから、お互いは同士という事になったのだ。

 

 最初の頃は友達だと言われないことを寂しく思ったりもしたジールだが、同士となってから数回会えば気にならなくなった。

 ぶっちゃけて言えばやっている事は友人のそれと大差無く、呼び方が違うだけなのだ。

 

 イルミから言い出したそれはすっかり定着している。

 

(今からイルイルが俺たちズッ友とか言い出したら面白そうだけど。……真顔で言ってるの想像したら腹が痛くなってきた。)

 

 もし言い出したら記念にプリクラでも撮りに行こうかと考えるジールは、友達と言ってくれないイルミに思うところはあれど、ゆっくり待つつもりだ。

 

 しかしヒソカには呼び方などなんでもいいようだった。

 そろそろイルミから荷物を引き取ろうかと話すジール達にヒソカがなんとなしに訪ねれば、二人は揃って真顔で答える。

 

「へー♣︎何の同士なの?」

「それは秘密。」

「……ああ。」

 

 どうやらお兄ちゃん会議は秘密組織だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 暗い個室に浮かび上がる一つの影。

 

(さて、資金が順調に集まったところで今後の方針を確認しようか。)

 

 目の前に置かれたモニターからは青い光が出ていた。それを正面に見据えテーブルに肘を着く男は顔の前で手を組む。

 

(記憶が正しければ、例のゲームは倍率が200倍。100個のソフトに対して2万件以上の応募だ。)

 

 組んだ手の上に顎を乗せ、モニターを睨む視線は真剣そのもの。その視線の先に映るものが如何に大切なものかが伺える。

 

(問題はその中からどうやって100人を決めたのかということだ。いや、もしかしたら100人というのも語弊があるのかもしれない。)

 

 カチカチと秒針が刻む音が小さな部屋に響く。

 しかし集中している男には一切が聞こえていないだろう。

 

(7本のゲームソフトを手に入れた者が後発組なら問題無いが、もし発売と同時に7本を手に入れたとしたら話は別だ。)

 

 足先を揺らしながら、男は思考をまとめる。

 

(完全な抽選の場合はより多くの予約した方が有利だろう。しかし、あのジン=フリークスが唯の抽選でゲームプレイヤーを決めるか?)

 

 数多の可能性を考えながらも、最終的に行きつくのはゲーム製作者の一人。彼のことを思い浮かべた男は、暗闇の中でガックリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

(無いと言いきれないのが怖い。わっかんねぇ。)

 




次回はジールとヒソカの二人旅に戻りつつ、例のゲームについて接近していきます。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
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