口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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前回の続きから始まります。

よろしくお願いします。


落ち着くには広場

 ビルが建ち並ぶヨークシンの街中には自然を感じられる貴重な場所がある。

 空港から少し離れたところの広場では、息抜きのために散歩をする者や、待ち合わせで相手を待つ者など様々な人が過ごしていた。

 

 ひと息つけるようにと造られた石の腰掛けが道の脇に並んでいる。青々とした葉の影が落ちるベンチのひとつにもまた、広場を利用する人影があった。

 

(まさかひー君がイルイルを追い回すとは。もう少し穏便な出会いにはならなかったの?これじゃあひー君の色々を誤魔化す隙もないじゃないか。まぁ、誤魔化した数秒後にバレる気もするが……。)

 

 先程、臨時のお兄ちゃん会議が開かれ、弟の教育方法についての話し合いが始まりそうになったのだ。

 始まってしまうと長いその会議に、未だ成長期が来ていないイルミに合わせて腰を折っていたジールは、討論が始まりそうになったところで何と話を切り上げた。

 ジールにしては中々のファインプレーである。

 

 そして、ヒソカからボッチ疑惑を再びかけられたりもしたがなんとかメンタルを保ちながらここまでやってきた。正直、二人の姿を見かけた時は心臓が止まるかと思ったが、本来の目的である依頼品の受け取るまで、ジールはそこから逃げるわけにはいかなかったのだ。

 

 

 ジールとイルミの関係について、秘密だと隠されてしまったヒソカは飽きたのか、ベンチに座りながらトランプで遊んでいる。

 その横に立っているジールを挟んで距離を取ったイルミは、その行動に反してヒソカのことは避けていないようであった。見る限り近づきたくも無さそうだが、その点に関してはジールも強く言うことはない。

 

(まあ俺を挟んで出会った時に二人の橋渡しをするよりは楽か。)

 

 年下二人に挟まれながら、ヒソカ達の様子を観察していたジールはとりあえず険悪ではなさそうな二人に安堵の息を漏らしていた。

 

「それで、ジールは受け取りに来たってことでいいんだよね?」

「……あぁ。」

 

 ヒソカが近づいてこないことを確認したのか、暫くヒソカを見ていたイルミはジールの方を向いて紙袋を見せてきた。

 中には出店に置いてきた商品と小袋が入っている。小袋の方は恐らく売り上げだろう。

 

 眼前に持ってこられたそれを見下ろしたジールは紙袋の大きさに首を傾げる。

 置いていった商品の数に比べて袋があまりにも小さいのだ。この大きさでは商品は十個と入らない。

 イルミが依頼した仕事で手を抜くとは思えないが、何かあったのかもしれないと考えながらジールは紙袋を受け取った。

 

「……商品の個数は。」

「ああそれ、オレも困ったよ。言われた数より少なかったし、商品が売れてるなら最初に言っておいてよね。」

 

 商品が売れていたという話を聞いて、一瞬変な輩に店を乗っ取られたのかと考えたジールだが、店を離れる前に隣の店主に何かを頼んだ記憶が薄らあった。

 

 突然警察に声をかけられて混乱していたので、その時の記憶はあやふやだが店を頼んだ気がする。

 ジールはなけなしの記憶を絞ってなんとか納得した。それとイルミにも不手際を謝った。

 

「まぁいいよ依頼も店にある物の回収だけだし、数も参考程度に聞いただけだから。」

「……すまなかった。」

「気にするなら報酬弾んどいて。」

 

 どうやらイルミのお小遣いになるらしい。あのデカい屋敷に住んでいればお小遣いもたくさん貰えそうだが、それとは別のようだ。

 

 ジールはませてるなと考えながら、受け取った紙袋に手を突っ込む。中の小袋を取り出せば、売り上げを確認しつつイルミへの報酬を分けようとした。

 

(なにこれ、俺が店番してた時よりも売れてるじゃん。)

 

 ジールが頑張った数日間の売り上げよりも三倍以上ある金額に、若干の嫉妬をした。

 まあ見るからに商人であった隣りの店主はプロだろう。ならばジールより売れたのは仕方のないことだ。イルミに支払える金額が増えたと喜んでおこう。

 決して、ジールの雰囲気が悪かった等とは考えたくなかった。

 

「……十万で。助かった、ありがとう。」

「そんなにいいの?まいどありー。」

 

 小袋から十枚程掴みイルミへ直接手渡せば、真顔で喜んでいるイルミが見れた。

 最初の三万ジェニーからすれば破格の報酬かもしれないが、助けられたジールからすればそれくらいは受け取って欲しいところだ。

 

 鞄に紙袋ごとしまいこんだジールは、最後にやり残したことがないかを確認する。

 

「兄さん終わったの?」

「……ああ。」

「そっか♥じゃあボクはイルミと遊んで来るね♦」

 

 勢いよく立ち上がったヒソカは、ジールの影に立っているイルミの方を向いた。

 関わりたくないと思っているイルミはジールを盾にしてヒソカを避ける。しかしそんなことを気にするヒソカでは無い、回り込むようにイルミの顔を覗き込んだ。

 

 そして似たようなことを繰り返す二人を見ながら、完全に肉壁扱いを受けているジールは何も言わずにただ見守っていた。

 

(まあ子供の成長にお友達は必要だが、……この状況は口を出すべきなのか悩むな。)

 

 フェイントを交えながらイルミの方へ回り込もうとするヒソカは完全に楽しんでいた。

 それから逃げるイルミは嫌がっている様子を隠そうともしない。ヒソカを止めた方がいいのか悩んでいるジールは暫く考えてから傍観に徹することにしたようだ。

 

(……イルイルは強い子だし大丈夫だろう。)

 

 だんだんとヒソカのあしらい方を理解してきたイルミは逃げるのではなく、リアクションを最小限に抑えるようになった。

 元々、周りの影響は受けにくいタイプであるイルミのペースが戻ってきたのだろう。

 初めて会った母以外の押しが強い人物に動揺していたイルミもすっかりヒソカの流し方を覚えた。

 

「何して遊ぼうか♠」

「ねえジール、君の弟がしつこいんだけど。」

「……生まれつきだ。」

 

 ウザがられても堪えた様子を見せないヒソカのメンタルに感心していたジールは、イルミから送られてきた苦情をサラリと流した。

 しかし、その手はちょこまかと動き回っていたヒソカの服を掴んでいる。

 

「……その辺にしておけ。」

「えー♥」

「逃げられたら困るだろう。」

「別に鬱陶しいだけだし。ヒソカ相手に逃げないよ。」

「……おい、煽るな。」

 

 せっかく人が止めたものを、とジールがイルミをジト目で睨むが、本人は逃げると思われたのが気に入らないようだった。

 子供らしい意地の張り合いだが、これ以上ややこしい事にならないよう、ジールは飛びかかるヒソカの服をさらに強く引っ張った。

 

「彼もああ言ってるんだから、ね♥」

「……大人しくしとけ。」

 

 最近、身長の伸びてきたヒソカがイルミを追いかけるのは、何がとは言わないがギリギリだった。

 子供同士だからと周囲が許してくれるうちに小さい子との接し方を学んだ方がいいだろう。

 

(思春期のうちに変な性癖を開花させないでくれよ。)

 

 既に、強い相手に反応する謎のレーダーを搭載しているヒソカではあるが、ジールは健やかな成長を諦めてはいなかった。

 否、諦めたい気もするが諦めたら試合が終わってしまうので辞められないのだ。

 

 サングラスの下で切実そうな表情をしていたのだろう。ヒソカと適当に喋っていたイルミはジールの事を見て何かを考える仕草をした後、ジールの方に寄ってきた。

 

「……どうした。」

「そろそろ帰ろうと思って。」

「そうか。」

「えー♠遊んでくれないのかい♥」

「もう十分遊んだじゃん。」

 

 この短時間で対応に慣れたイルミは、背後で駄々をこねているヒソカを軽く流す。

 その成長具合には思わず拍手を送りたくなるほどだ。

 

「それじゃあオレは行くけど……、今度ウチに呼ぶから逃げないでよ。」

「逃げる?」

「今回持ってこれなかったアルバムがたくさんあるから。それに弟の話も少しは聞いてあげる。」

「ボクも行きたいな♥」

「絶対ヤダ。」

 

 この表情はミルキ達に会わせたく無いって顔だなとイルミの様子を見ていたジールは言われた言葉を流しかけた。

 

(ん??お家にご招待?ククルーマウンテンの中ってことかね?いいのかい?……とりあえず靴の裏の泥、落としとくわ。手土産も、ベンズナイフとか致死毒とか持っていけばいいのかな?わぁ、物騒☆)

 

 イルミにはっきりと断られたヒソカは逆に何があるのかと気になっている様子だ。しかし、唐突のお誘いに正気を失ったジールは対応出来ない。

 なんならヒソカの服を掴んでいた手の握力もまともに機能していなかった。

 手網の離されたヒソカはその隙を逃さずに帰ろうとするイルミの元に行くが、ヒソカに慣れたイルミに死角はなく、相手にされなかった。

 

 ジールの返事もまともに聞かず、自身の中で了承を受け取ったイルミはさっさと広場を後にする。

 兄を置いてまで追いかけるつもりはなかったヒソカがその背中を見送り、固まったままのジールを見た。

 

「兄さん?」

「……暗器が買える店を探すか。」

「えっ、イルミの家族でも襲うの?」

「は?」

 

 思考の海に沈んでいたジールは弟からの衝撃発言に思わず聞き返した。

 そんな助走をつけた自殺なんてするわけが無いだろうとヒソカの頭を心配するジールだったが、原因はどう考えてもジールの発言だろう。

 

 そして広場から出た後、ジールはウキウキしているヒソカから暗器の店を紹介されることとなる。

 

 

 

 

「……なんでそれを知ってるんだ。」

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 ヒソカとイルミの街の角でごっつんこ(運命の出会い)(ジール命名)から数日後。

 

 未だヨークシンに滞在しているジールは、一人で街の中を歩いていた。

 ここ数日は今回の目的であるG.I.(グリードアイランド)の入手方法について色々と調べており、今日はその息抜きだ。

 

 前世の記憶から、ジールは58億ジェニーという大金が必要な事と、あのP〇5よりもえげつない競争率だという事は知っていた。

 それをふまえて、グリードアイランドについての情報を集めようとネットカフェに寄り調べ物をしていたのだ。

 

(結果は上々、販売会社とゲーム名しか表向きには出てなかったしな。発売日と予約開始日、金額の裏付けまで出来たのは良かった。)

 

 凝り固まった背中を解しながらオークションの終わった街を楽しむジールは、行き先も決めずにフラフラとさまよっていた。

 

 観光客の減った街は本来の姿に戻っているのだろう。そろそろカレンダーを捲る日も近くなり、長くヨークシンに滞在していたジールも次の移動先を考え始めていた。

 

(大金叩いて買った物もあるし、予約開始日の十月まではホテルに泊まるとして……その後をどうするかだ。)

 

 有名な店が並ぶ大通りから出たジールは、引き寄せられるように広場へ歩いていく。

 

(予約が終わった後になにかある場合も考えたいが、ぶっちゃけリストが多すぎるんだよな。)

 

 ヒソカの捜索に全てを注いできたジールは今までに溜めていたやりたいことが山のようにある。

 

 考え事に向いている場所を求めてホテルから出てきたジール は広場の中を散歩し適当なベンチに腰をかけた。

 真上から降り注ぐ日光は全身が黒いジールにとって鬱陶しいものだが、木陰に入れば気にならない。

 

 昨日の夜から何処かに出ていった弟も未だに帰ってこない、少しくらいダラケてもいいだろう。

 と、背もたれに寄りかかるジールは隙間の増えた木の枝を見上げた。

 

(そう、ひー君の戦闘技術がメキメキ上がっているのも問題なのだ。最近は協専の仕事もしてないし、このままでは追い抜かされてしまう。)

 

 由々しき事態だ、と一人オーバーリアクションで楽しんでいるジールだが考えていることは真剣そのものだ。

 間違ってもヒソカの戦闘回数を減らしたいなど言えない。弟に抜かされそうだからといってその成長を止める兄が何処にいるのだ。

 スーパー頼れるお兄ちゃん計画の為にも、先ずは自分が努力をするのが筋だろう。

 

(とりあえず、念の鍛錬はいつも通り続けるとしてドブと言っても過言ではない発の精度を上げたい。)

 

 オーラを分厚めに纏っていれば音速くらいは無傷で――攻撃が肉体に到達する前に――止めることが出来るジールだったが、それでは満足出来ないようだった。

 ジールが不満に思っているもののひとつとして、個別に停止出来ないところがある。

 

 もちろんゆっくりやればひとつを静止させたまま別の物体を止めることも出来るが、戦闘中に使える速度では無い。

 速さを求めるのなら、一度全てを解除してから静止し直す方が断然速いのだ。

 

(ゆっくりやれば出来るんだから、あとは反復練習だろう。……結構集中力が必要だから疲れるんだよなあ。)

 

 疲れない程度には、寧ろ反射で止められるくらいにはなりたいと計画を立てる。

 

 ちなみに、普段のジールはオーラの総量を増やす為に堅を数時間してみたり、家具や外の生き物をオーラで包んで操作の精密性を上げたりしていた。

 

 正直、オーラ操作が関わってくる周や流はブラッシュアップの段階にあるため、苦手な隠や円を練習した方が良かったりする。

 

 まあ根本的に相性の悪い隠はどんなに頑張っても手練にバレてしまうので、少し諦めかけているところもあった。

 

(いやね、自分でやってても分かるんだよ。こう水に沈めたガラス的な?上手い奴は水の中に水を入れるような段階までいくから違和感も少なくて、凝を使う発想にいかないほどなのに。俺のは直ぐ凝で見られるんですよ。いじめかな?)

 

 円に至っては、広げる所まで上手くいくのに中の様子を探るのが下手なのだ。

 

 そろそろ半径が三桁まで広げられそうなジールだが、実際に反応出来るのは円の外周と精々が三~四十mといったところだった。

 それでも十分凄いとは思うが、使われていない過半数のスペースが可哀想だ。これこそいじめ。

 

(まあこっちはグリードアイランドに行けば思う存分出来るし、それまで仕事で腕が鈍らないようにすればいいだろう。)

 

 ハンターを育てるゲームというグリードアイランドはその点でも魅力的だった。

 より一層の気合いを入れたジールは、仰け反っていた姿勢を直し足を組む。

 

 クルッポ、ポッポ。ピエ。ヨヨン。

 

 前を向いた視線の先には鳩や、カラフルな小鳥などの野鳥が地面を歩いていた。

 

 

(あとはー、聖地巡礼はまあグリードアイランドを手に入れるまではお休みだろう。直近でやっておきたいのは金稼ぎと家探しかな。)

 

 友人を思い出す鳩を見つけたジールが豆でも買ってこようかと立ち上がった。

 近くの売店でも覗くつもりなのだろう。

 

 ジールは来た道を戻るように広場の入口へ向かう。

 

 恰幅のいい店主が座っているケータリーまで行けば直ぐに目的の物が目に止まった。

 考えることは皆同じなのか、野鳥用と書かれたプレートには割高の金額が出ている。

 

 グリードアイランドをいくつか予約しようとお金を集めているはずのジールだったが、鳩の可愛さには勝てない。

 正確には知り合いの中でもぶっちぎりの良い子には勝てなかった。

 

「ほい、1200ジェニーね。」

「ありがとう。」

 

 釣りが出ないようピッタリと渡したお金は、近くの箱に仕舞われる。

 手に持った豆の袋を弄びながら礼を言ったジールは、鳥の集まる場所を探して歩きだした。

 

 どうやら今後の計画立案は小休憩になったらしい。

 

 先程とは別のベンチに腰掛けたジールは無心で地面に豆を投げた。

 掛け声もない、表情も真顔のまま変わりなく、全く楽しくなさそうだ。

 

 自分から始めたがジールも心底楽しいというわけではない。自分の投げた豆に群がる鳥が面白いくらいだ。

 

 どんどん増えていく鳥に心の中で笑い声を上げるジールはここ最近の忙しさで頭がやられたのかもしれなかった。

 

(やべー、俺疲れてるのかもしれない。)

 

 袋の中身が勢いよく減っていく。

 そして、残りの豆が二握り程にまで減ってきた時新しく降りてきた鳥の中に綺麗な鳩が紛れているのを見つけた。

 

(おぉ、白いな。ベレーくんの鳩にそっくりだ。)

 

 周りの鳥と同じように豆を啄く白い鳩に向かって残りの豆を投げてみれば、首の動きがさらに速くなり凄い勢いで食べ始めた。

 

 そして周囲の豆を食べきったのだろう、ほかに転がっているそれらには見向きもしない白い鳩はちょこちょことこちらへ歩いてくる。

 そのままジールの座っているベンチのひじ掛けに飛び乗り、バランスを取るように羽を広げたところでジールは何かに気づいた。

 

「……まさか。」

『お久しぶりです!ジールさん!』

 

 パカりと開けられた口からは聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「……あぁ、久しいな。」

 

 挨拶は大事だからと返したジールだったが、その返答の裏には動揺と罪悪感が混ざりあっていた。

 

(ベレーくんの意識がある鳩に地面の豆を食わせてしまった!!!砂利とか着いてるだろうに、どうしよう。すまないベレーくん。)

 

『用事でこちらまで来てたんですが、ジールさんが見えて思わず降りてきてしまいました!!おやつもありがとうございます!」

 

(あぁ!!言わないでぇ。)

 

「……そうか。」

『はい!ジールさんもお変わりないですか?サングラスも似合ってますね!』

「ありがとう。」

 

(こ、こんな良い子に転がった豆を食わせた俺は重罪では?)

 

 ジールの心が罪悪感でそろそろ死にそうになったところで、ジールは話題の転換を試みた。

 

「……ところで、聞きたい事があるんだが。」

『はい!なんでしょう?』

「ベレーくんの知り合いの魔法使いにお礼をしたいのだが、いつ頃空いているか分かるか?」

 

 ヒソカの発見に力添えしてくれたユーリンに改めてお礼をしに行こうとしても、なかなかタイミングがなかったのだ。

 そうですねー、と翼で嘴の下を撫でながら考える仕草をみせたティリーは思い出したように翼を広げた。

 

『ご主人、今の時期は私有の島でバカンスしてると思いますよ!なのでいらっしゃるとしたらもう少し後の方がいいと思います。わざわざ島まで来ていただくのも申し訳ないですし。』

 

(島って……何者なんだよ。)

 

 予定の有無を聞いたのに、想像以上のスケールで返事が返ってきた。

 それでも予定であることにかわりはないので、ロンマーノに戻ってくる大体の時期を聞いて手帳に書き込んでおく。

 

『最近は忙しかったらしくて、バカンスの予定がズレたと言っていたので変更があるかもしれないです。』

「わかった。」

 

 豆を啄いている他の鳥の数もだんだん減ってきた。

 偶に隣りを向き何かを鳴いているベレーくんは鳥言語がわかるらしく会話をしているようだ。

 

(今度教えて貰おうかな……俺、英語の成績やばかったけど。)

 

 暫く鳥同士の会話を聞いていたジールは、さっぱり分からないと首を傾げながらティリーの様子を見守っていた。

 そして話し終わったティリーがこちらを向き、失礼しましたと謝ってきたのを軽く宥める。ジールは何を喋っていたのか気になるようで、言える範囲で良いからと教えてもらうことになった。

 

「……ほう、この街で見た事を?」

『はい!ジールさんがオークションに出品したのも聞きましたよ!!』

「それは凄いな。」

 

 前々から気になっていたティリーの情報収集能力の一片が見えた気がした。

 

「……グリードアイランドのことは?」

 

 ティリーは依頼の時以外に殆ど個人を追うことは無いと謙遜していたが、それでも十分過ぎる程である。

 照れるように翼をバタバタさせるティリーを微笑ましく眺めながら、ジールの狙っているゲームについても知っているかを訪ねてみた。

 

『渋いところですね!流石ジールさんです!そのゲームのことは存在もあまり知られて無いので、まだまだ知ってる人は少ないんですよ。』

「ハンターの間でも?」

『ネットや情報を専門にする人達の間で噂は広まってますよー!レアリティやゲームの条件なんかも聞いて興味を持っている人は多そうです。』

 

 どうやらジールが前世の知識でフライングをしただけで、他はゲームに辿り着く人も少ないようだった。

 商売としてこの知名度は良くなさそうだが、念のことを大々的に出すわけにはいかないし、レアリティのことも考えれば妥当なのかもしれない。

 

「……そうか。ゲームの申し込み件数はどれくらいになると思う?」

『難しいですねー、今は中堅以上のハンターやマニアの間で広まっているくらいですから十倍が妥当だと思います!価格設定もその辺の人達なら躊躇わないかと。

 ただ、これから成り立てのプロハンやゲーマーさんの所まで情報が流れれば変わってくると思いますよ!』

「……なるほど。」

 

(ということは、今後浅瀬まで情報は広がると睨んでいいだろう。だがその層は金額にもたつきそうだな。プロハンになってれば集めきれない額でもないが、ノウハウが無ければキツいだろう。ん?それなら――。)

 

 くるっと首を傾げながら黙り込んだジールを見上げるティリー。

 情報からグリードアイランドの購入方法についてある程度の予想が立てられたジールは感謝の意味も込めて鳩の頭をひと撫でした。

 

「助かった。いつものところに入金しておく。」

『えっ!いいですよー。依頼じゃ無いですし!!』

「それでもだ。」

 

 パタパタと翼でバツ印を作るティリーだが、ジールは引こうとしなかった。

 向こうがどんな風に売り出してくるのか悩んでいた身としては、方向性がわかっただけでも有り難いのだ。

 

 そのような内容をティリーに伝えれば、相手は役に立てたことを喜んでくれる。

 

『そう言って貰えると嬉しいです!!では僕はこの辺で失礼しますね。また何かあったら呼んでください!』

 

 翼を使って綺麗なお辞儀をみせたティリーはそのまま羽ばたいていった。

 

(ええ子やった。ほんとにありがとう。)

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

「兄さんおかえり♦」

 

 ホテルの扉を開けるとそこにはヒソカがいた。

 広い部屋の中央に置かれた黒い複数の箱と並べられた三枚の板を見ていたらしく、しゃがみこんでいたヒソカは振り向くと同時に立ち上がった。

 

「ただいま。……戻っていたのか。」

「うん♠ところでこの黒いやつはなんだい?」

 

 ピッと指さされたそれはまだ準備が整っていない状態であり、お披露目には少し早かった。

 

「欲しいものがあると言っただろう。」

「言ってたね♦もしかしてこれがそうなの?」

 

 硬そうな見た目だが、ヒソカには何に使うものなのか検討もつかないらしく、突きながら不思議そうにしている。

 一般的なそれとは見た目も違うため気づかないのも無理はないだろう。

 

「……いや、手に入れる為に必要な物だ。」

「へー♥」

 

 興味深そうに箱の周りを回るヒソカはおもむろにトランプを取り出した。

 そして予備動作も殆どない状態でそれを振り下ろした手はギリギリのところでジールに掴まれる。

 

「止められちゃった♥」

 

 手加減も無く掴まれた腕は痛いはずだ。しかしそれを気にする様子もないヒソカは澄まし顔で手を離したジールの方を見る。

 

(あっぶっねぇ!!油断も隙も無いな!?……やめよ?これ結構高かったんだからね?)

 

「それで?」

「スパコン――スーパーコンピュータだ。」

 

 ジールがボタンを押すと、黒い箱には青い光が走った。

 

 

 




次回からグリードアイランドの購入パートです。

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