口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回からグリードアイランドで遊んでいきます。

よろしくお願いします。


第五章 収穫期
左手には指輪


 

 世の中にはコレクターと呼ばれる者が一定数存在する。自身の気に入ったものや価値があるものなど集める対象は人それぞれで変わってくるが、並々ならぬ熱情を持っていることは共通しているだろう。

 

 そしていつの時代も注目を集めているプロハンターの彼らの中にもコレクターは多くいた。

 むしろ各々が収集するのに必要な財力や権力、さらには自らが集めに行ける程の身体能力の高さを持っているため、ハンター達のコレクションが他とは一線を画していることも周知の事実であった。

 

 文字通り生まれる前から収集癖のあった男、ジールもその例外ではない。

 魔法の鞄が無ければどうしていたのかと問いたくなるほど、ジールはコレクションを抱えているのだ。

 

 若干、その鞄の性能がジールの収集癖を増長させたと思えなくもないが、世間的には一切価値のないその辺の石ころまで拾っているのを見ればその癖の強さが分かるだろう。

 

 そんなハンター界隈でも一目を置かれている男はそのコレクター精神を刺激される舞台に立っていた。

 

 十数年後と容姿の変わらない案内人イータに説明されたゲーム内容は、既知のものであるにも関わらずとても新鮮に感じたようだ。

 草原に降り立ったジールはブックと唱え、暫くカラのバインダーを眺めていた。

 

 自身の弟がやってくるのを待っている間、ジールは小屋から出てくる他のプレイヤーを絶でやり過ごしその様子を観察する。

 

 大抵が出てきた瞬間、視界に入るフィールドの広さに圧倒されて立ち竦み、我に返った者から適当に歩いていくのだ。

 

 原作とは違いまだ初心者を監視するプレイヤーも居ないため、歩いていく先はバラバラである。

 

(良いなぁ、初見ゆえのドキドキとワクワク……前世の記憶を恨んだことは無いが、新品ゲームのネタバレは重罪だぞ?)

 

 ジールはゲームの内容を知っているため、それを実際に体験出来るという楽しみがある。しかし、何が起こるか分からない緊張というものは持てなかったのだ。

 

(しかも何が良くないかって、ゲームの記憶があるくせにカードの内容を全然覚えてない所よ。マジで脳の容量ミジンコ。)

 

 カードの解説を何回も読んでいたはずのジールだが、その全てを覚えているわけではなかった。

 精々ゴン達が自力で取ったカードや散々使われていた離脱(リーブ)くらいだろう。

 

 ネタバレを知っているむず痒さと、なのに全ては覚えていない己のポンコツ具合に挟まれ葛藤しているジールは、等間隔で出てくるプレイヤーを見送りながら心を落ち着けていた。

 

 そして、兄の後にログインしたヒソカも階段を降りきると自身の兄を探して背後を振り返った。

 説明が一人づつ行われるシステムの為、ヒソカより早かった他のプレイヤーに待たされたのだろう。

 

 小屋の屋根に寝転んでいたジールは、ヒソカの横に降り立つと問題が無いかを確認した。

 

「……ルールは?」

「うん♦多分大丈夫だと思うよ♥『ブック』」

 

 兄の手の中で動きに合わせて動いているバインダーを目で追いながら、同じようにバインダーを出してみせたヒソカは少し自慢げに笑った。

 

「ところで、この後は何処に行くんだい?」

「……南東方面に。町を探そう。」

「へぇ、このゲーム町もあるんだね♣︎」

「………………ああ。」

 

 高く昇った太陽を背にジールは左側を指さす。

 ほぼ同時にバインダーを仕舞った二人は次のプレイヤーが来る前にここから離れようと走り出した。

 

 直前、オーラの流れを調整する様に足先で地面を叩いたジールは半径を二十mに設定した円を展開させる。

 走りながら円で感知するものを視認し、その感覚を擦り合わせるのだ。

 

 何処までも続いていそうな草原を駆ける二人の間に会話は無かった。

 

 

 

 

 

 

 草原や、幾つかの林を抜けているとヒソカは何かに気づいたように顔を動かした。二十mの間合いを把握してきたジールもその変化に気づき、ヒソカが見ている方向に目線をやる。

 

 木々の途切れ目からは、川を挟んで緩やかな丘が見えた。

 何かモンスターでも居たのかと探ったが、めぼしいものは見つからない。近くの木に登り、丘の向こうを確かめようとジールが腰に手をやった所で上手く掴めなかった手元を見た。

 

 いつも鞄がある所には代わりにウエストポーチがちょこんとあるだけだ。

 ゲームをやるに当たって鞄を銀行の金庫に預けていたのをすっかり忘れていたジールはいつもの癖で単眼鏡を出そうとしていたらしい。

 ちょっと恥ずかしい行動に、ズレたサングラスを直しながらポーチを開けたジールは、中から収納型の望遠鏡を取り出し丘の向こうを覗いた。

 

 するとそこには街を囲む柵や、建物が並んでいた。

 ヒソカがどうやって気づいたのかは分からないが、反応を示したのはそこにあった人の気配にだろう。

 何となく♥と言われても納得しそうな謎の勘をしているヒソカは、様子を見に行った兄をニコニコしながら見上げている。

 

「何かあったかい♠」

「……街だ。」

「なら進路変更でいいのかな?」

「ああ。」

 

 コートをはためかせながら飛び降りたジールは、望遠鏡を仕舞いながら見えた街の正確な方角を示す。

 対して離れていないため一時間とせずに着くことが出来るだろう。

 

 それから丘を越えた所で街の入り口がはっきりしてきた。

 白い壁と木材で造られている建物の間には木々が紛れている。

 ジール達が掛けて行った正面には、木に括り付けられている横断幕がその街の名を教えてくれた。

 

 

『懸賞の街 アントキバへようこそ』

 

 

(初手から大当たりじゃないか!!!!流石ひー君だな!)

 

 ミジンコな脳ミソでも街の名前くらいは思い出せる。

 ジールは原作でも最初に登場していた街に来れた喜びで今にも叫びそうだった。

 

 流石に弟の横で奇声を発するわけにも行かないので、ジールはオーラの揺れで最大限の喜びを表現するだけに留める。

 隣りを歩いていたヒソカは何か嬉しそうだなと、自身の兄の喜びを正しく受け取ってご機嫌だった。

 

 色々な依頼書が貼られている掲示板や建物の壁を観察しながら歩いていくジールの足取りに迷いはない。

 アントキバの中でも比較的背の高い建物の前までやってきたジール達は大きな看板を見上げる。

 

『アントキバ月例大会 行事表』

『一月 2人綱引き 優勝商品:聖騎士の首飾り』

 

 十二個の枠に分けられたそこには来月からの行事の予定表が貼られていた。

 ジール達がログインしたのが12月25日だったため最初に来るのは一月のイベントだ。

 

 ジールが記憶の中にある情報と相違無いことを確認して頷いている横で、こういうイベントもあるのかと感心しているヒソカもまた頷いていた。

 

 他のプレイヤーと思われる人物も目立つ看板に引き寄せられている。

 周囲の様子を確認しながら次の行動に移ろうかとジールがヒソカを連れて再び街の外へ出ていった。

 

「もう用は済んだの?」

「いや、金が必要だからな。」

「あぁ、ゲーム用のがあるんだね♦」

 

 来た道を引き返すジールは、一先ず旅の準備を整えるためにモンスターを狩りに行こうと考えていた。

 街を探している間も、見かけたモンスターは倒してきたがそもそもの移動速度が速くジール達に絡んでくるモンスターが少なかったのだ。

 ジール達の今の手持ちでは地図や飲み物を買うことを思うと少し心もとない。

 

 横断幕を潜り草原へと戻ってきたジールはモンスターの居そうな場所を探しに行く為に街の外周から離れ川沿いを目指す。

 上流にでも行けば強そうなのがいるのでは無いかという謎の理論だが、それが試されるのは少し先だろう。

 

 少し草の背が高くなってきた川辺りに踏み込んだジールは何かコードのようなものを踏んだ。

 

「パ、パッチ……」

 

 退かす時に足が当たったのだろう、弱々しい鳴き声が聞こえたところでジールは初めて踏んだものか生き物であることに気づいた。

 

 気になったヒソカが草をかきわければ、毛玉のような丸いネコがボロボロになって倒れている。

 シルエットはダルマに近いだろうか、デフォルメされたその生物はフサフサの毛を汚しながら悶えていた。

 

 明らかに怪我を負っている様子に慌てたジールは凝で隅々まで観察しながらそっと手を伸ばす。

 特に念で何かされている様子もなく、指先でその毛に触れた瞬間。高い弾けるような音と共に指先へ痛みが走った。

 

 グローブとオーラのおかげで怪我をすることは無かったが、思わず手を引いてしまったジールは焦げているグローブの先と丸いネコとを忙しなく見ている。

 一歩離れたところで見ていたヒソカはよりハッキリ見えたのだろう。

 

「その生き物帯電してるね♦」

「……弱っているせいか、制御も出来てないな。」

 

 二人揃って毛玉を見下ろしながら話しているとジールが両腕を分厚いオーラで覆い始めた。

 いつもなら鞄の中からゴムシートくらいは出せるのだが、持っていないものは仕方ない。

 

 ゴリ押しで運ぶつもりなのだろう。

 見捨てるという選択肢など無いかのように即決した兄を見ながら弟は考える仕草をした。

 

「ところでソレは何処に連れていくんだい?」

「……獣医がいるとも限らないか。」

「応急処置で治るといいね♥」

 

 毛玉の下にそっと手を差し込んだジールは、パチパチと音を立てながらコートの袖を焼くネコを抱き上げた。

 丸いシルエットはジールの腕の中にすっぽり収まっている。まだ、意識は残っているのか「パチ、チ」と鳴き声が時折聞こえてきた。

 

 ちなみに二人がネコだと判断したのは毛玉の上に三角の耳が付いておりそれがネコっぽいという理由だけだ。偶に生き物を愛でるレベルの男達に細かいことは求めてはいけない。まぁ、ジールの鳩好きは例外だったりもする。

 

 怪我の様子を見るように覗き込んだジールは、その毛玉の先に何か細長いものが付いていることに気がついた。

 最初にジールが踏みつけたコードのようなものは正しくコードだったようだ。

 

 ただし、プラグの形をしている先端に対して根元はしっかり毛玉に繋がっている。

 

(ポ〇モンで言うなら電気タイプ、そして体力の低下といくつかの擦り傷を効率的に回復させる方法…このしっぽを見る限り一択だな?)

 

 あまり長時間は持っていられないため、ある程度の目処がついたジールはヒソカに軽く声をかけてから一直線に街へと戻った。

 

 そして入口の近くにあるショップに突撃したジールは、一瞬どもった後に腕の中のネコを見せてコンセントを貸して貰えるよう頼み込んだ。

 

「……急に押しかけて申し訳ない。」

「いいのよ、そのネコちゃんのためだもの。」

「あんたも怪我してねぇか?」

 

 店の休憩スペースを貸して貰えたジールは、床にタオルを敷きネコをそっと寝かせた。そしてしっぽの先をコンセントに差し込むと、お茶を持ってきてくれた女性に改めてお礼を伝える。

 

 店主らしき男性が包帯を持ってきてくれたが、幸いコートの袖が避ける(裂ける)だけでジールは怪我をしていない。

 その腕を見せ、頑丈さに驚かれつつも無事を喜ばれたジールは世界の暖かさに溶けていた。

 

「いくら弱ってるからってあのネコを触ってけがしねぇとはあんさん凄いなぁ。」

「……あれが何か知ってるのか?」

「そうねぇ、パチネッコがここら辺に出るのも珍しいわ。本当はもっと北の方にいるはずなのに。」

「……生息地があるのか。」

「昔はこっちにもいたらしいが、引っ込んじまったからなぁ。まあ俺が生まれるよりずっと前のことさ。」

「ええ私なんて存在も知らなかったもの。」

「……そうか。」

「いくら弱ってるからってあのネコを触って……」

 

 ここまで来てジールはやっと会話の不自然さに気がついた。

 ジールのコミユニケーション能力が低いのと、応用のきく相槌しかしていなかったせいで店主達の会話が決まったものだと分からなかったらしい。

 

 しかし店に駆け込んでから無難な会話しか無かったとしても気づかない方が難しいはずだ。

 

 ちなみに後ろで興味が無くなったヒソカがトランプで遊んでいたが、兄と同じタイミングで会話の仕組みに気づき感心していた。

 大方、決まったことしか言わないNPCと違和感の無い会話をする兄の適応力にでも驚いているのだろう。

 

 無論、全くの偶然だ。

 

 ジールが返事を返さなくなったことで、会話が終了したと判断したのだろう。各々が初期の位置に戻ったところで挿していたしっぽがコンセントからポトリと外れた。

 

 それに気づき、何かを誤魔化すように足早にネコへ近寄ったジールは短くなっているパチネッコの顔周りの毛を避けながら怪我の具合を確認する。

 

 それから、しゅるしゅると長いしっぽが毛の中に仕舞われていく。まるで掃除機のコード見たいだと見守っていたジールはプラグが見える位置で収納を辞めたネコが起き上がるのを手伝った。

 

「パチ!パチチ!」

 

 生憎と何を言っているのかは分からないが、声のトーンから機嫌がいい事は分かる。

 お腹の辺りでモゾモゾと動く毛を見れば、もしや短い手が埋もれているのでは無いかと思えるくらい活発に動いていた。

 

 復活したことに気づいたヒソカもジールの背後からパチネッコのことを見下ろしている。

 

「こんなに回復が早いなら、色々試せそうだね♥」

 

 何をとは聞けないお兄ちゃんだった。

 

 

 元気になったパチネッコが毛艶のよいそれを擦り付けながらジールに寄ってくる。

 どうやら懐かれたようだと判断したジールは毛玉を持ち上げ休憩室のドアを開けた。体調が戻り調整も出来るようになったのか、腕が痺れることはもう無い。

 

「……無事回復した。ありがとう。」

「助かったよ♦」

 

 カウンターに立っていた女性に声をかけたジールは、NPCだと分かっていても丁寧に礼をしてその横を通り過ぎようとする。

 

「ネコちゃん元気になったのね。良かったわぁ。そのネコちゃんを助けられるあなた達だもの、川の魔物も倒せちゃいそうね。」

 

 頬に手を当てながら首を傾げる女性はジールとヒソカを見ながら、最近困っているという水中に生息する魔物について語り出した。

 決して助けて欲しいとは言わなかったが、自分達を見ながら淡々と言われる現状に無視をすることは出来ない。

 

 さらにはパチネッコを助ける過程で世話になっているのだ、お礼に退治してみせると約束するのはもはやお決まりの展開だ。

 

「……もし良ければ自分達が。」

「あら本当!?店に並べる商品にも関わってくるから有り難いわぁ。」

 

 結局、川の上流に向かったジールは二足歩行するキモイウーパールーパーのようなモンスターを十数体倒し、旅の資金にした。

 水辺の敵にパチネッコの相性が良かったのも幸いだろう。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

「マサドラの場所なら3000ジェニーになります。」

 

 懐き付いてきたパチネッコを肩に乗せ、某ポケ〇ンマスターの主人公スタイルになったジールは、ヒソカと一緒に生活に必要なカードを買い揃え、情報収集を終えていた。

 

 焦げたコートの袖を気にするパチネッコをなだめながら、殆ど白紙になっている地図を取り出したジールは方角を確認して歩き始める。

 

 愛嬌のある旅のお供が出来て満足げなジールと、そのお供のしっぽを引っ張りながら楽しんでいるヒソカ。

 

 わざわざ知っている原作の順番を避ける必要も無いだろうとジールの独断で決められた目的地にも、パチネッコは「パチッチ!」と元気よく上下に動いてくれたのだ。

 

 木の根が張り巡らされている山道を登りながら順調な旅をする三人組は、その森の中で鈍い唸り声が響くのを聞いた。

 意外にも近くから聞こえてくることに気づき、気になったジール達は新しいモンスターかと近くの茂みを覗き込もうとする。

 

 

 

「――ゔッ。やべぇ……、」

 

 だんだんと近づくうちにその唸り声が人のものだと察したジールは嫌な予感がしながらも茂みをかき分ける。

 いち早く察知したパチネッコはその丸い鼻を毛の中に埋めている。

 

「あ”ぁ、…ゔぉえ。――ウプッ飲み過ぎた。」

 

 人間のジール達にも分かるくらいの酒臭さ、茂みの裏で悶えている顔色の悪いおっさんを見つけたジール達はそっと茂みを戻した。

 

 しかしその音に気づいたのだろう。

 蹲ったまま手を伸ばしてきたおっさんは寸分違わずにヒソカの腕を掴んだ。

 

 

(助けるのはパチネッコみたいな可愛げのある奴だけだから!!!)

 

 

 先程の出会いとは対照的なそれにジールは全力で叫んだ。

 

 




次回からはゲーム内のカードも出てきます。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
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