前回の続きからです。よろしくお願いします。
ゲームの中、マップの中心にある岩石地帯には様々なモンスターが跋扈している。
プレイヤーの中には命からがらに通過する者も少なくないその場所は、今二人の男達の出会いの場となっていた。
(……どうしよう。)
そのうちの一人、ジールは出てくる気配の無い相手に頭を悩ませている最中であった。
乾いた空気が二人の間に流れているのは気のせいではないだろう。
岩陰に隠れてしまったカイトに声を掛けてみたものの反応が返ってくる様子は無く、ジールはお手上げ状態であった。
勘違いで誰も居ないところに話しかけている――というパターンも有り得るが、人影を捉えてからその気配を追い続けているジールは自信を持ってそこにカイトが居ると断言できる。
しかし、相手の反応が無い状態ではこれ以上ジールからコンタクトを取るのは難しい。
そもそも、カイトを見つけたテンションとノリで声を掛けたようなものなのだ、微妙な空気になった今ジールは若干の後悔すら感じていた。
選んだ言葉が悪かったのか、急に声を掛けたのがいけなかったのか、もしや後ろを付いてきていたという認識が自意識過剰だったのではないか。
このまま放置すればジールのネガティブは留まるところを知らずに突き抜けていくだろう。
声を掛けた手前、気づかなかったフリは出来ない。
身動きを取れなくなったジールは太陽の照りつける下でじっと相手の動きを伺っていた。
立ち尽くした状態でどれ程経っただろうか、お互いが無言のままジールの中に気まずさだけが募っていく。
もう全てを無かったことにして帰ってしまおうか、一瞬だけでも会えたことを思い出に修行へ戻ろう、そうしよう。
痺れを切らしたジールが、良き思い出として全てを終わりにしようとした時だった。
背を向け歩き出そうとしたジールの背中に声が投げかけられた。
「ゲーム機買う時に写真を撮ってた人で間違いないか?」
(なぜそれを!!!!!!)
聞き逃せないセリフに勢いよく振り返ったジールは、動揺を押し殺しながらカイトを見る。
先程まで何の反応も無かった相手は、立ち去ろうとしたジールを引き止めたかったのだろう、僅かに焦りを滲ませた声は結果見事にジールを引き止めた。
寧ろ、己のオタ活を見られたジールは情報の出処が気になって仕方がない。
誰かに聞いたのか、直接見られていたのか回答によっては社会的な死まであるかもしれないとジールは妄想を暴走させていた。
その頭から感動的な出会いは既に消えている。
飛びかかって問い詰めてしまいそうな所をなんとか堪えたジールは冷静に相手の様子を観察した。
(大丈夫、相手も俺に用があるっぽいし、会話の中でそれとなく聞いてみよう。焦るな、まだ大丈夫だろ。)
「……用件は?」
警戒させないよう、自ら近寄ることはせずにカイトの出方を伺うジールは内心で冷や汗を流している。
「いや、たいした用事があって接近したわけではないんだ。ただ、ジ――オレの師匠が話していたのを思い出して気になっただけで、……鍛錬の邪魔をしてしまってすまなかった。」
どうやら相手はジールのストーカー行為を責めに来たわけではないようだった。寧ろ足を止めたジールの事を気にして謝ってくる程だ。
そして、カイトの丁寧な対応と、そこに含まれる情報量にパンクしそうなジールは邪魔ではないと伝えるだけでも精一杯である。
(プリーズストップ!!!!オーケー落ち着け?握手会場に核爆弾を落とすのはよくねぇ、死人が出るぜ?………………ところでカイトさん、ジンに認知されてるってマジ?)
「……それだけで付いてきたのか?」
荒ぶっていてもそれを外に出すわけにはいかない。なぜなら相手はジールの隠し撮りを知っているカイトなのだ、言わばジールは前科一犯。
これ以上の奇行を晒して引かれないようにしたいところである。
まさか隠し撮りの人だと覚えられ、ここまでついてきた訳では無かろうとその“たいしたことない用事”を聞き出そうとジールは必死だった。
「キッカケはそれなんだが、お前の鍛錬がよく出来ていたものだからコッソリ参加させて貰えないかとついていた。」
「……随分積極的だな。」
「急だったとは思ってる。危険な人物ではなさそうだし、こちらも事情があったので勝手にやらせてもらった。すまない。」
師匠に似て意外にもアグレッシブな様子である。本人にその意図は無さそうだが、知っている姿よりも若い人物はジールの心臓に優しくなさそうだ。
お互い同い年位なのだろう、背丈も似通っている相手はジールのことをじっと見つめている。
確かに全体的にプレイヤー年齢の高いこのゲームにおいて同年代の知り合いというのは一種の心強さがあるかもしれない。と一周まわって感情が無に近づいたジールは読み取った相手の様子から勝手な考察を始めていた。
「……まだ話したいことはあるが、時間が無い。」
自身の中で一区切りがついたジールは、話の流れをぶった切って自身の用件を述べ始めた。
「そうだな、話を聞いてくれてありがとう。」
空が暗くなっていくのを見たカイトは終わりの合図だと思ったのだろう。後をつけていた弁明を聞いたジールにその礼を伝えると、背を向けゆっくり足を進め始めた。
「……?付いてこないのか。」
「ん?」
「君も話したいことがあるだろう。」
その言葉に足を止めたカイトは確かめるようにジールの方を見た、出会った時と真逆の立場になっているようだ。
ジールに遠回りな別れの言葉など扱えない。
社交辞令でもなんでもなく、本当にまだ話したいことがあるのだ。
そして、別れを惜しむように歩き出したカイトもまだ言えてないことがあった。
「時間が無いんじゃないのか?」
「ペットに餌をやりに行く。その後でも良ければ続きを話そう。」
やっと言いたいことを言えたジールはこちらに寄ってきたカイトを見てからマサドラの方へと歩き出した。
ジールと少し間を空けるようにその横へ収まったカイトは暗い中でも外されないサングラスを見る。
初めに声をかけてきてから、黙ってしまった相手は会話の途中でも間が空くことが多かった。
やはり快く思われていないのだろうかと不安に思ったが、先のやり取りのおかげでその不安もう払拭されている。
少々不器用な相手はどうやら口下手らしく、決してこちらを邪険に思っているわけではないようだった。
そうと分かれば遠慮する必要も無いだろうと、本来の目的を見据えたカイトはマサドラの灯りを待ち遠しく思っていた。
※※※※※※※※※
豪華なホテルの一室にパチネッコを迎えに行ったジール達は揃ってホテルのレストランへやって来ていた。
最近ログインしたばかりで金を持っていないと逃げようとするカイトを捕まえて同じ席に付かせたジールは、足元に座っているパチネッコにフルーツを渡しながらメニュー表を開く。
「……遠慮するな。」
「いや、するだろ。」
マサドラに向かう途中色々と話していたからか、出会った時よりも砕けた様子に見えるカイトは渋々メニュー表を受け取り一番安い料理を探していた。
「……決まったか?」
「ああ。」
「俺はコレで。」
そう言ってカイトにメニュー表を見せたジールは自分が食べたいものを指さしている。
店員を呼ぶ為に片手を上げていたカイトはその行動の意図を図りかねているようで、どういうことかとジールとメニュー表を交互に見た。
「はい、ご注文をお伺いします。」
そうこうしているうちに笑顔の店員がテーブルの横までやってくる。ジールに話しかける間もなく、カイトは自分の選んだメニューを店員に伝えそのままジールの指さしたディナーセットも注文した。
「きのこのスープと丸パン、ディナーセットAでよろしいですか。」
「はい。」
「かしこまりました。それでは失礼します。」
一礼をして去っていく店員に結局一言も話さなかったジールは、ホッとひと息つくようにメニュー表をしまい始めた。
つまるところ、ジールは店員に注文するのが苦手なのだろう。居酒屋のような軽い雰囲気ならともかく、ファミレス辺りから店員を引き止めるのにも若干の気を使うらしい。
とは言っても、なんでも無いように注文することも出来るのだ。しかし今回は一緒に注文する相手がいたため、ついでに頼んでもらおうという魂胆だった。
初対面の相手に説明もなしにそんなことをすれば不思議がられるのは当然のことだが、久しぶりの同年代に浮かれているジールは気づいていない。
無駄にカイトを混乱させながらも、料理が届いた二人は向かい合いながら食事を始める。
「まだ名乗って無かったな、オレはカイトだ。」
「ジール、よろしく。」
「ああ、よろしく。」
切り分けたハンバーグを口に運びながら、ジールはじっとカイトの顔を見る。
食事の手は止めずに、そのサングラスの下から見つめられるのは落ち着かないだろう。
未だジールについて色々と図りかねているカイトはどうしたのかと、そのジールの意図を探ろうとしていた。
「……どうするか。」
「悩み事でも?」
「あぁ。」
やっとジールから漏れ出た一言にカイトは反応する。相談にのる方が、何も言われずに見られているよりもずっと楽だ。
何を言われるのか、カイトはスープを啜りながらジールに目を向けた。
「流石に相手の武器を晒すのは良くないだろう。」
「……まあ、嫌がらせだな。」
「そうすると色で判断するか。」
「動物でも見分けたいのか?ならその生物の生活環境なども参考になるぞ。」
「……環境、食べてるものとか。」
「ああ、ついでにエサの繁殖地も調べたい。」
「となると、きのこスープになるな。」
「ん?スープを食べる魔獣のことか?」
「いや、君のあだ名だ。」
自分達は動物の見分け方について話し合っていたのではなかったのか、カイトは急に出てきた自分の話題についていけなかった。
そもそも口数が少なく硬派なイメージを持っていた目の前の相手からあだ名などという単語が出てきたのにも驚きだ。
スプーンの端からぽたぽたと落ちていくスープがカイトの動揺を表していた。
しかし、混乱して上手く言葉が出ないカイトだったが、これだけは言っておきたいことがある。
「……きのこスープと呼ぶのはやめてくれ。」
「だろうな。」
ジールも流石に無いなと思っていた。
帽子を揶揄ったあだ名は既に使われているため、あとは白髪とかスロットとかピエロしか出てこない。
どれもイマイチだと却下したジールは結局名前から取ることにした。
「ではカイ君で。」
「まあ、それなら。」
ジールのあだ名史上トップを争う無難さに収まった。名前の過半数が原型として残っているのはかなりまともなあだ名だろう。
「それでカイ君の用事は?」
「……この流れで聞くのか、まあいい。」
注文した量も少ないカイトは、食べ終わった食器を隅に寄せジールの方を改めて向いた。
正面から向けられる視線に、周囲の話し声も聞こえなくなってくる。カイトの真剣さを感じ取ったジールもまた、フォークを置き食事の手を止めた。
「オレに念の指導をして欲しい。」
全く予想もしていなかったお願いに、ジールは目を見開いた。
その様子に気づいたパチネッコも、ジールの膝によじ登り二人の行方を見守っている。
「……師匠が居ると聞いたが。」
「実はその師匠からミッションが出ているんだ。」
そう言って事情を話し始めたカイトは少し疲労感を漂わせていた。
なんでもカイトはグリードアイランドをクリアする為にログインした訳では無いという。
再来年のハンター試験に向けて、修行の一環としてグリードアイランドに放り込まれたのだと慣れた口調で話してくれた。
念の基礎などは師匠から荒々しくもしっかり教えて貰っており、未完成だが自分の発も出来ている。
カイトが今後の仕事の為にハンターライセンスが欲しいと師匠に相談すると『じゃあ、ここで一年みっちり修行してこい。オレは忙しいから自分で考えて何とかしろ。(要約)』と試験を受ける為の試験が用意されたらしい。
ジールは裏話ありがとうございますのテンションでその話に相槌を打ちながらも、脳内は疑問符で埋め尽くされていた。
「見る限り、ここには念の仕組みを多く使ったモノがたくさんある。身体能力を上げつつ、念に力を入れていこうと思ったんだが、どう鍛えれば良いのか分からなくて困っていたんだ。」
「……それで俺に?」
「変化系の系統修行をしていただろ?やはり一人でやるには不向きなところもある。」
「出会ってすぐの男に頼むものか?」
ジールは何故自分に声をかけてきたのか全く分からず、訝しんでいた。
一緒に修行という響きはかなり魅力的だが、フライングで色々知っている自分はともかくカイトは、もう少しこちらを警戒するものでは無いかとジールは思っている。
しかし、ジールに問われてもカイトは膝上のパチネッコをチラリと見ただけで動揺することは無かった。
「……師匠が良いと言っていたジールに対して不安は無い。勿論そっちが迷惑なら断ってくれ。」
「……嫌ではないが、本当に俺なのか?」
「ジールに頼んでる。」
「少し見ただけだろう。」
「それだけでも十分な収穫はあった。」
普段はなるようになれと、口を開かずに流されるジールだが珍しくアレコレとカイトに確認をしている。
決して嫌ではないが、自身の心臓へのダメージを考えるとここで流されてはいけないと警報が必死になっているのだ。
考えても見ろ、カイトに念の指導をする自分を。恐れ多さと接触回数に心臓が潰れる。命の危機だ。
しかし嫌がってない時点でジールが言いくるめられるのは決まった未来だ。
「…………言葉で伝えるのは苦手なんだが。」
「知っている。隣に置いてくれればいい。」
恥を忍んで、指導に向かないと暴露したジールだが鷹揚に頷くカイトにあっさり受け入れられてしまった。
これ以上言えることも無い。それに修行仲間ができるのは悪いことではないだろう。
黙り込んだジールにカイトは了承の気配を察知したのか、期待するようにジールを見ている。
「ちなみに、なんで俺なんだ?」
「いっぺんに色々鍛えようとする所が、師匠のやり方と似ていたのが理由だな。」
「……では厳しくいこう。」
「ああ!よろしく頼んだ。」
「パチ!」
※※※※※※※※※※
(何故かカイトが修行仲間になってから一週間。ヌルッと年越しをして、本日も絶賛の修行日和です。)
大きな川に入り、水中で負荷をかけながら魚取りに苦心しているカイトを見ながらジールは適当に念弾を放っていた。
岩石地帯の景色に飽きたジール達が次に選んだのは見晴らしのいい草原だ。
ジール的にはゴン達が修行をしていた草原に行きたかったが、生憎と似たような風景が多くどこなのか分からなかった。
「……次、行くぞ。」
ふくらはぎ辺りまで水かさがあるため、思うように動くためには相当の筋力が必要になってくる。
元々生物との相性が良いカイトは獲物の捕獲も手際よく行えてた。
しかしそれでは修行にならないだろうと、ジールがカイトの獲物を散らすように念弾を放ったのだ。
カイトはジールの動きを読みつつ獲物を捕らえたり、そもそもの念弾を防いだりと作戦を練りながら魚を捕まえなくてはいけない。
対するジールは、魚を殺さない程度にオーラ量を調整したりカイトのフェイントをかわして妨害したりとこちらも必要な能力を鍛えている。
「待て、仕掛けたトラップの破壊は無しだろ!」
「……嫌なら防げばいい。」
「無茶ぶりだな!本当に師匠のスタイルに似て――ってオーラ量増えてないか!?」
(いやー、ジンに似てるとか言われると照れてしまうな。)
感情の発露で手元の狂ったジールは魚が死にかねない量のオーラを込めてしまい、言われた通り防ぎにきたカイトを焦らせることになる。
そもそも念弾の数はひとつやふたつでは無い。二十近くまである念弾を防げというのは丸腰のカイトにとって難しいだろう。
普段ドン引きされるほど綿密なオーラ操作をするジールがオーラ量を間違えるというのも中々に珍しいが、テンションの高いジールに付き合っているカイトにとってはそうでも無いようだ。
まだまだ修行が足りないと内なるオタクを宥めたジールは、動きに慣れが出てきたカイトを見て次のやり方に進むことにした。
「……枝を見つけてこい。」
「なんだ、別の修行を始めるのか?まだ捕まえられてないぞ。」
そう言いながらも、陸へ上がったカイトは水気を飛ばしながら近くの草を掻き分け始めた。
上流から泳いでくる魚をスケッチストッパーでコッソリ止めながらその様子を見るジールは感慨深そうに腕を組んだ。
(それにしても、マジで念の指導してるよ。未だに信じられないな。)
どうやら適当な枝を見つけたのだろう。付いていた葉をむしりながらこちらへ歩いてくるカイトは枝を何に使うのか不思議がっているようだった。
少し細いが折れて学ぶのも大切だろうと、そのまままた川の中へ入るよう指示を出したジールは、カイトに次の説明をする。
「次の念弾は曲がる。その枝を使って防げ。」
この修行では、ジールは放ったオーラの同時操作と、カイトには言っていないが隠の特訓を。カイトはオーラ感知と凝。使うのなら枝に周もするため鍛えることができるだろう。
「分かった。……ところで魚の数が一向に増えないんだが。」
「増えたら簡単になってしまう。安心しろ、死んだら追加する。」
修行の為にジールが裏で何かやっていることに勘づいたカイトだったが、あえて何も追求はしなかった。
水中での足さばきに慣れてきて三時間。そろそろ別の修行に入る時間が近づいているため、この攻防も今日はこれがラストになる。
長い髪を結び直したカイトは気合いを入れるようにジールと向き合った。
大きな水しぶきを上げながら、ジールの念弾を打ち返すカイトは途中で折れた枝を捨ててすぐさま新しいのを手に取る。
そのうち魚を忘れて如何にジールの念弾を防げるかにシフトしてしまったが、白熱したので二人は満足そうだった。
ちなみに感覚が研ぎ澄まされているカイトにとってジールの隠は見破りやすく、途中からは完全な打ち合いとなったのはジールにとって悔しいところだ。
「もう少し、周にオーラを割いてもいい。あと、握ってる手にも。」
「分かった。ジールはオーラの流れを読むのが上手いな、コツでもあるのか?」
「………………勘。」
何とかいいアドバイスができたんじゃないかとホクホクしてるところで、不意打ちの質問に不甲斐ない回答しか出来なかった。
再び陸へ上がってきたカイトにタオルを渡しつつ、二人は草の短いところを見つけて座り込んだ。
「中々疲れるな。」
「休んだら系統別だ。」
「今日は変化系か?」
「……ああ。」
空を見上げれば流れていく雲が見える。
汗をとばす風に心地良さを覚えたジールは、サングラスの下で目を細めた。
(あー、すっげぇ平和。)
特大のフラグを立てたところで、次回はそのフラグをヒソカに回収してもらいます。
ということで、次回はヒソカ視点です。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
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