よろしくお願いします。
突然だが、供給過多になったオタクがどうなるのか。同志ならば想像つくだろう。
残念ながらこの世界には、未だ呟く鳥はおろか掲示板すらないのだ。そんな時、荒ぶる心の内を何処に発散すればいいのか、ぜひ教えて欲しい。
お礼は、そこの芋虫を煮たモンブランでいいかな。
突然、心源流拳法を学べることになった俺はそりゃわくわくしていた。
あのネテロ会長が使っている技の一部を体験出来るのだ。やる気はメキメキ上がった。
武術が学べて、推しの一部が知れる。一石二鳥とはまさにこの事。
あっ、ちなみに最推しはゴン君です。マジで太陽。
俺の好みとしては敵キャラ系がダントツだったんだが、社会人になってからは圧倒的主人公派になった。まじ癒される。というか溶ける。是非キルア君とセットでよしよししたい。コミュ力的に無理だが。
まぁ、キャラデザとか能力とかは、未だに敵キャラの方が好きだがな!だって格好良いじゃないか。卒業したつもりではあるが黒いコートも、包帯も意味深なセリフも大好きなのだ。仕方ないね。
そして!好きな女性キャラはしずくちゃんだ!まず眼鏡、スタイルの良さもある。それに天然チックなところも…オタクの語りが長いって?ごめん。だから、呟く鳥を紹介してよって。
さて、なんでこんな話をしたかというと、道場に入門してから半年程経ったし、これまでの成果をお披露目しようと思ったからだ。
といっても基礎の基礎からなので必殺技とかも全然習ってない。こういうのは焦ると駄目なんだよ、お兄ちゃん知ってる。
入った最初は、走り込みとか基本の型の反復練習が大半だった。基本の型も心源流のものではなく、ありふれた唯の正拳突きなどである。
まあ、武術に対する心構えとかを教える期間だったんだと思う。
それから段々と、型の種類が増やされていき、1ヶ月後には気づけば複数の突き技と投げ技が出来るようになっていた。その頃には、他の門下生と交流する機会も増え兄弟子から教えてもらうこともあった。
突き技の中には、心源流特有の型もあったため着実にオタ活…コホン、修行が出来たと思っている。
俺は身体能力が高いのもあるが、相手を観察して学ぶ技術が高いようなのだ。
おかげで同時期に始めた子(大体年上だ)より頭2つ分は抜きん出てる。組手の時など、相手を見ていると仕掛けようとする技が予想できるため、その対処も悠々と出来る。
兄弟子ともなると、修めている技の種類や精度も上がるため、先を読んだとしても捌ききれないことがある。それは努めた月日の差だ。
まあ、負け惜しみを言わせて貰うなら、あと1ヶ月あれば大半の兄弟子には勝てるようになるぞ。
ハイペースで新しい技を師範から教えてもらっているのだ、仕組みや狙いが分かれば対処のし易さは格段に上がる。技を極めるのは別の話になるが、兄弟子も未だ極めたとは言えない。お相子だ。
元々、謎解きとかパズルは得意なのだ。手先の器用さと相まって知恵の輪なんかは十八番だった。
仕組みの理解や、法則性の解明なら自信がある。
ま、記憶力は壊滅的だったので学校のテストは駄目なタイプなのだが。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
学校が終わり、道場へ向かう。身体に染み込んだルーティンだ。
板張りになっている大部屋に入り大きな声で挨拶をする。投げ技で投げられる事に慣れても、大きな声を出すことには未だ慣れない。
「おはようございます。では着替えてから型の練習に入りなさい。」
「はい。」
ちなみに師範は初老のおじいさんだ。髭は無いし、優しい顔つきだがまあまあな鬼である。
道着に着替え、先に並んで突きを素振りしている兄弟子達の横に加わる。
決められた回数をこなしながら、拳を出す早さ、腕の捻りなどを調整する。
この後は、それぞれで組んでの組手だ。相手は師範が決め、お互い投げ技を掛け合ったりする。
学校がある日は、時間も少ないためここで終わるが、休日には更に試合形式で組手を行う。そこでは技の応用や、その対応など実戦に近い動きを身につけていくのだ。
とまあ、師範は教えるのも上手だし優しい兄弟子もいるので、ここでの修行はとても楽しいのだ。
しかし、心源流拳法自体は俺にはあってないように思える。こんな序の口だけで何をほざいているかと、自分でも思ったがこのまま極めていくのは、首を傾げる感覚になるのだ。
相手と対敵した時に、拳をどう出すのか。
向かってくる蹴りのいなし方。
どれも俺が求めていた技術であり、ここではそれが学べる。
武術のぶの字も知らないガキンチョであった俺を、心構えを含めて鍛えてくれた。
流石、ハンター世界の最大流派だけある。きっと何十年か研鑽を積めば強くなれると思える程だ。
が、どうやら俺が求めていたものと少し違う様なのだ。はっきりとした感覚ではないため表現しづらいが、一番近いのは“戦闘スタイルの違い”だろうか。
まだ漠然としたものである為詳細を語ることは出来ない。それに違和感があるといっても師事することが苦痛な訳でもない。
まだまだ学ぶことはあるのでしっかり学んでいくつもりだ。ハンター世界を散歩する為にも、弟を颯爽と助ける為にも、せいぜい搾り取ってやるぜヒヒヒ。
何人かにアドバイスをしながら動きを修正していた師範が皆が見える位置まで移動した。
「これから、組手を行う。」
「「「「はい。」」」」
師範がそれぞれの相手を決めていく。全体で20人もいない道場なのですぐに決まっていく。平日なので人数はさらに少ないだろう。
俺の今日の相手は、黒髪、細目のお兄さんだ。ラッキー。
「「よろしくお願いします。」」
上段突きから、順に技を掛けていく。相手を倒すために仕掛けるわけではないので、威力はそこまでではない。
あ、さっき考えていた戦闘スタイルの違い。それを感じるのは組手の時が多いのだ。
こう、正面から技を仕掛けるのも悪くは無いが、搦手を仕掛けられないのがムズムズする。
武道としての試合なので、そういうのが駄目なのは分かるし、実際に戦う時は拳法を使いながら駆け引きも行うんだろう。
しかーし、俺は根本が正々堂々の武術が身にあってないのだ。
あぁ、ここで足払い掛けたいなとか、出された突きを払わずに引っ張れば、そのまま蹴りが入れられるのになとか、思ってしまう。
いや、そもそもこうした練習で体術を身につけるのが苦手なのでは?それは流石に草なんだが、実戦で戦いながら身につけろと?笑えないな。
危ない方向に思考が舵を切り始めたので、考えるのをやめる。
「はい、軸がぶれてます。考え事ですか?」
「すみません。」
出した蹴りを捌きながら注意をされてしまった。いかんいかん。
「では、もう一度。」
「はい。」
それから何度か、修正されながらも組手を終える。
この兄さん、実は教えるのがめっちゃ上手いのだ。
本人も超天才とまではいかなくても、努力が出来る派の人でこの道場ではかなりの強さである。
そして何より教えるのが上手い。大事なことだから
二回言っておく。
「君は、速さは十分にありますが、その分狙いが雑なところがあります。最後まで動きに気を配ってみてください。」
あと優しい。なので俺は毎回、組手の相手にお兄さんが当たるよう祈ってたりする。
「はい。ご指導ありがとうございます。」
それから攻守を交代し、お兄さんの技を受けたり投げられたりするうちに時間が過ぎていった。
夕方になり、日もそろそろ沈み始める。
片付けをし、道着を着替えて帰る準備を始めなければ。
それにしても、アドバイスするのが上手なお兄さんだ。師範の資格を取れば優秀な門下生が育ちそうである。応援してますぜ!……心の中で。
家に着き、玄関を潜ればそこには弟が立っていた。
「ただいま。」
「にぃ、おかえりなさい!」
なんだ、出迎えとは可愛い事をしてくれる。
「…どうした。」
「にぃと遊びたいの!待ってた!」
「そうか、…宿題があるからその後なら。」
「嫌だよ!すぐ遊ぶの。僕遊びたい!」
部屋に道着や学校の鞄を置きに行く間も、ずっと付いてきていた。お前はヒヨコか。
「だが、」
「やだ!やだ!遊びたい!」
赤い頭を左右に振りながら、手を引っ張ってくる。
待て、上着が脱げない。
離すように言っても、駄々を捏ねて離そうとしない。
「…………分かった。」
仕方なしに頷く。まあ、最近は忙しくて遊べてなかったし…宿題は後でやろう。
それにしても、少し我慢する事を覚えさせないとヤバイのでは?あとで言っておかねば、俺は注意も出来るお兄ちゃんなのだ。
「ほんと!?僕ボール持ってくる!」
「待て、外は暗いから中で出来るものにしろ。」
思わず早口で言ってしまう。今から外遊びは流石に危ないからね!?お兄ちゃん許さないぞ。
「えー。」
「駄目だ。…遊ばないぞ。」
ぶすくれているが、譲らないからな。暫くこちらを見ていたが、俺が意見を変えないことが分かったのか「…つみきにする。」と、リビングまで準備しに行った。
俺は、その間に上着を脱ぎラックに掛けておく。
最近は、ひー君が前にも増して一緒に遊びたがる。
子供はよく遊んでよく寝れば育つと聞くし、遊びたがるのは構わないが、昼間も遊んでいるだろうに飽きないものだ。
「にい!準備できたよ!」
「今いく。」
つみきということは、あの遊びだろうかと考えながらリビングへ向かう。
そこには2人分のつみきが箱から出されていた。
相変わらず遊びの準備は甲斐甲斐しいものだ。…まあ、準備されてないとやる気が出ない俺のせいかもしれないが。
「今日はお城作ろう!」
「わかった。」
それからは、一言も話さず黙々と作業する。
これの何が楽しいのかはイマイチ分からないが、ひー君はつみきで何かを作るのが好きだ。しかも個人作業で。俺必要?いらなくね?
まあ、俺の素晴らしいお城を作るのに他の人手は要らないので、俺も個人作業の方が好きだが。
そして毎回作り終わると相手の作品を鑑賞する。
4歳にしては高度な遊びを好んでいるな。
ちなみに今日は、リビングに母や父もいたので2人を呼んで自慢の城を紹介しといた。
あえて、アシンメトリーに作った円形の城門がいい感じだと思わない?
ひー君のも、下の土台が綺麗に組まれてて良いと思う。
「にぃのお城凄いね!まん丸!」
おっ、そこに目を着けるとは、ひー君も見る目あるな。良きにはからえー。
「…そうか。」
「うん!…………にぃも!」
「……土台が、良いと思う。」
そして、プチ品評会が終わればそれを崩して、また新しいお題で作るのだ。
次は何のお題だろうか、生き物とかどうだろう。
「にぃの壊してもいい?」
「どうぞ。」
そして例の如くつみきを仕分けて準備してくれるひー君の手際の良さよ。いつもありがとう。
ちなみに、宿題は忘れてそのまま寝た。
※※※※※※※※※※※
パタパタと駆けてくる足音が聞こえる。
「にぃ!今日、鬼ごっこしたい!」
「…すまん、発表会の練習があるから無理だ。」
「えー、なんで!」
「母さん、ひー君、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「……行ってらっしゃい。」
学年が上がり、クラスでの出し物をする事になった。
その準備もあり、最近はひー君と遊べていない。
今朝のお誘いも嬉しかったが、道場に通っていて手伝えない分、今日の練習には参加したかった。
今週末の発表が終わればまた遊べると思うから待っていて欲しい。
学校に着けば、クラスメイトが挨拶してくれる。
それに、返事しながら(さすがに、挨拶くらいは言えるぞ)適当な席に座って、授業の準備をする。
今日は、午前の授業が終わったら、発表会の練習になる筈だ。
「ジール君、おはよう!」
「おはよう。」
「今日の練習楽しみだね!準備してきた?」
虚無顔で座っている俺に話しかけてくれたのは、前の席に座ったユーリちゃんだ。
「…した。」
「そっか!私はね、お家の猫ちゃんを描いたの!」
「そうか。」
「そう!白くて可愛いんだよ!」
ほんとコミュ力高杉くんだな。まともに返事出来なくてすみません。
「…可愛いのか。」
ユーリちゃんは、家のご近所さんである。話題に上がった白猫も見たことあるのに、さも“今知りました”みたいな返しになってしまった。
「でね!猫ちゃんと初めてあった時のお話にしたの!」
なるほど。ちなみに、ウチのクラスの出し物は各自の思い出をイラストに描いて、いくつかのストーリーも紹介するといったものだ。
まぁ、思い出の音読とか俺には無理なイベントであることは分かるだろう。
「…」
頑張ったなとか言えばいいのか?上から目線過ぎるか?
「パパが、猫ちゃんに名前を付けたときはね…」
気づいたら話が進んでいた。どうやら相槌は要らないようだ、聞いておくので好きなだけ喋ってくれ。
そうして話して(?)いるうちに、先生が入ってきて授業が始まった。
今日は算数からなので、暇である。
流石に九九は出来るからな。
ひー君は今頃どうしているだろうか、鬼ごっこを断ってしまったし落ち込んでいないといいが……。
いや、俺が道場に通い始めた頃に、ひー君も同年代の子と遊び始めたし、その子達と鬼ごっこしているのかもしれない。
さっきまで話していたユーリちゃんの弟くんも紹介したことがある。
兄弟と姉弟で遊んだ時に顔をあわせているからな。あの時も楽しそうだったし、俺と違ってよく喋るひー君なら、すぐに仲良くなるだろう。
その後、お気に入りの国語を受け(授業中に絵本が読めるから気に入っている)。お昼を食べたら発表会の練習だ。
立つタイミングや、選ばれた子が発表する順番を確認していく。
俺は、後ろで絵を持っているだけだから楽だ。
間違っても発表なんぞするものか。
指示を聞かないガキがたくさんいるので、先生も大変だろう。それなりの時間を使って最後まで確認した頃には、足が棒になっていた。立つだけも楽じゃないな。
「にぃ、今日鬼ごっこしたい!」
「…すまん、今日も忙しいから。」
「ジールちゃん。行ってらっしゃい。」
「……行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
どうやら、昨日は友達と鬼ごっこをしなかったようだ。家に帰ってから一緒に拳法の基礎練をした時は何も言ってこなかったので、てっきり遊べて満足したかと思ったが違うようだ。
今日は友達の予定も合えばいいのだが……。
俺は、学校へ行く途中で未練がましく振り返ったりもしたが、そのまま登校した。
うう、遊べなくてごめんよ。お詫びに折り鶴でも作ろう。席に着いてからは、要らないプリントで延々に折り鶴を折り袋に詰めていた。
今日の練習は、昨日の振り返りだ。それと、実際に話す子の読み方も確認するようだ。あっ、ユーリちゃんも発表するのか、頑張ってくれ。
「はい!じゃあ明日は、大きな紙に絵を描くのでクレヨンを忘れないようにね!」
ヘトヘトになりながらも、先生が明日のことを伝える。皆が描いてきたイラストを、大きな紙に清書するらしい。一応メモをとっておこう。
「おかえりなさい!」
「ただいま。」
遊びを尽く断る兄を出待ちしてくれるとは、こんなスレてない良い子がいるだろうか。…いた。
「お土産だ。」
そんな良い子にはこれをあげようと、袋いっぱいの折り鶴を渡す。ぶっちゃけ、3羽目くらいでこんなの貰ってもいらなくね?とは思ったが作ったので渡しておく。ほら、愛情は注いどいたよ。
「……にぃ、ありがとう!嬉しい!」
ほんとに良い子だな!?
こんな鶴どうしようというんだ、いらないなら、いらないって言っていいんだよ。
「これで怪獣ごっこしよ!」
そう言って、俺の折った鶴は怪獣にやられるモブになった。……まぁ、そんなもんだよな。
「にい!今日も学校いくの?」
「あぁ、」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「行ってきます。」
「……行ってらっしゃい。」
今日は、鬼ごっこに誘われなかったな。
友達と出来たのだろうか。
学校に着いて鞄を開けると中に入れた筈のクレヨンが入っていなかった。
あれ?
昨日帰ってからすぐに入れたと思うのだが、記憶違いだろうが。
「ジール君どうしたの?」
「……クレヨン忘れた。」
「忘れちゃったの!?どうしよう!」
今日も話かけに来てくれたのだろう。ユーリちゃんが固まっていた俺を見て、疑問に思ったようだ。
俺よりも慌ててくれている。まぁ、先生に言えば大丈夫だと思うけど。
「そうだ!ジール君、私のクレヨン一緒につかう?」
先生が来るのを待とうかと思っていたら、ユーリちゃんが手提げを持ってきた。貸合いっこだと!?いいのか?
「…いいのか?」
「もちろん!私、黒と白しか使わないからジール君たくさん使っていいよ!」
「ありがとう。助かる。」
「えへへ。」
先生に言えばどうにかなっただろうが、怒られなくて済むならそれがいい。ありがとうユーリちゃん。
俺も、良く使うのは赤と薄橙で被っていないことだし有難く使わせて貰おう。
無事に発表の準備も終わり、帰宅するとひー君が待っていてくれた。
「ただいま。」
「おかえりなさい!今日、学校行ったの?」
「?…行ってきたぞ?」
サボタージュを疑われている?
「……一緒に遊ぶ。」
一連の謎会話の後遊び……と言えるのかは微妙だが、一緒に筋トレや素振りをした。最近、道場にも行けてないので鈍ってそうだ。
隣で素振りするひー君は、拙いながらもセンスがあった。……抜かされないように頑張ろ。
「あれ?上着が無い?」
いつものラックに掛けておいた上着が無くなっている。
「母さん、上着洗濯してる?」
「してないわよ?無いの?……あらまぁ。」
家を出る時間になるまで探してみたが、見つからなかったので、普段は着てないものを出して着ていくことにした。
「探しておくわね、気をつけて行ってくるのよ?」
「うん。行ってくる。」
今日は、ひー君の見送りが無かった。寂しいが、上着を探していて時間もなかったのでそのまま出ることにする。
「ジール君おはよう!」
「……おはよう。」
「どうしたの?元気ない?どこか痛いの?」
「大丈夫だ。」
「そっか!私ね昨日猫ちゃんと一緒にね……」
ユーリちゃんの話を聞きながらも、発表会のことを考える。明後日の発表が終われば、道場に行けるし、ひー君と一緒に遊ぶことも出来る。
今日のお見送りが無かったのが、気にかかってしまう。今までそんなこと無かったのに。帰ったらひー君と話してみようか。
「猫ちゃんのリボン、私とお揃いなんだ!」
「…良かったな」
「……!うん!」
今日も、棒立ちしながら先生の話を聞かなきゃいけない。そろそろガキンチョも大人しくしてくれないだろうか。
「ただいま」
「おかえりなさい。ほら、ヒソカちゃんお兄ちゃん帰ってきたわよ。」
何かあったのだろうか?
母の視線の先を見ると、洗面所からチラリとこちらを見ているひー君と目があう。
あっ、隠れてしまった。……嫌われた?
「…ジールちゃん、ヒソカちゃんがお話してくれるまで待っててくれるかしら?」
おっと、母は事情を知っているらしい。
全然遊んでくれないお兄ちゃんに愛想尽かしたとかのカミングアウトは早めにして欲しいのだが。
「…わかった。」
「ありがとうね。」
ここでどっしり構えるのもお兄ちゃんだろう。
……兄貴ムーブし無さすぎて嫌われてるっぽいが。
それから、夕食を食べて宿題をする。
何の行動をするのも、視界に赤色がチラつくのだが、待つって言っちゃったしなぁ。
「にぃ、明日も学校行くの?」
「…ああ。」
寝る準備をしていると、ひー君がやっと近づいできてくれた。予想と違った切り口で動揺しているが、何とか返事が出来た。
「すぐに帰ってくる?」
「難しいな。」
くるか?嫌い宣言くる?
「そっか。わかった。」
……何がわかったか教えて頂いても?
急に終わった会話に動揺を重ねていると、ひー君が自分のベッドの方へ歩いていく。
母が言っていたのはこの事だろうか、……しっくりこないな。
とりあえず、今日は何もしてないので最後に絵本でも読み聞かせようか。
「ひー君、絵本一緒に読むか?」
とぼとぼ歩いていたひー君は、ピタッと足を止める。ゆっくりとこちらを向いた目は大きく見開かれていた。
「…誘ってくれるの?」
「…そうだが?」
なんだ、そこまで兄貴の株は落ちていたのか?
え、誘うよ!誘っちゃうよ!
「こちらへ来い。」
それから、俺のベッドに乗り込んできたひー君を抱え込み、絵本を読み聞かせる。
3冊目を読み終わるとひー君は寝落ちていた。
どうやら眠かったようだ。
そのまま絵本を端に寄せ、ひー君を抱え込んで眠った。少しはお兄ちゃんムーブ出来ただろうか。
そして次の日、
「……靴が無い?」
足つぼ刺激しながら学校に行けと?無理だからな?
続きます。次回、ヒソカ視点でひと段落です。