口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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今回は別行動があるので、途中で視点が変わります。

よろしくお願いします。


密林には面妖生物【前編】

 

 ジールが森の中でも困らないように防寒具や追加の食料を買いに出た後のことだ。

 

 残されたヒソカ、カイト、ノア、ダッカルは額を突き合わせるように座りながら作戦会議をしていた。

 落ち着きの無いカイトを宥めながら話すのはつい先程起きたイベントについてである。

 

「パチネッコが行ってしまったが……」

「うん。多分だけど、パチネッコが一坪の密林を手に入れる為のキーキャラクターだ!」

「それは追いかけなくていいのか?」

 

 兄と同じようにゲームに詳しいノアは、先程森の方へ転がっていったパチネッコを見てはしゃいでいた。

 ちょうど昼食の時間になろうという時に、いつもは大人しいパチネッコがムクリと耳を立てて起き上がり、一度ヒソカ達の方を見ると森の中へ消えていったのだ。

 

 今でもパチネッコが通った跡が残っており、追いかけようと思えば直ぐに向かうことが出来るだろう。

 

「ヒソカ達がパチネッコと会った時は何かイベントはあった?」

「イベントっていうのは、あの毛玉の怪我を治したことかい♣︎」

「助けたんならイベントだろ。」

「だが、イベントが終わればカードになるんじゃないのか?」

 

 カイトが不思議そうにノアへ訪ねる。

 それに頷いたノアは、だからあのパチネッコは一坪の密林に関係のあるキャラクターである可能性が高いと答えた。

 

 まだ役割を果たしていなかったパチネッコはカードになること無くジール達と旅をしていたのだろう。

 

「そして、そのパチネッコが動いた今一坪の密林をゲットする絶好の機会が来ているんだ!!」

 

 ノアが興奮気味に伝えると、ダッカルはそれで?と視線で先を促した。

 

「直ぐに動きたいところだが、最低限ジールは待った方がいいだろう?」

「そうだな。」

 

 少し前の多数決のことを思い出したカイトは、ノアの言葉に賛同する。

 じっくり調べてから作戦を立てたがっていたジールをここで置いて行けば、拗ねてしまうかもしれないと思ったのだ。

 

 事実、戻ってきた拠点に誰も居なければジールはハブられたとショックを受けていただろう。なんなら、追いかけることもせずにバインダーの整理を始めて分かりにくくいじける可能性もあった。

 

 そしてカイトとノアの提案により丸く収まりかけたその時、我慢の苦手な人物が声を上げた。

 

「でも、その間にイベントってのが終わるかもしれないよ♠」

「そうだよなぁ。」

「パチネッコが森の中で困っているかも♦」

「う”ッ……」

「兄さんなら、直ぐに理解して追いかけてくれるさ♥」

 

 笑顔のまま、ことも何気に告げたヒソカはカイトを森の中へ連れていこうとする。

 そして拗ねるジールと困っているパチネッコを天秤にかけた結果、ジールならなんとかするだろうと結論付けたカイトがヒソカに頷き返した。

 

「とりあえずパチネッコ追いかけるついでに奇襲しに行こうよ♥」

 

 オーラを練りながらニヤリと笑ったヒソカに反対するものはいなかった。

 

 

※※※※※※※※※

 

 無人の村からランプや薪などを回収し食料などの追加を購入したジールは、バインダーに入り切らなかった分を抱えながら拠点へと戻って来ていた。

 

 遠目からテントの影を確認すると、その腕での中の薪を抱え直しあと少しだとその足を前に進める。

 

(早く行きたがっていたからな、待たせてしまった分拗ねて無いといいが…)

 

 珍しく素でお兄ちゃんっぽい事を考えていたジールは、だんだんと近づいてくる拠点の様子に首を傾げた。

 どうにも人の気配がしないのだ。

 

 何かあって息を潜めているのか、不測の事態があって避難でもしたのだろうか。

 足速に駆けつけたテントには人影ひとつ見つからなかった。

 

 焦ったジールが持っていた薪を雑に投げ置き、辺りを探索しようとしたその時。ふと、テントの出入口の地面に何かが書かれているのを見つけた。

 

『先に行ってるネ♡』

『すまない』

 

 大きく書かれたハートマークにこの字の主を特定したジールは勢いよく顔を上げ森の方を見た。

 その下に書かれているのはカイトからだろう。あの面子の中に先に行くことを謝る奴なんてカイトくらいしかいない。

 

(うっそん、待って?ハブられた??泣いちゃうよ?そんなに早く行きたかったの???)

 

 すわ反抗期かと弟の強行に頭を抱えたジールはブックと唱え、現状で持っているカードを確認した。

 

(ひー君、何のカード持ってたっけ?大丈夫かな?いや、ひー君も強いしカルビ達も一緒に行ったんだから自力でも平気だろうけど)

 

 このまま追いかけて合流出来るのか、ここで待っていた方がすれ違うリスクも無くていいのでは無いかと考えるジールは落ち着きなく拠点の周りを歩く。

 

(俺も、一坪の密林気になってたんだけどな!?このままお留守番で我慢しろってか?)

 

 正直、漫画に登場しなかった密林攻略はやってみたいジールであった。

 しかしヒソカ達なら無事に帰ってくるだろうと己を納得させ、近くの岩に腰をかけた瞬間。

 

 ドコンッと空気を割るような騒音と森から漏れる閃光がジールを襲った。

 

(絶対なにか起きてんじゃん!!!!)

 

 ブックともう一度唱え、バインダーをしまったジールは一目散に森へと駆け込んで行った。

 やはり目の前で起きてるイベントを無視出来るほど無欲ではない。そんなことが出来ていたなら今頃オタクなんてやっていなかっただろう。

 

 パチパチと稲妻の走る森はいかにも楽しそうな気配がした。

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 ところ変わって、ジールが拠点へ戻る数時間前。

 森の中へ足を踏み入れたヒソカ一行は、ノアを先頭にして一本道を歩いていた。

 

「森というだけあって、生き物が多いな。」

 

 木の上や草むらからこちらを見てくる動物達はゲーム特有の不思議な生態をしているものも多くいる。

 好奇心を擽られ今にも道を逸れそうなカイトは辺りを観察するように顔を動かした。

 

「パチネッコの同族はまだ見つからないが、もう少し奥に行くか?」

「その毛玉見つけたら酒豪の主に会えるかね?」

「奥から面白い気配を感じるし、いいんじゃないかな♠」

 

 各々が好きなように言葉を発する。会話などあってないようなものだが、概ねの目的は一致しているので問題は無いだろう。

 

 そうして歩きにくい森の中を進むこと数十分。

 先頭を歩いていたノアが前の方から何かがやってくるのに気づいて足を止めた。

 

 警戒するようにダッカルが一歩前に出ると、気になったヒソカとカイトが横から顔を出す。

 四対の視線が集まったその先は低木が道を半分塞いでいた。

 

 そこからガサガサと枝の揺れる音が聞こえた一瞬の後、バッと飛び出しノアに抱きつこうとした物体はダッカルが綺麗に叩き落とした。

 

「……う”っ、ぅぅ」

 

 大きなローブを羽織った一mほどの謎の生き物はダッカルに叩かれた頭を抱えて蹲っている。

 

 その頭を抱える手は珍しくも水掻きが付いており、その生き物が人間で無いことは明らかだった。

 

「おい、ダッカル加減しろよ。会話が出来ないじゃないか。」

「そこまで強く叩いてねぇよ。そいつが大袈裟に痛がってるだけだ。」

 

 主従がわちゃわちゃ話していると、痛みが収まったのか目の前の生物がゆっくりと顔を上げた。

 その様子を見守っていたヒソカは楽しそうに口角を上げる。

 

「うっ、イタイ。いやしかし!これ程の強さならばいけるやもしれん。そこのお方!!!」

「んだよ。」

 

 呼ばれて生き物の方を向いたダッカルは、少し面倒臭そうに返事をする。そして視界に入ってきた面妖な顔に一瞬動きが止まった。

 

 ベースの顔はカエルだろうか、大きく開いた口に上部にくっついた大きな瞳。そしてエラが目のしたからバッサリと横に広がっていた。

 

「助けて下され!姫を、連れ去られてしまった姫をこの森の主から取り返して欲しいのです!!」

 

 粘液のついた手でダッカルのズボンをがっしりと掴んだカエルモドキは必死に懇願してくる。

 その様子に気の毒だと眉を下げるカイトの横でノアはパッと明るい笑顔を見せた。

 

「おい、そこの両生類!その姫を助けて欲しいんだな??」

「そうですとも、酒癖の悪いこの森の主は酔った拍子に我らの姫を攫ってしまったのです!!どうかお助け下さい。」

 

 乗り気になっているノアに気づいたのだろう、べっとりとダッカルのズボンを掴んだまま顔を動かしたカエルモドキは必死にノアへと頭を下げる。

 

 それに満足そうに頷いたノアは、身動きの取れないダッカルの方へ近づき耳打ちをした。

 

「おいダッカル、この両生類の言う姫を助けに行くぞ。」

「あー?こいつ俺のズボンベトベトにしてきたんだが?」

「そこは目を瞑れ、考えても見ろ。森の主を倒せばその秘蔵の酒もお前のものになるだろう?」

 

 そう言いながらカイトとヒソカに片目を瞑って見せたノアは、二人にも姫奪還に協力して欲しいようだった。

 はなから乗り気なヒソカや姫を心配しているカイトはそれに頷く。

 

「噂の酒が俺のもんになるのか……」

「そうだ、感謝されて酒も飲める。いい事尽くしだろう?」

 

 いいねぇと顎髭を撫でながら納得したダッカルは膝に抱きついてきたカエルモドキを引き剥がした。

 

「おら、助けに行ってやるから。案内しな。」

 

 調子よく乗せられたダッカルはヘコヘコと頭を下げるカエルモドキの後を機嫌よくついていく。

 そこの生物は助けてくれと言うだけで酒をやるとは一言も言っていないが、酒豪のコレクションに夢を見ているダッカルは気づかなかった。

 

「ふぅ、あいつもなかなかチョロいな。」

「いいのか?騙したようなもんだぞ。」

「いいって、お姫様が美人なら感謝されるだけで舞い上がるだろ。」

 

 やはり世話役は逆じゃないのかと思ってしまう発言を聞きながら、前を歩くダッカル達を視界に入れたヒソカは楽しそうに笑った。

 

「お前らも問答無用で巻き込んじゃったけど、大丈夫か?」

「ああ、これもゲームのイベントってことだろう。」

「楽しそうだしね♥」

 

 だんだんと森の奥に進んでいくにつれて気温が下がっていく。

 吐く息が白くなりそうな程に肌寒さを感じたところで、ローブを引きずっていたカエルモドキがこちらを振り返った。

 

「着きました、ここが森の主の屋敷ですぞ。」

 

 そう言われて見上げた先には木々の間から覗く洋館が見えた。

 

 煤汚れた白い壁と、森に溶け込むダークな屋根が堂々と建っている。ほぅ、と感心するノアはそのまま視線をカエルモドキへと向けた。

 

「それじゃあ、この中にお姫様と主がいるんだな?」

「そうですとも!!何卒、よろしくお願い致します。」

 

 両開きの扉の片方をゆっくりと開けたカエルモドキが粛々と頭を下げる。先頭にいたダッカルが入り、続いてノア、カイトと暗い洋館の中へ踏み込んだところで、ヒソカはピタリと足を止めた。

 

「どうした?ヒソカは来ないのか?」

「んんー、先に行ってて♣︎」

 

 不思議そうにヒソカの方を向いたカイトへと、手を振り目の前で閉まる扉を見届けたヒソカはゆっくりと隣りに立つカエルモドキに視線を向けた。

 

「おや、お入りにならないので?」

「だって君の方が面白そうだし♥」

 

 そう言いながらカエルモドキに向かってトランプを投げたヒソカは、それをあっさり躱した相手に笑顔を向けた。

 

 登場してから感じていた興奮は、もう抑えなくてもいいだろう。

 せっかく見つけた獲物を取られる心配も無くなったヒソカは動揺を見せない相手との会話を楽しむ。

 

「キミの話している内容はどことなく薄っぺらい♠まぁ注意していればその矛盾にも気づけそうなものだけど、皆はカードに夢中らしいね♦」

「私の言葉が嘘だと?なかなか頭の回る御仁のようですな。」

「まあ頭なんて使わなくても、見れば一目瞭然さ♦」

 

 出会った時から感じた嘘の香りに、面白いことが起きそうだと期待したヒソカはひとまずついて行くことにした。

 洋館の中からも大きな気配を感じるので、気になるところではある。

 

 しかしこうして騙してくる奴は総じてクセがあると兄が言っていたので、こちらに残ってみたのだ。

 

「生意気な小僧だ、少し予定は変わったが。さして問題はないのでな。」

「何か見せてくれるのかい?」

 

 誤魔化すのを辞めたのか、高笑いをしたカエルモドキはしまい込んでいたオーラを放出した。

 それに伴い、一m程だった体長は倍近くまで大きくなっていく。

 

 今まで会ってきたどのゲームキャラよりも強そうな風貌にヒソカの期待は鰻登りだった。

 

「最初からこの姿を見せるとは思わなかったわい。改めて、この森の主サバハだ。短い間だろうがよろしく頼んだぞ。」

「僕はヒソカ、短いなんて言わずたっぷり遊ぼうじゃないか♥」

 

 お互いの自己紹介が済み、ヒソカが相手の出方を伺っているとその視界が一瞬にして白い光に包まれた。

 

 警戒し、反射で玄関前から飛びのけば直後に空気を割るような爆音が耳に届く。

 

「おや、始まったようですな。お仲間も優秀な方が多いようじゃ。」

 

 そう言ったサバハは、ヒソカに背を向けどこかに走りだした。

 陸に向かない外見をしている癖に足は早い。

 

 直前に聞こえた言葉から屋敷の中でも楽しそうな事が起こっているのが分かる。

 どっちも気になるなと思いながら、ヒソカはサバハの背を追い始めた。

 

 何処かに誘導されているのか、もしかしたら相手に有利な場所まで移っているのかもしれない。

 慎重を取るのなら目的地に着くまでに相手へ仕掛けた方がいいのだろう。幸いにもヒソカの能力ならばこの距離の相手を捕らえることができる。

 

 しかし、まだ白みがかっている視界の中で相手を捕らようとは思わない。

 このまま着いていけば、最高の相手と戦えるのだ。ヒソカはそんな美味しい機会をみすみす逃そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「だぁ!!!死ぬかと思ったぜ」

「だから慎重に行けと言っただろう!!」

「待て、ノアの言いたいことも分かるが言い合っている暇は無いはずだ」

 

 閃光と爆音―――巨大な雷が落ちた洋館の一部から顔を出したダッカルは新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

 落雷の衝撃か、屋敷の二階部分が吹っ飛んだおかげで外へ出ることが容易になっている。

 

 引火し屋敷の半分が火に包まれている以上、カイトの言うようにここで争っている暇はなかった。

 

 事の発端はほんの数分前、屋敷の奥にあった扉を開けたノア達は部屋の中心に置かれた巨大な棺桶を発見したのだ。

 

 罠だろうと言うノアを押し退け、さっさと開けてしまったダッカルは早く酒が飲みたかったとだけ言っておこう。

 

 そして開けられた棺桶の中にいたのは、美女と言って憚らない、ブロンズ髪の女性だった。

 それを見たダッカルがドヤ顔でノアを見返している。

 

 覗き込んだ皆が、その女性が件のお姫様かと認識した所でその閉じられていた瞳が見えた。

 絵に描いたような碧眼にダッカルが鼻の下を伸ばし、手を差し出そうとするとそれは口を開けた女性によって阻まれる。

 

「どうした?何かいいたいのか。」

 

 はくはくと動くだけで、一向に言葉を発しない女性にダッカルが耳を傾ける。

 その瞬間、にっこりと綺麗な笑みを見せた女性に向かって雷が落ちてきた。

 

 分厚い屋根をぶち抜き落ちてきた雷を間一髪で避け、こうして生き残っているのは奇跡だろう。

 ゲームの性質上即死トラップは無い可能性が高いので、何かしらの措置はされていただろうがダッカル達は生きた心地がしなかった。

 

「……なぁ、あの姫さん味方だと思うか?」

「分からないが、ただ助けられるだけのNPCじゃないとは思うぞ。」

 

 一先ず燃えている屋敷から脱出した面々は、それ以上燃え広がらない屋敷を見上げながら話し合う。

 ゲームのお約束から知識を引っ張り出してきたノアは難しい顔をしていた。

 

「また近づいた時に、雷を落とされるのは嫌だぞ。」

「同感だ。」

 

 いくら美人でも近づきたくないと頷き合うノアとカイトはしかし、ダッカルの無情な言葉で頭を抱えた。

 

「でもよ、あのカエルの依頼は姫さんの奪還だろ?どうすんだよ。」

「まだ森の主にも会えてないんだぞー」

「というか、ヒソカは何処に行ったんだ」

 

 燃える屋敷の前で手をこまねいている三人は、どこかへ消えてしまった赤髪にため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……パチネッコか久しぶりだな。ところでひー君達を見かけてないか?」

 

 

 

 




次回は一坪の密林戦【中編】になります。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想、評価、ここすき等、励みになっています。

ジールとヒソカが行く場所(今後、協専からの仕事で行く順番の参考にします。)

  • 大きな街の時計
  • 地底海
  • いやがらせの館
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