今回は家族回です。よろしくお願いします。
はい!右を見ても、左を見ても、どこを見ても全部俺!……嘘です、地獄絵図かな。
どーも、ジールです。ピチピチの10歳だよ。
まぁ挨拶をしても、この前道場で黒髪兄さんから一本とれてめっちゃ嬉しかったことくらいしか、言うこと無いのだが……。
今は、この前の誕プレでもらった単眼望遠鏡を磨いている。欲しいものを聞かれた時に咄嗟にでてきたのがそれだった。
将来色々な場所を周るのに役立つと思ったのだ。
『あなたの見る世界が、輝いたものでありますように。』
一緒にもらったメッセージカードが嬉しくて大切に保存している。
書いたのは母だろう、筆まめで字が綺麗なので直ぐに分かる。メッセージは父かな、なんせ俺が憧れるロマンチックな男だからな。
望遠鏡をケースに仕舞い、部屋を出る。
そろそろ新聞が届く頃だし取りに行こう。
台所で調理をしている母を横目に玄関まで行くと箱に郵便物が届いていた。
ひとつは目当ての新聞紙だが、もうひとつ封筒が入っていた。
これか…、宛名を見るとやはり母に宛てられたものだった。
最近、母宛に手紙がよく届く。毎日という訳でもないがかなりの頻度だ、そろそろ十通いくのでは?
小綺麗な封筒はいつもより少し分厚い。
中身は気になるが、開けて確認するなど失礼なことはしない。
新聞を小脇に抱えて、台所へ踵を返す。
そのまま母へ手紙を手渡すと少し疲れた顔でそれを受け取っていた。
最初の一通は驚いた風だったが、それ以降手紙を渡すとあまりいい顔はしなくなった。
嫌なら燃やしてしまおうかと考えた事もあったが、結局素直に手渡す事しか出来なかった。
それから皆で朝食を食べてから、本を読んだりして気ままに過ごしていると、嬉しそうにした母がリビングにやってきた。
ご飯を食べたあとに手紙を持って自室に行ったはずだが、何かいい事でも書いてあったのだろうか。
「明日は皆でパーティーに行くわよ!」
その手には、高そうなチケットが握られていた。
※※※※※※※※※※※
No side
空を飛ぶ白鯨のようにゆったりと進む飛行船は、その室内でパーティーが開かれていた。
そこには煌びやかな衣装を纏った人々が、広いホールでの交流を楽しんでいる。舞台正面に大きく飾られたツバメのモチーフは、シャンデリアの光を反射して金属特有の美びしさを見せていた。
本パーティーの主催団体『ツバメの会』のシンボルである。招待された客達もツバメを型どったブローチをその胸につけている。
30分ほど前に離陸し、それと同時に開催を宣言した。パーティーの参加者の証であるブローチは、各界の著名といって憚らない人物の元へ届けられたものだ。
ほとんどの者は、パートナーと共に。そして残りは家族連れでの参加であった。
新たに会場へ入ってきた組もそのひとつだ。電飾を吊るし一段と華やかしい入口を興味深そうに見るのは、母親と思われる女性と手を引かれる子供だ。
女性の方は、リラックスした様子でその艶やかな黒髪をなびかせながら歩く。連れられた子供も揃いの黒髪で直ぐに親子であることがわかる。
その様子を見守るのが一際がたいの良い男性であり、その腕には赤髪の少年を抱いていた。少年の方は特に興味を惹かれないのか、手に持った小箱を眺めていた。
ジール達親子は、親戚から送られてきたというチケットでパーティーに参加していた。
最初にチケットの存在を知った時、ジールは祖父母に会ったことが無いことに気づく。
だからなのか、チケットがとても胡散臭いものに思えたが、母が喜んでいる様子を見て疑いすぎだと考え直したのだ。
パーティーへ行くことが決まり、直ぐにドレスや会場までの交通手段を確保し準備を整えたのはジールの母であった。父は自営業である店の休店告知を店先に貼るくらいしかやる事がなかった。
子供であるジールとヒソカにおいては、言われるままに子供用のタキシードを試着し、簡単なマナーを伝えられるとそのまま会場へ連れてこられた。
まさに目が回る展開である。
ジールは、初めて来たパーティーの豪勢な様に驚きつつも、その雰囲気が前世の会社であった立食パーティーに酷似していたため居心地の悪さを感じた。
(ネクタイ締めて、長時間愛想笑いをしていたあの頃を思い出すな……。)
所在なさげに手元のブローチを弄る。
「ジールちゃん、ヒソカちゃん、来る前に言ったことは覚えているかしら?」
ジールの母が、腰を屈めながら2人を覗き込む。
父の腕からおりたヒソカとジールは顔を見合わせてから、母に頷き返した。
「……走らない。」
「騒がないようにする!」
「食べ物は取りすぎない。」
「何かあったら直ぐにママの所へ行くよ。」
ハキハキと返された言葉に頷いたジールの母は、2人に自由にしていいことを伝え、会場という野に2人を放った。
ジールは一目散に食べ物が並ぶテーブルへ向かった。後ろを付いてくるヒソカにも小皿を渡し、バイキングになっている大皿の列から肉だけをかっぱらっていく。
ローストビーフ、手羽先、ハンバーグ、最近話題のステーキ屋さんのメニューを見つけた時にはこのパーティーの評価をワンランク上げた。
「……ひー君も取るか?」
一通り取り終わった後でヒソカを見ると、その皿にはほとんど物が乗ってなかった。若干の気まずさを感じたジールは何度か言葉を選び直してから、声をかける。
「ううん、僕お腹空いてないから取らなくていいよ!」
やる事もなくただ兄の後を付けていただけなので、
特に食べたい物もない。とりあえずその辺のものを乗せているだけだった。
その後は、いくつかのテーブルを回りスープやデザートを摘んでいく。ジールは、その中で美味しかったものをヒソカにも食べさせようと勝手に小皿に乗せている。
ヒソカの方も、勧められたものはニコニコしながら食べていた。
ジールがチョコレートフォンデュにハマりそのテーブルに常駐していると、会場のライトが消され舞台に数人の人が出てきた。
(子供だし、手止めてまで話聞かなくてもいいかな。)
10本目のいちごチョコを食べながら横目でチラリと舞台を見たあと、ヒソカに食べさせる用に新しく串を取った。
「えー、本日は我々『ツバメの会』の記念式典にお越しいただきありがとうございます。こうして素晴らしい日を迎えられたのも、偏に日々皆さまが……」
10秒で飽きた。2人は別のフルーツを串に刺しチョコレートに浸し始める。母のマナー講座にお偉いさんの話を聞くという項目はなかった。
ジールの場合は癖もあって、話半分程度には聞いていたがヒソカは船内を探検する事に意識が向いていた。
何人かが話し終わると、会場のライトも戻った。
見やすくなった会場で、ジールとヒソカは次のテーブルへ移動する。ぶっちゃけ、子供からするとこの手のパーティーは暇である。食べることくらいしかやる事がない。まぁ、ジールの場合は大人の時も暇していたが。
所々の大皿を空にし、ーー取りすぎない約束は、小皿で大盛りをするのは行儀が悪いと言われただけなので、小分けにして食べるのはセーフということにしたのだーー2人は両親を探し始めた。
父を探した方が早いだろうと会場内を見渡す。
そこで目に入るのはツバメをモチーフにしたものと宝石の数々だ。
そこで思い出すのは先程のスピーチ。
『ツバメの会』は、貧しい人々への援助団体である。その主な活動は資産家からの資金援助で成り立っており、今日のパーティーはその資産家達を招いて開かれたものだった。
招待状に付いてきたブローチを見て、この話を聞いた時ジールはどこか既視感を覚えたのだが思い出せなかった。
「ねぇ、にいさん早く行こう。」
「まて、母さん達に言ってから…」
ジールの手を引いて船内の探検に行きたがるヒソカを宥め、両親を探す。さすがに会場を出るなら2人に伝えてからじゃないとダメだろう。
スーツの上からでも分かるガタイのいい男性は、人の多いパーティーでもよく目立つ。さほど苦労せず見つけた後、2人はメイン会場を抜け船内の探索に出かけた。
その後には、惜しいことをしたと出入口を眺める少女やマダム達が居たとか、いなかったとか……。
※※※※※※※※※※※※
「……どこがいい?」
ワックスで緩く撫でつけられた髪を弄りながらジールはヒソカに行き先を尋ねる。小箱のパッケージを弄るのを辞め兄の方を見ると、顔には言い出しっぺの法則と書かれていた。
「……カジノとか?」
「俺たちが入れるのか?」
足音も鳴らない絨毯が引かれた廊下を歩く。ヒソカはどこか行きたいところがあるのかとでも思ったが、ノープランらしい。
「にいさんは?」
「……操縦室。」
無難に興味があるところを答えるしかない。とりあえず飛行船の先端に向かっていたので、方向が合う目的地を上げた。
たまにすれ違うガタイの良い黒服は警備員だろうか、皆丸刈りである。そっくりな格好を見続けて3人目くらいで吹きかけたのは内緒だ。
「やりたいことでもあるの?」
(アムロ、いっきまーす!とか。……ネタも伝わらないか。)
「……運転。」
「へぇー!」
それは何の“へぇー”なのか。たまに弟の相槌が雑になる。まぁ、人のことは言えないが。本を読んでる時とかも……、本!そう言えば客室に雑誌が置かれていた気がする。
「最初に行った部屋で遊ぶのもいいよね!僕コレで遊びたい!」
そう言って見せるのはヒソカの手より少し大きい小箱だった。
「……ああ。」
素晴らしいシンクロ率。まっ、行くのは気になっている操縦室の後だがな。
操縦室まで、寄り道をしながら船内を回ると一時間は過ぎていた。それから、客室に戻りスプリングの弾みを点検してから雑誌をラックから選ぶ。芸能雑誌なんかもあるが、俺が手に取るのは一択。
少年ジャ〇プ。……ホントこの世界にあって良かった。
本を読み始めたオタクは反応が鈍いことを、齢7歳で知っているヒソカは、雑誌を開いてからのジールに話しかけることはなく1人遊びを始めた。
小箱を開封し、中身を確認すると小さい手でありながら器用にカードをきる。そう、ヒソカが持っていたのはトランプだった。
飛行船の客室に置かれていたトランプに興味を持ってから、ずっと肌身離さず身につけている。ここでは組手も出来ないし、つみきなどの玩具も無いためその代わりらしかった。
そうしてジールが教えた1人遊びをするために、カードの枚数を段階的に増やしながら伏せて並べる。
それを1枚ずつ捲り、もくもくと手順を進めていく姿は特段つまらなさそうではないが、楽しんでいる風でも無い。運良く最後までゲームが進みやり終えると、また並べ直して作業をする。
また、巻頭から読み進めて受賞作品なども軽く目を通し終わったジールはヒソカの様子を見て苦笑していた。
半分目が死んでいながらも、トランプを捲る手は止めない。遊びたい、と際限なく我儘をいっていた頃からすれば、随分我慢強くなったものだ。
大半の理由としては、我慢をすれば良いことがあるよと言わんばかりに、ジールが我慢しているヒソカを見たあとに飴をあげてきたからなのだが。
まあ、お兄ちゃんフィルターにかかれば、遊びたいのを我慢して1人遊びをしているヒソカはどうしても健気に見えてしまうので仕方ない。
そうして今回もヒソカを遊びに誘いにいく。
スタイリッシュなお兄ちゃんが最終目標であるジールは、兄貴風を積極的に吹かせていく所存であった。
「……何かするか。」
ゲームの終わりを見極めて投げられた言葉に、ヒソカは喜んで顔を上げた。
「する!ババ抜きしよう!」
(2人で!?いや、構わないけどね。)
山札として置かれていたトランプから1組のエースとジョーカーを抜いた。ジョーカーの絵柄は、このパーティーに合わせて作られたのか、ツバメが二股の帽子をかぶり翼の先にステッキを持ったものだった。
(玩具制作もやっているのだろうか、手広いな。)
3枚を簡単に混ぜて、ヒソカに2枚引かせる。
たまたま揃ってエースのカードだったため、またジールの方へカードを返した。
「これも、一勝に入れていい?」
「ああ。」
運も実力のうちだからな。と言いながら、ヒソカに再度カードを引かせる。
今回はしっかり別れたようで、ヒソカがカードを返す事はなかった。左右のトランプを指さしながら弟の顔を確認するジールだが、どちらを指してもニコニコしていて、ある意味ポーカーフェイスになっているヒソカを相手に表情から探るのは辞めたようだった。
それからは、適当に引いて勝ったり負けたりを繰り返す。
(ひー君が、トランプを持ったら語尾にマークが着くとかいう不思議体質じゃなくて良かった…。冷静に考えたら違うだろうけど、初めにトランプを見つけたときは思わずひー君の方を見てしまったからな。)
客室に入ってテーブルの上にドリンクと一緒に置かれたトランプを見た時、ジールは一瞬でヒソカの方に振り向いた。
当然なぜ振り向かれたのかも知らないヒソカは、兄のその行動に首を傾げつつ、トランプの入った小箱に興味をもったのだ。
手番が変わりヒソカが引くターンになる。無表情なジールからでも、感情を読み取れるヒソカであったが流石に関係ないことを考えられていると、カードを引く参考にはならない。案外いい勝負となっている。
(いや、でもトランプのカードを持っているかで語尾が変わったらそれはそれで面白いかもしれない。)
今度試してみようかなどと好奇心をくすぐられるジールであった。
そして、2人がババ抜きにもそろそろ飽きてきた頃。
僅かに空気が張りつめ…ーーードンッッ!!!
トランプを小箱に仕舞いながら、この後の事を話し合っていた2人の耳に爆音が響いた。
それと同時に部屋全体が揺れるような大きな振動を体で感じたジールは目を見開きながらも部屋のドアーを開けた。
(……っぶねぇ、何だ今の。とりあえずドアーの歪みで閉じ込められてはないか。)
「ねぇ、にいさん…。」
「あぁ。戻るぞ。」
大きな衝撃の後、グラグラと揺れる飛行船を不安に思いジールに声を掛けたヒソカの手をとり、ジールはパーティーのメイン会場へ走り出した。
ひとまず、両親と合流し何が起こったのかを確認しなければなるまい。
廊下を走る途中で、何度か小さい揺れを感じながらも来た道を全力疾走する。
(事故か?……こんなことになるなら一緒に行動しておけば良かった。)
花瓶や壁にかけられた絵画が床に落ちている。それらには見向きもせずに、客室が並ぶスペースを抜けメインとなる広い廊下へ出ようと角を曲がった。
その時、目に映った光景にジールは思わず足を止めた。急に止まった兄に反応したものの回避が出来ず、鼻をぶつけたヒソカはジト目でジールを見上げた。
が、その直後視界に入った会場にその目は丸くなる。
大きな扉を開き、豪華絢爛といった内装を見せるパーティー会場は、今や赤い熱に包まれていた。
天井に吊るされていたシャンデリアは地に落ち、周りの熱を反射してギラギラと光ってる。
見ている端からテーブルが崩れる。それを飲み込みまた一段と広がった赤は、風に煽られ崩壊した出入口から出ていった。
その熱が頬を撫でた時、ジールは我に返った。
「……父さん、母さん。」
飛行船が大きく揺れた時、他の飛行船と衝突したのかと考えた。墜落するような事故だった場合、両親と一緒にいた方がいいだろうと思い会場まで戻って来たのだ。
しかし、この会場の様を見れば分かる。最初の衝撃は、内部での爆発が原因だと。
内側から吹き飛ばされたように、扉や壁が瓦礫となって廊下に転がっていた。未だ、会場との距離は開いているため瓦礫を乗り越えながら近づく事になるだろう。
「ひー君はここで待っていろ。」
危ない所には連れて行けないと、手を離し待機を伝えた。
「にいさんは、どうするの?」
「……俺は、中の様子を見に行く。」
「火も大きいし、近づいたら怪我をするよ。それでも行くの?」
「あぁ、今ならまだ助けられる。」
瓦礫の少ない後方へヒソカを連れていく。
(まだ、爆発からそう時間は経っていない。会場全体に火は回りきっていないだろう。
しかし怪我をして逃げられない状態になっていたのなら、このままではまずい。せめて中の状況が分かれば…これじゃあ判断のしようも無いぞ。)
このような大きい爆発があったのに、見回りをしていた黒服とまだ1度も出会ってないこともジールの不安を煽っていた。
「…俺に出来ることは限られている。様子を見るだけだ。……直ぐに戻る。」
そう言ってヒソカの頭に手を置き、離れようとした時。会場の出入口付近から、大きな音と共に爆風が迫ってきた。
(ーーー近い!ひー君!!)
咄嗟に振り返りヒソカの頭を抱える。そのまま風圧に押され倒れ込むと、床と自身の間に守るようにヒソカを隠した。
何かが背中や肩に当たった衝撃がくる。
何が起きたのか顔を上げ確認しようとすると、頭上から固いものが割れる音がした。その直後、バラバラと細かい破片が降り注いでくる。
(まずい。今の爆発で……)
脆くなった壁では天井を支えることは出来ない。固い板が不規則に砕けジール達のいる廊下へ降り注ぐ。
壁にかけられていた電飾のコードも切れ、そのうちのひとつがジールの足の上に落ちてきた。
「……ッタィ。」
その熱さに思わず声が漏れるが、苦しむ暇もなく上から落ちてくる瓦礫が全身に当たり意識を飛ばしかける。
幸いしたのは、ここが飛行船で部屋を作る建材が多少軽く出来ていた事だろう。
衝撃にそなえ固く瞑った目を開けようとするが、頭から垂れてくる血がそれを阻む。ワックスでセットされていた髪も崩れ、全身がボロボロになっていた。
(…体の周りが温かい?…いや、体は寒い。冷たい…。)
「…ひー、く。へいき、か?」
返って来ない返事に不安を覚え、腕の中にいるヒソカを確かめようと手を動かす。しかし、ほとんど力が入らない手では満足に触れない。
(……さむい。寒い、熱が体から抜けていく。)
意識が朦朧としていく中で、なるべく熱が逃げないよう身体に力を込めるが微々たるものだった。
そして、ジールはそのまま意識を失った。
次回は、ジール君が目覚めるところからスタートです。
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