もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら…   作:エノキノコ

10 / 16
もしリサ姉と付き合っていたら…

雲ひとつない空で唯一浮かぶ太陽は、直視するのが不可能なほど(まばゆ)い光を放ち、(にぶ)い灰色を(わず)かに反射するアスファルトを焦がす。

夏真っただ中の昨今(さっこん)でも、今日は一番の最高気温を(ほこ)るからか、(ゆが)んで見える景色の中を、人々が重い足取りで()()っていた。

周囲が暑さに(あえ)ぐ中、陽光の当たらない駅の改札前に退避(たいひ)したものの、重苦しい空気のせいで無下限(むかげん)なく()き出してくる汗をだいぶ水気(みずけ)の含んだ服の(そで)(ぬぐ)いながら、待ち人が来るまでの時間をスマホゲームで怠惰的(たいだてき)(つぶ)していると、突然視界が暗闇に(おお)われた。一瞬何事かと思ったが、反射的に降ろした(まぶた)に伝わってくる陽光のものではない温もりが、背後から手で覆われていることを悟らせる。

そして、街中(まちなか)でそんなことをする人物は、自分が知る限り一人しかいない。

「さ~、君の後ろにいるのはだれでしょ~か♪」

その問いに頭に浮かんでいた人物の名前を即時に答えてやると、眩い光が瞼越しに押し寄せてくる。

またもや急な出来事に軽く(ひる)んだこちらの肩を掴み、振り返させたのは、今の今まで待っていた、そして想像していた通りの人物、今井(いまい) リサだった。

「お~、流石、大正解☆」

細く開いていた目を徐々に(あら)わにしていくこちらに軽く拍手するリサに、声を聞けば普通はわかると告げると、彼女は少し不満そうな顏で呟いた。

「う~ん、そりゃそうかもしれないけどさ~…もうちょっと違う言い方がよかったな」

違う言い方とはいったい、そう訊ねたこちらに、彼女はいたずらな笑みを浮かべる。

「オレのリサの声を間違えるわけないだろ、とかだったらドキドキしちゃったかもな~」

作った低い声で挙げられた例を、熱に(さら)されて思考能力を失っていた頭が受け止められた瞬間、少量の戦慄(せんりつ)のままぶるぶると首を左右に振った。

そんなキザなセリフを口にできるのは、よほどな天然かイケメンくらいだろう。少なくとも、容姿も能力も平凡な自分にはどちらにも当てはまらない。

「はははっ!そんな顔しなくても、キミがそういう性格じゃないことくらい知ってるから。ただ、ちょっと言ってみただけ」

自分の考えは全て筒抜けかのように、彼女はすぐさま先の発言を取り下げたが、湾曲(わんきょく)する口元には、(かす)かな(さび)しさを宿らせている気がした。

不確かな直感でしかないそれが本当なのか確かめるべく、彼女の笑顔を凝視(ぎょうし)していると、不思議そうに首を(かし)げ、こちらの顔を(のぞ)(かえ)したリサは、突然肩にかけていたバックから落ち着いたオレンジ色の水筒を取り出し、焦った様子で口を動かした。

「すごい汗かいてるし、水分()ったほうがいいよ。ほら、これ飲んで」

差し出された水筒をお礼を言ってから受け取り、一気に(あお)ると、飲料水の冷たさが、体に(こも)った熱を徐々に中和していった。ライチの存在が色濃く主張されているにも関わらず、(くど)さを一切感じない味はかなり好みで、半分以上飲み干してしまってから、これが自分のものではないのを思い出す。

遅いとわかっていても謝罪しようとしたこちらに、なぜかリサはにこにこと笑みを浮かべて視線を送っていた。

「美味しかった?」

こんな猛暑(もうしょ)の中、自身の水源を半分以上奪われたのに怒る様子ひとつ見せない彼女の問いに恐る恐る首を縦に振ると、彼女はさらに笑みを深める。

「じゃあもうあんまり残ってないと思うけど、それいる?」

その提案に、こちらは瞬時にかぶりを振った。半分飲んでおいてなにをいまさらと思うが、さすがにこれ以上、彼女の厚意(こうい)に甘えるわけにもいかない。

しかし彼女は、こちらよりもさらに大きく首を振り、(ゆる)くウェーブのかかった長い茶髪を左右に揺らした。

「平気平気!駅のホームに自販機あるから、そこでいいなにか買えばいいだけだし」

・・・確かに、今返しても水筒の中には大した量が残っているわけでもないし、結局どこかで飲み物を購入しなくてはならない状況に陥るはずだ。彼女もこう言っているし、早いうちに新しいものを用意したほうが、後々(のちのち)彼女のためになるのかもしれない。

ならばせめてその飲み物代はこちらが出そうと決め、改めてお礼を言うと、彼女は優しく微笑(ほほえ)んだ。

「どういたしまして。さっ、そろそろ行こっか」

くるりと回り、早い歩調(ほちょう)で改札に向かっていく彼女の横顔には、先のような暗い感情は嘘のように消えていた。

あまりの面影のなさに違和感を様々と感じてしまうが、見間違いだったのならそれに越したことはないだろうと自身の納得させてから、少し離れた場所でこちらを急かす彼女のもとへと走った。

 

それから、出発時間ぎりぎりで滑り込めた電車の中で、隣に座るリサは最近のバンド活動のことなり作ったお菓子のことを楽しそうに話していた。

特に彼女の幼馴染である湊さんのことについては相変わらず細かい仕草まで詳しく話すので、よく見てるんだなぁという、いつも心の中で抱いている感想が、今日はうっかり口から零れる。

耳に入ったこちらのぼやきに彼女は(ほこ)らしげに胸を張って頷くと、目的の駅間近なことを伝えるアナウンスとともに腰を上げた。

「まあ友希那とは付き合い長いからね~。でも」

そこで彼女はいったん言葉を区切り、遅れて腰を上げたこちらと腕を(から)めてから再び紡いだ。

「今は友希那と同じくらい、キミのことも見てるよ☆」

いきなりの不意打ちに(ほお)を発熱させてしまい、その様を彼女は面白そうに見つめてくる。

どう返答すべきか困って硬直してしまったこちらを開いたドアの先に連行した彼女は、外へ踏み出した途端、あまりの温度差に眉を(ひそ)めてしまった。こちらも思わず暑さへの愚痴(ぐち)(こぼ)してしまったが、背後にはまだ降りる人がいるので、ひとまず頭の中にこんがらがった思考は棚上(たなあ)げして、人混みに身を任せるように階段を上っていく。

そのまま改札を抜け、続く道の先に広がっていたのは、終わりを知らない深い青だった。(しお)の香りを運んでくる風に(なび)いた髪をそっと()き上げるリサの姿に、少しだけ鼓動(こどう)が高まる。

「じゃあアタシ着替えてくるね。待ち合わせ場所は…あそこの海の家でいい?」

彼女の提案に遠くなっていた意識が呼び戻され、ぎこちない(うなず)きを返す。幸いと言っていいのか、こちらの反応の遅れを暑さが原因だと思った彼女は、ちゃんと水分補給するよう釘を刺してから、更衣室がある方向へと歩いていった。

束ねた(あわ)い茶色のポニーテールが人混みによって隠されてから、リサからもらった水筒をバックから取り出し、残り少ない中身をちびちびと(のど)に通していく。

すっきりとしたライチの味も、少し痛いくらいの冷たさもさっきとまるで変わらないのに、身体に(とも)った熱はなかなか消えようとしなかった。

 

あまり混雑していなかった更衣室で、丈の長めのサーフパンツとパーカーに着替えて訪れた海の家は、ちょうどお昼時だということもあり、更衣室とは真逆の賑わいを誇っていた。

栗色の髪を持つ少女の姿を探すが、外から覗ったばかりでは店内はもちろん、かなりの全長がある長蛇(ちょうだ)の列の中にも見つけることができない。

おそらくここで昼食を取るのだろうから、彼女が来る前に列に並んで席を確保しておこうか考えたが、それまでテーブルひとつを占領するのは、この炎天下(えんてんか)の中並んでいる人たちや(せわ)しなく働く店員さんにも迷惑だろう。

そう結論付け、邪魔にならないような場所で昼食になにをを食べようか考えようと辺りを見渡した際、1人の少女が視界に映った。

赤みの強い(だいだい)色に南国の花をちりばめた(がら)のビキニの上に、フリルのついた白いビキニを重ね、ハイビスカスの髪留めで髪を後ろに束ねる少女は、間違いなく周囲の視線を一手に()きつけていて、それは彼女の連れである自分も例外ではなかった。

多くの人に(まぎ)れ、声すらかけることもできずにただ見惚れていたこちらのいる場所を知っていたかのように、リサは若葉(わかば)色の(ひとみ)をまっすぐにこちらへと向ける。

しかし、彼女がこちらの方向へ足を踏み出そうとした時、突然現れた男がリサの目の前に立ちふさがった。筋肉質の両手で彼女の手をしっかりホールドしている状況に、どう動けばいいか無駄に考えてしまい、足が砂に埋まっているかのように動かない。どう動くべきかなど、考えずとも決まっているのに、自己保身の思考がいつまで経っても足を(しば)ってくる。

胸に込み上げてきた、あまりにも情けない自分への嫌悪感(けんおかん)が視線を徐々に降下させていったその時、やたら遠くに感じる少女の視線とぶつかった。

困った表情を浮かべた彼女を見た途端、(くも)っていた考えが一気に晴れる。さっきまでの重量が嘘のように消えた足で彼女の元に向かい、右手で男の手首を(つか)むと、驚愕(きょうがく)の色が(うかが)える男の顔を思い切り(にら)みつけた。

—人の彼女に手出しするな—

腹の底から()き上がってくる(おび)えを跳ね除けるくらい強く吐き出し、男を力尽くでもリサから()()がそうとしたが、空いた左手を使う前に、男の方から彼女から手を引いた。

あっさり過ぎる反応に呆気(あっけ)に取られ、右手で手首を強く(にぎ)ったままのこちらに嫌な素振(そぶ)りひとつせず、生暖かい視線を注いでくる男は、栗色の長髪を持つ少女に向かって、いい彼氏さんだねと、見た目からは想像もできないほど優しい声を投げかける。初対面なら知るはずのない彼女の名前を、言葉の前にしっかり付けて。

重苦しい陽光のせいではない汗が背に流れるのを感じながら、()びついた機械のようなぎこちない動作で振り返ると、頬を真っ赤に染めたリサが、極々(ごくごく)僅かに頷いた。

・・・これはあとから聞いた話なのだが、この男性は待ち合わせ場所に指定した海の家、[see cafe]の店長で、リサは以前see cafeのヘルプに入ったことがあるらしい。

今日はただでさえ忙しい期間中に病欠の人が出たせいで人手が足りず、てんやわんやしていた時に、以前凄まじい仕事ぶりを見せたリサを見かけたので、(わら)にも(すが)る気持ちでヘルプを頼もうとしたとのことだ。

しかし、その背景を知っていようが知らまいが、自分が盛大な勘違いをしたということに気づくのには少しのタイムラグがあるのみで、時差に思考が追いついた瞬間、間違いなく人生で一番の羞恥(しゅうち)(おそ)い、多大な熱に変換されて身体中を駆け巡った。夏の熱気など、もはや些細(ささい)過ぎるものだった。

 

日中多くの人々を苦しめた熱源は空から姿を消し、代わりを務めている満月は(おぼろ)げな光で、太陽が姿を消した青い水平線に純白を()らす。

さざ波の音色だけが(ひび)く夜の海を砂浜に座り込んで眺めながら、残量の心許ない水筒を呷りつつ、流れるように過ぎていった時間を(さかのぼ)っていった。

あれから、2人で楽しんでという店長さんを無理やり丸め込み、海の家の手助けをした。

元々店長さんは本気で困って頼んできているので、彼を説得させることはそこまで難しくないと見込んでいたが、リサまでこちらの意見に同調してくれたのは嬉しい誤算もあり、想像以上に早く話を進めることができた。

依頼主の店長さんが一番納得していないという奇妙な終着点だったが、あの雰囲気ではリサと恋人らしく過ごすどころか、目を合わせることすらできる気がしなかったので、彼女と関わるには少し時間が欲しかった。

そういう意味では彼女がキッチン担当で、こちらが裏方の力仕事だったのは助かったのだが、今度は逆にどう話しかければいいかわからず、夕食をふるまってくれると豪語(ごうご)する店長さんが厨房(ちゅうぼう)に立ち、リサが他の従業員さんと話しているうちに海の家を抜け出して、今に(いた)っている。

いつの間にか(から)になっている水筒を惜しみつつも口から離すと、そろそろ戻るべきだと頭の片隅(かたすみ)で注意喚起が表示されるが、重い腰を上げる理由になりうるには足りず、このまましばらく海を眺めていようと決断した直後、思いもよらない声に名前を呼ばれた。

声のしたほうへ顔を持ち上げると、そこには今一番顔を合わせづらく、一番言葉を()わしたい相手がいた。

「もう料理できたって。一緒に戻ろ」

彼女の言葉に対してはなにも返さず、なんでここに自分がいるのがわかったのか(たず)ねる。

この場は海の家からそれなりに距離があるので、話題逸らしの意図がなくとも()いていたと思われる問いに、彼女はこちらの隣に腰掛けてから答えた。

「う~ん…キミの彼女だから、かな」

その発言にしっかり頬が発熱するのを感じながら、視線を彼女からできる限り遠ざけると、僅かな笑い声のあとに、くすぐったいほど優しい声が鼓膜(こまく)を揺らす。

「お昼の時は、助けてくれようとしてありがとね。カッコよかったよ」

にこりと笑っているだろう彼女のお礼を、(だま)って受け取るのは簡単だ。でも、最初に動けなかったことを棚上げして受け取ってしまえば、もう二度と、彼女の()(とお)った瞳をまっすぐ見られなくなってしまいそうだった。

だから、喉を(ふる)わせ、口から零す。自分が結局、自分自身のことを第一に考えてしまう人間だと、例えそれで彼女に嫌われようと、若葉色の瞳をしっかり見据(みす)えて。

だが、彼女は最後まで聞き終えたあとも、微笑(びしょう)を崩すことはなかった。

そっと手を伸ばし、こちらの頭を自身の胸に預けさせた彼女は、赤子(あかご)をあやすかのようにゆっくりと髪を撫でる。

「・・・それでも、アタシは知ってるよ。キミが困ってる人のために動ける人だって。周りの人が、キミがどれだけ自分を(おとし)めても、キミが誰かを思いやれる人だって、アタシは信じてるから」

彼女の言葉は、心にじんわりと浸透(しんとう)し、目頭に熱の塊を()まらせる。

彼女の評価は過剰(かじょう)だと思う。しかし、純粋なまでの信頼は、いつかそれくらい強い人間になろうと、強く、強く決意させてくれた。

でも、今日は、今だけは、弱い自分を受け止めてほしい。

温かさ伝わる胸の中で小刻みに震え、短い嗚咽(おえつ)を零し続ける自分を、リサはひたすら受け止め、(なだ)める。

波が静かに寄り添いあう音が、辺りにゆっくりと流れていた。




こんにちはエノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
またもや大きく期間が空いてしまいましたが、とりあえず1話の後書きで掲げた《Roselia全員を書く》という目標をようやく達成できました。これもこの作品に目を通してくださる読者のみなさんのおかげです!ありがとうございます!
次は各バンド1人ずつ書くことを目標にしようと思っていますが(そうは言っても、あと書いていないバンドは3バンドのみですが)、実はPoppin‘Party以外のバンドは、誰を書くかなんとなく決まってたりします。次の投稿までにポピパのキャラでリクエストがなかった場合、アンケートをやってみたいと考えていますので、その時はご協力してもらえると幸いです。
次回は近々誕生日で、リクエストもあった花音ちゃんがヒロインの話になる予定ですが、千聖さんや蘭ちゃんのように、誕生日に上げられる確率はかなり低いです…。作者も可能な限り頑張りますので、気長に待ってもらえると助かります…!
最後に、お気に入り登録をしてくださったみなさん(おかげさまで200人を突破することができました!)、星4をつけてくださった桜咲く季節♪さん、(もっといい作品を書けるよう頑張ります…!)、リサ姉のリクエストをくださった栗おこわさん(少しでも楽しんでもらえたなら嬉しいです)、そして後書きを最後まで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。