もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら… 作:エノキノコ
春の象徴といえる桃色はどこかに吹き去り、若々しい緑がようやく日常に定着し始めた頃。
休みの日にしては相当早い時間に
連続して空模様が
この調子だと強い引力を放つベットに倒れ込んでしまいそうなので、昨日に
壁に掛けられた時計をちらりと
道中見つけた自販機で買ったコーヒーをぐびぐび飲んで、睡魔を強い苦みで追い払っているあいだに着いた一軒家のインターホンを押したあと、指を伸ばしたまま硬直させる。
予定していた時間より早めの来訪は、今日出かける少女にとって迷惑かもしれないと遅まきながら気付き、軽いパニック状態の思考が落ち着きを取り戻す前に、ドアの
鳴らしたインターホンに反応して出てきてくれた水色の
先の
「約束の時間よりちょっと早いね。なにかあったの?」
彼女の問いを聞いた
「あ、謝って欲しかったんじゃないんだ。私、今日早く起きちゃって、
結果的に迷惑になっていなかったことにホッと胸を
しかし、そんなこちらの決意を、続く彼女の言葉は粉々に打ち砕いた。
「それに、私は君と一緒にいられる時間が長くなるならむしろ嬉しいな」
しかし、ずっとこちらが照れていれば
そして照れた花音はさっきの発言など
「うん。せっかくのお出かけだし、楽しもうね」
そこそこ無理のある
他者と比べて圧倒的に道に迷いやすい花音は、こちらと
それから休日ゆえに混雑していた電車に詰め込まれ、人の流れのまま吐き出されて改札を通り抜けた頃には、体力を最大値の半分程度ごっそり持っていかれていた。そんな状態でも決して解けなかった手を少し
「わあ…!すごい人だね!」
高めのテンションが滲み出ている彼女を見て微笑ましく思いつつ、入場券を買って長い列に並ぶ。
ある程度待つであろうあいだに、なぜここに来たかったのか花音に
「ここの水族館はね、くらげの飼育数が日本で一番多いんだよ。他の場所じゃ見れないような子もいるから、絶対1度は来てみたかったんだ」
「もしかして君もクラゲに興味を持ってくれたの?嬉しい!ここには本当にいろんな子がいるんだけど、その中でも代表的なのは…」
あっという間に置き去りにされた解説に終止符を打ったのは、列の終着点である水族館の入り口にいたスタッフさんだった。
入場券の確認を求めるスタッフさんにまとめて買った2枚を差し出すと、代わりに
一度途切れた流れを再び
「行きたい場所あったかな?もしあるなら、先にそっちに行ってもいいよ」
特に行きたい場所があるわけではないが、あんなに楽しみにしている彼女よりこちらの意見を優先していいものかと、思わず訊き直してしまったこちらに、彼女は
「私1人じゃ絶対ここまで来れてないし、私の
その言葉を聞いた時に湧き上がった極小の感情の名前を、自分は知らなかった。怒りや悲しみでもない、確かな熱を帯びる感情のまま、力なく笑う少女の手をほとんど無意識で握り直す。無理して一緒に来たわけじゃないからお詫びなんていらないと、少し強めな声が
「・・・そうだよね。変なこと言ってごめんね。…ありがとう」
こちらの発言を受け止めた彼女との
抑えることのできない生理現象のタイミングの悪さを心底恨んでいると、花音は小さな子供に向けるような優しい笑顔を浮かべた。
「見て回るより先にご飯にしよっか」
その提案に顔を赤くしながら黙って頷くこちらにもう一度微笑みかけた彼女は、しっかりと繋がれた手を引いて歩き始める。しかし、彼女が絶大なる方向音痴だったことを思い出したのは、さまざまな魚が行き交う水槽に囲まれた道をしばらく
案内してくれたスタッフさんが置いていったお冷を口につけるものの、満足する
水族館らしく、魚の形を型どったものが多い料理の写真を見つめ、片面の大部分を
紫の瞳とぶつかった視線を咄嗟にずらしつつ、さっきからこちらに同じような温かい視線を送ってくる彼女に、自分を見てて楽しいか訊ねると、彼女は簡単に首を
「うん、好きな人ならずっと見てても飽きないよ」
ドストレートな理由に頬を
空腹のスパイスが効いたはずのオムライスも、舌への味覚の伝達は
こちらに少し遅れて食事を終えた花音と、次どこに行くかで話し合ってからレストランを出る。行き先がこの水族館に来る第一の理由となった場所なのに関わらず、彼女が浮かない顔をしている原因を、またもやこちらに対しての罪悪感のせいだと
「無理して付いて来てないのは、さっき言ってもらったからわかってるよ。でもだからこそ、私は君にも楽しんで欲しいんだ。・・・だから、私に
かつてないほど真剣味を増した表情で問いただしている彼女に、こちらも躊躇いなく首を振った。
別にこちらは、水族館にいる生き物で特段好きな生き物がいるわけではない。それに、見て回る分にはレストランまでの長い道のりで充分満足できている。
・・・そんな理性的な言い分は、正直そこまで大きな割合を占めているわけではない。本当の理由は、それとは真逆の直情的なものだ。
口にするか散々葛藤したが、前者の理由を述べても彼女の思慮を払うには足りない気がしたので、腹を決めて口を開いた。
—・・・花音と一緒ならどこでだって楽しい—
思ったよりずっと小さくなった声量を拾った彼女がなんらかの反応を示す前に、
飛び交う雑多な声に紛れていた微笑の
しばらく囚われたままだった思考を手繰り寄せてなんとか取り返したあと、隣の少女に同意を求めるべく口を開こうとした。しかし、未だ幻想の世界に
周囲の存在や流れていく時間も忘れて、目の前の光景へと沈み込んでいるあいだも、手のひらから伝わってくる温もりだけは鮮明に感じ取れた。
「ご、ごめんね…。こんな時間まで居残っちゃって…」
夜の帳が下り切った街を背景に、電車は微々たる揺れをベースに大きな揺れを織り交ぜながら走る。
振動の
あれからどんどん人がいなくなっても、集中力の切れたこちらと違い、彼女は旅立った世界から帰ってくる兆しすら見えなかった。
閉館時間が迫っているのを知らせるアナウンスが館内に流れてもそれは変わらず、やむなく声をかけ、
今日初めて見る彼女の
2人並びには座れないものの、吊り革に掴まっている人は自分たち以外いない現状が大きく変化しないといいなという理想は、扉のガラス部分から
「ひゃっ!」
正面から押し付けられる柔らかな感触と
彼女からもこちらを抱きしめているという事実が頭を
「あ、あのね…。吊り革、空いてないし…、しばらくこのまま掴まってても、いい、かな…?」
赤一色に頬を染め、少し
ぼそりとお礼を言ってから胸に顔を埋めてきた花音とその
こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
そして、この小説史上最も間隔の空いた投稿になってしまって本当に申し訳ありません…!!当初の予定ではゴールデンウィークに花音ちゃんとマスキさんのお話を書いて連投しようと淡い希望を抱いていたのですが、まさか誕生日から6日経って投稿することになるなんて思いもしてませんでした…。連休全てをリサ姉に取られたなんて事実、GW前の自分に言っても絶対に信じないと思います。
次のヒロインは美咲ちゃんの予定で、投稿日は来週までには出せるように頑張る所存です。執筆速度撃遅の作者ではありますが、愛想尽かさず待っていてもらえると幸いです。
最後に、お気に入り登録をしてくださったみなさん(たくさんの方にしていただき、嬉しい限りです!)、星9を付けてくださったDottperuさん(高評価に恥じない作品を書けるよう頑張ります!)、花音ちゃんのリクエストをくださったShun1114さん(リクエスト告知のアドバイス、本当に助かりました!)、そして後書きに最後まで付き合ってくださったみなさん、本当にありがとうございました!!