もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら… 作:エノキノコ
最初に浴びた時には早く終わるよう願った
「はぁ…」
今日だけではなく、1週間前から何度も
このまま1人で悩んでも状況は好転しない、それは分かっているし、なら誰かに助けを求めればいいということも理解してはいるのだが、この悩みを誰かと共有するのは少し、いやかなり恥ずかしい。
「彼氏に会えなくて
他者のいる空間では絶対声に出来ない悩みをぼそりと
—最初は、ただ彼と一緒に出かけたいだけだった。アタシにはRoseliaの練習やコンビニのバイトがあり、夏休みと言えど無くなることのない予定は彼と過ごす時間を確実に
目の
幸いすぐに誤解は解けたものの、
「・・・でもまあ、無理だっただろうなぁ…」
あんな空気感では間違いなく場が持たず、ただ時間を
しかし、
わざわざ毎日電車を乗り継ぐわけにもいかないため、店長の家で寝泊まりすることになる
それでもメッセージも届くし電話も通じるので、最初のうちは今までとあまり変わらないと自分を
だが、いつまでも
しかし、何度
結局あんまり寝た気になれないまま夜が明け、
家なら
切り替えがしっかりできたおかげか、今日は集中力が短いスパンで途切れることはなかったが、それでもふとした時に彼のことが頭によぎる。そのたびに仕事に
「ご来店ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!」
所有権の
仕事のかき入れ時の関係上、お昼ご飯が入っていないお腹は、少し力を入れていないと大きな音を響いてしまいそうで、遅めの昼休憩を検討するも、仕事に集中していた時には
「・・・いけないけない!今は仕事中だし、集中しないと!」
どんどん
重ねるたくて重ねたわけじゃない経験は、止まる予兆もなく育ち続ける不安をこの場でどうにかできないものか四苦八苦しながら考えるより、無難に仕事に打ち込んだほうが意識を逸らせるという結論にたどり着かせるのみだった。
「もうひと働き、しちゃいますか~…」
「・・・つーっと」
「ひゃわっ!?」
気を紛らわせるべく商品の品出しをしようとした直前に、背後からいきなり首筋をなぞられる。身構えていなかった自分は思わず変な声を出してしまい、その様子を同じ学校の1学年下の後輩で、同僚の中でも特段気を許せるバイト仲間の青葉 モカが、後ろに向けた視線の先でしてやったりとほくそ笑んでいた。
「だめですよリサさーん。モカちゃんの前でそんなぼーっとするのは、いたずらしてくれって言ってるようなものですから~」
「えっ、そんな気が抜けてた?アタシ」
言われるほど集中力を欠いていた自覚のないアタシが、つつかれるや否や間髪入れずに問いを投げかけると、モカはゆったりとした口調とは裏腹に、すぐさま答えを投げ返す。
「はいー。何度か声かけても反応が返ってこないくらいぼーっとしてましたよー」
「ほ、ほんと?無視してごめん…」
どうやら仕事に集中するあまり、他のものに気を
「モカちゃん傷ついちゃったなー。これはリサさんのお弁当のおかずをひとつ、いや、ふたつはもらわないと立ち直れないな~。・・・というわけで」
「ちょ、モカ!?」
こちらが返事をする前に、するりとこちらの背後に回ったモカに背を押され、問答無用で休憩室へと歩を進ませる。彼女の咄嗟の行動にあたふたしている合間に、誰もいない部屋に足を踏み入れたアタシへ、マイペースな少女は
「さあさあ、早くお弁当出してくださいね~」
未だ整理をつけられていないアタシを差し置き、モカは自分のロッカーを開け、自身の昼食を両手に抱えてこちらを向くと、胸に抱く4つのパンを近くにある机に散りばめ、席に着く。いくらパンが好物とはいえ、女性にしてはだいぶ多い昼ご飯を映していた緑色の
「おー、相変わらずおいしそうですねー」
「そ、そうかな」
あまり手の込んだものは入れられなかったお弁当の中を
口端を仄かに持ち上げる彼女の表情からして、失敗せず作れていたのをくみ取れて内心ほっとしながら麦茶を
「それで…彼氏さんとなにかあったんですか~」
「んんっ!?・・・な、なんのこと…?」
今胸の内にある悩みを的確に撃ち抜いた質問により、口に含んでいたお茶が気道へと舵を切りかける。それをなんとか阻止して本来の進路に戻したのち、もはや手遅れな素面に
「前にリサさんバンドのことで悩んでたじゃないですかー。ここ数日のリサさん、あの時のすごい思いつめた顔と似た表情してるなーと」
普段は
「リサさんは、もう少しわがままでもいいと思いますけどねー」
「えっ…」
すぐ空気に溶けて消えてしまった言葉は、アタシの意識の奥深くで大きな
「今日何日か、覚えてますか?」
「えっと…、8月の24…だっけ」
さっきの
焦りが背を
「大丈夫ですよリサさん、あたしの予想では遅くても明日には、彼氏さんの方からコンタクトがあるはずですから」
「え、えぇ〜…、ほんとに…?」
「はい〜、モカちゃんの推理は百発百中ですよ〜」
今の質問からなにか得たらしいモカが、やけに自信満々のドヤ顔と共に
「・・・ありがと、モカ」
「いえいえ〜、また彼氏さんとの
「うん、わかっ・・・え?」
自然と口にしたお礼の要求に対し、流れのまま
「ねえ、モカ…、惚気話って…」
「ああ、リサさんってバンドやメンバーの話題以外だと、彼氏さんとの話しかしなかったんですよー。でも最近、めっきり話題に上げることがなくなったので
チョココロネの
・・・そこから先の事象を、熱暴走した脳はほとんど記憶しなかった。ただ、過去最高に集中が
「お母さん~…、ただいまー…」
バイト終わりの帰り道。いつにも増して押し寄せてきた気疲れを見ないふりして駆け抜け、ドアに背中を預けたまま浅い呼吸が落ち着いたのちに絞り出した声に、空腹をくすぐる香りを漂わせながらリビングのドアから出てくるなり、
夕陽が溶けた空を瞬く
外とほぼ変わらない高温高湿度の場所なのに、不快感など入り込む余地のない空間でひと
冷たい雨水がみるみる温水に上書きされていくのを感じながら、今日1日で
「ふ〜…」
無意識に脱力しきった声が出てしまうほどの幸福感が身体を包み、溜まった疲れも一気に溶けていくのだが、まっさらになった胸の内から、近年稀に見るレベルで恥ずかしかった指摘が浮き上がってきた。声にならない叫びがお風呂場に短くこだまし、お湯に顔の半分ほどを沈めながら物思いにふける。
・・・確かにモカの言う通り、話の内容が
そこからあーでもないこーでもないと頭の中で
なら自分で考え出すほかないと思い直した矢先、頭に熱がこもっていることを自覚した。思ったより早く時間が流れていることに気づき、このままじゃのぼせてしまうと慌てて湯船から体を起こす。
続きは部屋で考えようと水玉を滴らせながら浴室を出ると、すぐ近くにある棚からつまみ出したタオルで拭き、湿った髪をドライヤーで乾かすこと数分、予め置いてある寝巻きに袖を通して脱衣室を出て真っ先に視界に映ったのは、ドアを開ける寸前のお母さんの背中だった。
「お母さん、どこいくの?」
「あ、リサ。今日はいつもより長かったわね」
「あー…、今日は普段より疲れてたからかも」
恥ずかしい思想の全容を伝えるわけにもいかず、茶色の長髪をたなびかせながら振り返ったお母さんの指摘に引きつった笑みを浮かべる。幸い母はアタシの反応を「あらそう」のひと言で片付けると、自身の質問で上書きしていた問いに答えた。
「それが交通機関が止まったらしくて、お父さんが職場から帰ってこれなくなっちゃったのよ。だからちょっと迎えに行ってくるわ」
「そっか、雨ひどそうだし、気をつけてね」
アタシの
「・・・そうだ。ご飯はラップしてあるけど、さっき出来上がったばっかだから温めなくても食べれるから」
かなり荒れた空の
甘塩っぱいタレを纏った絶妙な焼き加減の鰤をおかずに、白米に手を伸ばす。付け合わせの
手のひらを合わせて食後のあいさつを小さく呟き、さて食器を洗おうかと腰を持ち上げた瞬間、インターホンが鳴り響く。
お母さんが忘れ物でもしたのかと一瞬考えたが、それならわざわざインターホンを鳴らさずとも自前の鍵で開ければいい。僅かな
「えっ!?」
画面越しに確認した玄関前には、本来そこにいるはずのない人物の姿があった。驚愕の声を溢しながら抱いていた懐疑心を放り投げ、慌ただしい足取りで玄関へと向かう。
鍵を開けるのもまどろっこしく感じながらドアの先には、右手に持つ傘が意味をなさなかったのか、服の所々が色濃くした思い人が、こちらの姿を見てぎこちない笑みを浮かべた。
「き、着替え、ここに置いておくね」
さっきまで自分が入っていた浴室でシャワーを浴びる少年に言葉をかけつつ、すぐ見つけられそうな場所にお父さんの服を置く。返ってきたお礼の言葉にぎこちなく口を動かし、足早に脱衣所を後にした。歩幅を縮めることなくリビングへと逃げ込み、放置していた食器を流しへ持っていくが、泡立たせたスポンジをいくら食器に擦り付けていても、気が紛らう予兆はない。
—あのあと、遠方にある海の家に泊まり込みで働いているはずの少年に対して色々な訊ねようとした直前、彼が大きなくしゃみがこちらの出鼻を挫いた。のちに少年が大きく身体を震わせるものだから、とりあえず疑問を棚上げして、すぐ帰ると言う彼を無理やり家に向かい入れて有無を言わさずお風呂に入れたのだが、もしかしたらこの行動は変な誤解を招くのではないだろうか。
着替えを借りる
慌てて全ての泡を排水口へ向かわせ、拭いた食器を棚に戻すと、ソファに横たわる。相変わらず忙しない働きを響かせる心臓をどうにかしようと思考を深めていると、全く
「い、いやいや、入るよう言ったのはアタシだし、お礼なんて…あはは〜…」
ぎこちない口調で
「は、はい!」
「・・・これは…?」
状況が飲み込めないアタシが零した疑問に対し、彼は緊張感を
「でも、なんで今日に…?」
しかし、なぜ当日ではなく今日なのか。悪天候に見舞われてもなお、遠方から時間をかけてでも渡しに来たのには、相応の理由があるはず。今この瞬間まで誕生日を忘れていた
「・・・そういうの、イヤ」
疑問が解けた今、本来ならプレゼントくれた彼に伝えるべきお礼の代わりに零れた言葉は、少年の表情を驚愕、焦りの順で浮き彫りにさせてみせる。そんな彼のわずかに揺れる瞳をしっかり見つめながら、胸に
「アタシは、キミとの時間を前座みたいにして終わりにしたくない。アタシにとってキミとの思い出は、家族やRoseliaのみんなと作るものと同じ、ぞんざいになんて扱いたくないから」
・・・彼の気遣いは、きっと的外れなものではない。
—・・・ごめん—
しばらく|漂[ただよ》った沈黙を破ったのは、数度の瞬きで揺らぎを消した視線を真っ直ぐこちらに向けた少年だった。先の自分勝手な
「い、いやいや!アタシも久しぶりに会えたからってちょっと変なこと言っちゃったし!」
撤回する寸前にこんな反応が返ってくるとは
ひと月足らず会わないだけで会話がここまで難しくなることに
「そっか…。玄関まで送るね」
まだ行かないで、もう少しだけ一緒に。喉の奥まで出掛けて飲み込んだ願望の代わりに、せめてもの願いを言葉にしたアタシは、口を閉めたリュックを背負い直す少年を見送るため、胸に袋を抱いたままソファから立って彼のすぐ背後をついて行く。どれだけ足取りを遅くしても数十秒で辿り着いてしまった玄関に座り込み、
「ううん、仕事だから仕方ないよ。頑張ってね」
少なくとも別れを
「・・・・・」
彼の言葉が皮切りとなり、抑えつけていた感情が隙間から一滴ずつ溢れ出していく。最初は返事や頷きをさせないよう口と首を固定するに止まっていた感情は、やがてある行動を指し示すことで、アタシを大きな葛藤に
・・・この行動は、今日の彼の努力を無に還してしまうものだ。さらには目の前の少年に更なる苦労を与えてしまうものであり、それを口にするのはどうしても
彼に対する気配りと、自身の本音。ぶつかり合う二つの感情どちらを優先すればいいか分からず、
『リサさんは、もう少しわがままでもいいと思いますけどねー』
・・・いいのかな、少し、わがままになっても…。
友人の言葉に後押しされて大きく
「これは、明日渡してほしい。どれだけ時間がかかってもいい、一瞬会うだけでもいいから…。だから、お願い…」
彼にこちらの行動を訊ねられるより先に、自分から口を動かし喉を
そうしてしばらく顔を持ち上げることができなかったアタシの手のひらを、音もなく温もりが触れた。続いて了承を伝える言葉が、強い意志を含んだ声に乗せられて耳に届く。
まるで予想していなかった結果に動揺を隠せなかったアタシが、持ち上げるだけにも時間がかかった視線の先にあった瞳は、アタシ1人が寄りかかったところでびくともしなそうなほど、力強い意志が灯っていた。
「あの、えっと…」
なにか言うべきだと思ったが、伝えるべき言葉は形にならずに口から零れて、大した意味を持たない字面を並び立てる。なかなか考えを固められない自分に歯痒さを覚えながらも、必死に想いをまとめようとしていたアタシに、眼前の少年は微笑みかけ、言った。必ず明日、リサに会いに行くと。
「・・・うん、待ってる」
こねくり回していた感情を置き去りにしてひとつ頷くと、自然と口元は緩やかな曲線を描いた。久しぶりに浮かべた作り物じゃない笑顔に対して、彼は強く頷き返し、アタシの手から袋を受け取る。類を見ない悪天候の中、わざわざここに足を運んでくれた意味を無に帰されたのにも関わらず、少年は不満など一挙一動にすら
相変わらずの空模様が広がるドアの向こうが、ひとつの音が鳴り響くと同時に視覚から完全に姿を消す。雨音をしばらく
滞ることなく流れる記憶の本流を止めようとして、思わず軽く頭を振ると、いつもは空振りで終わる行動が、暗い
「・・・お礼、言えてなかったな…」
荒れた天候にも怯まずに足を運んでくれ、アタシのわがままを嫌な顔ひとつせず受け入れてくれた少年に対し、謝罪の言葉を重ねていれど、感謝の一つも口にできていない。
自分の意志を押し出すかについてしか考えられず、簡単な、しかしなによりも重要なことを言葉にするのを忘れていたアタシ自身に対し、強烈な嫌悪感が湧いてくる。あったはずの言うタイミングを何度見逃した鈍感さにも、確かな怒りを抱く。
だが、いつもなら頭の中を支配するはずの黒い靄は、こちらの思考を惑わすことはなかった。
それはきっと、未だ耳に残った少年の言葉のおかげ。明日会えるという約束が挽回の機会があることを示唆して、凹んでいる暇などないと教えてくれる。
—明日は絶対、感謝の気持ちを伝えよう。今日の分はもちろん、今までの分も全部、届くように。
そう強く決意してから踏み出した足は決して軽くなかったが、前を覆う靄が無き歩みは、少しだって遅くなることはなかった。
こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
そして、またもや投稿期間が大幅に空いてしまい、誠に申し訳ございません…!現実の方で色々あり、精神的に少しきつい状況だったので、執筆する気力が湧かない期間がありまして、そこから回復しても、ただでさえ遅い筆がしばらく書いていなかったツケでさらに遅くなり、こうして作品を一つ書き上げるのにもかなりの時間を要する事態になってしまいました…。さらには連絡も
そしてもう一つ、謝罪すべき事が…!前回のパレオちゃん回で、ヒロインの苗字である鳩原の振り仮名を、《にゅうばら》ではなく、《はとはら》と表記していました…!完全に知識不足です…。紗夜さんに続いて2回も同じミスをしてしまい、すみませんでした…!そしてそのことを教えてくださったラウ・ル・クルーゼさん、本当にありがとうございました!
そんな多大な迷惑をかけてしまった身として図々しいかもしれませんが、小説本編の方にも触れさせてください。
このタイトルの他のお話を読んでくださっている方々にはお分かりでしょうが、今回のお話はタイトル初のヒロイン視点となっております。さらには前書きに書いております[もしリサ姉と付き合っていたら…]の続きだったり、ヒロイン以外にもセリフに「」が付いていたりと、かなり風呂敷を広げて書いてみました。結果、地の文とセリフの接続やキャラの言動に違和感を感じた方もいるかと思います。そういう方は感想などでご指摘して頂くと、おそらく次があるであろうヒロイン視点の話へ反映できるので、もし良ければお願いします。
そして次の投稿ですが、ヒロインはモカちゃんになると思います。もう半年以上前に募集したリクエストをこれ以上待たせるわけにはいかないので、年中には全て書き終えたい願望があるのですが、なんせこの作者の筆の遅さは投稿の間隔でお察しの通り激遅なので、達成できるかはかなり怪しいところではあります…。しかしここで挑みすらしないのは、待ち続けてくださった読者の皆様に失礼だと思うので、できる限りの手は尽くします!期待はしないでお待ちください!
最後に、こんな長い間音沙汰がない小説をお気に入り登録してくださった皆さん(減るどころか増えていて感謝の思いでいっぱいです…!)、星9評価をつけてくださった武大563さん、藤木真沙さん、智如さん(評価に恥じない小説を書いていけるよう、頑張ります!)、星6評価をつけてくださった月の向日葵さん(これからも精進します!)、感想をくださったポッポテェ…さん(毎回書いていただき、嬉しい限りです!)、そして、過去最長の後書きを最後まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!!