もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら… 作:エノキノコ
若い緑が
普通なら外に出るのが若干
周囲の人たちから変な目で見られていそうだが、そんなことはほとんど意識することもなく、先週から一緒に出かける約束をしていた人物の家に到着する。
急かす気持ちを抑えてインターホンを鳴らし、
風と遊ぶ髪をなだめるように撫でる彼女は絵画のような美しさを
「天気が悪いわね…日を改める?」
その提案に、頭が飛んでいくのではないかというほど大きく首を振った。
彼女は超絶的な実力と人気を併せ持つバンドのボーカルで、練習やライブでスケジュールはほとんど埋まっている。
実際、今日を合わせても一緒に出かけた回数は片手の指の数にも満たないし、今日無理だと次行けるのは来月末辺りになってしまう。
そんな根拠の上必死に拒否するこちらが面白かったのか、彼女は短い笑みを
「冗談よ。私もこれくらいで貴方との時間を先送りにするのは嫌だもの」
ほっと胸を撫で下ろすこちらをもう一度笑ってから、「行きましょう」と一言かけて歩き出す友希那さんの隣に並ぶ。
濃い灰色の
今日行く場所は決めてあると言う友希那さんの案内の元、会話を交えながら駅へと向かう。しかし電車を待つホームや、天候が影響しているのか少し空いている車両の中でも、話題は変わらず音楽関連のものばかりだ。
真剣に音楽と付き合う友希那さんらしいのだが、どれだけ甘く見積もっても素人に毛が生えた程度の知識しかない自分では、
その時は毎回わかりやすい説明をしてくれるが、言葉を選ぶように話す彼女を見ると、どうしても考えてしまうことがある。なぜ、彼女は告白を受けてくれたのか。
彼女は多忙だし、
だからこそ、考えてしまう。そんな輝かしい彼女に、特にこれといったものを持たない自分はふさわしい存在なのかと。
「・・・どうかした?」
彼女の言葉で我に返り、どうにかして口元に笑みを浮かべてかぶりを振る。彼女は一瞬心配そうな顔をしたものの、追求することなくドアの方を指差した。
「次の駅で降りて少し歩くのだけど…平気かしら」
頷きで答えると彼女は下車のために立ち上がり、揺れる車内をドアに向かって進み始める。それを追うために腰を上げた瞬間—
「きゃっ!」
急な減速がかかり、目の前の少女がバランスを崩す。肩を押す大きな重力に逆らって彼女に手を伸ばし、なんとか転倒直前の彼女を抱きとめることに成功した。
大丈夫か訊ねると、腕の中の少女は
慌てて腕を
「謝る必要なんてないわ、貴方は私を助けてくれたんだもの。・・・ありがとう」
穏やかな笑みを浮かべて言われたお礼にぎこちなく返事をすると、それと同時に電車も再び動き出し、緩やかな振動が車内を包む。
今度こそドアの前に移動する彼女の隣に立つと、次の駅が近いことを機械的な声が車内全体に伝えた。
それから駅を出て、ラーメン屋や八百屋などを素通りして歩くこと10分ちょい。猫の肉球やしっぽのデザインが特徴的な看板が屋根の上に立てられている建物の前で、彼女は止まった。
道中あったライブハウスも
しかし、こういう可愛い系統のお店は彼女には少し意外なように思えた。お品書きに書いてあるものを見る限りカフェっぽいが、ここにも猫を
一応、本当にこの場所であっているのか訊ねると、彼女はしっかりと首を縦に振った。
「ええ、ここよ。大丈夫、貴方もきっと気に入るわ」
そう言うとなんの
猫の小物がいっぱいのカウンターを挟んだ女性店員さんは一瞬こちらを見たのち、友希那さんと小声でなにかを話し始めた。
緊張しつつ待機すること数分、話し終えた友希那さんがこちらの
彼女がドアノブを回したのと、自分が彼女の隣に立ったのはほとんど同時で、そこに広がる光景は、なぜこのお店のデザインが猫に
弾力性に
そう、ここはただのカフェではなく、猫カフェだったのだ。
「にゃーんちゃん…!お出迎えしてくれたの?」
そんな思考を、彼女の口から聞いたことのない
ばっ、と音が出る勢いで右を向くと、そこには慣れた手つきで猫を持ち上げて口元を
硬直したこちらを置いて、彼女は猫を抱いたままクッションに座ると、自身の膝に乗せた猫の背中をゆっくりと撫でた。膝の子は嫌がる
「貴方も入っていいのよ」
声をかけられたことでようやく正気に戻り、彼女の近くにあったクッションに腰を下ろす。とはいっても、この手の動物と触れ合う系の場所に来るのは小学生の時に行った動物園くらいなので、どうすればいいのかまるでわからない。
しかし、猫は丸っこい体からは想像できないほどの俊敏さでこちらの手を避けると、低い声で
中途半端に手を伸ばしたままのこちらに、彼女は苦労を思い出すかのような笑みを浮かべる。
「いきなり触ろうとしたらダメよ。にゃーんちゃんのことをよく見て、撫でてもいいか確かめないと」
そう言うと彼女はさっきの猫、彼女で言うところのにゃーんちゃんの頭を数回撫でただけでたちまち白いお腹を
店員さんと親しそうに話していたり、猫が異様なほどに寄ってきていることから考えるに、彼女はきっと常連なのだろう。
経験ゆえの凄技を捉えていた視線が、ほぼ無意識に彼女の横顔へとフォーカスされる。
そこには、彼女が音楽に向けるものとは違う、しかしどこか似ている感情があった。歌っている時の
「・・・どうしたの?」
時間を忘れて彼女を見ていると、流石に視線に気づいた友希那さんが首を
なんでもないと首を振り、彼女の助言を実践するべく周囲に視線を飛ばす。しかし、この部屋にいる猫は全員友希那さんに集まってしまっているのか、彼女の周囲以外には1匹も—
そう確定しかけて
だが、こちらの視線に気付くと、すぐさま部屋の
もしかして猫に嫌われる人種なのかと、軽くへこんでいる自分の隣に、猫1匹を抱いた友希那さんが腰掛ける。肩が触れ合いそうなほどの距離に心拍数が少し上昇し始めたこちらに、彼女は
「・・・あの子は、
沈んだ表情で呟く友希那さんにこちらがなにかを言う前に、彼女の腕の中にいる子が心配するかのようにひと鳴きする。
それにより柔らかな笑みを取り戻した友希那さんは、言葉をかけることもできなかった情けないこちらより、何倍も気が利く猫を差し出した。
「ごめんなさい、暗い話をしてしまって。私が言いたかったのは、あの子に嫌われてるのは貴方のせいじゃないってことよ。反対にこの子は人懐っこい性格だから、すぐに仲良くなれるはずだわ」
じっとこちらを見つめる黒い瞳には、敵意の色は
確かに、この子とならすぐに打ち解けることができそうだ。でも—
彼女に謝罪の言葉を口にしてから、隅に固まっているあの子と仲良くなりたい
拒絶されなかったことに安堵しつつ、部屋の隅で縮こまる灰色の子へと歩み寄る。
少し距離を空けたところに座ると、その子はびくりと体を震わせたものの、逃げ出そうとはしなかった。
・・・やはり、この子は根っこでは誰かと関わりたいのだ。だが、それを今までの恐怖が許容しないのだろう。
でも、この子はさっき勇気を振り絞ってこちらと関わろうとした。恐怖を乗り越えようとした。その小さな勇気を、取りこぼさないようにしてあげれば、もしかすれば。
背を壁につけ、両足を伸ばした体勢で、正面に視線を固定したまま待機する。すると、左側からなにかが動くのを感じれた。
それは本当にゆっくりな速度で、しかし確実に近づいてきて…いる気がする。自分の目で
やがて隣にたどり着いたと思われる灰色の子は、しばらくそこに留まり続けた。
触ってもいいのかわからず動かないままのこちらの膝に、なにやら柔らかいものがわずかな重量を伝えてくる。それが触れていいサインなのかどうか考えるこちらの耳に、控えめな、しかし、今まで聞いたどんな同種の動物のものより綺麗な鳴き声が届いた。
音源である膝元に視線を下ろすと、小さな金色の瞳がこちらを見上げていた。もう一度同じように鳴くと、少しだけ頭を下げる。
なにを要求されているのかなんとなく汲み取れたので、右手を持ち上げて頭を撫でてみた。
自分でもわかるほどぎこちない動きだったが、灰色の子は気持ちよさそうに眼を細めると、ごろりと横たわった。
右手を今度は丸くなった背中の
「貴方…やっぱり凄いわね」
あのあと、いつのまにか窓から差し込む陽光が純白から
その意味がわからず首を傾げてしまうこちらを見た彼女は、どこか悔しそうな笑みを浮かべた。
「あの子、私がいくら頑張っても懐いてくれなかったのよ。それなのに貴方はすぐに仲良くなるなんて」
そうぼやく彼女に、友希那さんでもできたと、掛け値ない本音を口にするが、彼女はさっとかぶりを振った。
「わかるの。あの子はきっと、優しく寄り添ってくれたから心を開いたんだと思うわ。・・・昔の私に、貴方がしてくれたように」
夕陽に照らされた銀色と微笑は、息を呑むほど
立ち止まった彼女は、少し遅れて止まったこちらに、瞬きひとつで真剣な光を纏わせた瞳でしっかりこちらを
「・・・だから、私も貴方の力になりたいの。なんで時々思い悩んだような顔をするのか、教えてくれない?」
・・・自分的には隠し通せていた気でいたのだが、どうやら彼女にはバレていたらしい。本当のことを言うべきか悩んだが、残念ながら彼女が納得できそうな理由を思いつくことができなかったので、意を決して口を開く。
そうして、自身が友希那さんの相手として釣り合うかどうかで悩んでいたことを打ち明けると、彼女は呆れたような、怒っているかのような顔をした。
「・・・貴方は自分を無能だと決めつけてるけど、少なくとも私は、貴方がどんな人よりもすごいものを持っている人だって知ってる。だから貴方が私と釣り合ってないなんて
それに思わず、友希那さんよりかと、他ならぬ本人に訊ねてしまう。
彼女は少し驚きながらもすぐに首を縦に降るので、立て続けにそれがなんなのかも訊いたが、今度は左右にきっぱりと振られてしまう。
「さあ、なんなのかしらね」
そう言って駅の方へ歩いて行ってしまう友希那さんに再び訊ねようと思ったが、しばらくは彼女の隣で考えてみようと思い直して、揺れる銀色を追いかけた。
オレンジ一色の空のように、胸の中にはもう濁った色はかけらもなかった。
こんにちは、エノキノコです。まずは最後までこの小説を読んでいただきありがとうございます。
嬉しいことにたくさんの人の目に前回の話が留まっていただけたので、それに応えるべく頑張って執筆したのですが…いかがだったでしょうか?前回と比べるとラブコメ成分が薄めですが、少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
そして、前回の話でひとつ謝罪したい件があるのですが…ヒロインである氷川紗夜さんの名字の振り仮名を《ひかわ》ではなく《ひょうかわ》と間違えてしまう渾身のミスをしました…。誠に申し訳ございません!次からは気を付けます…!
次の投稿は遅くても来週の同じ時間にできると思います。
最後に、星9という高評価を付けてくれたkasasiさん、むら₂₄_(๑˃̵ᴗ˂̵)و♥♥♥さん(期待に添えるよう頑張ります!)、お気に入り登録をしてくださったみなさん(想像以上に多かったので、失礼ながら名前の表記は割愛させていただきます。ごめんなさい…!)、紗夜さんの名字を指摘してくれたハリさん(指摘されなかったら絶対に気付きませんでした…)、そして、長くなってしまった後書きに最後まで付き合ってくれたあなたに、この場を借りてお礼をさせてもらいます。ありがとうございました!