もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら… 作:エノキノコ
今日の気候は雲ひとつない
理由はいたって単純、黒に近い茶色の岩肌が、
眠気を誘ってくる
その代わり、地面は人の手が全く加えられていない証に
今日のように天候が良好な日くらい、じめじめした洞窟に潜るのではなく街でのんびりしたかったと、未練がましい思考を頭の中に漂わせていると、まるでそれを見抜いたかのように、隣を歩く黒髪の少女が口元に苦笑を滲ませた。
「そんな、わかりやすく…拗ねないで、ください…。今度…一緒に、ピクニック…行って、あげますから…」
旅のパートナーであり、人生の伴侶でもある少女、
ここの最深部には
言ってしまえばただの石っころにそんな値段が付いているのは、単純に希少性が高いことがひとつ。ある場所でその鉱石が取れると、そこでは2度と入手できなくなり、一定の時間を置いたあと世界のどこかに音もなく現れる。
そして2つ目の理由に、鉱石とこちらを挟む形で、必ず
その怪物は龍だったり巨人だったり獣だったりと様々な見た目をしているのだが、唯一の共通点として鬼のように強いという特徴を持っている。どれくらい強いかというと、50人の
そんな相手にたった2人で挑むのは自殺行為に等しいのだが、決して勝算が無いわけではない。隣の女性が持つ1本の杖がなによりの証拠だ。
もちろん守護者とも出くわしたのだが、あの時は本当に幸運だった。
相手が単純な物理攻撃しかしてこなかったこと。それを自分1人で
それが、旅の経験と実力を上回る方、りんりんの方が持つべきだというこちらの意見と反発して、最終的にこちらが折れたふりをして武器屋に鉱石を持ち込み、魔法使いである彼女の
杖を見せた時彼女はすごく怒り、丸1日口を聞いてくれなかったが、なんとか謝り倒して怒りの炎を
それだけで守護者相手に
どうやら彼女は、こちらに内緒で鉱石が次現れる場所を探していたらしい。冒険に行こうと言われるまま彼女に付いて行き、ここの入り口で鉱石の話をされた時にはまさかと思ったが、ここを見つけるまでの道のりを聞かされたら納得せざるを得なかった。
・・・まあ、もらえるなら両手を上げて受け取りたい。あの鉱石で作った武器はその希少さに見合った性能をしているので、欲しくない奴などいるはずがない。
しかし、欲しいと思ったら手に入るほど、あれの価値は軽くない。いくら場所を突き止めたところで、守護者の形状によっては軽く
それをりんりんに
型はオーソドックスな人型だが、大きさが
さっきの
「あのゴーレムの…攻撃、パターンは…両手の、パンチ…と、足による…スタンプ…あとは、正面に、留まり続けると…足で払ってくる…ので…気を付けて…ください…」
お礼を言いつつ、もらった情報を頭の中で反復する。確かにこれなら、自分が引き付け続ければ遠距離の魔法で
それを訊ねる前に彼女は部屋へ踏み込んで行ってしまうので、戦闘が終わったあと訊こうと疑問を頭の
まるでこちらが部屋に入るのを待っていたかのように、ゴーレムが眼を赤く輝かせて大きな
それに
ゴーレムは口を閉じ、
左に飛んで回避すると、文字通りの鉄拳が地面を
揺れがある程度収まったと同時に着地し、転ばないようしっかりと地面を踏みしめながら、挨拶代わりの軽い攻撃を左ふくらはぎの側面に繰り出す。
鉄筋コンクリートを素手で殴ったような手応えの無さに思わず短く舌を鳴らした直後、後方から赤い熱の塊が複数飛んでくる。それらは全てゴーレムの顔にぶつかり、ゴーレムは数歩
魔法はある程度効いているのを感じつつ、敵の隙に半ば勝手に身体が動いて、自身が使える中でかなり高等な技を放つ。
さっきよりかはかなりマシな手応えと共に、赤い眼が憎らしげにこちらを見下ろした瞬間、氷の
今度は手を顔に持っていくことも、下がることもなかった鉄の巨人は、視線を遠くで呪文を唱える女性へ向けた。
基本的に相手の攻撃対象の決定方法は、<攻撃の種類>と<ダメージの量>によって決まる。
普通は魔法より物理の方が相手の意識を奪えるのだが、魔法ダメージの割合が高く、物理のダメージが低いと今回のように
慌てて小技を数度連続して左足に打ち込むと、敵の意識がこちらに戻る。ほっと一息つく
先の魔法と同じく基本的な魔法なのだが、杖のおかげでそこらの魔法使いが使える最大魔法と同等以上の威力が出ている。しかしこの場合、倒す時間は大幅に短縮される代わりに、敵の意識がこちらから離れることが増えることを意味している。
普段より攻撃の回転を上げる必要があることを感じながら、後方の魔法使いに向かって右足を踏み出す巨人へと、攻撃を繰り出した。
それからは何回か敵の意識がりんりんに向いてしまうことがあったが、遠距離技を持たないゴーレムが彼女を
そして、あと少しで倒せる、ゴーレムの焦るような動きからそう感じ取りつつも、油断せず武器を握り直した時、リンリンから鋭い指示が飛んできた。
「下がってください…!!」
珍しい彼女の大声に内心驚きながら、指示通りに後ろへ下がる。
急に距離を開けたこちらに鉄の巨人が怒号を上げながら踏み出した右足に、左足が続くことはなかった。
奴の足元に巨大な魔法陣が
おそらくりんりんは、大技を当てれば倒し切れると踏んだのだろう。実際、さっきまでの怒りの
しかし、こちらが理想的な想像をし過ぎたのか、それとも守護者たる者の意地なのか、竜巻を
強者が死に
りんりんは接近してくる前に魔法の追撃でとどめを刺すつもりなのだ。なら、前衛の自分は少しでも相手の進行を遅らせ、詠唱の時間を稼ぐ。
瞬時にそう判断し、思い切り地面を蹴り飛ばそうとした直前、とてつもない違和感が足を
こちらが思考に費やした数秒のあいだに、ゴーレムは次の一歩を踏み出すどころか身動きひとつしていない。そもそも、りんりんに襲いかかろうとした時は奴は必ず右足から入ったはずだ。しかし、踏み出されたのは左足、そして両眼から放たれている血のような赤色が洞窟を包み込んでいく…。
鉄の巨人がなにをしようとしているのかわかってしまい、すぐさま進路を前方から背後に変えた。彼女も敵の異変に気付いたのか、詠唱の速度が急減速していくが、声を張り上げて詠唱を続けるよう伝える。
彼女との距離が5メートルを切ったところでゴーレムと相対すると、それを待っていたかのようにひときわ激しい光が瞬き、こちらへと凄まじい速度で迫ってくる。やはり、危惧した通りの熱線攻撃だった。回避するなら、今すぐ左右どちらかに跳ばなくては間に合わない。
しかし、そんな選択肢は頭の中に存在すらしなかった。
彼女を守る、それが自身がすべき唯一のことだから。
盾代わりにした武器に高熱の弾丸が触れた瞬間、爆発が身を焼き、身体が天井まで吹き飛ばされる。上昇は音のように早かったのに、落下はやけに遅く感じた。
なによりも安らぎを与えてくれるその声を、最後の瞬間まで魂に刻みつける。長い長い降下が終わり、地面に叩き落とされるのを最後に、意識がブラックアウトした。
ぎしりと音を鳴らして背もたれに寄りかかると、完全なる漆黒に塗り潰されたPCの画面、そこに赤いフォントででかでかと表記された[You are dead]の英文にちらりと視線をやってから、
MMORPGである<ネオ・ファンタジー・オンライン>、通称<NFO>の死亡画面を見るのは結構久しぶりだ。操作に慣れ、装備も上質なものを揃えた頃からめっきりと見る機会は減っていた。
『ご、ごめんなさい…!!わたし、のせいで…』
今にも泣き出しそうな彼女に慌てて大丈夫だと伝え、鉱石は手に入ったか訊ねる。
『ちょっと、待ってください…』
そう呟いたあと、少し間を置いてヘッドホンから歓喜の声が漏れ出てくる。
ちゃんと入手できたと喜ぶりんりんと武器屋の前で合流するのを約束して、
街を移動するこちらとは違い、りんりんはフィールドから戻ってくるので少し待つと思っていたのだが、なぜか彼女の方が先に着いていた。
どうやって戻ってきたのか訊ねると、最近転移魔法なるものを取得したのだと、少し自慢げに教えてくれた。
それならこちらより早かったのは納得だが、同時に、なんで行きにその魔法を使わなかったのだろうと新たな疑問が浮かんでくる。
消費MPが多いのかなと、勝手に想像しているうちに彼女は武器屋に入り、杖を手がけてくれたプレイヤーに例の鉱石を渡す。その人はチャットで、この鉱石を2度も仕事で使えるとは思わなかったと驚いていた。
それに対してりんりんが、[彼が一緒だったおかげです( ´ ▽ ` )]と答えるものだから、思わず口元が緩んでしまう。
幸い、ビデオ通話をしているわけではないので顔を見られる心配はないが、そうやって油断していると文章に
自室の時計は午後8時を過ぎたことを示していて、いつもならレベリングやスキルの熟練度上げにフィールドへ繰り出す時間帯なのだが、今日はボス戦で少し疲れているし、自主的に言い出す気にはならなかったのでリンリンに合わせようと、これからどうするかマイクを通して訊ねた。
すると、彼女は少し黙り込んでから、やや
『あ、あの…!今から…会えません、か…?』
いきなりの誘いに驚いたが、特に予定もないので承諾する。
安心したように息をつく音が聞こえたのち、『じゃあ…いつもの、場所で…待ってます…!』という言葉を最後に、画面の女性が姿を消した。
こちらも彼女と同じように自身の分身を異世界から一時的に消滅させると、適当に上着を羽織って待ち合わせ場所まで走る。
彼女と夜に会うこと自体は初めてなわけではない。人混みを好まない彼女は、静かに過ごしたい時に夜の公園で話そうと誘ってくれる。
その時間は2人の空間を邪魔されない自分も好きな時間なのだが、いつもは3日前くらいに、遅くても前日には予定を訊ねてくるので、当日の、しかも直前にお願いされたのは初めてだった。
わりと距離のある公園までの道のりをバテるぎりぎりの速度で駆け抜けて、たどり着いた小さな公園のベンチには、画面の中にいた少女が魔法使いのロープではなく、白いワンピースを着て座っていた。
目立った柄はなにひとつないが、白いフリルが膝下まで丈のあるスカートなどを効果的に飾り付けていて、ドレスのような印象を感じさせる。星夜のわずかな光に照らされた横顔は、画面の中にいた彼女の分身の何倍も美しいが、どこか悲しそうな色が浮かんでいた。
少し乱れた呼吸を整え、彼女の名前を呼ぶ。弾かれたようにこちらを向いて立ち上がったりんりんは足早に近づいてくると、限界まで腰を折り曲げた。
「ご、ごめんなさい…!!わたしの、わがままに…付き合わせてしまって…」
いきなり過ぎてついていけないこちらに、彼女はよくわからない謝罪を口にする。
混乱した頭でなんとか考えてみるものの、わがままなんて言われた覚えはない。強いて言うのならこの呼び出しが該当するのだろうが、こちらはそんなふうに捉えていないし、そうじゃないとしてもちょっと大袈裟すぎる気がする。
それを伝えても、彼女は顔を上げてはくれなかった。代わりに、
「今日の、戦いも…わたしが…無理やり、連れ出した…のに…わたしが…決着を、急いだせいで…あなたが…死ん、じゃって…迷惑、だって…わかっても…直接…謝り、たかった、んです…あなたに…嫌われたら…わたし、わたし…!」
それ以上は言葉にならないと
だから代わりに、彼女の肩に触れて上体を起こさせると、濡れた紫の瞳を
—どんなことがあっても、自分は燐子のことを嫌いになんてならない—と。
彼女は止まりかけていた大粒の涙をぽろぽろと溢しながら、胸に飛び込んでくる。
子供のように泣きじゃくる少女の背を、ゆっくりと撫でた。胸を濡らす涙が枯れるまで、夜に響く嗚咽が止むまで、ずっと。
泣き止んだりんりんの手を引き、さっき彼女が座っていたベンチに並んで座ってから、彼女との間には会話どころか言葉のひとつすら行き交わなかった。
理由は、さっきの言動が今更恥ずかしくなってきたからだ。
もちろん、彼女に伝えた言葉は掛け値無しの本心だが、よく考えたら…いや、そんなに考えなくてもかなりクサい台詞だったのは明白で、さらには今までりんりん呼びだったのを勢いで下の名前で呼んでしまった。
そして、1番怖いのは彼女もさっきからひと言も喋らないことである。もしかして気付かぬうちに
謝った方がいいのか頭を悩ませていると、しばらく続いていた沈黙が、隣の少女によって破られた。
「・・・あの、ひとつだけ…お願い、してもいいですか…?」
なにを要求されるかまるでわからないままなし崩し的に頷くと、彼女は少し
「もう、一回だけ…下の名前で、呼んで…くれませんか…?」
予想だにもしていなかった願いに変な声が出てしまう。それを拒否と受け取ったか、彼女は顔を真っ赤にして座ったまま頭を下げた。
「すみません…!やっぱり、嫌…ですよね…」
みるみる
ぎこちなく発された名前が耳に入った
そんな密かな企みを知らない彼女は
いくら春とはいえ、夜はまだ冷える。大して
彼女に着せるために上着を脱ごうとすると、燐子はそれを察して大きく首を振った。
「だ、大丈夫です…これくらいなら、我慢でき…へくちっ!」
可愛らしいくしゃみをする彼女に言わんこっちゃないと思ってしまう。
脱いだ上着を彼女に渡そうとしたが、再び吹いた風に今度はこちらが盛大なくしゃみをしてしまった。彼女は「だから…大丈夫…って、言ったのに…」と呟いたのち、少し考え込んでから赤くなりつつも真剣な眼差しをこちらに向けた。
「ふ、2人で…温まる、方法が…あるんですけど…手伝って、くれますか…?」
そんな方法があるのかと、深く考えずに頷く。すると彼女は、なぜか足を少し開いてくれとお願いしてくるので、疑問に思いながらも注文通りに足を開く。
彼女はお礼を言ったものの、迷ったように視線を左右させたが、やがてガタリと立ち上がり、再び座った。隣ではなく、スペースの空いたこちらの前に。
胸を彼女の長い黒髪がくすぐってきたが、そんな
こちらを向いた燐子が、頰に朱色を宿しながら期待するかのような瞳を向けてきたからだ。彼女がなにを期待しているのかは、なんとなくわかる。わかるのだが…下の名前も呼ぶのにひと苦労している自分が、それを実行できるかどうかはまた別の問題だった。
どうしようか悩んでいると、彼女が2回目のくしゃみをするので、ええいままよと両手を持ち上げ、
彼女は一回大きく身体を震わせたが、幸い嫌がる様子もなく目を細めた。彼女の髪から香るフローラルの香りや、女子特有の体の柔らかさから意識を遠ざけるべく、NFOのスキル構成やイベントの走る予定などを全力で考えていると、思考の海に潜る自分を燐子のひと言が引きずり出す。
「温かいですね…」
むしろ暑いくらいだということは口にせず、こくこく頷くと、彼女は赤い頰を
少しだけこの状況に慣れてきたので、回した腕の力を強めてみる。短い吐息が間近で響き、心拍数を限りなく上昇させる。
もう随分な
こんにちは、エノキノコです。まずは通常の倍近くの量になってしまったこの小説を最後まで読んでいただきありがとうございます。
そして前半、いえ、物語の8割がラブコメ皆無の戦闘描写ですみません!作者的にNFOを舞台にして書きたい欲求があったんですが、現実世界でキャラがPCをかちかちするだけだと迫力に欠けますし、だからといってゲーム内のアバター視点のみで進めるのもどうかと思ったので、前半NFO、後半は現実でのラブコメを書こうと思ったのですが…書いているうちにこんな惨状になってしまい、ガルパ4周年に間に合わせたかったため書き直すこともできず(実際半分ぐらいは作者の貧乏性のせいです…)、こんな偏ったものになってしまいました…。次はラブコメを目一杯詰め込むので大目に見てもらえると幸いです。
次回は3月20日に投稿予定ですが…これも間に合うかは微妙です。ただ間に合うよう全力を尽くしますので、待っていてもらえると嬉しいです。
最後に、星9という充分過ぎるほどの高評価を付けてもらった通りすがりの