もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら…   作:エノキノコ

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氷川姉妹誕生日記念です!


もし日菜ちゃんと付き合っていたら…

ただでさえ冷える1年最後の月、年の瀬という実感などほとんど湧かない時期でも、夜は一層冷え込み体温を奪おうとする。

しかし、舗装(ほそう)はされているもののそこそこの角度を有した山道を望遠鏡を背負って歩いていると、それすらも少し物足りない。

「おーい!早く早くー!」

厚着してきたことを後悔しつつ、荒い呼吸を繰り返しているこちらに、昨日急に出かけようと誘いのメールを送ってきて、説明無しにここまで引っ張ってきた、付き合い始めてある程度(とき)が過ぎた少女、氷川(ひかわ) 日菜(ひな)が上から手を振って急かしてくる。

開いた距離を詰められる声量を出すべく息を整えていると、その隙に彼女は「先行くねー!」と疲れを感じない声を響かせてあっという間に背中を小さくした。

そんな彼女に負けじと荷物を背負い直し、疲労が溜まった身体を(ふる)()たせる。星の光に照らされる、終わりが見えない道に早くも意思を(けず)られたが、弱気な思考を頭の中から振り落とすと、重りを付けられたかのように動きが(にぶ)い足を踏み出した。

 

そこから実に30分以上かけて頂上に達し、割と混雑している展望スペースの(すみ)に設置されたベンチにふらつきながら座り込む。

近くの邪魔にならない場所に望遠鏡を横たえて(むさぼ)った(かわ)いた空気は、血流を徐々に沈めていったが、代わりに(のど)(かわ)きを()()りにした。

「はい、これ」

水分を求めて自販機を探そうと持ち上げられた視界に、透明な水が入ったペットボトルが割り込んでくるので、キャップを持つ指を(さかのぼ)っていく。終着点には、無慈悲(むじひ)にもこちらを置いて先にここにたどり着いていた日菜が悪びれることなく軽い笑みを浮かべていた。

なぜ受け取らないのか不思議そうに首をかしげる彼女に文句のひとつでも口にしようか悩んだが、原始的な衝動に(あらが)ことが出来ず、お礼を言って受け取ると、抵抗感なく回るキャップを外した矢先に喉を盛大(せいだい)に鳴らしながら一気に飲み干す。

ただのミネラルウォーターがここまで美味く感じるのに軽い感動を覚えていると、隣に座った日菜がいたずらな(ひとみ)でこちらを見ていた。あの目をするのはこちらをからかう予備動作(よびどうさ)だということを、彼女と付き合う前から身を(もっ)て知っている。

どうせ遅れたことに対することでなにか言われるだろうと、(あらかじ)め返答を用意しようとしたこちらに、日菜はまだ少し中身が残っているペットボトルを指差し、言った。

「それ、あたしの飲みかけだよ」

完全に予想外の言葉に、口に出す予定だった反論は意味のない叫びに変換(へんかん)された。日菜はこちらの手から(こぼ)れたペットボトルを危なげなくキャッチすると、愉快そうな笑い声を響かせる。

「あはははっ!相変わらず面白いな〜」

顔に紅色(べにいろ)が広がってしまったこちらを一頻り(ひとしきり)笑った彼女は、「残りもらうねー」と躊躇(ちゅうちょ)なく水に口を付ける。

頰の表面温度(ひょうめんおんど)幾分(いくぶん)か上昇しているのを自覚しつつその(さま)を見ていると、ペットボトルを空にした彼女は口元をわざとらしく湾曲(わんきょく)させた。

「君は意識し過ぎだってば。あたしたち付き合ってるんだから、間接キスくらい普通でしょ?」

それはそうなのかもしれないが、こちらはさして恋愛経験が豊富なわけではないので、どうしてもドギマギしてしまう。

出したら間違いなく追撃を(もら)うだけの言い訳を、口の中でもごもご(とど)めていたが、彼女はすべてお見通しと言わんばかりに浮かべていた笑みを深めると、短い距離を無くす勢いで近づき、こちらの右腕を両手で(から)め取《と》って胸に引き寄せた。

右腕に集中した熱が逃げ場を求めるように全身へと回り、それでもなお余りあるエネルギーは肌の色素へと変換される。

赤く染まっていくこちらを見た彼女は再び声を出して笑ったのち、なぜか周囲を見渡した。

「まだ平気っぽいし、しばらく話そうよ。・・・そういえば、前の撮影現場で面白いことがあってねー…」

日菜が楽しそうに話し始めるが、右腕に彼女の身体の感触が()えず送られ続けているので、内容がほとんど頭に残らず流れていく。

なんとか右腕から意識を外そうとするこちらの努力を、日菜は両手に込める力を強めることで粉々に打ち砕いた。

実に1時間以上の間、右腕は異常な熱を(たも)(つづ)けた。

 

それから、アイドルの話から星の講座に変わっても、一向に意識の大半は右腕に集中したままだった。

なんとかしようとは思ったものの、話の流れによって不規則に変化する感触をシャットアウトするのは至難(しなん)の技だし、少し離れてと言っても逆に密着してくるのでこちらができることがなくなってしまった。

だが、なんとかこの状況にも少しずつ慣れ始め、彼女が指差す星の光を楽しめるようになってきた頃。日菜は今までの会話でも何度か挟んでいた周りの様子を確認する挙動を見せたのち、急にこちらの腕を解放して立ち上がった。

一度はそれを頼んだはずなのに、いざそうなると一抹(いちまつ)の寂しさがちらついてくる。

「ちょっとお腹減ったから、なんか買ってくるねー。・・・心配しなくてもちゃんと君の分も買ってくるから平気だって〜」

今回は心情を読まれなかったことに胸を撫で下ろしつつ、これ使ってとポケットから財布を取り出す。

お礼を言って、来た頃より密度を増した人波に飛び込もうとしていた彼女は、なにかを思い出したかのような顔をしてこちらに戻ってくる。

小走りの勢いを落とさずに両手を背に回してきた日菜は、心拍数(しんぱくすう)が跳ね上がったこちらに(さら)なる爆弾を投下(ばくだん)した。

「戻ってきたらまた腕組んであげるから、それまでこれで我慢してね」

吐息混じりの(ささや)きが背筋をぞくりと(ふる)わせる。抱擁(ほうよう)が強くなり、彼女の体温がこちらに移り変わった瞬間、大きな笑みを目の前で咲かせてから今度こそ走っていってしまった。

身体に()びる熱は彼女が帰ってくる(あいだ)どころか、1日中心身(しんしん)共々(ともども)温めてくれそうだったが、このままだと冬なのに熱中症で倒れてしまいそうなので、気を(まぎ)らわせようと紺色(こんいろ)純白(じゅんぱく)の点を散りばめた空を眺める。

しかし、無意識に残っていた彼女の解説が(よみがえ)り、それに付随(ふずい)してさっきの(くだり)も脳内で再生されてしまうので全く景色に集中できなかった。

時間が過ぎていることすらほとんど意識せずに頭を抱えているうちに、袋片手に戻ってきた日菜がこちらに財布を返したあと、躊躇(ためら)わずに腕に飛び付く。

一向に落ち着かない心臓を(なだ)めるべく四苦八苦(しくはっく)していると、日菜は冷たくなった手を温めようと、こちらの腕に自身の手を強く押しつけながら頬を(ふく)らませた。

「あたしたちもう付き合って結構経つんだよ?そりゃ無反応よりかは今の君の方がいいけど、もうちょっと慣れて欲しいなー」

昨日だったら反発していたであろう言葉が、(みょう)にすんなり入ってくる。

今までは彼女の距離が近過ぎることが原因だったと思っていたが、単純に自身がヘタレなこともあるのかもしれない。

小さく謝罪の言葉を呟くと、彼女は慌てた素振りで首を左右に振った。

「あ、謝って欲しかったわけじゃないよ!ほら、ポテトでも食べて元気出して!」

彼女は袋から取り出したフライドポテトの一本を差し出してくる。ジャンクフード、特にフライドポテトが大好きな彼女が最初の一本を食べさせようとしてきたあたり、自分は相当(ひど)い顔をしていたのだろう。

少しの気恥ずかしさはあったものの、彼女の気遣(きづか)いを無下(むげ)にはしたくなかったのでお礼を言って食べると、塩味(えんみ)が薄く口の中に広がった。

「美味しい?元気出た?」

日菜がこちらの顔を(のぞ)()むようにして(たず)ねてくるので、身を引きながらも(うなず)く。安堵(あんど)したように笑顔を(ほころ)ばせた彼女は、ポテトを2、3本ひょいひょいと口に放り込むと、心底嬉しそうな顔をする。

あっという間に紙で出来た容器を空にした彼女は、袋から新たなポテトを取り出す。ちらりと見えた中には同じような容器が6つほど所狭(ところせま)しと詰められていた。

緊張で誤魔化(ごまか)されていた空腹が徐々に顔を出してくるのと同時に、日菜がもうひとつ袋から取り出し、こちらに渡してくる。

お礼を言って受け取り、何本か(たば)ねて口に入れると、こちらはバーベキュー風味の味付けなのだろうか、スパイシーさが舌を刺激した。シンプルな塩もいいが、こちらも劣らぬほど美味い。

「そっちも美味しそー…あたしにもちょーだい!」

特に断る理由もないので、瞳を輝かせる彼女の方に入れ物を差し出すが、彼女は自身で取ろうとせずに口を開けて待っている。

食べさせられるのと比べればなんてことないと自身に言い聞かせ、ぎこちない動作でポテトを一本引き抜き、口の近くまで持っていってやると、彼女はこちらの指ごとぱくついた。

指先に今まで感じたことのない感触が襲いかかり、思考が完全に停止する。

首を傾げる少女と見つめ合う形で硬直した意識を引き戻したのは、周囲の歓声だった。「あっ!始まったよ!」とはしゃぐ彼女が指差す空を見上げると、紺碧(こんぺき)のキャンパスに細く白い一筆(いっぴつ)が入れられる。一筋の純白はすぐに消えてしまうが、違う位置から再び現れ、2本3本と増えていく。

あっという間に夜空を埋め尽くした光の雨は、今日(いだ)いた自身への嫌悪感(けんおかん)を洗い流してくれた。

 

最後の一粒が夜空に溶けても、しばらく紺碧を見つめていた自分は、ふと我に返って日菜の方を向いた。

ずっとこちらを見つめていたであろう彼女は、視線が交錯(こうさく)するや優しく微笑み、ベンチに転がっていたこちらの手を握る。

いつもは赤くなる場面でも、さっきの風景のおかげか、自然に握り返すことができた。

「・・・帰ろっか」

(なが)いようで一瞬の静寂(せいじゃく)(あいだ)翡翠(ひすい)色の瞳にこちらを映し続けた少女の呟きにゆっくり頷くと、結局出番のなかった望遠鏡を拾いつつ立ち上がる。

存在を忘れられていたことを抗議するかのような重量感を背に預けていると、日菜は少し残念そうな顔をした。

「結局それ、使わなかったね。せっかく使えるチャンスだったのになー」

学校から引っ張り出してきたと言っていた彼女がちぇー、と口をとんがらせる。

その様子に苦笑しつつ、また来ればいいと伝えると、日菜は意外そうに瞳を見開いた。

そんな彼女の手を急かすように引っ張り、行動とは真逆の遅鈍(ちどん)な足取りで(ふもと)へと歩き始めた。

ビックイベントが終わってある程度時間が経過していたからか、人気(ひとけ)の無い道を星を眺めながらたどる。

来たばかりに見たものよりずっと強く光って見える星々を見上げているうちに、いつもは話しかけてきそうな日菜が口を開きすらしないことに違和感を感じ、どうかしたのか訊ねると、彼女はほんのりと熱い手のひらをこちらの手に重ねながら、表情の全てを見せないようにそっぽを向きつつぼそりと呟いた。

「なんかいつもと雰囲気違うじゃん。望遠鏡のこととか絶対なんか言われると思ってたのに、調子狂っちゃうよ…」

確かに、いつもの自分なら小言のひとつでも口にすると思うが、そう指摘されても特に怒りや呆れは湧いてこない。

さっきの流星群の効力?本当にそれだけなのか、立ち止まり、自身に問いかけてみる。いつもなら言い逃れする本心は、誤魔化すことなく答えをくれた。

自身の心に深く刻まれたあの夜空は、彼女がいなかったら見れなかった。あの風景を見るきっかけをくれた感謝の念が、いつも以上に彼女に優しくしている理由なのだ。

その思考を流れるままに言葉として紡ぎ、最後に改めてお礼を口にする。それを聞いた彼女は突然手を離すと、真正面から抱きついてきた。いつもの勢いのついたハグではなく、()()うような抱擁(ほうよう)

落ち着いていた鼓動が、徐々に速くなるのを感じる。日菜の顔はこちらの胸に(うず)めているので見えないが、耳は鮮やかに赤みがかっていた。

「ずるいよ…そうやって不意打ちして…」

現在進行形で不意打ちしてきているそちらには言われたくない。そんな反論をしようとしても、口がぎこちなく開閉するだけだった。

思考を声にするのを諦めるのと、彼女が上目遣(うわめづか)いでこちらを見るのはほとんど同時で、からかい好きな彼女の顔は、今まで見たことないほど紅潮(こうちょう)していた。

「でもね、あたしは、カッコいい君も、優しい君も、恥ずかしがってる君も、全部好き。大好き…!」

振り絞るような告白をした彼女は、背に回している腕に力を込め、こちらの胸に顔を隠してしまう。

そんな彼女に、こちらも言うべきことがあった。星の加護(かご)は消え去ったし、心臓は張り裂けそうだが、これはむしろ、こっちのなんの力も借りていない素の自分で伝えるべき言葉だ。

溶接されたかのような喉から、最初に伝えた時と変わらぬ彼女への想いを告げる。たった一言、それを途切れ途切れになってしまっても、どうにかして繋げ終えると、日菜はばっとこちらを見つめ、続いて大きな笑顔を咲かせる。

散々と輝く太陽のような笑みが胸に満たしてくれた温もりは、流星群がもたらしたものと少し似ていたが、星の群れには感じなかった狂おしいほどの愛おしさを内包(ないほう)されていた。

その感情に突き動かされるまま、彼女の背に腕を回す。少し窮屈(きゅうくつ)に感じるほど抱き締められているはずの日菜は、「またそうやって…」と小さく文句を口にしたが、離れる素振りは見せなかった。

冬の寒さを感じさせない温かさを胸の中に収めながら、しばらくのあいだ、翡翠髪(ひすいがみ)の少女を抱き締め続けた。




こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は色々初めてのことに挑戦しています。Roselia以外のキャラを書いてみたり、主人公の性格を今までとは違う感じにしてみたり、暗い雰囲気を極力避けてみたりしましたが、成功していたかどうかは読者の皆様に委ねます。もしよければ感想などで教えてもらえると嬉しいです。
今回で3月の分の投稿は一区切り付けようと思っていますが、もしかしたら今月末に1話くらいなら上げられるかもしれません。気長に待ってもらえると助かります。
最後にこの作品に星9を付けてくれたグルッペン閣下さん、依空千夜さん(おかげさまで評価バーに色が…!)、お気に入り登録をしてくれた皆さん(久々に見たらすごく増えていてびっくりしました!)、感想を送ってくれたゆぎさん(執筆の励みになります!)、そして後書きまで全て読んでくれたあなたに感謝を!ありがとうございました!
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