もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら… 作:エノキノコ
穏やかな陽気と柔らかい風は季節の移り目と共に過ぎ去り、空気は水気を存分に吸い始めた。空は日を
こんな日に遊びに出かけようとするなど、普段の行動模範からはあり得ないのだが、今日は例え槍が降っても行かなければならない理由があった。
幸い天気予報は小雨を
道中少しだけ
奥に位置付けられた待ち合わせ場所である映画館の前には、落ち合う人物の姿は見られないので、映画館と隣の雑貨店を区切る白い
「あっ!おーい!!」
待ち人が訪れたことを
身長は150cmに少し届かず、紫の髪を左右に結んだ実年齢より
だが、服装があまりにも様変わりしている。普段は赤や黒を基調とし、チェーンなどの金属アクセが付いた服装を好んで着ているのだが、今日彼女が身に
「どうどう?似合ってる?」
その場でくるくる回る少女に頷き、言葉でも感想を伝えると、彼女は
「わわわっ!」
彼女は腕をバタバタさせてバランスを取ろうとするが、
見た目通り軽いなーと、
「むぅ…せっかくいい感じだったのに…」
尖った口から
「・・・デートは始まったばっかだし、まだチャンスはあるよね」
さっきまでの機嫌が嘘だったかのように彼女は表情に明るさを取り戻すと、こちらの手を取ってぐいぐいと引っ張った。
「早くチケット買いに行こっ!今日もあこが選んでいい?」
その提案に頷きで返すと、彼女は笑みを深めてお礼を言い、手を繋いだまま券売機へと向かってそのパネルを操作する。
映画館に来た時は、基本的に見る作品は彼女に
そんな
それは、超王道のファンタジーアニメの劇場版で、あこが大好きな作品なのだ。
彼女が作品を選択する画面をスクロールし、予想通りの名前をタップ…する寸前、不自然に指を宙に止める。
悩むように
実際あまり納得していなさそうな彼女に、アニメの方を見なくていいのか訊ねると、未練がべったり張り付いた顔で頷く。
「あ、あこだってアニメばっかじゃなくてこういう映画もみるもんっ!」
言葉の勢いのまま彼女は席を選び、こちらが財布を出す前に2人分のお金を機械に入れてしまう。
・・・まあ、本人がそう言うならこれ以上は水を差さないでおこう。
余計な口出しをしてしまったことと、チケット代を出させてしまったことに対するお詫びに、ジュースやポップコーンなどの出費をこちらで出し、同じ映画を見ようと並んでいるであろう人たちが作る列の最後尾に並ぶ。
入場の際にチケットを見たスタッフさんが驚いた顔をしつつ口頭で案内してくれた5番スクリーンの扉を開け、指定された席に座ると、まだ広告すら流れ始めていないにも関わらず、あこはキャラメル味のポップコーンを
幸せそうに目を細める彼女に、こちらも自然と口元が
「あこのキャラメルあげるから、そっちの塩も食べていい?」
その提案を快諾すると、彼女は「やった!」と左右の髪を揺らして喜んだ。
プラスチックで出来たふたを開けて容器の口ぎりぎりの中身を彼女が取りやすい位置に持っていく。ポップコーンをこれまた美味しそうに食べている
大音量で流れる広告映像にはあこを
飲み物を入れるために開けられている穴を意図通りに利用し、背もたれに寄りかかると、肘掛けに放置していた手に小さな温もりが重ねられた。
視線を振った先にいた少女は、暗闇で息を
普段映画を見る時とは違う心拍数の上昇に少しだけ戸惑いつつも、しっかりと小さい手を握り返し、本編を映し始めたスクリーンへと視線を戻した。
あまりこういうジャンルの映画は見ないのだが、冒頭はすんなりと頭に入ってきたので、この調子なら楽しめるかも—そう思っていたのだが…
中盤から年齢制限ギリギリを攻めているのか疑わしくなるほど登場人物の愛情表現が過激になり、見てるだけで恥ずかしくなってくる。
この演出を知っていてこの映画を選んだなら、自分の彼女は見た目と反してずいぶん進んでいるが、耳まで真っ赤な顔を見る限り、その可能性は低いだろう。
内容的にはおそらく半分を折り返したくらいなので、途中で退室するか彼女に訊ねたが、小さく首を振ってストローを
こちらはまだ中身は残っているので、
徐々に顔の赤みが薄れていく彼女の様子を見てとりあえずほっとひと息つきつつも、大々的に流れ続ける映像の過激さが落ち着いていくことを願わずにはいられなかった。
自身の願いは残念ながら届かず、あれからも同じように物語は続き、スタッフロールが流れてきた時には、彼女の顔はゆでだこのように真っ赤だった。
出口周辺が落ち着いてから席を立ち、とりあえず彼女の手を引く形でフードコートに流れ着くと、適当な席に座らせてからハンバーガーショップで照り焼きバーガーとポテト、ドリンクのセットを注文する。2つずつ頼んだそれを持って彼女の元へ戻り、ひとつを彼女の前に、もうひとつを自分の前に置いた。
いつものあこなら喜んでハンバーガーを頬張るのだが、今はちまちまとポテトを
どうすれば彼女をいつもの調子に戻せるか、喉に冷たい液体を流し込みながら考えていると、周囲の雑音に消えてしまいそうな声で彼女が呟いた。
「ほんとはこれ、見ようと思ってたの…」
剣のキーホルダーが付いたスマホの画面を見ると、そこには確かに映画館の壁にあったポスターと同じ画像が表示されていた。見たところ、ジャンルは青春ラブコメといったところか。
だとしてもさっきの映画とタイトルが似ているわけでもないので、選択し直せばよかったのではないかと思ったが、それを阻害したのは操作の途中で口を挟んだこちらだと気付く。
すぐさま謝罪の言葉を口にすると、彼女は首を思いっきり左右に振った。
「ち、違うの!ほんとに悪いのはあこで…」
そこまで言うとばっと両手で口を塞ぐ彼女にどういうことか訊ねると、彼女は赤色の瞳をわかりやすく泳がせたのち、
「だって君はあこのこと全然意識してくれないじゃん!だから頑張って女の子っぽくしようとしたのに…結局あんま変わんなかったし…そんなんじゃ、本当にあこのこと好きでいてくれてるか、自信なくなっちゃうよ…」
徐々に言葉が速度を落とし、それに
—出会った当初から、彼女は色々な表情を見せてくれた。それは日を重ねるごとに深く色鮮やかになり、いつしか、誰よりも近くでもっと彼女を見ていたいという感情が胸の中に芽生えていた。
だから、彼女が告白してきた時は嬉しかった。彼女も自分と一緒にいたい気持ちは同じなんだと、安心することができた。だが、自分は今の今まで好意を伝える言葉を口にしたことは一度もない。それがどれだけ彼女を不安にさせたか知らずにここまできてしまった。しかし、まだ間に合うはずだ。
小さな手を両手でしっかり包み込むと、見開いた瞳にこちらを映しながら「え…えっ、えっ!?」と
そこでようやく、ここがフードコートという第三者の視線に晒され放題な場所だったことを思い出した。
周囲の人たちはさっきの一部始終を見てカップルができたのかと、手を鳴らして盛大に祝ってくれているのだろうが、ただただ恥ずかしいので出来れば控えてほしい。
しかし、相手は善意でやっていることなので声を出して指摘することはできず、代わりに苦笑を滲ませていると、目の前の少女は顔を隠すように
それから拍手はすぐ止んだものの、この場にいると生温かい視線を受け続けてしまうので、自身の分を胃袋に詰め込んだあと、Sサイズのポテトをテイクアウトで購入する。
最初にセットを買った時より自然な笑みを浮かべた店員さんから袋を受け取ると、未だ突っ伏したままのあこの分を袋に入れ、俯く少女の手を取って席をあとにした。
とりあえずフードコートから距離を置こうとしたが、その前にあこがぼそりと呟く。
「今日はもう帰ろ…」
肉体的な疲れではなく、精神的な疲労が溜まってしまったのだろう。
そのまま近くの出口を跨ぐと、数量はそこまでないものの、しっかりとした
備えておいて正解だったと、こんな時のために用意していたものを取り出す。傘を開く間は気を利かせて離れてくれたあこは、こちらの腕に再びくっついた。
「・・・さっきの、ほんと?」
しばらく動かずに黙り込んでいた彼女は少し不安そうな瞳でこちらの顔を見上げ、小さな声で訊ねてくる。
さっきというのがフードコートで言った、場所に似つかぬ発言のことだと察し、安心させられるよう同じ内容を反復すると、顔に纏わりついていた暗い感情を拭いながら、彼女はなお問いかけてきた。
「ほんとにほんと?嘘じゃない?」
真紅の瞳をしっかり見つめ、強く頷くと、あこは今までの中でも一番輝いた笑顔を見せてくれた。
「うん!ずっと一緒だよ!」
腕と同化してしまいそうなくらい密着してくる少女が小さな傘でも濡れないように、こちらも身体を彼女の方へ寄せて歩く。
未だ灰色に染まった空の隙間から、一瞬だけ陽光がこちらを照らしたような気がした。
こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただきありがとうございます。
月末に投稿するかもと言いましたが、思ったより筆の進みが良かったので投稿しました。あこちゃんらしさが出ているかどうかはわかりませんが、楽しんでもらえたなら幸いです。
そして、謝罪…というよりかは自身の力不足への嘆きと言いますか…。この小説の投稿日である3月25日はパレオちゃんの、2日前の23日はりみちゃんの誕生日だったわけですが、彼女らメインの小説を一度は検討したものの、前回の日菜ちゃんと合わせると恐ろしいハードスケジュールになる関係で断念してしまいました…。来年リベンジを…と考えてはみたのですが、そこまでの期間で2人を上げてないのは、それはそれで執筆ペースに問題があるので何とか代案を考えているところです。
そして、投稿日のうちに活動報告の方でキャラのリクエストも募集しているはずですので、覗いていってもらえると嬉しいです。次回は31日〜4月最初の週辺りに投稿できたらと思っています。
最後に、星9を付けてくださったたく丸さん、弱い男さん(高い評価を裏切らないよう頑張ります!)、お気に入り登録をしてくださった皆さん(いつも割愛してしまってすみません…!)、そして、後書きを最後まで読んでくださったあなたに感謝の言葉を送ります!ありがとうございました!