もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら…   作:エノキノコ

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もしあこちゃんと付き合っていたら…

穏やかな陽気と柔らかい風は季節の移り目と共に過ぎ去り、空気は水気を存分に吸い始めた。空は日を(また)いで黒い雲を着込み、時々雨粒を(したた)らせる。

こんな日に遊びに出かけようとするなど、普段の行動模範からはあり得ないのだが、今日は例え槍が降っても行かなければならない理由があった。

幸い天気予報は小雨を所々(ところどころ)挟むだけで本降りはないと言っていたし、今日行く場所は天候に左右されないので問題はないのだが、一応バックに折りたたみ傘を(しの)ばせると、いつもより歩調を早めて家をあとにした。

 

道中少しだけ霧雨(きりさめ)に巻かれたが気にせず突っ切り、駅近くにあるショッピングモールに駆け込むと、そのまま小走りでさまざまな店が並ぶ通りを抜ける。

奥に位置付けられた待ち合わせ場所である映画館の前には、落ち合う人物の姿は見られないので、映画館と隣の雑貨店を区切る白い円柱(えんちゅう)に寄りかかり、今やっている映画のポスターをぼんやり眺めていると、弾むような声が人混みを飛び越えてこちらへと投げかけられた。

「あっ!おーい!!」

待ち人が訪れたことを(さと)り、ポスターから目を離して正面に視線を振る。そして、そこにいる人物を視界に入れた瞬間、驚きのあまり声を出してしまった。その声は周囲の喧噪(けんそう)(まぎ)れたが、湧き上がった驚愕(きょうがく)は消えることはなかった。

身長は150cmに少し届かず、紫の髪を左右に結んだ実年齢より2回(ふたまわ)りくらい幼い風貌(ふうぼう)をする少女は、今日一緒に映画を見ようと約束し、3ヶ月ほど前に顔を真っ赤にして告白してきた宇田川(うたがわ) あこで間違いない。

だが、服装があまりにも様変わりしている。普段は赤や黒を基調とし、チェーンなどの金属アクセが付いた服装を好んで着ているのだが、今日彼女が身に(まと)っている衣服には、光沢を放つ装飾品の(たぐい)は一切ない。代わりに緩やかなフリルやリボンがひらひらと揺れている。

「どうどう?似合ってる?」

その場でくるくる回る少女に頷き、言葉でも感想を伝えると、彼女は屈折(くっせつ)のない笑顔を浮かべてなお回転した。このままの流れで、なぜいつもと違う意匠(いしょう)の服を着ているのか訊ねてみようとしたが、疑問を言葉にする前にあこは足をもつれさせ、バランスを崩す。

「わわわっ!」

彼女は腕をバタバタさせてバランスを取ろうとするが、奮闘(ふんとう)(むな)しく身体は(かたむ)き始めるので、心の中で謝罪してから両手を彼女の脇に差し込んで持ち上げた。

見た目通り軽いなーと、逃避的(とうひてき)な感想を(いだ)きつつ、彼女を直立させてから手を引っ込めると、危なそうだったからという言い訳と共に今度はちゃんと声に出して謝罪したのだが、彼女はそれに対してなにも言わず、赤くなった(ほお)をむくれさせた。

「むぅ…せっかくいい感じだったのに…」

尖った口から(こぼ)れた(つぶや)きに首を(かし)げていると、あこは恨めしげに上目遣いでこちらを見上げてくる。しかし、幼い見た目のせいで迫力に欠ける彼女が今の格好で怒っていても、可愛らしさが際立(きわだ)つだけだった。苦笑するこちらの耳に、あこは再び謎の独り言を小さく口にする。

「・・・デートは始まったばっかだし、まだチャンスはあるよね」

さっきまでの機嫌が嘘だったかのように彼女は表情に明るさを取り戻すと、こちらの手を取ってぐいぐいと引っ張った。

「早くチケット買いに行こっ!今日もあこが選んでいい?」

その提案に頷きで返すと、彼女は笑みを深めてお礼を言い、手を繋いだまま券売機へと向かってそのパネルを操作する。

映画館に来た時は、基本的に見る作品は彼女に(ゆだ)ねていて、自分で選ぶことはほとんどない。それゆえに彼女の好みもある程度わかってきていて、アニメやアクション系の映画を好んでいることを知った。

そんな(ふるい)にかけても複数の映画が残るので、いつもは直前までなにを見るのかわからないのだが、しかし、今日だけはどの作品を見るのかを、その作品の宣伝ポスターを待ち時間で発見した瞬間に察した。

それは、超王道のファンタジーアニメの劇場版で、あこが大好きな作品なのだ。

彼女が作品を選択する画面をスクロールし、予想通りの名前をタップ…する寸前、不自然に指を宙に止める。

悩むように(うな)る姿が心配になってきたが、やがて彼女はツインテールをぶんぶん左右に振り回すと、アニメの名前よりひとつ上のタイトルを選択した。ポスターで見た限り恋愛ものぽかったが、あの作品を押しやってまで彼女が見たいものとは思えない。

実際あまり納得していなさそうな彼女に、アニメの方を見なくていいのか訊ねると、未練がべったり張り付いた顔で頷く。

「あ、あこだってアニメばっかじゃなくてこういう映画もみるもんっ!」

言葉の勢いのまま彼女は席を選び、こちらが財布を出す前に2人分のお金を機械に入れてしまう。

・・・まあ、本人がそう言うならこれ以上は水を差さないでおこう。

余計な口出しをしてしまったことと、チケット代を出させてしまったことに対するお詫びに、ジュースやポップコーンなどの出費をこちらで出し、同じ映画を見ようと並んでいるであろう人たちが作る列の最後尾に並ぶ。

入場の際にチケットを見たスタッフさんが驚いた顔をしつつ口頭で案内してくれた5番スクリーンの扉を開け、指定された席に座ると、まだ広告すら流れ始めていないにも関わらず、あこはキャラメル味のポップコーンを(つま)んでいた。

幸せそうに目を細める彼女に、こちらも自然と口元が(ゆる)む。胸に広がる温かさを感じながらその横顔をじっと見つめていると、流石に視線に気づいたらしく、彼女はこちらと視線を交錯(こうさく)させたのち、もう2割ほど食べてしまっている容器をこちらに差し出す。

「あこのキャラメルあげるから、そっちの塩も食べていい?」

その提案を快諾すると、彼女は「やった!」と左右の髪を揺らして喜んだ。

プラスチックで出来たふたを開けて容器の口ぎりぎりの中身を彼女が取りやすい位置に持っていく。ポップコーンをこれまた美味しそうに食べている微笑(ほほえ)ましい様子をただ見ているうちに、いつのまにか周囲の明度(めいど)が低くなっていた。

大音量で流れる広告映像にはあこを葛藤(かっとう)させたアニメのものもあり、未練がましくスクリーンを眺める彼女に苦笑いしつつ、ストローで冷たい液体を吸い出していると、ちょうど全ての広告が流れ終わったらしく、暗闇に静寂が染み出していく。

飲み物を入れるために開けられている穴を意図通りに利用し、背もたれに寄りかかると、肘掛けに放置していた手に小さな温もりが重ねられた。

視線を振った先にいた少女は、暗闇で息を(ひそ)めた頬の朱色(しゅいろ)がやけに色っぽく見え、いつもの純粋な笑顔ではなく、小悪魔のような笑みを浮かべている。

普段映画を見る時とは違う心拍数の上昇に少しだけ戸惑いつつも、しっかりと小さい手を握り返し、本編を映し始めたスクリーンへと視線を戻した。

あまりこういうジャンルの映画は見ないのだが、冒頭はすんなりと頭に入ってきたので、この調子なら楽しめるかも—そう思っていたのだが…

中盤から年齢制限ギリギリを攻めているのか疑わしくなるほど登場人物の愛情表現が過激になり、見てるだけで恥ずかしくなってくる。

この演出を知っていてこの映画を選んだなら、自分の彼女は見た目と反してずいぶん進んでいるが、耳まで真っ赤な顔を見る限り、その可能性は低いだろう。

内容的にはおそらく半分を折り返したくらいなので、途中で退室するか彼女に訊ねたが、小さく首を振ってストローを(くわ)えた。しかし、すでに中身は氷だけなのか、少し大きな音が響くのみだった。

こちらはまだ中身は残っているので、(いま)だ中身を吸い出そうとしている彼女にこっちも飲んでいいと小声で(うなが)すと、なぜか迷う素振りを見せたが、自身の身体に回る熱には敵わなかったのか、こちらの飲み物を手に取る。

徐々に顔の赤みが薄れていく彼女の様子を見てとりあえずほっとひと息つきつつも、大々的に流れ続ける映像の過激さが落ち着いていくことを願わずにはいられなかった。

 

自身の願いは残念ながら届かず、あれからも同じように物語は続き、スタッフロールが流れてきた時には、彼女の顔はゆでだこのように真っ赤だった。

出口周辺が落ち着いてから席を立ち、とりあえず彼女の手を引く形でフードコートに流れ着くと、適当な席に座らせてからハンバーガーショップで照り焼きバーガーとポテト、ドリンクのセットを注文する。2つずつ頼んだそれを持って彼女の元へ戻り、ひとつを彼女の前に、もうひとつを自分の前に置いた。

いつものあこなら喜んでハンバーガーを頬張るのだが、今はちまちまとポテトを(かじ)っているのみで、笑顔ひとつ見せてくれない。

どうすれば彼女をいつもの調子に戻せるか、喉に冷たい液体を流し込みながら考えていると、周囲の雑音に消えてしまいそうな声で彼女が呟いた。

「ほんとはこれ、見ようと思ってたの…」

剣のキーホルダーが付いたスマホの画面を見ると、そこには確かに映画館の壁にあったポスターと同じ画像が表示されていた。見たところ、ジャンルは青春ラブコメといったところか。

だとしてもさっきの映画とタイトルが似ているわけでもないので、選択し直せばよかったのではないかと思ったが、それを阻害したのは操作の途中で口を挟んだこちらだと気付く。

すぐさま謝罪の言葉を口にすると、彼女は首を思いっきり左右に振った。

「ち、違うの!ほんとに悪いのはあこで…」

そこまで言うとばっと両手で口を塞ぐ彼女にどういうことか訊ねると、彼女は赤色の瞳をわかりやすく泳がせたのち、自棄(やけ)気味に口を開く。

「だって君はあこのこと全然意識してくれないじゃん!だから頑張って女の子っぽくしようとしたのに…結局あんま変わんなかったし…そんなんじゃ、本当にあこのこと好きでいてくれてるか、自信なくなっちゃうよ…」

徐々に言葉が速度を落とし、それに付随(ふずい)させて視線も下に向ける彼女の告白に、彼女にそんな心配をさせてしまった自身の不甲斐無(ふがいな)さに、(くちびる)を強く()()めた。しかし、悔恨(かいこん)(ひた)る前に自分にはやるべきことがある。

—出会った当初から、彼女は色々な表情を見せてくれた。それは日を重ねるごとに深く色鮮やかになり、いつしか、誰よりも近くでもっと彼女を見ていたいという感情が胸の中に芽生えていた。

だから、彼女が告白してきた時は嬉しかった。彼女も自分と一緒にいたい気持ちは同じなんだと、安心することができた。だが、自分は今の今まで好意を伝える言葉を口にしたことは一度もない。それがどれだけ彼女を不安にさせたか知らずにここまできてしまった。しかし、まだ間に合うはずだ。

小さな手を両手でしっかり包み込むと、見開いた瞳にこちらを映しながら「え…えっ、えっ!?」と一音(いちおん)を連発する彼女に構わず、好きだ、ずっと一緒にいたいと、躊躇(ためら)いなく口にする。

(いつわ)らざる本心を赤い耳に入れたあこは、やがて小さく頷いた。それがなにを意味するものなのか、こちらが察する前に、突然の拍手にびくりと身体が反応する。

そこでようやく、ここがフードコートという第三者の視線に晒され放題な場所だったことを思い出した。

周囲の人たちはさっきの一部始終を見てカップルができたのかと、手を鳴らして盛大に祝ってくれているのだろうが、ただただ恥ずかしいので出来れば控えてほしい。

しかし、相手は善意でやっていることなので声を出して指摘することはできず、代わりに苦笑を滲ませていると、目の前の少女は顔を隠すように(うつぶ)した。

 

それから拍手はすぐ止んだものの、この場にいると生温かい視線を受け続けてしまうので、自身の分を胃袋に詰め込んだあと、Sサイズのポテトをテイクアウトで購入する。

最初にセットを買った時より自然な笑みを浮かべた店員さんから袋を受け取ると、未だ突っ伏したままのあこの分を袋に入れ、俯く少女の手を取って席をあとにした。

とりあえずフードコートから距離を置こうとしたが、その前にあこがぼそりと呟く。

「今日はもう帰ろ…」

肉体的な疲れではなく、精神的な疲労が溜まってしまったのだろう。疲労困憊(ひろうこんぱい)と言った様子の少女に優しく笑いかけて頷いたこちらに、彼女は自身の身を預けるように腕に密着してくる。

そのまま近くの出口を跨ぐと、数量はそこまでないものの、しっかりとした(しずく)黒雲(こくうん)から降り注がれていた。

備えておいて正解だったと、こんな時のために用意していたものを取り出す。傘を開く間は気を利かせて離れてくれたあこは、こちらの腕に再びくっついた。

「・・・さっきの、ほんと?」

しばらく動かずに黙り込んでいた彼女は少し不安そうな瞳でこちらの顔を見上げ、小さな声で訊ねてくる。

さっきというのがフードコートで言った、場所に似つかぬ発言のことだと察し、安心させられるよう同じ内容を反復すると、顔に纏わりついていた暗い感情を拭いながら、彼女はなお問いかけてきた。

「ほんとにほんと?嘘じゃない?」

真紅の瞳をしっかり見つめ、強く頷くと、あこは今までの中でも一番輝いた笑顔を見せてくれた。

「うん!ずっと一緒だよ!」

腕と同化してしまいそうなくらい密着してくる少女が小さな傘でも濡れないように、こちらも身体を彼女の方へ寄せて歩く。

未だ灰色に染まった空の隙間から、一瞬だけ陽光がこちらを照らしたような気がした。




こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただきありがとうございます。
月末に投稿するかもと言いましたが、思ったより筆の進みが良かったので投稿しました。あこちゃんらしさが出ているかどうかはわかりませんが、楽しんでもらえたなら幸いです。
そして、謝罪…というよりかは自身の力不足への嘆きと言いますか…。この小説の投稿日である3月25日はパレオちゃんの、2日前の23日はりみちゃんの誕生日だったわけですが、彼女らメインの小説を一度は検討したものの、前回の日菜ちゃんと合わせると恐ろしいハードスケジュールになる関係で断念してしまいました…。来年リベンジを…と考えてはみたのですが、そこまでの期間で2人を上げてないのは、それはそれで執筆ペースに問題があるので何とか代案を考えているところです。
そして、投稿日のうちに活動報告の方でキャラのリクエストも募集しているはずですので、覗いていってもらえると嬉しいです。次回は31日〜4月最初の週辺りに投稿できたらと思っています。
最後に、星9を付けてくださったたく丸さん、弱い男さん(高い評価を裏切らないよう頑張ります!)、お気に入り登録をしてくださった皆さん(いつも割愛してしまってすみません…!)、そして、後書きを最後まで読んでくださったあなたに感謝の言葉を送ります!ありがとうございました!

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