もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら… 作:エノキノコ
年を越してからそれなりの月日が経った頃、昼間でも充分に強力だった冷気が陽の光から解放されたことによりさらに鋭く研ぎ澄まされ、こちらの熱を奪おうと窓の隙間から侵入しようとしてくる。
それを全開の暖房で
画面には今やほとんどの人が使っているメッセージアプリのトーク履歴が映り、短い文章やスタンプが積み重なっている。最下段は[明日、予定ある?]というこちらの発言から変化しておらず、まだ気付いていないだけという
画面の右上に表記された[
倉田さんは、1週間前に告白した女の子だ。出会った頃は常に周囲に怯えているような子で、守ってあげなきゃいけない印象が強かった。
でも、ここ最近でみるみる強くなっていく彼女を間近で見続けているうちに、押し付けがましく
そして、
・・・別れるなら、この想いを伝えてからにしよう。そう決心してからは早かった。
彼女から空いた時間を聞き出し、人生で一番長く感じた時間を過ごして訪れた約束の日、オレンジで染め上げられた無人の公園で半ば
どうせ失恋するだろうと、
まるで予期していなかった結果に思考が完全にフリーズしてしまい、まるで会話がないまま彼女を家に送り届けたものの、どうすればいいのかまるでわからなかったことと、2人の予定が合わなかったこともあり、一度も会う機会がないまま1週間経ってしまった。
さすがにこれじゃマズいと、それとなくデートの約束を取り付けようとしたのだが、人類の
今倉田さんは、どう断るか考えているのだろうか。彼女は優しいから、こちらを傷付けまいと頭を悩ましているに違いない。
そんな思考が頭をよぎり、彼女に助け舟を出そうとしたその時、音もなく画面の一番下に文章が追加される。
[大丈夫、空いてるよ]
たった一言で落ちていた気分がV字回復していくのをはっきりと感じながら、明日の10時頃に駅前で落ち合おうと約束する。
[楽しみにしてるね]という最後の一文で限界まで引き上げられた
そして次の日、あっさり寝坊した。
休みの日はアラームをかけない自身の
近くに倉田さんの家があることを考えられるほどには落ち着いてきたところで、ハッとしてスマホを取り出した。ロック画面に設定された、青みがかった白色の髪の少女とのツーショット写真に奪われそうになる視線をどうにかして時刻へと向ける。4つの数字の羅列は、約束の時間を30分以上過ぎていることを
揺れが止まり、ドアの開閉音が車内に響くなか、メッセージアプリを開いて倉田さんに遅れる
まさかと思い画面から視線を引き剥がし、見上げた先には、もう駅前でこちらを待っているはずの少女が、驚いた様子でこちらを見ていた。
なぜここにいるのか
「実は、昨日夜更かししちゃって…。昨日誘ってくれたから、早く寝れるよう頑張ったんだけど…」
「そっか…なんか嬉しいな」
そう
このままでは言葉を
「そういえば、なんで夜遅くまで起きてたの?」
デートの計画を誘ったその夜に考えていたという、無計画なことこの上ない事実を伝えるかどうか悩んだが、
「っ!?そ、そっか・・・デート、なんだ」
顔の色度を急激に上昇させた彼女は、えへへと短く笑った。
デートだと思われていなかったのは少し
胸を満たす温かな気持ちが冷める前に、終点の駅前が窓の外から見え、同時に機械めいた女性の声が到着を予告する。車体が止まった瞬間、列を作って下車していく集団の最後列に位置取ってレンガ造りの地面を踏んだ。
「じゃあ、どこ行こっか」
自分より先に出ていた彼女はどこか弾んだ声で行き先を
黒い
ドアと同じ素材で出来たカウンター席の奥にある棚にはボトルが綺麗に並べられていて、未成年が入っていい場所か不安になるが、グラスを拭く女性が好きな場所に座るのを勧めてくるので問題無い…はず。
ネットで下調べをしたのだから平気なことはわかってはいるものの、それでも入口近くにある4人掛けのテーブルに遠慮気味に座ると、隣に座った倉田さんがしばらく店員さんをぼーっと見たのち、
「・・・すごいきれいな人だね…」
そのコメントに全面的に肯定の意を示してから、彼女の視線を追う形で店員さんの方を向く。
大人っぽさを
そんな
声をかけると我に返ったように店員さんから視線を外した倉田さんは、メニューにビーフシチューの名前を見つけると、パアッと表情を明るめた。そんな彼女を見ると、嬉しくなると同時に血の巡りが少しだけ早くなる。
本当に好きなんだなと思いながら、メニュー表の上部分を大きく占拠しているこのお店の看板メニューであるスペアリブを頼むことを決めると、そんな思考を読んでいたかのように、店員さんはカウンターの向こうからお
途端に表情を強張らせる倉田さんの分もまとめてしたこちらの注文を、女性はきれいに反復したあと
「ごめんね、私の分まで頼んでもらっちゃって」
気にしてないとかぶりを振ったが、彼女は鏡写しのように髪を左右に揺らす。
「ううん、私はあなたに助けてもらってばかりだから、少しでもそれを減らして、今度はあなたに返していきたいの」
まっすぐにこちらを見て笑う彼女に
しかし、それを知ったあとに浴びせられるであろう彼女の
喉の奥まで出掛けていた
あっという間に骨だけになった皿を一瞥してから、満足感で満ちたため息をつくと、同じような意味が含められた吐息と重なった。
「美味しかったね…」
そう呟いた彼女の手元にある
それもそのはず、今日ここのお店を選んだ理由は、彼女の好物であるビーフシチューに、他のお店では大なり小なり存在する彼女が苦手とする野菜類が写真で見た限りでは確認できなかったからなのだ。
いつも残すことに罪悪感を感じている彼女に
周囲を見回してもレジっぽいものは見つけられないので、もしかしたら会計かもしれないと、ポケットから財布を取り出そうとしたが、その前に女性はテーブルに、二等辺三角形に切り分けられたチーズケーキと赤と紫のベリー系フルーツが
注文した
財布の心配をせずに済んで胸を撫で下ろしつつ、コックさんの分も合わせてお礼を口にすると、
今日は他にも回ってみたい場所があったが、ここまでサービスされたのにパッパッと移動するのもどうかと思うので、倉田さんにこれからどうするか委ねると、彼女は迷うように視線を
「えっと…あなたが退屈じゃなかったら、ここでお話ししたいな」
その提案に
それから、タルトを食べながら
ケーキは確かに絶品だったのに、酸味だけがやけに強く口の中に残った。それを喉越しのいいコーヒー風味の生クリーム、カフェ・シェケラートと言うらしい飲み物で消そうとすると、今度は
結局彼女の話を半分も意識に残せないで時間が過ぎ、会計の時にまた来てねと微笑む店員さんに気の抜けた返しをして店の外に出ると、オレンジと
彼女がなにかに夢中になっている時のみ見せる、
彼女は少ししてからこちらに気付き、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ご、ごめんね。私が財布忘れちゃったせいで全部払わせちゃって…」
平気だと伝えても、彼女の表情は晴れない。実際払ったのはスペアリブとビーフシチューの分のみなので、これくらいなんの問題もないのだが、彼女が気にしているのは金額の方ではあるまい。彼女はこちらに支払わせたこと自体に負い目を感じているのだ。
どうすれば彼女のそれを消せるか考えていると、方法を思いつく前に彼女が苦笑いを浮かべる。
「これじゃあ、いつになったら恩を返せるようになるかわからないね」
・・・違う、返すべき立場なのはこちらだ。
喉を
そんな彼女に、いつも通り
— ・・・恩なんて感じなくていい、ただ助けたいだけだから—
その言葉に、彼女は顔に
バスに乗り込み、彼女が乗ってきた停留所で2人で降りたあとも、会話らしい会話はなかった。
終わりのない
後方を映した視界には、こちらの手を握った少女が、そのスカイブルーの瞳に強い意志を
「・・・私、頑張るね。早くあなたを助けられるよう、頑張るから。・・・だから…えっと…」
言葉の勢いを急減速させた彼女は続く言葉を探し始めるが、それでも握る力を緩めない彼女の手からこちらの手に流れ込んでくる温もりだけで、自分は充分過ぎるほど救われていた。
逆の方の手も持ち上げて彼女の手の甲に触れると、少し冷えた白い手をぎゅっと握る。
今日までのあらゆる場面で、助けているつもりが本当は助けられていた少女に、ありがとうと、胸に湧き上がる感謝の念を言葉にして伝えると、彼女は湯気が出そうなくらい真っ赤になりながらあわあわし始め、やがてプシューという音が鳴っていそうな様子で下を向いて顔を隠した。
彼女の手が発する熱が増加すると同時に、さっき胸を満たしていた自己嫌悪も溶けて沈んでいく。いつか、もしかしたら近いうちにまた顔を出す時が訪れても、彼女が隣にいてくれるのなら大丈夫に思えた。
そして、今までの分とこれからの分、彼女に助けてもらった以上に、自身のためではなく彼女のために倉田さんを助けることを心に強く決めてから手を離すと、彼女はいつになく
今更熱くなる頬を冷たい夜風が撫でる。いつのまにか浮き上がってきていたいくつかの星と
こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただきありがとうございます。
先日初めてリクエストをいただいて、減少気味から一気に跳ね上がったモチベーションをリクエスト作品に注ぎたいと思い、書きかけを放り出して執筆しました。
そんな今回のお話なんですが、過去最大レベルで(といってもまだ6話目なんですが)暗い&恋愛要素が薄い回になってしまいました…。誠に申し訳ございません!ただ、あらすじにもあるように、この作品は作者の妄想を書き綴ったものでして、そして作者は一度は暗くなるけど最後はハッピーエンドみたいな構成が大好きっぽいです。いままでの5話も、上下の振り幅には差がありますが、大体がそんな構成で出来ていることに最近気付きました。しかし、リクエスト回でこんな重い話をするなと言われてしまえば返す言葉もありません…。本当にごめんなさい…!
次の投稿は4月6日の予定です。後書きを書いている今現在ではヒロインくらいしか決まっていないので、間に合うかはわかりませんが、なんとか間に合うように頑張ります!
そして最後に、お気に入り登録をしてくださった皆さん(たくさんの方々にしてもらえて嬉しい限りです!)、リクエストを送ってくださったラウ・ル・クルーゼさん(おかげさまでまた頑張れそうです!)、そして、後書きまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!!