もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら…   作:エノキノコ

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遅刻してすみません!千聖さん誕生日記念です!


もし千聖さんと付き合っていたら…

のしかかるような暑さは最近徐々に重量を下げていったが、日中は充分と汗が肌を(つた)う。しかし、陽が沈んだあとは冷たく心地よい風がこちらを包んでくれていた。

未だ緑が多いものの、着々に黄色や赤の割合を増やしている周囲の樹々(きぎ)に新たな季節の訪れをまざまざと感じつつ、行き交う人や車の雑音の隙間から(こぼ)れてくる枝葉が揺れる音を拾いながら街路を進むと、駅前にてごった返した集団に巻き込まれる。

ここからある1人を探し当てなくてはならないのは普通なら至難(しなん)の技だが、ある種の誘引力(ゆういんりょく)に導かれるまま動かした視線に、金色の(きら)めきが飛び込んだ。

改札近くの壁に寄りかかり、群衆をどこか(さび)しそうに眺めている少女に人の流れをかき分けて近づくと、少女は微笑(びしょう)と共に軽く手を振ってくれる。赤紫(あかむらさき)色の瞳を揺れていた(うす)い感情は、幻のように(まばた)きひとつで消滅していた。

少女がちらつかせた感情が見間違(みまちが)いだったことを願いつつ、待たせてしまったか(たず)ねるこちらに、小柄ながらもどこか大人びた雰囲気を持つ女性、白鷺(しらさぎ) 千聖(ちさと)は背中に流した金色の長髪(ちょうはつ)を小さく左右に振った。

「大丈夫、私も今来たところだから」

一見気遣いに聞こえるが、以前5分遅刻して小言を(かさ)ねられた経験がただ真実を口にしているだけだと裏付けてくれる。それに、彼女は今をときめくアイドル(けん)10年以上のキャリアがある人気女優なので、こんな大勢の中で長時間バレないのは難しいだろう。

そこまで考えたところでなにか引っかかるものを感じたが、その正体が明らかになる前に彼女が華奢(きゃしゃ)な白い手を差し出してくるので、とりあえず疑問を(たな)に上げて彼女の手を取った。夜風で少し冷たくなっている手のひらに、少しでも温度を分けて上げたいと、細い指の隙間(すきま)に自身の指を(すべ)り込ませる。

こちらを追いかけるように手に込める力を強めた彼女は、今日初めて湿(しめ)った感情を晴らした顔に笑顔を咲かせてくれた。胸の動悸(どうき)が浮き上がってくるのを意識しながら、星が(かす)んでしまうほどの光と息苦しさを感じるほどの人々が()()う街を、1人の少女と肩を並べて歩き始めた。

 

彼女に行き先を(ゆだ)ねて足を動かしていくと、人口密度と明度(めいど)は徐々に減少傾向(けいこう)にありつつあった。立ち並ぶ店々(みせみせ)が照明を落としているので、当然と言えば当然なのだが、同時に彼女がどこに向かおうとしているのか心配になってくる。

そんな思慮を置き去りにして半歩先を行く彼女の迷いのない足取りが止まったのは、長方形のガラスを白い木で縁取(ふちど)ったドアの前だった。ガラスの向こうからは作られた光が通り抜けてくるが、[CLOSE]という掛け札が人の立ち入りを(はば)んでいる。

なぜここで足を止めたのか訊ねても、彼女は口元に(ほの)かな笑みを浮かべるのみで、意図が分からず首を(かし)げてしまうこちらを見て笑みを深めた彼女は、()んだ高さの鈴の()を響かせてドアを開け、中に入っていった。

金色の髪が反射した光の残滓(ざんし)を追いかけるべきか、そんな悩みは(つな)がれた手の引力に流され、店内に()()り込まれてしまう。追い出されると思い強張ったこちらを、なぜか店員さんは笑顔で席へ案内してくれた。

予期していたものとは真逆の対応に戸惑ってしまっている様子を見た彼女は、耐えられないかのようにくすくす笑い声を(こぼ)してしまう。

「安心して、ちゃんとお店に話はつけてあるから」

その言葉にようやく緊張が解けていくのを感じつつ、なぜ教えてくれなかったのか、ささやかな講義をしたところ、慌てる(さま)を見てみたかったからと、向かい合った位置に座る少女は表情を変えずに答える。

(とし)相応の女の子らしく笑う彼女を見ると、いつもならドギマギしてしまうのだが、今回はまんまと()められた悔しさが混ざって複雑な気分だった。

「ほら、そんな顔しないで。好きなもの頼んでいいから」

その発言にとりあえず胸の気持ちを押しやって、勘定(かんじょう)はこっちが持つと言ったのだが、彼女は即座にかぶりを振った。

「いいえ、こんな時間に無理言って呼び出したのは私なんだから、そのお()びくらいさせてちょうだい」

いつもと同じ微笑(ほほえ)みのはずなのに、どこか無理して笑っているように感じる彼女に向かって右手を伸ばすと、前髪の奥にある(ひたい)を人差し指でつついた。彼女は笑顔を崩し、驚愕(きょうがく)の色がまじまじと見られる瞳を少し大きめに開いている。

彼女が多忙(たぼう)ゆえに日中に時間が取れないことなど付き合う前から重々承知しているし、それでもなお時間を作ってくれる彼女にお礼こそあれど詫びてもらう必要はない。さらに言ってしまえば、時間などいつだっていいのだ。自分は、彼女と少しでも一緒にいれればそれでいいのだから。

そんな口にするのが大変恥ずかしい思想を聞いた彼女は、しばらくのあいだ表情が変えずに固まってしまう。

本心を告げた羞恥心(しゅうちしん)が徐々に、勢いで変なことを口走ってしまった後悔によって上書きされていく静寂(せいじゃく)を破ったのは、目の前の少女の呆れた声だった。

「あなたってたまにそういうキザなことを言うわよね。・・・もしかして、狙って言ってるのかしら」

浮ついた言葉を意図して口にしている(やから)だと認識されるのは絶対に嫌なので、全力で首を左右に振って必死に否定するこちらの様子に彼女は短く笑みを(こぼ)す。

「わかってるわよ、ただ、ちょっとからかってみたくなっただけ」

遅まきながら、またしてもしてやられたことを認識し、この手のやりとりでは彼女には敵わないという、何度したかわからない確信と共にテーブルに沈み込む。

そんなこちらに彼女が向けてきた笑顔は、一緒に差し出してきたメニュー表で顔を隠すことを強要させた。

 

注文してから十分足らずで、店員さんが同じケーキと紅茶をふたつずつ、テーブルに並べてくれた。

店員さんに一礼してから優雅(ゆうが)にティーカップに口を付ける彼女の姿は実に様になっていて、思わず吸い取られていきそうな視線をどうにかしてケーキへとフォーカスする。

長く考えたが熱に冒された頭では中々決められず、千聖と一緒のものを頼む形で運ばれてきたケーキは、生クリームを塗られたスポンジの(あいだ)に色とりどりの果物が挟まれ、混じり気のない純白の最上段にも彩りを与えている。

三角形に切られたケーキの半分ほどにフォークを落とし込むと、(わず)かな反発感と共に分断された2つのうち、三角の頂点だった方を頬張(ほおば)った。クリームは甘さが控えめに抑えられていて、フルーツの味が阻害されずに舌に伝わってくる。

続いて飲んだ紅茶が甘さの余韻(よいん)をゆっくり溶かしていくのを感じつつ、このふたつの組み合わせを作った眼前の少女のセンスを素直に賞賛(しょうさん)していると、少女は僅かにはにかむ。

「そんな大袈裟(おおげさ)に言うほどじゃないわよ。・・・でも、そんなふうに言ってくれると、店長さんに頼んだ甲斐(かい)があったわ」

彼女がなにを頼んだかは、少し考えればすぐに思い当たった。閉店した喫茶店でお茶できているのは、彼女が事前に話をつけてくれたおかげなのだ。

店長の人と交渉してまでここに案内してくれた彼女にお礼を口にすると、彼女は首を左右に振る。

「お礼なんていいわよ。私、ここの常連だから結構顔が()くの」

そう言う彼女の声は、少し、ほんの少しだけ沈んだ感情が含まれてる気がした。それを裏付けるように、笑顔にも薄い(きり)がかかっている。

そんな(さび)しそうな少女の手を、気付いたら握っていた。驚く彼女に、なにかあったか訊ねると、()を置いてから千聖は大きく息を吐き出す。

「・・・あなたに、隠し事はできないわね。・・・大したことじゃないのよ、ただ、女優の肩書きを外した私に、価値があるのか考えちゃう時があるの」

隠していた感情を徐々にあらわにしていった彼女は、瞳を伏せながら続ける。

「今ここでお茶できてるのも、私が女優だからこそなんだと思うの。それに、あなたが私を好きになったのも…」

その先の言葉を察して、すぐさま否定の声で続きを遮った。

確かに、女優の彼女は魅力的だ。手を伸ばしても絶対に届かない場所で見せる彼女の微笑みは、雑味(ざつみ)ひとつ含まれていない純白のような美しさがある。それが自身の彼女への好意に影響していないと言うことは、断言することはできない。

しかし、様々な色を混ぜながら隣で咲く笑顔が一番好きなのは、なんの迷いもなく断言できる。後者が、決して前者に劣るものではないことも。

でもおそらく、揺れる(かな)しげな瞳は言葉だけじゃ光を取り戻すことができない。だから—

「でも、私は…んっ!?」

なにか言おうとした(くちびる)を、こちらの口で(ふさ)ぐ。クリームよりずっとずっと甘い一瞬の触れ合いを終えたあと、白い肌を赤く染め上げた少女の名前を呼び、胸の内を凝縮(ぎょうしゅく)したひと言を投げかける。

彼女は小さくお礼を(つぶや)き、顔を隠すように右手を持ち上げた。

 

それから、残ったケーキと紅茶を食べ終え、店を出て駅へと向かう間、千聖と言葉どころか視線すら交わらなかった。理由は間違いなくあの出来事だというのは、事後から今現在まで流れている気まずい空気からも明らかなのだが、空気が変わってから襲いかかってきた羞恥心の対処のせいで、謝罪する余裕など残っていなかった。

悶々(もんもん)とした状態で駅まで着いてしまい、どうするか悩みながらもICカードをタッチして改札を通る。彼女の家の位置からして、使う路線が違うのでここで別れようとしたこちらの手がなんの合図もなく握られた。

「ねえ…一緒に帰りましょう…?」

すごく久しぶりに聞いた気がする彼女の声は、いつもの毅然(きぜん)とした声質ではなく、雑多にかき消されてしまいそうなほどか細いものだった。さっきの(くだり)でまともな思考ができなくなっている頭がさらに熱を上昇させ、特に理由を訊くこともせず首を上下に動かす。

「じゃあ、お願いね」

手の繋がりをぎゅっと強める彼女の顔が直視できないまま、右手に伝わる温度や柔らかさに耐えつつ、彼女の家の方面の電車に乗り込んだ。

しかし、帰宅時間と多少被っていたのか、小さい間隔(かんかく)で人が()()められた車内では、結果として彼女と密着してしまう。

こうなった以上電車から降りる前には謝罪できたらと思っていたが、半ば抱きつかれるような体勢では、謝るどころか心臓が飛び跳ねるのを(なだ)めるので手一杯になっているうちに、もう彼女が下車する駅に着いてしまいそうになってしまった。

次いつ会えるかわからないので、せめて謝罪だけはしておこうとこちらが口を開く前に、赤紫の瞳がこちらを見上げてくる。

「さっきはありがとう。ちょっと驚いたけれど、本当に嬉しかったわ」

上目遣いにドキッとしてしまうこちらに、頬にまだ朱色(しゅいろ)を宿らせた彼女は周囲に聞こえない声で(ささや)き始める。揺れが(ゆる)やかに収まっていくなか、彼女は続けた。

「でもあれ、私のファーストキスだったのよ。もう少しロマンチックなムードでしたかったわ」

残念そうに呟く彼女に周囲に聞こえないぎりぎりの声量で謝ったものの、彼女は表情を明るめてくれない。

どうしようか悩んでるうちに電車が止まり、ドアが開くので、外に流れる人々に合流するため、彼女はこちらから離れる—

寸前に、彼女と顔を合わせる関係上(うつむ)き気味だった顔が引き寄せられ、唇に再び柔らかい感触が、今度は強く押しつけられる。

接触を終えてもまっさらなままの思考に、彼女が甘い言葉を一滴(いってき)垂らした。

「これで許してあげる。・・・私も大好きよ」

()(だこ)のように赤くなってるであろうこちらにいたずらに微笑んだ彼女が出て行ったあとに、ドアが閉まってやや強い揺れが起きる。

それによって転びかけたものの、意識は未だ唇に残る彼女の熱に持っていかれていた。




こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を読んでいただきありがとうございます。
今回は普段よりかなり短く、さらに誕生日祝いと言いつつ日付が過ぎてしまって申し訳ありません!納得いくまで過筆修正(かひつしゅうせい)しているうちに、気づいたら次の日になってました…。
次回の投稿は4月の10日に出来たらいいな…と思っていますが、こちらも多分間に合いません!間に合わないとわかっているのに無茶な目標を掲げているのは、その日が次書く予定のヒロインの誕生日だからなのですが、もう千聖さんでこの有様なので、本当に期待せずにお待ちください。もちろん間に合うように努力はします!
最後に、お気に入り登録をしてくださった皆さん(名前の方は今回も割愛させてもらいます。すみません…!)、星8をつけてもらいました如月刹那さん(高評価ありがとうございます!)、感想をくださったなかムーさん(評価の方もありがとうございます!)、星10をつけてくださったrain/虹さん(小説、いつも楽しく読ませてもらっています!)、そして最後に、本編と反比例して長くなった後書きを読んでくださったあなたにこの場を借りてお礼をさせてもらいます。ありがとうございました!!
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