もしBanG Dream!のヒロインと付き合っていたら…   作:エノキノコ

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もしひまりちゃんと付き合っていたら…

冷えた風が鮮やかな(あか)い葉を連れていき、木々は茶色く無機質な全身を少しずつ(あら)わにされつつある。

いつもならこの現象を目にすれば一抹(いちまつ)(さび)しさが胸に(うす)く広がっていくのだが、今日に限っては、周囲の人たちがこちらに刺してくる視線がそんな感傷(かんしょう)(ひた)ることを許さなかった。視線の元手(もとで)が、女子高の生徒たちだとしたらなおさらだ。

普段なら女子の視線を集めているなんて妄想は、自意識過剰(じいしきかじょう)一蹴(いっしゅう)するが、今回はそう確信するには充分過ぎるほどの状況的証拠が()がっている。

なんせ他の人たちからしてみれば、自身の通う高校の前に、どこから()いてきたかわからない人間が立っているのだ。そんな奴が警戒されないほうがおかしいし、逆の立場なら間違いなくこちらも同じような懐疑(かいぎ)の目を向ける。いつここの教員が飛んできてもなんら不思議ではない。

そんな危険を背負いながらも、校門近くで(たたず)み続ける理由はたったひとつ。1か月前に告白され、一歩踏み込んだ関係性になった女の子に、彼女が通う高校の校門前で待ってていてほしいといわれているからだ。

深夜帯にかかってきた着信にたたき起こされた頭が思考能力を取り戻す前に、放課後にデートがしたいという熱量に押し切られて承諾(しょうだく)したのだが、睡魔(すいま)に負けずにちゃんと協議していれば、こんな(さら)し者にならずにすんでいたと思うと、今度からは彼女のデートプランは根掘り葉掘り()いておくべきだろう。

「あー…き、奇遇(きぐう)だねー…」

そんな多数の視線に晒されて得た教訓を心に(きざ)んでいると、その要因となった少女の声が耳に入る。(うつむ)き気味だった顔を上げた先には、短く(むす)んだ桃色の髪を両肩に()らした少女の姿があった。

彼女こそが自分を呼び出した人物、上原(うえはら) ひまりなのだが、服装が灰色のブレザーに(こん)のチェック(がら)のスカートという制服ではなく、ピンクのウェアの上に白いジャケット、パステルイエローのミニスカートを身に(まと)っている。

ここで普段のとは違う格好(かっこう)をしている彼女を()められるのがいい彼氏なのかもしれないが、さっきの言動が(みょう)に引っかかる。奇遇もなにも、呼び出したのはそっちではないか。

そのことを指摘すると、彼女はわかりやすく目を泳がせる。途端(とたん)に感じ始めた嫌な予感は、目の前の少女が盛大に音を立てて両手を合わせたあとの言葉によって見事的中した。

「ご、ごめん!今日部活あるのすっかり忘れててた!」

深々と頭を下げる彼女に()み上げてきた呆れを(から)くも飲み込み、なぜわかった時点で連絡しなかったのか問いただすと、ひまりは顔を上げたものの、緑色の(ひとみ)はこちらから()らして言葉を(つむ)ぎ始める。

「だって、夜中に電話かけて頼んだくせにやっぱ無理なんて言ったら、嫌われると思って…」

彼女の言い分に今度こそ長い溜息(ためいき)()き出し、ピンクの頭に手刀を落とした。

彼女が()いた危惧(きぐ)は全くもって的外れなものだ。自分は背景の事情を教えてくれれば目くじらなんぞ立てないし、細かいことでいちいち嫌いになるような相手とはそもそも付き合わない。

そんな思考を呆れをふんだんに混ぜ込んだ声伝えると、手刀を落とされた箇所(かしょ)を両手で押さえ、上目遣(うわめづか)いでこちらを見ていた彼女は、不安と思慮(しりょ)が同居していた表情を笑顔で上書きした。

(ほお)に赤みを帯びさせた笑みを見て遅まきながら恥ずかしいセリフを口にしたことを自覚し、目の前の少女に(さと)られる前に今日のデートの振替日(ふりかえび)を決めるべく、口早に都合の良い日を(たず)ねると、彼女は可愛らしい手帳を取り出し、スケジュールを確認し始める。

ちょうど1週間後の日は今度こそなんの予定も無いらしいので、その日にもう一度約束を取り付け、帰ろうとしたこちらの手が、背を向けたひまりによって(ひか)えめに(にぎ)られた。文末に疑問符がついた言葉を投げかけつつ振り返ると、ひまりは遠慮気味(えんりょぎみ)(つぶや)く。

「あ、あのね…もし予定がないなら、部活終わるまで待っててくれる?」

(あわ)い期待を乗せた視線とともに投げかけられた願いを断ることなどできず、なし崩し的に(うなず)いたこちらの目の前で、安堵を押し出した笑顔を(ほころ)ばせた少女は、途端にとんでもないことを言い出した。

「じゃあ2時間待っててね!帰ったりしたら許さないから!」

あまりの待ち時間に思わず大きな声が出てしまったこちらを気にせず、彼女はまっすぐ走っていってしまう。

振り返る素振(そぶ)りを見せなかったのは信頼してくれていたからかもしれないが、流石に2時間は無理だ。ただ根気を見せればいいだけならなんとかするが、そんな長時間校門の前にいたら間違いなく教師が()けつけ、最悪警察沙汰(けいさつざた)になってしまう。

だとしても信頼を裏切るのも論外なので、どうすればいいかしばらく考え込み浮かんだ案は、今はどこかで時間を潰し、約束の時間前に戻ってくるというものだった。充分現実的な案を特に迷うことなく採用することにして、もうかなり遠ざかっている桃色を一瞥(いちべつ)してから、特に当てもなく歩き始めた。

 

それから、体感では倍以上に感じた時間をなんとか浪費(ろうひ)させ、()(しず)みかけた頃合(ころあ)いで戻ってきた学校の前では、壁に寄りかかっているひまりの姿があった。俯いた顔は全貌(ぜんぼう)さえ(うかが)えないものの、今の空模様と同じように暗い感情が大半を()めている。

そんな不安そうな表情を見た瞬間(しゅんかん)、無意識に口から彼女の名前が(こぼ)れ落ちた。決して大きいとは言えないその呼びかけを逃さず拾った彼女は、ほとんど消えかけていた明るい色を顔全体に広めていったが、すぐに(まゆ)()り上げて駆け寄ってくる。

「もー!なんでどこかいっちゃうの!心配したじゃん!」

丸めた手をこちらの胸にぶつけてくる彼女の瞳は、(かす)かに(うる)んでいるように見えた(ゆえ)に、いつもする言い訳は心の奥にしまい、素直に謝罪すると、彼女は丸くした目をぱちくりさせた。

「まあ、ちゃんと反省してるならいいけど…。・・・でも今度からはちゃんと私に伝えること!」

こちらの鼻先に人差し指を突きつけて注意してくる彼女に、思わず人のこと言えないからと指摘する。

「うぐっ…!と、とにかく!ちゃんと反省しなさい!」

言葉を詰まらせ、無理やり話を着地させようとするので、呆れの混じった苦笑を飛ばすと、彼女は完全にヘソを曲げてしまった。

そっぽを向き、頬を(ふく)らませる姿が可愛く感じたが、今考えることは別にあると、目の前の少女の機嫌(きげん)を直す方法を探すことに思考をシフトする。

色々と検討した結果、一番確実な手段を取ることにして、コンビニでスイーツ(おご)ってあげると()げると、彼女の耳がぴくりと動いた。しばらくしてから、頬は(しぼ)ませたものの、不満げな感情は残ったままの緑の瞳がこちらを映す。

「・・・私の機嫌がスイーツだけで取れると思わないでね」

じゃあいらないのかと言った瞬間にもらうと即答する彼女が単純すぎて、そのうち詐欺に引っかかりそうだなというこちらの思慮を読み取ったように、ひまりは表情に懐疑を色濃く反映し、粘着力(ねんちゃくりょく)の高い視線でこちらを掴んだ。

「なんか失礼なこと考えてるでしょ」

いきなり言い当てられるものだから少し片言になってしまったこちらの返答に、彼女はさらに感情を深くするので、さらなる言及(げんきゅう)が飛んでくる前に、ふらついていた時に見つけた近場のコンビニ目指して()を進めようとしたが、逃さまいと腕をがっしり固定され、その(さい)、こちらの腕が彼女の(ゆた)かな胸に押し付けられてフリーズ状態に(おちい)ってしまう。

そんなこちらの反応を知らずして、彼女はほとんど引っ張る形でさっき逃げようとした方向へと歩き始め、それから目的地のコンビニに着くあいだ、普段の2割増しで血流が良かった。

 

「えーっと、まずは(いちご)のショートケーキでしょー、それからプリンとシュークリームは外せないし、あっ!新作のモンブラン出てる!」

入店から5分も経たずして彼女は迷うことなく手に取ったスイーツを、こちらが持ったカゴに放り込んでいく。その数、実に4つ。しかも恐ろしいことに、そのペースは一向(いっこう)(おとろ)えない。

コンビニに入った瞬間に腕が解放されたことで回数を減らしていた心拍数(しんぱくすう)が、さっきとは違う意味で上昇していくのをまじまじと感じながら、8つ目の品である抹茶ロールを食べることを決めたひまりに、そろそろご容赦願(ようしゃねが)うと、意図せず(ふる)えた声で伝えたが、彼女はイタズラな笑みを口元に宿す。

「え〜、どうしよっかな〜。私的にはまだまだいけるんだけどな〜」

普段とは完全に逆転してしまった立場に、金額の上限を設けておくべきだったと歯噛(はが)みしたこちらの様子を見た彼女は、勝ち誇った表情でふふんと鼻を鳴らす。

「まあ今回はこれくらいで勘弁(かんべん)してあげようかな」

そう言ってチョコケーキをカゴに入れた彼女はカフェエリアへと向かっていくので、今月はかなりの節約を()いられることを確信しながらレジにカゴを置く。

店員の人が最終的に提示した金額は、5千円札を余さず()らい()くした。追加で()(さら)われた5百円の残骸(ざんがい)である13円を見て大きく息を吐いてから、重々(おもおも)としたレジ袋を長テーブルに置くと、ひまりは瞳を燦々(さんさん)と輝かせ、モンブランに手をつける。

プラスチックのフォークで分けた半分を一口で頬張る彼女は実に幸せそうで、それだけで出費のことはどこ吹く風…にするには少し額がでかすぎるが、ある程度損失との相殺はできた。

あんな(がく)を負担したのだからこれくらいは許されるだろうと、スイーツを食べるひまりをただただ眺めていると、視線に気づいた彼女はスイーツの山を左手でさっと隠す。

「そんなもの欲しそうな顔しても上げないから!」

別にたかるつもりはないのだが、金銭への未練が顔にでも出ていたのだろうか。

しかし、こんな理由を言ったらどう転んでも悪い未来しか見えないので、そんなに食い意地張ってたら太るぞと誤魔化(ごまか)したところ、彼女は急にチョコケーキが突き刺さったフォークを持つ右手を止めた。

「今日は部活で体動かしたから、だ、大丈夫だもん…!」

彼女の述べた逃げ道は、流石に苦しいと思う。2時間の運動で9個のスイーツ分のカロリーを消費しようとすれば、プロのスポーツ選手のプランでもやらなければとても追いつかない。少なくとも、学生の部活で完全にカバーできるとは思えなかった。

それは彼女もわかっているのだろう、(うな)り声をあげて葛藤(かっとう)している姿がなんだかいたたまれなくなってきたので、今日くらいいいのではと言ってみたのだが、彼女は(にく)らし気な視線を刺すばかりだった。

「そもそも君が言わなきゃこんなふうに悩んでないから!」

確かにそうだ。見事に納得したこちらを置いてさらに悩んでいた彼女は、なにか思いついたのか右手を再び持ち上げる。

吹っ切れたのならよかったと思ったのだが、彼女は刺さったままだったケーキの片鱗(へんりん)を自身の口ではなくこちらへ向けてきた。

「ほら、あげる」

さっきまで意地でも渡さない様子だった彼女の変わり身に()き上がり、そのまま流れ出た疑問を、彼女は心残りがありありと感じられる声で答えた。

「だって私が食べれないなら、君に食べてもらうしかないじゃん。ほらほら、わかったら口開けて」

押し付けられる形で食べさせられたチョコケーキは、数多のコンビニスイーツを食べてきたらしい彼女のお眼鏡に叶っているだけあって普通に美味しかった。スポンジもクリームも、ビターなチョコレートの味をしっかり舌に伝えてくる。

これならいくらか高めの値段設定も納得なのだが、問題は、まだ未開封のスイーツが4つほど残っているということだ。甘味類は嫌いではないものの、あそこまで食べると()きが訪れないとは言い切れない。

「どう?美味しい?・・・やっぱりそうだよね!じゃあ次はこれなんだけど…」

しかし、味に対する素直な感想を()べた瞬間、彼女がいつになく嬉しそうにするものだから、途中で飽きたからやめるなんてとてもじゃないが言い出せなかったので、彼女のセンスが味飽きにも対策を(ほどこ)していることを心底願いながら、運ばれてきたロールケーキのかけらを頬張った。

 

残っていたスイーツの中には、甘味料のくどい甘さで誤魔化されているものがなかったので、舌が飽きてしまうこともなく、彼女の手によって胃袋に収まったあとの余韻(よいん)はそこまで悪くはなかった。これを身近なコンビニで食べられるのであれば、彼女がハマってしまうのもわからなくもない。

「ほんと!じゃあ今度の日曜日もスイーツ食べに行こうよ!」

そんな感想をすっかり暗くなった帰り道で何気なく呟くと、隣の少女はものすごい速度で食いついてくる。

今日一番の笑顔を見せながらされた提案に、今日自分がスイーツに関心を持った根本的な理由を忘れているように思えたが、こちらも行ってみたいので今回はなにも指摘せずにひまりの案に賛成の意を示した。

「じゃあ決まりね!予定空けておいてよ!」

それから、嬉しそうにはにかんだ彼女が矢継ぎ早に繰り出すスイーツ話を聞いているうちに、彼女の家の前に着いたので、軽く挨拶して立ち去ろうとしたのだが、なぜかひまりに呼び止められる。

どうかしたのか訊ねたこちらに、彼女は強張った声で指示した。

「す、少しのあいだだけでいいからしゃがんで、あと目も閉じて!」

明らかに急いだ様子で言われた要望だけで、彼女がなにをしたいかはなんとなくわかったが、()えて何故か問うと、彼女は言葉を詰まらせたのち、半ば自棄気味(やけぎみ)に返答してくる。

「今日色々わがまま言っちゃったからそのお()び!いいから早く!」

いっそう()かしてくる彼女に、自分は少し考えたあと、きっぱりいらないとかぶりを振った。予想にもしてなかったであろうこちらの対応に、彼女の表情からは大きなショックが窺える。

しかし、彼女がやろうとしていることは、勢い任せではなく、もっとちゃんとした場面で行いたい。それになにより…

—するなら…こっちからしたい—

「!?…そ、それなら、やめとく…」

今拒む最大の理由を恥ずかしながら口にすると、彼女は顔を一瞬(ほう)けさせたのち、耳まで鮮やかな赤に染めた。そんな彼女の言葉を皮切りに流れた空気に耐えきれず、こちらが自宅へ逃げようとする直前、ひまりが再び口を開く。

「じゃあ、待ってるから…!」

それを最後に、ドアの開閉音が辺りに大きく響いた。しばらくその場に立ち尽くしたあと、深々と呼吸をおこなって、肺に冷たく(かわ)いた空気を充満(じゅうまん)させる。

どんな理由であれ、勇気を振り絞った彼女の行動を()()けてしまったのは自分だ。なら、近いうちに挽回(ばんかい)しなければならないだろう。

新たな決意を胸に歩く道の先の空は紫苑(しおん)に染まっており、浮かぶ月は薄い雲によって輪郭(りんかく)(おぼろ)げに揺らしながらも、すり抜けてきた柔らかな光が地上に手を伸ばしていた。




こんにちは、エノキノコです。まずはこの小説を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
そして、かなり期間が空いた投稿になってしまってすみません!ひまりちゃんのキャラを掴むのにかなり苦戦してしまい、話の構成も四苦八苦していたらものすごい時間が過ぎてました…。
そんな今回の話ですが、作者的にはあまり納得してません。リクエストで頼まれたのを中途半端にするのはどうなのか、そう考えはしたのですが、そうなるといつ出せるかわかったものじゃないので、納得できるかできないかはひとまず置いておいて、今書ける精一杯を上げさせてもらいました。いつかリベンジ・・・できたらいいなぁ…。
そして、この小説の投稿日の前日はRoseliaの映画上映日ですね。作者はこれを上げたら映画館に行ってきます。できれば4月中にするであろう次の投稿の後書きか、活動報告の方でネタバレしない程度の短い感想を書きたいなーと思っていますが、おそらく次の投稿は5月になる気がします…。気長に待ってもらえると幸いです。
最後に、お気に入り登録をしてくださったみなさん(名前の表記は割愛させていただきます。ごめんなさい…!)、星9評価をつけてくださったくりとしさん、なかムーさん、たく丸さん(評価に見合った作品を書けるよう頑張ります!)、ひまりちゃんのリクエストをくださったエイダタイセルプスレクス(元エイタイ)さん(こんな微妙な感じになってしまってすみません…!)、そして、かなりボリューミーになってしまった後書きに付き合ってくださったみなさん、本当にありがとうございました!!
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