続きを書きたいという気力はあるものの、続きが浮かばないのでとりあえず冒頭だけ投げるやつです。
【注意書き】
PSYCHO-PASSの世界観、設定、キャラクターをお借りした二次創作小説です。
原作者様、出版者様、その他関係者、関係団体様方などとは一切関係ありません。
捏造設定、キャラ崩壊、作者の妄想、原作のネタバレ、オリ主要素等が含まれています。
自衛のほうよろしくお願いします。読了後の文句、苦情等は受け付けておりません。
それでもよろしければどうぞ見てやってください。
けばけばしい色の光をチカチカと明滅させる時代遅れのネオン灯と錆に彩られた建物が乱立し、そこかしこに浮浪者風情の人間が転がるこの区域の名称は、『廃棄区画』。
シビュラシステムが支配する理想的な社会に不要と判断され切り離された区画。同時に、シビュラシステムに不要と判断された人間達の行き着く場所。
シビュラの庇護下にあるまともな人間はこの場所に寄り付かないため、通常であれば静まり返っている筈のこの区域は、今日に限ってサイレン音と群衆のざわめきで満たされている。
騒がしくなるのも当然だ。なにせ今この廃棄区画には刃物を持った人物が人質を連れて立て籠もっているのだから。
一般人の侵入を防ぐため張られた規制線の内側、そこに設営された一張りのテントの中には明るい髪色の男性、ポニーテールの女性、トレンチコートを着た男性、強面でガタイの良い男性、眼鏡の男性、ショートカットの女性、そして私の7名がいる。
「そっちのかわい子ちゃんがウワサの新入りさんっすか?ギノさん。」
テントの中にいる人のうち、明るい髪色をした男性がにやけながらそう発言した。発言と行動から持ち前の軽さが滲み出るこの男性の名は、縢秀星。私の同僚の一人だ。ちなみにポニーテールの女性__六合塚弥生、ガタイの良い男性__狡噛慎也、トレンチコートを着た男__征陸智己も同様に私の同僚である。
「常守朱監視官だ。今日から貴様らにとって、二人目の飼い主になる。」
ギノさん、と呼び掛けられた眼鏡の男性__宜野座伸元は縢の言葉にこう続けた。
名前を端的に紹介されたショートカットの女性__常守朱は、よろしくお願いします!と緊張したのかつっかえながらも、明瞭な声で挨拶を返した。
宜野座伸元と常守朱は警視庁公安部一係に属する監視官であり、詰まるところ私や私の同僚たちの上司にあたる人物である。
さて。突然話を変えるようで申し訳ないのだが、私__蘇芳華には他人とは違うとある記憶がある。
一人の女の記憶だ。彼女は監視官と執行官、ドミネーターはもちろん現在の社会の根幹を成しているシビュラシステム、それら全てが存在すらしない世界で生きていた。
彼女にとってそれらの名称はとある映像の中で展開される架空の世界の舞台装置を指すものでしかなかった。彼女は、あくまでもフィクション、存在する筈のない世界としてその映像を楽しんでいたはずだった。
もし私が突然気狂いになってしまったのでなければ、もし彼女ーかつての“私”の記憶が本当に正しいのだとすれば、今の私の状況はこう説明されるだろう。
___私は、PSYCHO-PASSの世界に転生してしまったのだ、と。
*
私が所謂前世の記憶というものを思い出したのは、18歳の時だ。
しかし思い出す前までは何一つおかしなところのない平凡な生活を送れていたのかというと、そうでもない。
『人の心理や精神状態の計測に成功した社会』、『人々はシビュラにやって罪を犯す前に裁かれる』、『シビュラの判断は絶対』、『シビュラによってストレスのない理想的な社会が実現される』、等々。この世界に極々ありふれた意見、大概の人間がこの言葉を疑うことなく賛同、支持している意見だ。
しかし私は物心ついた頃から、蘇芳華としての意識を得た瞬間から、この世界に対して言い様のない“違和感”を常に感じ続けていた。『犯してもいない罪を裁くなんておかしい』、『自分のことを自分で決めない、ましてや機械なんかに考えることを委託するなんて間違っている』、『こんなシステム、あって良いはずがない』と常々思い続けてきた。
まあこんな思想の人間がシビュラに認められるわけもなく、私は12歳の時の検査で見事潜在犯認定を受け隔離施設行きとなり、数年を施設で過ごした。
その後18歳で執行官適性が出たため一係の執行官に就き、その初任務の時。
私は先輩執行官と監視官と共に、ドミネーターを持って標的を追っていた。私と先輩執行官とで標的を挟み撃ちにしてパラライザーで捕らえる作戦だった。
走って逃げていた標的が立ち止まる。前方から来る先輩に気づき、逃げられないと悟ったのだろう。
すぐさまドミネーターを構え、標的に向ける。ドミネーターから発される指向性音声が頭に響き、視界に標的の犯罪係数が映る。
犯罪係数、302。ドミネーターが変形する。
リーサル エリミネーター 対象を排除してください。と無機質に告げる指向性音声を聴き届け私は、躊躇うことなく言われるままに引き金を引いた。
銃口の先、対象の左腕がボコリ、と膨れるのが見えた。
膨れた部分に隣接した部位も連鎖的にボコ、ボコボコと膨れる。瞬きの間に膨れは上半身を覆い全身を覆うとそのまま全身が勢いよく膨張し、弾けた。
周囲に血と、肉塊が勢いよく飛び散り、さっきまで人が立っていたはずの場所にはおびただしい量の血溜まりだけが残されている。
さっきまで確かに生きていた人間ひとりが消された痕跡が生々しく残るその現場を視界に入れた瞬間、頭を電流が駆け巡るかのような感覚が私の頭を襲い、その衝撃は手に持ったドミネーターを思わず落としてしまうほどのものだった。
私に前世の記憶が蘇ったのはこの時だ。
取り戻した記憶には前世の自分のこと、家族のこと、友人のこと…等様々なものがあったが、そんな中で最も大きな分量を占めていた記憶、それはとあるアニメ作品についての記憶であった。
西暦2112年、日本では包括的生涯福祉支援システム「シビュラシステム」というものが構築され、人間のありとあらゆる心理状態や性格傾向を分析し、数値化することに成功した、と言う舞台設定で、その監視社会で治安維持に動く刑事たちの姿を描いたアニメ作品“PSYCHO-PASS”。
この作品は、警視庁公安局刑事課一係に所属する刑事である主人公・狡噛慎也とヒロイン・常守朱が主軸にストーリーが進む。彼らを含む一係の刑事が社会の監視の目を掻い潜り犯罪を犯す人間を突き止め逮捕していくうちに犯罪者の背後に潜む黒幕の存在に気づく。道中で少なくない犠牲を払いつつも刑事達は、黒幕を逮捕し犯罪の連鎖を止めるため前に進む____というのが大まかな筋になる。
ここまで記憶を取り戻した私は一つの考えにたどり着いた。
今世の私の名は蘇芳華、警視庁公安局刑事課一係に所属する執行官で、携帯型心理診断鎮圧執行システム「ドミネーター」の所持・使用が許可されている。先輩執行官の名は縢秀星、六合塚弥生、狡噛慎也、征陸智己。そして監視官の名前は宜野座伸元。
ここまで来ると否定の言葉も浮かばない。
私は前世で見ていたアニメの世界に生まれてしまったようだと一瞬の間に確信した。
そして、私は知ってしまった。
この世界の台本を。秘されているはずのシビュラシステムの真実を。
今、様子のおかしくなった私を心配して駆け寄ってきてくれている先輩執行官の縢秀星、征陸智己の2名は黒幕を追う過程で死んでしまうことを。
前世の記憶を思い出したとは言え、平凡な私には黒幕の意図していたところも、主人公やヒロインの想いも、知識として知っているだけで何一つ理解はできない。どうすれば悲劇を未然に防げるかなんて分からない。
けれど一つだけ確かなことは、一係の人たちは皆、死んで良いような人間ではない、ということ。
助けたい、と素直に思った。
本来の物語の流れ?喪失によってもたらされる成長?知ったことか。
私は“自分の意思以外の
こうして私は、シナリオに抗って縢秀星、征陸智己両名の命を救うことを決意した。
しかしここで新たに大きな問題が浮上したのだ。
心配してくれる先輩達に大丈夫だと返し、取り落としたドミネーターに手を伸ばした時、伸ばした自らの右手が震えていることに気がついた。
指先の震えでドミネーターを手から滑らしそうになりつつもなんとか拾い上げ、目の前に掲げてみた、その時。
記憶を思い出す前に行った執行の様子が、頭にフラッシュバックした。
無慈悲な機会音声、発砲音、断末魔、飛び散る肉片、水音、水音、肉片、血溜まり。
臓腑から苦いものが迫り上がる。前世の記憶を思い出したことで、自覚してしまった。もし私が、純粋にシビュラシステムの下で生きることができる人間であったなら分からなくて良かったものを理解してしまった。
私は人を殺したのだ。手に持った武器で、“まだ”罪を犯していなかった人を、躊躇わずに。
そして______私はドミネーターを使うことができなくなった。