IS学園特命係   作:ミッツ

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 お久しぶりです!
 同僚の退社に伴い山のように仕事が舞い込んでしまったため、2週間ぶりの投稿となりました。
 今後も投稿ペースは遅めになりますが頑張っていきます。

 では、IS学園特命係episode3開始です。


episode3 世界最強の弟
そして、家族になる


「よしっ、こんなもんかな。」

 

 亀山美和子は鍋の中に最後の調味料を加えると満足したように頷いた。リビングに掛けられた時計に目を向けると、時計の針は午後7時を指そうかとしている。美和子は僅かに顔を強張らせた。 

 

「もうそろそろね…。ああ、緊張してきちゃった。」

 

 時刻は旦那が連絡した時間へ刻々と近づいている。そもそも、美和子が7時前に自宅に帰ってくることなど、最近では珍しいことだ。女性の地位が急速に向上していく中で、美和子の職である帝都新聞でも重要なポストは女性が付くことが多くなった。生まれつきの姉御気質で以前より女性職員から慕われていた美和子も例外ではない。以前に比べ彼女が担当が書いた記事が紙面を飾ることが多くなり、気付けば社会部のエースとまで呼ばれるようになっていた。遂には一部の女性社員が次期社会部長に美和子を推薦しようとする動きがあったのだが、本人の必死の抵抗によってなんとか白紙に戻すが出来た。

 美和子としては近年社内に蔓延する『女尊男卑』の論調に辟易しており、もういっその事フリーに転向しようかなどと思っている。

 と、そんなことを考えるとインターホンが鳴らされた。モニターを確認すると予想通り旦那が帰宅してきたようだ。ロックを解除して数分後、玄関のドアが開けられる音がした。

 

「ただいま。今帰ったぞ。」

 

「はい、お帰りなさい。お疲れ様でした。それと…。」

 

 美和子は旦那である亀山薫の背後をのぞき込む。するとそこには、亀山とほぼ同じくらいの身長の少年が立っていた。少年は緊張しているのか、きょろきょろと所在無さげに視線を彷徨わせている。そんな挙動不審な少年に対し、美和子はにこやかに笑いかけた。

 

「あなたが織斑一夏君ね。どうぞ入って。夕飯もう用意しているから。」

 

「あ、ハイ。ありがとうございます!えーと、じゃあお邪魔します。」

 

 美和子から話しかけられ体をびくりとさせた一夏だったが、何とか応対すると促されるがままに玄関へと進んでいった。こうして、織斑一夏は亀山夫婦の家へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 突然だが、話は前日まで遡る。その日の放課後、亀山薫は呼び出しを受けていた。呼び出したのは、IS学園で数少ない男性職員の一人である轡木十蔵。十蔵と亀山の間には、お互い男性職員同士という事もあって早いうちから親交があった。偶に十蔵が茶菓子などを教官室に差し入れに来ることもある。だが、こうして重蔵から呼び出されることは初めてだ。いったい何の用があって呼び出されたのか亀山には皆目見当がつかない。

 

(まあ、行ってみりゃ分かるだろ。)

 

 そんな軽い気持ちで用務員室までの道を歩いていると、正面から三人の女生徒が歩いてきた。肩にスポーツバックを掛けているので、恐らくこれから部活に向かうのだろう。楽しげにおしゃべりをしながら歩いていた三人は、亀山に気づくと笑顔を作り亀山に向かって手を振ってきた。

 

「あっ、薫ちゃんさようならー。」

 

「待たねー薫ちゃーん。」

 

「じゃあね、薫先生。」

 

「おう、部活頑張れよ、っておいっ!仮にも教師に対してちゃん付けは無いだろ。俺のことは亀山先生って呼びなさい!」

 

「「「ハーイ。ごめんなさーい!」」」

 

 そう言うと、三人は笑いながらその場を後にした。亀山は彼女らの後姿を眺めながら、深々とため息をつく。

 

「あいつら絶対にわかってないな…。ったく、俺だって一応教師だぞ。」

 

 ここのところ、亀山はやたら生徒たちから下の名前で呼ばれるようになった。生徒たちによれば、亀山の容姿に比べ随分と可愛らしい名前がギャップ萌えを生んでいるらしい。十中八九、 某ロシア代表候補生兼新米生徒会長が関わっていると亀山の刑事としての感が囁いているのだが、現在までのところ容疑者につながる証拠が挙がっていないため、逮捕拘束までには至っていない。ただ、先日とある出来事がきっかけで生徒との付き合い方に悩んでいた亀山としては、以前に比べ生徒たちが親しげに声をかけてくれるようになったのはうれしく思う。その半面で、これって教師としてどうなんだろう、という悩みが生まれたのも事実である。

 

「って、こんなことしている場合じゃねえや。」

 

 轡木との約束を思い出した亀山は現状の問題をいったん保留し、用務員室へ足早に向かうのだった。

 

 

 

 亀山は用務員室に着くと、そこには轡木とソファーに座る織斑千冬がいた。意外な組み合わせに亀山が驚いていると、轡木は亀山を千冬の反対側のソファーに座るように促しお茶を入れだした。二人分の緑茶を入れると、轡木はそれを亀山と千冬の前に置き、亀山に対面する形で千冬の横に腰を下ろした。

 

「亀山先生、折入って先生に頼みたいがあるんです。」

 

「頼みたいことですか?」

 

「ええ。というのも、昨日織斑先生のご自宅に空き巣が入ったそうなんです。」

 

「えっ!空き巣ですか!それで、その…大丈夫だったんですか?」

 

 動揺した亀山がそう聞くと、千冬は苦い表情で頷いた。

 

「はい。幸いにも、通帳や貴重品には手を付けられていませんでしたが、ずいぶんと部屋を荒らされました。私自身はあまり家には帰らないので影響は無いのですが…」

 

「織斑先生は弟さんと二人暮らしなんですよ。」

 

 言葉を切った千冬に代わり、轡木が後を話す。

 

「その弟さんというのが今年中学三年生で高校受験を控えているんですよ。普段は織斑先生に代わって自宅の家事や勉学に務めているそうなんですがね。空き巣に入られたことに気が付いて警察に通報したのも彼なんですよ。」

 

 轡木の話を聞いて亀山の脳裏にある疑問が浮かぶ。

 

「あの、ひとつお聞きしたいんですけど…。織斑先生のご両親の方は…?」

 

「…私たちの親は随分と前に私たちを捨てて家を出ていきました。」

 

「あっ!す、すいません!失礼しました。」

 

 亀山が慌てて頭を下げると千冬は気にしていないというように頭を僅かに下げた。

 以前杉下が織斑先生が昔はずいぶん苦労を経験していた、というようなことを話していたことを今更ながら思い出し、亀山は頭の後ろを掻いた。

 

「まあ、そういった事情もありまして、織斑先生は弟さんと二人暮らしをしているんですよ。ただ、ここでの仕事が忙しくて、最近はなかなか家に帰れないそうなんですよ。」

 

それについては亀山も重々承知している。IS学園はその特性上、ISの専門的授業が主となる。この半年の間で亀山達もISに関してはだいぶ詳しくなったが、他の教師と比べると見劣りしてしまう。 そのため、担任教師である千冬の負担が大きくなってしまい、彼女の仕事が増える原因となっているのだ。亀山達もIS以外で出来る事を率先して請け負っているが、行事前となるとどうしても千冬が遅くまで残らなくなってしまう。亀山としてはそのような事情もあり、千冬には頭が上がらない。千冬自身はあまり気にしていないようだが、常日頃から何とかしなくてはと思っているのだ。

 

「しかし、そうなると空き巣に入られたばかりの家に中学生を一人で残すことになります。いくら一人で生活することになれているとはいえ、これはあまりよろしくありません。」

 

「まあ、そうっすね。空き巣に入られた家の被害者ってのは、かなり神経質になるって聞いてますし…」

 

「ええ、そうなんですよ。なので織斑先生に暫くの間、弟さんを預かってもらえるような知り合いはいませんか?と聞いたんですが、あいにくそう言った方はいらっしゃらないそうなんです。だからと言って、このままというのは安全上や精神上によくありませんからねえ…。そこでなんですが、亀山先生、あなたのご自宅で織斑先生の弟さんを預かっていただけませんか?」

 

「お、俺の家でっすか!?」

 

 思わぬ展開に亀山は声を上げるが、轡木は相変わらず朗らかな笑みを浮かべている。

 

「ええ。聞いたところによると、亀山先生は既にご結婚されているそうですし、警察官というだけに安全上の心配はありません。それに、織斑先生のご自宅と亀山先生のマンションはあまり離れていないんですよ。どうか、お願いできませんか?」

 

「そうすっねえ…。うーん…。」

 

 轡木の話を聞いて亀山は頭を悩ませる。いくら職場仲間の頼みとはいえ、年ごろの男子をいきなり預かってくれと言われ、二つ返事で了承する者などいないだろう。しかしながら、千冬が家に帰れないのは元をたどれば自分たちの力がいたらないゆえだ。ここはひとつ、一肌脱ぐのが男として当然の事だろう。そう決心し、亀山は轡木と千冬に向き直った。

 

「わかりました。織斑先生の弟さんは俺の家で預からせてもらいます。」

 

 亀山が了承の胸を伝えると、轡期は笑顔のままで頷いたが、千冬は複雑そうな顔になった。

 

「…本当によろしいのですか?こちらから頼んでおいてなんですが、あまり出来のいい弟とは言えませんので、ご迷惑をおかけすると思うのですが…。」

 

「いやいや大丈夫っすよ。うちは家内もしっかりしてますから、やんちゃ坊主が一人や二人来たくらい問題ないっすよ。それに、織斑先生の弟さんにも興味があるっすからね。」

 

 以上が織斑千冬の弟、織斑一夏が亀山家にお世話になることとなった経緯である。前日は友人宅に泊まっていた一夏は姉から連絡を受け、翌日から姉の同僚の家に泊まることになったと知らされた。

 一方亀山は、妻の美和子に同僚の弟を預かることになったと話し、了解を得ることが出来た。

 そしてその次の日、普段より早目にIS学園を出た亀山は待ち合わせ場所で一夏を拾うと、自宅まで彼を連れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

「はい、お待たせいたしました。美和子スペシャルⅥでーす。どうそ、遠慮しないで食べちゃって。」

 

 一夏を家に招き入れた亀山夫妻はお互いに自己紹介を済ませると、早速夕飯を取ることになった。年頃の男の子を安心させるなら、まずは食べ盛りの胃袋を満足させるのが一番、という美和子也の配慮である。それは決して間違ってはいないだろう。しかし、食卓に並べられた料理を見て一夏は顔をひきつらせ、亀山は苦笑いを浮かべることになる。

 美和子スペシャルⅥと名付けられたそれは、果たしてどういった料理に分類されるものなのだろうか…。見た目はスープと言ってよいだろう。大根や人参、ウインナーが入っているあたり、まだ料理としての体裁を保っている。しかし、それらの具が浸っているスープがピンクなのだ。決してトムヤムクンや担々麺の赤とは違う。いったいどうやって抽出したのかと聞きたくなるほどのショッキングピンクのスープが皿を満たしている。そして、ピンクのスープに負けないほどの自己主張をしているのが皿の中央で、でろん、とその身を横たえている物体である。少なくとも今まで食したことがないであろうと思われるその物体は見様によっては卑猥なものを連想させる。亀山は知らないが、その物体はウミタケと呼ばれる貝の一種で、主に九州は有明海で干物にされ食されているが、普通はスープの具材などにはならない。さらに、その周囲にはもはや元が何だったのかわからない緑色の肉団子のようなものが浮いており、絶妙なカオスを生み出している。

 

「…ま、まあ、見た目はあれだけど、食えないわけじゃないから。」

 

 そう一夏に話しかけ、亀山はスプーンでスープを掬うと口に入れた。そうしてじっくりと味を確かめると渋い顔を作り、味は悪くねえんだよなあ、と呟くのであった。その様子を見て、固まっていた一夏も意を決したように美和子スペシャルⅥを口に運んだ。

 

「どう、一夏君?おいしい?」

 

「………は、はい。なんていうか、すごく…独特な味ですね。く、癖になるような感じがあります。」

 

 一夏の感想を聞いて美和子は満足そうに頷く。

 

「でしょー。さっ、まだまだ沢山あるからどんどん食べてね。」

 

「…一夏君、あんまり無理はしなくてもいいからな。一応惣菜も買ってきてるから。」

 

「何よ薫ちゃん、私の料理に文句でもあるわけ?」

 

「文句っていうかなあ、微妙なんだよお前の料理は…。」

 

「微妙って何よ、微妙って!」

 

「だからいちいちコメントに困るんだよ、美和子スペシャルは!」

 

「あ、あの!」

 

 言い争いをする亀山夫婦の間に、慌てた様子で一夏が割って入る。

 

「そんな別に喧嘩するほどの事でもないですから。結構うまいですし、この料理。」

 

 どうやら一夏は二人の言い争いの原因が自分にあると思ったようだ。その様子を見て、客人に気を使わせてしまったことを察した夫妻は二人そろってばつの悪い顔をする。

 

「ああ、ごめんな一夏君。気を使わせちゃって。でも、気にしなくて大丈夫だから。我が家じゃこれが普通なんだ。」

 

「あ、そうなんですか。すいません。なんか勘違いしちゃったみたいで。」

 

「ほーら。だから気にしなくて大丈夫だから。だいたい、この家にいる間は一夏君も家族の一員なんだから。」

 

「えっ!」

 

 美和子の一言に一夏は再び驚いたように固まった。

 

「だから、いちいち私たちに気を使わずに、自分の家だと思って寛いでいいんだから。ねっ、薫ちゃん。」

 

「あ、ああそうだぞ、一夏君。この家にいる間は君はうちの子も同然だ。なんなら俺のことを父親だと思っていいんだぞ。」

 

 そう軽いノリで亀山が話すも、一夏は茫然と言った様子で二人を眺めている。やがて一夏は顔を下に向けると肩を震わせ始めた。

 

「ん?どうしたんだい一夏君?」

 

 亀山が不振に重い一課の顔を覗き込む。するとどうだろう。一夏は目を真っ赤にして涙をこらえているではないか。これには亀山も慌てざるを得ない。

 

「い、いったいどうしたんだ一夏君!?やっぱり、美和子の料理が口に合わなかった!?」

 

「ち、違うんです。ただちょっと…。」

 

 一夏は目元をぬぐうと顔を上げた。普段は年齢よりも少し高めに見られる顔も、今は年相応の子供のように見える。

 

「お、俺、今までそう言った風に言われたの千冬姉以外にいなくって…。だ、だから、うれしかったんです。家族だって言われて…。」

 

 一夏の言葉に亀山はハッとする。織斑姉弟は幼いころに両親に捨てられ、今まで二人で暮らしてきた。おそらくその間、一夏はずっと寂しい思いを抱えてきたのではないだろうか。千冬は千冬なりに弟に愛情を注いできたのだろうが、彼女は人に甘えさせるのが苦手な人間だ。きっと、一夏は今まで人に甘えた経験がとても少ないのではないか。だから、亀山達が家族として受け入れようとしたことが彼の心の琴線に触れたのだ。

 

(この子は、ずっと誰かに甘えたかったんだな…。)

 

 亀山は長年の人生経験から織斑一夏が心の奥底に抱える孤独を知ることとなった。それに加え、今回の空き巣である。もしかしたら、姉が思っている以上にこの少年の心は疲弊していたのかもしれない。

 

 すると、美和子が黙って席を立ち一夏の後ろへと回った。そして、優しく後ろから一夏を抱きしめると、彼の耳元でささやいた。

 

「大丈夫よ、一夏君。ここにいる間はあなたは私たちの子供。何の心配もしなくても大丈夫だからね。」

 

 亀山もまっすぐに一夏の目を見て語り掛ける。

 

「そうだぞ一夏君。いや、一夏。家族なら何も気を使わなくていい。困ったことがあったら何でも相談していいだからな。なんせ俺たちはお前の家族なんだから。」

 

 この言葉で一夏の眼もとに再び涙がたまる。しかし、今度ばかりは涙を拭うことが出来ず、一夏は黙って頷くばかりだ。その頬を涙が伝って落ちる。 

 

「改めまして、俺が亀山薫で、そしてこっちが…」

 

「妻の亀山美和子よ。よろしくね。」

 

「よ、よろしくお願いします…。織斑、一夏です…。」

 

 こうして三人は、短い間だが家族になることとなった。このことが後に、ISに、いや、世界そのものに大きな影響を与える事と成るとはまだ誰も気づいていなかった。




今回は作者の考察、もとい妄想がふんだんに盛り込まれています。でも、一夏が女性からのアプローチに鈍感なのは、女性から甘えられるよりも自身が甘えたいというのが根底にあるような気がするんですよね。と言っても原作にはそれらしいことは何も明記されていませんが…。

次回はいよいよ事件発生です。果たして特命係と一夏の運命やいかに!?ご期待ください。
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