IS学園特命係   作:ミッツ

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 今回の話は今までで一番文章量が多いです。
 最初は二つに分割しようかと思いましたが番外編を分割するのもどうかと思ったので思い切って一つにまとめてあります。
 何かご意見がありましたら感想欄までどうぞ。


Side Story
Police meets Teacher(卵)


 運命の出会いなど、一生に幾つあるのだろう?

 

見事なまでの秋晴れの青空が眩しい10月某日。山田真耶はこの日、人生の岐路に立たされていた。その名も就職面接試験。今年22歳の真耶は就職活動の最前線に立っていた。

いささかこの時期にしては就職先が決まっていないのは遅すぎるのではないかと思われるかもしれないが、これには理由がある。真耶はついこの前までISの競技者、それも、国家代表候補だったのだ。それに見合うだけの実力を彼女は有している。当然、現役を引退した後も多くの企業や政府機関から誘い文句を受けていた。

 そんな数ある組織の中で、とりわけ彼女の心を引いたのがIS学園からの申し出であった。彼女に指導者としてIS学園に属することを打診してきた学園職員は、次のように真耶を口説いた。

 

「山田さん、世間一般にはうちの学校はエリート校と見られ、生徒たちも次代を担うエリートだと思われています。けれど、彼女たちも他の同年代と同じ10代の子供です。真の意味で彼女たちを次代を担う存在にするためには、ただISの技術を教えるだけでなく、彼女たちの人間性を育んでいかなくてはなりません。

 山田さん、あなたは現役時代、ライバルであっても伸び悩んでいる人がいれば、ともに解決法を考え、力になってきたと聞いています。現在の代表候補の中にも、あなたのことを慕う方は大変多くいらっしゃいました。人の悩みを共に悩み、人の成長を共に喜ぶとは、実の所とても難しいことですが、教育の現場では最も大切なことと言ってもよいでしょう。

 山田さん、どうか我々と共に、IS学園で『教育』をしていただけないでしょうか?」

 

 そう言って頭を下げる職員に対し、真耶は思わずその場の流れで了承の旨を即答しそうになっていた。しかしながら、この職員の言葉がなくとも、IS学園からの申し出は真耶にとって非常に魅力的なものであった。

 真耶は学生時代、名作学園ドラマと呼ばれるものをよく見ていた。妙に髪の長い中年教師が問題ばかりを起こす生徒が集められたクラスの担任を任せられ、熱い気持ちで生徒たちと向き合うそのドラマを真耶は毎週楽しみにしていた。物語終盤で麻薬に手を出し、禁断症状から教室で暴れる生徒を教師が涙ながらに止めようとする姿を真耶は涙なしに見ることが出来なかった。

 職員の話を聞いて以降、あのドラマの主人公である熱血教師に自分の姿を重ね合わせたことも一度や二度ではない。また、自分の尊敬する先輩がIS学園で教鞭をとっている事も後押しした。

 かくして山田真耶は未来ある少女たちを導く仕事として、IS学園の教師になることを決断したのであった。

 

 それからはや数か月、真耶はIS学園の指導者となるための各種手続きを済ませるとともに、指導者としての最低限の適性を計る検査を受けなければならなければならなかった。

 そして本日は、IS学園で働く上で必要な最期の適性検査、IS学園での面接が行われることとなっていた。のだが…

 

(どうして…)

 

 満員電車の人混みの中、真耶は今日という日の運命を呪わずにはいられなかった。なぜなら、

 

(どうして今日に限って目覚まし時計が故障しちゃうんですか~!!)

 

 山田真耶、就職面接のある日に盛大に寝坊する。

 

 一応真耶の名誉のために付け加えておくが、先ほど彼女が心の中で叫んだように寝坊した原因の大部分は、この日に限って職務を放棄した彼女の目覚まし時計にあるといってよい。とは言っても、それが面接官に対する言い訳になると思うほど、真耶は社会を嘗めてはいない。起床し、予定よりだいぶ睡眠時間をとっていることに気づいた彼女は大慌てで身支度を済ませた。途中焦りすぎたために二度ほど転び、膝小僧を擦りむいたものの、グッと涙を堪え、朝食も摂らないまま自宅を飛び出したのだった。

 しかしながら、地獄に仏というべきか、奇跡的にタクシーを拾うことが出来、何とか時間ぎりぎりに間に合う電車に乗ることができ今に至る。

 

(本当にタクシーを拾えてよかった…もしあれがなければ確実に遅刻しているところでした…)

 

それだけではなく、あのままであれば駅までヒールで全力疾走しなければならなかっただろうし、確実に膝の生傷は増えていたことだろう。

 

 ようやく一息つけられ、真耶は吊り輪に手を伸ばしながら小さくため息をつく。本当なら、まだ空いている時間帯の電車に乗り、座席に座って面接に向けて纏めた資料を出し最後の確認をしておきたかったのだが、すし詰め状態の車内ではそれもできない。仕方なく軽く目を閉じ、面接のシュミレーションをしようとした時、それは来た。

 

 最初は太もものあたりに軽く当たるような感触であった。その接触する時間はだんだんと長くなっていき、遂にはハッキリと手の形が分かる迄になる。困惑する真耶をよそに手は彼女の太ももに接触したまま、ゆっくりと上へと移動する。そして臀部のあたりまで来ると、その形を確かめるかのように真耶の臀部を撫でまわし始めたのだった。 

 ここまで来ると普段はあまり電車を利用せず、今まで一度もそういった経験をしたことがない真耶も自分が痴漢されていることに気が付いた。

 

(えっ!嘘っ!これって痴漢ですかっ!)

 

 そう思っている間も、相手の手は真耶の臀部を労わる様に愛撫する。そのいやらしい手つきに全身の素肌が鳥肌を立たせていることを感じながらも、その胸中は言いようのない恐怖心に襲われていた。

 

(どうしよう!声をあげなきゃ!)

 

 そう思っていながら、彼女の思いに反して声がのどから先に上がってこない。

 首を回し後ろを確認すると、50代くらいの頭頂部の禿げた男性サラリーマンが少し視線を上に向け車内広告を読んでいるようだった。

 

『やめてください。』

 

 そのたった一言すら口から出てこない。

 すると手の主は真耶が抵抗する気がないと悟ったのか、ショーツの中に手をすべり込ませようとしてくる。それには真耶も焦り、身をよじって抵抗しようとするが満員電車の中ではうまく体を動かせない。

 

「…ぃ、いゃぁ。」

 

 やっとの思いで出した声は無情にも電車の音にかき消されてしまう。そうして顔を真っ赤にして俯いた真耶を甚振るように、するりと下着の中に手が滑り込んでくる。すると、

 

 

 

 ピンピロリン♪

 

 

 

 満員電車の車内には似つかわしくない明るい機械音が響いたのと、真耶と彼女の後ろに立つ男性の間に黒いスーツ姿の男性が割り込んだのはほぼ同時だった。

 

「はい、そこまで。悪いけど、次の駅で降りてもらうよ。おっと、抵抗してもいいけど君たちの顔と制服はしっかりと覚えたからね。」

 

 そう言ってスーツの男性は真耶の後ろに立っているサラリーマンの、横に立っている二人組の女子高生の腕を掴んでいる。そして男性は事情が察せず目を丸くする真耶の方に顔を向けた。

 

「すまないけど君も少し付き合ってもらってもいいかな?何、あんまり時間はとらせないから。」

 

 そう言ってスーツ姿の男性は気障っぽくウインクを真耶に飛ばしてくる。ただ、その仕草があまりに様になっていたためか、真耶は無意識のうちに首を縦に振っていたのだった。

 

 

 

 

 次の駅に泊まり電車を降りると少女たちは男性の手を振りほどき口汚く彼を罵り始めた。

 

「おいおっさん。あたしらの腕をいきなりつかみやがって、いったいどういうつもりだよ。」

 

「そうだよ。あたしら学校に行く途中だったのにどうしてくれるんだよ。警察に訴えてやるからな。」

 

 いくらなんでも年上に聞いて言い口の利き方ではない。少女たちの言動に自然と真耶の眉間にしわができる。ところが当事者たるスーツの男性はというと、頭をかきながら苦笑を浮かべている。

 

「おっさんかぁ…まあ、君ら位からするとそうなのかもしれないけど、流石におっさん呼ばわりは酷いんじゃないかな…。」

 

 どうやら女子高生からおっさん呼ばわりされたことが一番気になったらしい…。確かに女子高生からすればだいぶ年上なのは間違いないが、男性の容姿は「おっさん」と言葉から連想されるようなくたびれた印象は全く感じない。むしろスマートな体系と、どこか大人の男性の色気を感じさせる雰囲気は真耶の脳裏に「王子様」という言葉を連想させた。男性もそのことを自覚しているあたり、実は結構なナルシストなのかもしれない。

 

 と、騒ぎを聞きつけてか制服姿の鉄道職員が真耶たちのもとにかけてきた。少女たちは職員に近づくと男性の方を指さし何やら口やかましく騒いでいる。彼女たちの話を聞き終えると、職員は男性に厳しい視線を投げかける。

 

「この子たちは貴方が其方にいる女性にあなたが痴漢していたと証言しているのですが、少しお話を聞かせていただいてもよろしいですか。」

 

 言葉こそ丁寧ではあるが、口調には湯無を言わせぬものがある。真耶は展開の速さについていけずオロオロするばかりだ。すると男性は僅かに口元を上げ微笑する。

 

「お言葉ですが、そちらのお嬢さん方が言っていることは全くのでたらめです。僕はこの子がそこの二人から下半身を触られているのを見て、それを辞めさせ電車を降りたまでです。」

 

 男性がそういうと、再び少女たちが声高に叫ぶ。

 

「はぁ!適当なこと言ってるんじゃねぇよ!てめぇがこの女のケツを撫でてたんだろうが!」

 

 ヒートアップし、さらなる暴言を吐こうとした少女たちを応援に来たほかの職員たちが宥める。最初に男性を詰問した職員は尚も鋭い視線を男性に向けている。

 

「まぁ、あなたにも言い分があるでしょう…。とりあえず、身分を証明できるものを出していただけますか。こちらもいろいろと確かめなければいけないようですし。」

 

 どうやら職員は男性の話を信じていないようだ。確かに女尊男非の社会風潮を抜きにしても、女が女に痴漢をしていたなど俄かには信じられない話である。

 男性もそれを察したのか、やれやれ、というように懐から黒い手帳を取り出した。その手帳が何なのかを理解した途端、真耶は思はず息をのんだ。

 

「警察庁警備局警備企画課課長補佐の神戸尊です。一応階級は警視ってなっています。」

 

 その場にいた者たちは男性、神戸の口から語られた内容に呆気にとられる。痴漢と思われていた男が警察官、それも肩書きからするにかなり偉い人に属するであろう人物であったことが彼らを怯ませたのだ。

 神戸はそれを気にするような素振りを見せず話を続ける。

 

「実は最近、警察内で変わった痴漢事件が起きているって噂があるんです。何でも、ある特定の時間帯の特定の電車内で痴漢が頻発しているってやつなんですけど、犯人は大抵その場で取り押さえられるのですが、彼らはみな自分はやっていないというんです。そこまでなら特に変わった話じゃ無いんですけど、痴漢が取り押えられた時、ほとんどの場合でアントワネット女学園の制服を着た生徒が証言者として関わっているとなるとそうもいきません。警察の方でも痴漢冤罪を視野に入れて捜査をしていたんですけど、被害者の女性でアントワネット女学園の関係者は一人もいませんでした。となると、考えられる可能性としては、誰かが自分のやった痴漢を他の人がやったように見せかける事なんだけど、君たちはどう思う?」

 

 神戸は話の締めに少女たちに問いかける。神戸の言う通り、一連の痴漢冤罪事件は意図的に冤罪を掛けられた疑いがあるとして捜査が進められていた。神戸がこの日電車に乗ったの愛車を車検に出していたためで痴漢の現場に出くわしたのは全くの偶然ではあるが、警察庁内ではこの事件に関する注意喚起がされていたのだ。

 

 形勢逆転。

 先ほどまで神戸に向けられていた疑いの視線は今度は少女たちに向けられている。彼女たちの着ている制服は紛れもなくアントワネット女学園のものだ。

 彼女達はつい数分前まで勝ち誇っていた顔を蒼くし、唇をわずかに震わせている。それでも神戸は容赦なく彼女たちにトドメとなる一撃を打ち込む。

 

「もし証拠がないっていうつもりなら諦めた方がいいよ。若干画像は荒いけどこれが誰の手かは解るくらいには使えるはずだからね。」

 

 そう言って神戸が取り出したスマートフォンの画面にはスカートの内部に延ばされた手が写っている。その男の手とは全く違う白い手の僅かに見える爪の部分には、若い女性が好むようなデコレーションがされていた。

 

 

 

 その後の調べで彼女たちが所属する女子グループが加担したとされる事件が次々と明らかにされる事となった。彼女たちはSNSを通じて同じ学校のグループを結成し、男性に痴漢の濡れ衣を着せ、それをグループ内で得点と表し競い合っていたという。なぜこんなことをしたかという質問に対し彼女たちは「遊び感覚だった。」「ストレス解消。」「ただ何となく。」などと話し捜査員たちを呆れさせた。

 

 

 

 

 結局あのまま少女たちは駆け付けた制服警官によって近くの警察署へ連れていかれることになった。彼女たちの今後を思うと少々気の毒には思うが全て身から出た錆。この際こっぴどく絞られる方が彼女たちの将来のためだろう。

 

「って!あああ!面接っ!」

 

 事件がひと段落し、後日調書を取るために警察者まで来てほしいと伝えられた真耶は、ようやく自分が大きく足止めをされていることに気が付いた。慌てて時間を確認すると無情な現実がそこにはあった。

 

「ああ~もうどうしよう…このままじゃ絶対間に合いませんよ…」

 

 そのまま真耶は頭を抱えへたり込んでしまう。まさか最終面接に遅れたことで内定が取り消しになるようなことはないだろうが、いずれにしても印象が悪くなるのは必定だろう。

 とりあえず連絡だけは入れておかなくては。そう思い携帯を取り出そうとしていると、真耶の肩にポンッと手が置かれる。振り向くと、そこには心配そうに真耶の顔を覗き込む神戸がいた。

 

「何か困っているみたいですけど、どうかしたんですか?もしかして、待ち合わせでもしてたとか?」

 

「…はい。実は今日、就職先の面接があったんです。でも、もう間に合いそうにありません…。」

 

 そういうと真耶はガックシというように肩を落とす。今日という日は本当に厄日だ。寝坊はしたものの何とか面接に間に合う目途がついたというのに、痴漢された挙句時間にも間に合わないという。自分のドジさとついてなさを思い返し、真耶は大きくため息をついた。

 

 すると、目に見えて落ち込んでいる真耶を見かねてか、神戸が真耶の手を取る。

 

「えっ!あ、あの!」

 

「大丈夫。僕が何とかするから諦めないで。」

 

 そう言って神戸はどこかへ電話をかけ始めた。数分後、通話を終えた神戸は再び真耶の手を取り、駅の出口へと進み始める。一方の真耶は、あまり男性と接したことも有り完全にパニックになってしまっていた。

 

「あ、あの、神戸さん!これはいったいどういう。」

 

「安心してください。目的地には必ず僕が届けますから。それに…」

 

 神戸は振り返ると真耶を安心させるように微笑んだ。

 

「困っている人を助けるのは警察官の使命です。貴女を放っておくなんてできません。」

 

 真耶はそう言って微笑む神戸の笑顔をぼうっと見つめるほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に間に合っちゃいました…。」

 

 IS学園の校門を前にし、真耶は呆然とつぶやく。しかも、指定された時間にはまだ少しばかり余裕があるのだ。家を出た時には考えられない事である。

 真耶を時間内に送り届けるために神戸がしたこと。それは警視庁にいる友人に頼み、パトカーを手配してもらうというものであった。神戸は駅前まで寄越してもらったパトカーに真耶と共に乗り込むと、サイレンを鳴らしながらIS学園まで飛ばしたのである。途中、こんな事をして大丈夫なのかと真耶が尋ねると、神戸は

 

「平気ですよ。韓国だって受験生を試験会場まで送るために警察が先導したりするんですから。」

 

 などと、よくわからない理論で真耶を納得させた。しかしながら、流石サイレンを鳴らしたパトカーというべきか、IS学園までの道程を実にスムーズに移動することが出来、こうして時間内に真耶を送り届けることが出来たのだ。

 

「神戸さん本当にありがとうございます。このお返しはいずれ必ず。」

 

「そんなの気にしなくたっていいですよ。さっきも言ったけど、警察官が困っている人を助けるのは当然なんですから。」

 

「それでも、私はあなたに助けてもらって本当に良かったって思うんです。あの時、神戸さんが助けてくれなかったと思うと…だから、もう一度きちんとあなたに感謝の気持ちを伝えたいんです!」

 

 女性からそう言われると男として悪い気はしないのは神戸も同じである。神戸は照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「うーん、じゃあ今度食事でもご一緒しませんか?結構いい店知っているんですけど。」

 

「はい!あっ!じゃあ、連絡先を送りますね。開いてる時間にでもかけてきてください。」

 

 そうして真耶は携帯の連絡先を交換すると、最後に深く礼をする。神戸はそれに手を振って答えると、パトカーに乗ってその場を後にした。

 

「…神戸…尊さんか…」

 

 遠ざかるパトカーを見送りながら、ゆっくりと噛みしめるようにその名を呟くと、真耶はIS学園の校舎に向けて足を進めるのだった。

 

 運命の出会いなど、一生のうちに何度もあるものではない。しかし、今日この日の出会いは真耶にとって間違いなく運命の出会いと呼べるものであった。彼女の心には神戸尊の名が深く刻み込まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。都内のとあるバーに二人の男がいた。一人は神戸尊。そしてもう一人は彼の友人で、現在警視庁に出向中の大河内春樹である。

 大河内は先程から神戸に向け苦い表情を向けている。

 

「大体面接に遅刻しそうになった被害者を面接会場までパトカーで送り届けるなど前代未聞だぞ。とにかく今後は二度と同じような事はできないと覚えておけ。」

 

「はい、分かってます。このようなことはもうこれきりにします。」

 

「それと、始末書は明日中に出しておけ。此方もいろいろ手を回したせいで皺寄せがきているんだからな。」

 

「どうもありがとうございます。警視庁警務部首席監察官、大河内春樹殿。」

 

 神戸の軽口に大河内はますます顔を渋くする。それを鎮めるように小瓶から取り出した錠剤を口に放り込むと、ガリガリと噛み砕いた。

 そうしてしばらくの間お互い無言で酒をあおり、ようやく大河内は神戸を呼び出した本題を切り出す。

 

「先日お前が開発した顔認証システム。あれが使用されたようだ。」

 

「どういうことですか!あれを運用するのはまだ時期尚早だって事になってたんじゃ!」

 

「ああその通りだ。だが、使用目的はとある人物の捜索に限定され、使用範囲もあまり広くなかったらしい。しかしだ…」

 

 大河内はそこで言葉を切ると、鞄から書類の束を取り出しテーブルの上に置いた。その束の表紙の部分にはでかでかと『特秘』の文字が記されている。

 

「上はあのシステムの有用性を認識し、とある行方不明者の捜索に利用したいと考えている。そしてその計画の参加者にはお前の名も挙がっている。」

 

「そんな!」

 

 神戸にとっては寝耳に水である。自分が開発を主導したシステムが人知れず使用されていただけではなく、あれを利用した計画に自分の名が挙がっているなど青天の霹靂もいいところだ。頭を抱える神戸に対し、大河内は資料の束を差し出す。

 

「神戸、この資料には顔認識システムを使う予定の計画について詳しく書いてある。しかし、これは極秘中の極秘だ。読んだ以上、強制的にお前は計画に関わることになるだろう。だが、お前が関わらなかったところであのシステムはお前の知らないところで使用されるまでだ。どうせ利用されるなら、開発者であるお前の手で使われた方が良いとは思わないか?」

 

 神戸は大河内の差し出す資料を恨めし気な視線で眺める。そこには『兎狩り計画』と書かれてあった。

 

 

 この日、神戸尊も運命の出会いのきっかけを得ることとなった。

 これから数か月後、彼もまたISをめぐる陰謀の最前線に立つことになるとは、今はまだ誰も想像さえしていない。

 

 

 

 Side Story END.




 というわけで、二代目相棒の神戸さんと僕らの副担任であるヤマヤにいろいろとフラグが立つお話でした。割と趣味に走った話でもあります。 

 あと、神戸さんの口調は再現にかなり苦戦しました。もし、ここが違っているぞ、などという所がありましたら何なりと申し付けてください。
 
 そして次回は、いよいよseson1最終話にあたるepisodeになります。
 タイトルは「悪意の至る場所」です。
 相棒らしい濃い目のビターに仕上げる予定なので、どうぞお楽しみください!
 
 
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