風太郎 四葉、そんなところに突っ立ってどうした? 今日の勉強会はサッカー部の手伝いに行くから休むと聞いていたが。
四葉 …上杉さん、これ、どう思います?
風太郎 なんだ? 手紙か? なになに、『来週の月曜日、18時に3年1組の教室で待っています』 どういうことだ?
四葉 ははは、私の靴箱の中に入れてあったんです。
二乃 どう見たってラブレターじゃない。
風太郎 二乃、いたのか。
二乃 別に、あんたと一緒に帰りたい、とかそういうわけじゃないからね。 そんなことよりも四葉、これどうすんの?
四葉 へへ、それを相談しようと思って…。
二乃 ま、おおかた夏休みひとりで寂しい男子が、急いで彼女作ろうとしてるってとこでしょ。
風太郎 …月曜ってことは、土日考える時間があるということだ。気を利かせてくれてるんだろう。 よし、明日の家庭教師の時間、他の姉妹たちと一緒に話し合う時間を作ろう。
四葉 そ、それはみんなに悪いよ…、
風太郎 いや、お前のことだ、もし付き合うとなれば、勉強どころじゃなくなるだろう。
二乃 あら、恋がきっかけで勉強するようになるかもよ。
風太郎 そう、それなんだ。俺には女心とかいうやつがさっぱりわからん。そういうのも含めて、話し合う時間を作るべきだ。 ……これはあくまで俺の意見だが、付き合うという選択肢も悪くはないと思う。この文面、文字の綺麗さ、思いやりのあるやつなんじゃないか? だとしたら、お前の支えになれるかもしれない。
四葉 ………。
翌日
風太郎 さて、今日の課題はここまでにしよう。ここからは例の懸案事項について話し合いたい。
五月 事情は聞きました。まだラブレターと決まったわけではありません。もしかしたら、学級長である四葉に相談したいことがあるのかもしれません。
四葉 そ、そうだよ!
風太郎 だが、わざわざ2人きりになれるように呼び出すほどのものがあるのか?
四葉 それは……
五月 ……たとえば、いじめがある、とか……。
三玖 ありえる。私たちが気づいてないだけで、そういうのがあってもおかしくない。
一花 先生に相談しづらいからまず学級長に、っていうのは普通だよね。誰かに言ったのがバレたらヤバい、とかよく聞くし。
風太郎 ふむ、確かにその可能性も高いな。他にも何かあるか?
三玖 果たし状…
二乃 それはないでしょ…。
風太郎 四葉、恨みを買うような覚えは…、
四葉 ないですよ! でも、気づいてないだけで、傷つけた人がいるかもしれないです…。
五月 学級長という立場は目立ちますからね。
二乃 フー君と一緒にいるから嫉妬したとかあるかもよ。
三玖 二乃じゃあるまいし。
一花 いや、意外とありそう。最近、女子にしょっちゅう話しかけられてるよね。
風太郎 ほとんどお前らに関する用事だがな…。
四葉 はは、考えたらキリがないですね。
二乃 ラブレターの線が消えたわけじゃないわ。もしそうだったら、あんたどうすんのよ。どうせまだ決まってないんでしょ。
四葉 …………
三玖 そっか、風太郎が私たちに相談したかったのって──
風太郎 四葉、お前の気持ちを聞かせてくれ。その上で、実際に行ってもらうのは他の姉妹から選ぶ。
四葉 ……!
風太郎 断るのが苦手なお前のことだ。どんな内容であれ、お前が背負い込んじまうことは変わらんだろう。それならいっそ、他のやつがお前の代わりに答えた方が確実だ。
四葉 …………
一花 …ねぇ、これって本当に四葉に宛てて来たのかな?
風太郎 どういうことだ?
一花 ほら、クラスの中でも私たちを見分けられる人ってほとんどいないでしょ? だから、二乃とか三玖と間違えてる可能性もあるってこと。
三玖 変装しなくても、バレない…?
二乃 なんなら、そっちが正解ってこともありえるわね。
五月 では、四葉が変装していくというのはどうでしょうか? そうすれば、素直な気持ちを言いやすいかもしれません。
風太郎 そんな器用なマネができるか?
四葉 ダメだよ…、みんなに迷惑かけちゃう。
一花 …今日はここまでにしようよ。あんまり考えても、しょうがないでしょ。まだ時間はあるんだし。
風太郎 そのほうがいいかもな。明日の夕方、また来る。四葉、それまでに答えを見つけてくれ。
四葉 ……はい。
翌日の夕方。
風太郎 来たぞー、って肝心の四葉はどこ行ったんだ?
三玖 わからない。メールも電話も返事しないし。
二乃 あの子、たまにこういうことするのよね。心配かけたくないのかもしれないけど、これじゃ余計心配になるじゃない。
風太郎 一花と五月は?
三玖 一花は仕事だって。でも、仕事の合間にグループで四葉にメッセージ送ってる。
風太郎 そうか、それじゃ五月は…?
二乃 …たぶん、ひとりで探しに行ってるんだと思う。
風太郎 なに⁉︎ あてがあるのか?
二乃 ないと思うわ。四葉がいないのに気づいたとき、あわてて飛び出していったから。
三玖 たぶん五月はお母さんの事を思い出したんだと思う。
風太郎 …? どういうことだ?
三玖 昔ね、四葉が迷子になったことがあって、お母さんが一日中探し回ってやっと見つかったんだ。きっと、その時のお母さんみたいになりたいと思ってるんじゃないかな。
風太郎 以心伝心の姉妹ならまだしも、違うとこだらけのお前らじゃ、どれだけ探し回っても見つけられないんじゃないか。
二乃 そうね、お母さんは私たちそれぞれの事を理解してた。けど、五月は…。
風太郎 すぐ帰ってくるように連絡してくれ。
三玖 やってみる。
五月 帰りました……。
風太郎 その様子じゃ、見つけられなかったみたいだな。
五月 まだ探していないところはあるはずです。もう一度──
風太郎 待てよ。いったん落ち着け。
五月 これが落ち着いていられますか! 最近は少しマシになったと思っていましたが、やはりあなたは冷たい人なのですね。
三玖 五月、落ち着いて。フータローの言う通り、いま焦ってもなにも変わらないと思う。
五月 三玖まで……! みんなは心配じゃないんですか⁉︎ 他の人にとっては大したことないかもしれませんけど、四葉にとってはきっと一大事だったんです! そうでなければ、こんなこと…
二乃 五月、ちょっとこっち来なさい。
五月 なんですか、二乃。
二乃 あんた、あいつが心配してないと思ってるでしょ。
五月 ええ、なぜ彼はあんなに落ち着いていられるのか、私には理解できません。
二乃 教えてあげる。あんたが帰って来るまで待ってろって言ったのはあたし。
五月 どういうことですか?
二乃 五月に帰ってくるように連絡した後、あいつは四葉を探しに行くって家を出ようとした。引き止めたの。五月が見つけられないのよ。ちょっと変装すればすぐ分からなくなるようなあいつに、四葉が見つけられるわけない。でも、心当たりがあるって言ってた。だから、せめて五月が帰ってくるまでは待ってて、あんたくらいはせめて落ち着いていてほしいって言ったの。
五月 ……言いたいことは、なんとなくわかりました。ですが──
三玖 フータロー、待って!
風太郎 五月も帰ってきたんだ、もういいだろ。
五月 上杉君…、
風太郎 正直、ここまでいくともう家庭教師の仕事じゃないだろう。だが、俺個人として、このままにしておきたくない。
五月 ……上杉君、四葉のこと、お願いしてもいいですか?
二乃 五月…!
五月 私たちが見つけられない以上、もう頼れるのはあなたしかいません。それに、…もしかしたら四葉は、あなたを待っているかもしれません。
風太郎 ……四葉のことだ、俺が見つけなくても、そのうち帰ってくるさ。お前らに心配かけるのは、あいつの本意じゃないだろうしな。
その夜、公園。
風太郎 やっぱりいたな。そんなことだろうと思った。
四葉 はは、さすが上杉さん。なんでもお見通しですね。
風太郎 何でもってわけじゃない。現に、お前の気持ちは全然わからん。
四葉 あはは…。……私を好きって言う人がいるって、全然想像できないんですよね。一花が言ったみたいに、私じゃないんじゃないかな。だから、話を聞いて誰が好きなのか確認しなくちゃ。 うん、そうだよ! そうしよう!
風太郎 もし、本気でお前だったらどうするんだ。
四葉 ありえません。それに、きっとその人は他の姉妹の事も好きになると思いますよ。顔が好きとか、そういうのなら特に。
風太郎 …お前らは、愛があれば見分けられるって、よく言ってるよな。本気で好きになったら、見分けられるかもしれない。実際、一花に告白した前田は、なんとなく一花を見分けられるようになってた。 ……そういえば二乃が言ってたな。世界には好きになってくれる人が1人くらいはいるって。
四葉 はは、きっとそれはお母さんですよ。私はいつもみんなに迷惑かけてばっかだから…。ほら、今回だって勉強会の邪魔しちゃったし!
風太郎 …ま、俺も人の気持ちに敏感な人間じゃない。あいつらが本心ではどう思ってるかなんて、全くわからん。だが、少なくとも俺は邪魔されたなんて思ってない。お前が勉強しやすい環境を用意するのも、家庭教師の仕事だしな。
四葉 上杉さん…
風太郎 それと、お前を好きって言うやつはいると思う。なんとなくだが。……随分暗くなっちまったな。じゃあな。お前も早く帰ったほうがいい。あいつら、今ごろ心配してんじゃねえか?
四葉 …………上杉さん!
風太郎 ん、なんだ?
四葉 上杉さんは! もし私が誰かと付き合うって言ったらどう思いますか⁉︎
風太郎 ……そうだな。正直、俺にもよくわからん。お前が自分で選んだんなら、それをとやかく言う筋合いはない。
四葉 …そっか。
風太郎 …だが、断言しよう! お前は、恋愛と勉強を両立できるような器用な人間ではない! ここで恋愛を選ぶなら、次のテストは再び赤点だらけになるだろう!
四葉 ……! ──ふふ、上杉さんらしいや。私、決めました! ありがとうございます! おやすみなさーい!
風太郎 …走っていっちまった。いったいどうする気なんだ…。
月曜日、放課後。
風太郎 結局、心配でついてきてしまった…。
五月 みんな考えることは同じみたいですね。
二乃 あの子、どうするか誰にも言わないんだもの。
一花 おっ、深呼吸してるみたいだね。
三玖 教室に入ったよ。
四葉 えっ…!
二乃 なに…、なにがおきたの⁉︎
四葉 え、えっ…!
三玖 随分うろたえてる。
四葉 え、江場先輩! なんでここにいるんですか⁉︎
風太郎 はあ⁉︎
二乃 なによそれ!
江場 会いたかったよ〜! 中野さん、進路決まった?
四葉 す、すみません…、話がよくわからないんですが…
江場 私ね、大学でも陸上やってるんだけど、先輩たちが引退したらピンチなの! そこで、中野さんにぜひうちの大学に来てほしくて──
四葉 は、はは…、考えときますね…。
江場 中野さ〜ん! この恩はいつか必ず──
四葉 せ、先輩! まだ決めてませんからね! というか! なんで先輩が私の靴箱に手紙を入れられたんですか⁉︎
江場 ああ、あれね。後輩に頼み込んだんだよ。だって、こうでもしないと中野さんに会えないでしょ?
四葉 メールでもいいじゃないですか! それに名前くらい書いてください! 誰に何言われるか分からなくて、不安だったんですよ!
江場 ご、ごめん。
二乃 はぁ、心配して損したわね。
五月 何事もなくてよかったじゃないですか。
風太郎 お前らも進路のこと考えとけよ。一花以外、はっきりしてないんだろ。
三玖 心配いらない。私は決めてるから。
二乃 ふーん、あんたのことだから大したことないんじゃないの?
三玖 二乃に言われたくない。
一花 ふふ。…フータロー君、なんだか嬉しそうだね。
風太郎 当然だ。俺はお前たちの家庭教師。これであいつも、思う存分勉強に集中できるだろ。
一花 本当にそれだけかな?
風太郎 ? どういう意味だ?
一花 どうもこうも、そのまんまの意味だよ。
風太郎 ?
後日
風太郎 ん、なんだこれ?
四葉 上杉さん、どうしました?
風太郎 『放課後、屋上で待つ』
三玖 果たし状…
一花 フータロー君、一体なにしたの…⁉︎
風太郎 な、なにもしてないぞ⁉︎ ほ、ほら、またラブレターかも──
三玖 乱暴な文字、きっと男の人だね。
四葉 上杉さん、もしかしてそっちも…
風太郎 そんなわけあるか!
四葉 あはは! それじゃ、私たちは先に帰ってますねー!
三玖 ケガしたら言ってね、看病してあげるから。
一花 がんばってね!男の子でしょ!
風太郎 お、おい、待て! 待ってくれ! 俺を1人にしないでくれー!