真剣で甚爾に恋しなさい!   作:ハリボー

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決行

「ほー立派な教会だこと。なになに?パイプオルガンが見所ねぇ。」

 

狩猟部隊の作戦会議潜入調査を諦めた甚爾は、パンフレット片手にリューベック観光に乗り出していた。街並みから観光名所を見て周りながら散策。途中に露店で食べ物を買い食いしながら歩く。

 

「(俺のことは気では探れないが、カメラとか体温はどうしようもないしな。穴掘って行くか?現実味がねぇかアホらしい。あの屋敷より高い所から、飛び降りる感じで窓から行くか?悪くねぇ。あの建物とか、無理だな。距離があり過ぎる。)」

 

観光を装ってはいるが、有効な侵入経路を模索しながら回っていた。

あの屋敷の侵入するにあたっての問題点が二つ存在した。

 

1. カメラやセンサーなどの防犯機器

 

2. 屋敷の周囲に建物がない事

 

甚爾とて人間、カメラにも映るし、体温などもある。気を探ることはできないが、姿を隠しているわけではないのでこう言った、現代の科学の前では透明人間ではなくなってしまう。

 

ならば、周囲の建物から飛び移って屋敷の上に行こうにも、周りに屋敷より高い建物どころか、外観を損なわないためか、建物が一切ない。

 

「まぁいいか。情報の入手は諦めて、指示が来たら強引に突破。向かって来た奴から殺していけばいい。後はさっさと誘拐しておさらばだ。うだうだ悩むなんて俺らしくない事をしたもんだ。」

 

 

だいぶ歩いた所でベンチに腰を降ろす。

 

「で?()()()()()()()()()()?」

 

「!」

 

「人がせっかく観光と洒落込んでんのによ」

 

「それは済まなかったな。だが今後の指示を伝えにきた。」

 

後ろ側のベンチに座ったメッセンジャー。声からして女だろうか?

どうでも良いかと思い早速指示を聞く。

 

「まずは意見を聞きたい。あの屋敷を見てどう思った?」

 

「屋敷って事はやっぱ誰かの家か?」

 

「ああドイツ軍中将フランク・フリードリヒの屋敷だ。狩猟部隊の本部でもある。狩猟部隊は奴が組織した部隊だからな。」

 

「なるほどね、故にあの警備か」

 

「ああ」

 

「まさに堅牢と言っていいかもな。まぁ別に潜入とかじゃないなら話は別だが。」

 

ここで甚爾は気になったことを聞いてみる。

 

「なぁお前らの目的ってなんだ?」

 

「それはお前には関係のないことだ」

 

少しばかり怒気を含んで返された言葉に、確固たる決意を感じた。

 

「まぁなんだって良いさ。」

 

これ以上は、どれだけ聞いても無駄だと悟り話を戻す。例え今ここで、この女を半殺しにして聞き出そうとしても無駄だ。

 

「要注意人物は6人だ」

 

資料を渡さる。人物の詳細を説明されるが、ほぼ資料に書いてあることの説明と同じだろうと、説明を聞き流し資料に集中する。

 

 

マルギッテ・エーベルバッハ

 

狩猟部隊 隊長

 

トンファーを用いた近接戦闘を得意とする。

普段は左目に眼帯をつけることにより、力をセーブしている。

クリスティアーネ・フリードリヒとは幼少期からともに育った仲であり、姉妹のように接する。

 

 

 

フィーネ・ベルクマン

 

狩猟部隊 副長

 

主に後方にて、全体を把握し指示を飛ばす。

敵の正確な力を割り出し、隠し持っている武器すら見破る。

マルギッテ・エーベルバッハ、リザ・ブリンガーとは士官学校の同期である。

 

 

 

リザ・ブリンガー

 

狩猟部隊 偵察担当

 

上記の2人とは士官学校同期。

主に諜報、偵察の役割を担う。

【欧州ニンジャ】【西洋ニンジャ】などの異名を持つ。

 

 

 

コジマ・ロルバッハ

 

狩猟部隊 戦闘担当

 

戦闘において攻撃の役割を担う。

小柄な姿に反し、尋常ではない力を有する。

何かしらの異能を持っていると考えられる。

 

 

 

テルマ・ミュラー

 

狩猟部隊 戦闘担当

 

戦闘において守備の役割を担う。

防衛戦の達人であり、常に鎧を着込んでいる。

 

 

 

ジークルーン・コールシュライバー

 

狩猟部隊 医療班

 

戦闘能力は皆無だが、独学で得た医療の腕が高い。

見るだけで何処が悪い、どう処置すれば治ると言ったことがわかる異能を持っていて後方支援において厄介極まりない。

 

 

目を通してみて、一癖も二癖もある連中だと言うことはわかった。

 

「他にもいるがその6人が最も厄介だ。」

 

「中将はどうなんだ?それなりにやるんだろ?」

 

「基本あまり家にいない。そこまで心配することではないから気にするな。」

 

中将という立場もあり、忙しく基本あまり家で過ごす事が多くないと言う。

 

「他に何か聞きたいことはあるか?」

 

「作戦の決行は?」

 

「近日中には。近くなればまた知らせに来る。準備だけは整えておけ。」

 

そう言うと、メッセンジャーは去っていく。

甚爾は再度資料に目を通した後、近くの露店の店主が目を離した隙に、火の中に投げ込み処分した。

 

「・・・」

 

どれだけ時間が経っただろう。日が少し傾き始めている。

街には明かりが灯りだし、夜の街へと変わり出す。日本で言う大衆酒場は客が入りだし、少し賑わい始める。

それを横目に只ぼうっとベンチに座る。

 

「あれ?とうじちゃん?」

 

声のする方を向けばジークと他にも人がいた。

 

「(たしか、リザ・ブランガーとコジマ・ロルバッハだったか)」

 

資料で見た者達だと言うことを思い出し、少し警戒する。

 

「おっ!この少年がジークの所に厄介になってる日本人?へー結構イケメンじゃん!」

 

「あっ、この前の人だ!」

 

「とうじちゃん、この2人はね私と同じ猟犬部隊なの。リッちゃんとコジちゃんだよ。」

 

「どうも」

 

「おう!」

 

「コジマはコジマな!よろしく!」

 

「とうじちゃん、こんな所で何してるの?体冷えちゃうよって!わあ!顔こんなに冷たいよ!いつから居たの⁉︎」

 

「あー昼くらいから?」

 

「おい、今夜の6時だぞ。軽く6時間はここに居たってことじゃないか。」

 

「それは冷えるな。コジマもそんなには無理。」

 

「早く帰ってお風呂入って暖まらないと!」

 

「別にこんぐらい」

 

「ダメ!」

 

力強く否定される。普段はあんなに抜けている彼女がここまでハッキリと言葉を発する姿を見て、リザとコジマは少し呆気に取られる。

 

「2人ともごめんね、食事はまた今度でいいかな?」

 

「そっちの用事あんなら構わず行けよ」

 

「そうしたら絶対とうじちゃん家に帰らないで、ここに居るつもりでしょ!」

 

「・・・そ・・んなことねぇ・・・よ?」

 

「ホラ〜絶対ウソ〜」

 

このやりとりを見ていたリザが提案を持ちかける。

 

「なら少年も一緒にどう?店に入れば多少は暖まるだろうし、スープも飲めば大丈夫でしょ。」

 

「リザいいこと言った!コジマも賛成!」

 

「いや、なんで俺も?3人で行けば良いだろ」

 

「遠慮すんなよ少年、お姉さん達が奢ってやるからそれに」

 

「それに?」

 

「どうやってジークの所に転がり込んだのか知りたいしさ!」

 

「コジマもそれ気になってた。」

 

「だろー!」

 

「決定!さぁ行こう!コジマもうお腹ぺこぺこ。大丈夫、大丈夫ちゃんとお姉さんが奢る、心配するな若者よ。」

 

グイッ!

 

「!」

 

甚爾は資料で見たコジマの情報を思い出す。

何かしらの異能を持ち、見た目からは想像ができない力を持つ。

 

「(へぇ、確かにな。だが、さして問題じゃねえな)」

 

こうして3人に連れられて、酒場に入る事になった。

 

 

入ってまず驚いたのは、注文の量だ。軽く10人前を注文。この8割はコジマの胃袋に収まるのだとか。食べ進めるうちにさらに、追加注文。

その体の何処に入っていく。そしてリザも酒が進み、若干オヤジ臭さを出しながら質問をしてくる。ジークとの出会い。リューベックに来た目的。など様々、されど本当の目的を話すわけにも行かないので、目的はあくまで観光と話した。ジークとの出会いはそのまま伝える。

それにコジマも「あの時2人でクロワッサン食べてたな!」など相槌を打つ。ここで此方からも質問をしてみることにした。

 

 

「2人も軍人なんだろ」

 

「まぁねー」

 

「あんた達と同じ軍服を着た人達が、大通りを抜けた大きな屋敷に入っていくのを見たが、ドイツの軍の基地ってのはみんなあんな感じなのか?」

 

「あーそっか。確かに、他の国の軍基地とか見ると不思議に思っちまうか。別に甚爾が思っている事は間違っちゃいないよ。現に他のドイツ軍基地を見ると、他国同様の作りさね。ウチはちょっと特別でね。」

 

「別に詳しく聞く気はねえ。」

 

「へー、結構あれやこれや気になって聞いてくると思ったけど、引き際は弁えてるか。」

 

「とうじは良い子だな。コジマが褒めてあげよう!偉い偉い」

 

「つか本当に年上なのか?あんた?」

 

「コジマ、何処からどう見ても立派な大人のお姉さん」

 

「・・・」

 

「とうじちゃん、もう体冷えてない?大丈夫?」

 

「ああ」

 

「それはよかった〜」

 

「ホント、構いたがりの姉とそれを鬱陶しそうにする姉弟みたいだね」

 

ギロッ!

 

「ごめんごめん。お詫びにちょっち教えてあげる。あの屋敷は私達の上司である人の家なんだ。私たちの部隊は近隣に部屋借りたりしてるけど、あそこで寝泊まりもする。寧ろ部屋を借りるなんてしなくても、リューベックにいる間はここに住んでも良いって言うんだよ。だから甚爾が見たのはその子達じゃないかな?」

 

「なるほど」

 

「まぁそれを抜きにしても、私達の本部って言うのも間違いではないけどね」

「すまない、少々遅れました。おや?」

 

現れたのは赤いロングの髪、トレードマークの眼帯をつけた猟犬部隊の隊長!マルギッテ・エーベルバッハその人だった。

 

「おーう!マルやっと来たか!」

 

「隊長!お疲れ様!」

 

「お疲れ様です。隊長」

 

「ああ、書類整理に少し時間がかかってしまいました。それで?そちらの少年は?」

 

「こいつが例の少年だよマル」

 

「ああ、ジークが拾ってきたという」

 

「ちょっと待て、どういう風に伝わってんだ俺の事!」

 

「初めまして、マルギッテ・エーベルバッハです。貴方のことはジークから聞いています。」

 

「伏黒甚爾」

 

「聞けよマル。甚爾の奴さこの寒い中、歴史散策地区の川沿いのベンチに半日いたらしいぜ。」

 

「なんと!見た感じかなりの軽装ですが、その格好で?風邪をひいてしまいます。」

 

「それを私たちが見つけてさ、その時のジークの顔。プククッ!」

 

「この世の終わりみたいだった。コジマ腹抱えて笑った。」

 

「なんで写真撮ってるの~」

 

「なるほど読めました。それで風邪をひくと心配したジークが連れ帰ろうとしたが、リザが一緒に食事でもしている内に温まるから問題ない。とでも言って誘ったのでしょう?」

 

「正~解~」

 

「何なら今からでもお暇するが?」

 

「問題ありません。そういうことでしたら一緒に食べましょう。それに日本について色々聞きたい」

 

「日本に行く予定でもあるのか?」

 

「来年お嬢様が...私達の上司の娘さんですが、日本の学校に留学をしたいそうで」

 

「細かな地域とかは無理だが、俺が言ったことある場所とかでいいなら」

 

「ええそれで構いません。感謝します。」

 

こうして5人の会食はゆったりと流れていった。

 

しかし美女美少女が四人も集まると面倒ごとは寄ってくる。

 

「おおハーレムとは羨ましい」

 

「俺たちにもおこぼれくれよ」

 

「そうそう。てかこんなガキほっといてさ俺たちと飲もうぜ?その後もっとたのしいこともな。ガキてめえは家帰って一人でマスこいて寝ろ」

 

バリィンッ!

 

「「「ぎゃはははははははははっ」

 

男の一人が中身の入ったビール瓶で甚爾の頭を殴る。瓶が砕け中身は甚爾にかかる。

 

「とうじちゃん!」

 

「なぁマル」

 

「隊長こいつらぶっ飛ばしていい?」

 

「ええ、殺さぬ程度に痛い目に合わせてあげなさい」

 

三人がナンパしてきた男たちに制裁を加えようとした瞬間。

 

 

「----」

 

「あ?何だガキ怖くてちびったか」

 

「なんとか言えよ。ぎゃはは」

 

男が甚爾の肩をつかんだ。だが、つかんだ腕はまるで水を絞った後の雑巾のようにねじれていた。

 

「へ?」

 

「「「「え?」」」」

 

店にいた者たち男たちもマルギッテ達も固まる。ただ一人を除いて。

 

「安心しろ殺しはしないさ。殺しはな。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

      ゾワッ

 

 

 

一瞬放たれる殺気に、皆金縛りにあったかのように固まる。

 

 

甚爾はテーブルにあったナイフとフォークをつかみ一人の男の両眼に突き刺す。そのまま喉をつぶし意識も刈り取る。腕がねじれた男のもう片方の腕もねじる。そして床に顔面を強打させるように踏みつけこちらも意識を刈り取る。最後に残った、茫然としている男。そいつの鼓膜を両手の中指で破り最後に顔面鷲掴み。

 

 

「二度とそのきたねぇ面で表を歩くんじゃねえよカス。」

 

そう言って男の顔面の皮を力のまま剥がしとった。

 

「ああ、良かったな。きたねぇ面取れたぜ。聞こえてねえか、やったの俺だけど」

 

「ジーク急いで治療を!」

 

「は、ハイッ」

 

まるで流れる水流のごとく行われた一連の流れに呆気にとられるが、さすがは軍人。

いち早く復活し指示を飛ばす。そしてジークが行う治療を目の当たりにし驚く。すでに男たちの血は止まり、包帯がまかれた後だった。早くそして正確にどこをどうやったら治るのか。資料にあった通り彼女にはそれがわかるのだろう。

男たちは病院へと運ばれ、店の騒動は落ち着き食事が再開された。店からはお礼と称し一番高いメニューが振る舞われた。なんでも彼らの迷惑行為は今回が初めてではなく、ほとほと困っていたそうだ。

感謝を述べられている甚爾に色々聞きたいマルギッテ達であったが、聞くに聞けずそのまま時間は流れていった。

 

 

酒も時間も進みそろそろお開きの時間に差し掛かり、自分の分は出すと甚爾が言うとマルギッテに日本の話を聞かせてくれたお礼だと遮られた。あまり納得のいっていない表情の甚爾に、貴方は子供で私達は大人。こういう場面では素直に聞き入れておくものです。こういわれてはぐうの音も出ないので奢ってもらった。

 

「では、おやすみなさい」

 

「またな!」

 

「寝る子は育つ!」

 

「お休み、みんな」

 

「ご馳走様でした。おやすみなさい」

 

こうして互いに帰路に就くのだった。

 

 

 

ーマルギッテsideー

 

 

「どうしたんだよマル?」

 

「いえ別に」

 

「甚爾の事か」

 

「・・・ええ、あんな人間初めてです。気を一切感じなかった」

 

「感じないほど微弱だとか?」

 

「だとしても、席が隣の距離で感じることがないなど初めてでした。」

 

「けど、驚いたよな。あれ相当場数を踏んでる動きだ。多分だけど人も殺してる。」

 

「でしょうね。伏黒甚爾、少し調べてみる必要がありそうですね。リザ頼めますか?」

 

「おうよ!任せな!」

 

「出来ればあの戦闘力実に欲しい人材です。」

 

「私と似たタイプかもな。」

 

「確かにコジーと似てるかも」

 

マルギッテは考える。わずか数秒にも満たないあの時間で行われたあの動き。果たして自分にできるだろうか?

もし、あれほどの使い手が襲ってきたらお嬢様を守り切れるだろうか。そして一瞬だけ放たれたあの殺気、動けなかった。恐怖してしまった。久しく感じた己の死。

 

「訓練量増やしますか」

 

「「えっ」」

 

狩猟部隊の訓練が翌日より、さらに過酷で量も倍以上になった。

 

 

ーside outー

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

コッ コッ コッ コッ

テク テク テク テク

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いの歩く音だけが聞こえる。

ジークと甚爾は、帰り道何もしゃべる事無く無言のまま歩いていた。

そしてそのままジークの家に着く。だが、甚爾は中に入ろうとしない。ただ黙って俯き立つ。

 

「とうじちゃん?」

 

「・・・」

 

「どうしたの?早く入ろう、また体が冷えちゃうよ?」

 

「・・・」

 

「ほら・・・ね?入ろう?」

 

ジークが手を引き家の中に入ろうと促すが、甚爾は頑なに動かない。

 

「なぜだ」

 

今まで何もしゃべらなかった甚爾が話し出す。

 

「なんでお前は、変わらないんだ?さっきの見ただろうが、殺しはしてないがそれでも重傷は負わせた。なぜだ?」

 

「うん・・・怖かった。あの時のとうじちゃんすごく怖かった。」

 

「お前は言ったな。俺は優しいと、そんなわけねえだろ。さっきの三人は殺さなかったが、俺は過去に何人も殺してる。」

 

「うん。隊長たちも気が付いてると思う。」

 

「なら・・」

 

「でも、私は今でもとうじちゃんのに対する考えは変わらないよ。」

 

    ガシッ

 

甚爾はジークの首に手をかける。

 

「最近分からなくなる。キョウもお前も・・・なんで俺にやさしくする。今まではこんなうだうだ悩むことなんてなかった。お前らのせいで!!」

 

    ギリギリギリッ

 

少しずつ首を絞める。しかしジークの目は真っ直ぐに甚爾を見つめる。あの時と同じだ。

 

「なんでそんな目で俺を見る!」

 

「クッ・・・と・・うじ・・・ちゃ」

 

「!」

 

パッ  ドサッ

 

「ケホッケホッ」

 

「世話になったな」

 

「とうじちゃん!」

 

振り返ることなく甚爾は霞のごとく消え去っていった。

 

 

ジークの家からかなり離れた場所で甚爾は、向けようのない苛立ちを抱えたたずんでいた。

 

「伏黒甚爾」

 

ブォン!!!

 

振り向きざまに放たれる裏拳。それはメッセンジャーの横顔寸前で止まる。

 

「!」

 

「てめーか」

 

「・・・私がこの距離まで接近しても気が付かないとはな。」

 

「黙れ」

 

「指示を伝えに来た。決行日が決まった、急だが明日だ。」

 

「あ?」

 

「明日、猟犬部隊は要人をイタリアまで護衛する。その時にあの屋敷は手薄になる。そこを狙ってお前には」

 

「娘をさらって来いってんだろ。分かってる、失せろ。

 

「・・・これがターゲットの写真だ。方法は任せる、しくじるなよ。」

 

メッセンジャーは去っていく。写真を見るとそこには、金髪ツインテールで華やかな笑顔を浮かべる少女が写っていた。

 

「俺の何がわかる。」

 

言葉は夜の闇に溶けていった。

 

 

 

「…とうじちゃん」

 

「ジークの奴どうしたんだコジー?」

 

「実は甚爾が出て居ちゃったらしい」

 

「へ?」

 

「昨日帰ってから喧嘩したんだって」

 

「マジ!まあそれでよかったのかもな」

 

「おはよう」

 

「おはよう隊長」

 

「おはよう」

 

「…おはようございます」

 

「リザ昨日頼んだことは?」

 

「そのことだけど結構すごいことが分かったぜ」

 

「それは重畳です。さあ作戦会議を始めますよ。」

 

「(とうじちゃん。どこ行っちゃたの)」

 

 

 

 

 

ピーザザッー

 

 

 

『聞こえるか?』

 

「…ああ」

 

『そろそろ猟犬部隊が要人を連れ出発する。作戦開始は奴らの乗った専用機が飛び立った後だ』

 

「…ああ」

 

『おい、貴様本当に「黙れ」ッ!』

 

「てめーらの事はどうでもいい。情報だけ寄こせ」

 

『ターゲットの部屋は、お前がいる場所から見て三階の一番左の窓が見えるだろう。その部屋だ。』

 

「よく屋敷内部の構造を入手できたもんだな」

 

『次の無線が決行の合図だ』

 

ピッ

 

無線が切れる。最後にリューベックの街を見渡す。滞在した日数は少ないが中国と負けず劣らず濃い数日だった。

 

 

 

     とうじちゃんは優しいから

 

 

「(くだらねぇ)」

 

30分ほど経っただろうか、とうとう無線が入る。

 

 

『奴らの飛行機の高度が上空3,000メートルを超えた。作戦開始だ。』

 

「フン、用心深いこった。」

 

そして甚爾は、肉体能力をフルに使い駆け出した。

1㎞離れた位置から駆け出した甚爾は、顔隠すフード付きのコートを靡かせながら僅か数秒で屋敷の門の前に迫る。だがスピードを緩めることなく門を飛び越える。着地と同時に再度一直線に駆け出す。

 

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴーーーーーーーーー

 

 

警報が鳴り響く。だがそんなことは関係がない。今ここを守る狩猟部隊は上空だ。残っているのもごく少数。屋敷に入り一気にターゲットの部屋を目指す。はずだった。屋敷の扉を正面から殴り飛ばし入った直後、足を止めた。あり得ない。いるはずのない奴らが目の前にいた。

 

「おいおい。今は上空で要人を警護してるんじゃねえのかよ。」

 

「その任務は我々が準備した偽の任務です。あなた達ブルーにとってはおいしい話だったでしょう?ノコノコと屋敷を出て行ってくれるのですから。」

 

「チッ!偽の情報つかまされてんじゃねえよ。使えね依頼主だ」

 

「そちらにも私達の仲間が潜入しているのですよ。ではそろそろ、そのフードの下を見せてもらいましょうか。総員かかれ!」

 

一斉に猟犬部隊の猛者たちが、四方八方から甚爾に襲い掛かる。

 

「はああああっ!」

 

「くらえ!」

 

思わぬ待ち伏せ。もしここに立っているのが自分ではなかったら、諦めおとなしく捕まっていただろう。

 

 

ガシッ!ガシッ!

 

「「!」」

 

ブオンッ   ドガンッ

 

正面と背後から来た二人の腕を掴みそのまま壁に放り投げる。投げ飛ばされた二人は、壁にめり込み壁の彫刻と化す。そのまま動かなくなってしまった。

 

「おいおい」

 

「これは…」

 

「よくも!」

 

「まて!テル!」

 

全員の足が止まり、壁にめり込んだ二人を見て絶句する。予想だにしていなかった敵の力に驚愕をあらわにする。

テルマ・ミュラーはそれを見て怒りをあらわにし、甚爾に迫る。鎧の手に握られているのは特注のモーニグスターメイス。それを振りかぶり...。

 

 

「よくも二人を!」

 

ドンッ!っと重い一撃が振るわれる。しかし。

 

「へ~意外と軽いなコレ」

 

「「「「「‼」」」」」」

 

片手でメイスを握る甚爾。甚爾がやったことは振り下ろされたメイスを受け止め、そのまま太刀取りの要領で奪ったのだ。されどあまりに流れるように行われたため、テルマも奪われたと気が付かなかった。

 

「おい、鎧。こんな玩具で何しよってんだ?」

 

ギィィィィィィ

 

鉄がひしゃげてメイスは形をとどめぬ程に曲げられた。

 

「それと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

誰もが言葉をはすることが出来ない。あり得ないその言葉すらも。人の拳が鎧を貫くなど。

 

「がはっ」

 

「テルマァァァァァァァァァァァァ」

 

そこからは一方的な蹂躙。

 

 

固まり動けない者たちを

 

「ひっ!」 ドゴッ

 

蹴りで壁に埋め込む。向かってくるものも容赦なく。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

ゴキュバキブオンバコンッ

 

殴打殴打殴打の嵐。腕を折り投げ飛ばす。背後の敵は裏拳で沈める。

 

「くらえ!」

 

コジマが真正面から迫る。

 

「馬鹿が」

 

迎え撃とうと拳をふるう。

 

「っ!」

 

「えい!」

 

ドゴォン

 

強烈な一撃が突き刺さる。手加減一切なしのコジマの一撃。その威力を知る猟犬部隊はこれで勝利を確信する。

 

「これでコジマ達のか‟ドガァン”ギャア!」

 

「コジー!!」

 

「そのちびの一撃なんざ、毛ほどにも効くかよバカが」

 

コキコキッっと首を鳴らしながら甚爾がたたずむ。

 

「(つかなんでさっき一瞬動きが...糸?ああそういう)」

 

甚爾の姿が掻き消える。

 

「糸はてめぇだろ、リザ・ブリンガー」

 

「しまっ!」

 

「リザッ!」

 

「がはっ」

 

放たれる鋭い蹴り。意識を刈り取るには十分だった。

 

「貴様よくも!」

 

「隊長さんあんたじゃ無理だよ」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

眼帯を捨て、本気で殺しにかかるマルギッテ。しかし甚爾にとっては遅すぎる速度であり、すでに攻撃は終わっていた。

 

「ガフッ」ボタボタボタ

 

いきなりの吐血。そして腹部より感じる激痛。

 

「(何を一体私は何をされた?攻撃?一体いつ食らった?)」

 

「あんた眼帯を捨てる一瞬だけ右目を腕で遮ったろ?そん時だよあんたの腹に攻撃を加えたの」

 

「あの……あのわずかな…あり得るはずが」

 

「現に膝をついてんのは誰だよ」

 

そしてマルギッテにゆっくりと近づく。

 

「殺しはしねえよ」

 

マルギッテの意識はや三重と沈んでいった。

 

「さてと」

 

「まって!」

 

振り返ればジークがいた。

 

「(馬鹿かてめえは!お前は戦闘なんざからっきしだろうが!)」

 

「よくもみんなを許さない!」

 

チャキッ

 

ジークが拳銃を構える。それを見て甚爾はジークに向かって歩き出す。

 

パンッ!

 

躱すことなく歩く。普段の訓練でも戦いに関する事に才能がないのだろう、狙いがブレブレだ。

 

パンッ!

 

一歩

 

パンッ

 

一歩

 

パンッ!

 

また一歩

 

そろそろ距離が詰まる。発砲数も10を超えた。

 

「っ!」

 

パンッ!

 

パシッ!

 

至近距離で弾丸をつかみ取る。球を捨て去りそのまま...

 

バチィィィィィン

 

ジークの頬をたたく。

 

「俺を攻撃する暇があるなら、こいつらの治療に専念するこったな」

 

そう言い残し、ターゲットの部屋へ向かった。

 

「まぁいねえわな」

 

しかし部屋もの家の殻、あれだけ盛大に待ち構えていたのだから当然といえば当然である。

 

「どうするか『ぴぴ…伏黒甚爾』あ?」

 

『ターゲットはこちらで確保した。すぐに脱出を図れ』

 

何と別で動いていたブルー構成員が確保したと連絡が入る。

 

「そのまえによ、情報と違いすぎんぞ。ゴミが!猟犬部隊一同で歓迎されちまったじゃねえか」

 

『それについてはこちらのミスだ。報酬に色を付けよう』

 

「あと俺に情報を寄こしたやつもだ、殺す。」

 

『わかった』

 

通信が切れる。もうここには用はない。ジークは今頃猟犬部隊の皆を治療しているだろう。

 

「じゃあな」

 

悲しげな姿はもうどこにもいなかった。

 

 

 

 

 

呪術廻戦二期 伏黒甚爾登場! マジで甚爾に恋しなさい!再連載始めるか?

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