真剣で甚爾に恋しなさい!   作:ハリボー

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15話を少し最後の涼音の部分を修正しました。
前回の感想で、キャラはどんなのをイメージしたら良いかと、意見を頂きました。なのでここでパパッと書きます。

八咫=アズレン  吾妻

銀 =呪術廻戦  夜蛾正道 グラサンかけてる方ね!

涼音=アズレン  ソビエツカヤベラルーシア  

宝 =アズレン   Z23  

凛 =アズレン  ジャベリン

てな感じです!
オリキャラで女の子を出す時は、アズレンで出す方向で行きます。
もし好きなキャラがいて、その娘が酷いことになったらごめんなさい。
※性格や喋り方は同じにはしません。あくまでも、容姿が同じというだけです。


託された者・仲直り

「は?許嫁?お前が?俺の?冗談だろ?」

 

「いいえ。紛れもない事実ですよ。」

 

カポーン  カポーン  カポーン

 

どこからともなく、どこかで聞いたことがあるようなエコー音が聞こえた気がした。

風呂に浸かりながら話す二人。風呂場もなかなかに広い。だというのに二人の距離はゼロ。というよりも涼音が一方的に、甚爾にくっついていた。

 

「そんな話、聞いた覚えはねぇ。」

 

「それは旦那様が出ていかれた後ですもの、知らぬのは当たり前。ですが以前私達はお会いしているのですよ。10年前の新年の集まりの時に。」

 

10年前。その時より既に、要からの虐待を受けていた。1月の雪の降る夜に、当主からその子や孫に至るまで、中で豪華な料理に舌鼓を打ち、酒を飲み楽しんでいた。だが、そこに甚時の姿はない。要が集まりに出ぬよう指示したからだ。集まりが行われている部屋には近づくなと、厳命され甚爾は、1人指示された部屋からは遠い庭で、1人鍛錬をしていた。そこに偶々通りかかったのが涼音である。

 

「あの時は驚きました。ウチらは要様から、旦那様は、体調を崩されて寝込んでいる。そう聞かされとったものですから。」

 

「…」

 

すぐに声をかけようとした涼音。しかし、それをしてはいけないと、即座に影に隠れる。美しいのだ。流れるような足捌き。正拳、蹴り、一つ一つの動作があまりにも滑らかで目が離せなかった。自身も鍛錬をしているからこそわかる。この歳でここまでの武。果たして分家当主で、今の甚爾に勝てるのはなんにんだろうか。しばらく見とれていると宙に何かが飛び散っているのがわかった。答えは足元を見ればわかった。血だ。冬空の中、素手と素足で雪が積もる庭で、鍛錬をしていれば霜焼けが起き、最悪血も出る。これは隠れている場合ではない。即座に飛び出し声をかけようとするが、またしても躊躇する。甚爾が、一つの構えのまま動かなくなった。そして、空中の何かを掴むような仕草をして、握り拳を放つ。

 

   【黒閃】

 

屋敷全体に歪に歪んだ気が迸る。涼音は固まったまま動けない。すぐに足音が聞こえてくる。きっと先程の気を頼りに大人達が向かっているのだろう。そう考えてると甚爾がいつの間にか隣にいた。

 

「おい、俺がいた事は言うんじゃねぞ。喋ったら殺す。」

 

そう言ってさっていく後ろ姿に涼音は。

 

「待って、私は分家の一つ香本家の長女、涼音!私、絶対に君のお嫁さんになるから!」

 

そう言い切ったタイミングで甚爾は曲がり角の陰に消えた。

 

 

「あの後は大変でした。大人達が来て何があったの大騒ぎ。ですが重国様は、何となく察しておられるようでした。そして一月後、旦那様がこの家を出て、私は香本家現当主のお婆様と一緒に、重国様に呼ばれそこで旦那様の許嫁と言う名誉を拝命したのです。」

 

涼音が向かい合う形で、甚爾に跨って枝垂れかかり、首の後ろに手を回す。

 

「要様は三年前に二十八家のうち十八家の当主を変えました。それも次期当主候補だった者ではなく、候補になり損ねた者。達ばかりをです。」

 

「大方、当主にしてやる代わりに、自分に着けってことだろ。あほらし。」

 

「はい。それで意見を多数決で決める時など、必ず要様の意見が通り、やりたい放題です。」

 

大事な決議の案など、家の方針を決める場においても要と綺羅は、自分達の陣営に票を集めさせていた。

 

「そして重国様にも、禪院家次期当主は綺羅にするよう言ってきたのです。分家当主たちにも推薦状を書かせる始末。」

 

その状況を容易に想像できてしまい、甚爾は思わず鼻で笑ってしまった。正面にいる涼音には、当然見られてしまう。

 

「ハッ。」

 

「何かおかしかったですか?」

 

「容易にその場面を想像出来ちまったから、思わず笑っちまった。」

 

「なるほど。なかなかに悪いお顔をしておりましたよ。とても好ましかったですがね。」

 

そう言って涼音が静かに顔を近づける。

 

「んっ・・・・ぺろ」

 

涼音は甚爾の口元の傷跡を舐める。

 

「おい。」

 

「フフッ。難しいお話はここまで。せっかく二人きりなのですから、楽しみませんと。」

 

「…」

 

ザバァァァ。甚爾は黙って涼音を降ろし、体を洗いに向かう。

 

「あらあら。」

 

その後ろに涼音も続く。

 

「お背中流しましょうか?」

 

「…ああ。」

 

甚爾が椅子に座り、涼音はその後ろに椅子を持って来て座る。甚爾の引き締まった肉体に、思わず感嘆の溜息が漏れ、目をとろんとさせる涼音。

 

「ハ~・・・・・・んッ・・・んちゅ。」

 

そして思わず背中にキスを落とす。

 

「おい。洗わねえのならどけ。」

 

「あらあら。ちゃんと洗いますよ。少しくらい、いいではないですか。うち達は夫婦になるのですから。」

 

 

 

   バンッ!!!

 

 

突然、風呂場の入口が開く。

 

「「「いいわけあるか!」」」

 

「あ?」

 

「あらあら。」

 

局、ミサゴ、八咫、先ほどまで争っていた三人がいた。

 

「お初にお目にかかります局様。私は…」

 

「八咫から聞いておる。必要はない。」

 

「そうですか。」

 

「しかし、夫婦にもなってないうちから何をしておるか!」

 

「そうよ!とう君はお姉さんと入るの!」

 

「いいえ。お三方はどうぞおあがりください。若様のお背中は私が!」

 

「許嫁であるうちが当然かと!」

 

三すくみならぬ四すくみ。

 

「勝手にやってろ。」

 

「「「「え?」」」」

 

四人が威嚇しあっている間に、洗い終わってしまった甚爾は、さっそうと風呂から上がっていった。

風呂から上がると、銀が待っており甚爾が止まる部屋えと案内された。甚爾が昔使っていた部屋は、要の指示で今は別の部屋になっていると聞かされた。通された部屋は、高級旅館顔負けの部屋で、一人で止まるには勿体ないほどだった。さっそく中に入って布団に仰向けになる。

些か今日はかなり疲れていた甚爾は、すぐに睡魔が襲う。

 

「(ねむ。この家で寝んのも10年ぶりか。…じじい。」

 

 

 

===================================

 

 

「(ここは?禪院家か?俺はさっきまで部屋で横に、てかなんで仕事着着てんだ?)」

 

先程まで夜であったのに今は昼頃と言った時間帯だろう。そう当たりをつけた。眠っていた部屋とは別の部屋を出る。しばらく廊下を歩くと、何やら忙しそうに準備をしている侍女がいた。

 

「おい。」

 

声をかけるが無視され素通りされる。要の命令で、無視されるのは慣れたものだが、少し違和感があった。

 

「(今の女。僅かでも俺に気が付いた素振りもなかった。多少なりとも視界に入れば、目線なんかが動くはずだが。まるで見えていないかのように。)」

 

そこに夜蛾が通りかかる。だが姿がほんの少し違う。頭は坊主でトレードマークのグラサンをかけていない。これで甚爾は確信する。

 

「あっ、夢かこれ。」

 

桜が咲いているあたり、季節は春。侍女達が忙しくしているあたり、春の茶会の準備だろう。

 

「俺には関係ないことだったから、忘れてたな。」

 

しばらくウロウロと廊下を歩く。すると何かを振る音が聞こえてきた。その庭には、幼いころの甚爾がいた。

まさか、幼いころの自分を見つけるとは思っておらず、その場で固まってしまう。

 

※ここから幼いころの甚爾をとうじにいたします。

 

しばらく様子を見ていると、とうじは先程まで刀を振っていたが、今度は鉈をもって振り始めた。それを見てこんなこともやっていたな、と懐かしい気持ちになる。

 

どこからか笑い声が聞こえてくる。きっと春の茶会が始まったのだろう。本当なら茶会に出て、分家の子供たちと遊んだりする時期。それが離れた庭で一人武器を振るい修行。手の豆が破れて血が出ていようと、構わず振るう。せめて、自分だけは、見届けようと過去の自分を見つめ続ける甚爾。だが、自分以外にもとおじを見つめる視線があることに気が付いた。

 

「(八咫に夜蛾、それにあいつら。)」

 

当時はまだ、高校生だった八咫。成人はしていたがスキンヘッドでグラサンをかけていない夜蛾。そして、他のいつも甚爾を思ってくれていた者達。八咫など、とうじが鉈を落としその手から血が流れているのを見て、泣きそうな顔で駆け寄ろうとするが、夜蛾に止められている。止める夜蛾の顔も、唇を噛み悔しそうな、泣きそうな顔を必死にこらえている。

 

「あいつら…。」

 

知らなかった。当時は全てが自分を否定し、のけ者にされていると思っていた。あいつらも重国の命令で自分と話しているとばかり思っていた。だけどそれは大きな間違いだった。八咫達は、いつも甚爾を思ってくれていた。影ながら見守ってくれていた。

 

「馬鹿だろ。あいつら。ハハッ…お前らホントばがだな。」

 

声が震える。これが夢でよかった。誰にも見られることはない。最後に涙を流したのはいつだったか。手で目元を覆う。

 

「とうじ。こんなところで何してる。」

 

すると突然、野太く力強い声がとうじを呼ぶ。

 

「「じじい。」」

 

とおじと甚爾の声が重なる。そこには、茶会に出ているはずの重国が立っていた。

 

「おじいちゃんと呼ばんかーーーーーーー!!」

 

ドカッ!とおじの頭にゲンコツが落とされる。それをとおじは鉈の側面で受ける。

 

「ぐぅっ!」

 

「ほう。よく受けた!これはどうだ。」

 

すると重国は刀を手にとり振りぬいた。

 

「禪院家奥義が一つ【神無(かんむる)】」

 

その衝撃は受け止めた鉈からではなく、とうじの体から走る。神無は武器を通して相手に直接衝撃を与える技であり。実質、防御不可能の技であった。

 

「ちょいとやり過ぎた。とうじ大丈夫か?」

 

「いてぇ。」

 

「ほれ、休憩だ。こっち来い。」

 

そう言われて重国の傍に行く。

 

「もう昼時だ。腹減ってるだろ?飯食うぞ。」

 

そう言って近くの部屋へ入る。そこには昼食が用意されており、二人は向かい合って食事を始めた。

 

「なんでモツ鍋?」

 

「わしが好きだから。」

 

「(そういやじじいも、好きだったなぁ。モツ鍋。」

 

夢の中で思い出すことになろうとは、思わなかった甚爾。しばらくして二人は食べ終わり、まったりと話をしていた。

 

「なんで茶会に出てないんだよ。じじい。」

 

「おじいちゃんと呼べ。あんな堅苦しい会にいちいち参加なんぞしてられるか。さぼりださぼり。」

 

などと言ってはいるが、当主である重国が出ないのは大問題。だというのに誰も探しに来ないのは不自然であった。それもそのはず、重国は会には出席したが、すぐに退席したのだ。要が今回も、とうじが休みだと色々理由をつけて述べたあたりで、流石におかしいと感じていた。一度や二度ならばいざ知らず。毎回ともなると不自然だ。理由に関しても嘘だということは、八咫や銀。そして分家の信頼のおける者達から聞いており、今回も要の考えだと分かり、会を抜けたのだ。これには要は驚いていたが知ったことではない。

 

「(奴を禪院家に入れてしまったことは、わしの不覚。奴は禪院家を名乗るのにふさわしくはない。それにここ最近、分家の小僧どもを使って妙な動きを見せておる。警戒は必要か。)」

 

「おい。じじい。」

 

とうじに呼ばれていることに気が付き、思考が現実に戻ってくる。

 

「俺は、いないほうがいいのか?」

 

「なに?」

 

「あの女も綺羅も侍女や分家の奴ら、みんな俺を嫌う。禅院の奥義を使えない屑だと。俺には気がない。そんで、気を使って放つ禪院家の奥義は使えない。さっきの、神無だって使えない。気は見えても、気は扱えない。出来損ないの猿だって。」

 

「…」

 

とうじが吐いた弱音に、黙って耳を傾ける。

 

「奥義を継承できないお前は禪院家の恥だと。あの女に言われた。確かにな。それに比べたら綺羅のほうがいいだろうさ。気もそこそこ持ってて、武術のセンスもある。俺なんいなくたっていいんじゃねえか。」

 

「そういや、昔そんなこと思ってたっけな。なんで吹っ切れたんだっけ?」

 

甚爾は昔に思っていた本音を思い出す。

 

「とうじ。」

 

重国が言葉を挟む。

 

「それはお前の本心か?お前は健によく似ておる。顔も言動も性格も。健は馬鹿にされることだけは我慢ならんやつでな、学生の頃だった。自分を笑った相手の家族全員を病院送りにしよった。笑えるだろ?そんな健の息子であるお前が、コケにされて悔しくないのか。やり返したくないのか。」

 

「ぶっ壊したい!何もかもすべて!」

 

「ならばとおじ。お前はまずいついかなる時でも、己を保たなければならない。そして非情にならなければいかん。お前は誰に事も尊んではいけない。他人も自分すらも。」

 

「どういうこと?」

 

「お前は優しい奴だ。そんなお前がいざ戦いにおいて非情慣れきれはしない。奴らを壊したいと思うなら、その時まで非情に徹するのだ。よいな。」

 

まだ分からないといった顔のとうじを重国は優しくなでる。

 

「とうじ。天与呪縛は、確かにお前から気を奪った。しかし代わりに誰にも負けぬ肉体と五感を手に入れた。それはお前にしかない才だ。世の中には音を色で感じる色聴というものがある。お前の気の感じ方はそれに似ている。一切持ちえないがゆえに、身に付いた感覚だろう。それを知覚できているならば、奥義とて使えるかもしれない。」

 

その言葉にとおじは目を見開く。

 

「いいかとうじ!わしらはしょせん気を使い己を強化しているにすぎん!その延長戦での技だ。だがお前は強化をしたわしらの肉体に、素で戦える肉体を持っているのだ。猿だ?屑だ?言わせたいものには言わせておけ。己を磨き部を磨き。狡猾に、そして冷酷に、獲物を狩るその瞬間を待つのだ。そして狩る時こそ思い知らせてやれ!!!!!!」

 

 

 

 

己に狩られる貴様らは、猿以下の屑であることを!

 

 

 

「相手をあざ笑え!貴様らは狩られるだけの獲物だと刻み付けてやるのだ!とうじ!」

 

 

「(ああ、そうだ。そうだったな。ありがとよ、じじい。忘れてた。あんたが教えてくれたこと。けど、もう二度と忘れねえ。俺は常に狩る側に立ち続ける!」

 

「世話のかかる孫だな。」

 

振り向くとそこには重国が立っている。とうじと喋っている重国とは別だった。

 

「なんだ、まだ成仏してなかったのか。じじい。」

 

「おじいちゃんと呼ばんか!全く相変わらずか甚爾。局も変わらないようで何よりだ。」

 

「アイツに会ったのかよ。」

 

「いや。一眼見てきただけだ。そういえばお前、曾孫と言うか、姪っ子には会ったのか?」

 

「アイツのガキか?会ったことねぇよ。」

 

「そうか。別嬪だったぞ。お前の許嫁に欲しいくらいだ。」

 

「あっ!そういや勝手に許嫁なんざ決めやがって!」

「なんだ?不満か?涼音ちゃん美人だったろ?」

 

「もう俺は家を出た身だってのに、なんで許嫁なんか決めたんだ。」

 

「お前は戻ってくる。」

 

「何で言い切れる。」

 

「馬鹿タレが。もう一度言わなねぇと分からないか?」

 

狩って己が最強だと知らしめろ!

 

2人して太々しい笑みを浮かべる。そして重国は背を向けて歩き出す。

 

「行くのか。」

 

「ああ、時間だ。っとそうだ、甚爾。おめぇ、奥義は何を習得した?」

 

「あ?黒閃。そっから大黒天に派生させたりもしたけど、それだけだ。なんだよその惚けた面。鼻垂れてんぞ。」

 

「おっと、いかんいかん。そうか、よりによってあの黒閃か。ふふふ。ハハハハハハッ!」

 

いきなり笑い出す重国に、甚爾は若干引く。

 

「甚爾。お前にわしの刀【幻爪】をやる。あと、地下蔵の武器も全部お前の物だ。」

 

そう言って再び歩き出す重国。

 

「本当は、銀の奴に渡しといたんだがいいかのう。」

 

「は?」

 

「何でもないわい。後は任せたぞ。」

 

 

八十代目禪院家当主 禪院甚爾

 

 

「ありがとよ。じいちゃん」

 

「やっと呼んでくれたか。可愛いバカ孫め。」

 

 

===================================

 

「んぅ…寝ちまってたか。」

 

壁にかけられた時計は夜中の3時を指している。

 

「…めんどくせぇが、やってやるか。」

 

夢の中で重国との最後の言葉を交わし、甚爾のその眼光は、全てを狩り尽くす獣の眼をしていた。

 

「行くか」

 

甚爾は立ち上がり、部屋を出た。その足は迷いなく進む。

 

「若様!」

 

「八咫が何してんだ。こんな夜中に。」

 

「それはこちらのセリフです若様。」

 

「お前が言ったら考えてやる。」

 

「えっ、え〜と」

 

八咫は局とミサゴそして涼音を、甚爾と一夜を共にはさせまいと、4人で互いに見張りながら寝ていたのだが、禪院家の家臣の立場を利用し仕事が残っていると言って抜け出してきたのだった。

 

「(言えない!若様のお部屋に行こうとしていただなんて!そしてあわよくば、添い寝をしようとしていたなんて。絶対に言えない。)」

 

この女、家臣の立場や仕事もへったくれもなく、ただの私利私欲である。

 

「まぁいい。ついて来い。」

 

そう言って、甚爾は再び廊下を進む。

 

「は、はい!」

 

八咫は慌ててその後ろをついていく。だがやがて廊下を進むにつれ、甚爾がどこに向かっているのかを、察した八咫は気を引き締め直す。ついに甚爾が足を止めた。そこは重国の部屋だった。2人は中に入る。すると、そこには夜蛾がいた。恐らく通夜の時間に着けない者達の為に、こうして番をしていたのだろう。

 

「若様。」

 

「夜蛾、ご苦労さん。誰か来たか?」

 

「はい。鶴海姉妹が先程。それ以外はどなたも。」

 

「そうか。…夜蛾、お前も来い。」

 

「はい。」

 

2人を引き連れて、甚爾は昼間にも入った重国の部屋に入る。重国が変わらず眠っている。その横に甚爾が座り、その後ろに2人が控えて座る。

 

座ったままどれほど時間が経っただろうか?空は太陽が登り始め、微かに青く染まり始めていた。ここでようやく甚爾が口を開く。

 

「夜蛾。」

 

「はい。若様。」

 

「じじいはお前に預けたって言っていたが、何を預かった?」

 

「何故それを!」

 

「夢の中でよ、じじいと会った。最後まで厳しいのか甘いのか、分かんねぇじいちゃんだったよ。ククッ。」

 

「「!」」

 

そう言って嬉しそうに笑う甚爾。その姿を見て、夜蛾は涙を流す。幼い頃より見てきた。一度でも呼んだことのない、しかし確かに今言葉にした。じいちゃんと。それだけで、重国が最後に甚爾に会いに行ったのだと理解出来た。

 

「ならば!ならば若様!」

 

夜蛾は確信した。遂に甚爾が決断したのだと。ならば自分はついて行くまで。そして甚爾の障害となるものは全て自分が排除する!

 

「じいちゃん。約束通り朧霞はもらってくぜ。あとは任せろ。」

 

八咫も理解が追いつき、涙を流す。涙を流す家臣2人に向き直り甚爾はいつもの飄々とした顔。だが眼だけは獣を宿し宣言する。

 

「禪院家当主には俺がなる。邪魔する奴は狩る!」

 

このことはすぐさま伝えられた。皆驚き、歓喜するものそして恐怖し焦り事態を重く見て穏便に済むように準備を始める者。それぞれの動きを見せていた。そしてこの親子も。

 

「ふざけるな!あの猿がこの禪院家当主の当主になる?当主になるのは綺羅、貴方よ。」

 

「分かっているよママ。その為に分家当主も僕についてきてくれる、若手に変えたんじゃないか!」

 

「ええ、そうだったわね。」

 

「そしてもし戦うことになっても僕が勝つよ!」

 

「当然よ。なんたって私の子ですもの。」

 

またとある分家では。

 

「考え直せ!要様に何を吹き込まれたのかは知らん!だがこのままではお前だけでなく妻と子も死ぬことになるぞ!」

 

「父さん何を言っているんだ。そんなわけ無いだろう。第一に、10年も家を出ていた甚爾様に、当主は務まらない。それにだ、甚爾様は気を一切持っておられない。これだけでも、当主になられる資格はないんだよ?もし当主を決める、あの戦いが起ころうとも勝つのは綺羅様さ。この家の当主は、僕が要様から仰せつかったんだ。もう父さんが口を出す問題じゃない。」

 

一切聞く耳を持たない息子に、男の心はもはや諦めがついた。

 

「そうか。せめて苦しまぬように願っておる。」

 

そう言って男は出て行く。

 

 

またまた、ある分家の当主姉妹は。

 

「やっぱり。貴方でなければね、とうじ」

 

「うん。やっと心を決めてくれたか。遅いのよ全く。けど、よかった。」

 

「そうね。早速挨拶に行きましょうか。」

 

 

 

 

そして時間は甚爾達に戻る。

 

「本当に良いのですね?甚爾。」

 

「逆に俺が継がなかったら誰が継ぐんだ?」

 

「あの禪院家の当主にとう君がね~。」

 

「うちは元から旦那様についてゆきます。」

 

ここでなぜか甚爾はしらけ顔。

 

「涼音。お前そろそろそのしゃべり方止めろ。普通でいい。様も付けるな気色悪い。そもそもお前、俺より一つ年上だろう。敬語なんざ使うな。」

 

「じゃあ遠慮なく。流石はうちの旦那。妻の事よう分かっとんね。」

 

敬語がなくなり一気にフランクになった涼音。切り替えの良さに楽でいいと思う甚爾。そしてひと段落付き局に向き直る。

 

「悪かったな。」

 

甚爾はそう言って局に、頭を下げる。

 

「今まで小せえガキみたいに八つ当たりしてた。誰も俺の事なんざ、見てくれないと思ってた。けど違った。じいちゃんがいた。八咫に銀。家臣達がいた。そんで姉貴、あんたもだ。」

 

謝罪の言葉に局は段々、目に涙が溜まる。

 

「本当はわかってたはずなんだ。けど、一度決めたものを否定するのが怖くて、悔しくて、意地になってた。だから…!」

 

言い終わる前に、頭を優しく抱きしめられる。確認するまでもない。この匂い。この暖かさ。この優しさ。その全てで包み込んでくれるのは、母でなければもう血の繋がった家族は姉しかいない。

 

「ごめん。…ごめんなさい甚爾。あなたが辛い時に、一緒にいてあげられなかった、愚かな姉を許して欲しい。本当は、こうやって抱きしめてあげたかった。側で見守ってあげたかった。お父様とお母様亡き後、お爺様と我しか血の繋がりがなかったというのに、今の立場を言い訳に会いに来ることすらもしなかった。そんな我を許してくれるのか?其方の姉だと胸を張って良いのか?」

 

涙ながらに局も、今まで胸の奥に閉まっていた思いを吐き出す。

その局の問いに甚爾は黙ったまま局の着物の袖を掴む。それが答えだった。局の涙腺は崩壊し大粒の涙をこぼす。長い長い姉弟の意地のぶつかり合いが、今終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

===================================

 

 

「こら!とうじ!一人で裏の竹林に行ってはいけないと言ったでしょう。行く時は、お爺様か我にちゃんと言って、八咫か夜蛾をお供に付けなさい!さぁ、こんな時はなんで言うのですか?」

 

膝を折り、自分の息子と同い年の弟と目を合わせて問う。

 

「…ごめん……なさい。」

 

「はい。良くできました。」

 

ちゃんと謝れた弟を褒める。

 

「みんな心配しています。帰りましょう。帰ったらオヤツの大福がありますよ。」

 

そう言って弟に手を伸ばす。弟は、手ではなく姉の着物の袖を握る。毎回の事だった。ごめんなさいをしたら袖を握る。そんな不器用な弟の頭を撫でながら、歩幅を合わせて帰路に着くのだった。その二人の背は母と子の様であり、しかし姉弟だと確かに分かる、そんな後ろ姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

呪術廻戦二期 伏黒甚爾登場! マジで甚爾に恋しなさい!再連載始めるか?

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