CODE NAME:“RED”   作:c.m.

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2026/5/30誤字修正。
 瀬部唯人さま、ご報告ありがとうございます!


04 命を懸けて、かかってこい!

『R付き』こそ居ないものの、個々人がジムリーダーないしは、ジム専属のエリート・トレーナー級の実力者で構成されたCOLLARSと、ルギアとの共闘。

 それ対する伝説の三鳥が融合した化け物との大激突は、さながら怪獣映画じみた光景だった。

 化け物を囲み、戦闘隊形へと移行しつつ、一切の間隙なく〈わざ〉を叩き込むCOLLARSの手際は、正しく統率の取れた合理性の象徴にして『組織』だからこそ成し得る暴力の津波だ。

 

「チャンピオンほどじゃないけど……」

「……やっぱし、おっかないよねぇ」

「COLLARSが大集合とか、夢でも見てる気分だニャァ」

 

 今日ばっかりは、プロらしからぬこの三人組(トリオ)の発言にも同感ね。ただ……。

 

「パイロット! 操縦代わって! あいつら負(・)け(・)る(・)わ……!」

「嘘でしょう……!?」

 

 残念ながら、戦力分析を誤る私じゃない。COLLARSは確かに強い。それは認める。

 だけど、私達NUMBERSがそうであるように、彼らの本質は荒事を兼任するスパイであり、個人か少数で動くことが前提の特殊部隊。

 圧倒的物量と砲火を武器に、蹂躙する軍団とは本質的に異なる存在だ。

 

“犯罪組織である以上、裏切り・寝返りを視野に入れたロケット団の中で、横同士の連携が許(・)さ(・)れ(・)た(・)戦力って時点で、個々人の強さは特化してない証拠だし……何より、ルギアに指示を出せる『余裕』のある奴が存在してないッ”

 

 増強大隊を任された、大隊長・副大隊長(ジムリーダー級)は当然居るだろう。だけど、彼らは部隊連携と攻防を指示することに専念していて、ルギアを『助っ人』としか見ていない。

 

“対し、融合した三つ首にして、三対六翼の化け物は火力も速度も桁違い”

 

 翼のはためき一つで〈ひこうタイプ〉のポケモン達が叩き落され、三つ首から迸る複合技が、COLLARSのポケモンが放った放射系の〈わざ〉とぶつかり合った瞬間無力化して、そのままトレーナーごと薙ぎ払っている。

 遠目からは派手な花火に見えていても、その実、包囲網は虫食い状態で、苛烈だった攻勢も勢いと精彩を失いつつあった。

 

“優れたる操り人……ルギアが指示を受け入れるトレーナーが居なくちゃ話にならないって伝説は、忌々しいけど大正解らしいわね!”

 

 あの化け物を倒したいなら、火力・機動力・防御力全てにおいて、唯一渡り合えるルギアを上手く使わないと駄目だってのに、ルギアの司令塔になり得るだけの実力者が……R付きが一人も居ない。

 幾らCOLLARSが精鋭って言ったって、これじゃ時間稼ぎが精いっぱいだ。

 

“つくづく元007の裏切りが祟る……!”

 

 あいつがロケット団を裏切りさえしなければ、絶対強者同士の横の繋がりが維持できて、『R付き』を複数投入できたか、そうでなくても増強大隊の部隊指揮権を有していた筈で、結果は違ったかもしれない。

 だけど、それを今言ったところで始まらない。

 

「『009から社長へ! COLLARS増強大隊は劣勢! 戦線崩壊まで、最長一八〇!』」

 

 どれだけ長くても、三分以内に負けるという無慈悲な報告。これに対し、サカキ様は……。

 

『──成程。私の出番ということらしい』

 

“……ああもう! なんで楽しそうなのよ、今日のボスは!?”

 

 

     ◇

 

 

「『──成程。私の出番ということらしい』」

 

 009の緊急通信に、くつくつと笑いながら応える。

 

「……原則を曲げてでも、R付きを大隊長・副大隊長に抜擢すべきだったのでは?」

「否だ。RED以外のR付きに、忠誠心など期待できん。誰であろうと、ルギアを確実に掌中に収めんとしただろうし、万難を排してでもルギア捕獲を成功させた筈だ。

 そして、ルギアを旗頭として増強大隊を扇動し、私に反旗を翻す。私が認め、Rを授けた連中には、それを行うだけの気骨があるからな」

 

 この秘書は無能の二文字からは程遠いものの、REDの忠節を側近全員の『前提』として見ている節があったので修正する。

 

「犯罪組織にあって、叛意は唾棄し、遠ざけるものでは無い」

 

 跳ねっ返りを優れた才覚と認めつつ、いざ反旗を翻せば潰すことで、首領を絶対強者と認めさせ、服従させる。

 屈服と隷属の下で秩序を維持し、後継者に託すまで玉座に君臨し続ける事は、ポケモンマフィアの長としての絶対条件。

 だからこそ私は、私を下し得る可能性を持つ者達からの忠誠など、一度として求めなかった。

 悪のブランドが隆盛を極めるには、それに相応しい振る舞いが求められる。

 

「下剋上、大いに結構。手下に怯え、怯む小物に世界を支配する資格はない」

 

 そう……だからこそ。私にとって、REDの存在は異常だった。

 反逆に足る爪牙を持ち得ながら、面従腹背を辞書から消し、我が膝下に加わることを是とし続ける。

 

“ばかりか奴は、私との間に明確な『絆』を見出していた”

 

 悪に与することに、愉悦を感じている人間が、ではない。

 悪党であることに自己嫌悪し、善性を拭えない子供のままでありながら、奴は私を『慕って』いた。

 

「血の繋がりもなければ、共感する思想もない。役得の地位に固執するでもなければ、他の道を選べなかった訳でもない」

 

 だというのに、奴は私の中に『父』を見ていた。

 袂を分かつ前の放蕩息子が──その息子が、今は私への反抗心と諧謔交じりに、SILVERなどという偽名を使っていることだけは掴んでいる──まだ私を慕っていた頃に向けた瞳と、同じ瞳で私を見つめ、侍り続けてきた。

 

「Raid On the City, Knoc out, Evil Tusks(町々を襲い尽くせ、撃ちのめせ、悪の牙達よ)……故にその名をR.O.C.K.E.T団。

 分かるか? マトリ。……そのような悪の組織に、首領たる私の傍に、そんなトレーナーが居たという事実こそ、異常極まる例外と認識すべきなのだ」

 

 マトリの意見具申に対し、懇切丁寧な説明を終え、革張りのシートから腰を上げれば、ペルシアンが指示を待たずボールに入る。

 かつて、元007を始末した後、REDが献上した裏切り者のポケモンだが、今は完全に服従し、最も臣従の念に厚い私のポケモンだ。

 

「『COLLARS増強大隊は戦線を離脱せよ──支援・後方部隊および、009は飛行宮への道を確保。私が出る』」

 

 

     ◇

 

 

「『支援・後方部隊および、009は飛行宮への道を確保。私が出る』」

 

 げぇ……!? という表情を三人組(トリオ)と、交代して手持ち無沙汰になったパイロットは隠しもしない。正直、任務中じゃなかったら、私も同じ顔をしてただろう。

 

「聞いたわね!? 給料分の仕事の時間よッ、気合入れなさい……!」

 

「社長ってば人使い荒いんだから!」

「だけど俺達、宮仕え!」

「気張って行くニャー!」

 

 社畜精神旺盛で、実に結構……! 機首を旋回させて転進すると共に、コジロウのマタドガスの〈えんまく〉を使って、サカキ様のVTOLを化け物の視界から隠しつつ、私達自身の安全確保も忘れない。

 

「長期休暇、絶対受理させてやる……っ!!」

 

 入団から今日まで、一度だって通らなかったけど、それぐらい貰わなきゃ割に合わないわよ、これ!

 

「……あ」

「げっ」

「ニャ」

 

「何!? ヤバいなら……」

 

 報告しなさい! と叱責するつもりだった私も、言葉が途切れる。

 融合した三鳥もルギアも、跡形もなく消えていた。

 

「……長期休暇は、無理そうね」

 

 なんて、言ってる場合じゃ全くない!

 

「『各部隊! 〈テレポート〉による転移の可能性があるわ! 座標特定急いで!』」

『こちら観測班! これは〈わざ〉ではない! 転送システムだ!』

 

“最悪……!!”

 

【どうぐ】やポケモンを預ける転送システムは、家庭用PCでも行えるほど普及してるけど、まさかそれを利用して、ポケモンを飛ばすとは思いも寄らなかった。

 おそらくは潜伏型か、光学迷彩を装備させた偵察ドローンに転送機能を積んで、ボールに入れた二匹を運んだのだろうけど、そんな種明かしじみた推察は後だ。

 

“ルギアと三鳥の行き先は分かり切ってる……!”

 

 間違いなく、あの飛行宮の中だろう。即座に突入してやりたいけど、無策で飛び込むのは足手纏いになる。

 

「大人らしく、やれることをやるわよ」

 

 出来ないことと、出来ること。その線引きを間違えず、ベストを尽くすのが大人のやり方なのだから。

 

 

     ◇

 

 

 乱れた海流に、世界規模の異常気象は激しさを増す一方だが、頭を抱えたくなったのは伝説の三鳥が融合し、ロケット団の精鋭諸共、ルギアさえ瀕死に追い込んだこと。

 それらが転送システムを用い、回収されたという報告を、インカムを通じて009から受け取ったことだ。

 

“どうやら、前世の知識は役立たずになったらしい”

 

 相手は兵器を持っているだけのコレクターであって、トレーナーではないのだから、潜入して息の根を止めれば終わると高を括った自分の落ち度だ。

 

“糞、また電子防壁か”

 

 当たり前だけど、僕の手持ちに昔のポリゴンは居ない。新しく育てているポリゴンも、それなりの仕事は出来るけど、未だに僕のバックアップがあって、以前アイと行っていた作業の三倍以上の時間をかけている。

 壁や扉は想像以上に頑丈で、破壊するには高火力の〈わざ〉が必要だ。やれないことはないが、周辺被害が大き過ぎる。

 

“相手はここが根城だから留まっているだけで、家が崩れれば用済みとばかりに脱出しかねない”

 

 だからこそ、デバイスを接続した上で、タブレットとポリゴンの電子ハックで地道に進んでいた訳だが……。

 

『はぁい! RED! 美少女からの素敵で適切なサポート・サービスは如何? 今なら御代はデート一回。とってもお得でしょ?』

 

 インカムから響くアイの声に、思わず耳を疑った。

 

「『いつ、ロケット団に入ったの……?』」

『ノン、ノン。ロケット・コンツェルンの面接受けて、ちゃーんと真っ当に社員として入社しただけ! まぁ? 企業の電脳戦担当として、BLUEのコードネームは貰ったけどね。それで? 返答は?』

 

 顔なんて全く見えないのに、意地悪な笑顔をしているのがハッキリ分かる声音だったけど、非常事態の僕に選択肢はない。

 

「『オーケー。タブレットのコードを伝えるよ。遠隔だけど、行ける?』」

「『だーれに物言ってんのよ。こんなの、ちょちょいのチョイ!』」

 

 実に見事な手際で、ものの二秒でロックが解除された。加えて。

 

『電子防御は潰したし、飛行宮の脱出機能も無効化したわ。中核だけはネットワークの類から独立してるから介入できなかったけど、支援部隊に連絡して〈テレポート〉も封じさせるわね』

 

 これで敵は袋のネズミ……いや、この世界で言えば、袋のコラッタか。

 

「助かったよ。ありがとう」

『デート一回、忘れちゃ駄目よ♡』

 

 ……ただ。〈でんきショック〉どころじゃない制裁が、確実に待ち受ける羽目になった現実には──美少女とのデートという、世の男にとってこれ以上ないご褒美なのに──げんなりしたけど。

 

 

     ◇

 

 

「ふむ……コンツェルンの回し者になったのかね? チャンピオン」

「いいや。だけど、仕組まれていたのは認めるよ」

 

 みっちゃん……いや、かつてサンダー作戦で任務を共にした009は、おそらくだがオレンジ諸島に訪れた、僕の動きを逐一把握していたのだろう。

 そうでなければ、こうもタイミング良く僕がアーシア島にやってこれた筈もない。

 今から思い返せば、各島嶼での船便が突然延期したり、逆に早まっていたのはそういうことだったのだ。

 

“009からすれば、アーシア島についた際に嗅がせたチューリップの香水と、肩に触れた時の合図が、万一気付かなかった際の種明かしのつもりだったんだろう”

 

 僕自身はみっちゃんが009だと初めから気付いていたし、ロケット団の三人組(トリオ)にしても、アーシア島で席を立った際に、みっちゃんが00(ダブル・オー)ナンバーであることを、机を叩く音で伝えていたからこそ、一切の動揺もなかったという訳だ。

 

 ともあれ、そうした諸々の伏線など、今となってはどうでもいい。どのような思惑があったにせよ、僕がやることはたった一つだ。

 

「A級指名手配犯──ジラルダン。お前は、ここで殺す」

 

 世界の為。守るべき人々の為に。今はかつての如く、悪討つ悪党として引導を渡す。

 

「出来るかね?」

 

 僕が殺人を躊躇する、しないではない。純粋に、それを行うに足る実力があるのかという問いと自信は、決して不思議なものではない。何しろ。

 

「コレクターを自称し、世間を騒がせ続けていたお前が、ポケモンをボールに入れるどころか、改造とはね」

 

 融合された伝説の三鳥を融合させ、機械で洗脳させたばかりではない。

 あのルギアさえも、奴はボールを掌で弄びながら侍らせている。

 

「主義には反するがね。コンツェルンが結集し、チャンピオンまで動いたとあっては、節を曲げるのも致し方ない。ルギアと、このサ・ファイ・ザーを相手に勝てるかね? とはいえ、私はトレーナーではないし、君の土俵に乗る気もない」

 

 尋常の勝負(ポケモンバトル)など、やってはいられないと。フリーザーの首から発した〈れいとうビーム〉が僕の頭蓋を吹き飛ばしたのを、確(・)認(・)し(・)た(・)。

 

“勝つ必要はない”

 

 音もなく、ルギアとサ・ファイ・ザーの意識をも避けて、背後からゴルバットの〈かまいたち〉でジラルダンの首を刎ねる。それで全てが片付く筈だったが、玉座の如く椅子に腰かけたジラルダンには届かない。

 

「特注品だ。砲弾も通さんよ」

 

 悪党という奴は、自己保身が一流で困る。腰かけた椅子を、ぐるりとカプセルのように包んだ強化ガラスで覆われた球体シェルターが浮遊した。

 

「しかし、それがメタモンか……成程、実に器用なポケモンだな」

 

 頭を吹き飛ばされ、胴が凍って砕け散った姿さえも演出し、擬態し、その実〈れいとうビーム〉を回避してノーダメージに持って行った自慢のメタモンだ。トレーナーとして賛辞は素直に受け取るけど、僕の声を流す為にメタモンに持たせた通信機は粉々に砕けたし、背後からの奇襲が通じるのも一度きりだろう。

 今はジラルダンを護るべく、ルギアとサ・ファイ・ザーの三つ首が全方位を警戒している。

 

〈テレポート〉さえ使えたら、ビリリダマをジラルダンのシェルター内に飛ばしてから、〈でんきショック〉で心臓発作を起こして終わらせられたのだが、支援部隊がエスパータイプポケモンを総動員して、飛行宮を中心とした一〇キロ圏内の〈テレポート〉を封じている現状、それは不可能だ。

 

“おまけに、あのシェルター自体にも飛行宮と同じバリアーを張ってるな”

 

 流石に僕のゴルバットの〈かまいたち〉を受けて、擦過痕さえ残さないというのは異常だし、接触時に静電気めいた火花が微かに散ったのが見えた。

 とは言え、種が割って測れたのは防御が厚いという事実だけ。

 シェルターごとジラルダンを潰したいのなら、カイリューの〈はかいこうせん〉と同等以上の一撃を叩き込まねばならないし、そのためには奴のポケモンが邪魔だ。

 

「メタモンっ! ダメ元だけど、やれる!?」

 

 大声で問うが、僕の声に先んじてサ・ファイ・ザーに〈へんしん〉しようとしていたメタモンが、諦めてルギアに〈へんしん〉した。

 あのミュウツーにさえ〈へんしん〉できた、一〇〇レベルに到達している僕のメタモンが、〈へんしん〉を諦めたという事実の意味するところは一つ。

 

“糞ッ、上限(一〇〇レベル)を超(・)え(・)た(・)相手か!”

 

 ここはゲームでも、アニメでもない現実だ。そして、サ・ファイ・ザーも、僕が知っているそれとは比較にならない。

 

「メタモンはルギアと同じ〈わざ〉で相殺に専念! 先にサ・ファイ・ザーを潰す!」

 

 無茶な指示をしていることは承知の上で、態勢を立て直す時間を稼ぐ。

『弱い方から潰す』っていう乱戦のセオリーを外していることへの自覚はあったけど、向こう側もそれを心得ている以上、敢えて大声を出して、意識をサ・ファイ・ザーに集中させなくてはならない。

 

 ベストメンバーの一部はボールから出して各所に配置し、インカムも付けている。遠隔であっても、僕の指示はタイムラグなしで通る!

 

「〈ほのおのうず〉」

「スターミーッ! 〈バブルこうせん〉!」

 

 ボールから現れると同時、ファイアーの首から放たれる炎を無数の泡が遮り、同時に僕の身体も泡に包まれたが、数秒と持たず泡の防護壁がパチパチと弾けた音を立てる。

 

“嘘だろ!?”

 

 五〇レベルの火でも、泡一つさえ弾けない鉄壁の防護壁だが、考えてみれば納得だ。

 五〇レベルのポケモンでは、一〇〇レベルのポケモン相手に手も足も出ないのと同じ理屈。

 

“攻撃の威力からして、サ・ファイ・ザーは推定二〇〇レベル以上。おそらくは各種性能もそれに準じている筈”

 

 なんだそれは、反則だろうと言いたくなった。そうした意味でも前世の知識は当てにならない。レベル、技構成、能力値、何もかもが違っているのだ。

 

“だけど、五秒は稼げるッ!”

 

 指先一つで通信機をノックし、換気扇を通じてフシギバナに〈ねむりごな〉をホール全体に撒かせた。

 自分は泡に包まれており、眠りに落ちる心配はないが、視界を覆うレベルの大量の花粉は、睡眠薬を通り越して致死毒の域だ。

 サ・ファイ・ザーがこれで死ぬとは到底思えないが、軽い酩酊にでも陥ってくれれば御の字……そう考えての一手だったが、〈ひかりのかべ〉と〈でんじは〉を用いての疑似的なバリアが、〈ねむりごな〉に触れた瞬間、チリチリと燃えて無効化される。

 

 器用な鳥め! と恨み言を漏らす余裕はない。

 

 吹き荒ぶ風、そして帯電するサンダーの首。

 これらの前兆が意味する〈わざ〉は──〈ふぶき〉と〈10まんボルト〉!

 

「ゲンガー……!」

 

 叫びに応じて、バブルに包まれた状態の自分が攻撃座標から〈ねんりき〉で脱出する。

 

“つくづく〈テレポート〉が使えないのが痛い”

 

 これまで任務でやってきた、緊急離脱が不可能になっているのだ。これじゃあどちらが袋のコラッタなのかと言う話だ。

 

“人生初の……、絶体絶命って奴か”

 

 自分とジラルダンとの『戦力差』は理解できていた。時間的猶予さえ幾らでもあるなら、再起を図っての『暗殺』こそ正解だと、現役時代の自分は判断しただろう。

 

“……だけど、引けないよな”

 

 伝説の三鳥が奪われた時点で、自然界のバランスは狂いっぱなしだ。

 天と地の荒れ具合に加えて、室内であっても耳に届く地鳴り……おそらくだが、一日二日もあれば、世界中で大災害が発生して、世界が物理的に引き裂かれかねない。

 

“今勝てなきゃ、全てが終わる。だから命を懸けて、世界の危機を救うって? ははっ──元悪党には、似合わなさ過ぎて笑えて来る”

 

 だけど。こんな時ほど──こんな時だからこそッ!

 

「窮地である程、不敵に笑え──薫陶は忘れていないようだな、チャンピオン」

 

 風圧だけで弾けるバブル。振り返る暇さえない刹那の時間。しかし、その意図を読み取るだけの頭が働く僕にとって、盤面が切り替わったことを確信する。

 声の主は、このタイミングを窺っていた。窮地に立たされた僕が、サ・ファイ・ザーに劣勢であり、ブラフでなくルギアに意識を向けられなくなりつつあったこと。

 そのルギアが、僕の〈へんしん〉したメタモンと〈エアロブラスト〉を互いに撃ち合い、硬直していたこと。そして、ダメ押しの一手。

 

「フシギバナ、〈つるのムチ〉!」

 

 鋼線で編んだロープより強靭な、一〇〇レベルの炎でも燃えない自慢の蔓を、打ち据えるのでなく、拘束に用いる。

 断ち切るか破壊するのでなく、回避に専念する以外フシギバナの蔓から逃れる術はないが、今のルギアにそれは不可能!

 

“乱戦のセオリーは、弱い奴から潰すこと”

 

 意識の裏に。心理の陰に。相手の予想を上回る形で実行する。今まさに、壁を突き破りながら〈とっしん〉したサイドンが床を蹴り上げて滑空し、列車砲以上の威力でもって、ルギアの急所を捉えたように。

 

「……海の神が、一撃で沈むか」

 

 感嘆も畏怖もない。ただ予想以上の威力だったと言いたげなジラルダンだが、それも当然。フシギバナの蔓は、ただの拘束ではない。〈とっしん〉による着弾の衝撃を一切逃さず、かつ急所を曝け出させるためのもの。

 そして、ルギアをも沈めた一番の要因は──

 

「──その為に、敢えて進化させずに鍛え上げた」

 

 追求し、徹底し、確殺を信条として極めた、文字通りの必殺技。

 それを繰り出して見せた、カントー最強と謳われたトキワのジムリーダーを、僕は誰より知っていた。

 その声を覚えている。その靴音のリズムを忘れはしない。

 

 最後に見た、トキワジムでの華美なダブルスーツではなく、黒いシングルスーツ。その胸元にある『R』は、かつて僕の袖から毟り取ったワッペンで──

 

“──二度と、この人に。こんな形で会うことはないと思っていた”

 

 もし会う時は、チャンピオンとして、敵としてでしか巡り合えないから。

 分かたれた道を受け入れて……、それでも、そんな形では戦いたくなかったからこそ、他地方でなく、ロケット団が勢力として拠点を置かないオレンジ諸島にやってきた。

 

“だけど、今は違う”

 

 戦う目的も、向ける視線も、今だけは同じ方向を向いている。

 だから。図々しい我が儘だと承知しているけど、それでも僕は、許されるならという思いを抱いていて──

 

「世界の危機だ、チャンピオン。今日この日、今この時に限り、我が膝下に加わることを許す」

 

 その言葉に、向けられた思いに、思わず瞳が潤みかけた。

 袂を分かったことを、恨んでいないと分かったから。光の道を進んだ僕を受け入れて、その上でもう一度だけ、轡を並べることを許してくれたから。

 そして、この戦いに何一つ後ろめたさはないからこそ……ッ、僕はボスの下に加われる!

 

「征くぞ、RED」

「イエス・ボス………………………………──────────!!」

 

 CODE NAME:“RED”として! 心置きなく、全力で戦えるッ!

 

「サ・ファイ・ザー、〈つばさでうつ〉」

 

 ジラルダンの命に従い、三対六翼の翼をサ・ファイ・ザーが叩くのは〈とっしん〉の着弾から、体勢を立て直すのに時間をかけているサイドンでも、フシギバナでもなく空(・)間(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)。

 物理的な一撃ではない。全方位に向けた衝撃波が、足場を、壁を、天井を、容赦なく粉砕する。耳を劈く爆音と、肺を締め付ける圧力。視界が白く染まり、鼓膜が破れそうな轟音。

 

“その狙いは〈ひこうタイプ〉を出していない、僕とボスの落下死──だけど、甘い”

 

 どうして僕が、フシギバナをボールから出して、〈ねむりごな〉を撒くまで待機させ続けていたか? それは考えていなかったらしい。

 

「……蔓の、檻?」

 

 床も壁も天井も、全てがフシギバナによって編み上げられている。鋼鉄の鎖より強靭な蔓が、飛行宮の中心部を巨大な鳥籠のように覆い尽くす。

 

「〈ひこうタイプ〉相手だ。空を封じ、足場を確保するのは当然」

「何より、自分の手で飛行宮を破壊したのは悪手だったな」

 

 砕かれた建材の破片が、大小を問わずボスのサイドンが放つ〈いわなだれ〉によって、指向性を有したミサイルとなって、サ・ファイ・ザーを全方位から狙い撃つ!

 

「狙いは良いが、それでは届かん──〈ほのおのうず〉」

 

 ああ、その通り。ファイアーの首から発した炎が、特別大きい建材を放っているし、そうでなくともサンダーの首が〈でんじは〉と〈ひかりのかべ〉の二重防御膜を駆使した攻防一体の陣形だ。生半可な技では通らないが──

 

「僕のボスを舐めたな」

 

〈いわなだれ〉はサ・ファイ・ザーとジラルダンの視界を塞ぎ、ボスの主力たるポケモンの動きを隠すためのもの。

 今、スリング・ショットの要領で弾性を持った蔓の反発を利用し、ピンボールの如く蔓の檻の中で跳ね続ける〈じめんタイプ〉のゴローニャに、電気の防御が通じるものか。

 

「〈ずつき〉──そして、〈だいばくはつ〉」

 

 防御担当を担い続けた、サンダーの首。その頭部に突貫したゴローニャの頭突きが刺さり、更には〈だいばくはつ〉でのダメージまで加われば、如何に二〇〇レベル超えだろうと、ダメージは決して無視できない。

 そして、防御膜が崩れたこの瞬間を待っていた!

 

「ケンタロス、〈のしかかり〉!」

 

 蔓の壁を蹴って走り続けたケンタロスが加速と共に飛び上がり、その蹄をサ・ファイ・ザーの真上に叩き込む!

 

「僕のボスを、何時まで上から見れると思っていた?」

 

 頭が高いんだよ。ミュウツーにだって、そんな真似は許しちゃいない。

 重低音が響き渡り、三つ首の巨体が僅かに沈む。そして、ケンタロスと同じく蔓の壁を駆使して、三角跳びの要領で跳ねたニドクインの蹴りが、意識を保ったままのファイアー、フリーザーの首に入るが、追撃の手は緩めない。

 

「ニドキング、〈どくばり〉」「ケンタロス〈はかいこうせん〉」

 

 ニドクインの空中二段蹴りから、阿吽の呼吸でニドキングの毒が急所に挿し込まれる。

 毒が全身に回り切るまで一秒以下。しかも、そこにのしかかったケンタロスによるゼロ距離〈はかいこうせん〉を受けて、蔓の地面に落ちる。

 

 そう──、ボスの領域たる大地にッ!!

 

「「〈じしん〉…………!!」」

 

 僕のダグトリオ、そして、ボスのポケモン全員が四方から蔓の大地を揺さぶり、衝撃を中心にいるサ・ファイ・ザーに与える。

 それで決着──三つ首の、伝説以上の化け物は、鳴き声一つ上げられない瀕死の状態に追い込まれたが──。

 

「──させる訳ないでしょ?」

 

 黒いチューリップが、【げんきのかたまり】を使おうとしたドローンを撃ち落とす。

 

「良い仕事だ。009」

「遅参、平にご容赦を」

 

 深々とボスに一礼しつつ、しかし視界からジラルダンを捕らえて外さない009。その後ろからは、おっとり刀で駆け付けた三人組(トリオ)も続いた。

 

「ちょっと! 良いとこ取りすんじゃないわよ!?」

「俺達も飛行宮の【どうぐ】、燃やしまくってたんだけど!」

「……勿体なかったニャァ」

 

「成程。形勢逆転と言いたいらしい──だが、まだサ・ファイ・ザーは死(・)ん(・)で(・)い(・)な(・)い(・)ぞ?」

 

 こいつ、正気か……!?

 

「これ以上は本当に死ぬぞ……!?」

 

 瀕死の状態で、ポケモンが動けはしない。それ以上やれば本当に死ぬからこそ瀕死で、立ち上がることは危険だというのに、サ・ファイ・ザーはその全身からエネルギーを発し続けている。こんな状態で〈ゴッドバード〉を使えば、この三鳥は確実に命を落とす。

 かと言って、ダメージを与えてもサ・ファイ・ザーは死ぬ。フシギバナで縛り上げたくても、あの熱量じゃ蔓そのものが燃えて出来ないっ!

 

「皮肉だろう? 力で屈服させた勝者が、力を使えば破滅する側に追い込まれるのは?」

「なら、こうだ! ゲンガー、〈さいみんじゅつ〉! フシギバナ、〈ねむりごな〉!」

 

 今度こそ眠らせる! 意識を奪い、〈わざ〉を封じる為に手を打った。

 だというのに、止まらない。

 

「無駄だ。私が命じずとも〈ひんし〉に追い込まれれば、意識を失おうと〈ゴッドバード〉を使用するよう手を打った。保険というものは、最後に使えるから保険なのだよ」

 

 世界という『盤面』諸共ぶち壊し、全てを終わらせにかかる。この上なく悪党らしい選択肢だが、万事休すと称すべき事態なのはその通りで──

 

「──終わらせないよ。私と、サトシ君達がいる世界だもん」

 

 その声に、流れた笛の音に世界が止まる。万全の状態では耳に届かなかった音色が、打たれ弱まったサ・ファイ・ザーの心を戻し、癒していく。

 

「……ははっ」

 

 祭壇はこの飛行宮より遠く。仮に宝玉を安置しても、その音が洗脳されたサ・ファイ・ザーまで届くかは分からなかった。

 

“だけど、まさか……祭壇そのものを浮かせて来るとはね”

 

 ヤドキングが〈サイコキネシス〉で浮遊させたのだろう。後ろ手に腕を回し、胸を張るヤドキングの周囲には、〈エスパーわざ〉を使用しているポケモン特有の、独特の発光が見えた。心なしか、傍に居るピカチュウも得意げだ。

 

「やめろっ……その笛の音をっ……」

 

 止めたかったか? だけど、そうはさせない。

 

「マタドガス、ピカチュウ、〈かみなり〉……………………………………ッ!!」

 

 どれだけご立派なシェルターでも、殺意を込めた相棒と、鍛え上げたピカチュウの雷撃に耐えられるかよ。

 

 強化ガラスを砕き、内部のジラルダンごとシェルターを焼き尽くす〈かみなり〉。これで今度こそ終わりだと確信したが、焼き尽くされる筈のジラルダンは、身体の『像』がブレていた。

 

“立体映像……っ してやられた! 本体は何処に!?”

 

「そいつに本体など存在しない。本物は半年前に私が消した……そして、やり残した仕事をここで終える」

 

 ネコ科の動物がそうであるように、ペルシアンの瞳は熱源を感知する。たとえ人の目を誤魔化しても、ジラルダンの像を作っていた光学迷彩型のドローンは逃げきれずに切り裂かれた。

 

“意識をデータに移し、生き永らえた……いや、後を託したというべきか”

 

「そうまでして、コレクションを護りたかったか?」

『……。コレクションごと、息絶えたかっただけだ』

 

 全くもって、最低な理由だ。

 最後の最期。電源が落ちるその瞬間まで、悪党は悪党のままだった。

 

 

     ◇

 

 

 ジラルダン──正確には亡霊の意識と称すべきデータ──による、世界を巻き込んだ無理心中は終わった。

 そして、サ・ファイ・ザーという悪夢の暴走もまた然り……とは行かなかった。

 サ・ファイ・ザーは正気を取り戻したものの、姿形はそのままで、これにはフルーラさんもどうして良いか分からず困惑していた。

 

「……悪党をやっつけても、戻らないんだね」

「融合されたポケモンを戻すには、専用設備が必要だからね」

 

 ポケモンと融合してしまったマサキも、装置で元に戻ったから、技術的には可能なんだけど……。

 

「このままで良いって言ってるのニャ。前みたいにバラバラだと、人間達に捕まるかも知れないからって」

「自然界のバランスは……ああ、自我が戻れば回復するのか……」

 

 地鳴りも荒波も既にない。常春のように爽やかな風に、色とりどりの花が島々に溢れているのが伝わっている。

 

「力が増したことで、自然エネルギーが活発になったみたいだニャ」

 

 ルギアにしても、これで三鳥を見守る必要はないと、責務から解放されたことを心なしか喜んでいて、世界を回るつもりだと言う。

 

『巫女と、優れたる操り人。そして、世界を救ってくれた皆に感謝を。君達が真に私を望む時は、再び力となろう』

「嬉しいけど、もうそんな日が来ないことを祈るわ」

 

 もし会えたら、それは楽しい思い出を語れる日でありたいと告げたフルーラさんに、ルギアは笑いながら海に沈む。土産話は、多く持とうと約束して。

 海の神様らしい威厳に満ちた、けれど、優しさも伝わる声と共に。

 

“一件落着かな……サ・ファイ・ザーにしてところで、三つ首の鳥ポケモンはドードリオという個体が既に存在ている以上、そこまで奇異という訳ではないだろうし……人工のポケモンなら、ポリゴンやミュウツーもいる訳だし”

 

 何とも釈然としない結果だけど、終わり良ければ全て良しと思うべきなのだろうか? と唸っていると、ぽす、と僕の頭にトレードマークとなって久しい、『ポケモンリーグ公認大懸賞』の限定レプリカ・キャップが戻る──だけじゃなかった。

 

「──!?」

「ん。約束したもんね」

 

 ……ああ、うん。ちゃんと約束通り、帽子は戻ったし、キスもされちゃったけど。

 

「気持ち、応えられないよ……?」

「駄目。絶対逃がさない」

 

 抱きしめられて、微笑まれて。しかも最後に「ルギアに乗ってでも追いかけるから」とまで言われては、どうして良いか分からない。だってさ。僕、ちゃんと断ってるんだよ?

 

「現地妻も悪くないでしょ?」

「えっと……その、そういうのは、さ。やっぱりよくないと……」

「ピがぁ?」

 

 ああん? と、煮え切らない僕に、思いっきし僕にガン飛ばして帯電するピカチュウに、待て待て! と腕を伸ばす。勿論命乞いは聞き入れられなかったし、全身痺れてボロボロだ。フルーラさんは巻き添えに遭わないように、しっかり離しておいたけど。

 

「糞……。帽子、焦げてないよね?」

「タフだニャァ……実はポケモンだったりしないのニャ?」

 

 マサラ出身の純粋な人間だよこの野郎とニャースに毒づく。

 

「ふふっ。腕が鈍ったんじゃない?」

 

 みっちゃん──否、特殊メイクを落とした009は、妖艶な笑みでからかった。

 

「……否定できないなぁ」

 

 全部終わって一件落着。それで意識が緩んでいたと言っても、普通の女の子に不意打ちでキスされるなんて、訓練所からやり直せという話だ。まぁ、なので。

 

「貴女が約束した素敵な姿には程遠いから──」

 

 あの日の約束は、まだ先にして下さいって告げたんだけど。

 

「ふふっ──流石に大人のキスは、人目があるとこじゃ恥ずかしいわよね」

 

 周りに聞こえるように。意地悪な笑顔で見せつけるように。子供をあやすように、後ろに回って抱きしめてくる。

 するりと背後を取ってみせた彼女の技量は、僕の記憶より格段に上だった。

 

「ドミノ──君を愛してる女の、ホントの名前よ」

 

 耳元で。僕にだけ聞こえた009の名前は、絶対に忘れないだろう。

 あと……甘噛みされた耳の感触も。

 

 

     ◇

 

 

「何人目だー?」

「正直に言えー」

「ニャーの小判賭けても良いけど、絶対刺されるニャ」

 

 そこ、うるさいよ……って言えない。だって、僕自身自覚あるもん。

 ジトーっとした三人組(トリオ)の苦言と視線。

 対して、どういう訳かフルーラさんもドミノもニッコニコだ。

 

「ここ……どっちか選べって言われる場面じゃないの?」

「言って振られて、諦めると思う?」

「お腹括って、甲斐性見せなさいな、男の子」

 

 そりゃあ僕だって男の子だ。可愛い女の子から言い寄られて、心底迷惑だと嫌がるようにはなれない。

 それでも一番好きな子が居る相手に、どうしてこう……。

 

「くくっ。中々に愉快なことになっているな」

「……社長」

 

 あれは女の敵ですという表情を隠さないマトリさんを気にも留めず、ボスは心底愉快気に笑っている。

 

「さて。チャンピオン──世界の危機の一つを救った訳だが、まだ世界の命運を懸ける余力はあるか?」

 

 ジャケットを脱ぎ、ウェストコート姿になったボスが問う。その腰に装着した【ハイパーボール】に手をかけながら。

 

「遠くない日、悪の牙は世界を飲み込み、ロケット団は総てを手にする。我らのマークに人々はひれ伏し、その支配を受け入れるだろう──その野望、今この場で挫きたくはないか?」

 

「サカキ様!?」「ボス!?」

 

 衝撃、当惑。プロにあるまじき叫びを上げたドミノとマトリさんだったけど、ボスは一顧だにしない。

 

「口を挟むな──いずれ再会し、ぶつかる運命。その時間が短くなっただけのことだ。但し、お前が敗ければ、再びREDとして仕えて貰う。我が側近として、世界を吞み込む一助となるのだ」

 

 ボスは本気だ。逃げること、引くことなど考えない。たとえ僕が勝負に勝っても、決して有耶無耶にはしない。

 ロケット団の解散を、悪の首領としての地位を、この一戦に賭している。

 

「さぁ、チャンピオン! 命を懸けて、かかってこい──!!」

 

 その覚悟。その叫び。その想いに応えるように、僕は帽子のつ(・)ば(・)をぐるりと回し、渾身の力を込めてボールを突き出す。

 ブラウン管の向こう側にいた、本物の主人公(サトシ)がそうしていたように。

 

「スターミー! 君に決めた!!」

 

 始めよう! 世界を懸けた、戦いを!

 殺し合いなんかじゃない、正真正銘のポケモン・バトルを!!

 

『サカキ が しょうぶを しかけてきた!』

 




 これにてルギア爆誕編、そして、悪堕ちサトシ君の物語は完結です!
 短編じゃ書けなかった設定諸々のネタをやる為の劇場版と外伝でしたが、終わりまで行けて感無量でございます。

 勿論この後、サカキ様は約束通りロケット団は解散したのでありますが、ロケット・コンツェルンは残っているので、ムコニャやドミノ達は、そっから真っ当な仕事をサカキ様と続けることになります。

 とはいえ、ゲームがそうであるように、解散した所で、それを認めないロケット団残党とか、色々問題は残り続けるのでありますが……。
 ひょっとしたら、そんな後日談を描く可能性も有るかもしれません。

 この時空では、悪堕ちサトシ君は全てが終わってからカスミちゃんと再会して、ジム・トレーナーに永久就職しますが、もし後日談という名の続きをやるとしたら、IFストーリーとして、アニメのAG時空でハルカちゃんをメインに、悪堕ちサトシ君とカスミちゃんが、ハルカちゃんを鍛えつつ成長させて、ロケット団残党やらマグマ団・アクア団といった、悪の組織もシバキ倒すといった物語になると思います。

 え? ハルカちゃんはヒロインなのかって?
 ……。いや、まぁ、うん。多分悪堕ちサトシ君は、ヒロインにしちゃうだろうなぁ……。
 流石にそれ以上は増えないけど(いや既に十分多いんだけどね)

 ま、まぁ。そんなIFをやるかどうかは不明なので、一旦この物語はここで終わりでございます!
 ご愛読、ありがとうございました!
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