パーフェクトオールラウンダーの蓮夜くんは茜ちゃんに告りたい   作:フィン・マコーレー

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今度は茜ちゃんがキャラ崩壊してしまったかもしれないゾ……キャラ崩壊してばっかじゃねえかお前ん家ィ!!


茜ちゃんは基本的に何も知らない。

「見て見て蓮夜くん! 四つ葉のクローバー見つけた!」

 

 ああ、そうだ。小学生は中学生と違い、そこそこ休み時間が多いんだった。四葉のクローバーを探す時間ぐらいはあるか。目の前の少女、日浦茜は四葉のクローバーを自分に見せるが、どうも自慢する為という訳ではなさそうだ。様子を見る限り。

 

「おお、それはすごいな! 見つけるの大変だったんじゃないか?」

 

「えへへ……蓮夜くん。蓮夜くんにあげるね! この四葉のクローバー」

 

「えっ? いいのか?」

 

「うん! 昨日は転んで怪我した私を保健室まで運んでくれたよね! それに、一昨日は教科書貸してくれてありがとう! これはそのお礼だよ」

 

「へえ~、ありがとな。嬉しいぜ!」

 

 自分の最推したる日浦たんの贈り物。嬉しくないわけがなかろう。確かガラスだかプラスチックだかに植物を入れてアクセサリーという形で保存したりみたいな話は聞いたことがある。後で調べてみようか。

 

「ねえ蓮夜くん、四つ葉のクローバーの花言葉って知ってる?」

 

「ん? いや……知らないな」

 

「幸運って意味があるんだよ。蓮夜くんに幸運が訪れますようにっ! あっ、もう授業が始まっちゃうね! それじゃあね、蓮夜くん!」

 

 そう言って日浦は教室を出ていく。なんて眩しい笑顔だろう。日浦たんの笑顔を見るためであれば、自分は何でもできる気がする。四つ葉のクローバーの花言葉は本当にその通りだ。日浦たんに出会えたのが何よりも代えがたい幸運だ。

 

 そして自分は、そんな日浦たんが教科書を借りざるを得ない状況に追い込まれた原因を知っている。あの笑顔の為なら何でもできると思った俺は、それを取り除いた。

 

 それからだ。自分の持ち物が紛失するようになったのは……

 


 

「んあ?」

 

 あれ? ここは何処だ? 自分は確か小学校に……いや、違う。自分は今はもう中学生だ。そしてここは三門市立第二中学校だ。ということは……

 

「さっきのは夢か……」

 

 そういえば、小学生の頃は本当に好感度稼ぎのチャンスが多かったんだな……日浦たんの家にお邪魔したりして遊んだり、今より距離も近い。日浦たんの部屋メッチャいい匂いしたし、もう一度あの頃に戻りたい……。

 

 いや、ダメだ。もう少しポジティブに考えよう。日浦たんに告白して、それでOKを貰えたらまたあの頃に戻れるじゃないか。

 

「そうだよ……頑張ろう。頑張って日浦たんに告るんや……」

 

 そう言ってポケットの中から取り出したのは、ガラスで密封した四つ葉のクローバーだ。薄黒く変色しているが、自分の大切な思い出の詰まった物だ。この四つ葉のクローバーに誓ったのだ。日浦たんと恋仲になると……いや、これを貰わずとも日浦たんの恋仲を目指すけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神風蓮夜です。現在、三門市立第二中学校で休み時間を過ごし中。程よくのんびりした校風で、素直な奴、天然な奴が比較的多い印象だ。しかしどんな学校にしろDQNというものはいるものでして、今こそ慣れたものだが、自分の机に描かれている落書きや暴言、誹謗中傷は消される、及び注意されるような気配はない。かくいう自分は、「あーこれ油性ペンじゃん。消えんのかね? とりま学校側はご哀愁様ー」と気にも留めない。机の所有権は学校側だし、俺は別に困らない。

 

 これでも暴力を振るわれないだけ改善はされた方だ。俺のトリガーを強奪して以来、風間隊にしばかれた上に、暴力、及び窃盗で停学処分を食らったのだ。流石に懲りたらしい。とは言っても、恨みは消えていないようだった。少なくとも奴らの表情を見るに、停学から復帰してから今まで、俺の事を恨まなかった日はなさそうだ。

 

 だがやることは随分とみみっちい。今の所落書き以上の嫌がらせはしてこない。恐らくトリガーを一般人に使用してはならないという規則を知らないから、やりすぎるとやり返されると思ったのだろう。ありがたいのでそのままでいてくれ。あとは根も葉もない噂を流すぐらいだ。しかしソースがDQNなので誰も気に留めたりはしない。ざまあ。

 

 さて、そんな我が校に、天使たる日浦たんが在学しているのだが、基本校内で話しかけたりすることはない。なんなら避ける。現在進行形で虐められている自分が、日浦たんと一緒に居ればDQN共が日浦たんにヘイトが向く可能性があるからだ。流石に猫ワールドでそれはないとは思うが、「うえーーい!! 神風くん見てる~? www片思いの日浦たんこれから寝取られまーすwwww」的な展開が例えコンマ1%の確率でも生まれようものならば、たとえ日浦たんに会う時間を減らしてでも可能性の芽を摘まなくてはならない。

 

 ああ、放課後が待ち遠しい。はよう隣り合って笑いあいたいんじゃ。

 

 だが昨日は収穫だった。狙撃のコツが分かりかけてきたのもそうだが、何よりも日浦たんが俺の事を嫌っていない事が分かったのが大きい。それだけでも心理的余裕は生まれるという物だ。

 

 しかし……それならば何故自分とのコミュニケーションは時々引き気味なんだ? 一応、俺以外の他人と日浦たんとの会話を盗み聞いたことがあったが、どうも原作とキャラが違うって訳でもなさそうなんだよなあ……普通に明るく振舞ってるし。昨日のジュースの奢りだって「えっ、いいの!? ありがとう! じゃあ私はこれ!」みたいな感じになると思うんだけどなあ。少なくとも小学生の頃はそんな感じだったぞ……。

 

 考えろ……! よそよそしい理由……!

 

 もしかして…………俺の事が好きなのか……?

 

 よし告ろう。今度こそ告ろう。

 

 

 いや待て待て。これで違ったらメチャクチャ恥ずかしいやつやん。そもそも考えが飛躍し過ぎだ。そういう事ならもっと情報が欲しいぜ。チキるな? うるせえ。別にいいだろまだ時間に猶予があるんだし。

 

 とりあえずだ。一旦理由を探ろう。と言っても、本人に聞いてもそれが真実かどうか。そもそも俺の気のせいって可能性もあるし……誘導尋問でも出来ればいいが……。

 

 あっ、そうだ(唐突)。今日は荒船パイセンに銃手トリガーについて教えるんじゃないか(俺がいる意味は知らんが)。まずはそっちに集中しなくちゃ……荒船パイセンも頑張ってたし、俺も頑張らないと!

 

 

 

 放 課 後

 

 ボ ー ダ ー 本 部

 

 

 

『トリオン漏出過多 荒船ダウン』

 

 そのアナウンスが鳴り響くと同時に、神風と荒船が荒船隊のトレーニングルームから出てくる。十回勝負の模擬戦が行われ、たった今終了した所である。その結果はと言うと……

 

 

神風 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇

 

荒船 ×  ×  × × × ×  ×  × ×  ×

 

「やっぱり、銃手、射手としての経験はお前が一日の長がありそうだな。とは言え、流石に0-10は凹むな……」

 

「そんな凹まないでくださせえよ! 最後のやつメッチャよかったじゃねえですか。俺逝きかけましたよ」

 

「そうは言っても0-10だしなあ……」

 

 今現在神風は銃手トリガーを装備した荒船と模擬戦を行っていた。機動力のある相手に射撃したいという事で神風は機動力重視のトリガー構成である。具体的にはメインにスコーピオン、グラスホッパー、シールド、アステロイド。サブにスコーピオン、グラスホッパー、シールド、バッグワームの構成であった。対して荒船はメインにアステロイド(拳銃)、ハウンド(拳銃)、シールド。サブにアステロイド(拳銃)、ハウンド(拳銃)、シールド、バッグワーム。銃手に集中したいという事で弧月は外してきている。映画に影響を受けてか、二丁拳銃である。

 

「あ~そんじゃまず課題を整理してさっさと改善しちゃいましょう! パイセン要領いいんですから、すぐにマスター行けちゃいますよ!」

 

「……まっ、凹んでても時間の無駄だな。そんじゃ頼むぜ師匠!」

 

「師匠か~やっぱ慣れないっすね……まあそれは置いといて……じゃあパイセンはまず銃手トリガーを使った感想を聞かせて欲しいっす」

 

「感想……そうだな、前々から銃手、射手は火力がないから点を取るのは難しいっていうのは聞いていたが、ここまで大変とは思わなかったな……」

 

「うんうん、臨機応変に弾道をひいて範囲攻撃ですり潰していく那須パイセンや、早撃ちを極めた弓場さん、トリオンの暴力でシールドごとひねり潰す二宮さんみたいな例外が目立ってるだけで、実際の所はサポートがメインの仕事っすね。そもそも、このポジションは一人で点を取る必要がないんすよ。さっきの模擬戦だって、如何にして当てるかを模索しながら撃ってたっすけど、実際の所一番の天敵はシールドだったんじゃないっすか?」

 

「ああ、そうだよ……シールドで弾防ぎながら接近戦に持ち込むっていうのは攻撃手なら皆やってることじゃねえか。クソ、何で気付かなかったんだ……」

 

「今気づけたんだったらよかったじゃないっすか。何事も遅すぎるってことはないっすよ。んで、結構仲間ありきのトリガーなんですが、何も火力が足りないからってだけでそう呼ばれてる訳じゃないんすよ。ここで一つ聞きますけど、射程距離と書けまして、普段の荒船隊の戦術と説きます。その心は?」

 

「あー……分かりかけてきたぞ。火力を集中させ易い、だな?」

 

「その通り。普段荒船隊は離れた位置で狙撃して援護を行う攻防両面の戦術。この戦術の強力な所は、好きなタイミングで好きな距離で援護を行うことができる事。そして、攻撃手同士の連携と違って、フレンドリーファイアの恐れが少ない。まあ、この戦術のスケールを小さくしたものが、射手、銃手の主な仕事になるんすよね」

 

「なるほどな……離れている場所から攻撃しているわけだから比較的安全に、そして位置や角度にも多少の融通が利くから援護が容易い。味方が攻撃手でも一撃離脱を心掛けてもらえば効果的に連携できる。前々から知ってはいたが、知るだけなのと、実際に触って実感するのとじゃ結構違ってくるもんだな」

 

「分かってきた感じじゃないっすか。んで……今日はこの辺で終わっておきます?」

 

「……いや、もう1セット付き合っちゃくれないか? 今度トリガーは好きにしてくれ。俺も少し変えてくる」

 

「はいはーい」

 

 と言ってトリガーを変更する。今度使うトリガー構成はメインにスコーピオン、バイパー、シールド、メテオラ。サブにアステロイド、バイパー、シールド、バッグワームと、前に緑川に使った物であった。

 

 

 

 

 模擬戦が始まり、会敵する。どうやら荒船は弧月を入れて来たらしい。鞘が確認できる。

 

 恐らく牽制目的だろう、荒船は拳銃によってアステロイドを発射。神風も同じくアステロイドによって弾幕を張る。お互いがシールドを張り、弾を防ぐ。荒船は弧月を抜き、旋空の準備をしながら突進。

 

 対して神風は距離を取って踏み込み旋空弧月の射程である20メートルに入らないようにしていた。更に威力を重視したメテオラで足場を破壊し、踏み込みにくくする。

 

「チッ……」

 

 爆風で視界が悪くなった上に、足場が悪い。これでは接近戦は現実的ではない。爆心地点から時計回りに移動する荒船。神風も同じことをしていた。

 

(意地でも射撃戦に持ち込むつもりか……だがこんな煙幕、そう何秒も持たねえぞ? 晴れたら速攻で決めてやる!)

 

 荒船は探知誘導によるハウンドで射撃。神風はと言うと――

 

「!?」

 

 レーダーを見る限りでは神風は跳躍、突撃していた。シールドでハウンドを防ぎながらスコーピオンで強襲。撃ち合いになると想像していた荒船は対応に遅れるものの、辛うじて弧月で防いだが、間髪入れずに発射されたバイパーの全方位攻撃をシールド一枚で防ぎきれなかった。

 

『戦闘体活動限界。荒船ダウン』

 

 戦闘が一度終了すると同時に地形が修復され、瞬時に元通りになるとすぐさま二戦目が開始される。

 

 

 

 アステロイドによる牽制合戦がまたしても始まる。弧月で突進するのも同じであった。神風も同じく、メテオラを撃って対処しようとするが……

 

(地面には撃たせねえ!)

 

 遠隔シールドでメテオラの内の一発を受け止め、着弾したのち爆発。他の弾も爆発で誘爆した。

 

 今度こそ接近できる。そう思い、突撃する。しかしレーダーは神風が急接近している事も警報を鳴らした。神風の方もスコーピオンを片手に突撃してきたのだ。瞬時にそれを理解した荒船は、それはさっきも見たとでも言わんばかりにスコーピオンによる強襲を弧月で完璧にガード。

 

 一撃離脱を心掛けていた神風は荒船が突進してきた方角と反対方向に離脱して、バイパーを発射。荒船の視線は自然とそれを追いかけて、拳銃でアステロイドを放ちながらシールドを展開する瞬間――

 

(!?)

 

 荒船の戦闘体は、後ろから(・・・・)のアステロイドによる射撃でハチの巣にされた。

 

『トリオン供給器官破損。荒船ダウン』

 

 何故後ろから射撃が? 少しの混乱に陥るも、数秒の推理で答えにたどり着いた。

 

 置き弾だ。恐らく神風が強襲する前にアステロイドの置き弾を配置し、突撃するついでに荒船の後ろに位置取りを行う事によって、荒船の視線はそっちに逸れる。そうなれば後ろはがら空き。仮に荒船が置き弾の存在に気付けたとしても、神風とアステロイドで挟み撃ちの形になり、どちらにしろ無事では済まないだろう。

 

「おいゴラ神風」

 

「はい?」

 

「さてはお前サイドエフェクト使ってるだろ……?」

 

「えっ、なんのこっすか?(すっとぼけ)」

 

「しらばっくれんじゃねえ。トリガーを変更したにも拘らずその切り替えの速さと正確さ、それが何よりの証拠だ。医師にそれはあんまり使うなっつわれてるだろ」

 

「やー……しょうがねぇでしょ! パイセン強いんだからこっちだって手加減できねぇんですわ!それに、ほんの少しぐらいなら大丈夫っすよ」

 

「この野郎……上等だッ!!」

 

 

 

 始まった第3回の模擬戦、荒船はアステロイドで射撃。だが今度は神風のシールドを一点集中で狙い撃ちする。神風は破られるのは時間の問題かと思い、右の集中シールドに切り替えて対処。アステロイドで反撃する。

 

 だがそれを見た荒船はハウンドに素早く切り替えて放つ。やむを得ない神風はフルガードで対応。

 

(貰った!)

 

 それを見た荒船は好機と、孤月を持って突撃。

 

「旋空孤月ッ!!」

 

 鞘から孤月を取り出し、まるで斬撃が飛ぶかのような攻撃。トリオンを消費する事によって数秒だけ孤月の長さを15メートルぐらいに伸ばすことができるオプショントリガー、旋空孤月。

 

「ッ!!」

 

 荒船の放った旋空弧月は、フルガードを一遍に切断。だが神風は身を引くしてそれを躱した。

 

(あっぶねえ! だが頂きだぜぇ!)

 

 荒船の攻撃を凌いだ神風はアステロイドとバイパーのフルアタックで決めようとするが――

 

「ぶっ!?」

 

 それは上空から飛来したハウンドによって叶わなかった。

 

『戦闘体活動限界。神風ダウン』

 

「(どさくさに紛れてハウンドを上空に撃ち上げてたのか……?)あれま。やっぱ荒船パイセンパネぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局勝ちを引けたのは1回だけか……」

 

 何とか勝ったぜ。9ー1、トータルでは19-1で確かに圧勝に終わったが、やればやるほど攻略がし辛くなる。何れパイセンに勝ち越せる回数も少なくなるだろう。本当にすげえよ荒船パイセンは……

 

「今日は付き合ってくれてありがとな。礼って訳でもないんだが、今日カゲん家に来い。俺の奢りだ」

 

「マジっすか!? ゴチになりまーす!」

 

 これは嬉しい。カゲパイセンのお好み焼きメッチャ旨いんだよ。それを奢ってくれるとか神か?

 

 神みたいなもんだったわ。

 

「所で、本当に大丈夫か? 頭痛とか起きてたりしないか?」

 

「あー本当に大丈夫っすよ。ちょっと使うぐらいなら何ともないっすから」

 

 そう、自分のサイドエフェクトはなんと使い過ぎると自分の体に悪影響を及ぼす諸刃の剣なのだ。そんな中二病チックな仕上がりになっている自分のサイドエフェクトの名前は……

 

『思考速度強化』という。

 

 具体的にどういう物かと言えば、頭の回転が常人の二倍にも三倍にも加速出来るという代物だ。加速された思考というのは、体感時間が伸びるのだ。思考を二倍加速すれば一秒が二秒に感じられ、一秒の間に二秒分の思考が出来るのだ。三倍になれば一秒が三秒に感じられる、といった具合である。実際に一秒が二秒になっている訳ではない関係上、倍速するとそれだけ周りの動きが遅く見えるのだ。

 

 これがどれ程のアドバンテージを齎すのかと言えば、例えばバイパーを撃つ時じっくり弾道をイメージする猶予が倍速した数だけ与えられるのだ。というか最初リアタイバイパーはこのサイドエフェクトないと出来なかった(今は普通にできるが)。バイパーでなくとも、射手の特権である弾の調整をじっくり考えて使う事が出来るのも大きい。

 

 それに留まらず、攻撃手の斬撃を見切る。射手、銃手の射線を見切って集中シールドを張る。学校のテストでじっくり問題に取り組める。アニメの戦闘シーンをじっくり見れる。考えるというのは非常に汎用性の高いアドバンテージなのだ。

 

 しかしボーダーとマブダチの医師によれば、サイドエフェクトは人体の構造上考慮されていない事が殆どだ。ましてや自分のそれはデリゲートな脳という部位を中心的に変質した物であり、想定以上の脳の思考速度に脳の負担がキャパオーバーしてしまうというのだ。

 

 脳に掛かる負荷により人体に症状が発生する。軽い物としては少しの吐き気、眩暈、おおよそ車酔いと同じような症状だ。これが重くなるとこれらの症状も重くなる上、頭痛も発生する。自分が経験した中で最悪のパターンは、穴という穴から血が滴って止まらない時だった。ガチめに血涙が出るし口は嘔吐物と血の匂いが混ざり合って気持ち悪いしメチャクチャ頭痛が酷いしでもう体験したくねえ。

 

 そんな症状が出る上に、元々脳は未知な部分が多く、治療も困難である為医師からはそのサイドエフェクトはなるべく使わないようにしてほしいと通達されている。親しい間柄の人にもこのサイドエフェクトについて知られているので心配させてしまう。のだが、まあ60分の間倍速する程度ならあまり問題ないのだ。本当だゾ。

 

「本当だろうな? 前みたいに吐いたりしないな?」

 

「あの時は本当にご迷惑をおかけしました……」

 

「……まあ、大丈夫って言うんならいいんだが……」

 

 使い過ぎると何がとは言わないがリバースするのでまあそりゃ心配されるよねって言う。(主に片づけ方面で)

 

 そんな事を話しながらボーダー本部を出ようとした帰り道に……

 

「神風くん、探したわ」

 

 すれ違いざまに声をかけられた。あの天使たる日浦たんが所属するB級部隊である那須隊の隊長、那須玲であった。こちらに気付いたのか、笑顔で手を振っている天使たる日浦たんと、那須パイセンのセコム(兼守られ役)こと熊谷パイセンも一緒だ。

 

「那須パイセン? 探したって何故に?」

 

 那須パイセンとは同じバイパー使いとして談義する事はあったが、態々探し出してまで話をする事などあっただろうか?

 

「神風くん、昨日透くんと喧嘩したって聞いたけど、本当?」

 

「あっ」

 

「ああ、それなら俺も見てたぞ。また随分と言い争ってたな」

 

 そういやあのクソたけのこ野郎、那須パイセンの従姉弟だったわ(裏山)。

 

「茜ちゃんとも仲良くしてもらってるし、私もバイパーの使い方について参考になるから助かってる。そんな神風くんが従弟と喧嘩してるのはとても悲しいわ。話って言うのは、私の方からも透くんには出来るだけ仲良くしてくれるように言っておくから、神風くんもあんまり喧嘩しないでほしいっていう話よ」

 

「あ……う……やーでも、あのクソたけのこ野郎やっぱ認められ――」

 

 そこで嫌な予感を感じ、日浦たんの表情を見やった。今にも泣きだしそうなほどに不安な表情をしている。自分の軽率さを恥じ、咄嗟に心を切り替えた。

 

「ま、まーあー? 俺は別に、奈良坂パイセンと仲良くしてやってもいいですけどぉ!? 実際にそう出来るかは奈良坂パイセンの返答次第っすよー!? 幾ら那須パイセンと言えども、きのこdisるようじゃ我慢できねえっすよー!? 自分の好きな映画の悪口言われたらムカつきますよねぇ!? ねえ荒船パイセン!」

 

「いやいや、そこで俺に振るなよ……まあ言わんとする事は分かるが……」

 

 そこで那須パイセンは頭を抱えながら「はあ……」とエロいため息を吐く。

 

「分かったわ。それも含めて透くんにはちゃんと言っておくから、今度は喧嘩しないようにお願いね?」

 

「ウイッス! かしこまり!」

 

 とは言っても出来る、かなぁ? と不安にならざるを得ない。なんかもう色々と気に食わねえよアイツ! ドのつく美処女たる那須パイセンが従姉弟で? 自分の最推しである日浦たんの師匠で? ドのつくイケメンで? ポジション美味しすぎねえ!? しかもたけのこ派? やっぱ許さねえアイツ(秒で約束を反故にする人間の屑)。

 

「それと、もう一ついい?」

 

「はい?」

 

「もし良かったら……一人で戦うっていうのを止めて私達のチームに入らない?」

 

「……んん?」

 

 突然の勧誘に戸惑いを隠しきれなかった。荒船パイセンも同じような反応であった。

 

「あれ? いや、でも志岐パイセン確か……」

 

「神風くんならギリオッケーだそうよ。年下だし、オペをするの初めてじゃないし、ねぇ?」

 

「ア、ハイ。防衛任務一緒の時はご迷惑をお掛けしました……」

 

「うんうん。熊ちゃんと茜ちゃんもいいって言ってるし、神風くん茜ちゃんとも仲いいし、どうかしら? 私の隊――」

 

「待ってくれ那須。そういう事ならこっちも話がある」

 

 という所で、話を遮ったのは荒船パイセンだった。

 

「神風、俺達は今お前のような優秀な狙撃手を必要としている。ましてやお前は近接戦闘も兼任出来るパーフェクトオールラウンダーだ。お前が居ればA級も夢じゃない。是非、俺の隊に――」

 

「荒船先輩、そんな事言って神風くんを囮にするつもりじゃないですか? 他が狙撃手3人じゃ負担が大きいのでは? その点私のチームは攻撃手、射手、狙撃手とバランスよく纏まっています。神風くん、貴方もきっとやりやすいわ」

 

「生憎囮は俺も出来る。それに負担と言ったらアンタらも人の事言えない筈だ。周りが全員異性じゃ神風も疲れるだろ。なあ、神風?」

 

「あら! 性別の事を言い出したら加賀美先輩にも負担を強いている事になるのでは?」

 

「ええっと、ちょっと那須パイセン、荒船パイセン……?」

 

 喧嘩とは言えないが、口論が勃発した。やがてそれが白熱すると、2人とも俺の腕を掴み取って引っ張り始めた。

 

 ていうか那須パイセン!? 抱き抱えるように腕掴まないで!? 何がとは言わんが当たってますから!? あててんのよじゃねえんだよ!? 嬉しくない訳じゃないが、そういうのは日浦たんにやって欲しいのおおおおおお!!!!

 

「大体荒船先輩は狙撃手ばっかり取りすぎなんですよ! ただでさえB級上がりの狙撃手って貴重なんですから、三人もいるんですから1人くらい譲ってください!」

 

「俺達の戦術の為にも狙撃手は必要なんだ。それに狙撃手とは言うがパーフェクトオールラウンダーをはいそうですかとそう簡単に譲れるわけがない」

 

「こっちは突破力のある点取り屋が喉から手が出る程欲しいんです! 譲ってください!」

 

「神風レベルの点取り屋が欲しいのはこっちも同じだ。悪いが譲れない」

 

「2人ともちょっとタンマ!!」

 

 そう言って自分は2人の手を払いのけた。

 

「お2人とも気持ちは嬉しいっすけど、自分はチームに入るつもりは更々ないっす! すいません!」

 

 那須隊も荒船隊も玉狛第二に衝突するもんなあ……遠征資格入手の障害が自分になったんじゃ世話ねえよ。知ったこっちゃないんですね分かります。

 

「神風くん、どうしてもダメかしら……?」

 

「まあ、最終的にはお前の意思を尊重するが……」

 

 本当に申し訳ない。本編終わったら前向きに検討させていただきます。

 

「そうだ日浦、訓練……にしてはもう時間も遅いよな。防衛任務か?」

 

「あ、うん! そうだよ。泊まり込みで防衛任務なの」

 

「そっか、頑張れよ!」

 

 交代制で防衛し、ボーダーは回っている。この平穏が保たれているのは、偏に隊員1人1人の頑張りのおかげだ。勿論上層部の人達やエンジニア、オペレーターの努力も忘れた事はない。そんな人達に感謝し、俺は今日もこの三門市で1日を過ごす。

 

「荒船パイセン! 早く行きましょうぜ! 腹減ったっすよー!」

 

「おい神風、あんま高いのは頼むなよなー?」

 

 そんな感じで1日が過ぎようとしていた時だった。

 

「…………れ、蓮夜くん!」

 

「! ……おう!?」

 

 何か言いたげだった日浦たんが一旦踵を返し、自分を引き止めた。

 

「蓮夜くん、何か困ってる事ってない!? 何か相談したい事でもあったら……私、じゃなくても……那須先輩、熊谷先輩、それに奈良坂先輩も! ボーダーには頼りになる人達がいっぱい居るから! だから、蓮夜くん、困ってる事でもあったら相談して!」

 

「お、おう! わ……分かった。そんじゃ、困った時には、相談させて貰おうかな?」

 

「絶対だよ!」

 

 日浦はそれだけを言い残し、那須隊はこの場を去って行った。

 

 そりゃまあ、ボーダーに入ったからには、パイセン達には世話になると思う(現在進行形で世話になってるし。主にオペ)。だけど、自分だって皆の役に立ちたいのよなあ。それこそ、理想で言えば自分だけで皆を守れるぐらいには。勿論自分はS級隊員ではないし、敵味方問わず相手が相手なので、そうは問屋が卸さないが。それでもせめて、自分にとっては偉大に見えるワールドトリガーのキャラ達と、隣り合って戦うのに相応しい人間になりたいとは常々思っていた。寧ろそれぐらいでなければどうして日浦たんの彼氏を目指せる?

 

 自分は今、そんな人間になれているだろうか? 本当に、自分は必要とされているのだろうか?

 

 だとしたら、凄く嬉しい。

 

 かの憧れのワールドトリガーのキャラ達に、自分は必要とされている。嬉しくない筈がないだろう。今日の那須隊と荒船隊の勧誘も凄く嬉しかった(それだけ断るのも心苦しかったが)。

 

 しかし相談してくれ、か……だが流石に自分が転生者でこれからの展開ある程度知ってるから改善に手伝ってくれなんて言ったらどうなるかは目に見えている。絶対嫌だよ今築き上げてる人間関係を金属バットでぶん殴るような事。黄色い救急車呼ばれる案件ですね分かります。

 

 だが、それでも大規模侵攻でもガロプラ戦でも、ランク戦でバトってるあいつらが味方になると考えると、凄く頼もしい。

 

 皆頭が良くて頼もしいから、この人達なら大丈夫だろうなって安心感がある。だから、

 

 俺は大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 私の名前は日浦茜。今現在、私の所属している那須隊の先輩達と一緒に防衛任務をしている。常盤隊、諏訪隊、王子隊、嵐山隊と合同で各支部を拠点に巡回している。

 

「小夜子ちゃん、近界民の出現情報はあるかしら?」

 

「やー、まだないです……あっ、早沼支部の近くで出現してますね。でも王子隊が対応してるんで大丈夫かと」

 

「分かったわ。弓手町支部の近くに発生したら知らせて」

 

 今の所近界民は出そうにない。気を抜くわけではないけど、少し物思いにふけった。

 

 私には昔からの幼馴染がいる。神風蓮夜。成績優秀で運動神経も抜群でとても優しい人。そして、私のせい(・・・・)で人を信じられなくなってしまった人。

 

 人間不信に陥ってしまっているのではないかというのは私の見解。でも、多分間違っていないと思う。

 

 蓮夜くんは、相当甲斐性のないご両親に虐待されていたみたいだった。随分と前に、蓮夜くんの家に遊びに行ってみたいと我儘を言ったことがあった。蓮夜くんは渋々それを了承したけど、日時をきっちり指定して、ご両親に合わせないようにしていた。そこで蓮夜くんの家を見てみると、妙に小綺麗で不気味な装飾品があっちこっちに飾られていた。当時の私は、あれが何なのか分からなかったけど、カルト宗教か何かだと理解した今は、蓮夜くんがあの家でどんなことをされていたのか、恐ろしくて想像すら出来なかった。

 

 人間関係に恵まれなかったのは学校でも同じだった。そして、この件に関しては私のせいでもある。

 

 一時期、小学生の頃私はいじめられていた。後で聞いた話だけど、私の性格が気に入らなかったらしかった。その話を聞かせてくれた友達は、「茜ちゃんはそのままでいいんだよ。それが茜ちゃんのいい所だもん!」と言ってくれて嬉しかった。

 

 私のいじめを解決してくれたのは蓮夜くんだった。いじめていた子に直接止めるように言ってくれたらしい。でも、いじめは終わらなかった。ただ標的が移っただけ。

 

 今度いじめられたのは蓮夜くんだった。落書きされる机、紛失する蓮夜くんの持ち物、男子陣も混ざって理不尽に振るわれる暴力……

 

 私は…………それを…………

 

 ずっと見ないふりをしていた……

 

 怖かった。蓮夜くんを庇おうとすると、いじめられていた頃の記憶がフラッシュバッグして、その場で動かなくなってしまう。

 

 蓮夜くんが助けを求めなかった、なんて言い訳にもなるはずがない。助けてくれた人が困った時、私は手のひらを反すように距離を置いてしまった。

 

 それでも私は、一度だけ……蓮夜くんを庇おうとした。フラッシュバッグを強引に振り切って、話しかけようとした。

 

 だけど蓮夜くんは、私から距離を取り始めた。

 

 そこでやっと深刻さを理解した。私はもう、蓮夜くんを……取り返しのつかない所まで傷つけたと。

 

 でも蓮夜くんは、校外にでると私にいつもと変りなく話しかけてくれる。どうして? って思った。でも、聞くのが怖かった。蓮夜くんの内心を聞くのが。

 

 そうしていつもの帰り道だった。ガラの悪そうな警察官が2人近寄ってきて、蓮夜くんに職質をした。持ち物検査を要求し、蓮夜くんは何故と抗議するも、渋々ランドセルを渡そうとしていたのを警察官の一人がひったくるように取り上げ、中身を乱暴に漁り、「紛らわしいんだよクソガキがッ!!」とランドセルを投げつけて、それが蓮夜くんの顔面に直撃した。蓮夜くんは直ぐに立ち上がって、大丈夫だと言うが、鼻血を出すような大怪我、大丈夫な訳がなかった。

 

 そんな事が3回も起こった。しかも3回目は「どうせお前が万引きしたんだろ!? さっさと署に来い!」と難癖をつけられて警察署に連れていかれそうになっていた。そこで丁度のタイミングで事件が解決したという知らせが届いたらしい。警察官はその連絡を受けると「手間かけさせやがってこのクソガキッ!!」と投げ飛ばした。

 

 流石にあんまりだと抗議しようとした私を、無意味だからだろうか、止めたのは蓮夜くんだった。

 

 親、学校、警察、3方向から攻撃された蓮夜くんの心境は、察するに余りある。蓮夜くんは理解したのだと思う。いざとなったら自分の身を守れるのは、自分だけなのだと。

 

 それでも蓮夜くんは、あからさまに人間関係を蔑ろにしようとしない。荒波を立てない方が反発を生みにくいから。

 

 だけど、蓮夜くんが人間不信だという根拠は、蓮夜くんの現在からも見て取れる。

 

 もしも、あれほど頑なにチームに入ろうとしないのが、他人に自分の背中を預けたくないからだとしたら?

 

 もしも、尋常じゃない早さでパーフェクトオールラウンダーになったのが、どんな局面でも自分だけで対応出来るようにしたのだとしたら?

 

 もしも、オタク趣味に傾倒しているのが、現実の人間(三次元)に失望しているからだとしたら?

 

 もしも、ボーダーに入ったのが、自衛手段を確保するためだとしたら?

 

 もしも、蓮夜くんが人間不信なのであれば、これら全てに説明がついてしまう。

 

 そして、私も蓮夜くんをこんなにしてしまった、その原因の一つだ。

 

 

 

 そんな蓮夜くんの事情をボーダー内で知っているのは、那須隊の先輩達3人と奈良坂先輩。私が相談した人達だ。それと、外務・営業部長と本部長、最高司令官も、蓮夜くんの事情を知りたがっていたようなので話した。そして、そこから連鎖的にその人たちと親しい人達も何人か、あと蓮夜くんを勧誘したがっているチームもこの事情を知っている。

 

 全員が蓮夜くんを、人を信じられるように何とかしたいと思っている。それが嬉しかった。多分、ボーダーに入るまで蓮夜くんには誰も味方がいなかったから。

 

 そして、私が原因の一端をになっている事に関しても、全員私を軽蔑するようなこともしなかった。

 

 

 

 

「……! 那須先輩、来ました! 近界民の位置情報を送ります!」

 

「分かったわ。熊ちゃん、茜ちゃん、やるわよ」

 

「「! 了解!!」」

 

 ここからでも肉眼で視認できた。バムスターとモールモッドが何体かいる。遠距離から狙撃出来る私は、すぐさまイーグレットを出し、構える。

 

 

 

 蓮夜くん。私は、貴方の事が好き。異性として好き。私を助けてくれた貴方が好き。

 

 蓮夜くんはもう忘れてしまったかもしれないけれど、蓮夜くんにおんぶしてもらったあの日を忘れていない。教科書を貸してくれたあの日も、私の四つ葉のクローバーを嬉しそうに受け取ってくれたあの日も一度も忘れたことはない。

 

 だから……私はもう蓮夜くんを助けることから逃げない。でも出来ることは少ないかもしれない。だから蓮夜くんは、無理かもしれないけど、どうか人を頼ってほしい。

 

 私は私で、出来ることをしてみる。今は蓮夜くんの生活を、近界民から守って見せるから……




ボーダーコソコソ噂話

 三門市の治安が悪いのは、警察がいい加減な仕事をしているからだと言われているよ! DQNが多くて怖いね!
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