隻腕の狼、続く主は道化師か   作:森本様

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 タットキカンソウ…タットキヒョウカ…ヌシ……ヨロコバレタシ…ホウビ(更新)…ツカワス

 オオォォォォォォォォン!!!(歓喜)

【変更報告 10/21】
表現や構成を一部変更しました。


何故の因果か

狼は、数多から成る知識を得た。得た代わりに、困惑も数多。

 

迷宮、家族、己の力を数値化した物、冒険者が集う集会所、この街について。そして何の因果か、葦名とは程遠い土壌にまで流れた。いや、流れてしまった。

 

幾多の者を斬り捨てたのだ、人、獣、落ち谷衆、水生の者、僧、源の者、内府の者。果てには忍びの師、義父、隻腕の鬼や剣聖…己の不死までをも。

 

そんな己が何故地獄に落ちず、暗き穴で寝覚めるのか…。絶ったはずの首が繋がり、得物を失い、生涯の主ではない何者かと契りを交わした。

 

此処が葦名とは似ても似つかぬ土地故、その乖離と心情によって、己が目的を諦めという情で以て無き物に帰そうとしていた。

 

「…やはり、」

 

やはりどうするのだ、どうしたいのだ、九郎様を自力で探し出すのか、今一度自刃するか…。一度首を斬った身、再び死ぬるは只の価値無き我侭。即ち、恥だ。そしてなにより、力添えを約束してくれた道化師に申し訳が立たない。

 

己に出来ることは…。

 

飢えた我が身を拾うてくれた義父のやうに、敗れた己を介助し、義手を授けた仏師殿のやうに、九郎様のために力を添えてくれた変若の御子のやうに、葦名の為、為すべきことを為そうとした主のやうに。

 

半ば目を開けた瞑想、しかして見えゆるは雑念や煩悩の類でなく…――道。

 

寄鷹の狼煙のやうな、薄桃色の妖しい煙。それは、すべきことへの道標、たとい妖しくとも、険しき道形。

 

「……為すべきことを、為すのだ…」

 

 

木製、良き香りのする珍しき形状の扉が開かれる。

 

「何を為すんだい、オオカミ」

 

姿を見ずとも声色で分かる。先ほど便宜を図らってくれた小さき強者だと。

 

「……金色(こんじき)殿」

 

「金色って、それ…僕の金髪のことかな?」

 

「……」

 

狼は答えない。されど、同意の唸り声が聞こえる。

 

「僕はフィン、フィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長を任されている小人族だ。因みに、僕と同じ髪色の者も沢山いる。区別できるようにしておいてくれよ」

 

「……わかった」

 

「ふむ、まぁ、君の中ですべきことは決まったようだね。聞かせてもらってもいいかな?」

 

「…道化殿に従うまで」

 

「……ロキの事だね。難儀な主だよ、ロキは…。ま、こんな夜中で悪いけど、彼女の所まで行ってくるといいよ。そろそろ落ち着いた頃だと思うからね」

 

「…うむ」

 

狼は徐に立ち上がり、橙の外套を僅かに揺らしながら、ロキの部屋に向かった。

 

「案内しようか…?」

 

「……」

 

狼は黙って立ち上がる。それが示すのはついてくるなという沈黙ではなく、こちらの内情を察した沈黙であった。

 

ロキに命じられた監視故に、フィンも狼について行く。そして相手方にとって自分が怪しいと自覚している狼は、付いてくる小人に、何も言わなかった。自分よりははるかに背が低く、らっぱの衆よりは大きなその小人に。

 

<><><><><><><><><><>

 

 

「入ってええで。」と、その言葉が聞こえるとフィンが扉を開け、狼が後に続いた。

 

「なんやぁ、いきなり問題か?」

 

「いいやロキ。オオカミは為すべきことを為したいそうだ…、君の為にね」

 

「……?」

 

ロキは何が何やら理解できない表情であるが、狼は構わずロキに向かう。

 

「…道化殿」

 

「道化て、えらい呼称付いたもんやな。ま、ええけど」

 

狼は続ける。

 

「…主の行方が明らかになる折まで、ご助力いたす」

 

「……なるほど、そういうことかいな。ええやろ…フィン」

 

金髪の小人は、ロキの部屋を後にする。

 

「来るべき時までオオカミには恩恵を授けて、ウチのファミリアを手伝うてもらう。その代わり、狼の主っちゅう奴も探してみるし、衣食住で不自由はさせん。それでどうや」

 

「承知」

 

「異論がないんやったら話が速い。恩恵授けたるから、そのきったない服脱いでもらうで」

 

「………」

 

狼は、一時の主の言う通りにした。

 

鬼仏に対座するかの如く、空間を忘れるような蒼光に包まれ、神は血を刻む、それはまるで竜胤を思わせるような…、主従の契約には、必ず血を媒介にするのか。はてさて、そんな疑問はさておき、何やら別の紙の様なものを取り出し、不思議な方法で墨を移した。

 

「………ま、記憶無くなってることもあってか、特段変わったことはないようやな…、冒険者なら誰しもが通る、真っ白な子どもや。あ、もう楽にしてええで」

 

狼は開けた背中を元に戻し、ロキに向かう。

 

「明日は……せやな、冒険者登録しに、ギルド行ってき、フィンとな」

 

 

その言葉を最後に、狼は扉の外へと向かった。フィンが再び部屋に帰ってこないのは、狼を部屋まで監視するためだろう。

 

対し、ロキの部屋には静寂が戻る。その主神は、左手で酒を弄びながら、右手に狼のステータスを記した羊皮紙。

 

「なんかある思たけど…なんや期待外れやなぁ」

 

しかし、傷だらけの身体、額の近くにあった痣の跡、そして何よりあの義手…。ステータスに何も発現しないのはおかしいと思うレベルで外傷がある。葦名という国でモンスターにやられたか、真を偽り、恩恵を偽る術があるのか、それとも…予想したとおりに、神の与り知らぬ土壌から――流れ着いたのか…。

 

もしそうだとすれば、ステイタスが真っ白なのにも合点がいく。

 

 <><><><><><><><><>

 

 

寝覚めは…存外に悪くない。狼の印象は、もっともソレであった。どうやら、井戸の底で腑抜けていた時のように眠っていたようだ。何の因果か、また己をつき動かすのは掟と主のようであった。

 

葦名のような山ならではの天候ではなく、また霧が立ち込めるわけでもない。民草が日常だと思い、葦名では日常でない光景。それは、温かい太陽が差し、緑生い茂る自然の姿。景色を透過させる透明な板によって、触れられない景色が透き通って刺激される。戦国の世で硝子は、高価なものだ…。はち切れんばかりの銭袋を、一体いくつ開封しなければならないのか。

 

かくいう狼も、はち切れんばかりの銭袋には、すこしの笑みが漏れたものだ。

 

 

扉に、洗練された木を叩く音が鳴る。

 

そして狼が促すと、叩いた本人が顔を露わにした。

 

「やぁ、おはようオオカミ。今朝はロキに命じられたように、冒険者ギルドに行くよ」

 

「……金色殿」

 

フィンは少し困ったように考える…。

 

「…………ま、小人殿って言われるよりはマシかな…」

 

小さき声で納得すると、フィンは狼を連れて街へ出た。少しばかり早い朝故、他の家族に見つかることは無かった。狼の存在を知っている者は、家族の中でもごく少数。

 

幹部を含む遠征に出ていた連中。たまたま狼を見かけた門前の者、そして主神ロキ。その程度だ。いずれ全員に知られることになるとは思うが…。

 

珍しい景色とはいえ、狼は小童のように首を回すことは無かった。只フィンに付き、時折掛けられる言葉に対して自分の言葉を返し、穴山を思い出す威勢のいい商いを眺めた。

 

「珍しい商品でも見つけたかい?」

 

「……そうではない」

 

「ま、ロキに言われた通り冒険者ギルドに行く。ギルドに行くってことは、君は冒険者になるってことだ」

 

「……冒険者」

 

「そう、昨夜話した通り。浪漫ある職業だ」

 

「………」

 

狼にとって到底理解し難い言葉は彼の喉に詰まるばかり。なんとか呑み込もうとしている矢先、冒険者が集う場所までやって来た。

 

見たことのない造り、嗅いだことのない匂い、触れたことのない感触、聴いたことのない声、そして音。

 

まだ日は昇りたて故、冒険者はそこまで多くない。乾いた木の匂い、そして時折静寂な中から紙の掠れる音や、ギルド職員の駄弁る声が聞こえた。

 

そんなさ中でさえ、誰がロキ・ファミリアの団長を見逃すだろうか…。

 

「フィン・ディムナ氏!」

 

受付のカウンターから、驚嘆の声色が聞いて取れた。

 

「今朝はどの様な御用件で…?」

 

報告済みではあるがミノタウロスの件もある、探るような声で用件を聞くが、すぐにそのことではないと察した。―――ディムナ氏の隣にいる、橙色のヒューマンを見て。

 

「あぁ、今日は彼を冒険者にしたくてね。頼めるかい?」

 

「……はい。ではこちらまで…」

 

団長が自ら付き添うヒューマンとは如何な者なのだろうか。服装も、髪型も、左腕も、纏う雰囲気も、全てが常事(つねごと)から逸脱している。

 

 

耳の長い職員は橙色の外套を纏ったヒューマンに紙を手渡した。

 

「…此方が書類になります。所属ファミリアと名前、その他詳細は下部に説明がございますので其方を見ながら御記入いただけますか」

 

「……わかった」

 

狼は、普段から筆を握らなかったが…、況やこの細長い羽は何だ。と疑問を表情に出す、しかしそれ以前に…。

 

「………読めぬ。」

 

「…はぁ!?い、一応共通語なん、ですけど……」

 

閑散としている早朝のギルドに、耳の長い者は再び大きな声を漏らした。しかし、場に似合わない声を自覚し、ソレを抑えた。そしてその隣では金髪の小人が…

 

「ま、そうだろうとは思ったけど…。ごめんね、僕が代わりに書くよ。」

 

「は、はい…ではお願いします」

 

「……」

 

狼は唸る、大層迷惑をかけたとは思っていないが、その片鱗を見せるような表情で、先に黒い墨のついた羽をフィンに手渡した。

 

フィンは、若干高いカウンターの机に見合うよう、つま先で立ち、記入を続けた。

 

「…っと、はい」

 

「はい、では確認でき次第報告いたしますので、空いている席でお待ちください」

 

「すまない、迷惑掛けたね」

 

「いえいえ、お気になさらないでください…」

 

魔石の換金にいちゃもんをつけたり、昼間から痴漢紛いな行為に及ぶ冒険者もいる。少し書類の記入が滞ったところで、今さらどんな文句を吐けようか。それに、ロキ・ファミリアはギルドからの信頼も厚い。

 

 

 

 

耳の長い種族の言葉を片耳で聞き流し、狼とフィンは隅で会話する。

 

「一応、これで冒険者に成れたわけだけど、君はどうしたいんだい?」

 

「…分からぬ」

 

「…はぁ、為すべきこと為したいけど、何を為すべきかはわからない。そういったところだね」

 

狼は「うむ」と唸る。

 

それは然るべき態度だ。オラリオに来てからの記憶がないということは、此処での生活を満足に享受できていなかったということ。それは、冒険者だとか職業以前に、人として生きていけるかどうかに関わる問題だ。

 

フィンは説明を続けた。

 

「昨夜話した通り、冒険者っていうのは危険を顧みず謎多き迷宮を探索し、魔物から手に入る魔石や、稀にドロップするアイテムを換金して生を紡いでいる」

 

「……」

 

「まぁ、一口にその限りではないけど…」

 

フィンが思うに、ファミリア、延いてはオラリオに貢献する方法は幾らでもある。迷宮を探索して謎を解明する。冒険者や一般市民の為に物を生産する。娯楽を提供する、春を売る…など。

 

しかし自分が言うのもなんだが、探索系ファミリアに入ったのだから剣や魔法を振るえなくては使い物にならない。だから、フィンは…――狼を戦える戦士にしたいと思っている。

 

「ロキ直々の命令でなくて申し訳ないけど、オオカミ。君の為すべきことは、強くなることだ。それが我らがファミリアの為になる」

 

狼の眉間には皺が寄っていた。迷いがあるのだろう。それでも――

 

「…承知」

 

狼は、家族と共に迷宮を探索することを受け入れた。

 

 

しかし…。

 

「そのためには、武器が必要だ…」

 

「………」

 

「何か自分の得物を持ち合わせているかい?」

 

狼には、何もない。そしてそのことを、フィンは知っていた。それでも狼は、自分の左腕を見せる。

 

「…此れが、ある」

 

「……これかい?」

 

フィンは、狼の差し出す左腕をよく見る。ふざけている訳ではなさそうだし、そんな性格だとも思えない。

 

ただ気味の悪い偽骨で出来た、――義手だ。しかし、その考察では些か思慮が浅いだろう。よく目すれば、何かを取り付けられそうな絡繰りが施されていたり、焦げた匂いから察するに、火器の類を扱えるのだと結論付けられる。

 

それでも、肝心の火器が無い。刃物がない…。

 

「…残念だけど、その義手だけでは心許無い。別のを探しに行こう。幸福にも、ロキが少しばかり恵んでくれたからね」

 

フィンは、銭袋の様な物を狼に見せる。しかし狼の口角は…上がらなかった。どうやらはち切れんばかりの質量ではないようだ。

 

 

 

無事に確認が済み、小人と狼はギルドを後にした。

 

「話を戻すけど、オオカミ。君は戦ったことあるかい」

 

「……元より」

 

「なら話は速い。どういった武器でどのような戦い方をしていたのか聞かせてもらえるか」

 

「…主より授かった刀で、主の敵を斬った」

 

「敵…ね」

 

あまり深くは探らないでおこう、オラリオでの記憶がない以上、ソレは意味のない話だ。ここに来る前はアシナという国にいたらしい。そこでのことや知らないでいた方がいいこともある。

 

「にしても刀というと……。よし、バベルに行こうか」

 

「……」

 

バベルの地下には迷宮が、上の摩天楼には潤乾様々な商いがある。そしてその中でもトップの鍛冶スキルを持ち合わせているのは、間違いなくヘファイストス・ファミリアだろう。幸い、そのファミリアの団長は、狼と似た極東の顔つき。自分よりはよっぽどオオカミの得物を理解できるだろう。

 

フィンはそう思い立ち、迷宮の方へと向かった。狼は、黙って目の前の小人に付いて行く。

 

 <><><><><><><><><>

 

金属の匂い、そして僅かに火照る程に熱された空気。しかしそんな中でも、狼は襟巻を取らない。それはこの襟巻に何か情があるのか、それとも頑固なのか、そもそも熱など歯牙にもかけない感覚だと思っているのか…。

 

フィンはヘファイストス・ファミリアの団員に話をつけている最中、狼のそのような姿を横目に捉えた。

 

団員が奥の方に行くと、しばらくして豊満な胸をさらしで巻いた女が顔を出す。

 

「なんだ。誰かと思えば得意先の団長じゃないか」

 

「事前に連絡を入れないで申し訳ないが、少し話を聞きたくてね…」

 

「まったくだ。お主でなければ突っ撥ねていただろう」

 

 「ははは」と。冗談ではないであろう言葉を乾いた笑いで誤魔化す。

 

「それで話と言うのは……」

 

椿は狼の顔をじっと見て、こやつの事だろうという察しを得た。

 

「…この人、オオカミに合う刀についてなんだけど…」

 

「ロキの所にずっといた人間か。見ない顔だが…」

 

「いいや、彼は今朝入った新人だ」

 

「……は?」

 

椿は、怒りと困惑を混ぜた様な形相でフィンを睨む。その表情が意味するのは、驕るにも自分はオラリオでトップと名高い鍛冶屋であり、そうでなくてもヘファイストス・ファミリアにはそれなりの高級なブランドがある。それを、何年も前からの冒険者ならまだしも、今朝冒険者に成ったような人間。それに刀を売れと言うのか…。という感情だ。

 

そしてそれを、フィンは理解している。だからこそ…

 

「なにも、君が直々に鍛えた武器を売ってほしいと言っている訳じゃない。オオカミに合う刀を見繕ってほしいだけだ」

 

そう言うと、椿は冷静な表情を取り戻し、武器の棚を眺める狼の顔を見た。同じ極東顔、そして刀を使いたいと言っている今朝冒険者になった新人。

 

突如思い立って冒険者になったにしては良い身体をしている。筋骨隆々というわけではないが、必用最低限殺めるための運動機構を持ち合わせている。それに、妙に命を奪い慣れた顔つき、雰囲気、貫禄。

 

「本当に今朝冒険者になった新人か…?」

 

「どうしてそう思うんだい」

 

「どうしてと言われても、手前にとって奴は、どうも尻の青い者には見えん」

 

「…だよね」

 

フィンも、薄々気が付いていた。ホームにいる時には無かったが、外に出た途端…自身の肌をヒリヒリと焼くような緊張感が奔った。

 

しかし、ソレは害意や殺意と言った類ではなく、警戒や自衛のそれだった。そしてそれは今もなお…。

 

椿は普段快活とした性格を振りまいているが、慎重にならざるを得ない状況だった。大層な刀を売り、得物に振り回されて死なれては、椿も寝覚が悪い。

 

さらに質の悪いことに、安物を売って彼の実力に置いて行かれる得物ならば、見限られてしまう可能性もある。そして何より、自分の目で、数多の武器と冒険者を見たこのプロの目で、見誤りたくなかった。

 

椿が持っている感情は、我侭などと言われても仕方のないこだわり、最高の鍛冶屋としての矜持だった。

 

だから。

 

「理解した、何としてでも手前があ奴に見合う刀を見繕って見せよう。」

 

「感謝するよ」

 

椿は奥の方に行くと狼に見合う刀を探し始めた。ショーケースの中に入っているような武器は…予算オーバーだ。幸いにも、狼は武器を眺めてはいるが、興味を持っている様子ではない。

 

 

 

しばらくすると、埃まみれになった椿が一振りの刀を持って戻って来た。

 

質素な黒、それか黒に近い濃紺ともとれる柄、そして鞘。その姿、狼の足先から腰の辺りまである。

 

やっと見つけた。そういった表情で刀を差しだす椿。

 

「…これは」

 

狼は思わず唸る。まるで其の物と言う訳ではない。もちろん色も造りも重ねた一握りの慈悲も…。しかし、どこか懐かしい、温かみを感じるのだ。

 

「……銘は」

 

狼は椿に対し、初めて自発的に問うた。

 

「すまぬが、手前にも刀を鍛えた者の名前は分からない。ヘファイストスのブランドを名乗れなかったのだろう。だが唯一、刀には名が付けられていた…。その刀、名を…――楔丸と申す。」

 

 

狼は、息を呑んだ。柄を握る右手が熱くなる。

 

「どうだ狼、お主に見合う刀か」

 

「……忝い」

 

諸々の取引が済んだ後…狼の口から言葉が漏れた。

 

「……――何故の因果か。……九郎様」

 

狼は、刀を腰に差した。

 

 




 【楔丸】
 流れ着いた土壌にて、狼が手にした刀
 肌身離さず所持していたそれとは、また異なる一振り
 しかして、込められた願いに異は有ろうか
 
 隻腕の狼は、また出立より慈悲を重ねる

 狼が刀を授かる折は、決まって忠義を胸に抱いた時だ




 【誤字】
 主に物語を書く者の忘れ物
 物語を傍観する者が見出し 描く者に報告することがある

 はて 誰が好きで忘れ物をしようか
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