感想で多数寄せられていたのですが、宴の時、狼さんは自分にあったこと全て話したわけではなく、大きく掻い摘んでお話しました! 狼さんそんな長々と話さないし、話したとしても朝になっちゃいますよね…。
自分の描写不足でした! ごめんなさい!
【お詫び】
更新…。
【ひとこと】
UA、お気に入り登録、高いご評価や感想、並びに誤字報告など…感謝します!
あと今回も短いし、次回への導入です!
もう朝だ。
遂に日が昇り、鳥が囀っている。それでも、それでもナニカが欠けていた。
本当は今頃、可愛い可愛い自分の子どもと共に起床し、身支度を整えているはずだ。自分は少しでもファミリアの足しになる様にとバイトに出かけ、子どもはダンジョンに向かう。
だが、昨晩は子どもが帰ってこなかった。ベル君が帰ってこなかったのだ。
おちおち眠る事も出来ず、自分の髪の毛を弄んで待つ事すら出来なかった。寂びれた、というか廃れた教会の扉の前でただ立ち尽くすだけ。
「ベル君…いったい何処に行ってしまったんだ、まさか…このまま……」
弱気な独り言が漏れる。
だが一瞬。ほんの一瞬の出来事だった。
酷く弱った足音が聞こえて目線を向けると…そこにいたのだ。
――自分の
日差しに照らされて、その弱弱しい姿が露見した。白い髪と肌は緋色に染まり、今にも倒れそうな足取りだ。
ボクは思わず、子の名前を叫んで駆けた。
「ベル君ッ!!」
ボクが近づけば近づくほどに、その姿が明らかになる。明らかになってしまう。
痛痛しく、弱弱しく、今にも糸が切れてしまいそうな人形の様だった。
だから、だから倒れてしまわないように抱きしめる。
「ベル君…!」
でも、どうしてなんだい…。こんなにも痛めつけられて、こんなにも血に染まっていて、どうして…――そんなに笑って、目を輝かせられるんだい…。
「神様、僕…強くなりたいです…」
そうか、そういうことだったのか…。
だいたい何があったかを察し、ベル君をベッドに移動させた。
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その日、ベル君が起きたのは昼を過ぎてからだった。自分も、こんな時に限って子どもの傍に居てやれないのは辛く、バイトは休むことにした。もちろん、ベル君にもダンジョンに行くことを止めた。
疲れも溜まっているだろうし、集中力もなくなっているだろう。だから、行かせるわけにはいかなかった。
そして不安の種であり、希望の種であるボクの子どもは、今目の前で背中を曝け出して寝そべっている。ステイタスの更新だ。
「おかしい…」
「どうしたんですか、神様…?」
「いいや! 何でもないよ!」
ただ、数値がほんの僅かに上昇するのならまだ理解できるのだが、この上がり方はおかしい。厳しい環境で相当痛めつけられたのだろうし、レベル1だから上がる数値も大げさに見えるだろう。でも、それらを抜きにしても考えられない数値を見せている。もちろん、嘘のそれを見せるような真似はできないし、この子はそんなことをしないだろう。
因って考えられるのは…。
「リアリス・フレーゼ…このレアスキルかぁ……」
「何か言いましたか? 神様」
「いいや、ステイタスの伸びは良いけど、スキルや魔法は発現していない、と言ったのさ。いつも通りだよ」
「結構頑張ったのになぁ…またダメかぁ」
ボクはこの子のスキルを来るべき時まで黙っていることにした。
そんなボクの葛藤による決心など知らぬとばかりに、ベル君は話し出した。
「神様聞いてください! 昨日、すごい冒険者さんに会ったんです! 会ったというか、一方的に盗み聞きしていただけですけど…」
「またヴァレン何某の話じゃないだろうねぇ!」
「ち、違います! でも…その人もロキ・ファミリアの人ですけど…」
「へぇ、どんな奴なんだい?」
「こう…険しい顔で、年季の入ったオレンジ色の服を着ていて、白いマフラーを巻いている…」
「はて…どこかで見た気が…」
「本当ですか!?」
ベル君がこちらに前のめりになる。
「い、いやぁ。見間違いかもしれないよ。バイト中や街ですれ違った程度の…。でも、確かにどこかで…。まぁいいや、続きを聞かせてくれるかい?」
「はい! その人が話していたのはアシナという国の冒険譚でした、自分よりも大きなモンスターと戦ったり、自分の主人の為にお城に潜入したり、最後には剣聖と呼ばれている剣の使い手と戦ったり」
ベル君は目を宝石のようにきらきらと輝かせながら語る。
「それを聞いて僕、居ても立っても居られなくなって…。もっと強くなりたい、もっと早く憧れに届きたいって…そう思ったんです!」
「そうか、何となくは分かった…でも!」
「でも…?」
「無茶はダメだ! ボクがどれほど心配したと思っているんだい?」
「ご、ごめんなさい…」
「いいかい? ベル君には冒険者としての才能がある、間違いなく強くなる。でも…どうか、どうか無茶してボクを独りにするような真似だけはしないでくれ…」
「…はい。神様を独りにはしません!」
「そうか、なら…いいんだ」
刹那はしゅんとなるものの、ベル君の目の輝きは一層強くなる。透き通った、純粋無垢で素直な輝き…。だからボクは、ベル君のスキルについては黙っていても、その背中を押すことにした。
――何か手伝えることは無いか…。
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狼は、小さな
「精霊の加護があらんことを…」
「……?」
狼の吐いたそれは教室と呼ばれる一室で小さく木霊する。部屋の主はその姿を眺め、意外そうな表情でその言葉を告げたのだった。
「なに、只のまじないだ」
「…まじないか」
「そうだ、くしゃみをすれば身体から良い精霊が出て行ってしまうからな…。」
「……」
「…にしても珍しいなオオカミ。誰かがお前の噂をしているのかもしれないな」
早朝からのリヴェリアの授業は、昼にまで突入しようとしていた。何故だか言葉は通じるものの…文字が分からぬ。
文字が分からぬ故、此の地の文化が分からぬ。文化が分からぬ故、生活が分からぬ。生活が分からぬ故、人が分からぬのだ。
困惑も在る。だが、此処の役に立つには迷宮に行かなければならない。そして迷宮に行く為にはその知識が必要なのだ。知識を効率よく付ける為に文字が理解できないといけない。
狼にとってこの土地は分からずとも、道理は理解できた…。
「よし、では復習だ。上層のモンスターは貧弱だが…?」
「数多き…」
「コボルトは短絡だが…?」
「爪鋭き…」
「では最後だ…。冒険者は…?」
「冒険してはならぬ…」
「まあ、口頭で説明した割には頭に残っているようだな…。他にも注意する点は幾らでもある、ダンジョンは生きているのだからな…」
ゴブリンは悪知恵が働く、コボルトも然り。上層のモンスターは簡単にやられてしまう雑魚故、狡猾さなどに長けている、そして数も多い。
「ふむ…まぁ、昼食を取った後、ダンジョンにでも行ってみたらどうだ…? さすがに深くまで潜ることはできないが、4階層辺りまでなら問題もないだろう」
「…わかった」
「それに、魔石やドロップアイテムの換金、ギルドのことなど、一連の動作を確かめられるしな」
ここ2日の連なった授業を頭に入れ、狼は言われた通りにする。リヴェリアに軽い礼をすると、部屋を後にするのだった…。
綺麗な絨毯の敷き詰められた廊下を一瞥し、此処がどれほどの権力を持った場かを再確認する。
所々には金持ちしか持てぬような花瓶が置かれ、愛でられるべき花が凛と咲いている。枯れている部分や変色している部分がないことを察するに、誰かが高い頻度で水を変え、また花も変えているのだろう。
人を惑わすような花の良い香りに混じって、人の根源を燻るような心地の良い香りもする。これは飯の匂いだ。
気が付けば、狼は朝から何も食していなかった。読みなれない文字ばかり眺めていた所為で、頭に血と糖が巡っていない。リヴェリアに言われた通り、先に腹を満たしてから迷宮に向かうことにした。
昼が過ぎようとしていたこともあってか、食堂に人は少なかった。そしてその場には、ただただピークを乗り切った当番の姿が目に入ったのだった。
狼にとって食堂とは珍しい形態であった。己の欲する物を注文して、それを自分で取りに行って食す。これは、狼が知っている腹ごしらえとは全く異なった物であった。逆に狼がよく知っている形態であれば、兵糧袋に米、梅や魚粉を練り固めたものを入れて食べる。
これは戦時中によく侍の衆がしていて、狼も梟から教わったものだ。
そんな記憶に暫し思いを馳せていると、何やら帳場の奥から話し声が聞こえる。これは忍の性故か、自然と聞き耳を立ててしまう。
「はぁ、今回の当番も何とか乗り切ったな」
「ああ、後は夜の交代まで少々の団員に料理を出せばいい」
「だがバレなかったのか?」
「何がだ?」
「料理の味付けだよ。薄くしただろ?」
「仕方ないだろ、塩が足りないんだから…絶対に誰かが仕入れの数を間違えたんだ」
「そうだな、俺らは悪くねぇや」
「悪いも何も、ある分で家族を満足させたんだ。逆に褒められねぇとこんな当番やってられねぇよな」
「そうだなぁ」
どうやら、塩が足りないらしい。
はて、どこかでこのような状況に出くわしたが…。と、狼は首を傾げるも、何事もなかったかのように腹をこしらえてダンジョンに向かうのだった。
【食堂】
訪れると、腹を満たすことが出来る
一時的に体幹ゲージの最大値が上昇するが効果は一時的
道化師の家族が当番制で受け持つ
冒険者の胃の最前線
当番制故にアタリがある
アタリがある故にハズレもある