隻腕の狼、続く主は道化師か   作:森本様

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【お詫び】
あっぶねぇ~、更新途切れるところだった…

【ヒトコト】
前回にて、戦国時代では肉を食べられないという描写をしましたが、事実とは異なるため、次話までに削除、または表現の変化を施します! 変更したら、また報告させていただきます。ご報告してくださった方、また有識的なアドバイスをくださる方、正直助かります!
有識者がいてタスカル…

 短いし次回への導入です。スマヌンティウス。


忍探し

 

宵時、太陽はその姿を地平へと入らせ、代わりに太陰が()でる。

 

月は至当な光を妖しいそれへと変化させ、神々の居る街を照らすのだ。そしてその輝きは全てを照らし、溶け出し、例外なく平等に帰す。残酷な、残酷なものだ。誰も手を出すことはできない、神々が自らを棄てて望んだ世界。

 

平等な光、平等故に何にでも照らすのだ。例え草臥れた教会であろうと、威風堂々たる館であろうと…。

 

館に入る二つの陰が見える。

 

一方は、巨人とは程遠い容姿の者、しかし力はそれに及ぶ。

もう一方は、どこか悲し気で悩ましい背中を月に向けている。

 

 

悲し気な背中、皺の寄った眉間、仏頂面、それでいて何故か憎めない人間。狼…。

 

狼の胸懐には、憂い事が引っかかっていた。それは――青い炎を天高く掲げる鬼の像の事であった。

彼方の土壌ではよく目した像、いや、仏と言った方が正しいかもしれない。

 

怒り狂ったような表情を虚無に向け、ただ空漠とした青い炎を天に掲げる仏だった。

 

もし、もしあの商い屋の言ったことが正しいのであれば、狼はそれを無視するわけにはいかなかった。だからこその心積もり。

 

狼にとっては鬼仏の発する熱と蒼炎を思い起こすことは容易であった。鬼仏に対して座すれば、手を合わせがてらに少しの休憩を取ることができ、銭を供えれば、どこからともなく神の依り憑く人形(ひとがた)が現れ、集中して瞑想すれば、過去に戦った強者と再び刀を交えることができた…。

 

特段、鬼仏がないと何もできないというわけではないが、見知らぬこの土地にも彼の蒼炎を掲げる仏が存在するのだとすれば、真の主の行方が分かるかもしれない。

 

 

――ならば…。

 

と、狼の胸懐に引っかかったままの憂い事が一つの決意に変わった。

 

 

<><><><><><><><><>

 

そして早朝、九魔姫(ナイン・ヘル)という二つ名で尊敬と共に恐れられている第一級冒険者、リヴェリア・リヨス・アールヴはとある人間(ヒューマン)の行方を知るため、館の中を探し回っていた。

 

「すまないが、オオカミを見なかったか…?」

 

「オオカミ…あのダンジョンで拾った人間(ヒューマン)ですか?」

 

「そうだ」

 

「俺は知らないですねぇ」

 

「そうか、ならいいんだ…」

 

「では、そろそろ交代なんで」

 

「あぁ、引き留めて悪かったな」

 

このようなやり取りが数回行われた後、同じ最古参メンバーのドワーフに偶然会った。

 

「今朝からせわしない奴じゃ、何かあったのか?」

 

「ガレスか…なに、すこしオオカミをな」

 

「オオカミがどうかしたのか?」

 

ガレスは立派な髭を弄りながらリヴェリアに問う。

 

「今朝の授業に顔を出していないのだ」

 

「…お前の授業に嫌気がさしたんじゃないのか」

 

ガレスがそう呟いた瞬間、リヴェリアの機嫌がわかりやすく悪くなり、緊張と悪寒が走る。

 

「そんなはずはない、心の底が知れぬあ奴とて、そのような理由で人の約束を無下にするような輩ではない」

 

リヴェリアは、「それに…」と付け足し、ガレスに対して攻撃に出る。

 

「そもそもガレス、昨晩迷宮から帰ってきた時にオオカミと一緒にいたのはお前ではないのか、これといった報告もなく床に就いたのはどこのどいつか答えてみろ、ん?」

 

「ええい朝からやかましい、飯を食った後の事は知らん! そもそも、あ奴の部屋は確認したのか?」

 

ガレスは怪訝な目でリヴェリアの目を覗き込む。

 

「当たり前だ、部屋にいないからこうして館中を探し回っているのだ」

 

「勝手に何処かに行くような奴ではないと思っとたんじゃがな…」

 

「昨日迷宮に行った時、何かそういった素振りは見せなかったのか…?」

 

「素振りのぉ……」

 

その瞬間ガレスの脳裏に過ったのは、あの胡散臭い商い屋と狼のやり取りだった。

 

「そういえば…」

 

ガレスはそのやり取りについて、大まかな情報をリヴェリアに話した。

 

「なるほど、鬼の像…か、それとオオカミに何の関係が?」

 

「因果については儂もなにもわからん。じゃがあの時、オオカミはその話に異様に喰い付いたような気がしてのぉ」

 

「ということは、今オオカミはその像を探し求めて、タケミカヅチ・ファミリアのところにいる可能性が高いということか」

 

「館中探してもおらんということは、その可能性が高いかもしれんの」

 

「ならガレス、お前が責任を取ってオオカミを連れ戻してこい」

 

「なっ…なんじゃと!」

 

「私はフィンとやらなければならないことがある、唯でさえいらぬ事に時間を割いたのだ、これ以上遅れることはできん」

 

リヴェリアはガレスに有無を言わさず、背を向けてどこかに行ってしまった。どうやらリヴェリアは本気らしい。

 

同じ最古参といえども責任だどうだといわれて言い逃げされればどうすることもできない。そして、そもそも狼を放っておいた自分に監督責任があったことは事実だ。もっと面倒くさい事になる前に、言われた通りにしよう。

 

そう思い立ち、ガレスはタケミカヅチ・ファミリアのところに向かった。

 

 

<><><><><><><><><><>

 

日の出とともに、冒険者たちは迷宮(ダンジョン)に向かう。

 

ある者は名誉を求めて。

 

ある者は金のために。

 

そして、ある者は憧れに届くために。

 

迷宮に続く大通りには、長蛇まではいかなくとも少なからず長い列ができていた。

 

そんな中、とある零細ファミリアに向かうため、重傑(エルガルム)の二つ名を冠したドワーフが独り言を呟きながら歩いていた。

 

「なんじゃリヴェリアのやつ、あの言い方ではまるで儂が暇をしているみたいではないか…」

 

ガレスの事を省いたとしても、ドワーフは自由人という偏見がある。力仕事を好み、豪快に肉を食らい、豪快に酒で流し込み、豪快に笑う。事実としてガレスは幹部であり、事務的な仕事を請け負うこともある。が、しかし、昔からの偏見というものがすべてなくなったわけではない。

 

一人のドワーフがブツクサと愚痴を零しながら道を曲がる。

 

そうして人気が少なくなってきたころだろうか、目的であったはずの人物から自分に声がかかる。

 

重傑(エルガルム)じゃないか、ここら辺に何か用事かい?」

 

声をする方向に目を向けると、特徴的な髪型をした人物、いや神がそこには立っていた。

 

「武の神、タケミカヅチ殿であるか?」

 

「いかにも俺がタケミカヅチだが…、俺に用事か?」

 

「そうじゃ、ちと人探しをな…」

 

「ほぉ、長い話なら上がっていくかい?」

 

「いや、このままで構わない」

 

「じゃあ、詳しい話を聞こうか…」

 

特徴的な頭髪をしている神、タケミカヅチはファミリアの前の掃除をしていたのだろうか…、箒を壁にかけて話を聞く。

 

「大方心当たりはあるが、探している人というのは…?」

 

「寂れた橙色の服をまとった人間(ヒューマン)じゃ」

 

「なるほど、それなら丁度今朝うちに来たが…、あれはロキ・ファミリアの冒険者なのか?」

 

ガレスはやはりか…と心の中で呟きつつ、タケミカヅチの質問に答えた。

 

「うちの神の気まぐれでの」

 

「そうだったのか…。いやしかし俺も驚いた、まさかあの極東の顔がロキ・ファミリアか…」

 

神は好奇心で地上に降りてきたような生き物だ、腹の底で何を考えているのか、なんてものはわかるわけがない。

 

しかしそれでも、自分ら地上の存在では計り知れない何かを感じ取って取っている様子だった。

 

「…っとすまない、同郷の人間が有名なファミリアにいると考えると、見ず知らずの他人でもうれしく思ってしまってね…」

 

ガレスは無言で返すと、タケミカヅチの方から口を開いた。

 

「――蒼炎を掲げる鬼の仏…彼は、それを求めていたよ」

 




ほんっとうに遅れて申し訳ございません! でも不定期だから許されるよね…

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