じじキャン△   作:足洗

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話が進まなくて申し訳ねぇ。



14話 慕情

 放課後、部活の準備に勤しむ者、戯れつく子ら、駄弁に花咲かす子ら、各色十色の賑やかな校舎を抜け出し、その裏手に回る。

 植木と金網で区切られた学校敷地の端、教職員用の駐車場である。

 

「……」

 

 停められた種々の車両を観察する。

 しかし残念ながら目当ての車種は存在しなかった。

 赤い軽自動車。富士宮は朝霧高原に乗り付けられていた被害者の連れ合いの持ち物は。

 この推測を裏付ける物証としてそれ以上のものもない。が、そうそう都合好くそんなものが転がっている筈もなし。

 ────本栖高校の教員の中に、容疑者が紛れ込んでいるなど。

 学校関係者が疑わしいという。ならば差し当たり近場からと、我ながら浅知恵を働かせてみたまで。

 無論、犯人が何かしらの証拠隠滅の為に乗り換えた、あるいは複数台自動車を所有している可能性とて否定はできない。現に奴は犯行時の移動手段として車ではなくバイクを使用している。

 

「とはいえ、手詰まりだな……」

 

 まさか県内、隣県の学校と呼ばわる施設全ての駐車場を一つ一つ見回る訳にもいくまい。

 如何に聴き込みをし、現場を密につぶさに検証したところで、所詮公権力を帯びぬ独力には限度がある。特に、個人情報、人物特定に際しては、あの警察手帳(いんろう)の効能に頼るところ甚大なれば。

 その上、この身はただの高校生のガキである。子供に捜査情報を嬉々として流してくれる頭のイかれた警官の知り合いはいない。あのお喋りの若手刑事でさえ、おそらく今一片の分別くらいはあろう。

 

 ────まるで幽霊みたいに

 

 戯言である。しかし、勘案の必要はあった。

 警察車両の追跡から斯くも鮮やかに逃げ果せるなど運転技量の一語に片付けるには無理がある。

 まずもって、何処かにあのバイクを隠した。然る後に車両を乗り換え、警察の配備を脱した。そう考えるのが自然。

 各所に検問が布かれた筈だ。それを掻い潜った方法も、犯人が教育機関関係者なれば推察は容易い。

 

 ────県の教育委員会の決定で

 

 現在、教員らはそれぞれに割り当てられた地区の見回りを実施している。その計画はおそらく立案の段階から既に警察にも届出が為されたことだろう。

 見回りの教職員を騙る。これ以上無い身許の保証だ。

 

「……」

 

 無論、これまで弄した思索全てが己の早合点、妄想である可能性も大いにあり得る。

 通り魔は完全な外部犯。世を拗ねた何処ぞの不届き者が起こした惨事でないと断言し切れようか。

 

「いかんいかん」

 

 頭を振って、迷いと惑いをそこから追い払う。全ての可能性を考慮することなど出来はしない。一つの可能性を絞り、洗い、蝨潰すしかないのだ。

 神ならぬ人に能うのは愚直のみ。少なくとも今は、こちらから当たる。それだけだ。

 なにはなくとも、情報源を欲した。学内側の事情に通ずる誰かを。

 そして心当たりは一人きり。

 鳥羽教諭から訊き出すより外、道はない。

 ……正直に言えば、乗り気はせなんだ。

 身内の恥と、罪を告発するも同じ仕儀。その苦悩を偲ぶ心持ちは確かにある。

 しかしなにより、あの娘は職責を重んずる。教職に携わる一員たる自負。いやもっと衒わず言えば、あの子はとても良い先生だ。生徒のことを心から慮れる、優しい子なのだ。

 そんな彼女が果たして、今や生徒の一人であるこの己に学校内の生臭い実情を吐露してくれようか。

 難しかろう。事実一度、己は聴き取りに失敗している。

 いずれも泣き言よ。今はどうしたとて、事の真偽を検める必要がある。なればどうにかして、あの娘の口を割らせる算段を練らねばなるまい。

 

「さても、さても……」

 

 腕を組みつ頭を捻り、歩み止まりまた歩む。

 不意のエンジン音に目を向ける。軽トラックがやって来ていた。

 ふと見ると、裏門の側には廃品の古紙や平に潰された段ボールが積み重なってる。用務員と思しい中年の男が荷台にそれらを積み込み始めた。

 その専心労働に勤しむ姿を目にして、この場でただ二の足を踏むばかりの己に呆れる。

 とにもかくにも、動くのみ。産まず案ずるは時間の湯尽なり。

 そろそろ日課と嘯けようかい。一路、職員室へ足を向けた。

 

 

 

 

「あぁ? 帰った?」

「あー一足遅かったね。というか鳥羽先生、今日は見回りの当番日でねー。学校には戻らずにそのまま直帰されるんだ。何か用事があるなら、明日出直してくれるかな?」

「かぁー、左様で……」

 

 出鼻を挫かれるとはこのこと。

 近場の教諭を捕まえて返ってきたのが先の通り。

 例の夜回りの日取りを先に把握しておくべきだった。そうすれば幾らでも合わせて動けたものを。

 とはいえ、居ないものは仕様もない。

 相も変わらず忙しない職員室内を一望する。デスクに向かう者も幾人か。

 とりあえず、直近の大町教諭に向かう。努めて世間話の体を取り。

 

「近頃、登山部の方の活動はどうですかい」

「いやー開店休業だね。なんてったって物騒だからさ」

「でしょうなぁ。部員の子らも可哀想に」

「まったくだよ。なんとかトレッキングくらいはさせてあげたいんだけど、万一があっちゃどうしようもないからね。特に最近はほら、志摩さんの件があったから」

「……なるほど」

 

 反駁の余地はなかった。生徒の安全を買う最良の担保は、活動の自粛以外にない。

 如何にも大賛成といった格好を作り、大仰に頷く。

 

「まさにまさに。いやしかしそれにしても、アウトドアの御趣味を持たれた方は返す返す災難ですな。迷惑千万な輩の為に」

「やぁホントそうなんだよ。私なんかも休日が手持ち無沙汰になっちゃって」

「ははぁ、特に先生方には酷でしょうや。鳥羽先生然り、体育の木内先生もでしたかな。お! そういえばもう一方居られましたでしょう」

「うん? もう一人? アウトドア趣味の人? えぇーっと、いたかな」

「ほぉれ、あの────赤い軽自動車に乗られてる」

 

 さて、どうか。

 大町教諭の顔を、目を密かに覗き、返答を待つ。

 

「いやぁ……? うちの学校に赤い軽に乗られてる方はいなかったと思うよ」

 

 そこに……偽りの色なし。

 単に知らぬということもあり得るが、学内駐車場には入ったところで所詮十数台。彼が忘れていると考えるより、無いと踏んだ方が妥当であろう。

 通勤車として用立てておらぬのか、あるいはそもそも本栖(ここ)に容疑者などおらぬのか。

 あわよくばとの薄い期待であったが、やはりどうにも空振りの感は否めない。

 

「赤いSUVなら田原先生が乗ってらっしゃるんだけどね」

「田原……?」

 

 空を切った刃先にしかし、掠めるかの如く。

 目の前の教諭は思わぬ名前を口にした。

 

「あ、そうか! もう一人って田原先生のことか。たしかキャンプが趣味って仰ってたし」

「へぇ……そいつぁ初耳だ。あの田原先生がねぇ」

「意外だよねー。なんでも婚約者の方ともその縁で……っと、ととと!」

 

 しまった──大町教諭の面相をそのような文言が走る。

 逃さず、その尾を掴む。

 

「ほう、御婚約者の方共々アウトドア趣味であられる」

「……キャンプ場で知り合って、良い仲になったんだってさ」

「いやいや素敵なことじゃあございやせんか。同好の士から(わり)無い仲になれるなんざ。それがまたどうしてか……お流れとか?」

「上手くいかんもんですよねぇ、ホント。結納まで済んでたって話で……あっ、いや、こ、ここだけの話ね」

「はぁいはい、そらもう心得ておりますとも」

 

 汗して今更に声を潜める大町教諭は、滑稽というよりむしろ剽軽であった。

 人の悪い笑みで口の端を汚し、決して褒められぬ密約に頷く。

 得るものはあった。望外の手掛かりが。

 

「今日は田原先生をお見かけしませんな」

「ああ、体調を崩されたとかでお休みだよ」

「左様で」

「君も、用事がないなら暗くなる前に早く帰りなよ」

「えぇえぇ勿論。お忙しいところ失礼しました」

 

 一礼してその場を離れる。

 暗中に一筋、毛先の如く微細な光明を認む。果たしてそれは蛇か鬼か、魔か。

 田原。

 手繰らぬ理由はないな。

 

 

 

 

 

 

 登校と帰宅は必ず送迎で。

 あの事件から家路につく時、両親にそう約束させられた。

 

 

 身延駅の正面入り口から階段を下りる。ロータリーを見渡すと見慣れたシルバーの車を見付けた。

 近付いていくと、後ろの扉が開く。母が中から手招きしていた。

 駆け寄って、後部座席に乗り込む。

 

「お母さん、なんで乗ってるの? ま、まさか、今日から毎日二人で迎えに来る気なの……?」

「今日だけよ。普段はお父さんが帰り道であんたを拾って帰るわ」

「残業になりそうな時は連絡するから。その都度、お母さんと交代制で必ず迎えに行くよ」

 

 静かに車が動き出す。運転席から前を向いたまま父が言った。

 家族会議という名のリビング法廷におけるお母さん裁判長およびお父さん検事による弾劾の末、なにかと取り決めが増えた。学校に着いた時と学校を出る時それぞれに定時連絡、スマホには子守アプリがインストールされ、電源オフは基本的に禁止。

 当然、原付は没収。キャンプどころか遠出は向こう数ヶ月間、少なくとも通り魔事件が解決されるまでお預けである。

 

「はーい」

 

 息苦しさは感じたけれど、不平も不満も胸の奥で大人しくしている。なんせ言い訳のしようもないほど、自業自得だから。

 病院で、泣きながら私を抱き締めた母の震える体を忘れない。普段の穏やかな父からは想像もできないほど厳しい口調で私を叱り付けた後、安堵に涙ぐむ父の姿を忘れない。

 私はそれだけのことを仕出かしたのだ。

 

「……ごめんなさい」

「もういいのよ。リンが昔から物分かりの良い子だって、知ってるもの」

 

 柔らかな手が髪を梳く。

 焚き火の暖かさような安心と、針のような罪悪感が胸を衝く。また、泣いてしまいそうになる。

 それを堪えて、私は母を見上げた。

 ずずい、と。目の前にそれが差し出された。

 

「へ?」

「はいこれ」

「なにこれ」

 

 それは小さなピルケースくらいの正方形の箱で、表面はウッド調のブラウン。そして真ん中に焼き印、のようなデザインでイラストが描かれていた。

 二本角のデフォルメされた鹿。

 

「知らない? カリブーくんって言うのよ。可愛いでしょ」

\ソウダネ/

「いやそれは知ってるけど……」

 

 そのものずばり『カリブー』というアウトドア用品店のマスコットキャラクターだ。ネットの通販サイトなんかでもちょくちょく目にしたことがある。

 

「じゃなくて、この箱って」

「ジーピーエスぅ、発信器っていうんだっけ? こんな小さいので20,000円近くするんだから」

\ソウダネ/

「……はい?」

「ストラップ付いてるから、どこかに結んで……リン、スカート上げて、ほら」

「ちょっ!?」

 

 おもむろに母はスカートの裾を摘まみ、内側に手を入れてきた。

 

「タグにでも引っ掛けときましょ。こういうときズボンみたいにベルト通しとかあれば楽なんだけどねー」

「ひやぁーッ!?」

「あぁんっ、もぉー動かないでリン」

「動くよ! 見えっ、見えちゃうよ! た、助けてお父さん!?」

「ごめんリン。お父さん今運転中だから。でも大丈夫。ここからじゃ見えないから大丈夫」

「外から見えるでしょ!? ひぅうー!?」

「HAHAHAHA! ダイジョーブダイジョーブ!」

\ソウダネ/

「あううううう!?」

 

 ……そんなこんなで。

 

「よし。まあいいでしょ」

「…………」

「これ、このフックの留め具で付け外しできるから、クリーニングに出す前は必ず外すのよ? 一応防水だけど洗濯したら壊れちゃうから」

「…………」

「スマホだと手放したり、鞄に入れっぱなしで忘れちゃうかもだし、こうすれば確実よね。さっすが渉さん、冴えてる~」

「いやー、それほどでも」

「…………」

 

 恨みを込めたこっちの視線に素知らぬ風で笑い合う二人。

 飲み込んだ不平不満、吐き出しちゃおっかな。喚き散らしちゃおっかな。

 

「拗ねないの。安全第一なんだから」

「ふんだ」

「もうすぐ着くよ」

 

 苔生した石垣を横目に、杉木の山道を登って行く。

 曲がり、くねりながら、崖沿いにひたすら進んだ先、突然視界が拓けた。

 疎らに葉をつけ始めた桜の木が何本も、駐車場の回りを取り囲んでいる。春にはきっと、綺麗な景色を作るのだろう。

 車を降りる。枯れた風が髪をさらう。

 道を挟んだ向こう側に、ずらりと四角柱の石が、墓石が見えた。

 

「……」

「リンは来るの初めてよね。不二崎さんのお墓」

「……うん」

 

 とっくの昔に納骨されたお墓に、けれど、参る機会はこの五年間一度もなかった。どうしてか、父と母が赴いていたという記憶もない。

 

「遺言なの。墓参りになんて来るな、って……酷いわよね。薄情な話よ、まったく」

「……じん爺が?」

「そう、おじさんの言い草が……それと、そんな約束をわざわざ守ってた私達も」

「……」

 

 母は墓地を見ていた。空風に吹かれる杉並木の中で整然と屹立する灰と黒の石の群。

 そこに、居る筈のない誰かを見ていた。

 

「行こっか」

 

 

 

 石畳を歩いてすぐ。比較的こじんまりとした灰色の墓石には、確かに不二崎家之墓と刻まれていた。

 ふと見ると、線香立てに数本、既に煙を上げるものがある。

 

「これは、お義父さんかな?」

「え、あらホントだ。もぉ一緒に来ればいいのに」

「……」

 

 お墓は綺麗だった。表面はきちんと磨かれて、塵や埃は払われて、雑草だって一本も生えてない。

 きっと、おじいちゃんは今もずっと、折に触れて通い続けているんだ。友達の墓に、参り続けてる。

 それが普通だと言ってしまえばそれまでだけど、私はそれが何故か悲壮に思えて、何故かひどく……寂しい。

 墓石の傍らには、立て看板のような形をした平べったい墓石がもう一つ。墓誌、と言うんだったっけ。

 そこには甚三郎、そしてもう一人、綺理枝と書かれている。

 

「きりえ、さん……?」

「そう。おじさんの奥様よ」

 

 深く、懐かしそうに母は言った。

 

「名前と同じ、とっても綺麗な人だったわぁ。それですっごく優しいの。不二崎さんの御実家に来られた時なんか、うちにもよく訪ねてきてくれてね」

「そうだったんだ……」

「いい人だった。私のこと、まるで姪っ子みたいに可愛がってくれたわ……私が中学の頃、突然亡くなられたの。体の丈夫な方じゃなかったみたい……病気がちで入退院を繰り返してたそうだけど、そんなの全然素振りも見せずに、いつも軽やかで、明るかった……」

 

 囁くような語尾が、風にさらわれる。

 どんな人だったのか、私には想像することしかできない。ただその人が母にとって、掛け替えのない人だったということはすぐにわかった。

 

「今でも覚えてる。おじさんの、寂しそうな背中……見てるだけで、胸が潰れちゃいそうになって……」

 

 瞳がほんの一瞬、揺らぐ。母のそんな目、初めて見た。

 そっと火を点けた線香を父が差し出す。

 母と共にそれを受け取って、空いた線香立てに差した。

 両手を合わせて、目を瞑る。祈るのも悼むのも何かしっくりこない。見たこともないその素敵な人に、迷った末、私はまず初対面の挨拶をした。

 頬を撫でる微風。そこに暖かなものを感じたのは、錯覚だろうか。それとも……応えてくれたのだろうか。

 

 

 花を手向けて、車に引き返す石畳の道すがら。

 不意に、母は言った。

 

「ね、薙原くんってどんな子?」

「え、どんなって……なに、突然」

「突然もなにも、あんたのこと助けてくれた人じゃない。きちんとしたお礼だってまだ出来てないのよ。明日学校で会ったら、ちゃんと連絡先と住所、聞いておいてよね」

「えぇ!?」

「うーん、手土産は~、身延饅頭とかでいいかしら。日用品を贈るっていうのもなんか違うし」

「消え物の方が無難だね。奇を衒わずに桔梗信玄餅なんかもいいんじゃないかな」

「ちょ、ちょっと」

「ご迷惑お掛けしたんだから、こっちから伺うのは当たり前でしょ? ごねないの」

「ぐぅ……」

 

 ぐうの音を漏らしたって許してはくれない。確定事項がまた一つ増えてしまった。

 男子に連絡先を訊ねるというミッションに無駄にくよくよする私を母はからからと笑う。

 

「それで? どういう感じの人なの?」

「どういうって……同級生の男子で……それだけ、で」

「不二崎さんに……おじさんに似てた?」

「……」

「だっておじいちゃんが、父さんが、あんな風に呼ぶんだもん。気になっちゃうじゃない」

「僕もだよ。親戚の子なのかな?」

「もしかして、おじさんの隠し子だったりして? ふふふっ!」

「か、隠し子ぉ!?」

 

 あの薙原くんが、じん爺の。

 

「冗談よ。真に受けない」

「だ、だって……!」

「ふーん。リンがそんなに反応するってことは、ホントに似てるんだ。その子と、おじさんと」

「……」

 

 したり顔の母に言い出し掛けた批難の声が、失せる。

 思い出す。彼の顔を、彼の声を、彼の目、あの人の手。

 

「……似てないよ。顔も、声も、なんにも似てなんかない。似てなんか、ない、のに。でも……」

「……」

「すごく懐かしかった。あの人が、来てくれた時、すごく安心した。涙が出るくらい……」

 

 頭を撫でてくれるその手が、嬉しかった。とても嬉しかった。

 あなたは誰、そう訊ねる私に曖昧な笑みで応えるあの人が、もどかしかった。寂しかった。切なかった。

 

 ────私はこの人に愛されてる

 

 あの時、切り裂き魔の前に立ちはだかり、私の前に庇い出てくれたあの人の、私を振り返った目にそれを感じた。どうして、何故、これは、こんな。混乱する。その、()()に。見も知らない筈の少年から向けられた慈愛を、私は理解も出来ず、ただ持て余した。

 かっと火入れしたみたいに顔が熱を持つ。

 

「わ、真っ赤」

「っ!」

 

 顔を背けて腕で覆う。

 わからない。自分の感情が。恥ずかしいのか嬉しいのか……悲しいのか。

 慌てふためく私に、母はにんまり笑顔で。

 

「これは益々会ってみなくっちゃね」

「僕も……どうやら色々と話をしなくっちゃいけないようだね。その薙原くんと」

 

 声を低めて、努めて、努めて穏やかそうに父は言った。

 それが何かを勘繰った言い様だということはすぐにわかった。

 

「や、やめてよもう! な、薙原くんとはそんなんじゃないから!」

「えーそーなのー?」

「HAHAHA! なんなら一度家に招待したらどうだい? その方がゆぅっくり話ができる。そうだねそうしようか!? HAHAHA!」

「やめてってばぁ!!」

 

 

 

 

 

 

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