自分の作った小説の主人公に転生   作:ロイ1世

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このシリーズは、一週間から隔週での投稿を目指して製作しています。


南国の島でバカンス…にはならない

 雲の上を悠々と飛ぶ偵察機の中に、俺と白露はいた。ハ島の調査を命じられた俺達だが、海路を行けば行方不明となった娘たちと同じになると思い、新式高高度偵察機「星」に乗って移動していた。

 

 落下防止策に背中を預け、持っている武器の点検をする。といってもやれるのは目視による簡易点検だけで細かなことはできない。

 

「心許ないな」

 

 港湾棲姫を始めとする陸上型の深海棲艦とドンパチやるのに、ハンドガン一丁じゃ火力が足りない。白露も特二式内火艇を積んでないし、何なら改二ですらない。それで陸上型相手は辛いどころの騒ぎじゃない。長期戦になるのは確定的だ。そうなると補給や援軍の観点で敵が有利になる。

 

 なので闇夜に紛れて空挺降下し、姫級を奇襲で一掃、残りの陸上砲台や通常の深海棲艦を殲滅する。典型的で博打的な夜襲作戦だが、陸上型が確認されていない現状これしか手段は無い。

 

「あ、ここにいた。ロイー!!作戦開始まで後5分だよ」

 

 白露が扉を開けてやってくる。

 

「武器と所持品の点検は終わったか?」

「うん。いつでもいけるよ」

「そうか」

 

 時計を見ながら、機内電話を掛ける。

 

「機長、そろそろ時間だ。問題はないか」

「現在地は予定通りだ。雲の下は間違いないくハ島だ」

「分かった。降下準備」

「了解、投下態勢に入る。各員準備」

 

 ブザーが鳴り、機械音が響く。

 

「わ、何々、このブザー!?」

「白露、こっちに来い」

「わ、分かったけど・・・」

 

 困惑しながらこっちに近付いてきた白露の腕を右腕で掴む。

 

「え、ロイ?」

「降下だ」

 

 柵を越え開いた投下口から落ちる。

 

 ハ島に光は無く、闇夜に紛れて輪郭が朧げに見える。

 

「パラシュート!!早く開いてよロイー!!」

「ダメだ!!下手に開けば電探に引っ掛かる」

 

 パラシュートは一つしかない。そのため白露は俺の手から開くための紐を奪おうと必死だが、電探に引っ掛かる可能性がある以上ギリギリを攻めたい。

 

「私高所恐怖症なの!!早く開いて!!」

「俺もだよ!!だとしても開けないんだ!!」

「どうしてぇ?高所恐怖症なら早く開いてよ~!!」

「開いたら高い所にいる時間は長くなる。ならいっそのこと一気に地上すれすれまで落ちる!!」

「だとしても私ロイの腕にしがみつくしかないんだよ!!」

 

 あ

 

「ごめん」

 

 白露を掴んでいる右腕を左腕に変え、弓を引くようにして白露が正面に来るようにする。そうしたら右腕を白露の背中に回し、抱くようにして近付ける。

 

「あ、あわ、あわわあ」

「体に手を回せ、腕よりはましだろ」

「わ、わかたた、わかった!!」

 

 白露の体温が肌と肌が触れ合うことで伝わってくる。

 

 

 ハ島まで後少し。パラシュートを開き、安全に降下できる場所を探す。島の中央部が開けていて良立地と思ったが、不自然さを感じ森に落ちた。

 

――

「大丈夫か白露」

「大丈夫だよー。連装砲もちゃんと動いてる」

 

 パラシュートを外して再度武装の点検をする。着地―というよりは墜落―の衝撃は小さくなかったので、砲塔の旋回に問題がないか調べさせていた。

 

「GPS情報喪失地点に向かう。付いてこい」

 

 有名な話ではあるが、軍の艦艇は勿論艦娘にもGPSが付けられている。羅針盤の逸れに提督側がいち早く気付くために付けられたものだ。今回はそれが途絶えた場所に行くことで陸上型の追跡をしようとしていた。

 

 周囲の気配を気にしながら進んでいくが何もいない。待ち伏せかとも思ったが、視線も感じない。

 

「…何もいないな」

「何もいないねー」

 

 GPSの喪失地点に着いてもそれは変わらなかった。

 

「周辺に艤装がないか調査する。散開」

 

 俺は波に打ち上げられていないか浜辺を中心に艤装がないか調べる。白露は逆に海側、漂ってないか調べる。白い砂浜でいい場所だと思いながら調べていると、無線が鳴る。

 

「ロイ聞こえる?ハ島に漂着した人がいるみたい」

「漂着?浜辺には見えないな」

「よくわからないけど救難信号を送ってるから、救助活動に入るね」

「…分かった」

 

 胸の内のざわつきを抑えながら救難信号を探す。無線の周波数を徐々に変えながら探すがどれもノイズばかりで救難信号なんてなかった。

 

「白露?救難信号は確認できなかったぞ」

 

 無線を通じて呼びかけるが反応がない。

 

「おい白露?白露!?」

 

 行方不明、そう感じた瞬間には無線のチャンネルと周波数を変えていた。

 

「山吹元帥、白露のGPSは今どこです!!」

「ロイ君か!!白露君の現在地は……ハ島西岸の崖に向って航行中だ」

 

 大きく跳躍。深海棲艦の身体能力で東岸の砂浜から西岸の崖へ跳ぶ。

 

「だが可笑しいんだ、白露君はGPSによると減速することなく崖へ向かっている、仮に錨を下ろしても座礁してしまう!!」

「ハ島に巣くう悪魔は救難信号を発信して艦娘を呼び寄せていました、白露のGPS情報から目を離さないで!!」

「分かっている!!だがこの速度は…ぶつかる!!」

 

 無線越しに山吹元帥が悲痛な叫びをあげる。俺も白露の衝突音がしないかと気を張り巡らせる。

 

 だが、衝突音は一切しなかった。

 

「山吹元帥?」

「・・・ロイ君、現時刻を以って作戦目標を調査から殲滅に変更する」

「何があったんです…」

「白露君のGPS情報が崖の内側3Mで途絶えた。つまり、敵は島の地下に基地を作っている」

 

 だから艤装の残骸が見当たらなかったのか、クソ!!

 

「見つけました、縦およそ5M、横7Mの入り口です。さっきまではありませんでした」

「食人一家と同じ天然か、それとも人工か。気を付けて進め」

 

 中に入ると無線は繋がらなくなった。トンネルのような水路を抜けると、そこは埠頭だった。

 

「どういうことだ。深海棲艦の陸上拠点は地下基地なのか?」

 

 全体を見るが、人間のものと酷似している。

 

「これは…深海棲艦じゃなさそうだな」

 

 上陸し、銃を構える。監視塔のような建物はないので狙撃される心配はない。

 

「こちらロイ、これよりハ島を制圧する」

 

 通じない無線にそう呟き、奥へ進んだ。




柏型高高度偵察機 星

空軍の偵察機。雲よりも高く飛べることから星と付けられる。深海棲艦との戦いを意識しているのでステルス性能は低い。だが深海機が到達できない高高度が適正高度で、上昇速度も速い。

機体下腹部が爆撃機のように膨らんでおり、孤立した島への物資投下やハラスメント爆撃、ビーコン設置を可能にしている(ここにロイと白露がいた)。

虫擬き(1-4とかの航空機)は手出しどころか同じ舞台に上がることすらできなかった。そのため星が量産され、緒戦における要人輸送や偵察で活躍した。

まもなく登場するタコ焼き型にボコボコにされる予定。

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