「こんな真夜中に招集してすまないが、緊急事態だ。許してくれ」
大本営の会議室に集まったのは、横須賀の鎮守府に着任している提督たちだった。
「構いませんよ。この状況で安眠ができるなんて思っていませんので」
「今回の招集は何です?第七鎮守府の件ですか?」
「いや、今回集まってもらったのは深海棲艦が侵攻の準備をしているからだ」
その一言で、雰囲気がより一層引き締まる。
「現在作戦部が南方進出拠点設営計画、丸計画を練っているのは以前通知した通りだ。そして候補地がこのサ島。大きく拠点設営に向いた地形だ」
山吹は海図を取り出し、サ島を指し示す。
「そして、深海棲艦が目撃されたのがこのハ島近海。報告によると奴らは揚陸艦数隻をハ島に上陸させたそうだ」
「ハ島はサ島に比べれば少し小さいが地形はいい。さらに南方寄りで前進基地としては最高の島」
「ここに奴らは拠点を造ろうとしている。もし奴らに先手を取られれば丸計画は実現困難となり、南方への足掛かりを失うだけでなく、本土へ南方の深海棲艦が襲来する第一歩となる!!」
山吹は海図の貼ってある掲示板を叩き、集まった提督たちに言う。
「諸君にはこれから、ハ島に拠点設営を目論む敵艦隊を撃滅。陸上戦力を殲滅してもらいたい!!」
事実上の作戦の通達。それを受けて提督たちは細部の打ち合わせを始める。
「この位置だと今から出撃しても朝だな…」
「艦隊戦と陸上戦を主眼に置いた艦隊、複数の艦隊で出撃するのか」
「情報が必要だ。ハ島に星を複数送って敵艦隊の編成を調べさせろ」
――
「・・・」
埠頭の近くにあった倉庫を調べていると、ここはやはり人間の施設だということが確認できた。食糧、水、衣類、etc。深海棲艦が絶対に使わないものばかりがあった。
この地下はとても広く、天井に照明がなければ地下だと気付けない、某猫型ロボットの大長編に出てくる地下王国のようだ。そしてこの地下は埠頭、倉庫、市街地の三つで構成されている。
そして白露だが、恐らく埠頭や倉庫を越えた先にある町の様なエリアにいる可能性が高い。これは確証はないが、それぞれの区画の目的からそう推理できる。
埠頭区画は大きいが、物資の搬入がしやすいようかなり大きく作られており、艦娘をどうこうできる施設は作れない。
倉庫区画は大量の物資を置いておくので場所に余裕がない。
そうなると消去法で市街地区画が一番可能性がある。何しろ人口一万人はありそうな広さなのだ。施設があるとすれば市街地区画。
――
市街地区画と勝手に呼称していた区画は、限りなく市街地に似ていた。電柱、街並み、川に橋。そのどれもが日常の光景だった。
「大柳ドラック・・・」
看板が目に留まる。この店も実在する。ここまで同じだと市街地での戦闘データを取るための実験場と思ってしまう。
「・・・」
少しの間、その看板を見つめる。なにか違和感を感じ、それがなにか知りたかった。
その答えは早く返ってきた。
発砲音、そして穴が開いた看板、遅くなる世界。
「リフレックス!?監視されていたのか」
周りを見れば、四方八方から銃撃されていた。銃は寄せ集め、服も戦闘服ではないので民兵集団だと分かる。
その場は一旦離れ、物陰に隠れる。
「消えただと!?」
「馬鹿な!!」
「こちらハウンド1、ターゲットが消えた、どこにいるか探れるか?」
混乱している間に、俺はその場を離れた。
――
虱潰しで建物に入っては調べを繰り返すことで、ある程度のことが分かってきた。
一つはこの市街地区画はあの民兵集団の居住地で、ここでは何もしていないこと。もう一つは、民兵集団の武器はテロリストやゲリラの使うような大量生産の銃を使っていることだ。つまりここで何かをしている集団は、巨大な犯罪組織で艦娘売買をしている可能性が高い。
「だとしても、この地下街は謎だが」
構成員の福利厚生を目的にしていたとしても、この見た目にする必要はない。生物兵器の類の実戦データを採るためだとしても、未だにそれが追手として来ていないのでそれもないのだろう。
「だーっ、とにかく、白露を探さなきゃな」
白露を探す手段は既に確保した。この街にある物で位置情報を受け取る道具を作った。これを使えば白露の服に付けた発信機の情報を受け取れる。
「ほら出てこいよ出てこいよ、あっ出てきた」
ピコンと位置を示す〇が出てくる。結構近い。
「…あの家か」
隠れていた民家を出て、白露のいるはずの家に入る。ここもやはり普通の民家で、生活感を感じられる。
「白露、いるか!!」
声を掛けながら一部屋一部屋調べるが、いない。クローゼットなどの人がいれる空間を全て調べたが、やはりいない。
「まさか…な」
無いだろうと思いながら、床を蹴る。初めはただへこんだだけの床だったがやがて鋼鉄の建材が出てきた。
「うーん、やっぱり地下か」
あの部隊の指揮所が見当たらなかったので、もしかしたらと思っていたが、やはり地下があった。この材質は硬いが、全力でやれば破壊できるはず…。
「オーリャー!!」
拳が若干痛いが、それでも貫通した。貫通した手で天井を持ち、引き剝がす。重くて不快な金属音に耐えながら、限界まで引き剝がす。
「ヒャーッ!!…ロイ?」
「そっちに行く、少し退いてろ」
穴から白露のいたところに落ちる。如何やら独房のようだ。
「連れてこられたのか」
「うん。救難信号を受けて来たら、埠頭で気絶させられて。気付いたらここにいたの。艤装も取られちゃったし」
「分かった。艤装を取り返したら山吹元帥に連絡を取り、ここを爆撃してもらう。付いてこい」
独房の鍵を銃で壊す。他の独房も確認したが、他にはいなかった。扉を開けると、そこには看守がいた。
「お、お前、まさか上で噂の!!」
「動くな」
拳銃を突き付ける。流石に相手は反応できず、両手を上げた。
「ここで何をしている」
「し、知らねえ…」
看守の耳を掠めるように撃つ。
「もう一度聞く。ここで何をしている」
「ホントに知らねえよ!!俺達は雇われているだけの傭兵で…」
「雇い主は?」
「わ、分からねえ。見ることはあるけど下っ端の俺には。た、ただいつも白衣を着ていた男だ。研究者だ!!」
「そうか」
もうこれ以上は聞けないと思ったので、撃った。白露は何故撃ったのかと言いたげな顔をしている。
「…ここは爆撃されるんだ。だったら生き埋めよりこっちの方が苦しまない」
我ながら最低の言い訳だと思いながらも、看守の持っていた鍵類を取る。
「地図が示すに、通信室に行く途中に司令部がある。道中でここを襲い、敵の連携を崩す」
白露に予備の拳銃を渡し、巡回兵士を倒しながら進む。白露は後ろで隠れながら進んでおり、怯えているようにも見えた。
司令部には特に大きな抵抗もなく到着できた。やはり装備も練度も悪いので大した障害にならない。
「動くな!!腕を頭の後ろで組み床に伏せろ!!」
「し、侵入シャァ!!」
警報を慣らそうとしていたのを撃ち、警報も破壊する。他の司令部要員は全員指示に従っていた。この中には看守の言っていた白衣の男はいなかった。司令部のカメラにも映っていない。
「おいお前、この施設で何をしている」
取り敢えずの聴取として、服がこの中で一番派手な男に聞いた。
「こ、ここでは、深海棲艦との戦争に勝つための研究を…」
「ふーん、何処が資金や物資、サンプルを提供している?」
「局長が、自前のルートで調達していると」
「あの銃もか?」
「あ、ああ」
成程、黒だ。
日本が支援しているなら銃はあんなゲリラみたいなものではないしそもそも山吹元帥に伝えられるだろう。
「何故艦娘を攫った、彼女達は何処だ!!」
「研究のためとしか、それ以上は知らない!!」
言い終わった瞬間、頭を液晶に叩き付ける。
「さよならだ」
自作した爆弾を司令部に残し、去った。