理由はかわいくてかわいくて、かわいくて、かわいいから。
だからケッコンした。
ヤンデレになったら尚嬉し(癖)。
ル級から送られてきた砲弾が迫る。ゆっくり、ゆっくりと。
走馬灯は流れていないが、時間がとてもゆっくり流れているように感じる。現に波飛沫の白が海面の青に叩きつけられ消えていくのをこの目で捉えれているし、青柳の死体の力の抜けた腕が落ちていくのも見れる。
まだ死にたくないが、もう死ぬのは確定しているようなもの。せめてもと青柳の口元の血を拭こうと思う。
本編開始前に死ぬのかー、何だか安心している自分がいるが、悔しい自分もいる。この世界は艦これの世界。つまりもうすぐ艦娘と会える。なのに俺は直前で死のうとしている。
砲弾が着弾するまでまだ距離がある。
ポケットのハンカチを出し、青柳の口許に運んだところで異変に気付く。
青柳の腕はまだ落ちている途中だが俺の手は既に口許の血を拭いている。移動距離的に腕が落ちる方が先のはずなのに。
試しに立ったり座ったりを繰り返す。5回繰り返してもまだまだ砲弾は距離がある。
「もしかして…これって覚醒ってやつ?」
書いている時は単純な基礎能力が高いだけだと思ってたけど、本人はこんな感じで時間がゆっくり流れているように感じていたのか?そしてこの時間がゆっくり流れる…リフレックス状態を覚醒と仮定するなら、あのスーパーパワーも手に入っているのか?
「どうせ、どうせやらなくても死ぬんだ、なら試してやる」
砲弾が至近距離、それこそ手が届くまで近付いた時、腕で砲弾を弾く。アニメの金剛を想像しながら。
砲弾を弾いた瞬間、リフレックスが解除される。
そんな
ル級の口が動いてそう言ったように見えた。
弾かれた徹甲弾はル級の頬を掠めて何処かに消える。
波の音が場を支配する。俺も、ル級も、どちらも動かない。ただ波に揺られるだけだった。
ル級が咆えるまでは。
「ウルオオオォォォ!!」
「!!」
ル級の背中から炎が現れる。初めは自沈か事故かと思ったが、その炎はやがて黄色くなり、変な風を吹かせ始める。
フラッグシップってああいう風に誕生するんだ。
そんなことを思っていたら、ル級は一歩を踏み出す。黄色の炎…オーラも消える。
ガランッ
砲弾を装填した音だろうか、そんな重い音が聞こえる。ル級はまた砲を微調整し、直撃ではなく至近弾を出せるようにする。
まずい、直撃ならさっきみたいに弾けるが、至近弾…それも爆発するような奴だったらボートは転覆するだろう。そうなったら青柳を遺族に渡せない。
注意を惹こうにも、移動手段は青柳の乗ったボートだけ。これでは今と変わらない。…いや、もう一つある。覚醒がこの体に流れているものをしっかりと目覚めさせてくれているのならば。
ル級の砲から発光。リフレックスモードとなり、時間がゆっくり流れる。青柳を守るため、機関銃で砲弾を撃ち落とすそしたらボートを大きく蹴り、そのまま海面に着水する。
希望通り、覚醒によって目覚めた遺伝子が、俺を海に浮かせてくれる。
母親の遺伝子…本編の言葉を使うなら、親衛隊と近衛隊*1の隊長を兼任した伝説の深海棲艦の遺伝子が、俺を深海棲艦と同じようにさせてくれている。
「終わりだ」
電探に引っ掛からないよう、限界まで姿勢を低くする。そうしたら近付きながら閃光手榴弾を投げ、銃で撃つことで空中で爆発させる。ル級の目を潰せたのか、機銃や副砲による対空射撃は見当違いの方向を撃つ。
「靖国で休んでる二人の分だ、受け取れ」
重い筈の機関銃は、片手であっさりと扱えるほど軽く、そのトリガーを引くのも、同じだった。
—―
燃料切れのボートを引っ張ってアデンに戻る道中で、俺は彼女達…艦娘を見つけた。大和、鳳翔、夕張、曙、吹雪の五人だ。
「あなたも…」
「初めまして、大和さん…私はロイ」
「ロイ…そう、あなたが…」
如何やら、紅海の奇跡はもう終わったようだ。
—―
アデン発、横須賀着の飛行機は、俺と艦娘五人、そして青柳の遺体と大尉の形見の酒瓶を乗せて空を飛んでいた。
如何やら五人はスエズ運河付近に上陸した後、徒歩で紅海沿岸まで移動し、インド洋を目指して航行していたようだ。詳しい理由は教えてくれなかったが、大方深海棲艦の都市があったり、危険な地中海を脱したかったのだろう。
俺は司令官殿にことの顛末を報告した後、陸戦隊である大石小隊の派遣を決定した元帥直々に帰還命令が出され、アデン司令官最後の命令である日本までの五人の護衛を全うする為、こうして同じ飛行機に乗っている。
対深海棲艦の切り札である艦娘を早期に確保。そして秘密裏に出された撤収準備。元帥はスエズ戦争というフェーズを終わらせ、深海棲艦との戦争というステップに移ろうとしている。今の段階で、もう元帥は親衛隊なのだろう。
一方で俺は、かつては画面越しにしか見ることのできなかった艦娘という存在と話し合うのでもなく、寝るのでもなく、ただ青柳の入った棺の前で、大尉の形見の酒を飲んでいた。棺は大きいので、後ろの隅っこに置いてある。艦娘たちとは対角線上の位置にあり、遠い。
ロイ1世としては、青柳一等兵というのは今日知ったばかりの人間であり、それは大石大尉も同じだ。しかしロイ・ヴィッフェ・ヒドルフとしては?青柳は年が一つ違うだけの同期だ。大石も一期先輩なだけで、訓練学校では同じ隊だったこともあり、今回のアデン派遣で同じ隊だったのがとても嬉しかった。
この微妙な違いが、言い表すことのできない気持ち悪さとなり、近くにあった大尉の酒を飲むことしかで紛らわらせることが出来なかった。
保育園での組み分けは?小学校のクラスは?中学3年のときは何組だった?高校生に…訓練生になって初めて買ったものは?
目前まで迫った深海棲艦の脅威が消えたことで、一気に考え出す。俺はロイだ。どっちのロイだ?普通の人間として生き、そしてネット小説を書いたロイか?それとも艦これ二次創作作品の主人公のロイか?
酒をラッパ飲みする。痛い、頭が痛い。
戦友の死がここまで重いとは思っていなかった。今日の朝…出撃前まで、PTSDになるから取り敢えず休めるとしか思っていなかった。浅はかだった。このままじゃ本当にダメになる。
「あんた、大丈夫なの?顔色悪いわよ」
リン、という鈴の音。そして紫の髪色に吊り上がった目。
曙だ。手には水の入ったコップを持っている。
「鳳翔さんが、これ…飲みなって」
コップをもらう。水面に映っているのは銀髪の顔色が悪い男だ。
「中の人、あんたの大切な戦友だったの?」
気持ちを酒以外で紛らわせるためか、棺に手を当てて聞いてくる。
「分からない。大切といえばそうなのだが、昨日初めて知ったといばそれも正しい」
「あの基地で知り合ったの?」
「いや、何年も前だ。訓練学校の外周を何度も走らされていて、そこにこいつはおからを持ってきやがった。母の手作りです、おいしいですよ、こっちは水が欲しいってのに」
ヒドルフの記憶が蘇る。だが同時に1世の意識がそれを揺さぶる。
「だが、俺がこいつを知ったのは昨日だ。病院を抜け出して部屋に戻ったとき、こいつは俺の机で手紙を書いてやがった。見つかったときは、お早いお戻り、流石です、だ」
「あんた…もしかして…」
「多分、曙想像通りだ。二重人格に近いもの、俺はロイだがこの体のロイじゃない」
酔いが治まったからか喋ったからか、頬に熱い物を感じ始める。
「…私も似ているわ。曙って名乗ってるけど、本名じゃない。私もあなたと同じ」
「えっ…」
「本名は教えれないけど、あたしたち仲間よ」
背中を優しく叩かれる。その度に涙がたくさん流れる。
「曙、曙!!」
二十歳手前の男が少女に宥められていると突然客観的な事実が浮かぶが、そんなことは気にせず、ただこの少女に宥められていた。
「…」
一体の妖精に見られているとは知らずに。
捕捉的あとがき(本編中にやらないor早めにやっておきたい説明)
ロイの血筋について
父はドイツ人で巡洋艦の艦長、祖父もドイツの海軍で長官をやっていた。父は尖閣動乱で戦死、祖父も病気で既に他界。
母はロイの出産後死んだと伝えられているが実際は生きている。だが母は深海棲艦でトップの実力者。掟とか法とかそんなもん(適当)に則って深海に帰った。なければ一緒に過ごしてるでしょ、多分。
ロイの血筋だが、母親は全て深海棲艦で、子を産んで早々死ぬ(風に装う)ので、一般人間女性にはウケない。深海棲艦にはウケる模様。
ロイを引き取った家は未婚…というよりも婚約者になる予定だった深海棲艦が人類とのドンパチに参加しちゃったのでご破談となった。
余談だが、親戚がいないのでロイが死ねばヒドルフの家系は絶える。
母親が誰かといのは本編でやる予定、忘れたらやらない。