「光の反射具合で空気は誤魔化せれる、つまり成功だ」
「本当か?画面が暗転した時とかは大丈夫なのか?」
「捨てたくなる」
黒塗りの高級車――に見せかけたそこら辺の安い車を改造したもの――の列が高速道路から一般道に下りる。その中には鎮守府守備隊から憲兵隊に名を変えたばかりの者達が海沿いの大きな建物を見つめていた。
――
提督適性検査を難なく突破し提督学校に転入した俺は、いつものように様々な戦術を頭に叩き込んでいく。覚えるのは元から苦ではないので大変ではないが、数日後にその戦術が実際には役に立たないことが分かり、忘れなければならないのが辛い。
陸戦隊を志望していたからか筋トレなどは免除されており、その時間を使ってリフレックスモードの発動を任意で出来ないか試してみたり、妖精を探していた。
妖精ならあちこちにいるではないか、という指摘は正しいが、俺が探しているのは建造のときに出てくる妖精でも、羅針盤を回すあくm…妖精でも、土下座妖精でもない。本編では「相棒妖精」や「ジョニー(命名ロイ)」と呼ばれていた、すーぱーすよーせーさんだ。
その妖精がいればどれくらいの防護力かははっきりと分からないが防弾コートや武器類、乗り物を開発することができるようになる。それらが手に入れば生存率や殲滅力が上がり、移動時間の短縮に覗き、更には物語の結末を変えることができると信じている。
本編ならPTSD検査のときに接触するはずなのだが、今までずっと見てない。だから探しているのだが、妖精や同期に聞き込みをしても、あちこち探しまわっても、なにもありません、痕跡は0です。
一方で守備隊…じゃねえわ、憲兵隊としても度々出動している。
主な内容は校内に入ってきた不審者の撃退や脱柵した連中の捜索と原因の聞き込み。稀に鎮守府内でのいざこざの仲裁と平和そのものだ。
しかし専業憲兵の方から、野心が強かったり金儲けしか考えていない連中が山吹元帥が直々に制定した規定を違反した出撃・遠征をしたり艦娘を売買していると聞いた。
前者は単純に指揮に不慣れな民間出の促成提督か、戦果を重視する提督に別れるらしい。後者は艦娘を秘密裏に建造し出撃させる、書類上は存在しないのでまともな補給・入渠が受けれず沈む艦娘が多いと聞く。だから調査はするが軽い監査で済ませるか制圧するかを見極めるのが必要で、民間出なら出撃数のわりに撃破数が少なく、逆に戦果重視なら出撃数のわりに撃破数が多いらしい。――戦果重視だと秘密裏に建造された艦娘の戦果を他の艦娘のに入れる為、出撃制限数を守ると戦果が一般的なものより多くなるらしい――。
一番問題なのは艦娘を売買している方だ。
艦娘を解体、轟沈、誘拐等々されたようにみせかけて売却。ブラックマーケットにて販売。
これらは法で裁けないらしい。
鎮守府側が売却する過程で、除籍されたり誘拐されて行方が掴めなくなった場合は軍法違反にならないので処罰できない。ブラックマーケットでの販売も艦娘が人か道具かで国会が揉めているので法整備が進まず、罰することが出来ない。
だから憲兵隊も鎮守府側をいちゃもん付けて左遷することしかできない。運よくブラックマーケットに辿り着けたとしても人身売買ではないので艤装をつけている状態じゃなければ何もできない。
そんな無法地帯に軽くなりかけているのが日本の現状である。
両元帥が必死になって動いているが、誰かの不幸で自分が幸せになる奴は圧倒的に多く、法整備を要請すれば軍の政治介入と騒がれ、大物を更迭しようとすれば軍内部での大粛清とマスコミが口を揃えて言う。
…はっきり言うわ。提督学校辞めて裏世界に飛び込んで色々潰したい。
だが本編の進行を遅らせるわけにはいかないので辞めることもできず、今日も今日とて簡単な出動命令を受ける
と、思っていた。
「中佐、出動です、中佐ァ!!」
「なんだ、騒がしい」
部下であり年上の専業憲兵が埠頭で海を見ていたところに駆け込んでくる。出動と言っているから走るだろうが、今回はいつもよりうるさかった。
「そりゃうるさくもなりますよ。艦娘を売買していた二世(ふたよ)がとうとう尻尾を出しました」
なるほど。二世というのは憲兵隊ではかなり有名な提督だ。
無能で馬鹿で金に目がなく倫理観がゆるゆるという時点で既にヘイトは高いのに、イケメンという要素が加わることで更に高くなった。
左遷しようにも親が現職政治家で背後の組織の強さから第三者が納得が得られて法に則った行動をしなければどうしようもなかった。だが周りの連中が証拠を揉み消したりするので出動できなかったのだ。
「ッ!!急げ。武装や車の手配は!?」
「既に校門にて万全の状態で待機しています。というのも今回の出動は元帥が傍受を恐れ人力で届きました」
校門で待機していた黒塗りの改造車に飛び込む勢いで乗り込む。車内は広く、そこで提督候補生の服から憲兵服に着替える。
「改めて、今回の出動を説明いたします」
「頼む」
着替えながら、ドライバー兼伝令兵の話を聞く。
「今回逮捕するのは現職の大物政治家の息子です。写真をご確認ください」
「見た目は100点、中身は0点だな」
着替え終わったので、銃の最終確認をする。
「仲卸業者への連絡を無線で行い、それが艦娘らによって傍受。近隣の民間人を経由して大本営の峰友少将に渡り、元帥が出動を命じました」
峰友少将は有能・イケメン・優しい・悪い奴らをぶっ殺すの4拍子揃った元帥の部下だ。
「その民間人ってのはどんな奴なんだ」
「子供です。大本営に駆け込んできたときの映像があるので御覧になりますか?」
「頼む」
少年だ。10にも満たなさそうな少年が片方しかない靴で大本営に走ってこようとし、入り口で止められている。
「少年は憲兵に、艦娘さんから託された、偉い人に渡してくれ、そう泣き叫びながら封筒を掲げていました。その封筒に入っていたのが…」
「無線の傍受内容と出動要請」
「はい。それも書くものがないのか血文字でした」
…
「飛ばせ。スピード違反なんて気にすんな」
「中佐!?」
「残念ながら、鎮守府への突入は一斉に行えと命令されています。まずはサービスエリアで他の憲兵隊と合流します」
「チッ!!」
――
鎮守府近くで車から降り、指揮官である大佐の元に集まる。
「よし、アルファは俺に付いてこい。ブラボーは艦娘寮の制圧。チャーリーは事前に指示した狙撃ポイントで待機。エコーは鎮守府を封鎖しろ。鼠一匹逃がすな」
「大佐、私はどうすれば」
「中佐は憲兵詰所を制圧しろ。正面から堂々とだ」
「OK!!」
「執務室で集合だ、行くぞ」
命令を受けた全員が見つからないよう屈んで移動する。
俺は命令通り正門から堂々と入る。しかし入り口には二人の歩哨。
「おい、お前なにをしているんだ」
「止まれ、ここは軍関係者以外立ち入り禁止だ」
近付いてくる一人の男。俺はそいつの頭を鷲掴みにし、もう片方の歩哨に投げつける。
重なる二人の体に発砲。二人はすこし跳ね、動かなくなる。
正門から中に入ったところで空に照明弾を撃つ。照明弾の光が辺りを真昼のように照らす。
「夜戦はお好き!?」
少し高い、とあるエイリアンの声を彷彿とさせる声で叫んだら、憲兵詰所に歩き出す。
「動くな!!」
前方から10人位のこの鎮守府所属の憲兵が銃を構える。
「大本営からの命令だ。ここの提督を逮捕する。巻き込まれたくなければ引っ込んでろ」
「そいつは出来ないねぇ、俺たちゃあの坊ちゃまのおかげで甘い汁吸えてんだ。手放すかよ」
丸眼鏡を肥満の男が拳銃を構え声高々という。
「じゃあさ・・・とっととくたばれ」
軽機関銃を片手で一丁ずつ持ち、弾をばら撒くように右から左へ撃つ。
憲兵隊は身を隠していなかったので、何度も銃身が往復すれば全員が倒れた。
詰所に着く。あれほど派手にやったからか、中から大きな音はしない。だが、なにか艦娘売買に繋がるものがないかを調べるため、扉を蹴破って中に入る。
「ゥゥゥ...」
幽かな呻き声。それも女の。
「どこだ!!返事をしろ!!」
一階を見る。誰もいないしなにもない。二階を見る。やはり誰もいないし何もない。
「まさか…隠し扉か!?」
この詰所に三階はない。つまり一、二階のどちらかにいる。だが全ての部屋は調べ尽くした。もう隠し扉とかそういう系しかない。
カーペットを全て捲る。なにもない。
新しく張り替えられた壁紙がないか調べる。どれも単に傷を隠すために張り替えられている。
本棚を倒して、裏に扉がないか調べる。詰所に立派な本棚は無い。あるのはプラスチックケースだけだ。
クローゼット、押入、床下。全てを調べるが、やはりいない。
「クソッ!!頼む、返事をしてくれ!!」
強攻策に出るかと悩んでいたことろ、妖精が一体、部屋の外に飛んでいく。いつからいたのかは分からない。だが付いてこいと言ってる様な気がした。
信じて付いていくと、妖精は階段近くのコンクリートを指差す。
「この先か!?ありがとう!!」
とても小さな鍵穴があったが持っていないので、破壊する。返ってくるダメージは考えず、全力で拳を振り下ろす。左手に変える前に終わったので、早かったのだろう。コンクリに大きなひびが入る。そこに指を入れ、コンクリを取り出し外に投げる。
中は階段が続いていた。しかし照明がなく、とても暗い。正しく一寸先は闇である。
銃についているフラッシュライトの光とわずかな音を頼りに進む。
聞こえてくるのは呻き声と水の音。階段はまだ続く。
ようやく階段が終わったと思ったら、今度は直線。伏兵に気を付けながら全力で走る。
「行き止まり!?一本道だったぞ!!」
壁に手を当てて、何か仕掛けがないか探るがなにもない。本当にここが行き止まりだ。
「声は近い、下…上か?」
銃を天井に向け、見る。
「おい・・・おい・・・嘘だろこれは!!」
天井には全裸の女。体の大きさから駆逐艦。顔からして…
「白露型駆逐艦一番艦、白露だな。助けに来た」
体全体に打ち付けられた釘を抜き、天井から降ろす。
焦点が定まっていない。体温もかなり低い。取り敢えず着ていた服を着せ、地上に出る。
「こちらロイ、艦娘を救出。けがが酷く意識が朦朧としている、すぐの入渠が必要だ。繰り返す、艦娘を救出。入渠が必要だ!!」
「こちらアルファ、付近に鎮守府がない。撤収まで持ちそうか」
「無理だ!!体温がかなり低い。今から大本営に連れて帰っても間に合わない!!」
「そうか・・・なら、この鎮守府の入渠ドックを使用しろ。付近を通ったが、利用できるはずだ」
「了解、直ちに入渠ドックに向う」
自分の腕の中で消えそうな命を守るため、俺は知らない鎮守府を走った。
妖精が道案内をしなければ、俺はきっと迷子になって白露を殺していただろう・・・。
「ついた・・・ここが入渠ドック」
少し入るのに抵抗してしまうが、命を守るためと心に言い聞かせ、中に入る。
「なんて・・・醜い…場所、なんだ…」