しかしそれは彼女の本心ではない。
むしろ彼女の本当の心は・・・。
とあるレバガチャダイパンの収録後。
スタッフが機材の撤収を続ける中、
「あの、社さん」
なにも笹木咲はリアルでも傍若無人な人間ではなかった。
でも収録中は番組を盛り上げるためとは言え、暴言の限りを尽くす咲は頭を下げると社に謝罪の言葉を告げる。
流れがあったとはいえ今日はやりすぎてしまっていた事が彼女の心に棘を残していた。
「本当にすみませんでした」
「ん? 大丈夫だぞ? 今日もありがとな」
「でも・・・」
「お前のキャラクターはわかってる・・・って、これ前にも言ったろ?」
「はい」
そう言いながら彼女の頭を撫でる大きな手。
温かいそれが咲は大好きだった。
彼の手はいつも優しい。自分の髪を撫でてくれるそれを感じると心の底が色めきだった。
・・・社築はいつもこうなのだ。
いつだってこんな私の事を理解ってくれる。
その仕事で疲れた顔で笑い飛ばしてくれるんだ。
それを間近で見られる事が嬉しくもあった。
でも。
「築、お疲れ様」
「来てくれたのか⁉︎」
その声に目の前の彼は歩み寄っていく。
離れる掌。私はその暖かさを失う。
彼の隣に居るのは私ではない。
彼の隣に居るのは私ではないのだ。
私の側を離れ、最愛の妻の元へ駆け寄る背を見送る。
彼の顔が笑顔に包まれている。
心底嬉しそうに、顔を赤らめ、照れた顔で頭を掻きながら話す彼を眺める事しか私には出来ない。
それを受けた人も同じ顔を返していた。
そうして。
現場から去っていく二人。
残されたのは私が一人。
別れの挨拶に返しながらも私は見送る事しかできない。
いつからだろう。
彼を好いてしまった。
いつからだろう。
彼に恋心を抱いてしまった。
いつからだろう。
彼を愛してしまった。
十程も歳の離れた男性。
最初は年相応にふざけていた。
—でも、気になっていた。
—包容力にやられたのかもしれない。
いつの間にか目で追っていた。
—気づけば、会う度に笑う自分がいる。
—こんなオタクはタイプじゃないはずなのに。
その優しさに溺れていた。
—心地良いそこが嬉しかった。
—もっと自分を見て欲しい。
私は、貴方が、好き。
でも貴方の隣に居るのは私じゃないんや。
楽屋に戻ると荷物を整理する。バッグの中身を整えていると目頭が熱くなる。
視界がぼやけていった。
思い出す去りゆく二つの背中は実際の距離以上に離れている。
そこに私が介入できない事を如実に表していた。
私は貴方の隣には立てない。
それが堪え切れないほど、悲しかった。
私は貴方の隣に並べないから。
私は貴方の隣を奪えないから。
涙が頬を伝った。
流れ出るそれを拭う。
拭いても拭いても流れを止めてくれない涙をいつしか流れたままにする。
ポタリ、ポタリと涙はバッグに仕舞い込まれていくんやよ。
それはいつか、小さな『そこ』を溢れさせる事になんのかもしれない。
でも。
それでも。
一緒に居られるその時だけは、貴方を好きでもいいですか?
だって、
あなたのことがだいすきやから。
決して言えないその『一言』を閉じ込めて、隣で泣き笑う私がいた。
まったく。
囲碁将棋部のくせになまいきだぞ・・・。
そう小さく笑って、この胸の想いをいつまでも秘める事を決めて、私は楽屋を後にするんやよ。
最近勧められてよく見るようになった『にじさんじ』から笹木咲ちゃん(と社築さん)のお話でした。
宜しければご感想など頂ければ幸いです。