願わくば、その一瞬以上を君と 作:AEONCINEMA
「私たちが出会ったのって、きっと運命だね」
「この結末は、運命的な何かで決まっていたんだ」
「ここで終わることも、僕の
場面によって飾るものを変えて、愛する時やうれしい時、悔しい時に悲しい時も、運命を確信して幸、不幸を噛みしめる。
そんな中で一つ。誰が使うときであろうと、形を変えることがない一文がある。
「君は、運命を信じるだろうか」
誰もがどこかしらで一度は聞いたことがあるだろうこの一文。なぜこれが他と異なるのか?と言われれば答えは単純明快。
これを使うのは、決まって
「──はい、今日はここで終わりにしましょうか。委員長、号令を」
「きりーつ」
委員長の気の抜けた号令が教室に響いた後、六×六の正方形にきれいに並んでいた生徒達の姿がばらけ始める。
その中の大半が机の中の荷物をまとめて、半分は荷物を担いで意気揚々と部活動へ。もう半分はありったけの防寒具に身を包み、一面の銀世界へと飛び込んでいく。
そうして教室を出ていった人を除いて残った四人の男女は、示し合わせたように ある一つの──僕の机に集まった。
「カケルー。お前予定あるって言ってたけど、今日サボりか?」
「ん、明人。大丈夫、予定までしばらく時間あるし、付き合うよ」
「やった!」
明人からの問いかけにそうやって答えると、その横にいた人物が、女性らしい透き通った声で歓喜した。
「けど、カケルの提案するゲームって楽しいけど、ぜっっったいイカサマ要素含んでるよね〜。この前の変則チェスのときもこーらいが半ベソかきかけてたし」
「うっせぇ!サイコロで各駒の数決めるなんてシステムで出目の操作出来るやつ相手にして勝ち目あるわけねえだろ!大体、カケルにボコられて隅でブツブツ言い訳してた未緒も似たようなもんだろが!」
「ち、違うもん!集中して作戦練ってただけで、言い訳なんかしてないもん!」
「はぁー、よく言うぜ。その前の時だって「ハイハイストップストップ。そろそろ始めるよ」あぁ悪い悪い。で、今日のゲームはなんだなんだ?」
「うん。今日のゲームは、名付けて『失墜大富豪』。土台になるルールは大富豪とダウトを混ぜ合わせたもの。そこにいつも通り特殊なルールがあるから。聞いてなくて失格負けとかにならないでよ?光来」
「名指し!?」
虚を突かれていきなり煽られたことで、動揺して辺に声が裏返る光来を見て三人で吹き出してしまう。しょうがない。数多く作られた前科が覆ることはないのだから。
早速始めようということで、僕が改造点の説明をしている間に、未緒がシャッフルしたカードを配っている──本当は僕がやろうとしたけど、イカサマ防止だと言ってぶんどられた──。流石にトランプを使ったゲームも何十回もやっているぶん、慣れた手つきだ。
小学三年生の時、僕らは同じクラスで出会って以来、進学先もクラスもずっと同じという一般的に極めて稀有であろう関係。何もしていないにも関わらず何故か惹かれ合うように一緒にいるのだ。いや、逆に考えて、何もなかったからこそ仲違いも起こらなかったのかもしれない。
この週一の放課後のゲーム大会も、小学生のころから続く習慣だ。週ごとにそれぞれが遊びの方法を提案し、最下位になった人は一位の人に何かを奢るという賭け要素が、全員を本気にさせる。だからといって高校生の男女がこんなことで本気になるのもどうかとは思うが。ちなみに、僕が提案するゲームの時の最下位率トップは断トツで光来である。
そして今日もいつも通りにゲームは進み…………いつも通りに光来が机に突っ伏しながら右こぶしをゴンゴンと打ち付けていた。
「くそぉ……またこいつは……こいつは……!」
「なるほどな。大富豪をダウト形式で進めていって、最後は予め決めた数字4枚で上がる以外は禁止上がりで大貧民、自分の指定カードがバレても同様。あらゆるとこで何かしらのイカサマができそうなルールだからこそ単純な駆け引きが生きるってわけか」
「必要カードを揃えなきゃいけないから、日和ってダウトに行かない膠着状態がなくて盛り上がるよね。ほんっとゲーム性は天才的なのになぁ~。カケルは将来いい詐欺師になれるよ」
「人聞き悪いなぁ。今回は立ち回りに集中しすぎたそっちの責任だろ。その証拠に明人はちゃんと口を滑らせずに上がってるし。それと毎回言ってるけど、僕のはイカサマじゃなくてテクニック!」
計四戦を行った結果、今のところの勝者は同率一位で僕と明人である。しかしこれはスコア上一位を取った回数が同じであるという話で、判定によって一位を一人決めるというのならば圧倒的に明人に軍配が上がるだろう。それほどまでに明人のプレイングが化け物染みて上手かった。
初戦は双子と同じように特殊ルールに頭を悩ませて敗北したものの、第二戦、情報処理が終わった頃には、僕が双子を指定カードバレで失格に追い込んでいる脇で、その高いIQで盤面を操作しまくっていた。そして、このゲームにおいて実質不可能とすら言える正規上がりを成し遂げたのだ。
このような鮮やかなプレイングを見せられては、一度未緒に指定カードを見抜かれ最下位落ちした身としては負けを認める他ない。
しかしながらいくら内部順位を決めようとしようが、これはあくまで途中経過の話。敗者は既に4戦中3戦最下位の光来でほぼ確定しているが、一人の勝者を決めるまではお互いに引き下がることは出来ない。そう考えて次の試合の準備をしようと卓上に乱雑に積まれたトランプの山二つを一つにまとめつつ、教室に備え付けられた時計を見ると──ー。
「うわっ、もう夕方!?ごめん、僕もう行かなくちゃ!」
手に持った針山のように角が飛び出るトランプの束は、僕の手で強く撫で回されてやがて直方体の形に収束した。そして先程までのように束のカードが皆に行き渡ることはなく、僕の机の中から引っ張りだされたケースの中にすっぽりと収められる。
「ほんとだ、いつの間に。今日も楽しかったから時間が経つのも早いね」
「それもあるけど、一番はこの空だろうな。景色が全く変わんねえから、朝も昼も夕方も、違いがちっともわかんねえ」
慌てる僕を見て今日のゲームの終幕を察した未緒と明人は、外の空を眺めながら話し始める。
あらかじめ用意を済ませていた通学用バッグを肩にかけたのち、スマホを取り出してより正確な時間を確認。どうやらギリギリ約束の時間には間に合いそうだ。
「今回は明人に勝ちを譲ってあげたってことで!じゃあまた明日!」
「おーう、彼女さんによろしくー」
「明人、時間もちょうどいいし光来にとびっきり高いのご馳走してもらいなよ」
「了解。ほらコー、駅前に新しくできた鍋食いに行こうぜ」
「私も行くー!こーらい、ゴチになりまーす」
「ざけんな、あそこうまいけど高いって噂の店だろうが!未緒もちゃっかりあやかろうとしてんじゃねえ!」
余計なことを言った光来への切り返しは予想以上に効いたようで、スッキリしたまま昇降口へと急ぐ。
──階段を下りきり昇降口に出たところで、現在時刻は午後五時半。帰宅生が帰るには遅く、部活が終わるには少々早い時間帯。それ故に人の気配は全くなく、待ち合わせ相手を待たせていないことに安堵の息を吐く。
走ってきたがために乱れた息を整えつつ、これから乗る電車の時間を確認したりなどこの後の準備に勤しむ。すると──ー。
「ごめん!待たせちゃったかな?」
──ー背後から聞こえた柔らかい声に未だに慣れず、驚き胸が高鳴った。反射的に後ろを振り返ると、セミロングの茶髪を揺らしながら、階段を小走りで降りてくる少女がいた。
「ううん、僕も今降りてきたところ。委員会おつかれさま」
「ありがと。……ふふっ」
少女は僕の言葉にこたえると、突然顔をそらし、口に人差し指と中指を添えて小さく息を吹き出した。
「どうかした?」
「いや、今の恋人っぽいなって思って」
「っ!じゃ、じゃあいこっか。もうすぐ電車の時間だ」
意表を突く彼女の発言に頬が熱くなるのを感じ、照れ隠しのように体を正門の方へと向けて歩き出す。後ろから少し歩幅を大きくして詰め寄ってきた彼女が隣に並んだ。
昇降口の扉を開けたところで僕らに襲いかかってきたのは、校内とは一段強い寒さを伴う突風と、それに乗ずる大粒の雪だった。コートの中にカイロを十分に忍ばせているというのに思わず身震いして、これからこの吹雪の中を進むのに軽く躊躇してしまいそうになる。
「わっ、まだこんなに降ってるんだ。駅まで歩くの大変そうだなぁ……」
「はは。この学校無駄に峠の上にあるからね。もし滑ると危ないから、しっかり捕まってて」
左手で持っていた傘を開き、右手を彼女に向かって差し出す。
「……うん」
すると彼女は少し下を向いて、心なしか頬を赤らめながら右手に傘を持ち替えて、左手で僕の手を取った。
そうして僕らは、眼前に広がる一面の銀世界にダイブする。
繋がれた手は、無骨に互いの手をまとめて包む形から、次第に指と指を絡ませるように組み替えられていく。
──ー僕らには、秘密がある。
僕と彼女──
入学式の日、二人だけの天文部に入部したあの時から弛まぬ努力を経て作り上げたこの関係を知っているのは、明人らしかいない。なぜわざわざ秘密にする必要があるのかというのは、単純に高校生のカップルだから、ことあるごとに周りからからかわれるという定番の流れがいやだったからである。それも、相手が狭い地元の中で数少ない美女である廻璃であるならばなおさらだ。
廻璃は僕らの学校における不動のトップに君臨し、その学力は明人ですら影を踏む事が出来ない天上の存在。それどころか、全国模試でも最上位を争えるほどの知識量である。
しかし、その辺の男達が惹かれるのは、そんなそこそこ接していれば分かる内面の話ではない。彼らが彼女を一目置くのは、やはりその外当たりの良さというほかないだろう。
ぱっちりと開かれた二重の瞳と、高校生らしからぬ隅々まで行き届いた手入れによる肌。それにより作られるかわいらしい童顔にはまだあどけなさが残り、彼女が浮かべる照り輝くような笑顔に落とされた男子は多いだろう。そのうえスタイルもほどほどに整えられていて、まさに理想の女性を体現したかのような姿。惚れてしまうのも無理はない。
かくいう僕も最初はそんなありきたりな見惚れ方をしたものだ。ただ、もちろん今はそれだけではなく、彼女と気が合う点や、その人間性を知って、彼女がそれまでの何倍も好きになった。
語りすぎたが、とどのつまり、こうしてデートに行く回数も一度や二度ではないのに、今廻璃と並んで歩いているだけの時間ですら、幸せが薄れることは無いほどに、この状況は非現実的なものであるということだ。
他愛ない会話を繰り返している内に、僕らは無事に駅に到着して、数分後に来た電車に搭乗した。
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そうして電車に揺られること20分。僕らは街の大きなプラネタリウムを訪れた。
「相変わらず凄い行列。カケル、良くチケット取れたね」
「ふっふーん。すごいだろ?……と言いたいとこだけど、この前母さんが買い物に行ったときに抽選で当たったのを譲ってもらっただけなんだ。星には興味ないからあげるって。いっつもテレビで天文特番見てるクセに」
「あっはは。しょうがないよ」
笑いながら傘を持つ手を少し手前に引き、廻璃は空を見上げた。相も変わらず、どんよりとした薄暗い暗雲がしんしんと雪を大地に振りかけている。まるで、せめてもの空からの贈り物と言わんばかりに。
「雲に閉ざされた、こんな世界じゃね」
巡璃の哀愁漂う横顔を、何も言えずに眺めていると、ずっと止まっていた行列が、前の方から波のように揺れ始めた。どうやらいつの間にか、入場時刻になったようだ。
僕の手を握る廻璃の力が、キュッと強くなった。
「……行こっか」
「……うん」
握られた手に呼応するように握り返して、僕らは着々と進む長蛇の列を、一歩、一歩と進んでいく。
それから数分と経たずに入場券の確認は終了した。僕らよりも少し先に入場手続きを済ませた客が入り口の前で衣服の手直しをするのに習い、僕らも一旦つないだ手をほどき、傘や体から雪を払い落とす。
払い残しがないことを二人で確認しあってから、自動ドアの前に立ち入館した。
中に入ると暖房で暖められた空気が、外で冷えきった僕らの体を包み込んだ。思わず二人して「ほへぇ〜」という気の抜けた声が漏れてしまい、笑いながら劇場に歩を進める。
大きなホール特有の、開放された仰々しい扉を二枚分通り抜けて、僕らはチケットに記された座席の場所を見つけて座った。いや、上を見上げるように傾けられたリクライニングシートは、寝転がるといった方が近いだろうか。
僕としてもこんな場所に来たのは初めての経験のため、先ほどからそわそわが止まらない。なんだかんだ子供っぽいところのある廻璃も、きっと同じ感情を抱いているのだろうと思い、隣を見る。
「…………ぇ」
「……ん?どうしたの?カケル」
「あ、ううん、なんでも」
廻璃を見ているとつい声が出てしまい、それに気づかれて廻璃が笑顔で問うてきた。僕はバツが悪くなったような気持ちで、反射で具体性のない返答を返し、顔を天井に引き戻した。
そこいた廻璃は、なにか複雑な表情をしてるように見えた。懐かしいものを見るような、それでいて、もう見飽きたものを見ているかのような。僕にはそれが何だったのかはわからなかったが、少なくとも、初めて見るものにワクワクする表情ではなかったことは分かった。
そうやって考えているうちに、天井のライトがすべて暗転し、天井というスクリーンから発せられるわずかな光だけがその場に残った。
『来場者の皆さん、こんばんは。本日は当プラネタリウムにご来場いただき誠にありがとうございます』
そして、真ん中の上映機器の隣から聞こえるナレーションの声から、空の劇場は始まった。
『さて、本日上映致しますは冬の星座にまつわる話ですが、まずはその前に今この地球を取り巻く環境についてお話ししていこうと思います──ー』
今から約12年前、地球全体を厚い雲が包み込むという、謎の異常気象が起こりました。動くことは有れど、その雲が晴れることは今日この時においてもありません。
原因は不明。そのうえ大変不思議なことに、本当に突如として現れたその暗雲にはなんの科学的理由も見られず、それでいてなぜか地球の気候は変わることなかったのです。そのおかげで私達が生きていけなくなるほどの変化がなかったというのは、まさに不幸中の幸いでしょう。
しかしそれでも、地球上では生物、無生物問わず直射日光を浴びることはなくなりました。
空を見上げても見えるものは雲ににじむ淡い太陽の光か、モノクロの雲、雨模様に雪景色。現代の人々の目から、青空と星空は消失してしまったのです。
『──ー我々は今宵、星空をなくしてしまった皆様に、我々の知る星空の記憶をお見せしたいと思います。
まずは冬の空の定番。オリオン座の一等星ベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンにより形成される冬の大三角……』
『……それを哀れに思ったアポロンが、パエトンを星座にした姿が、エリダヌス座という訳です。今回の公演はこれにて終了となります。月が変わるとまた演目が変わりますので、またお越しください。それではご来場ありがとうございました』
ナレーションが終幕の口上を告げ終わると、天井に映された一面の星空がフッと消えて一瞬辺りが暗闇に包まれ、すぐに照明が部屋全体を明るく照らしだした。
数十分席に座っていたことで流石に体にも疲れが溜まったようで、座ったままで伸びをして、体の凝りを解す。
「ふー。面白かったね、廻璃。……廻璃?」
「……あっ、うん。誘ってくれてありがとうね」
そんな煮え切らない返答をする廻璃の表情は、やはりどこか、暗いものを含んでいる気がした。
「……もしかして、退屈だった、かな?始まる前もそんな感じだったし……」
「!いや!そんなことないよ!本当に楽しめた!…………ねぇ、カケル」
僕に申し訳ないと思わせてしまったようで、慌てて全力でフォローを入れた廻璃。しかしまたすぐにどこか晴れない表情で起き上がり、肘置きに置かれた僕の手をキュッと握って、廻璃は一言僕を呼んだ。そして、僕が返答をするよりも早く、廻璃の口が、何かを伝えようと動こうとしているのを感じとった。
「……あそこ、行かない?」
廻璃の口から発せられた"あそこ"という抽象的なワード。哀愁漂うその表情も相まって、もしも僕らが大人の男女の恋人同士ならば、「そういうこと」であるという解釈をするだろう。
しかし、このプラネタリウムという状況下、そして僕らの間に存在するもう一つの
「…………あぁ。分かった、付き合うよ。それならすぐ行こう。あんまり帰りが遅くなるのは良くない」
僕も勢いよく起き上がり、繋がれた廻璃の手を引いて、プラネタリウムを後にする。
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またもや電車に乗り込み20分。峠の裏道を照明だよりに進んで、もう20分。僕らが今いるのは、山奥にひっそりと存在する、古びた天文台。僕ら天文部の活動の拠点である。星空が見えていた当時の天文部が流星群観測などのために用意したインテリアなどの名残があり、少しの生活ならここでも出来るだろう。
空が見えないこの世界で、一般の天文台など今や何の価値もない……と廃れてしまった文化。しかし、この場所だけは、
「ふぅ。やっぱり天井を手動で開けるシステムは疲れるな」
「お疲れ様。お礼に、先に見ていいよ」
「そう?ありがとう。じゃあお言葉に甘えて……」
力仕事で暑くなって脱ぎ捨てたコートと学ランをソファの端に掛ける。ドームの中央にどんと置かれた、迫力のある大型天体望遠鏡に歩み寄り、接眼レンズの手前に設置された椅子に腰を下ろす。
まずはレンズの倍率を小さくして、全体が見えるようにして望遠鏡を覗いく。
僕の瞳に映し出されたのは、大小様々、煌びやかに彩られた一面の星海。
「やっぱり、綺麗だなぁ……。本物は」
これが、僕らのもう一つの秘密。
この世界で、僕らだけが星空を知っている。
ということで、他の小説の息抜きと、思いつきにより始まったこの企画です。この時点で面白いと思って頂けたら幸いですが、終わらせる確証はありません。
この話だけで終わる可能性すらありますので、それでも良いという方は、少しだけお付き合いください。