「…レイ…」
無機質な部屋。壁紙の貼られて居ないその部屋に、薬や医療系のものと思われる機材が隅に放置してある。
「……ッ…」
目を擦るリツコ。
(どうして…っ…)
部屋を移動する。
ガラス張りの水槽が壁一面に広がっている。その中はL.C.Lで満たされており、魂の存在しない大量のレイが裸のまま浮かんでいる。
「…ごめんなさい…レイ…」
小型端末のボタンを押す。
水槽の中のレイがバラバラになり、レイの形を失う。
「うぅ…うっ…くっ…」
床に崩れ落ちるリツコ。
(…娘みたいに…思ってたのに…っ…)
以前はそうでもなかった。
しかし、シンジへの恋愛感情の告白や楽しそうに夢の話をするレイの姿を見て、そう思い始めてしまった。
「ううぅ…っ…ううっ!…」
リツコはそのまま1時間はそこから動けなかった。
レイが精神崩壊した日の翌日。
布団の中、自責の念に駆られる。
(…あの時…僕が油断してたからこうなったんだ…)
(どこか…なんとかなると思い込んでたんだ…)
(僕は…誰も救えてない…前と同じだ…)
(トウジの妹とトウジを幸せに出来たと思えば、委員長が怪我してみんなを不幸にしてしまった…)
(アスカの精神崩壊を防いだと思えば…綾波がやられてアスカを不幸にした…)
(全部、僕の責任だ。)
アスカの目が覚めたらしく、自分の背中をつつく感触。
「…シンジ…起きてる?」
「うん、起きてるよ…」
「…あのね、今日は学校行きたくないの。」
「え?」
「だって…レイがあんな事になったのに、あたし達だけ楽しく学校に行くのはダメだと思うから…」
「…はぁ…とりあえず起きよっか…」
部屋を出る。
「グワァ!グワァ!」
「お早う、ペンペン。今ご飯作るからね。」
「あたし、ミサト起こしてくるわ…」
朝のご飯の用意。
冷蔵庫にたいしたものは入っていないようだ。
「ミサト〜朝よ〜!って、いない?」
散らかったその部屋にはその部屋の主が居なかった。
「シンジ、ミサトまだ帰ってきてないみたい…」
「昨日の使徒戦の後片付けでもしてるのかな…?」
初号機は大破、零号機は運用不能。
ミサトが残業に追われていることは、容易に想像できる。
「…昨日…いろいろ…あったもんね…」
下を向くアスカ。
心配と絶望、哀しみが混ざり合ったような顔をしている。
昨日はとても疲れた。
肉体的にも、精神的にも。
綾波レイ。彼女が精神崩壊するなんて夢にも思って居なかった。
それだけ…心が…成長していたということでもある。
「…今日のご飯…ふたりっきりだね。」
「うん…」
シンジの胸に飛び込むアスカ。
少し震えている。
「…ねぇ…シンジ…」
「…なに?」
「シンジは…いなくならないでよ…?」
「……だいじょぶだよ…僕はいなくならないから…」
「…やくそくだからね…」
…
バスに乗る。
バスに揺られているうちに、アスカは僕に寄りかかって寝息を立て始めていた。
「やあ、シンジ君。」
「カヲル君!」
途中の駅で、カヲル君が乗車。
「学校は行かないのかい?」
「うん…アスカが行きたくないって。カヲル君こそどうして学校に行ってないの?」
『次は、仙石原高原西、仙石原高原西…』
「終点のNERV本部に用があるんだ。シンクロテストに行くんだよ。」
「シンクロテスト?カヲル君が?」
「…ファーストが零号機から降ろされたからね…今の僕はフィフスチルドレン、エヴァ零号機専属パイロット渚カヲルってことさ。」
「零号機の…?」
「そう。」
「そっか…」
「ところで、君はどこに行くんだい?」
「えっと、カヲル君と同じでNERVまでなんだけど…綾波のお見舞いに行こうと思って…」
「ファーストのところか…」
「僕が行ったってどうにもならないのは知ってるけど…アスカがどうしてもって言うからね。」
「…君はよっぽどセカンドが好きなんだね…」
「…え…」
「大切にしなよ…たとえどんな犠牲を払ったとしても…たとえどんな罪を背負ったとしても…」
「カヲル君…?」
『次は、ジオフロント中央入口、ジオフロント中央入口…終点です。お忘れ物のない様にご注意下さい。』
「次だね…」
「あ、そうだ…アスカ、起きて!次だよ!」
「う〜ん…まだ眠い…」
「…もう、だからあれ程夜更かしするなって言ったのに…」
「だって…眠れなかったんだもん…」
『終点です。お忘れ物のない様、ご注意下さい。』
…
暗い部屋。壁にNERVの紅いマーク。
中央に一つの椅子があり、そこに座るリツコ。
後ろからゲンドウが問う。
「…何故ダミーシステムを破壊した。」
「………」
「答えろ、赤木博士。」
「…レイを…あんな事に利用したくないだけですわ…」
「…あれは只の人の形をした肉塊だ。」
「いいえ…あれはレイ…紛れもなく…綾波レイ…」
「…君には失望した…」
「…最初から…望みなんて無かった癖に…」
扉の閉まる音。ゲンドウの気配がこの部屋から消える。
「レイ…うぅ…」
…
「シンクロ、スタート。」
リツコ抜きのシンクロテストが行われる。しかし、既に手慣れているのでトントン拍子で作業は進んだ。
零号機とカヲルとのシンクロ率がモニタに表示される。
「…⁉︎」
「このデータに間違いはないな?」
「はい、全システムは正常に作動してます。」
「MAGIによるデータ誤差も認められません。」
冬月の質問に青葉と日向が答える。
「ふむ…」
「でも信じられません!いえ…コアの書き換えなしに零号機とシンクロするなんて…システム上あり得ないです!」
「でもこれは事実なのよ…まず事実を受け止めてから、原因を探ってみて。」
…
レイのいる病室、330号室へ向かう。
「…レイ…」
「綾波…」
レイは目を開けたままベッドの上で停止していた。
「…やっぱり…昨日と変わらないわね。」
「うん…」
レイの頭を撫でるアスカ。
「…ごめんね、レイ…あの時、もっと早く来れれば良かったんだけどね。」
シンジも、レイの頭を撫でる。
「……綾波、僕は君が起き上がるの、待ってるからね。」
…
「…ダメだわ。」
霧の中にある石像に立つカヲルを、双眼鏡で盗み見ているミサト。
「なんか呟いてるみたいだけど、ここからじゃ唇の動きが読めない。」
それも当然、今ミサトが乗っている車はカヲルの位置からかなり離れている。
「それにしても独り言を言うためにこんな朝っぱらから散歩なんて、危ないやつね。で、彼のデータ入手出来た?」
「ええ、伊吹二尉から無断で借用したものです。」
データの入った媒体を渡す日向。
「すまないわね、ドロボウみたいな事ばかりやらせて……なにこれ?」
「マヤちゃんが公表出来ない訳ですよ、理論上あり得ない事ですから。」
「エヴァとのシンクロ率を自由に設定出来るとはね…しかも自分の意思で……そろそろはっきりさせないといけないわね、彼の正体を。」
「そう思ってちょいと諜報部のデータに割り込みました。」
「…あっぶないことするわね。」
「そのカイはありましたよ、リツコさんの居場所です。」
…
暗い部屋。壁にNERVのマーク。
中央に一つの椅子があり、そこに座るリツコ。
後ろからミサトが問う。
「聞きたいことがあるの。」
「…よく来られたわね…ここでの会話、録音されるわよ…」
「構わないわ。あの少年、フィフスの正体はなに?」
「渚カヲル…彼の生年月日がセカンドインパクトと同じなのは…たぶん、あの日、あそこで、最後に生まれた使徒だからよ。」
「…まさか…全ての使徒はアダムから生まれたというの?あの日、人はアダムに何をしたの?」
「人は、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで
「…まさか…っ⁉︎」
「そうすれば、全ての辻褄が合うとMAGIは言ってるわ。」
…
エヴァ零号機を見つめるカヲル。
「…すまないファースト。少し借りさせてもらうよ。さぁ、行こうか。アダムの分身…そしてリリンの下僕。」
カヲルの体が宙に浮き、零号機の目が光る。
「……すまない…シンジ君…」
『エヴァ零号機起動!』
『どういうこと⁉︎レイは⁉︎』
『330病室です!確認済みです!』
『じゃあフィフス?』
『いえっ…無人です!零号機にエントリープラグは挿入されていません!』
『そんなバカな…⁉︎』
『セントラルドグマにA.T.フィールドの発生を確認!』
『零号機⁉︎』
『いえ、パターン青!使徒です!』
モニタに〈13th ANGEL〉の文字。
(…やはり…フィフスか…)
『目標は第五層を通過!尚も降下中!』
『ダメです!リニアの電源切れません!』
『目標は第十層を通過!』
『ターミナルドグマに続く全隔壁を緊急閉鎖!少しでもいい、時間を稼げ!』
冬月の指令が飛び、隔壁が閉じられる。
しかし、隔壁は零号機により簡単に破壊されていく。
『…まさか、ゼーレが直接送り込んでくるとはな。』
『老人達は予定を一つ繰り上げるつもりだ…我々の手を使ってな。だが、思い通りにはさせん。エヴァ初弐号機発進準備だ。』
ミサトにゲンドウが命令する。
『…はい!』
『装甲隔壁はエヴァ零号機によって突破されています!』
『目標は第二十六隔壁を突破!』
『シンジ君、アスカ!目標の最下層への侵入は絶対に阻止して!どんな方法を使ってもよ!』
「目標って…零号機のことですか?」
『いいえ、阻止するべきは零号機を操っている方よ。人の形をした渚カヲルという使徒を殲滅するの!』
「…カヲル君っ…」
『いいわね!』
「分かったわ、ミサト!ほら、行くわよシンジ!」
「うん…っ…」
セントラルドグマを滑り降りて行く初号機と弐号機。
『第十八層に到達!目標と接触します!』
「カヲル君!」
零号機の右手を切り落とし、左手を掴んで壁に叩きつける。
零号機は目の光を失い、停止した。
「…待っていたよ、シンジ君。」
「どぉうりゃぁぁぁぁ!!!」
弐号機のプログナイフがカヲルに向かう。
A.T.フィールドが展開され、弐号機のプログナイフを拒む。
「A.T.フィールド…っ!」
「…僕も使徒だからね。」
『エヴァ全機、最下層へ到た…』ブツッ…
発令所との通信が切れる。
L.C.L.の海に落下するエヴァ三機。
初号機のアンビリカルケーブルが切れる。
「シンジ!零号機はあたしに任せて渚の説得を!」
「うん!」
カヲルを捕まえようと手を伸ばす。
「待て!カヲル君!」
カヲルがヘヴンズドアのロックを外す。
開かれる扉。
とうとう使徒がここまで辿り着いてしまった。
「…やはりこの世界でもリリスか…」
「カヲル君!」
「…!!」
カヲルに向かって伸びた初号機の右手をA.T.フィールドが防ぐ。
「…ぐっ…」
「…シンジ君…少し話をしないかい?」
「…?」
「この世界の君とはあまり話せていなかったからね。」
「この世界…?もしかしてカヲル君も僕と同じ…?」
「…そうだよ…これは4周目だ。」
「4周目?」
「そう。使徒の数が18の世界を二回、使徒の数が14の世界が二回。」
「使徒の数が18…?」
(僕のいた世界と同じだ…)
「…さて、本題に入ろうか。」
「本題?」
「まず初号機はまだS²機関を取り込んでないだろう?」
「…うん。」
「じゃあ、僕を喰え。」
「え⁉︎そんなの…」
「エヴァ初号機と弐号機の両方がS²機関を取り込んでないと量産機には勝てないんだよ。」
「そんなの…やってみないと…」
「…僕が経験した世界では、初号機だけがS²機関を取り込み、内蔵電源の切れた弐号機を守りながら、量産機と戦った時は、セカンドを守りきれず君たち2人が死んだんだよ。」
「だから両方が取り込んでないとダメなんだ。」
「……う…」
「…セカンドを守る為に…僕を喰うんだ。」
「…でもっ…」
「いいんだ…また逢えるよ、シンジ君。」
「僕は…君を失いたくないのに…」
「…天秤にかけるんだ、セカンドと僕、どちらを選ぶか。」
「そんなの…選べないよ…」
「そうか…じゃあ、僕の好きな様にやらせて貰うよ。」
勝手に初号機の口の拘束具が外れ、口が開かれる。
「⁉︎…何を…⁉︎」
「…エヴァが心を閉ざしていなくても…少しくらいは操れるからね…っ…」
「カ、カヲル君!やめてよ!」
「…さようなら、シンジく…」
ぐちゃ…
口の中に、鉄の味と、肉の感触が伝わり、その感触は喉を通り過ぎていった。
「…うわあぁぁぁぁぁあ!!!」
活動限界の表示が消える。
「シンジ⁉︎」
ピクリとも動かなくなった零号機がL.C.L.に沈む。
「…カヲル君が…っ…カヲル君が…っ…」
手の中に遺されたのは、紅く染まった黒いズボンを纏った下半身。
「シンジ…?…ッ⁉︎」
初号機の右手の中のものを見て青ざめるアスカ。
「…なによ…これ⁉︎…ウッ…げぇ…っ…」
『パターン青、消失!』
『やっと繋がったわね…シンジ君、アスカ⁉︎』
「…ミサト…さん…」
『使徒はどうなったの⁉︎』
「…殲滅、しました…」
『そう…分かったわ…帰還して頂戴。』
「はい…」
紅く染まった紫の巨人の右手。
「…ごめん…カヲル君…うぅ…」
つづく
今話、少し駄文感。
遅れすぎだろって?
…大変申し訳ありませんでした。
お詫びに感想と評価下さい。←お前は詫びる側だろ
あと、残り2話を切りました。
次章の名前
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DEATH³
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THE END OF ”LAS”
-
ASUKADaiske☆