なんも言い訳が言えねぇ…
…この世界にやってきて3日が経った。新生のあたしは前史のあたしと同じようにネルフの寮で一人暮らしをしている。
食事は基本的にネルフのカフェテリアでとり、午前中は中学校に通って、放課後などの暇な時間はゲーセンに行ってクレーンゲームに再挑戦してみたり、エヴァの操縦の訓練をしているようだ。
もちろん中にいるあたしも何もしていないわけではなく、自分が何をできるのか試してみた。
この3日間で分かった事としては、
・新生のあたしが寝ている起きているに関係なく眠る事ができ、いつでも外の情報をシャットアウトできる。
・強く念じれば新生のあたしの思考にごく僅かな影響を与える事ができる。
この程度のことだった。しかし分からないのは、3日前のあの時のこと。
一時的に新生のあたしの体の主導権を奪い、自分の肉体として操れたのである。
あの時のようなことはあれ以来出来なかったし、発生条件がまるっきり分からないので今もその事について考え続けている。
(…考えろ…あの時、あたしが何をしたか思い出せ…)
この肉体のコントロールを取り戻せれば、シンジの手助…違う、あの憎っくき使徒共や、量産機を叩きのめせる。
(そうなれば、再びあたしが最強のエヴァパイロットになれる…そうすれば…みんなに褒めてもらえる…そうすれば………)
(何、考えてんだろ…バカらし…あたしらしくもない。)
脱線した思考を強制的に完結させて、再び体のコントロールを奪取する方法を考える。
新生のあたしが寝ている夜のうちは、あたし自身の思考の時間だ。外部からの刺激が無いので、考える事に集中できる。
突然、視界が開けて思考が強制的に中断される。
(…もう朝か…早いもんね)
新生のあたしが起き上がり、照明のスイッチを入れる。パジャマを脱ぎ捨て、気に入っているらしい黄色のワンピースに着替え始めた。
(あーあ、お腹減った…)
新生のあたしとは感覚を共有しているため、早くご飯を食べて欲しいと思う。
大量のダンボールが積み上げられている個室から出て、廊下を進む。
体が向かう先は、カフェテリア。
ここからは少し遠い。早くご飯を食べたいのに、毎朝このカフェテリアまでの遠さに苦しめられる。
(ちょっとご飯の時まで寝てよう…)
自分から何かを出来ない自分にとっての娯楽は、ご飯の味を楽しむくらいしか無い。
(でも…カフェテリアのご飯…そこまで美味しく無いのよね…)
…
「なんでも好きなもの頼んでね〜。ここじゃ大したもんないけど。」
カフェテリアの前で新生のあたしがシンジやファーストに軽い自己紹介をした後、ようやく朝食が始まった。
(…ラーメンにしろラーメンにしろラーメンにしろラーメンにしろ…)
「ミサトさん、あたしこの塩ラーメンを食べたいです。」
(よし、うまくいった。)
「あら?朝からラーメンにするの?結構がっつりいくのね?」
「あー…それもそうですね。じゃああたしこの味噌汁とご飯にします。」
(おのれミサト。)
「じゃあ僕は牛乳と卵サンドで…」
「碇君がそうするなら私もそうする。」
「おっけー、シンジ君とレイは卵サンドね。」
(何が『碇君がそうするなら私もそうする』よ…相変わらず人形みたい。イライラする。)
席に座ってご飯を頬張る。待たされに待たされた朝食のなんと美味い事か。シンジやファーストもかなりお腹が減っていたらしく、ぱくぱくと平らげていく。
「第6使徒との戦いぶり、録画で見せてもらったわ。流石噂に聞くセカンドチルドレンね。」
『録画』という言葉が少し引っかかったが、世界が変わればその辺も少し変わってたとしてもおかしくはないか、と自己完結。
「そんなァ、それほどでもないですぅ。あたしなんかまだまだ勉強しないといけない事ばっかりで…」
「なんつーか、新米のシンちゃんとは実力が違うわ〜。」
そう新生のあたしを褒めた後、エビスをごくこくと飲み始めたミサト。その背後から音を立てずに忍び寄る男が一人。
(…!)
男はミサトの顔を両腕で覆い隠し、視界を奪う。
「やっ、誰よ!やめて!」
ジタバタと暴れ拘束を解こうとするミサト。はっきり言ってみっともない。
でも、そんな事はどうでもいい。私の意識は、ミサトを抱きしめている男の方に向いていた。
「加持さん❤︎」
「え…⁉︎」
頰を赤らめその男の名を呼ぶ新生のあたしと、その名に驚愕するミサト。
「相変わらず朝っぱらからビールか…腹、出っ張るぜ?」
加持はミサトの拘束を解き、そう言った。
「なななんであんたがここにいんのよ⁉︎」
「アスカの随伴でね、ドイツから出張さ。」
加持さんの左腕に抱きつく新生のあたし。嗅いだ匂いは、間違いなくあたしが好きだった加持さんの匂いだった。
「そりゃご苦労様だったわね。用が済んだならさっさと帰んなさいよ。」
「残念でした!当分帰る予定はないよ。」
加持さんがシンジの方を見る。
「碇シンジ君て君かい?」
「え?ええ。」
「君は葛城と同居してるんだって?」
「はい…」
「こいつ寝相悪いだろ?」
ミサトと新生のあたしに衝撃が走る。そうそう、ホントミサトって寝相悪いのよね〜。
「何言ってるんですか?ミサトさんの寝相は悪くないですよ?」
「おっと、寝相は良くなってたのか。こいつは失礼。」
「ま、まーね…」
嘘つけ。直せてるわけないでしょ、あの地獄みたいな寝相が。
「ね、寝相…」
硬直している新生のあたし。頭の中が混乱とミサトへの嫉妬で、真っ白になっているらしい。
(混乱してないで早くご飯食べてよ…)
…
うるさい警報の音で叩き起こされる。朝食の後の昼寝を邪魔されて不快だ。
『総員、第1種戦闘配置。繰り返す、総員、第1種戦闘配置。』
あぁ、使徒か…随分懐かしい単語だ。まさかもう一度相見える事になるとは。
自室でネットサーフィンを楽しんでいた新生のあたしは、すぐさま中断して赤いプラグスーツを着る。
(さて…生まれ変わったあたしの実力とやらを見せてもらおうじゃないの。)
要塞都市は先の戦闘でで大破した為、上陸直前の使徒を零号機と初号機、弐号機で迎え撃ち、水際で叩く、というのが今回の作戦らしい。
前史では修理中だった零号機が戦闘に参加していることもあり、今回の使徒戦が果たしてどうなるか、楽しみである。
そして数分後、その期待はあっさり裏切られた。
「…ブザマだな。」
「申し訳ありません…」
冬月に謝罪するミサト。まさしく無様だ。
(…3体がかりでやって2体の使徒にあそこまでやられるって…バッカみたい)
スクリーンに映されている左腕を失った零号機を見ながら、そう思う。
『午後4時05分、新型N²航空爆雷により目標攻撃。これにより構成物質の28%の焼却に成功。』
「…パイロット3名!君たちの仕事は何か分かるか?」
冬月副司令の質問。どうやらかなりお怒りらしい。おー怖い怖い。
「えと、エヴァの操じゅ…」
「使徒を倒す為です。」
新生のあたしの言葉を遮り、ファーストが正解を答える。ファーストを睨みつける新生のあたし。
「そうだ、こんな醜態を晒すために我々ネルフは存在しているわけではない!」
…
(見事に作戦失敗か…やっぱりユニゾン攻撃しか無いのかしらね。)
加持さんの奢りでカフェテリアで夕食をとる。やはりラーメンは美味しい。
「加持さんは分かってくれますよね、あれはあたしのホントの実力じゃないって…綾波さんはどうだか知らないですけど。」
じろり、とファーストを横目に睨む新生のあたし。
「…」
ファーストは澄ました顔でカレーを食べている。あ〜、イライラする。
「まぁ3人ともそう気を落とすなよ。勝負はまだこれからさ。」
「でもォ…エヴァは壊れて修理中なんですよ?これからっていつなんですか?」
ぴーんぽーんぱーんぽーん…
『エヴァ初号機パイロット及び弐号機パイロットの両名は至急第2作戦会議室に集合してください。』
呼び出し…あたしと…シンジか…ファーストだけ仲間外れ…ふん、いい気味ね。
「ほーら早速お呼びだよ頑張っておいで。」
…
ミサトが第2作戦会議室の前で手を振っている。
「シンジ君、アスカ!こっちよ。」
「どこ行くんですかぁ?ミサトさん。」
新生のあたしが気だるげに聞く。
「次の作戦の準備よ。」
「…次の作戦?」
「MAGIによるコンピュータシュミレーションの結果、2つに分離した第7使徒はお互いがお互いを補っていることがわかったわ。つまりエヴァ2体によるタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。そのためにはあなた達の協調、完璧なユニゾンが必要だわ。」
(…やっぱりユニゾンか…こっちのあたしがちゃんとやれるのか心配だわ…)
ミサトについて行くと、ツインのベッドルームに辿り着く。
「なあに?ここ…?」
「あなた達にはエヴァが修理し終わるまでの5日間、ここで一緒に暮らして貰います。」
「…えええ〜〜⁉︎」
新生のあたしの絶叫。そりゃ同年代の男子と一緒に過ごせって言われたらそうなるのが普通である。
「時間が無いのよ。命令拒否は認めませんからね。」
「…そんなッ困ります!5日間も2人で暮らせだなんて!私達女子と男子なんですよォ⁉︎」
「これはね、次の作戦には必要不可欠なことなのよ。2人の息をぴったり合わせるにはお互いを知ることは勿論、体内時計も合わせといた方がいいの。明日の起床は6時半よ。何かあったら内線で連絡すればいいわ。じゃっおやすみ!」
そう早口で畳み掛けてミサトは居なくなってしまう。ダメな大人を具現化したような人間だわほんと。
「悪夢のような現実…いくら使徒に勝つためとはいえ…ああ〜これが七光りじゃなくて加持さんだったらな〜」
「あっあのッアスカ!先にシャワー浴びて貰っていいかな?」
舌噛みまくってるじゃない…緊張してんのかしら…顔真っ赤よ?
「なんであんたにそんな事指図されなきゃいけないのよ!」
「そっ、その本当は僕が先にシャワー浴びたいんだけどレディーファーストかなと思って。」
「ふーん、そうなの。七光りにしては気がきいてるわね。」
「う、うんっ。」
バスルームの扉を開ける。3点ユニットバスか…悪くはない。ほんとは風呂とトイレ別にして欲しかったけど。
「覗かないでよ!いいわねっ!」
「わっ…分かってるよ!」
(…そんな真っ赤な顔で言われても説得力ないわよ?)
まぁでもシンジにそんな度胸ないか…残念だけど。
バスルームの扉を閉め、シャワーを浴びる。温かさで段々と眠くなってくる。
(そういえば今日は殆ど寝てないんだった…眠い…)
今日は使徒戦の見物をしたりと色々あったので、いつものような昼寝の時間があまり取れなかった。夜、思考の海に入るには、昼間の内に寝ておかないといけないというのに。
(寝ておこう…今の内に…)
…
ねえシンジ…あたし、シンジが助けてくれなかったこと、気にしてないから…
ねえシンジ…あたし、シンジのやったこと全部許したから…
ねえシンジ…あたしのこと、いくらでもオカズにしていいから…
ねえシンジ…あたし、シンジのこと大好きなの…憎んでなんかないの…
だから私を見て!
私を褒めて!
私を抱きしめて!
私を…赦して!
私を……助けて!
痛いの!体のあちこちが!心のあちこちが!
お願いだから…助けてよ…
バカ…シンジ…
…
…まったく、嫌な夢だ…
あたしという存在はこの新生のあたしに移ったはずなのに、あたしの意識は存在し、悪夢も見る。
よく考えれば不思議だ。
「うぅ…ひっく…」
(声がする…新生のあたしが夜泣きしてんのか。子供みたい…情けないわねぇ。)
「ママ…」
(ママ…ママ、か。)
思い出すのは、エヴァの中にいた自分の母親。ずっと自分を守ってくれていた母親。
無数のロンギヌスの槍に貫かれ、死んでしまった母親。
いつもそうだ。居場所を見つけたと思ったら、直ぐになくなってしまう。
居場所を加持さんの胸の中に見つけた後、ミサトに奪われてしまった。
居場所をエヴァの中のママに見つけた後、エヴァシリーズに破壊されてしまった。
居場所をシンジの膝の上に見つけた後、あたしは死んで、新生のあたしに奪われてしまいそうになっている。
奪うのなら、何故神はあたしに与えるんだろう。
「ママ…如何して死んじゃったの…?」
寝言を聞いているうちに、なんだか胸が苦しくなってきてしまった。
その時、頭に温かいものが触れた。
(…え?)
頭を…撫でられている?
(誰…?)
この部屋には新生のあたしとシンジしかいない。よって自動的に。
(シン…ジ…)
撫でて、くれてるって言うの?あのバカシンジが…?
そう理解した瞬間、多幸感が私を包み込んだ。
(シンジ…!バカシンジ…!)
頭から伝わる心地よさが、私を思考から完全に切り離し、そして私は再び睡魔に身を任せた。
つづく
こんだけ時間かかった割には駄文すぎる…
精進しますわ…
予告
新生のアスカとシンジによるユニゾン訓練が行われる中、新生のアスカの中にいるアスカは疎外感を覚える。
2人の息があっていくのは、アスカを傷つけていくだけだった。
次回、『
さぁてこの次も〜サービスサービスぅ!
この話(外伝)どのくらい続けた方がいい?
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あと2話で終わらせろ(超無茶振り)
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あと10話は欲しい。
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ここはあと24話くらい…
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100億話くらいやっとくれ
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眠いからもう寝ていい?